(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158165
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20241031BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60R22/28 106
B60R22/28 107
B60R22/46 142
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073130
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】角中 智
(72)【発明者】
【氏名】井尻 昂辰
(72)【発明者】
【氏名】藏内 紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 絵里
(72)【発明者】
【氏名】土方 大輝
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA07
3D018MA02
(57)【要約】
【課題】衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止可能なシートベルト用リトラクタを提供する。
【解決手段】シートベルト用リトラクタは、巻取ドラム3と、巻取ドラム3の第1端部31側の第1端面31aと対向するように配置されるロッキングベースと、巻取ドラム3に設けられたスロット35内に収容されるとともに頭部43がロッキングベースに取り付けられる衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを含む。巻取ドラム3の第2端部32には樹脂製のブッシュ3Aが取り付けられ、ブッシュ3Aは、巻取ドラム3の第2端部32の外周を覆う環状部38と、環状部38から突出してスロット35の第2開口37を通じてスロット35内に挿入される保持突起39を有する。保持突起39は衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの先端部とスロット35の内面との間に介在する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、
ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムであって、前記一対の側壁に設けられた挿通孔内にそれぞれ位置する第1端部および第2端部を含む巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの第1端部側の第1端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、
前記巻取ドラムの第1端面に第1開口を形成するとともに前記第2端部側の第2端面に第2開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容され、前記第1開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記第1開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、
前記巻取ドラムの第2端部に取り付けられて、前記巻取ドラムの第2端部と前記ハウジングの挿通孔との間に設けられた樹脂製のブッシュと、を備え、
前記ブッシュは、前記巻取ドラムの第2端部の外周を覆う環状部と、前記環状部から突出して前記第2開口を通じて前記スロット内に挿入される保持突起を有し、前記保持突起が前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部と前記スロットの内面との間に介在する、シートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記保持突起は内面が互いに対向する一対の板状部を有し、前記一対の板状部の外面には前記スロットの内部に係合する爪が設けられており、前記爪が前記スロットの内部に係合した状態で、前記一対の板状部の間に前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部が挿入される、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記スロットは、前記巻取ドラムの第1端部と第2端部との間で前記巻取ドラムの外周面から凹む凹部と、前記第1端部を貫通して前記凹部と前記第1開口とを連通する第1貫通穴と、前記第2端部を貫通して前記凹部と前記第2開口とを連通する第2貫通穴を有し、
前記凹部の内面には、前記スロットに収納された前記衝撃エネルギー吸収ワイヤに接触して前記衝撃エネルギー吸収ワイヤを太さ方向に変形させる突起が設けられている、請求項1または2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、
ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの一端部側の端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、
前記巻取ドラムの前記一端部側の端面に開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容されるとともに、前記スロットの開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、を備え、
前記スロットは、前記巻取ドラムの前記一端部と他端部との間で前記巻取ドラムの外周面から凹む凹部と、前記巻取ドラムの前記一端部を貫通して前記凹部と前記開口とを連通する貫通穴を有し、
前記凹部の内面には、前記スロットに収納された前記衝撃エネルギー吸収ワイヤに接触して前記衝撃エネルギー吸収ワイヤを太さ方向に変形させる突起が設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記ロッキングベースは、前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの頭部が取り付けられる溝または穴である保持部を有し、
前記衝撃エネルギー吸収ワイヤは、前記巻取ドラムの径方向の一方で前記保持部の内面と接触するとともに、前記巻取ドラムの径方向の他方で前記スロットの内面と接触することで、太さ方向に変形している、請求項1,2,4の何れか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時等の緊急時に、ウエビングが引き出されつつ乗員の衝撃エネルギーを吸収可能なシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の緊急時にウエビングの引き出しを防止するシートベルト用リトラクタが知られている。シートベルト用リトラクタでは、ウエビングを巻き取る巻取ドラムがハウジングの一対の側壁の間に回転可能に収容される。
【0003】
例えば、特許文献1には、衝撃エネルギー吸収部材としてトーションバーおよびワイヤが用いられたシートベルト用リトラクタが開示されている。具体的に、特許文献1のシートベルト用リトラクタでは、巻取ドラム(特許文献1では「スプール」と称呼)が一方の端面に開口する中心穴を有し、その端面と対向するようにロッキングベース(特許文献1では「ロック部材」と称呼)が配置されている。トーションバーは巻取ドラムの中心穴内に挿入され、ロッキングベースと反対側の一端側が巻取ドラムと相対回転不能に結合され、他端側がロッキングベースと相対回転不能に結合されている。
【0004】
車両の緊急時にはロッキングベースの引出方向への回転が阻止される。その結果、ウエビングが引き出されつつ巻取ドラムがロッキングベースに対して相対回転する。トーションバーは、そのときの捩れによる塑性変形によって衝撃エネルギーを吸収する。
【0005】
一方、ワイヤはクランク状であり、頭部側直線部と先端側直線部との間にそれらをつなぐオフセット部を含む。ロッキングベースには係止孔が設けられており、その係止孔にワイヤの頭部が取り付けられる。また、巻取ドラムには、ロッキングベースと対向する端面に環状の収容溝が設けられているとともに、その収容溝の底に開口する、巻取ドラムの軸方向と平行な収容孔が設けられている。ワイヤのオフセット部および先端側直線部は、それぞれ巻取ドラムの収容溝および収容孔に収容されている。衝撃エネルギー吸収ワイヤは、車両の緊急時に巻取ドラムとロッキングベースの相対回転に伴って先端側直線部が収容孔の開口から塑性変形しながら引き出されることで衝撃エネルギーを吸収する。
【0006】
さらに、特許文献1のシートベルト用リトラクタでは、異音の発生を防止するために、ワイヤが、頭部側直線部とオフセット部の間の折れ曲がり部で収容溝の底に当接するとともに、オフセット部と先端側直線部の間の折れ曲がり部でロッキングベースに当接し、さらに先端側直線部が互いに反対側の二点で収容孔の内面に当接するように、予め折り曲げ加工されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように衝撃エネルギー吸収ワイヤを予め加工するには精度の高い折り曲げ加工が必要である。
【0009】
そこで、本発明は、衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止可能なシートベルト用リトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一つの側面から、互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムであって、前記一対の側壁に設けられた挿通孔内にそれぞれ位置する第1端部および第2端部を含む巻取ドラムと、前記巻取ドラムの第1端部側の第1端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、前記巻取ドラムの第1端面に第1開口を形成するとともに前記第2端部側の第2端面に第2開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容され、前記第1開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記第1開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、前記巻取ドラムの第2端部に取り付けられて、前記巻取ドラムの第2端部と前記ハウジングの挿通孔との間に設けられた樹脂製のブッシュと、を備え、前記ブッシュは、前記巻取ドラムの第2端部の外周を覆う環状部と、前記環状部から突出して前記第2開口を通じて前記スロット内に挿入される保持突起を有し、前記保持突起が前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部と前記スロットの内面との間に介在する、シートベルト用リトラクタを提供する。
【0011】
本発明は、別の側面から、互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、前記巻取ドラムの一端部側の端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、前記巻取ドラムの前記一端部側の端面に開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容されるとともに、前記スロットの開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、を備え、前記スロットは、前記巻取ドラムの前記一端部と他端部との間で前記巻取ドラムの外周面から凹む凹部と、前記巻取ドラムの前記一端部を貫通して前記凹部と前記開口とを連通する貫通穴を有し、前記凹部の内面には、前記スロットに収納された前記衝撃エネルギー吸収ワイヤに接触して前記衝撃エネルギー吸収ワイヤを太さ方向に変形させる突起が設けられている、シートベルト用リトラクタを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止可能なシートベルト用リトラクタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタの斜視図である。
【
図2】
図1に示すシートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
【
図3】
図1に示すシートベルト用リトラクタの断面図である。
【
図6】巻取ドラムユニットの一部の分解斜視図である。
【
図7】巻取ドラムユニットの残り及びシンクロギヤの分解斜視図である。
【
図8】(a)は一端部である第1端部側から見たときの巻取ドラムの斜視図、(b)は他端部である第2端部側から見たときの巻取ドラムの斜視図である。
【
図11】ロッキングベース本体およびロック部材の分解斜視図である。
【
図12】ロッキングベース本体およびロック部材を反対側から見たときの分解斜視図である。
【
図13】(a)はロック部材が非係合位置に位置するときの復帰バネの状態を示し、(b)はロック部材が係合位置に位置するときの復帰バネの状態を示す。
【
図14】衝撃エネルギー吸収ワイヤ回りの巻取ドラムユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1および
図2に、本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1を示す。このシートベルト用リトラクタ1は、車両衝突時などの緊急時にシートベルトであるウエビング10の引き出しを防止するものである。
【0015】
具体的に、シートベルト用リトラクタ1は、ハウジング2、巻取バネユニット1A、巻取ドラムユニット1B、プリテンショナ1Cおよびロックユニット1Dを含む。巻取ドラムユニット1Bは、ウエビング10を巻き取る巻取ドラム3を含み、ハウジング2は、巻取ドラム3の軸方向で互いに対向する第1側壁21および第2側壁22を含む。
【0016】
巻取ドラム3は、第1側壁21および第2側壁22の間にウエビング10の巻取方向および引出方向に回転可能に収容されている。ハウジング2は、第1側壁21および第2側壁22と共に板金加工により形成された、第1側壁21および第2側壁22と垂直な背板23を含む。以下、説明の便宜上、巻取ドラム3の軸方向を左右方向(第1側壁21側を左方、第2側壁22側を右方)というとともに、背板23の厚さ方向を前後方向(側壁21,22側を前方、その反対側を後方)という。また、
図1および
図2の作図通りに、左右方向および前後方向と直交する方向の一方を上方、他方を下方という。
【0017】
ハウジング2の第1側壁21および第2側壁22の前辺の下部同士および上部同士は連結バー24,25で連結されている。第1側壁21および第2側壁22には、巻取ドラム3が挿通される挿通孔21a,22aがそれぞれ設けられている。また、背板23には、巻取ドラム3を露出させる開口23aが設けられている。
【0018】
ハウジング2の第2側壁22には巻取バネユニット1Aが取り付けられ、第1側壁21にはプリテンショナ1Cが取り付けられている。ロックユニット1Dはプリテンショナ1Cに取り付けられている。
【0019】
巻取ドラム3は、
図3に示すように、ハウジング2の第1側壁21の挿通孔21a内に位置する第1端部31と、第2側壁22の挿通孔22a内に位置する第2端部32を含む。本実施形態では、巻取ドラム3が第2端部32側の第2端面32aから右方に突出する軸部33を有し、この軸部33が巻取バネユニット1Aに回転可能に支持されている。ただし、後述するトーションバー4Aが巻取ドラム3を貫通し、このトーションバー4Aの右端部が巻取バネユニット1Aに回転可能に支持されてもよい。なお、巻取バネユニット1Aの構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0020】
巻取ドラムユニット1Bは、巻取ドラム3の他に、
図6および
図7に示すように、ブッシュ3A、ベアリング3B、トーションバー4A、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4B、ストッパ部材4C、ロッキングベース4D、復帰バネ9Aおよび回転軸9Bを含む。
【0021】
ロッキングベース4Dは、巻取ドラム3の第1端部31側の第1端面31aと対向するように配置されており、車両の緊急時に引出方向への回転が阻止される。ロッキングベース4Dは、ロッキングベース本体6と、ロッキングベース本体6に取り付けられた駆動輪5を含む。
【0022】
ブッシュ3Aは巻取ドラム3の第2端部32とハウジング2の第2側壁22の挿通孔22aとの間に設けられ、ベアリング3Bは巻取ドラム3の第1端部31とハウジング2の第1側壁21の挿通孔21aとの間に設けられている。ブッシュ3Aおよびベアリング3Bは、車両の緊急時にハウジング2に対する巻取ドラム3の相対位置がずれたとしても巻取ドラム3をスムーズに回転させるための非常手段である。ブッシュ3Aおよびベアリング3Bは樹脂製である。例えば、ブッシュ3Aおよびベアリング3Bを構成する樹脂は、摺動性の高い樹脂である。このような樹脂としては、ポリアセタールやPTFEなどが挙げられる。
【0023】
図3に示すように、ブッシュ3Aは巻取ドラム3の第2端部32に取り付けられ、ベアリング3Bは巻取ドラム3の第1端部31に取り付けられる。さらに、ベアリング3Bは、巻取ドラム3とロッキングベース4Dが相対回転する際に駆動輪5と摺動する、巻取ドラム3の第1端部31の内側に折り返された折り返し部3Ba(
図6参照)を含む。
【0024】
巻取ドラム3は、当該巻取ドラム3の中心軸に沿って延びる中心穴30を有する。本実施形態では、中心穴30が有底であり、第1端面31aのみに開口している。ただし、上述したようにトーションバー4Aが巻取ドラム3を貫通する場合は、中心穴30は第1端面31aだけでなく第2端面32aにも開口してもよい。
【0025】
トーションバー4Aは、巻取ドラム3の中心穴30内に挿入されている。トーションバー4Aのロッキングベース4Dと反対側の一端側が巻取ドラム3と相対回転不能に結合されるとともに、他端側がロッキングベース4Dと相対回転不能に結合されている。
【0026】
より詳しくは、トーションバー4Aの一端側および他端側にはスプライン状の結合部41,42がそれぞれ設けられている。巻取ドラム3の中心穴30の底には、結合部41との結合用のスプライン状の凹みが設けられており、この凹みに結合部41が嵌合する。
【0027】
トーションバー4Aは、通常時に巻取ドラム3とロッキングベース4Dとを一体的に回転可能に連結するとともに、ロッキングベース4Dの引出方向への回転が阻止された状態でウエビング10の引出力が所定値を超える場合に塑性変形して、巻取ドラム3とロッキングベース4Dとの相対回転を許容しつつ衝撃エネルギーを吸収する。
【0028】
衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、巻取ドラム3とロッキングベース4Dとが相対回転するときの初期に衝撃エネルギーを吸収するものである。本実施形態では、
図8(a)および(b)に示すように、巻取ドラム3に衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを収容するための2つのスロット35が設けられている。ただし、スロット35の数は1つであってもよい。
【0029】
本実施形態では、各スロット35が巻取ドラム3の軸方向に沿って形成されており、巻取ドラム3の第1端面31aと第2端面32aとに跨っている。すなわち、各スロット35は、巻取ドラム3の第1端面31aに第1開口36を形成するとともに、第2端面32aに第2開口37を形成する。
【0030】
より詳しくは、各スロット35は、巻取ドラム3の第1端部31と第2端部32との間で巻取ドラム3の外周面から凹む凹部35aと、第1端部31を貫通して凹部35aと第1開口36とを連通する第1貫通穴35bと、第2端部32を貫通して凹部35aと第2開口37とを連通する第2貫通穴35cを有する。
【0031】
本実施形態では、巻取ドラム3の外周面からの凹部35aの凹み方向が巻取ドラム3の径方向に対して斜めであるが、凹部35aの凹み方向は巻取ドラム3の径方向であってもよい。
【0032】
衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、一方のスロット35内に、頭部43(
図6参照)がスロット35の第1開口36から張り出した状態で収納されている。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの頭部43はロッキングベース4Dに取り付けられている。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、巻取ドラム3とロッキングベース4Dとの相対回転時に第1開口36から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する。
【0033】
ストッパ部材4Cは、トーションバー4Aの衝撃エネルギー吸収時の巻取ドラム3とロッキングベース4Dとの相対回転の許容量を規定する。ストッパ部材4Cは、巻取ドラム3の中心穴30内に、巻取ドラム3と相対回転不能かつ左右方向に移動可能に保持される。
【0034】
図6に示すように、ストッパ部材4Cは、トーションバー4Aが挿通される筒状である。ストッパ部材4Cの内周面には雌ネジ47が形成されている。
【0035】
本実施形態では、ストッパ部材4Cが、環状部45と、環状部45から右方に突出する3つの爪部46を含む。一方、巻取ドラム3の中心穴30内には、3つのガイド溝34が設けられている。3つのガイド溝34に3つの爪部46がそれぞれ嵌合することで、ストッパ部材4Cが巻取ドラム3に、巻取ドラム3と相対回転不能かつ左右方向に移動可能に保持される。ただし、ストッパ部材4Cが爪部46を含む代わりに、ストッパ部材4Cの外形の断面形状および巻取ドラム3の中心穴30の左端部の断面形状が多角形状であってもよい。
【0036】
図3および
図9に示すように、ロッキングベース4Dは、上述した駆動輪5から右方に突出する、巻取ドラム3と同軸上の軸部72aを有し、この軸部72aの外周面にストッパ部材4Cの雌ネジ47が螺合する雄ネジ73が形成されている。本実施形態では、
図3に示すように、巻取ドラム3とロッキングベース4Dとの相対回転時にストッパ部材4Cが駆動輪5から離間する位置から駆動輪5に当接する位置まで移動することで、巻取ドラム3とロッキングベース4Dの相対回転が所定量で規制される。
【0037】
駆動輪5は、
図7および
図10に示すように、断面六角形状の嵌合穴を有する本体部51と、本体部51の外周面に形成された複数の歯52と、歯52の右方で本体部51から径方向外向きに突出する環状のフランジ53と、フランジ53から右方に突出するリング状のリブ55を含む。
【0038】
図3に示すように、駆動輪5のフランジ53は巻取ドラム3の第1端面31aと対向する。フランジ53には、巻取ドラム3の回転中心を中心とする周方向に互いに離間する複数(図例では6つ)の保持部54が設けられている。これらの保持部54の1つに上述した衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの頭部43が取り付けられる。
【0039】
本実施形態では、各保持部54が、径方向外向きに開口する溝である。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの頭部43は、フランジ53に対して巻取ドラム3とは反対側に位置する、保持部54である溝の幅よりも大きな抜け止め部44(
図6参照)を有する。ただし、各保持部54は、フランジ53を貫通する穴であってもよい。
【0040】
図3に示すように、本実施形態では、駆動輪5が巻取ドラム3の第1端面31aにリブ55によって当接する。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、リブ55に巻き付けられながらスロット35の第1開口36から引き出される。また、巻取ドラム3とロッキングベース4Dが相対回転する際には、巻取ドラム3の軸方向では駆動輪5のリブ55が巻取ドラム3の第1端面31aと接触するとともに、巻取ドラム3の径方向では駆動輪5のフランジ53の外周が、巻取ドラム3に取り付けられたベアリング3Bの折り返し部3Baと接触しつつ、巻取ドラム3と駆動輪5が相対回転する。
【0041】
さらに、本体部51の内周面からは環状のフランジ56が突出している。このフランジ56は、ストッパ部材4Cと当接する部分である。このようにストッパ部材4Cをロッキングベース本体6の段差部ではなく駆動輪5のフランジ56に当接させることで、ストッパ部材4Cとの当接面積を大きく確保することができる。
【0042】
プリテンショナ1Cは、車両の緊急時に駆動輪5、ロッキングベース本体6およびトーションバー4Aを介して巻取ドラム3を巻取方向に回転させる。プリテンショナ1Cは、
図2~4に示すように、ハウジング2の第1側壁21に取り付けられたプリテンショナケーシング11と、プリテンショナケーシング11から折れ曲がりながら延びるパイプ12と、パイプ12内に配置された移動部材13と、パイプ12の末端部内に配置されたガス発生器18を含む。
【0043】
本実施形態では、移動部材13が棒状であり、駆動輪5の歯52の食い込みによって塑性変形する。ただし、移動部材13は駆動輪5の歯52と同ピッチで並ぶ複数の分割体(例えば、球体)で構成されてもよい。移動部材13は、車両の緊急時に、ガス発生器18が発生するガスによってパイプ12から押し出されながら駆動輪5の歯52と係合し、駆動輪5を巻取方向に回転させる。駆動輪5の回転に伴い、ロッキングベース本体6、トーションバー4Aおよび巻取ドラム3も回転する。また、プリテンショナ1Cの作動後は、パイプ12内のガスの圧力によって移動部材13がパイプ12内に押し戻されるのが阻止されるので、駆動輪5が引出方向に回転することが阻止される。
【0044】
図2および
図5に示すように、プリテンショナケーシング11にはロッキングベース本体6が挿通される開口11aが設けられ、開口11aの周縁には内歯11bが形成されている。一方、ロッキングベース本体6には、内歯11bと係合可能なロック部材61が設けられている。ロック部材61は、車両の緊急時に内歯11bに係合してロッキングベース4Dの引出方向への回転を阻止する。
【0045】
図9,11,12に示すように、ロッキングベース本体6は、駆動輪5が取り付けられる第1ベース部材7と、第1ベース部材7に対して巻取ドラム3と反対側で第1ベース部材7に相対回転不能に取り付けられる第2ベース部材8を含む。ロック部材61は、第1ベース部材7と第2ベース部材8との間に保持される。
【0046】
より詳しくは、第1ベース部材7は、円盤状の第1本体部71と、第1本体部71から右方に突出する突出部72を有する。
図3に示すように、第1本体部71と巻取ドラム3の第1端面31aとの間には駆動輪5が配置され、突出部72は駆動輪5を貫通する。突出部72における駆動輪5のフランジ56よりも右方部分が、ロッキングベース4Dの上述した軸部72aを構成する。
【0047】
突出部72の根元部は断面六角形状に形成されており、この根元部が駆動輪5の本体部51における同じく断面六角形状の嵌合穴に嵌合することで、駆動輪5が第1ベース部材7に相対回転不能に取り付けられる。また、突出部72の先端側の外周面には上述した雄ネジ73が形成されている。
【0048】
さらに、第1ベース部材7には、突出部72の先端面から凹む第1凹み74と、第1凹み74と同軸上で第1本体部71における駆動輪5と反対側の表面から凹む第2凹み75が設けられている。第1凹み74はトーションバー4Aの結合部42との結合用のスプライン状の凹みであり、この第1凹み74に結合部42が嵌合する。第2凹み75は本実施形態では断面円形状である。本実施形態では、第1ベース部材7が第1凹み74と第2凹み75とを隔てる仕切り76を有する。つまり、第1凹み74および第2凹み75が有底である。
【0049】
第2ベース部材8は、第1本体部71と重なり合う板状の第2本体部81と、第2本体部81から右方に突出する嵌合突起82を有する。本実施形態では、第2本体部81に3つの係合凹部87が設けられており、第1本体部71に設けられた3つの係合凸部79がそれぞれ係合凹部87に係合することで、第1ベース部材7に第2ベース部材8が相対回転不能に取り付けられる。嵌合突起82の断面形状は円形状であり、嵌合突起82は第2凹み75と嵌合する。ただし、第2凹み75と嵌合突起82が断面非円形状で、嵌合突起82が第2凹み75と嵌合することにより、第1ベース部材7に第2ベース部材8が相対回転不能に取り付けられてもよい。この場合、係合凹部87および係合凸部79は省略可能である。
【0050】
さらに、本実施形態では、第2ベース部材8の第2本体部81に、右方に突出する3つのカシメ突起85が設けられる一方、第1ベース部材7の第1本体部71に、カシメ突起85が挿通される3つの貫通穴77が設けられている。第1本体部71の第2本体部81と反対側には、貫通穴77と同軸かつ貫通穴77よりも大径のカシメ凹部78が形成されている。そして、各カシメ突起85の貫通穴77から突出する部分が、カシメ凹部78内で貫通穴77よりも大径に、かつカシメ凹部78の内径とほぼ同じ外径にカシメられている(
図11,12では、カシメ突起85をカシメ前の形状で描いている)。
【0051】
ロック部材61は、第1ベース部材7の第1本体部71と第2ベース部材8の第2本体部81とに保持される略円弧状で板状の本体部62と、本体部62の外側面に形成された、上述した内歯11bと係合可能な複数(図例では3つ)の係合歯63と、本体部62から左方に突出する操作軸64を有する。
【0052】
第2ベース部材8の第2本体部81には、左方に突出するピン84が設けられている。上述した復帰バネ9Aは、
図7に示すように略円弧状であり、復帰バネ9Aの一端がロック部材61の操作軸64と係合し、他端がピン84と係合する。復帰バネ9Aは、ロック部材61を
図13(a)に示す非係合位置に維持する役割を果たす。
【0053】
さらに、第2ベース部材8には、嵌合突起82と同軸上で左方に開口する係合穴83が設けられている。本実施形態では、係合穴83が第2ベース部材8を貫通しており、右方にも開口する。係合穴83の断面形状は六角形状である。
【0054】
ロック部材61は、シンクロギヤ14(
図2,7参照)により操作される。ロックユニット1Dは、
図2に示すように、シンクロギヤ14および車両センサ16を収容するカバー部材17を含む。シンクロギヤ14にはウエビングセンサ15が設けられている。ウエビングセンサ15はウエビング10が急激に引き出されたときに作動し、これによりシンクロギヤ14の引出方向への回転が阻止される。車両センサ16は車両の加速度が大きく変化したときに作動し、これによりシンクロギヤ14の引出方向への回転が阻止される。
【0055】
シンクロギヤ14の引出方向への回転が阻止されると、ロッキングベース4Dが巻取ドラム3と共にシンクロギヤ14と相対回転し、ロック部材61の操作軸64がシンクロギヤ14のガイド穴14a(
図7参照)で操作されることにより、ロック部材61が
図13(a)に示す非係合位置から
図13(b)に示す係合位置に移動する。
【0056】
上述した回転軸9Bは、
図7に示すように、棒状の本体部91と、本体部91から径方向外向きに延びるアーム92を有する。本体部91の右側部分の断面形状は六角形であり、この右側部分が第2ベース部材8の係合穴83に嵌合して係合する。アーム92は復帰バネ9Aを抑えるためのものであり、アーム92の先端に設けられたフック93が、第2ベース部材8の第2本体部81に設けられた係合穴86に係合する。回転軸9Bの左側部分は、
図3に示すように、シンクロギヤ14を貫通しており、ロックユニット1Dのカバー部材17によって回転可能に支持されている。
【0057】
次に、
図6,14,15を参照して、巻取ドラムユニット1Bにおける衝撃エネルギー吸収ワイヤ4B回りの構造を詳細に説明する。
【0058】
衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、頭部43から先端部まで巻取ドラム3の軸方向に沿って直線状に延びている。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの断面形状は円形状であってもよいし、正方形状や六角形状などの多角形状であってもよい。
【0059】
巻取ドラム3の第2端部32に取り付けられるブッシュ3Aは、第2端部32の外周を覆う環状部38と、環状部38の内周面に設けられるとともに環状部38から左向きに突出する2つの保持突起39を有する。各保持突起39は、対応するスロット35の第2開口37を通じてスロット35内に挿入される。衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを収容するスロット35に挿入される保持突起39は、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの先端部とスロット35の内面との間に介在する。
【0060】
より詳しくは、各保持突起39は、内面が互いに対向する一対の板状部39aと、板状部39aの間の空間を環状部38の径方向内側から覆うカバー部39bを有する。一対の板状部39aの外面には、スロット35の内部に係合する爪39cが設けられている。それらの爪39cがスロット35の内部に係合した状態で、一対の板状部39aの間に衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの先端部が挿入される。
【0061】
スロット35の凹部35aの内面は、底面と、底面を挟んで互いに対向する一対の側面で構成される。本実施形態では、一方の側面の中央に突起35dが設けられている。この突起35dは、スロット35に収納された衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bに接触して衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを太さ方向(衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの断面形状が円形状の場合は径方向)に変形させる役割を果たす。
【0062】
さらに、本実施形態では、
図14に示すように、巻取ドラム3の径方向内側でのスロット35の内面よりも巻取ドラム3の径方向内側での保持部54の内面が巻取ドラム3の径方向外側に位置している。これに対して、巻取ドラム3の径方向外側でのスロット35の内面は、巻取ドラム3の第1端面31aから右方に向かって巻取ドラム3の径方向内向きに傾斜している。これにより、巻取ドラム3の径方向内側での保持部54の内面から巻取ドラム3の径方向外側でのスロット35の内面までの距離が、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの抜け止め部44以外の部分の太さよりも、第1開口36よりも奥では小さいが第1開口36では大きくなるように設定されている。それ故、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、巻取ドラム3の径方向の一方で保持部54の内面と接触するとともに、巻取ドラム3の径方向の他方でスロット35の内面と接触し、これにより太さ方向に変形している。このため、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが変形による弾性力により保持部54やスロット35の内面に押し付けられるので、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが保持部54内およびスロット35内で巻取ドラム3の径方向に振動することが防止される。
【0063】
以上説明したように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1では、巻取ドラム3の第2端部32に樹脂製のブッシュ3Aが取り付けられているので、巻取ドラム3の第2端部32がブッシュ3Aを介して挿通孔22aの内面に接触したときに、ウエビング引出荷重への摩擦の影響を抑制することができる。しかも、そのブッシュ3Aはスロット35内に挿入される保持突起39を有し、その保持突起39が衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの先端部とスロット35の内面との間に介在するので、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによる異音を容易に防止することができる。すなわち、ブッシュ3Aが採用されたシートベルト用リトラクタ1では、追加の部品なしで衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによる異音を防止することができる。
【0064】
また、本実施形態では、保持突起39が一対の板状部39aを有し、板状部39aの外面に爪39cが設けられているので、一対の板状部39aの間への衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bの先端部の挿入によって、一対の板状部39aの外面に設けられた爪39cがスロット35の内部に係合した状態が維持される。
【0065】
さらに、本実施形態では、スロット35が巻取ドラム3の外周面から凹む凹部35aを有するので、凹部35aの内面にダイキャスト等で突起35dを一体成形することができる。しかも、その突起35dにより、スロット35に収納された衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが太さ方向に変形され、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが変形による弾性力により突起35d、スロット35の内面、ブッシュ3Aに押し付けられるので、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによる異音を容易に防止する効果をさらに高めることができる。
【0066】
<変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0067】
例えば、各スロット35は、第1貫通穴35bの代わりに第1端部31の外周縁から凹部35aと同方向に凹む切り欠きを有してもよいし、第2貫通穴35cの代わりに第2端部32の外周縁から凹部35aと同方向に凹む切り欠きを有してもよい。あるいは、スロット35は、必ずしも巻取ドラム3の外周面から凹む凹部35aを有する必要はなく、巻取ドラム3の軸方向に沿って巻取ドラム3を貫通する穴であってもよい。
【0068】
また、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを2本使用する際にエネルギー吸収時の互いの干渉をさけるためや、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによるエネルギー吸収を減らすためなどの理由で、実施形態よりも衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを短くしてもよい。このように衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが短い場合などには、突起35dのみによって衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによる異音を防止してもよく、この場合、各スロット35の長さが第1端面31aから第2端面32aよりも左方の位置までとされ、第2端面32aに第2開口37が形成されなくてもよい。
【0069】
また、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bを、巻取ドラム3の径方向の一方で保持部54の内面と接触するとともに、巻取ドラム3の径方向の他方でスロット35の内面と接触することで太さ方向に変形させるには、保持部54が穴である場合、前記実施形態とは逆に保持部54をスロット35の第1開口36に対して巻取ドラム3の径方向内側にオフセットさせてもよい。この場合、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bは、太さ方向で、前記実施形態とは逆方向に変形する。
【0070】
また、衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bが、頭部43とスロット35に収納される部分との間でクランク状に折り曲げられ、頭部43の側の直線部分とスロット35に収納される直線部分との間にそれらをつなぐオフセット部を有し、オフセット部が巻取ドラム3の第1端面31aと駆動輪5のフランジ53の間かつ、駆動輪5のリブ55の外周面に沿って配置されていてもよい。この場合は、保持部54の位置が第1開口36の位置に対してオフセット部がある分巻取ドラム3の回転方向にずれるが、それ以外は上述の実施形態と同じであり、同様に衝撃エネルギー吸収ワイヤ4Bによる異音を防止する効果が得られる。
【0071】
ロッキングベース4Dの構成は適宜変更可能である。例えば、駆動輪5はロッキングベース本体6の第1ベース部材7と一体となってもよい。あるいは、ロッキングベース4Dが、駆動輪5に対して巻取ドラム3側に位置する別部材を含み、この別部材に保持部54が設けられてもよい。これに対し、前記実施形態のように駆動輪5に保持部54が設けられれば、ロッキングベース4Dが駆動輪5とは別に保持部54を有する部材を含む場合に比べて、巻取ドラム3の軸方向におけるリトラクタの寸法を小さくすることができる。しかも、駆動輪5に保持部54が設けられる構成であれば、部品点数が増加せず、部品間のガタも少ないので、エネルギー吸収の荷重が安定する。
【0072】
プリテンショナ1Cおよび駆動輪5は無くてもよい。この場合、第1ベース部材7に巻取ドラム3の第1端面31aに対向するフランジを設け、このフランジに保持部54を設けてもよい。また、プリテンショナ1Cが無い場合、ハウジング2の第1側壁21の挿通孔21aの周縁に内歯11bが形成され、車両の緊急時にはその内歯11bにロック部材61が係合してもよい。
【0073】
さらには、ロッキングベース4Dに外歯が形成され、その外歯と係合するロック部材がハウジング2の第1側壁21に設けられてもよい。
【0074】
<まとめ>
第1の態様として、本発明は、一つの側面から、互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムであって、前記一対の側壁に設けられた挿通孔内にそれぞれ位置する第1端部および第2端部を含む巻取ドラムと、前記巻取ドラムの第1端部側の第1端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、前記巻取ドラムの第1端面に第1開口を形成するとともに前記第2端部側の第2端面に第2開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容され、前記第1開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記第1開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、前記巻取ドラムの第2端部に取り付けられて、前記巻取ドラムの第2端部と前記ハウジングの挿通孔との間に設けられた樹脂製のブッシュと、を備え、前記ブッシュは、前記巻取ドラムの第2端部の外周を覆う環状部と、前記環状部から突出して前記第2開口を通じて前記スロット内に挿入される保持突起を有し、前記保持突起が前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部と前記スロットの内面との間に介在する、シートベルト用リトラクタを提供する。
【0075】
上記の構成によれば、巻取ドラムの第2端部に樹脂製のブッシュが取り付けられているので、巻取ドラムの第2端部がブッシュを介して挿通孔の内面に接触したときに、ウエビング引出荷重への摩擦の影響を抑制することができる。しかも、そのブッシュはスロット内に挿入される保持突起を有し、その保持突起が衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部とスロットの内面との間に介在するので、衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止することができる。すなわち、ブッシュが採用されたシートベルト用リトラクタでは、追加の部品なしで衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を防止することができる。
【0076】
第2の態様として、第1の態様において、前記保持突起は内面が互いに対向する一対の板状部を有し、前記一対の板状部の外面には前記スロットの内部に係合する爪が設けられており、前記爪が前記スロットの内部に係合した状態で、前記一対の板状部の間に前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部が挿入されてもよい。この構成によれば、保持突起の一対の板状部の間への衝撃エネルギー吸収ワイヤの先端部の挿入によって、一対の板状部の外面に設けられた爪がスロットの内部に係合した状態が維持される。
【0077】
第3の態様として、第1または第2の態様において、前記スロットは、前記巻取ドラムの第1端部と第2端部との間で前記巻取ドラムの外周面から凹む凹部と、前記第1端部を貫通して前記凹部と前記第1開口とを連通する第1貫通穴と、前記第2端部を貫通して前記凹部と前記第2開口とを連通する第2貫通穴を有し、前記凹部の内面には、前記スロットに収納された前記衝撃エネルギー吸収ワイヤに接触して前記衝撃エネルギー吸収ワイヤを太さ方向に変形させる突起が設けられてもよい。この構成によれば、スロットが巻取ドラムの外周面から凹む凹部を有するので、凹部の内面にダイキャスト等で突起を一体成形することができる。しかも、その突起により、スロットに収納された衝撃エネルギー吸収ワイヤが太さ方向に変形されるので、衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止する効果をさらに高めることができる。
【0078】
第4の態様として、本発明は、別の側面から、互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、前記巻取ドラムの一端部側の端面と対向するように配置される、車両の緊急時に前記引出方向への回転が阻止されるロッキングベースと、前記巻取ドラムの前記一端部側の端面に開口を形成するように前記巻取ドラムの軸方向に沿って前記巻取ドラムに設けられたスロット内に収容されるとともに、前記スロットの開口から張り出す頭部が前記ロッキングベースに取り付けられ、前記巻取ドラムと前記ロッキングベースとの相対回転時に前記開口から塑性変形しながら引き出されて衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収ワイヤと、を備え、前記スロットは、前記巻取ドラムの前記一端部と他端部との間で前記巻取ドラムの外周面から凹む凹部と、前記巻取ドラムの前記一端部を貫通して前記凹部と前記開口とを連通する貫通穴を有し、前記凹部の内面には、前記スロットに収納された前記衝撃エネルギー吸収ワイヤに接触して前記衝撃エネルギー吸収ワイヤを太さ方向に変形させる突起が設けられている、シートベルト用リトラクタを提供する。
【0079】
上記の構成によれば、スロットが巻取ドラムの外周面から凹む凹部を有するので、凹部の内面にダイキャスト等で突起を一体成形することができる。しかも、その突起により、スロットに収納された衝撃エネルギー吸収ワイヤが太さ方向に変形されるので、衝撃エネルギー吸収ワイヤによる異音を容易に防止することができる。
【0080】
第5の態様として、第1乃至第4の態様の何れかにおいて、前記ロッキングベースは、前記衝撃エネルギー吸収ワイヤの頭部が取り付けられる溝または穴である保持部を有し、前記衝撃エネルギー吸収ワイヤは、前記巻取ドラムの径方向の一方で前記保持部の内面と接触するとともに、前記巻取ドラムの径方向の他方で前記スロットの内面と接触することで、太さ方向に変形してもよい。この構成によれば、衝撃エネルギー吸収ワイヤが保持部内およびスロット内で巻取ドラムの径方向に振動することが防止される。
【符号の説明】
【0081】
1 シートベルト用リトラクタ
10 ウエビング
2 ハウジング
21 第1側壁
21a 挿通孔
22 第2側壁
22a 挿通孔
3 巻取ドラム
3A ブッシュ
31 第1端部
31a 第1端面
32 第2端部
32a 第2端面
35 スロット
35a 凹部
35b 第1貫通穴
35c 第2貫通穴
35d 突起
36 第1開口
37 第2開口
38 環状部
39 保持突起
39a 板状部
39c 爪
4B 衝撃エネルギー吸収ワイヤ
4D ロッキングベース
43 頭部
54 保持部
6 ロッキングベース本体