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特開2024-158196点検経路設定システム及び点検経路設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158196
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】点検経路設定システム及び点検経路設定方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241031BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073184
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴大
(72)【発明者】
【氏名】長谷島 範安
(72)【発明者】
【氏名】小谷 匡士
(72)【発明者】
【氏名】室谷 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇弘
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB10
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG08
5H301GG12
5H301GG14
5H301GG17
5H301MM04
5H301MM09
5H301MM10
(57)【要約】
【課題】設備の点検経路における自己位置推定精度の低下領域の情報を適切に検出できるようにする。
【解決手段】本発明の一態様に係る点検経路設定システム1は、予め設定された設備の点検経路を移動体が走行した場合における、移動体10に設けられた外界センサ12による観測値の情報に基づいて、点検経路を含む3次元点群地図における自己位置を推定する自己位置推定部13と、自己位置推定部13による自己位置推定結果の信頼度が所定の閾値以下であり、かつ、自己位置推定結果の分散値が所定の閾値以上となる領域を、自己位置推定精度が不安定となる不安定領域として特定する不安定原因特定部21と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された設備の点検経路を移動体が走行した場合における、前記移動体に設けられたセンサによる観測値の情報に基づいて、前記点検経路を含む3次元地図における自己位置を推定する自己位置推定部と、
前記自己位置推定部による自己位置推定が成功している確率の高さを示す信頼度が所定の閾値以下であり、かつ、前記自己位置の推定結果の分散値が所定の閾値以上となる領域を、自己位置推定精度が不安定となる不安定領域として特定する不安定領域特定部と、を備える
点検経路設定システム。
【請求項2】
前記自己位置推定部が推定した前記自己位置に基づいて生成した成否判定用データを入力とした学習モデルを用いて、前記自己位置の推定の成功又は失敗を判定する自己位置推定成否判定部と、
前記自己位置推定成否判定部による判定結果に基づいて、前記自己位置の推定結果の信頼度を算出するとともに、前記自己位置の推定結果の分散値を算出する信頼度推定部と、をさらに備える
請求項1に記載の点検経路設定システム。
【請求項3】
前記不安定領域特定部は、前記不安定領域において取得された前記センサによる観測値と、前記観測値の前記3次元地図における対応位置との差分を抽出した場合、前記差分が検出された領域における前記自己位置推定の誤差の要因を、前記移動体の走行環境の変化と判定する
請求項2に記載の点検経路設定システム。
【請求項4】
前記不安定領域特定部によって特定された前記不安定領域の情報を出力する不安定領域情報出力部をさらに備え、
前記不安定領域情報出力部は、前記誤差の要因が前記移動体の走行環境の変化である場合、前記点検経路を含む3次元地図の情報の更新を促す通知を行う
請求項3に記載の点検経路設定システム。
【請求項5】
前記不安定領域特定部は、前記不安定領域及びその周囲の領域における高さ情報を取得し、前記不安定領域における高さとその周囲の領域における高さとの間に差分が検出された場合、前記差分が検出された領域における前記自己位置推定の不安定化の要因を、前記移動体の段差乗り越え、又は、前記点検経路の傾斜と判定する
請求項2に記載の点検経路設定システム。
【請求項6】
前記不安定領域特定部によって検出された前記不安定領域と、前記不安定領域より前記移動体の進行方向において先の地点にある点検動作の実行地点との間の区間において、前記移動体に、自己位置推定精度復帰用の動作を実行させる自己位置復帰動作追加部をさらに備える
請求項3又は5に記載の点検経路設定システム。
【請求項7】
前記3次元地図をボクセル単位に分割した各分割領域において、複数の異なる進入方向から前記移動体が前記分割領域に進入する場合における、前記移動体の前記分割領域の走破性を判定し、判定した前記走破性の情報に基づいて、前記点検経路の補正候補を生成する点検経路補正部をさらに備える
請求項3又は5に記載の点検経路設定システム。
【請求項8】
予め設定された設備の点検経路を移動体が走行した場合における、前記移動体に設けられたセンサによる観測値の情報に基づいて、前記点検経路を含む3次元地図における自己位置を推定する手順と、
前記自己位置の推定が成功している確率の高さを示す信頼度が所定の閾値以下であり、かつ、前記自己位置の推定結果の分散値が所定の閾値以上となる領域を、自己位置推定精度が不安定となる不安定領域として特定する手順と、を含む
点検経路設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点検経路設定システム及び点検経路設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット等の移動体を用いた設備の点検が行われている。移動体が設備点検を行う場合に移動体が走行する経路(以下、「点検経路」とも称する)は、例えば、予め設計された経路を移動体が実際に走行させ、移動体に設けられたセンサによる取得情報等を用いて、ユーザが端末装置等で生成することが一般的である。
【0003】
しかし、点検経路においては、設備の配置位置や点検経路路面の状況等によって、移動体による自己位置推定精度が低下してしまう領域が存在することがある。このような領域を回避可能な点検経路を設定するためには、自己位置推定精度が低下する領域に関する情報が把握される必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、自己位置の推定共分散行列のトレース等によって取得した、車両により推定される自己位置に加わるノイズと、車両の周囲にある移動体の数と、の相関性の情報に基づいて、車両の自動運転の制御における不安定要素を検出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/203022号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、自己位置推定結果の妥当性が確認されないため、例えば、自己位置の推定結果が局所最適解に陥っている場合にも、その推定結果がそのまま使用されてしまう。精度の低い自己推定位置の情報が用いられた場合、移動体による設備の点検動作が適切に実行できない可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の状況を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、設備の点検経路における自己位置推定精度の低下領域の情報を適切に検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る点検経路設定システムは、予め設定された設備の点検経路を移動体が走行した場合における、移動体に設けられたセンサによる観測値の情報に基づいて、点検経路を含む3次元地図における自己位置を推定する自己位置推定部と、自己位置推定部による自己位置の推定結果の信頼度が所定の閾値以下であり、かつ、自己位置の推定結果の分散値が所定の閾値以上となる領域を、自己位置推定精度が不安定となる不安定領域として特定する不安定領域特定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一態様によれば、設備の点検経路における自己位置推定精度の低下領域の情報を適切に検出できるようになる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係る点検経路設定システムの概略構成例を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る点検経路設定システムを構成する各装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る点群地図情報を構成する3次元点群地図の概要を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る3次元点群地図内における点検経路の形成例を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る点検経路に設定される点検経路情報の例を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る3次元点群地図と、移動体の位置姿勢と、移動体の外界センサによる観測値との対応例を示す図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る目標の点検経路と、移動体が実際に位置している場所との距離、及び、該距離の総和のイメージを示す図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る不安定原因特定部による高さ情報付与対象の位置を含む環境の例を示す図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る環境変化が生じている場合における3次元点群地図及びセンサ観測値の例を示す図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る評価結果情報の表示例を示す図である。
図11】本発明の第1の実施形態に係る移動体による自己位置推定結果の信頼度情報算出処理の手順の例を示すフローチャートである。
図12】本発明の第1の実施形態に係る不安定原因特定部による処理の手順の例を示すフローチャートである。
図13】本発明の第1の実施形態に係る不安定原因特定部による不安定原因特定処理の手順の例を示すフローチャートである。
図14】本発明の第2の実施形態に係る点検経路設定システムの概略構成例を示す図である。
図15】本発明の第2の実施形態に係る自己位置復帰動作追加部による自己位置復帰動作追加処理の手順の例を示すフローチャートである。
図16】本発明の第2の実施形態に係る自己位置復帰動作追加部による自己位置復帰動作の追加例を示す図である。
図17】本発明の第3の実施形態に係る点検経路設定システムの概略構成例を示す図である。
図18】本発明の第3の実施形態に係る点検経路補正部による点検経路補正処理の手順の例を示すフローチャートである。
図19】本発明の第3の実施形態に係る走破性判定の対象となるボクセルの例を示す図である。
図20】本発明の第3の実施形態に係る点検経路補正部による点検経路補正候補の生成例を示す図である。
図21】本発明の第3の実施形態に係る点検経路補正候補のユーザへの提示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する)の例について、添付図面を参照しながら説明する。本発明は実施形態に限定されるものではなく、実施形態における種々の数値等は例示である。また、本明細書及び図面において、同一の構成要素又は実質的に同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付することとし、重複する説明は省略する。
【0012】
1.第1の実施形態
<点検経路設定システムの概略構成>
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る点検経路設定システムの構成について説明する。図1は、点検経路設定システム1の概略構成例を示す図である。
【0013】
図1に示すように、点検経路設定システム1は、自律移動型のロボット等により構成される移動体10と、PC(Personal Computer)等により構成される端末装置20と、を備える。端末装置20は、点群地図情報30、点検経路情報50及び移動体10から送信される各情報に基づいて、移動体10による自己位置推定精度が低下する原因である不安定原因を特定し、特定した不安定原因を、表示装置等を介してユーザに提示する。
【0014】
移動体10及び端末装置20間は、有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続される。もしくは、移動体10から端末装置20への情報の伝送は、不図示のUSB(Universal Serial Bus)メモリ等を介して行われてもよい。
【0015】
移動体10は、内界センサ11と、外界センサ12と、自己位置推定部13と、走行点検動作制御部14と、自己位置推定成否判定部15と、信頼度推定部16と、を含む。
【0016】
内界センサ11は、移動体10の不図示の車輪の回転速度及び不図示のモータの回転数等の情報に基づいて、移動体10の移動量又は移動速度、移動方向、旋回速度等を取得するセンサであり、例えば、IMU(Inertial Measurement Unit)又はホイールエンコーダ等により構成される。内界センサ11は、取得した移動速度や旋回速度などの情報を、自己位置推定部13に出力する。
【0017】
外界センサ12は、LiDAR(Light Detection And Ranging)等よりなる、3次元点群情報を取得可能なセンサである。内界センサ11による検出値、外界センサ12による観測値(3次元点群情報)は、所定のデータ取得周期に従って取得される。
【0018】
自己位置推定部13は、点群地図情報30、内界センサ11による検出値、及び、外界センサ12による観測値に基づいて、移動体10の自己位置及び姿勢(以下、単に「自己位置」とも称する)を推定する。自己位置推定部13は、自己位置推定結果を、走行点検動作制御部14、自己位置推定成否判定部15及び信頼度推定部16に出力する。
【0019】
点群地図情報30は、移動体10が設備を点検するために走行する点検経路及びその周囲の領域の情報が記された3次元地図である。点群地図情報30については、後述の図3を参照して詳述する。
【0020】
走行点検動作制御部14は、外界センサ12による観測値、不図示の制御装置から入力される制御値40、点検経路情報50、自己位置推定部13によって推定された自己位置等の情報に基づいて、点検経路を走行し、点検経路上にある設備の点検動作を行う。点検経路情報50は、点検経路を構成する各ノードN及び各ノードN間をつなぐエッジE(図4参照)の情報を有する。また、点検経路情報50は、移動体10が点検を実施すべき位置(ノード)及び点検動作等の情報を含む。点検経路情報50については、後述の図4及び図5を参照して詳述する。
【0021】
自己位置推定成否判定部15は、自己位置推定部13から入力される移動体10の自己位置推定結果、点群地図情報30及び外界センサ12による観測値の各情報に基づいて、成否判定用データを生成し、該成否判定用データに基づいて、自己位置推定の成否を判定する。自己位置推定成否判定部15は、自己位置推定成否の判定結果を信頼度推定部16に出力する。自己位置推定成否判定部15による処理の詳細については、後述の図6を参照して詳述する。
【0022】
信頼度推定部16は、自己位置推定部13により推定された移動体10の自己位置、自己位置推定成否判定部15による自己位置推定成否の判定結果に基づいて、自己位置推定部13による自己位置推定結果の信頼度を計算する。信頼度は、自己位置推定が成功している確率の高さを示すものである。信頼度推定部16による信頼度算出処理については後述する。
【0023】
また、信頼度推定部16は、自己位置推定部13による自己位置推定結果の確信度を算出する。確信度は、自己位置推定結果の分散値(共分散値)が所定の閾値範囲内に収まっているか否かを示す情報である。例えば、信頼度推定部16は、x、y方向及び方位における自己位置推定結果の誤差の分散値σが0.2以上である場合には、確信度は低いと判定し、0.2未満である場合には、確信度は高いと判定する。
【0024】
自己位置の確信度の値が低く、かつ、信頼度が低い場合、自己位置推定結果が正しくない位置に収束している(局所最適解に陥っている)と判断できると考えられる。つまり、信頼度及び確信度が両方とも閾値を下回っている場合、信頼度推定部16は、それらの値が算出された位置における自己位置の推定精度は低いと判定する。したがって、本実施形態によれば、自己位置推定の精度が想定する範囲内に収まっていることが保証される。なお、確信度判定用の閾値の値は一例であり、適切な値を設定可能である。
【0025】
信頼度推定部16によって計算された自己位置推定結果の信頼度・確信度(以下、単に「信頼度」とも称する)の情報は、自己位置推定部13による自己位置推定結果、及び、外界センサ12による観測値と紐づけられて、端末装置20の不安定原因特定部21に出力される。
【0026】
端末装置20の不安定原因特定部21(不安定領域特定部の一例)は、移動体10の自己位置推定結果の信頼度が低かった、すなわち、自己位置推定部13による自己位置の推定が不安定となった領域を抽出する。そして、不安定原因特定部21は、抽出した領域において自己推定精度が不安定となった原因、主に、地形情報に起因する原因を特定する。不安定原因特定部21による不安定原因の特定は、自己位置推定部13による自己位置推定結果、信頼度推定部16によって計算された自己位置推定結果の信頼度、及び、外界センサ12による観測値、点検経路情報50の各情報に基づいて行われる。不安定原因特定部21は、特定した不安定原因、及び、不安定原因の特定に用いた各種情報を、評価結果描画部22に出力する。不安定原因特定部21による処理の詳細については、後述の図8及び図9を参照して詳述する。
【0027】
評価結果描画部22(不安定領域情報出力部の一例)は、不安定原因特定部21から入力された各種情報を、評価結果情報としてユーザに提示する。評価結果描画部22がユーザに提示する評価結果情報には、点検経路情報50、移動体10が実際に走行した位置、自己位置推定結果の信頼度及び確信度、信頼度又は確信度が低下した原因、自己位置推定が不安定になった領域の情報等が含まれる。評価結果情報の表示例については、後述の図10を参照して詳述する。
【0028】
<計算機のハードウェア構成例>
次に、図1に示した点検経路設定システム1を構成する各装置の制御系の構成(ハードウェア構成)について、図2を参照して説明する。
【0029】
図2は、点検経路設定システム1を構成する各装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。図2に示す計算機200は、いわゆるコンピュータとして用いられるハードウェアである。
【0030】
計算機200は、バスBにそれぞれ接続された制御部210と、不揮発性ストレージ220と、表示部230と、操作入力部240と、通信I/F(Interface)250と、を備える。
【0031】
制御部210は、CPU(Central Processing Unit)211と、ROM(Read Only Memory)212と、RAM(Random Access Memory)213と、を備える。
【0032】
CPU211は、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM212から読み出してRAM213に展開して実行する。RAM213には、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。
【0033】
なお、制御部210は、CPU211の代わりに、MPU(Micro-Processing Unit)等の処理装置を備えてもよい。また制御部210は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成されてもよい。
【0034】
移動体10の自己位置推定部13、走行点検動作制御部14、自己位置推定成否判定部15、信頼度推定部16の各機能、及び、端末装置20の不安定原因特定部21、評価結果描画部22の各機能は、CPU211がROM212から該当するプログラムコードを読み出してRAM213に展開して実行することにより実現される。
【0035】
不揮発性ストレージ220としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。この不揮発性ストレージ220には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、計算機200を機能させるためのプログラム等が記録される。なお、プログラムは、ROM212に格納されてもよい
【0036】
表示部230は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等で構成されるモニタであり、計算機200で行われる処理の結果や、評価結果描画部22によって生成された評価結果情報等を表示する。
【0037】
操作入力部240は、例えば、キーボード、マウス、タッチセンサ等によって構成され、ユーザによる操作に応じた操作信号を生成してCPU211に供給する。
なお、表示部230と操作入力部240とは、タッチパネルとして一体に構成されてもよい。
【0038】
プログラムは、コンピュータが読取り可能なプログラムコードの形態で格納され、CPU211は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。つまり、ROM212又は不揮発性ストレージ220は、コンピュータによって実行されるプログラムを格納した、コンピュータ読取可能な非一過性の記録媒体の一例として用いられる。
【0039】
通信I/F250には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、ネットワーク又は通信線を介して外部装置との間で各種のデータを送受信することが可能である。
【0040】
<点群地図情報>
次に、図3を参照して、点群地図情報30について説明する。図3は、点群地図情報30を構成する3次元点群地図(3次元地図の一例)の概要を示す図である。図3Aは、移動体10が実際に走行する環境(領域)を模式的に示した図であり、図3Bは、図3Aに示される環境の外界センサ12による観測値に基づいて生成された3次元点群地図101を指す。
【0041】
図2Aに示す領域100を計測して3次元点群地図が生成される場合、図2Bに示すように、領域100において各物体が存在する位置と対応する位置に、物体と同じ大きさ及び形状の破線で示す物体が生成される。破線で示す物体は、図中の右端に示す物体中に図示したように、点102の集合体として構成される。
【0042】
また、3次元点群地図は、3次元空間における任意の位置、例えば、3次元点群情報の収集を開始した位置を原点Oとする座標系103によって表現される。そして、この座標系103を基準として、外界センサ12によって観測された領域100における物体が、3次元点群地図内に配置される。なお、3次元点群地図は、点検経路を含む領域の3DCAD(Computer Aided Design)図面等に基づいて生成されてもよい。
【0043】
<点検経路情報>
次に、図4及び図5を参照して、点検経路情報50の構成について説明する。図4は、3次元点群地図内における点検経路Rの形成例を示す図であり、図5は、点検経路Rに設定される点検経路情報の例を示す図である。
【0044】
図4に示すように、点検経路Rは、ノードN及びエッジEにより構成される有向グラフによって示される。点検経路Rを構成するノードN及びエッジEには、それぞれ、図5に示す点検経路情報51及び点検経路情報52が設定される。すなわち、点検経路情報は、ノードNに設定される点検経路情報51と、エッジEに設定される点検経路情報52とで構成される。
【0045】
図5Aに示すように、ノードNに設定される点検経路情報51は、「ノードID」、「座標」及び「接続エッジリスト」の各項目を有する。「ノードID」の項目には、ノードを一意に識別可能なIDが格納される。「座標」の項目には、3次元点群地図の座標系によって表現されるノードNの座標が格納される。「動作ID」の項目には、点検対象の設備の撮影などの点検動作、狭路への進入動作等の特定動作に割り振られたIDが格納される。「接続エッジリスト」の項目には、そのノードNに接続されているエッジEの識別IDが格納される。
【0046】
図5Bに示すように、エッジEに設定される点検経路情報52は、「エッジID」、「始点ノードID」、「終点ノードID」、「距離」、「速度」、「道幅」、「中継点」及び「不安定原因」の各項目を有する。
【0047】
「エッジID」の項目には、エッジEを一意に識別可能なIDが格納される、「始点ノードID」の項目には、エッジEの始点となるノードNのノードIDが格納される。「終点ノードID」の項目には、エッジEの終点となるノードNのノードIDが格納される。「距離」の項目には、エッジEの長さの情報が格納される。「速度」の項目には、エッジEを移動体10が走行する際における目標速度の情報が格納される。
【0048】
「道幅」の項目には、点検経路の幅、すなわち、道幅の情報が格納される。「中継点」の項目には、エッジEとエッジEとの間に設定されたエッジ中継点の座標の情報が格納される。「不安定要因」の項目には、端末装置20の不安定原因特定部21によって特定された不安定要因の識別IDが格納される。
【0049】
<自己位置推定部による自己位置推定処理>
次に、移動体10の自己位置推定部13による自己位置推定処理について説明する。自己位置推定部13は、例えば、MCL(Monte Calro localization)、ICP(Iterative Closest Point)、NDT(Normal Distribution Transform)等のスキャンマッチングを利用した公知の手法を用いて、移動体10の自己位置を推定することができる。本実施形態では、自己位置推定部13は、MCLを利用して自己位置を推定するものとする。MCLは、パーティクルと呼ばれる粒子を用い確率分布を近似することによって位置推定を行う手法である。
【0050】
また、自己位置推定部13は、後述の信頼度推定部16が推定する自己位置推定結果の信頼度を減衰させる信頼度減衰用パラメータの値を更新する。自己位置推定結果の信頼度は、移動体10の移動量、旋回量の大きさに応じて減少するため、以下の式(1)に示すモデルによって、所定の周期で信頼度減衰用パラメータの値を更新する。
【0051】
【数1】
【0052】
上記式(1)における“r′”は更新後の信頼度減衰パラメータ、“r”は更新前の信頼度減衰パラメータ、“Δdt”は移動体10の並進時に想定される誤差、“Δθt”は旋回時に想定される誤差、“β”および“β2”は非負のパラメータである。“Δθt”及び“Δθt”は一定の値でもよく、走行路面の状態によって変化させても良い。
【0053】
<自己位置推定成否判定部による自己位置成否判定処理の概要>
次に、自己位置推定成否判定部15による自己位置成否判定処理の概要について説明する。自己位置推定成否判定部15は、上述したように、成否判定用データを生成し、該成否判定用データに基づいて、自己位置推定の成否を判定する。
【0054】
自己位置推定成否判定部15は、成否判定用データの生成にあたり、まず、自己位置推定部13によって推定された自己位置(姿勢)の情報を用いて、外界センサ12により取得された3次元点群情報を、地図座標系の情報に変換する。自己位置推定成否判定部15によってこのような処理が行われることにより、センサ観測値の座標系が3次元点群地図における座標系と一致する。
【0055】
図6は、3次元点群地図と、移動体10の位置姿勢と、移動体10の外界センサ12による観測値との対応例を示す図である。図6Aには、3次元点群地図中にある3つの物体104a~104cと、物体104a~104cのそれぞれを観測して得られる観測点105a~105cと、を示す。移動体10は、方向を示す矢印マークを含む矩形によって示される位置に、矢印マークによって示される姿勢(図中の上方向を進行方向とする姿勢)で、存在しているものとする。
【0056】
図6Aに示す例では、移動体10は、物体104aを構成する2つの辺(図中の右側の辺及び下側の辺)を認識するとともに、物体104bを構成する1つの辺(図中の下側の辺)、及び、物体104cを構成する一つの辺(図中の右側の辺)を認識している。
【0057】
図6Bの左半分には、自己位置推定精度が高い場合における、3次元点群地図と、移動体10の外界センサ12による観測値との対応を示し、右半分には、自己位置推定精度が低い場合における、3次元点群地図と、移動体10の外界センサ12による観測値との対応を示す。
【0058】
自己位置推定精度が高い場合、図6Bの左側に示すように、3次元点群地図内の物体104a~104cの近傍に、移動体10の外界センサ12の観測点(観測点105a1~105c1)が投影される。一方、自己位置推定精度が低い場合、図6Bの右側に示すように、3次元点群地図中における物体104a~104cの位置からずれた位置及び角度で、移動体10の外界センサ12の観測点(観測点105a2~105c2)が投影される。
【0059】
成否判定用データは、自己位置推定の精度が低下している場合に変化する情報で構成され、例えば、以下の(1)~(4)の情報等を用いることができる。
(1)移動体10が走行すべき目標の点検経路と、移動体10が実際に位置している場所との間の距離の総和
(2)外界センサ12による観測値に対応付く点群地図上における物標点と、実際の観測点との平均絶対誤差(Mean Absolute Error)
(3)観測値を点群地図に投影した結果から生成した成否判定用画像
(4)自己推定に用いられるパーティクルフィルタによって最も尤度が高いと推定されたパーティクル(最尤パーティクル)における尤度
【0060】
上記(1)について、図7を参照して説明する。図7は、目標の点検経路と、移動体10が実際に位置している場所との距離、及び、該距離の総和のイメージを示す図である。目標の点検経路と、移動体10が実際に位置している場所との距離は、例えば、図7Aに示すように、移動体10の原点(中心位置)から、エッジEに対して延ばした垂線106の長さ(距離)によって求めることができる。
【0061】
目標の点検経路と、移動体10が実際に位置している場所との間の距離の総和は、すなわち、物体104a及び観測点105a1間の距離と、物体104b及び観測点105b1間の距離と、物体104c及び観測点105c1間の距離との総和である。
【0062】
上記(2)の、外界センサ12による観測値に対応付く点群地図上における物標点と、実際の観測点との平均絶対誤差EMAEは、例えば、下記の式(2)によって求めることができる。
【0063】
【数2】
【0064】
上記式(2)において、“K”は外界センサ12による観測点の数を示し、“e”は、観測点に最も近い位置に存在する3次元点群地図に含まれる点と、観測点の位置との差を示す。
【0065】
上記(3)の成否判定用画像は、例えば、観測値を3次元点群地図に投影後、移動体10の周辺の領域を真上から撮影したと仮定した場合における画像を生成し、その後、外界センサ12(LiDAR)のレーザが通過した領域を塗りつぶすこと等によって生成できる。図7Cに、成否判定用画像の生成例を示す。図7Cに示す例では、外界センサ12(LiDAR)のレーザが通過した領域107を、ドット模様で示している。
【0066】
自己位置推定成否判定部15は、成否判定用データを入力として深層学習を行う判定器によって、自己位置推定の成功又は失敗を判定する。上記(3)の成否判定用画像を入力とする場合、判定器は、事前に学習した成否判定用画像との類似性を検出するCNN(Convolutional Neural Network)ベースの学習モデル等を用いて構成することができる。
【0067】
また、例えば、成否判定用データとして、上記(4)の最尤パーティクルの尤度を用いる場合には、入力値を成功又は失敗の2クラスに分類する2クラス分類器を用いて行うことができる。2クラス分類器は、例えば、Adaboost等のアルゴリズムを用いて構築することができる。
【0068】
なお、自己位置推定成否判定部15が自己位置推定結果の成否の判定に用いる閾値は、移動体10が走行する点検経路の道幅等の情報に基づいて、動的に変化させても良い。点検経路の道幅に基づいて閾値を動的に変化させることにより、狭路と開けた場所など条件の違う環境においても、環境に適した条件を用いて、自己位置推定の成功、失敗を判定可能となる。
【0069】
<信頼度推定部による信頼度推定処理>
次に、信頼度推定部16による信頼度推定処理について説明する。信頼度推定部16は、以下の式(3)を用いて、自己位置推定部13による自己位置推定結果に対する信頼度を更新する。
【0070】
【数3】
【0071】
上記式(3)において、“r”は更新される信頼度を示し、“r′”は、式(1)を用いて計算された信頼度減衰用パラメータを示す。“p”は、自己位置推定成否判定部15によって自己位置推定が成功していると判定された場合に判定結果が真陽性となり、かつ、失敗していると判定された場合に判定結果が真陰性となる確率を示す。“p”は、自己位置推定成否判定部15によって自己位置推定が成功していると判定された場合に判定結果が偽陽性となり、かつ、失敗していると判定された場合に判定結果が偽陰性となる確率を示す。
【0072】
<不安定原因特定部による不安定原因特定処理>
次に、端末装置20の不安定原因特定部21による不安定原因特定処理について説明する。不安定原因特定部21は、信頼度推定部16によって算出された信頼度及び確信度が、予め定められた閾値以下となる点群地図情報30における領域、すなわち、自己推定精度が不安定となっている領域を抽出する。上記式(3)により算出される信頼度は、0~1の値をとるため、信頼度に対する閾値には、例えば“0.3”等を設定可能である。また、確信度に対する閾値には、自己位置推定結果の誤差の分散値の“0.2”等を設定可能である。
【0073】
不安定原因特定部21は、自己位置推定精度が不安定となる位置の抽出後、その位置に対して高さの情報を付与する。図8は、不安定原因特定部21による高さ情報付与対象の位置を含む環境の例を示す図である。図8Aは環境の例を示し、図8Bは、図8Aに示す環境の3次元点群地図を示す。
【0074】
図8Aに示す環境には、設備110a~設備110gが配置されている。設備100e~100gが配置された床面は、設備100a~設備100dが配置された床面よりも高い位置に設けられており、境界122に段差が存在する。また、図8Aに示す環境には、設備110の傍を通る点検経路Rが設定されている。点検経路Rは、境界122上に存在する位置121を通過する経路を含む。したがって、移動体10(図8においては図示略)は、位置121を通過する場合には、段差を下る方向に乗り越える必要がある。
【0075】
この位置121が、自己位置推定精度が不安定となる位置として特定された場合、不安定原因特定部21は、位置121に対して高さ情報を付与する処理を行う。高さ情報の付与処理においては、不安定原因特定部21は、まず、3次元点群地図に対して、法線や反射強度情報の情報を利用したクラスタリングを実施する。クラスタリングの手法には、例えば、Region Growing Segmentation、Difference of Normals Based Segmentation、Conditional Euclidean Clustering等の公知の手法を用いることができる。
【0076】
Region Growing Segmentationは、点群表面の法線及び曲率の情報を利用して領域を分割する手法であり、Difference of Normals Based Segmentationは、異なる閾値を利用して計算した法線方向の差の情報を用いてクラスタリングを行う手法である。Conditional Euclidean Clusteringは、法線方向における差分の情報と点群の反射強度情報とに基づいて、クラスタリングを行う手法である。
【0077】
図8Bに、クラスタリング後の3次元点群地図123の例を示す。3次元点群地図123においては、同一の面に属する点が同一平面上の点としてクラスタリングされる。図8Bに示す3次元点群地図123においては、図8Aに示した環境に存在する設備110等の各要素が、それぞれ異なる模様により示されている。
【0078】
次に、不安定原因特定部21は、クラスタリングされた3次元点群地図123から平面を検出する。平面の検出には、例えば、RANSAC(RANdom SAmple Consensus)等の公知の手法を用いることができる。RANSACは、外れ値を含むデータから、外れ値の影響を除外して数学モデルのパラメータを学習する手法である。不安定原因特定部21は、検出した平面のz方向の法線の値が、例えば“0.92”以上である場合、該平面を、移動体10が走行可能な平面と判定する。z方向の法線の値には、正規化された値が使用されるものとする。上記“0.92”は一例であり、移動体10が乗り越えることが可能な段差の大きさ、傾斜の角度等に基づいて適切な値を設定可能である。
【0079】
次に、不安定原因特定部21は、点群経路Rを構成する各エッジEを、例えば25cm等の長さで分割し、分割後の各エッジのエッジ端の直下の平面の高さを、エッジ端の高さに設定する。エッジEの分割単位である“25cm”は一例であり、路面の高さ変化を検出するための適当な値であれば、他の値が設定されてもよい。不安定原因特定部21は、生成したエッジ端の情報を、図5に示したエッジEの点検経路情報52の“中継点”の項目に設定する。
【0080】
不安定原因特定部21は、自己位置推定精度が不安定となる位置に対して高さ情報を設定する処理を行った後、自己位置推定精度が不安定となった原因を特定する処理を行う。不安定原因の特定処理において、不安定原因特定部21は、まず、自己位置推定精度が不安定となる位置における、3次元点群地図と外界センサ12による観測値との差分を抽出する。
【0081】
例えば、3次元点群地図中にない物体が、移動体10が走行する環境において新たに現れていた場合、新たに出現した物体を観測した点群は、3次元点群地図上に存在しないことになる。一方、移動体10の走行する環境から特定の物体が消失した場合、3次元点群地図上には存在する物体が、外界センサ12による観測値においては存在しないことになる。したがって、3次元点群地図と外界センサ12による観測値との差分を抽出することにより、このような環境の変化を検出することが可能となる。3次元点群地図と外界センサ12による観測値との差分は、例えば、ボクセルマップと最近傍探索とを利用する公知の手法等を用いることができる。
【0082】
図9は、環境変化が生じている場合における3次元点群地図及びセンサ観測値の例を示す図である。図9Aは環境の例を示し、図9Bは、図9Aに示す環境の3次元点群地図を示す。図9Aに示す環境における設備110d及び設備110gが消失した場合、図9Bに示す3次元点群地図における、設備110dと対応する領域及び設備110gと対応する領域が、3次元点群地図と外界センサ12による観測値との差分として抽出される。このような環境変化を検出した場合、不安定原因特定部21は、図5に示したエッジEの点検経路情報52の“不安定原因”の項目に、“環境変化”の情報を設定する。つまり、本実施形態によれば、移動体10の自己位置推定精度を不安定にさせる原因が環境の変化にある場合に、そのことを特定することができる。
【0083】
次に、不安定原因特定部21は、自己位置推定精度が不安定となる原因が、段差の乗り越えであるか否かを確認する処理を行う。不安定原因特定部21は、自己位置推定精度が不安定になる位置として抽出された位置(エッジ中継点)と、該エッジ中継点の前後にある各エッジ中継点との高さを比較する。比較により差分が検出され、かつ、差分の大きさが予め設定された閾値以上であった場合、不安定原因特定部21は、移動体10の移動過程において急な高さの変化があったと推定し、不安定原因は段差の乗り越えにあると判定する。そして、不安定原因特定部21は、図5に示したエッジEの点検経路情報52の“不安定原因”の項目に、“段差乗り越え”の情報を設定する。
【0084】
比較により検出された差分が所定の閾値を超えなかった場合、不安定原因特定部21は、移動体10の移動過程において、緩やかな高さ変化があったと推定する。そして、不安定原因特定部21は、移動体10が走行中のエッジEの始点における高さと、終点における高さとの差分を求めることにより、エッジの傾斜角度を算出する。算出した傾斜角度が予め設定した閾値以上であった場合、不安定原因特定部21は、傾斜の勾配の情報に基づいて、図5に示したエッジEの点検経路情報52の“不安定原因”の項目に、“上り坂走行”又は“下り坂走行”の情報を設定する。つまり、本実施形態によれば、移動体10の自己位置推定精度を不安定にさせる原因が段差乗り越え、又は、傾斜のある経路の走行にある場合に、そのことを特定することができる。
【0085】
<評価結果情報>
次に、図10を参照して、評価結果描画部22によって生成される評価結果情報について説明する。図10は、評価結果情報の表示例を示す図である。
【0086】
図10において、縦長の楕円マーク141は、段差乗り越えにより自己位置推定の精度が落ちた領域をユーザに明示するものであり、ドット模様の矩形の領域142は、点検経路の傾斜が原因で自己位置推定の精度が落ちた領域をユーザに明示するものである。また、実線の矢印143は、移動体10が実際に走行した経路を示す。破線の枠144は、消失が確認された設備の情報をユーザに明示するものである。
【0087】
このような表示がされることにより、ユーザは、移動体10の自己位置推定精度が低下する領域の情報を視覚的に把握することができる。したがって、ユーザは、これらの領域を回避する点検経路の再作成や、移動体10に対する自己位置推定精度の回復用動作の指示などの対策をとることができる。
【0088】
評価結果表示部145は、ユーザが選択したエッジを移動体10が走行中に推定された自己位置推定結果の、信頼度及び確信度の履歴を表示する領域である。評価結果表示部145において、信頼度の履歴は、縦軸に信頼度(0~1)、横軸に時間(sec)をとる折れ線グラフにより示される。確信度の履歴は、横軸に時間(sec)をとる折れ線グラフにより示される。このような表示がされることにより、ユーザは、移動体10の自己位置推定結果の信頼度及び/又は確信度の履歴の情報に基づいて、移動体10の自己位置推定精度を向上させるための対策等を検討することができる。なお、評価結果表示部145における表示は、図10に示す例に限定されず、他の情報が他の表示形式によって表示されてもよい。
【0089】
“Map Update”と表示された領域146は、ユーザに3次元点群地図の情報の更新を促す表示を行う領域である。この表示は、設備の消失等の環境変化が発生している場合に表示される。このような表示に基づいて、ユーザ3次元点群地図の情報を更新することにより、移動体10が実際に走行する環境と3次元点群地図の情報とを一致させることができる。
【0090】
<移動体による自己位置推定結果の信頼度情報算出処理>
次に、図11を参照して、移動体10による自己位置推定結果の信頼度情報算出処理について説明する。図11は、移動体10による自己位置推定結果の信頼度情報算出処理の手順の例を示すフローチャートである。
【0091】
まず、移動体10の自己位置推定部13は、移動体10が走行する環境の点群地図情報30を取得し、3次元点群地図を読み込む(ステップS1)。次いで、自己位置推定部13は、移動体10が走行する点検経路の点検経路情報50を読み込む(ステップS2)。次いで、自己位置推定部13は、外界センサ12による観測値、すなわち、3次元点群情報を取得する(ステップS3)。ステップS3において、自己位置推定部13は、内界センサ11による検出値に基づいて算出される、移動体10の移動速度及び旋回速度の情報も取得する。
【0092】
次いで、自己位置推定部13は、3次元点群地図における自己位置(及び姿勢)を推定する(ステップS4)。次いで、自己位置推定成否判定部15は、3次元点群地図、及び、ステップS4で推定された自己位置の情報に基づいて、自己位置推定の成否判定用データを生成する(ステップS5)。次いで、自己位置推定成否判定部15は、ステップS5で生成された成否判定用データを用いて、ステップS4で行われた自己位置推定の成否を判定する(ステップS6)。次いで、ステップS6の自己位置推定の成否判定結果に基づいて、信頼度推定部16は、自己位置推定結果の信頼度及び確信度を算出する(ステップS7)。
【0093】
次いで、移動体10の走行点検動作制御部14は、移動体10がどのノードN・エッジEを走行しているかを特定する(ステップS8)移動体10は、点検経路の始端ノードからエッジに沿って移動するため、移動体10が走行中のノードN・エッジEは、移動体10の自己位置推定結果を基に計算した移動距離等に基づいて推定することができる。
【0094】
次いで、走行点検動作制御部14は、移動体10が点検経路の終端ノードに到達したか否かを判定する(ステップS9)。ステップS9で、終端ノードに到達したと判定された場合(ステップS9がYES判定の場合)、信頼度推定部16は、ステップS7で算出した、移動体10による自己位置推定結果の信頼度及び確信度の情報を保存する(ステップS10)。ステップS10の処理後、移動体10による自己位置推定結果の信頼度情報算出処理は終了する。
【0095】
一方、ステップS9で、移動体10は終端ノードまで到達していないと判定された場合(ステップS9がNO判定の場合)、走行点検動作制御部14は、移動体10が位置しているノードNは、特定動作、すなわち、点検動作が登録されたノードNであるか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11で、特定動作が登録されたノードNであると判定された場合(ステップS11がYES判定の場合)、走行点検動作制御部14は、ノードNに登録された特定動作を実施する(ステップS12)。
【0096】
ステップS12の処理後、又は、ステップS11がNO判定の場合、走行点検動作制御部14は、点検経路に沿って次のノードNまで移動するために必要な移動体10の制御量を計算する(ステップS13)。経路に追従して走行するために必要な制御量の計算は、モデル予測制御やスライディングモード制御等の公知の手法を用いて行うことができる。ステップS13の処理後、走行点検動作制御部14は、移動体10の移動を再開させ、ステップS3に戻る。
【0097】
<不安定原因特定部の処理>
次に、図12を参照して、不安定原因特定部21による処理について説明する。図12は、不安定原因特定部21による処理の手順の例を示すフローチャートである。
【0098】
まず、端末装置20の不安定原因特定部21は、3次元点群地図を読み込む(ステップS21)。次いで、不安定原因特定部21は、移動体10が走行した点検経路情報50を読み込む(ステップS22)。次いで、不安定原因特定部21は、図11のステップS10で保存された移動体10の自己位置推定結果の信頼度及び確信度の情報を読み込む(ステップS23)。
【0099】
次いで、不安定原因特定部21は、ステップS21~ステップS23で読み込んだ各情報に基づいて、移動体10の自己位置推定が不安定となった位置を抽出する(ステップS24)。具体的には、不安定原因特定部21は、信頼度、確信度が事前に設定した閾値以下となった位置を、不安定位置として抽出する。
【0100】
次いで、不安定原因特定部21は、ステップS24で抽出した不安定位置に対して高さ情報を算出して付与する(ステップS25)。次いで、不安定原因特定部21は、自己位置推定が不安定となった原因を特定する処理である、不安定原因特定処理を行う(ステップS26)。ステップS26の処理は、ステップS24で抽出された全ての位置に対して実施される。ステップS26の不安定原因特定処理については、次の図13を参照して詳述する。次いで、不安定原因特定部21は、ステップS26で特定された不安定原因を保存する(ステップS27)。ステップS27の処理後、不安定原因特定部21による処理は終了する。
【0101】
<不安定原因特定処理>
次に、図13を参照して、図12のステップS26で実施される不安定原因特定処理について説明する。図13は、不安定原因特定部21による不安定原因特定処理の手順の例を示すフローチャートである。
【0102】
まず、不安定原因特定部21は、図12のステップS23で読み込んだ信頼度及び確信度が、それぞれ閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS31)。ステップS31で、信頼度及び確信度はそれぞれ閾値を下回っていると判定された場合(ステップS31がYES判定の場合)、不安定原因特定部21は、3次元点群地図と、外界センサ12による観測値との差分を抽出する処理を行う(ステップS32)。
【0103】
次いで、不安定原因特定部21は、ステップS32で差分は抽出されたか否かを判定する(ステップS33)。ステップS33で、差分は抽出されたと判定された場合(ステップS33がYES判定の場合)、不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定になった原因に、「環境変化」を設定する(ステップS34)。
【0104】
ステップS34の処理後、ステップS31がNO判定の場合、又は、ステップS33がNO判定の場合、不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定となった位置において、急な高さ変化があったか否かを判定する(ステップS35)。不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定となった位置(ノード)に設定された高さと、該ノードの前後のノードに設定された高さとの差分が所定の閾値を超えているか否かに基づいて、急な高さ変化があったか否かを判定する。ステップS35で、急な高さ変化があったと判定された場合(ステップS35がYES判定の場合)、不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定となった原因に「段差乗り越え」を設定する(ステップS36)。
【0105】
一方、ステップS35で、急な高さ変化はないと判定された場合(ステップS35がNO判定の場合)、不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定となった位置において緩やかな高さ変化があったか否かを判定する(ステップS37)。不安定原因特定部21は、移動体10が走行中のエッジEの始点における高さと、終点における高さとの差分の情報からエッジの傾斜角度を算出し、該傾斜角度の大きさに基づいて、緩やかな高さ変化があるか否かを判定する。
【0106】
ステップS37で、穏やかな高さ変化があると判定された場合(ステップS37がYES判定の場合)、不安定原因特定部21は、自己推定精度が不安定となった原因に「登坂」又は「降坂」を設定する。不安定原因特定部21は、不安定原因が登坂及び降坂のいずれであるかを、エッジの傾斜方向に基づいて判定することができる。
【0107】
ステップS36の処理後、ステップS38の処理後、又は、ステップS37がNO判定の場合、不安定原因特定部21は、図12のステップS27の処理を行う。すなわち、特定した不安定原因を保存する。
【0108】
上述した実施形態では、不安定原因特定部20は、自己位置推定部13による自己位置推定が成功している確率の高さを示す信頼度が所定の閾値以下であり、かつ、自己位置推定結果の分散値が所定の閾値以上となる領域を、自己位置推定精度が不安定となる不安定領域として特定する。したがって、本実施形態によれば、設備の点検経路における自己位置推定精度の低下領域の情報を適切に検出できるようになる。
【0109】
また、不安定原因特定部20によって特定された不安定位置に関する情報が、評価結果描画部22によってユーザに提示されるため、ユーザは、移動体10の自己位置推定精度が不安定となる領域の情報に基づいて、点検経路を評価及び/又は修正することができる。また、ユーザは、移動体10の自己位置推定精度が不安定になりにくい経路を生成することができる。
【0110】
また、上述した実施形態によれば、移動体10に関する知識が少ないユーザであっても、不安定原因特定部20によって提示された評価結果情報に基づいて、点検制度を適切に設定(修正)できるようになる。
【0111】
2.第2の実施形態
<点検経路設定システムの概略構成>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図14は、第2の実施形態に係る点検経路設定システム1Aの概略構成例を示す図である。図14に示す点検経路設定システム1Aが、第1の実施形態に係る点検経路設定システム1と異なる点は、特定動作情報60及び自己位置復帰動作追加部23を有する点である。特定動作情報60及び自己位置復帰動作追加部23以外の構成については、図1に示した点検経路設定システム1と同一であるため、これらについての説明は省略する。
【0112】
特定動作情報60は、点検動作や狭路へ進入する動作などの、高い自己位置推定精度が要求される特定動作の情報を規定したテーブルである。特定動作情報60においては、特定動作の内容が、特定動作ID(図示略)と対応付けて管理される。
【0113】
自己位置復帰動作追加部23は、移動体10が特定動作を実行する前に、移動体10に、自己位置推定精度の回復(復帰)を可能とする動作(以下、「自己位置復帰動作」とも称する)を実行させる。自己位置推定精度の復帰を可能とする動作には、例えば、その場で旋回する動作や、1m程度の範囲内において細かく移動後に停止する動作などがある。
【0114】
例えば、段差乗り越え等によって移動体10の姿勢が変化したことにより、外界センサ12の観測値が異常な値となったことに起因して、自己位置推定結果に誤差が生じた場合を想定する。この場合、移動体10が上述したような復帰動作を行うことにより、外界センサ12が安定的に観測値を取得可能となり、自己位置推定部13により推定される自己位置が再び収束する。
【0115】
<自己位置復帰動作追加部による自己位置復帰動作追加処理>
次に、図15を参照して、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作追加処理について説明する。図15は、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作追加処理の手順の例を示すフローチャートである。
【0116】
まず、自己位置復帰動作追加部23は、点検動作や狭路へ進入する動作など、高い自己位置推定精度が要求される特定動作が設定されたノード(以下、「特定動作設定ノード」とも称する)を抽出する(ステップS41)。自己位置復帰動作追加部23は、例えば、図5に示すノードN用の点検経路情報51の「動作ID」と、特定動作情報60における「特定動作ID」との照合を行うこと等により、特定動作設定ノードを抽出することができる。
【0117】
ステップS42以降の処理は、ステップS41で抽出された特定動作設定ノードの数の分だけ繰り返して行われる。ステップS41の処理後、自己位置復帰動作追加部23は、特定動作設定ノードの方向を指すエッジであり、かつ、特定動作設定ノードからの距離が、予め設定された距離閾値以内にあるエッジにおいて、自己位置推定の不安定原因が設定されているエッジがあるか否かを判定する(ステップS42)。つまり、ステップS42では、自己位置復帰動作追加部23は、高い自己位置推定精度が要求される特定動作設定ノードの直前に、不安定原因が設定されたエッジがあるか否かを判定している。
【0118】
ステップS42で、不安定原因が設定されているエッジがあると判定された場合(ステップS42がYES判定の場合)、自己位置復帰動作追加部23は、不安定原因が設定されたエッジと、特定動作設定ノード間との間に、他ノードが存在するか否かを判定する(ステップS43)。つまり、ステップS43では、自己位置復帰動作追加部23は、不安定原因が設定されたエッジよりも、特定動作設定ノードと距離が近いエッジが存在するか否かを判定する。
【0119】
ステップS43で、他ノードが存在すると判定された場合(ステップS43がYES判定の場合)、自己位置復帰動作追加部23は、該他ノードの点検経路情報51に、自己位置復帰動作と対応付けられた特定動作IDを追加する(ステップS44)。
【0120】
一方、ステップS43で、他ノードは存在しないと判定された場合(ステップS43がNO判定の場合)、自己位置復帰動作追加部23は、特定動作設定ノードの点検経路情報51に、自己位置復帰動作と対応付けられた特定動作IDを追加する(ステップS45)。ステップS44の処理後、ステップS45の処理後、又は、ステップS42がNO判定の場合、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作追加処理は終了する。
【0121】
自己位置復帰動作追加部23によって、図15に示した自己位置復帰動作追加処理が行われることにより、段差乗り越え等の実施後に点検動作等の特定動作を実行する必要のある点検経路を走行する場合においても、特定動作の実行前に移動体10の自己位置推定精度の復帰動作が行われる。これにより、移動体10は、推定精度が復帰後の自己位置推定結果を用いて点検動作等を実行できるため、精度の低い自己位置推定結果に基づく点検動作の失敗等を防ぐことができる。
【0122】
なお、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作追加処理によって、一つのノードに特定動作と自己位置復帰動作との両方が設定されることも起こり得る。この場合、移動体10は、自己位置復帰動作の方を先に実施するものとする。
【0123】
次に、図16を参照して、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作の追加例について説明する。図16は、自己位置復帰動作追加部23による自己位置復帰動作の追加例を示す図である。
【0124】
図16には、移動体10が走行する環境を示す。図16に示す環境は、図8Aに示した環境と同一の環境である。すなわち、設備1003e~100gが配置された床面は、設備100a~設備100dが配置された床面よりも高い位置に設けられており、境界122に段差が存在する。
【0125】
図16のノードN5には、特定動作として、設備110h及び設備110i間の狭路への進入動作が設定されており、ノードN2には、特定動作として点検動作が設定されているとする。また、ノードN2の直前、及び、ノードN5の直前において、移動体10による段差乗り越え動作が実施されるとする。
【0126】
ノードN5に設定された狭路への進入動作は、段差乗り越え後すぐに実施される動作であり、段差(境界122)乗り越えが行われる位置からノードN5までの間に、別のノードは存在していない。したがって、自己位置復帰動作追加部23は、特定動作設定ノードであるノードN5に、自己位置復帰動作を設定する。
【0127】
一方、点検動作が設定されたノードN2においては、段差乗り越え動作の実施個所とノードN2までの間に、別のノードN1が存在している。このため、自己位置復帰動作追加部23は、ノードN1に自己位置回復動作を設定する。自己位置復帰動作追加部23によってこのような処理が行われることにより、自己位置復帰動作の設定も含めた点検経路を作成することが可能となる。
【0128】
3.第3の実施形態
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図17は、第3の実施形態に係る点検経路設定システム1Bの概略構成例を示す図である。図17に示す点検経路設定システム1Bが、第1の実施形態に係る点検経路設定システム1と異なる点は、点検経路補正部24を有する点のみである。点検経路補正部24以外の構成については、図1に示した点検経路設定システム1と同一であるため、これらについての説明は省略する。
【0129】
点検経路補正部24は、自己位置推定が不安定になる可能性のある領域を回避する点検経路を生成する。つまり、不安定原因特定部21によって特定された不安定原因の情報に基づいて、点検経路を補正する。
【0130】
図18は、点検経路補正部24による点検経路補正処理の手順の例を示すフローチャートである。
まず、点検経路補正部24は、3次元点群地図をクラスタリングする。クラスタリングの手法としては、不安定原因特定部21が実施するものと同様の手法等を用いることができる。次いで、点検経路補正部24は、ステップS51でクラスタリングされた3次元点群地図を、ボクセル(分割領域の一例)に分割する(ステップS52)。ボクセルへの分割単位は、例えば、1辺1m等の単位に設定可能である。
【0131】
次いで、点検経路補正部24は、ステップS52で分割したボクセル毎に、そのボクセルの移動体10による走破性を判定する(ステップS53)。具体的には、点検経路補正部24は、移動体10が上下左右斜め方向から進入して該ボクセルを通過する場合における、経路上の段差の有無等の情報に基づいて、移動体10による走破性を判定する。
【0132】
ここで、走破性判定の対象となるボクセルの例について、図19を参照して説明する。図19は、走破性判定の対象となるボクセルの例を示す図である。図19には、図中の縦方向に存在する段差161を含むボクセル160を示す。このようなボクセル160に対して、図の下方向から上方向に進む進路162を移動体10が走行する場合、走行経路上に段差は存在しないため、移動体10はボクセル160を問題なく走破できる。したがって、点検経路補正部24は、移動体10による進路162からのボクセル160の走破は可能であると判定する。
【0133】
図中の斜め右下から右上方向に進む進路163を移動体10が走行する場合、移動体10は段差161を斜めに横切ることになるため、移動体10はボクセル160を走破できない。したがって、点検経路補正部24は、移動体10による進路163からのボクセル160の走破は不可であると判定する。
【0134】
図中の右方向から左方向に進む進路164を移動体10が走行する場合、段差161への進入角度が段差161に対して直交するため、移動体10による走破は可能となる。したがって、点検経路補正部24は、移動体10による進路164からのボクセル160の走破は、可能であると判定する。ただし、進路164からの進入時には、走破にあたり段差の乗り越えが発生するため、点検経路補正部24は、判定結果とともに、段差の高さも併せて記録する。なお、移動体10によるボクセルの進入位置と退出位置とで高さの変化が検出された場合には、点検経路補正部24は、走破性の判定結果とともに、高さの変化情報も記録する。
【0135】
図18に戻って説明を行う。ステップS53の処理後、点検経路補正部24は、特定動作設定ノードの抽出を行う(ステップS54)。特定動作設定ノードの抽出は、図15のステップS41において説明した手法と同様の手法により行うことができる。次いで、点検経路補正部24は、ステップS54で抽出した特定動作設定ノード同士を結ぶ経路中に、自己位置推定の精度が不安定になるエッジを含む区間を有する経路がある場合、該経路を回避する点検経路補正候補を生成する(ステップS55)。ステップS55の処理後、点検経路補正部24による点検経路補正処理は終了する。
【0136】
ステップS55において、点検経路補正部24は、まず、特定動作設定ノードを含むボクセルを特定する。ノードがどのボクセルに属するかは、ボクセルサイズに分割したノードの座標が、どのボクセルの座標に対応するか等によって判定することができる。次に、点検経路補正部24は、ステップS53で判定した走破性の情報に基づいて、点検経路補正候補を生成する。点検経路補正部24は、点検経路補正候補を、走破可能であると判定されたボクセルを通る経路のみを用いて生成する。これにより、移動体10の自己推定精度が不安定になりやすい段差の乗り越え等が発生しない経路を点検経路に設定できる、という効果が得られる。
【0137】
点検経路補正部24は、ダイクストラ法などの公知の手法を用いて、点検経路補正候補の経路を生成することができる。ダイクストラ法を用いる場合、点検経路補正部24は、ボクセルを通過するためにかかる時間をコストに設定する。移動体10がボクセルを通過するためにかかる時間は、以下の式(4)を用いて計算することができる。
【0138】
【数4】
【0139】
上記式(4)において、“t”はボクセルの通過に要する時間を示し、“t”は想定速度にて移動体10がボクセルを通過する場合に要する時間を示す。“t”は、自己位置復帰動作に要する時間を示す。
【0140】
なお、点検経路補正部24は、点検経路補正候補の経路として、点検動作が設定されたすべてのノードを経由する経路を設定するものとする。また、点検動作が設定されていないノードは、点検動作が設定されたノード間を接続するノードとして選択されるものである。したがって、点検経路補正部24は、点検動作が設定されたノード間を接続するルートに含まれないノードは、点検経路補正候補の経路を構成するノードとして選択しない。そして、移動体10が通過しないノードの情報は、点検経路Rの点検経路情報50から削除されるものとする。
【0141】
次に、図20を参照して、点検経路補正部24による点検経路補正候補の生成例について説明する。図20は、点検経路補正部24による点検経路補正候補の生成例を示す図である。
【0142】
図20には、移動体10が走行する環境を示す。図20に示す環境は、図8Aに示した環境と同一の環境である。図20Aには、補正前の点検経路Rの例を示し、図20Bには、点検経路補正候補の点検経路R′を示す。図20において、特定動作が設定されていないノードは白丸で示し、特定動作設定ノードは黒丸で示す。
【0143】
図20Aに示す補正前の点検経路Rにおいては、ノードN12とノードN13とを接続するエッジE12、及び、ノードN19とノードNとを接続するエッジE19のそれぞれにおいて、段差(境界122)の乗り越えが発生する。
【0144】
一方、図20Bに示す点検経路補正候補の点検経路R′では、段差乗り越えが発生するエッジE12の代わりに、低い段差171を超えるエッジE12′が設定され、段差乗り越えが発生するエッジE19の代わりに、低い段差172を超えるエッジE19′が設定されている。点検経路補正候補の点検経路R′は、補正前の点検経路Rよりも遠回りの経路となるが、補正前の点検経路Rにおいて行う必要のある段差乗り越え、自己位置復帰動作の実行時間を考慮すると、走行時間は短くなることも想定される。
【0145】
図21は、点検経路補正候補のユーザへの提示例を示す図である。図21に示す点検経路補正候補の提示画面において、上半分は現状の点検経路Rの情報を示し、下半分は点検経路補正候補の点検経路R′の情報を示している。画面の上半分に示す現状の点検経路Rにおいては、段差乗り越えが発生することにより自己位置推定精度が不安定となる領域、すなわち、エッジE12の終端近辺とエッジE19の部分に、それぞれ、縦長の楕円マーク181及び182が重畳して表示されている。このような表示がされることにより、ユーザは、点検経路Rにおいて、移動体10の自己位置推定精度が不安定になる領域の情報を視覚的にかつ適切に把握することが可能となる。
【0146】
画面の下半分に示す、点検経路補正候補の点検経路R′においては、段差乗り越えを避けて再構成されたエッジE12′及びエッジE18′の部分に、点検経路が補正されたことを示すドット模様が重畳して表示されている。このような表示が行われることにより、ユーザは、補正が行われた領域の情報を視覚的にかつ適切に把握することが可能となる。ユーザは、画面時表示された補正後の点検経路R′と、自身が設定した点検経路とを比較して、より好ましい点検経路を選択することができる。
【0147】
上述した第3の実施の形態によれば、点検経路設定システム1Cは、移動体10の自己位置推定が不安定となる領域が点検経路中に存在した場合に、この領域を回避する補正後の点検経路の情報を、ユーザへ提案することができる。
【0148】
また、本実施形態によれば、自己位置推定の精度が低下しづらい経路の候補がユーザに提案されるため、ユーザによる点経路作成負荷の軽減することができる。また、作成された点検経路の品質のばらつきも低減することができる。
【0149】
なお、上述した第3の実施形態では、点検経路補正部24は、段差乗り越えを要するボクセルを通過する経路の情報も用いて点検経路補正候補を生成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、点検経路補正部24は、まず、段差乗り越えを含まないボクセルの情報のみを用いて点検経路補正候補の生成を試み、生成に失敗した場合に、段差乗り越え含むボクセルを走破性可能な経路の情報も用いて、点検経路補正候補を生成してもよい。このような処理が行われることにより、移動体10の自己位置推定精度が不安定となる位置を含む経路が点検経路に含まれる可能性を、より低くすることができる。
【0150】
なお、上述した各実施形態では、移動体10が実際に点検経路を走行することによって、自己位置推定精度の評価に必要な情報を取得する例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。移動体10が走行する環境を再現したシミュレータ上で、自己位置推定精度の評価を行い、移動体10を現場に導入する前に、点検経路設定システム1(1A、1B)により点検経路を修正してもよい。
【0151】
また、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0152】
また、図1図2図14図17において実線又は矢印で示した制御線又は情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0153】
また、本明細書において、時系列的な処理を記述する処理ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)をも含むものである。
【0154】
さらに、上述した本発明の一実施形態にかかるエレベーターシステムの各構成要素は、それぞれのハードウェアがネットワークを介して互いに情報を送受信できるならば、いずれのハードウェアに実装されてもよい。また、ある処理部により実施される処理が、1つのハードウェアにより実現されてもよいし、複数のハードウェアによる分散処理により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0155】
1、1A、1B、1C…点検経路設定システム、10…移動体、11…内界センサ、12…外界センサ、13…自己位置推定部、14…走行点検動作制御部、15…自己位置推定成否判定部、16…信頼度推定部、20…端末装置、21…不安定原因特定部、22…評価結果描画部、23…自己位置復帰動作追加部、24…点検経路補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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