(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158179
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用の電解質、強化剤、電解液、及びこれらを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241031BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241031BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20241031BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20241031BHJP
C07F 1/02 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
C07F19/00
H01G11/64
H01G11/84
H01G11/62
C07F1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073155
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000236953
【氏名又は名称】富山薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】寧 太陸
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 康晴
(72)【発明者】
【氏名】清水 和行
(72)【発明者】
【氏名】新田 宏大
【テーマコード(参考)】
4H048
4H050
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AA03
4H048AB80
4H048VA50
4H048VB10
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB80
4H050WA01
4H050WA13
4H050WA23
5E078AA03
5E078AA05
5E078AB01
5E078DA04
5E078DA06
5E078DA14
5E078DA16
5E078DA18
5E078DA19
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
(57)【要約】
【目的】本発明は、有機溶媒(非水溶媒)への溶解性、充放電効率、-10℃抵抗値、サイクル特性(体積変化率、容量維持率、抵抗変化率)、高温特性のバランスに優れた蓄電デバイスを作製し得る電解質、強化剤、電解液、およびこれらを用いて作製された蓄電デバイス、さらには上記の電解質または強化剤用のリチウム・フッ化ホウ素錯体化合物、リチウム錯体化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】特定の置換基を有するリチウム・フッ化ホウ素錯体化合物を含有する、蓄電デバイス用の電解質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錯体化合物(A)を含有する、蓄電デバイス用の電解質であって、
錯体化合物(A)は、下記式(1)で表される化合物の1種または2種以上を含むことを特徴とする、上記電解質。
【化1】
(式(1)中、X
1は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、下記式(2)で表される基からなる群から選ばれる1種の基であり、または、R
1~R
3からなる群から選ばれる2つの基の1方が酸素原子であり且つ他方と結合して環構造を形成しており、
R
1~R
3の少なくとも1つ以上が、下記式(2)で表される構造を含む基である。)
【化2】
(式(2)は、[ ]内に示された各々の繰り返し単位が連結した構造を有する分子構造のオリゴマーを表しており、それぞれの繰り返し単位の連結順は任意であり、
mは、[ ]
mで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、1~10の数であり、
nは、[ ]
nで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、0~10の数であり、
M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、
Y
1、Y
2は、それぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子であり、
Bはホウ素原子であり、
Gはハロゲン原子であり、
X
2は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、[ ]
mで括られた基からなる群から選ばれる1種の基である。)
【請求項2】
錯体化合物(A)が、少なくとも一つ以上の、ハロゲン化ホウ素基を有していることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
錯体化合物(A)が、少なくとも一つ以上の、前記シロキシ基、および/または前記チオシラン基を有していることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項4】
錯体化合物(A)が、
少なくとも一つ以上のハロゲン化ホウ素基と、
少なくとも一つ以上の前記シロキシ基および/または前記チオシラン基と
を有していることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項5】
錯体化合物(A)が、下記式(3)~(16)で表される錯体化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【化3】
【化4】
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の錯体化合物(A)を含有することを特徴とする、蓄電デバイス用の強化剤。
【請求項7】
少なくとも、請求項1~5の何れか1項に記載の錯体化合物(A)と有機溶媒とを含有する、蓄電デバイス用の電解液であって、
全電解液中の、該錯体化合物(A)に由来するアルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンの濃度は、0.01モル/リットル以上、2.0モル/リットル以下である
ことを特徴とする、上記電解液。
【請求項8】
少なくとも、請求項1~5の何れか1項に記載の錯体化合物(A)と有機溶媒とを含有する、蓄電デバイス用の電解液であって、
全電解液中の、該錯体化合物(A)の濃度は、0.1質量%以上、30質量%以下である
ことを特徴とする、上記電解液。
【請求項9】
請求項7または8に記載の電解液を用いて作製した、蓄電デバイス。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載の電解質、および/または請求項6に記載の強化剤を用いて作製した、蓄電デバイス。
【請求項11】
請求項1~5の何れか1項に記載の電解質、および/または請求項6に記載の強化剤を用いて作製した、固体系蓄電デバイス。
【請求項12】
請求項1~5の何れか1項に記載の錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
該製造方法は、ハロゲン化ホウ素化合物(B)と燐系塩(C)とを反応させて、錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
ハロゲン化ホウ素化合物(B)は、ハロゲン化ホウ素基を有する化合物であり、
燐系塩(C)は、下記式(17)で表される化合物である
ことを特徴とする、上記製造方法。
【化5】
(式(17)中、M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
6、R
7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、-O
-M
+、-S
-M
+からなる群から選ばれる1種の基である。)
【請求項13】
請求項1~5の何れか1項に記載の錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
該製造方法は、ハロゲン化ホウ素系塩(E)と、燐系化合物(F)との、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程1を含み、
ハロゲン化ホウ素系塩(E)は、ホウ素に結合したハロゲン原子を2個以上有するアニオンと、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンとからなる塩であり、
燐系化合物(F)は、下記式(18)で表される化合物である
ことを特徴とする、上記製造方法。
【化6】
(式(18)中、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
8、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基からなる群から選ばれる1種の基であり、R
8、R
9、R
10の少なくとも1つはシロキシ基またはチオシラン基である。)
【請求項14】
前記工程1の後に、ハロゲン化ホウ素系塩(E)および/または燐系化合物(F)からなる追加反応原料を添加して、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程2を、1つ以上、さらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用の電解質、強化剤、電解液、及びこれらを用いて作製された蓄電デバイス、さらにはこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、ノートパソコンなどに代表される携帯用電子端末等の種々の電子機器、さらには、ハイブリッド車や電気自動車などの普及に伴い、それらの電源として二次電池は重要な役割を果たしている。これらの二次電池としては、水溶液系若しくは非水電解液電池、更には、全固体電池などが挙げられる。なかでも、リチウムイオン等を吸蔵、放出できる正極及び負極と、非水電解液とを備える非水電解液を使用したリチウムイオン二次電池は、高電圧で高エネルギー密度を有し、安全性に優れ、環境問題などの点で、他の二次電池と比較して様々な利点を有している。
【0003】
現在実用化されている非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池では、例えば、正極活物質にはリチウムと遷移金属との複合酸化物が用いられ、負極活物質にはリチウムをドープ・脱ドープ可能な材料が用いられており、特性向上の為に、リチウムイオンの移送を担う非水電解液の特性の向上が求められている。
このような非水電解液としては、非プロトン性有機溶媒に、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2CF3)2などの電解質が溶解した電解液が用いられている。
【0004】
これらLiBF4、LiPF6等の電解質が溶解した非水電解液は、リチウムイオンの移送を表す導電率が高く、かつLiBF4、LiPF6の酸化分解電圧が高いことによって、安定的に高電圧であることが知られており、リチウム二次電池の有する高電圧、高エネルギー密度という特性を引き出すことに寄与している。
しかし、このようなリチウム二次電池のための非水電解液には、低電気抵抗化の為のリチウムイオンの高伝導化、充放電を繰り返した後も高容量を維持する所謂サイクル特性の向上、初期における低抵抗特性、高温時における高特性の維持などの改善が求められている。
これらの目的を達成する為に、非水電解液に含有される電解質について、種々の改善が提案されるとともに、その材料自体において新規なものが提案されている。
また、非水電解液における有機溶媒が可燃性あることによる電池の発火などの懸念のない水系電解液を使用するリチウムイオン二次電池や、全固体系のリチウム電池が開発され、そこにおける固体電解質についても、種々の改善が提案されるとともに、その材料自体において新規なものが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、電解質として、下記一般式で表される錯体化合物を含有する非水電解液が提案されている。これにより、蓄電デバイスの初期抵抗特性を改善できることが開示されている。
X-(O-A(Z)-O-B-(Y)(F)M+-)n-R
(X、Y、Z、Rはアルキル基など、AはP=Oなど、Mはアルカリ金属を表す。)
【0006】
また、特許文献2には、電解質として、一般式:M+PO3(F)A-(式中、M+は一価の金属であり、Aはホウ素原子又はリン原子である。)で表される部分構造を有する錯体化合物を含有する非水電解液が提案されている。これにより、蓄電デバイスの高温充電保存特性の向上、特に、保存時の抵抗上昇を抑制できることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3は、それぞれ、下記式で表されるリチウム含有錯体化合物を含む蓄電デバイス用電解質が開示されている。
(Li)m(A)n(UFx)y
(Li)m(Si)n(O)q(UFx)y
(AはO、S、P又はNであり、UはB又はPである。m、nは1~6、qは1~12、xは3又は5、yは1~6である。)
(Li)m(O)n(B)p(OWFq)x
(WはB又はP、m、p、xは1~15、nは0~15、qは3又は5である。)
【0008】
(Li)m(B)p(O)n(OR)y(OWFq)x
(WはB又はPである。nは0~15であり、p、m、x、yは1~12であり、qは3又は5である。Rは水素、アルキル基などである。)
(Li)m(O)n(B)p(OOC-(A)z-COO)y(OWFq)x
(WはB又はPである。Aは炭素1~6のアルキレン基などである。m、p、x、yは1~20、nは0~15、zは0又は1である。qは3又は5である。)
かかる電解質によれば、電気抵抗が低い非水電解液が得られ、かつ、良好な初期特性、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイス、更には、それ自体が優れたリチウムイオン伝導性を有するために、全固体系のリチウム二次電池が得られることが開示されている。
しかしながら、未だ十分な改善や新規な電解質等は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/175225号
【特許文献2】特開2020-194771号公報
【特許文献3】国際公開第2019/180945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機溶媒(非水溶媒)への溶解性、充放電効率、-10℃抵抗値、サイクル特性(体積変化率、容量維持率、抵抗変化率)、高温特性のバランスに優れた蓄電デバイスを作製し得る電解質、強化剤、電解液、およびこれらを用いて作製された蓄電デバイス、さらには上記の電解質または強化剤用のリチウム・フッ化ホウ素錯体化合物、リチウム錯体化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、特定の錯体化合物を含有する蓄電デバイス用の新規な電解質を見出し、これに基づき。本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.錯体化合物(A)を含有する、蓄電デバイス用の電解質であって、
錯体化合物(A)は、下記式(1)で表される化合物の1種または2種以上を含むことを特徴とする、上記電解質。
【化1】
(式(1)中、X
1は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子
、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、下記式(2)で表される基からなる群から選ばれる1種の基であり、または、R
1~R
3からなる群から選ばれる2つの基の1方が酸素原子であり且つ他方と結合して環構造を形成しており、
R
1~R
3の少なくとも1つ以上が、下記式(2)で表される構造を含む基である。)
【化2】
(式(2)は、[ ]内に示された各々の繰り返し単位が連結した構造を有する分子構造のオリゴマーを表しており、それぞれの繰り返し単位の連結順は任意であり、
mは、[ ]
mで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、1~10の数であり、
nは、[ ]
nで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、0~10の数であり、
M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、
Y
1、Y
2は、それぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子であり、
Bはホウ素原子であり、
Gはハロゲン原子であり、
X
2は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、[ ]
mで括られた基からなる群から選ばれる1種の基である。)
2.錯体化合物(A)が、少なくとも一つ以上の、ハロゲン化ホウ素基を有していることを特徴とする、上記1に記載の電解質。
3.錯体化合物(A)が、少なくとも一つ以上の、前記シロキシ基、および/または前記チオシラン基を有していることを特徴とする、上記1に記載の電解質。
4.錯体化合物(A)が、
少なくとも一つ以上のハロゲン化ホウ素基と、
少なくとも一つ以上の前記シロキシ基および/または前記チオシラン基と
を有していることを特徴とする、上記1に記載の電解質。
5.錯体化合物(A)が、下記式(3)~(16)で表される錯体化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする、上記1に記載の電解質。
【化3】
【化4】
6.上記1~5の何れかに記載の錯体化合物(A)を含有することを特徴とする、蓄電デバイス用の強化剤。
7.少なくとも、上記1~5の何れかに記載の錯体化合物(A)と有機溶媒とを含有する、蓄電デバイス用の電解液であって、
全電解液中の、該錯体化合物(A)に由来するアルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンの濃度は、0.01モル/リットル以上、2.0モル/リットル以下である
ことを特徴とする、上記電解液。
8.少なくとも、上記1~5の何れかに記載の錯体化合物(A)と有機溶媒とを含有する
、蓄電デバイス用の電解液であって、
全電解液中の、該錯体化合物(A)の濃度は、0.1質量%以上、30質量%以下である
ことを特徴とする、上記電解液。
9.上記7または8に記載の電解液を用いて作製した、蓄電デバイス。
10.上記1~5の何れかに記載の電解質、および/または上記6に記載の強化剤を用いて作製した、蓄電デバイス。
11.上記1~5の何れかに記載の電解質、および/または上記6に記載の強化剤を用いて作製した、固体系蓄電デバイス。
12.上記1~5の何れかに記載の錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
該製造方法は、ハロゲン化ホウ素化合物(B)と燐系塩(C)とを反応させて、錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
ハロゲン化ホウ素化合物(B)は、ハロゲン化ホウ素基を有する化合物であり、
燐系塩(C)は、下記式(17)で表される化合物である
ことを特徴とする、上記製造方法。
【化5】
(式(17)中、M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
6、R
7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、-O
-M
+、-S
-M
+からなる群から選ばれる1種の基である。)
13.上記1~5の何れかに記載の錯体化合物(A)を合成する製造方法であって、
該製造方法は、ハロゲン化ホウ素系塩(E)と、燐系化合物(F)との、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程1を含み、
ハロゲン化ホウ素系塩(E)は、ホウ素に結合したハロゲン原子を2個以上有するアニオンと、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンとからなる塩であり、
燐系化合物(F)は、下記式(18)で表される化合物である
ことを特徴とする、上記製造方法。
【化6】
(式(18)中、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
8、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基からなる群から選ばれる1種の基であり、R
8、R
9、R
10の少なくとも1つはシロキシ基またはチオシラン基である。)
14.前記工程1の後に、ハロゲン化ホウ素系塩(E)および/または燐系化合物(F)からなる追加反応原料を添加して、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程2を、1つ以上、さらに含むことを特徴とする、上記13に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機溶媒(非水溶媒)への溶解性、充放電効率、-10℃抵抗値、サイクル特性(体積変化率、容量維持率、抵抗変化率)、高温特性のバランスに優れた蓄電デバイスを作製し得る電解質、強化剤、電解液、およびこれらを用いて作製された蓄電デ
バイス、さらには上記の電解質または強化剤用のリチウム・フッ化ホウ素錯体化合物、リチウム錯体化合物の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記の本発明について以下に更に詳しく説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に特定されない。
【0014】
<電解質>
本発明の電解質は、蓄電デバイス用の電解質であり、特定の錯体化合物(A)を含有する。
【0015】
[錯体化合物(A)]
本発明における錯体化合物(A)は、蓄電デバイス用の電解質に用いられる錯体化合物であり、下記式(1)で表される錯体化合物の1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0016】
【化7】
(式(1)中、X
1は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、下記式(2)で表される基からなる群から選ばれる1種の基であり、または、R
1~R
3からなる群から選ばれる2つの基の1方が酸素原子であり且つ他方と結合して環構造を形成しており、
R
1~R
3の少なくとも1つ以上が、下記式(2)で表される構造を含む基である。)
【0017】
【化8】
(式(2)は、[ ]内に示された各々の繰り返し単位が連結した構造を有する分子構造のオリゴマーを表しており、それぞれの繰り返し単位の連結順は任意であり、
mは、[ ]
mで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、1~10の数であり、
nは、[ ]
nで括られた繰り返し単位の繰り返し数を表し、0~10の数であり、
M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、
Y
1、Y
2は、それぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子であり、
Bはホウ素原子であり、
Gはハロゲン原子であり、
X
2は、P(=O)基またはP(=S)基であり、
R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、[ ]
mで括られた基からなる群から選ばれる1種の基であり、
【0018】
そして、錯体化合物(A)は、少なくとも一つ以上のハロゲン化ホウ素基を有していることがより好ましい。
ここで、ハロゲン化ホウ素基とは、ホウ素原子に少なくとも一つ以上のハロゲン原子が結合した基である。
また、錯体化合物(A)は、少なくとも一つ以上の、シロキシ基、および/またはチオシラン基を有していることがより好ましい。
さらにまた、錯体化合物(A)は、少なくとも一つ以上のハロゲン化ホウ素基と、少なくとも一つ以上のシロキシ基および/またはチオシラン基とを有していることがより好ましい。
【0019】
上記式(2)において、M+で表されているアルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンの具体例としては、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Fr+、NH4+が挙げられる。これらの中でも、Li+、NH4
+が好ましい。
【0020】
R1~R3、R4におけるアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数が1~8の鎖状又は環状のアルキル基が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、プルピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ヒドロキシエチル基、トリフルオロメチル基、ヘキサフルオロエチル基等が挙げられる。
【0021】
R1~R3、R4におけるアルケニル基は、それぞれ独立して、炭素数が2~5のアルケニル基が好ましい。具体例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。
【0022】
G、R4におけるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)、アスタチン原子(At)が挙げられる。これらの中でも、リン原子やホウ素原子との結合が安定していることから、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)が好ましい。
【0023】
R1~R3、R4におけるアルコキシ基は、それぞれ独立して、炭素数が2~5のアルコキシ基が好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0024】
R1~R3、R4におけるシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、ブチルジメチルシロキシ基、トリブチルシロキシ基、トリメトキシシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、トリブトキシシロキシ基等が挙げられる。
【0025】
R1~R3、R4におけるチオシラン基としては、トリメチルチオシラン基、トリエチルチオシラン基、トリイソプロピルチオシラン基、ブチルジメチルチオシラン基、トリブチルチオシラン基、トリメトキシチオシラン基、トリエトキシチオシラン基、トリブトキシチオシラン基等が挙げられる。
【0026】
上記式(1)で表される錯体化合物(A)の具体例としては、下記式(3)~(14)で表される錯体化合物や、P(=O)基またはP(=S)基および/またハロゲン化ホウ素基を含有する化合物(D)が挙げられる。
本発明の電解質は、これらからなる群から選ばれる1種または2種以上の錯体化合物(A)を含むことが好ましい。
【化9】
【化10】
【0027】
上記式(15)、(16)は、OとB-とが結合して環構造を形成していることを示している。
【0028】
<錯体化合物(A)の製造方法>
[製造方法1]
本発明における錯体化合物(A)は、ハロゲン化ホウ素化合物(B)と燐系塩(C)とを反応させて合成することができる。
この製造方法1によって合成される錯体化合物(A)は、式(2)におけるR4が、そ
れぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、[ ]mで括られた基からなる群から選ばれる1種の基のものである。
反応させる際のモル比[(B)のホウ素原子/(C)のリン]は、1以上、3以下が好ましく、1.2以上、2.5以下がより好ましい。モル比[(B)のホウ素原子/(C)のリン]が上記範囲よりも小さいと、得られる錯体化合物(A)の溶媒に対する溶解性が乏しくなって電解液への溶解時間が長くなる傾向があり、上記範囲よりも大きいと、未反応のハロゲン化ホウ素化合物が残され易く、蓄電デバイスの寿命性能を損なうことがある。
【0029】
(ハロゲン化ホウ素化合物(B))
ハロゲン化ホウ素化合物(B)は、ハロゲン化ホウ素基を有する化合物である。
ハロゲン化ホウ素化合物(B)の具体例としては、三ハロゲン化ホウ素、三ハロゲン化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三ハロゲン化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三ハロゲン化ホウ素ジn-ブチルエーテル錯体、三ハロゲン化ホウ素ジtert-ブチルエーテル錯体、三ハロゲン化ホウ素tert-ブチルメチルエーテル錯体、三ハロゲン化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三ハロゲン化ホウ素メタノール錯体、三ハロゲン化ホウ素エタノール錯体、三ハロゲン化ホウ素プロパノール錯体、三ハロゲン化ホウ素ブタノール錯体、三ハロゲン化ホウ素フェノール錯体、三ハロゲン化ホウ素エチレンカーボネート錯体、三ハロゲン化ホウ素エチルメチルカーボネート錯体、三ハロゲン化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三ハロゲン化ホウ素ジエチルカーボネート錯体、三ハロゲン化ホウ素スルホラン錯体、三ハロゲン化ホウ素酢酸錯体、三ハロゲン化ホウ素水溶液、及びこれらと燐系塩(C)との反応生成物でハロゲン化ホウ素基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
ハロゲンとしてはフッ素、塩素が好ましく、ハロゲン化ホウ素化合物(B)としては、上記のフッ化ホウ素化合物がより好ましく用いられる。
フッ化ホウ素化合物の具体例としては、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn-ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert-ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert-ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素エタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素ブタノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素エチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素エチルメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジエチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素スルホラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体、三フッ化ホウ素水溶液、及びこれらと燐系塩(C)との反応生成物でフッ化ホウ素基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
塩化ホウ素化合物の具体例としては、三塩化ホウ素、三塩化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三塩化ホウ素メタノール錯体、三塩化ホウ素エタノール錯体、三塩化ホウ素ブタノール錯体、及びこれらと燐系塩(C)との反応生成物で塩化ホウ素基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
これらの中でも、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素エタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素ブタノール錯体、三フッ化ホウ素エチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素エチルメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジエチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素スルホラン錯体が好ましく、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素ブタノール錯体、三フッ化ホウ素エチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素エチルメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三フッ化
ホウ素ジエチルカーボネート錯体が更に好ましい。
【0033】
(燐系塩(C))
燐系塩(C)は、下記式(17)で表される化合物である。
【化11】
(式(17)中、M
+は、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンであり、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
6、R
7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、-O
-M
+、-S
-M
+からなる群から選ばれる1種の基である。)
燐系塩(C)としては、ホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ホスフォン酸、メチルホスフォン酸、ビニルホスフォン酸、りん酸、二りん酸、ポリりん酸、りん酸メチル、りん酸エチル、一チオりん酸、二チオりん酸、三チオりん酸、四チオりん酸等と、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンとの塩、およびこれらとハロゲン化ホウ素化合物(B)との反応生成物でM
+O-X
3基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
カチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムイオンが好ましい。
【0034】
燐系塩(C)の具体例としては、ホスフィン酸リチウム、ジメチルホスフィン酸リチウム、ホスフォン酸リチウム、メチルホスフォン酸リチウム、ビニルホスフォン酸リチウム、りん酸リチウム、二りん酸リチウム、ポリりん酸リチウム、りん酸メチルリチウム、りん酸エチルリチウム、りん酸ジエチルリチウム、一チオりん酸リチウム、四チオりん酸リチウム、およびこれらとハロゲン化ホウ素化合物(B)との反応生成物でM+O-X3基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、ホスフィン酸リチウム、ホスフォン酸リチウム、メチルホスフォン酸リチウム、ビニルホスフォン酸リチウム、りん酸リチウム、二りん酸リチウム、ポリリン酸リチウム、りん酸エチルリチウム、りん酸ジエチルリチウム、一チオりん酸リチウム、四チオりん酸リチウム等が好ましい。
【0035】
[製造方法2]
本発明における錯体化合物(A)は、ハロゲン化ホウ素系塩(E)と、燐系化合物(F)とを用いて、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程1を含む方法で、または工程1及び1つ以上の工程2をこの順で含む方法で合成することができる。
この製造方法2によって合成される錯体化合物(A)は、式(2)におけるR4が、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シロキシ基、チオシラン基、[ ]mで括られた基からなる群から選ばれる1種の基である。
【0036】
(工程1)
ハロゲン化ホウ素系塩(E)と、燐系化合物(F)との、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程。
(工程2)
前記工程1の後に、ハロゲン化ホウ素系塩(E)および/または燐系化合物(F)からなる追加反応原料を添加して、脱ハロゲン化シリルによる結合反応を進行させる工程。
【0037】
上記の脱ハロゲン化シリル反応は、溶媒が存在しない条件下でも進行するが、必要に応じて適宜溶媒を添加してもよい。
また、反応温度を制御することで、脱ハロゲン化シリル反応を効率的に進行させることができる。反応温度は効率的に脱ハロゲン化シリル反応を進行させることができれば、特に限定されない。
例えば、用いられる溶媒の種類に応じて、反応温度を10~150℃の範囲で選択することができ、20~120℃の範囲であれば好適に反応を促進することができる。また、反応速度の制御しやすさの観点からは、40~100℃の範囲がより好ましい。
しかしながら、本製造方法は、これらの条件に限定されない。
【0038】
工程1におけるハロゲン化ホウ素系塩(E)中のホウ素元素と、燐系化合物(F)のシリル基とのモル比[(E)のホウ素原子/(F)のシリル基]は、得られる錯体化合物(A)の目標とする化学構造によって適宜決定でき、特に限定されない。
例えば、モル比[(E)のホウ素原子/(F)のシリル基]は、0.2以上、5以下が好ましく、0.3以上、3.0以下がより好ましく、必要に応じてシリル基よりホウ素が多くてもよい。モル比[(E)のホウ素原子/(F)のシリル基]が上記範囲よりも小さいと、未反応のシリル基が増加し、錯体化合物(A)の溶解性が低下し易い。モル比[(E)のホウ素原子/(F)のシリル基]が上記範囲よりも大きいと、未反応のハロゲン化ホウ素系塩(E)が増加し、蓄電デバイスの寿命を縮めてしまい易い。
【0039】
工程2において追加される、ハロゲン化ホウ素系塩(E)または燐系化合物(F)の種類、添加順、添加量は、得られる錯体化合物(A)の目標とする化学構造によって、適宜決定でき、特に限定されない。
例えば、工程1におけるハロゲン化ホウ素系塩(E)中の未反応のホウ素原子、または燐系化合物(F)中の未反応のシリル基に対し、追加される燐系化合物(F)中のシリル基、または、追加されるハロゲン化ホウ素系塩(E)中のホウ素原子のモル比[(工程2の追加ホウ素原子+追加シリル基)/(工程1の未反応ホウ素原子+未反応シリル基)]は、0.2以上、5以下が好ましく、0.3以上、3.0以下がより好ましい。
【0040】
また、工程1と工程2とを含む全工程におけるモル比[(E)のホウ素原子/(F)のシリル基]は、例えば、0.2以上、5.0以下が好ましく、0.3~3.0以下がより好ましい。
【0041】
(ハロゲン化ホウ素系塩(E))
ハロゲン化ホウ素系塩(E)は、ホウ素に結合したハロゲン原子を2個以上有するアニオンと、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンとからなり、脱ハロゲン化シリル反応を進行し得る塩である。
ハロゲン化ホウ素系塩(E)の例としては、分子内に二ハロゲン化ホウ素、三ハロゲン化ホウ素の官能基を含有する錯体塩や、四ハロゲン化ホウ酸塩、一ハロゲン化リン酸塩、二ハロゲン化リン酸塩、六ハロゲン化リン酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
ハロゲン化ホウ素系塩(E)としては、ホスフィン酸系錯体塩類、ホスフォン酸系錯体塩類、りん酸系錯体塩類、縮合りん酸系錯体塩類、チオりん酸系錯体塩類、及びこれらと燐系化合物(F)との反応生成物でホウ素に結合したハロゲン原子を2個以上有するアニオンを含む化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
ホスフィン酸系錯体塩類の具体例としては、四ハロゲン化ホウ酸塩、酸化リチウム・ビス(三ハロゲン化ホウ素)塩、硫化リチウム・ビス(三ハロゲン化ホウ素)塩、ホスフィン酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、ジメチルホスフィン酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、ジフルオロりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
ホスフォン酸系錯体塩類の具体例としては、ホスフォン酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、メチルホスフォン酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体、ビニルホスフォン酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、フルオロりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
りん酸系錯体塩類の具体例としては、りん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、りん酸メチル塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、りん酸エチル塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
縮合りん酸系錯体塩類の具体例としては、二りん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、ポリりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
チオりん酸系錯体塩類の具体例としては、一チオりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、二チオりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、三チオりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩、四チオりん酸塩・三ハロゲン化ホウ素錯体塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
ハロゲン化ホウ素系塩(E)を構成するアニオンに有されるハロゲンとしては、フッ素が好ましい。
ハロゲン化ホウ素系塩(E)を構成するカチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオンが好ましい。
【0049】
ハロゲン化ホウ素系塩(E)の具体例としては、四フッ化ホウ酸リチウム、酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩、硫化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩、ホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ジメチルホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ホスフォン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、メチルホスフォン酸塩・三フッ化ホウ素錯体、ビニルホスフォン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、、りん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、二りん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ポリりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸メチルリチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸エチルリチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、一チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、二チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、三チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、四チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、及びこれらと燐系化合物(F)との反応生成物でホウ素に結合したハロゲン原子を2個以上有するアニオンを含む化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
これらの中でも、四フッ化ホウ酸リチウム、酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩、硫化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩、ホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ホスフォン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、メチルホスフォン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ビニルホスフォン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、二りん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、ポリりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸エチルリチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、りん酸ジエチルリチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、一チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩、四チオりん酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩が好ましい。
【0051】
(燐系化合物(F))
燐系化合物(F)は、下記式(18)で表される化合物であり、P(=O)基またはP(=S)基に結合したシロキシ基またはチオシラン基を有する化合物である。
【化12】
(式(18)中、X
3は、P(=O)基またはP(=S)基であり、R
8、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基、シロキシ基、チオシラン基からなる群から選ばれる1種の基であり、R
8、R
9、R
10の少なくとも1つはシロキシ基またはチオシラン基である。)
【0052】
燐系化合物(F)としては、ホスフィン酸、ホスフォン酸、ビニルホスフォン酸、りん酸、二りん酸、三りん酸、四りん酸、ポリりん酸、一チオりん酸、二チオりん酸、三チオりん酸、四チオりん酸等の誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
燐系化合物(F)の具体例としては、ホスフィン酸トリメチルシリル、ジメチルホスフィン酸トリメチルシリル、ホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)、ビニルホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)、アリルホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)、りん酸トリス(トリメチルシリル)、二りん酸ヘキサ(トリメチルシリル)、ポリりん酸トリス(トリメチルシリル)、一チオりん酸トリス(トリメチルシリル)、二チオりん酸トリス(トリメチルシリル)、三チオりん酸トリス(トリメチルシリル)、四チオりん酸トリス(トリメチルシリル)、及びこれらとハロゲン化ホウ素系塩(E)との反応生成物でP(=O)基またはP(=S)基に結合したシロキシ基またははチオシラン基を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
これらの中でも、ホスフィン酸トリメチルシリル、ホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)、ビニルホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)、りん酸トリス(トリメチルシリル)、二りん酸ヘキサ(トリメチルシリル)、ポリりん酸トリス(トリメチルシリル)、一チオりん酸トリス(トリメチルシリル)、四チオりん酸トリス(トリメチルシリル)等が好ましい。
【0055】
<強化剤>
本発明において、強化剤は、蓄電デバイスの充放電効率を高め、蓄電デバイスの寿命を延ばしたり、抵抗を低下させたりする効果を付与する化合物である。
本発明の強化剤は、本発明の電解質とともに用いることができる。
また、本発明の強化剤は、本発明の電解質に該当しないリチウム系電解質とともに用いることができる。
さらに、本発明の強化剤は、汎用の強化剤と併用することができる。併用比率は特に限定されない。
例えば、蓄電デバイスに含有される全強化剤中の本発明の強化剤の含有率は、0.1質量%以上、100質量%以下が好ましく、0.2質量%以上、70質量%以下がより好ましい。
【0056】
汎用の強化剤の具体例としては、例えば、含硫黄化合物、環状酸無水物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
上記の含硫黄化合物の具体例としては、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン、エチレンサルファイト、ヘキサヒドロベンゾ[1,3,2]ジオキサチオラン-2-オキシド(1,2-シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトともいう)、5-ビニル-ヘキサヒドロ1,3,2-ベンゾジオキサチオール-2-オキシド、1,4-ブタンジオールジメタンスルホネート、1,3-ブタンジオールジメタンスルホネー
ト、メチレンメタンジスルホン酸、エチレンメタンジスルホン酸、N,N-ジメチルメタンスルホンアミド、N,N-ジエチルメタンスルホンアミド、ジビニルスルホン、1,2-ビス(ビニルスルホ二ル)メタン等が挙げられる。
【0058】
上記の環状酸無水物の具体例としては、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、フェニルコハク酸無水物、2-フェニルグルタル酸無水物、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、フルオロコハク酸無水物、テトラフルオロコハク酸無水物等のカルボン酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物、1,3-プロパンジスルホン酸無水物、1,4-ブタンジスルホン酸無水物、1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物、テトラフルオロ-1,2-エタンジスルホン酸無水物、ヘキサフルオロ-1,3-プロパンジスルホン酸無水物、オクタフルオロ-1,4-ブタンジスルホン酸無水物、3-フルオロ-1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物、4-フルオロ-1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物、3,4,5,6-テトラフルオロ-1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物等が挙げられる。
【0059】
上記のニトリル化合物の具体例としては、ペンタンニトリル、オクタンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル、クロトノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。
【0060】
上記のイソシアネート化合物の具体例としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ターシャルブチルイソシアネートなどのアルキルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネートなどのシクロアルキルイソシアネート、アリルイソシアネート、プロパルギルイソシアネート、モノメチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナト-2-ブテン、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、カルボニルジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトブタン-1,4-ジオン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等の化合物が挙げられる。
【0061】
<電解液>
本発明の電解液は、電解質と有機溶媒(非水溶媒)とを含有する蓄電デバイス用の液体である。本発明の電解液は、さらに強化剤を含有することができる。
【0062】
本発明の電解液は、錯体化合物(A)を、電解質および/または強化剤として含有することができる。
また、本発明の電解液は、錯体化合物(A)以外の電解質および/または強化剤を含有することができる。
【0063】
電解液中にはカチオンが存在しているが、このカチオンは、リチウムカチオン、ナトリウムカチオンまたは四級アンモニウムカチオンを含むことが好ましく、リチウムカチオン、ナトリウムカチオンを含むことがより好ましく、リチウムカチオンを含むことが特に好
ましい。
【0064】
錯体化合物(A)以外の電解質の具体例としては、LiPF6、LiBF4、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C2F5SO2)又はLiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
全電解液中の全カチオン、特に全リチウムカチオンの濃度は、0.1モル/リットル以上、5.0モル/リットル以下が好ましく、0.7モル/リットル以上、2.5モル/リットル以下がより好ましい。全電解液中の、アルカリ金属カチオンまたは四級アンモニウムカチオンの濃度が上記範囲よりも低いと、充分な充放電特性を有することが困難になり易く、上記範囲よりも高くても、内部抵抗が上昇しやすく、充放電特性はさほど向上しない。
【0066】
そして、全電解液中の、錯体化合物(A)に由来する全カチオン、特にリチウムカチオンの濃度は、全電解液中で0.01モル/リットル以上、3.0モル/リットル以下が好ましく、0.1モル/リットル以上、2.0モル/リットル以下がより好ましい。
電解液中の錯体化合物(A)に由来する全カチオン、特にリチウムカチオンの濃度が上記範囲よりも低いと、蓄電デバイスの電極表面保護が不十分になり易く、上記範囲よりも高くても、電解液のリチウムイオン電導度はさほど向上しない。
【0067】
また、全電解液中の錯体化合物(A)の質量%は、0.01質量%以上、30質量%以下が好ましく、0.1質量%以上、20質量%以下がより好ましい。全電解液中の錯体化合物(A)の質量%が上記範囲よりも低いと、蓄電デバイスの電極表面保護が不十分になり易く、上記範囲よりも高くても、電解液のリチウムイオン電導度はさほど向上しない。
【0068】
[有機溶媒]
本発明の電解液用の有機溶媒には、種々の有機溶媒を用いることができる。
例えば、本発明の電解液用の有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含有することが好ましい。
非プロトン性極性溶媒の中でも、イオン伝導性を高めるという観点からは、環状カーボネート類や鎖状カーボネート類などのカーボネート系溶媒を用いることがより好ましく、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類を組合せて用いることがさらに好ましい。また、環状カーボネート類として、飽和環状カーボネート類及び不飽和環状カーボネート類を用いて、3種のカーボネート類を含有することが特に好ましい。
【0069】
環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類を含有する場合、必要に応じて、ラクトン類、スルホン類、エーテル類、ニトリル類、鎖状カルボン酸エステル類、鎖状グリコールエーテル類、含フッ素エーテル類、りん酸エステル類等の別の非水溶媒をさらに含有することができる。
【0070】
電解液中の、環状カーボネート類/鎖状カーボネート類の体積比は、十分にリチウムイオン電導度が高く確保できれば、特に限定されない。
例えば、環状カーボネート類/鎖状カーボネート類の体積比は、10~70/30~90が好ましく、20~50/50~80がより好ましい。
また、環状カーボネート類として、不飽和環状カーボネート類が使用できる。
不飽和環状カーボネート類の含有量は、全有機溶媒量中に0.01~10体積%が好ましく、0.1~5体積%がより好ましい。
【0071】
環状カーボネート類が上記範囲よりも少ないと、電解質である錯体化合物の解離度や溶
解度が低下し易くなり、電解液のイオン電導度が低下し易い。逆に上記範囲よりも多いと、電解液が高粘度になり易く、低温で凝固し易くなる為、充分な充放電特性が得られ難くなり易い。
【0072】
鎖状カーボネート類が上記範囲よりも少ないと、電解液が高粘度になり易く、低温で凝固し易くなる為、充分な充放電特性が得られ難くなり易い。逆に上記範囲よりも多いと、電解質である錯体化合物の解離度や溶解度が低下し易くなる為、電解液のイオン電導度が低下し易い。
【0073】
また、不飽和環状カーボネート類が上記範囲よりも少ないと、負極表面に良好な被膜が形成され難くなるためサイクル特性が低下し易くなる。逆に上記範囲よりも多いと、例えば、高温保存時に電解液からガスが発生し易くなり、蓄電デバイス内の圧力が上昇し易いなど、実用上好ましくない状態になり易い。
【0074】
非プロトン性極性溶媒の具体例としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、ラクトン類、スルホン類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、鎖状カルボン酸エステル類、鎖状グリコールエーテル類、含フッ素エーテル類、リン含有化合物、ジメチルスルホキシド、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
環状カーボネート類の具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、2,3-ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。プロピレンカーボネートを用いた場合には、幅広い温度範囲にて安定した電解液を得ることができる。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
鎖状カーボネート類としては、例えば、炭素数が3~9の鎖状カーボネートが挙げられ、具体例としては、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート及びメチルトリフルオロエチルカーボネート等が挙げられる。上記において、プロピル基は、それぞれ独立して、n-プロピル基であってもイソプロピル基であってよく、ブチル基は、それぞれ独立して、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基の何れであってよい。これらの中でも、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが好ましい。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
不飽和環状カーボネート類の具体例としては、ビニレンカーボネート誘導体やアルケニルエチレンカーボネートが挙げられる。
【0078】
ビニレンカーボネート誘導体の具体例としては、ビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、フルロメチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネートなどが挙げられる。
【0079】
アルケニルエチレンカーボネートの具体例としては、4-ビニルエチレンカーボネート、4-ビニル-4-メチルエチレンカーボネート、4-ビニル-4-エチルエチレンカー
ボネート、4-ビニル-4-n-プロピルエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
環状カルボン酸エステル類(ラクトン類)としては、炭素数が3~9のものが挙げられ、例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等を挙げることができる。これらのなかで、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンがより好ましい。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
鎖状カルボン酸エステル類としては、炭素数3~9のものが挙げられ、具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸-n-プロピル、プロピオン酸-イソプロピル、プロピオン酸-n-ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸-t-ブチルを挙げることができる。なかでも、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルが好ましい。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
鎖状グリコールエーテル類としては、炭素数3~6のものが挙げられ、具体例として、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、エトキシメトキシエタン等を挙げることができる。なかでも、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンがより好ましいができる。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
含フッ素エーテル類の具体例としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、エトキシ-2,2,2-トリフルオロエトキシ-エタン等が挙げられる。これらの具体的化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
スルホン類の具体例としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン等が挙げられる。
【0085】
環状エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン等が挙げられる。
鎖状エーテル類の具体例としては、ジメチルエーテル等が挙げられる。
ニトリル類の具体例としては、アセトニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
アミド類の具体例としては、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0086】
リン含有化合物の具体例としては、ジエチルビニルホスフェート、アリルジエチルホスフェート、プロパルギルジエチルホスフェート、トリビニルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリプロパルギルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルジエチルホスフェート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0087】
<蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、本発明の電解液を用いて作製した蓄電デバイスや、本発明の電解質および/または強化剤を用いて作製した蓄電デバイスである。
本発明の蓄電デバイスは、液体系蓄電デバイス、半固体系蓄電デバイス、固体系蓄電デバイスのいずれであってもよい。
本発明の蓄電デバイスの具体例としては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、正極又は負極の一方が電池で、他方が二重層であるハイブリッド型電池等の種々の蓄電デバイスが挙げられる。
本発明の蓄電デバイスの形状については特に限定されることはなく、円筒型、角型、アルミラミネート型、コイン型、ボタン型等種々の形状にすることができる。
本発明の蓄電デバイスは、本発明の電解質、電解液、強化剤等を用いて作製されていることによって、電気抵抗が低く、良好な初期特性、サイクル特性及び高温特性に優れる。
また、本発明の蓄電デバイスは、本発明の電解質、電解液、強化剤以外の電解質、電解液、強化剤等を併用して作製することもできる。
【0088】
以下、一例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池であり、正極、負極、セパレ-タ、電解質(電解液)等によって構成されている。
【0089】
(負極)
負極の構成としては、例えば、銅製の箔やエキスパンドメタル、炭素材料、又はこれらの複合材料等の集電体上に、負極活物質が形成された構成が挙げられる。
負極を構成する負極活物質としては、リチウムイオンのド-プ・脱ド-プが可能な炭素材料、金属リチウム、リチウム含有合金、又はリチウムとの合金化が可能なシリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金、リチウムイオンのド-プ・脱ド-プが可能な酸化スズ、酸化シリコン、リチウムイオンのド-プ・脱ド-プが可能な遷移金属酸化物、リチウムイオンのド-プ・脱ド-プが可能な遷移金属窒素化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0090】
負極活物質の集電体への接着性を向上させるためには、例えば、ポリフッ化ビニリデン系バインダー、ラテックス系のバインダー等を含有してもよく、導電助剤としてカーボンブラック、アモルファスウイスカーカーボン、カーボンナノファイバー等を含有してもよい。
【0091】
負極活物質を構成する炭素材料としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、グラファイト類、有機高分子化合物焼成体(フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛、樹脂被覆黒鉛等)等が挙げられる。
【0092】
炭素材料は、特にX線回折法で測定した(002)面の面間隔(d002)が、0.340nm以下のものが好ましい。
そして、真密度が1.70g/cm3以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料が好ましい。
これらのような炭素材料を負極に用いることによって、非水電解液蓄電デバイスのエネルギー密度を高くすることができる。
【0093】
さらに、炭素材料としては、ホウ素を含有するものや、金、白金、銀、銅、Sn、Si等の金属で被覆したものや、マグネシウム塩やカルシウム塩等の塩で被覆したもの等を用いることができる。これらの炭素材料は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせ混合して用いてもよい。
【0094】
また、リチウムとの合金化が可能なシリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金、リチウ
ムイオンのド-プ・脱ドープが可能な酸化スズ、酸化シリコン、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属酸化物等を用いた場合は、いずれも上述の炭素材料よりも重量あたりの理論容量が高く、好適である。
【0095】
(正極)
正極の構成としては、アルミニウム、チタン、若しくはステンレス製の箔、エキスパンドメタル、炭素材料、又はこれらの複合材料等の集電体上に、正極活物質が形成された構成が挙げられる。
正極を構成する正極活物質は、充放電が可能な種々の材料から形成できる。例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、1種類以上の遷移金属を用いたリチウム含有遷移金属複合酸化物、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、オリビン型金属リチウム塩等が挙げられる。
【0096】
例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiMnO2等のLixMO2(ここで、Mは1種以上の遷移金属であり、xは蓄電デバイスの充放電状態によって異なる数値であり、通常0.05≦x≦1.20である)で表される、リチウムと一種以上の遷移金属との複合酸化物(リチウム遷移金属複合酸化物)、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Yb等の他の金属で置換した金属複合酸化物、FeS2、TiS2、V205、MoO3、MoS2等の遷移元素のカルコゲナイドあるいはポリアセチレン、ポリピロール等のポリマー等を使用することができる。
これらのなかでも、Liのドープ及び脱ドープが可能な、リチウム遷移金属複合酸化物や、遷移金属原子の一部が他の金属で置換された金属複合酸化物等の材料が好ましい。
【0097】
また、これら正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いることもできる。表面の付着物質としては、金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩等が挙げられる。
金属酸化物の具体例としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等が挙げられる。
金属硫化物の具体例としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
金属炭酸塩の具体例としては、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0098】
正極活物質の集電体への接着性を向上させるために、例えば、ポリフッ化ビニリデン系バインダー、ラテックス系のバインダー等を含有してもよく、正極内の電子伝導性を向上させるために、カーボンブラック、アモルファスウィスカー、グラファイト、カーボンナノファイバー等を含有してもよい。
【0099】
(セパレータ)
セパレ-タは、正極と負極とを電気的に絶縁するものであり、かつリチウムイオンが透過可能な膜が好ましい。
セパレータの具体例としては、微多孔性高分子フィルム等の多孔性膜が挙げられる。
微多孔性高分子フィルムとしては、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には、多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、又は多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとの多層フィルム等が好ましい。必要に応じて、これらのフィルム表面にさらに絶縁性層をコートしてもよい。
また、セパレ-タには、高分子電解質を用いることもできる。高分子電解質としては、例えば、リチウム塩を溶解した高分子物質、電解液で膨潤させた高分子物質等も使用でき
るが、これらに限定されるものではない。
【実施例0100】
<蓄電デバイスの作製>
本発明の電解質または添加剤を含有する電解液を評価するための蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池を、以下のように作製した。
【0101】
(正極の作製)
結着剤であるポリフッ化ビニリデンと、導電剤であるアセチレンブラックと、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物粉末である正極活物質(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)とを、下記比率で混合してなる正極合材に、N-メチルピロリドンを加えてペーストを調製した。
ポリフッ化ビニリデン 2.0g
アセチレンブラック 2.5g
正極活物質 95.5g
そして、得られたペーストを厚さ18μmのアルミニウム箔集電体両面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後に、ロールプレスで圧延して、正極を得た。
【0102】
(負極の作製)
下記を混合して、分散媒に水を用いてスラリーを調製した。
人造黒鉛化性炭素粉末 95.8g
スチレンブタジエンゴム(SBR) 2.0g
カルボキシメチルセルロース 2.2g
上記で得たスラリーを、厚さ12μmの銅箔の両面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延することによって負極を得た。
【0103】
(電池セルの作製)
上記で得た正極と負極とが厚み23μmのセパレータ(東レバッテリセパレータフィルム社製F23DHA)を介して巻回された扁平巻状電極群を作製して、ケース(縦50mm×横40mm×厚さ2.0mmの直方体形状)に収納して、電池セルを作製した。
【0104】
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製した電池セルを用い、以下の手順でリチウムイオン二次電池(ラミネート電池)を作製した。
1)電解液1.0gを電池セルの注液口に注液し、減圧した後、注液口を封口した。
2)封口した電池セルを25℃雰囲気下に保った状態で、4.2Vまで20mAで充電した後、3.0Vまで20mAで放電した。
3)電池セルの内部ガスを減圧除去し、電池を得た。
【0105】
<各種評価方法>
【0106】
[初回充放電効率]
上記で作製した注液・封口済み電池セルを、25℃雰囲気下で、20mAの電流を流して、0Vの電圧が4.2Vになるまで充電した。
そして、電圧を4.2Vに保ったままで、電流値が4mAになるまで充電を続け、この電流値が4mAになるまでに消費された電流値の合計値を初回充電容量値とした。
続いて、上記充電状態の蓄電デバイスを、25℃雰囲気下で、20mAの電流を流して、3.0Vになるまで放電し、3.0Vになるまでに消費された電流値の合計値を初回放電容量値とした。
そして、下記式から初回充放電効率(%)を算出した。
初回充放電効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量値)×100
【0107】
[-10℃抵抗値]
上記で作製したリチウムイオン二次電池を、25℃雰囲気下で、SOC(State of Charge)50%まで充電し、-10℃雰囲気下で、0.2Cレートで10秒間放電し、10秒間放電後の電圧を測定して、直流抵抗値を求めた。
そして、同様の手順で、-10℃雰囲気下で、0.5C、1.0C、2.0Cレートで10秒間放電後の電圧を測定して、直流抵抗値を算出した。
【0108】
[体積変化率]
上記で作製したリチウムイオン二次電池について、25℃雰囲気下で未充電状態のリチウムイオン二次電池の体積値を測定して、初期体積値とした。
次いで、0.2Cレートで4.2Vまで充電して、充電状態のまま、60℃雰囲気下で4週間放置した。
そして、25℃雰囲気下で0.2Cレートで3.0Vまで放電して、リチウムイオン二次電池の体積値を測定して、高温貯蔵後体積値とした。
そして、下記式から体積変化率(%)を算出した。
体積変化率(%)=(高温貯蔵後体積値/初期体積値)×100
【0109】
[容量維持率]
上記で作製したリチウムイオン二次電池について、45℃雰囲気下で、1Cレートで4.2Vまで充電した後、同雰囲気下で、1Cレートで3.0Vまで放電し、これを1サイクル目として、その放電容量値を初期容量値とした。
次いで、同条件で、充放電を200サイクル繰り返して、200サイクル目の放電容量値をサイクル後容量値とした。
そして、下記式から容量維持率(%)を算出した。
容量維持率(%)=(サイクル後容量値/初期容量値)×100
【0110】
[抵抗変化率]
上記で作製したリチウムイオン二次電池について、25℃雰囲気下で、SOC(State of Charge)50%まで充電し、0.2C、0.5C、1.0C、2.0Cレートで10秒間放電して、直流抵抗値を測定して、初期抵抗値とした。
次いで、45℃雰囲気下で、1Cレートで4.2Vまで充電した後、同雰囲気下で、1Cレートで3.0Vまで放電し、これを1サイクルとして200サイクル繰り返した後に、直流抵抗値を測定して、サイクル後抵抗値とした。
そして、下記式から抵抗変化率を算出した。
抵抗変化率(%)=(サイクル後抵抗値/初期抵抗値)×100
【0111】
<<実験1:錯体化合物(A)の合成>>
<錯体化合物(A)の合成1>
[実施例1]
燐系塩(C)として、75gのジメチルホスフィン酸リチウムを、窒素雰囲気下で、三角フラスコ内の200mlのメタノールに溶解し、冷却して、ジメチルホスフィン酸リチウム/メタノール溶液を得た。
一方で、ハロゲン化ホウ素化合物(B)として、51gのBF
3を48gのメタノールに溶解させて(モル比BF
3/メタノール=1/2)、BF
3/メタノール錯体溶液99gを調製した。
そして、上記で調製したジメチルホスフィン酸リチウム/メタノール溶液に対して、冷却及び攪拌しながら、上記で調製したBF
3/メタノール錯体溶液を滴下し、滴下終了後は25℃に保ちながら3時間攪拌して、反応液を得た。
次に、エバポレータを用いて、上記で得た反応液からメタノールを除去し、ジブチルエーテルを用いて3回洗浄し、減圧乾燥して、下記式(3)で表される錯体化合物(A1)(ジメチルホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩)を115g得た。
【化13】
【0112】
[実施例2~4]
燐系塩(C)およびハロゲン化ホウ素化合物(B)を、表1に記載された化合物及び質量に変更し、表1に記載された反応条件で、実施例1と同様に操作して、下記式(4)で表される錯体化合物(A2)(ホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素)を98g、下記式(5)で表される錯体化合物(A3)(ビニルホスフォン酸リチウム・ビス(三フッ化ホウ素))を86g、下記式(6)で表される錯体化合物(A4)(一チオりん酸リチウム・トリス(三フッ化ホウ素))を75g得た。
【化14】
【0113】
[実施例5]
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、9.4gの四フッ化ホウ酸リチウムを、窒素雰囲気下で、三角フラスコ内の100mlの炭酸エチルメチルに溶解し、冷却して、四フッ化ホウ酸リチウム/炭酸エチルメチル溶液を得た。
次に、燐系化合物(F)として、25.2gのビニルホスフォン酸ビス(トリメチルシリル)を、上記で得た四フッ化ホウ酸リチウム/炭酸エチルメチル溶液に、攪拌しながら加え、80℃を保ちながら3時間攪拌した。
次に、エバポレータで炭酸エチルメチルを除去し、ジブチルエーテルを用いて3回洗浄し、減圧乾燥して、下記式(7)で表される錯体化合物(A5)(ビニルホスフォン酸(トリメチルシリル)リチウム・三フッ化ホウ素)を22g得た。
【化15】
【0114】
[実施例6、7、8]
表1に記載されたハロゲン化ホウ素系塩(E)、燐系化合物(F)を表1に記載された化合物及び質量に変更し、表1に記載された質量、反応条件で、実施例5と同様に操作して、下記式(8)で表される錯体化合物(A6)(りん酸ビス(トリメチルシリル)リチウム・三フッ化ホウ素)を28g、下記式(9)で表される錯体化合物(A7)(一チオりん酸(トリメチルシリル)リチウム・ビス(三フッ化ホウ素))を15g、下記式(10)で表される錯体化合物(A8)(二りん酸リチウム・ビス(三フッ化ホウ素))を43g得た。
【化16】
【0115】
【0116】
<錯体化合物(A)の合成2>
下記の様に、各種錯体化合物(A)を合成して評価した。
[実施例9]
(工程1)
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、16.8gのジメチルホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素錯体塩を、窒素雰囲気下で、三角フラスコ内の100mlの炭酸エチルメチルに溶解した。
そして、溶液を攪拌しながら、燐系化合物(F)として、31.4gの燐酸トリス(トリメチルシリル)を添加し、攪拌しながら60℃に2時間保持して、反応液を得た。
【0117】
(工程2)
一方で、ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、18.8gの四フッ化ホウ酸リチウムを100mlの炭酸エチルメチルに溶解し、これを、工程1で得た反応液に添加して。攪拌しながら80℃に2時間保持して反応液を得た。
【0118】
(濃縮)
次に、エバポレータで炭酸エチルメチルを除去し、ジブチルエーテルを用いて3回洗浄し、減圧乾燥して、下記式(11)で表される錯体化合物(A9)(りん酸リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)/ジメチルホスフィン酸リチウム・三フッ化ホウ素縮合塩)を35g得た。
製造諸元を下記の表3に示す。
【化17】
【0119】
[実施例10]
(工程1)
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、9.4gの四フッ化ホウ酸リチウムを、窒素雰囲気下で、三角フラスコ内の100mlの炭酸エチルメチルに溶解した。
そして、溶液を攪拌しながら、燐系化合物(F)として、62.8gの燐酸トリス(トリメチルシリル)を添加し、攪拌しながら80℃に3時間保持し、次いで25℃まで冷却して、反応液を得た。
【0120】
(工程2)
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、18.8gの四フッ化ホウ酸リチウムを100mlの炭酸エチルメチルに溶解し、得られた溶液を、工程1で得た反応液に添加して。攪拌しながら80℃に2時間保持して反応液を得た。
【0121】
(濃縮)
次に、エバポレータで炭酸エチルメチルの一部を除去し、下記式(12)で表される錯体化合物(A10)(りん酸(トリメチルシリル)リチウム・三フッ化ホウ素縮合塩)の30質量%炭酸エチルメチル溶液を得た。収量は175g。
【化18】
【0122】
[実施例11]
工程1で、表2に記載された質量のハロゲン化ホウ素系塩(E)を用いて、工程2で、ハロゲン化ホウ素系塩(E)の代わりに、表2に記載された燐系化合物(F)を用いた以外は、実施例9と同様に操作して、下記式(13)で表される錯体化合物(A11)(りん酸リチウム・トリス(三フッ化ホウ素)/りん酸ビス(トリメチルシリル)縮合塩)の30質量%炭酸エチルメチル溶液を得た。収量は220g。
【化19】
【0123】
[実施例12]
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、18.8gの四フッ化ホウ酸リチウムを、窒素雰
囲気下で、三角フラスコ内の100mlの炭酸エチルメチルに溶解した。
そして、溶液を攪拌しながら、燐系化合物(F)として、31.4gの燐酸トリス(トリメチルシリル)を添加し、攪拌しながら50℃に1時間保持して、反応液を得た。
【0124】
(工程2)
一方で、ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、16.6gの酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩を100mlの炭酸エチルメチルに溶解し、これを、工程1で得た反応液に、常圧で少量ずつ添加して減圧して反応させることを数回繰り返して、全量を添加して減圧反応させた。次いで50℃に保ちながら2時間攪拌し、さらに80℃に保ちながら3時間攪拌して、反応液を得た。
【0125】
(濃縮)
次に、エバポレータで炭酸エチルメチルを除去し、ジブチルエーテルを用いて3回洗浄し、減圧乾燥して、下記式(14)で表される錯体化合物(A12)(りん酸(リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)/酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)縮合塩)を38g得た。
【化20】
【0126】
[実施例13]
工程1で、表2に記載の質量の四フッ化ホウ酸リチウムを用いて、工程2で、燐系化合物(F)の代わりに、ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、表2に記載の質量の酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)塩を用いたこと以外は、実施例11と同様に操作して、下記式(15)で表される錯体化合物(A13)(りん酸リチウム・三フッ化ホウ素/酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)縮合塩)を38g得た。
【化21】
【0127】
【表2】
[実施例14]
ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、25.6gの錯体化合物3[ビニルホスフォン酸リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)]を、窒素雰囲気下で、三角フラスコ内の100mlの炭酸エチルメチルに溶解した。
そして、溶液を攪拌しながら、燐系化合物(F)として、31.4gの燐酸トリス(トリメチルシリル)を添加し、攪拌しながら80℃に2時間保持して、反応液を得た。
(工程2)
一方で、ハロゲン化ホウ素系塩(E)として、9.4gの四フッ化ホウ酸リチウムを100mlの炭酸エチルメチルに溶解し、これを、工程1で得た反応液に、少量ずつ添加して減圧反応させた。続いて50℃に保ちながら2時間攪拌し、さらに80℃に保ちながら3時間攪拌して、反応液を得た。
(濃縮)
次に、エバポレータで炭酸エチルメチルを除去し、ジブチルエーテルを用いて3回洗浄し、減圧乾燥して、下記式(16)で表される錯体化合物(A14)(りん酸リチウム・三フッ化ホウ素/ビニルホスフォン酸化リチウム・ビス(三フッ化ホウ素)縮合塩)を35g得た。
【化22】
【0128】
<<実験2:錯体化合物(A)の電解質としての評価>>
<他の電解質非併用系>
[実施例15]
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比=30:70)と、上記で得た錯体化合物(A1)とを、錯体化合物(A1)由来のリチウムカチオン濃度が1.5モル/リットルになるように、下記質量比で混合して均一に溶解して、電解液を調製した。
錯体化合物(A1) 20.8質量部
混合溶媒 79.2質量部
得られた電解液の体積は0.0825Lであったことから、電解液中の電解質(錯体化合物(A1))の質量濃度は、下記の様に算出される。
質量濃度:20.8/0.0825=252g/L
また、錯体化合物(A1)は下記式(3)で表され、分子量は167.8であり、1分子から発生するリチウムカチオンは1個であるから、電解液中の、錯体化合物(A1)由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
錯体化合物(A1)由来のリチウムカチオンのモル濃度:(20.8/167.8×1)/0.0825=1.5モル/L
【化23】
【0129】
(蓄電デバイス作製と評価)
上記で得た電解液を用いて、上記のリチウムイオン二次電池を作製し、初回充放電効率と-10℃抵抗値とを評価した。
製造諸元及び評価結果を下記の表3に示す。
【0130】
[実施例16~19、比較例1]
錯体化合物(A1)を、表3に記載の錯体化合物及び質量部に変更したこと以外は、実施例15と同様に操作して、同様に評価した。
【0131】
【0132】
<他の電解質併用系>
[実施例20]
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比=30:70)と、上記で得た錯体化合物(A3)と、LiPF
6とを、錯体化合物(A3)由来のリチウムカチオン濃度が0.75モル/リットルになるように、LiPF
6由来のリチウムカチオン濃度が0.75モル/リットルになるように、下記質量比で混合して均一に溶解して、電解液を調製した。
錯体化合物(A3) 10.4質量部
LiPF
6 9.4質量部
混合溶媒 80.2質量部
得られた電解液の体積は0.0825Lであったことから、電解液中の各電解質の質量濃度は、下記の様に算出される。
錯体化合物(A3)の質量濃度:10.4/0.0825=126g/L
LiPF
6の質量濃度:9.4/0.0825=114g/L
また、錯体化合物(A3)は下記式(5)で表され、分子量は336であり、1分子から発生するリチウムカチオンは2個であるから、電解液中の、錯体化合物(A3)由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
錯体化合物(A3)由来のリチウムカチオンのモル濃度:(10.4/336×2)/0.0825=0.75モル/L
【化24】
同様に、LiPF
6の分子量は152であり、1分子から発生するリチウムカチオンは1個であるから、電解液中の、LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度:(9.4/152×1)/0.0825=0.75モル/L
【0133】
(蓄電デバイス作製と評価)
上記で得た電解液を用いて、上記のリチウムイオン二次電池を作製し、初期及び80℃10時間保管後の、初回充放電効率と-10℃抵抗値とを評価した。
製造諸元及び評価結果を下記の表4に示す。
【0134】
[実施例21~24、比較例2]
錯体化合物(A3)を、表4に記載の錯体化合物および質量部に変更したこと以外は、実施例20と同様に操作して、同様に評価した。
【0135】
【0136】
<<実験3:錯体化合物(A)の強化剤としての評価>>
<他の強化剤非併用系>
[実施例25]
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒(体積比=30:68:2)と、電解質としてLiPF
6と、強化剤としての錯体化合物(A2)を、下記割合で混合、溶解させて、電解液を調製した。
混合溶媒 87.4質量部
LiPF
6 12.5質量部
錯体化合物(A2) 0.1質量部
得られた電解液の体積は0.0827Lであったことから、電解液中の各電解質の質量濃度は、下記の様に算出される。
LiPF
6の質量濃度:12.5/0.0827=149g/L
錯体化合物(A2)の質量濃度:0.1/0.0827=1.2g/L
また、錯体化合物(A2)は下記式(4)で表され、分子量は140であり、1分子から発生するリチウムカチオンは1個であるから、電解液中の、錯体化合物(A2)由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
錯体化合物(A2)由来のリチウムカチオンのモル濃度:(0.1/140)×1/0.0827=0.01モル/L
【化25】
同様に、LiPF
6の分子量は152であり、1分子から発生するリチウムカチオンは1個であるから、電解液中の、LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度:(12.5/152)×1/0.0827=1.0モル/L
【0137】
(蓄電デバイス作製と評価)
上記で得た電解液を用いて、上記のリチウムイオン二次電池を作製したのちに、25℃雰囲気下で未充電状態のリチウムイオン二次電池の体積値を測定して、初期体積値とした。
次いで、0.2Cレートで4.2Vまで充電して、充電状態のまま、60℃雰囲気下で4週間放置した。そして、25℃雰囲気下で0.2Cレートで3.0Vまで放電して、同じく、25℃雰囲気下でリチウムイオン二次電池の体積値を測定して、高温貯蔵後体積値とした。
そして、体積変化率、容量維持率、抵抗変化率を評価した。
製造諸元及び評価結果を下記の表5に示す。
【0138】
[実施例26~37、比較例3]
LiPF6の質量部、及び強化剤としての錯体化合物(A)の種類と質量部を表5、6に記載したとおりに変更したこと以外は、実施例25と同様に操作して、同様に評価した。
【0139】
【0140】
【0141】
<他の強化剤併用系>
[実施例38]
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒(体積比=30:69:1)と、電解質としてLiPF
6と、強化剤としての錯体化合物(A9)および1,3-プロパンスルトンを、下記割合で混合、溶解させて、電解液を調製した。
混合溶媒 85.7質量部
LiPF
6 12.3質量部
錯体化合物(A9) 1.0質量部
1,3-プロパンスルトン 1.0質量部
得られた電解液の体積は0.0827Lであったことから、電解液中の各電解質の質量濃度は、下記の様に算出される。
LiPF
6の質量濃度:12.3/0.0827=149g/L
錯体化合物(A9)の質量濃度:1.0/0.0827=12.1g/L
また、錯体化合物(A9)は下記式(11)で表され、分子量は410であり、1分子から発生するリチウムカチオンは3個であるから、電解液中の、錯体化合物(A9)由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
錯体化合物(A9)由来のリチウムカチオンのモル濃度:(1/410)×3/0.0827=0.09モル/L
【化26】
同様に、LiPF
6の分子量は152であり、1分子から発生するリチウムカチオンは1個であるから、電解液中の、LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度は、下記の様に算出される。
LiPF
6由来のリチウムカチオンのモル濃度:(12.3/152×1)/0.827=0.98モル/L
【0142】
(蓄電デバイス作製及び評価)
上記で得た電解液を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、25℃雰囲気下で初期抵抗値を測定した。
そして、45℃雰囲気下で、先ず、1Cレートで4.2Vまで充電し、次いで1Cレートで3.0Vまで放電して放電容量を測定して、この1回目の放電容量を初期容量とした。
続いて、同様に3.0V及び4.2V間で充放電を200回繰り返して放電容量を測定し、200サイクル後の容量維持率を算出した。
そして、25℃雰囲気下で抵抗値を測定して、200サイクル後の抵抗変化率を算出した。
製造諸元及び評価結果を下記の表7に示す。
【0143】
[実施例39~41、比較例4]
強化剤を表7に記載の化合物および質量部に変更したこと以外は、実施例38と同様に操作して、同様に評価した。
【0144】
【0145】
<結果まとめ>
実施例で用いられた本発明の電解質、強化剤、電解液、およびこれらを用いて作製された蓄電デバイスは、優れた有機溶媒(非水溶媒)への溶解性、充放電効率、-10℃抵抗値、サイクル特性(体積変化率、容量維持率、抵抗変化率)、高温特性のバランスを示した。
これに対して、比較例は、優れた有機溶媒(非水溶媒)への溶解性、充放電効率、-10℃抵抗値、サイクル特性(体積変化率、容量維持率、抵抗変化率)、高温特性の何れかが劣った結果を示した。