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  • -光触媒コーティング組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158160
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】光触媒コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20241031BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20241031BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20241031BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/16
C09D183/04
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073121
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田 賢一朗
(72)【発明者】
【氏名】金子 政樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL031
4J038DN001
4J038HA216
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA05
(57)【要約】
【課題】被膜表面に光触媒が表れる光触媒コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】バインダーを30部以上65部以下と、光触媒を5部以上30部以下と、充填剤を30部以上60部以下と、分散剤と希釈材とを含む光触媒コーティング組成物が提供される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーを30部以上65部以下と、
光触媒を5部以上30部以下と、
充填剤を30部以上60部以下と、
分散剤と、
希釈材と
を含む光触媒コーティング組成物。
【請求項2】
前記分散剤を、前記光触媒と前記充填剤との総量に対し0.7%以上10%以下含む、請求項1に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項3】
前記分散剤を、前記光触媒と前記充填剤との総量に対し2%以上10%以下含む、請求項1に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項4】
前記光触媒と前記充填剤との合計の含有率が前記バインダーと前記光触媒と前記充填剤との総量に対し50%以上である、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項5】
前記光触媒と前記充填剤との合計の含有率が前記バインダーと前記光触媒と前記充填剤との総量に対し55%以上である、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項6】
前記光触媒の含有率が前記バインダーと前記光触媒との総量に対し25%以上である、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項7】
固形分比率が40%以上60%以下である、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項8】
前記バインダーはシリコーン樹脂を含む、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項9】
前記光触媒は、酸化チタンを含む、請求項1から3の何れか1項に記載の光触媒コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒の作用により、例えば、太陽光を浴びることで表面を親水化することで汚れの水洗を容易にしたり有機物質を分解することで自動清浄を可能にしたりする、建築物の外装材などへ適用される光触媒被膜が開発されている。このような光触媒被膜を形成する手段として、光触媒を含んだコーティング液の使用が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2017-61666号公報)には、光触媒粒子および分散媒と共に、特定の増粘剤と特定のアミン化合物とを添加して成る光触媒コーティング組成物が記載されている。当該文献によれば、特定の増粘剤と特定のアミン化合物とが添加されていることにより、粘度変化率が小さく、優れた保管安定性を有する光触媒コーティング組成物を実現できる。また、該光触媒コーティング組成物は、特殊な施工技能を要することなく、均一な厚さの均質な光触媒被膜の形成を可能にする。
【0004】
コーティング液を塗布した基材の表面に光触媒粒子等の固形分を定着させるために、バインダーが使用される。また、シリコーン樹脂等の無色透明な樹脂バインダーを主体とすることで、透明な光触媒を形成することができる。しかし、シリコーン樹脂に光触媒を混合して基材へコーティングしても、光触媒が被膜表面へ表れない。そのため、光触媒が光励起されても、その作用効果が被膜表面に適用されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-61666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被膜表面に光触媒が表れる光触媒コーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
バインダーを30部以上65部以下と、光触媒を5部以上30部以下と、充填剤を30部以上60部以下と、分散剤と希釈材とを含む光触媒コーティング組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上記光触媒コーティング組成物を用いて形成される光触媒被膜では、光触媒が被膜表面に表れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】分散剤の添加量に対する色差の推移を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
光触媒コーティング組成物を基材に塗布して形成する光触媒被膜における光触媒の効果の発現には、光触媒コーティング組成物における各成分の配合割合が大きく影響する。バインダーを30部以上65部以下と、光触媒を5部以上30部以下と、充填剤を30部以上60部以下と、分散剤と希釈材とを含む光触媒コーティング組成物を用いて形成される光触媒被膜では、被膜表面に光触媒の少なくとも一部が出る。そのため、触媒効果が発現する光触媒被膜を得ることができる。
【0011】
上記組成における各成分の部数は、その成分の質量割合を表す。
【0012】
バインダーは、基材等の被塗布材へ光触媒コーティング組成物を付着させたり、得られる光触媒被膜を被塗布材へ結着させたりする。またバインダーは、光触媒および充填剤と共に光触媒被膜の塗膜を形成する。
【0013】
バインダーとして、例えば、有機系バインダー又は無機系バインダーを用いることができる。有機系バインダーは、例えば、高分子バインダーであり得る。高分子バインダーの例として、アクリル樹脂、加水分解性シリコーン、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリエステル樹脂、及びフッ素樹脂などが挙げられる。無機系バインダーの例として、加水分解性シラン化合物、アルカリ珪酸塩、金属水酸化物、及びアモルファス金属酸化物などが挙げられる。バインダーとして上記例のうち1以上を用いても良いが、バインダーに用いることのできる材料は上記のものに限られない。バインダーの具体例として、シリコーン樹脂を含んだものを好適に用いることができる。
【0014】
光触媒は、光触媒コーティング組成物より形成される被膜に光触媒能を付与する。光触媒は、例えば、光触媒活性を有する粒子であり得る。光触媒の例として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、バナジン酸ビスマス、及び酸化タングステン等を挙げることができる。光触媒として上記例のうち1以上を用いても良いが、光触媒に用いることのできる材料は上記のものに限られない。光触媒が酸化チタンを含むことが好ましい。
【0015】
充填剤として、光触媒コーティング組成物は光触媒以外の無機化合物を含む。充填剤を含んでいることで、組成物の安定性が優れる。充填剤として含む無機化合物として、例えば、無機酸化物や無機水酸化物を挙げることができる。充填剤は、例えば、無機酸化物または無機水酸化物の粒子であり得る。充填剤に用いることのできる無機化合物の具体例は、シリカ、タルク、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、水溶性ジルコニウム化合物、アルミナ、ハフニア、及びセリアを含む。充填剤として上記例のうち1以上を用いても良いが、充填剤に用いることのできる材料は上記のものに限られない。充填剤として、シリカ及びタルクの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0016】
光触媒と充填剤との合計の含有率が、バインダーと光触媒と充填剤との総量に対し質量割合で50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。また、光触媒の含有率が、バインダーと光触媒との総量に対し質量割合で25%以上であることが好ましい。コーティング組成物中の光触媒および充填剤の含有割合が多い方が、得られる光触媒被膜の表面に光触媒がより多く表れる傾向がある。
【0017】
分散剤は、光触媒や充填剤などの他の固形成分の分散性を良好にする。例えば、分散剤の作用により、被塗布材へ塗布前のコーティング組成物および塗布後のコート被膜にて光触媒が沈みにくく、塗膜表面に露出する光触媒が多くなる。分散剤としては、例えば、高分子量タイプの湿潤分散剤を用いることができる。このような分散剤は、溶剤型コーティング組成物、無溶剤型コーティング組成物、及び水系塗料に適している。分散剤は、光触媒と充填剤との総量に対し質量割合で0.7%以上10%以下含むことが望ましい。分散剤を、光触媒と充填剤との総量に対し質量割合で2%以上10%以下含むことがより好ましい。分散剤の含有割合が多い方が、得られる光触媒被膜の表面に光触媒がより多く表れる傾向がある。
【0018】
希釈材としては、例えば、キシレン(ジメチルベンゼン)やエチルベンゼンやトルエンの様な芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤などといった有機溶剤、並びに複数の有機溶剤の混合物を用いることができる。希釈材は、例えば、コーティング組成物の固形分比率が40%以上60%以下となる含有割合で含まれ得る。
【0019】
バインダーと光触媒と充填剤と分散剤とは、光触媒コーティング組成物の固形分を構成する。例えば、バインダーと光触媒と充填剤と分散剤と希釈材とから成る組成物についての固形分比率は、組成物が含む成分の合計部数に対する希釈材以外の成分の合計部数の比(質量比)に等しい。
【実施例0020】
(評価例A)
下記表1に示す構成の光触媒コーティングの塗液を調製した。バインダーにはシリコーン樹脂、光触媒にはTOTO株式会社製の酸化チタン光触媒、充填剤にはシリカ、希釈材にはキシロール(キシレンとエチルベンゼンを主成分とする混合キシレン)、及び分散剤には塩基性顔料親和性基を有するコポリマーを構成成分に含む高分子量タイプの湿潤分散剤をそれぞれ使用した。表1に示す各成分の部数は、質量部を表す。
【0021】
調製した各々の塗液を基材に塗布および乾燥して、光触媒被膜を形成した。得られた試料において光触媒がコート表面に出ているか否かを、次のとおり判定した。硝酸銀水溶液に試料を浸しブラックライトを照射し、照射前後の色差ΔEを測定した。コート表面に光触媒(酸化チタン)が存在している場合、酸化チタンの還元作用によって銀イオンが析出しコート表面が呈色する。その現象を利用して酸化チタンがコート表面に出ていることを確認した。ΔEの数値が大きいほど酸化チタンがコート表面へ出ていると判断した。
【0022】
調製した光触媒コーティングの塗液構成およびそれを用いて形成した試料について上記硝酸銀呈色試験により求められた色差ΔEを表1にまとめる。また、表1には、分散剤の添加率を充填剤と光触媒の総質量に対する百分率で、光触媒の添加率をバインダーと光触媒の総質量に対する百分率で、光触媒と充填剤の合計添加率をバインダーと光触媒と充填剤との総質量に対する百分率で、及び固形分比率それぞれ示す。
【0023】
【表1】
【0024】
上述した含有割合でバインダー、光触媒、及び充填剤を含み、さらに分散剤と希釈材を含んだ塗液を調製した実施例A1からA17では、塗液を用いて形成した光触媒被膜試料にてコート表面に光触媒(酸化チタン)が出ていることが確認された。また、分散剤や光触媒、並びに充填剤の添加率が高い方が色差が高くなる傾向が見られる。
【0025】
比較例1では表1に示すとおり光触媒を添加しなかったため、当然ながら試料の被膜表面に光触媒が出ることはなく、測定された色差はゼロだった。比較例2及び3では、充填剤を添加しなかった。比較例2及び3にて測定された色差もゼロだった。充填剤を省略したことに加え光触媒の添加量が少なかったことも相まって、表面に光触媒が出ている被膜が得られなかった。
【0026】
(評価例B)
分散剤による影響を検証するために、下記表2に示すとおり分散剤添加量を変えた光触媒コーティングの塗液を調製し、得られた塗液を用いて光触媒被膜を形成した。塗液の各成分には、評価例Aで使用した材料と同様のものを使用した。評価例Aと同様の手順で硝酸銀呈色試験を行い、色差ΔEを求めた。結果を表2に示すとともに、分散剤の添加量の増加に応じた色差ΔEの推移を表すグラフを図1に示す。表2及び図1に示す分散剤の添加量は、表1と同様に充填剤と光触媒の総質量に対する百分率で表す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2及び図1に示すとおり、分散剤が少量であってもゼロを上回る色差ΔEが得られコート表面に光触媒が出ている光触媒被膜を形成できるものの、分散剤の添加量が2%以上になると色差ΔEが各段に向上することがわかる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
図1