(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158198
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】モデルフリーポジカスト制御
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G05B13/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073186
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 進
(72)【発明者】
【氏名】楠美 三郎
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GA30
5H004KB31
5H004KC31
5H004LA12
(57)【要約】
【課題】
ポジカスト制御(むだ時間要素をコントローラに用いた制振制御)はモデルベース制御であり、設計には制御対象のモデルが必要である。本発明では、制御対象の応答データをもとにポジカストコントローラのパラメータ値を定め、制振制御を行う方法を提供する。
【解決手段】
ポジカスト制御では、制御量が目標値に一致するのは、コントローラに整定時間として設定した時刻以降である。この整定時間以降の制御出力データを目標値に一致させるような数値的最適化によって、ポジカストコントローラのパラメータ値が容易に定まり、制振制御を行うことができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポジカスト制御で想定される整定時間以降における、制御の対象の挙動に関するデータに注目した数値計算によって、ポジカストコントローラのパラメータ値を定めることを特徴とするモデルフリー制振制御方式
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御系の設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポジカスト制御(特許文献1、非特許文献1)は、むだ時間要素をコントローラとして利用したフィードフォワードの制振制御法である。数1の2次振動系の制御を例にその概要を述べる。
【数1】
ただしsはラプラス演算子、jは虚数単位である。目標値を数2のステップ信号とする。
【数2】
フィードフォワードコントローラを数3とする。
【数3】
ここで必要なむだ時間要素の個数は、制御対象の次数と目標値の次数で決まる。制御系を
図1に示す。
【0003】
数3の零点を数1の極の位置に設定することにより、数1の極を極零消去することができる。その条件が数4である。
【数4】
フィードフォワード制御誤差を数5で定義する。数2の極 s = 0 に関して数6を満たせば、最終値の定理より数7となり、定常偏差が残らない。
【数5】
【数6】
【数7】
なお信号はラプラス領域sでは大文字、時間領域tでは小文字で表す。オイラーの公式(数8)により数4を変形し、数6と共にまとめると数9を得る。
【数8】
【数9】
数9左辺の正方行列の逆行列を両辺にかければ数3のコントローラパラメータKが求まり、数10の数値例では数11となる。この場合の応答を
図2に示す。時刻L
2後に数1のすべての極が極零消去されるので、L
2が整定時間となる。L
2の値は設計者が選べるが、早く整定させればその分制御入力は大きくなる。
【数10】
【数11】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】O.J.M. Smith, Dead Beat Response, Resonant Load, Control System and Method, US Patent 3051883, Aug.28, 1962
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O.J.M. Smith, Posicast Control of Damped Oscillatory Systems, Proceedings of the IRE, pp.1249-1255, 1957
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポジカスト制御はモデルベース制御であり、設計には制御対象のモデルが必要である。本発明は、制御対象の応答データからポジカストコントローラのパラメータを定め、制振制御を行うモデルフリーな方式を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
制御対象は次数のみ既知とし、それ以外は上記と同じ設定で本発明の方式を説明する。まず数12のステップ信号で制御対象のステップ応答を測定し、Y
Sで表す(
図3上段)。ここでステップ信号の高さcは、状況に応じた値を選んでよい。
【数12】
数12を数3のポジカストコントローラに通すと(
図3下段)、時間領域では数13の信号となる。
【数13】
重ね合わせの原理より、数13に対する線形制御対象の応答も数14の線形結合で表される。
【数14】
時不変な制御対象では、y
S(t - L
1)とy
S(t - L
2)は、数12のステップ信号に対する応答y
S(t)を単に時間的に平行移動すればよい。ここで想定した役割を数14が果たすのは時刻L
2以降である。言い換えると、出力yが目標値に一致するのは時刻L
2以降である。したがってデータを時刻L
2以降のものに限定した数15の回帰モデルを考える。
【数15】
【0008】
データペアがN個あるとき、数16の評価関数を最小にするパラメータKの最小2乗推定値は、数17を数18で表すとき、数19で与えられる。ただしA
+はAの疑似逆行列である。
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【0009】
数1のステップ応答のシミュレーションデータを
図4上段に示す。t= 0.1(数3のポジカストコントローラに設定した整定時間L
2)以降のデータを、Δt= 0.0001の間隔で20点取り、数19に用いた結果が数20である。ここではシミュレーションデータの誤差が元々小さいため、モデルベースの数11の値にほとんど一致している。
【数20】
このときの応答を
図5に示す。ポジカストコントローラに設定した整定時間以降の応答データをもとに制振制御が行えることがシミュレーションからも確認できる。
【0010】
ステップ目標値の代わりにS次目標値(台形信号の積分)を用いることもできる。S次目標値r
Cに対する数1の応答データy
Cを
図4下段に示す。この場合は、数17のr
S,y
Sをr
C,y
Cに置き換え、さらにS次目標値の整定時間T
Sの遅れも加えた数21を用いる。
【数21】
数21を用いた場合の応答例を
図6に示す。L
2 + T
S = 0.1 + 0.1 [sec]が整定時間となる。
【0011】
制御対象の次数が未知の場合の対策について述べる。数22の1次系は,数23を用いてステップ目標値に制御できるが,むだ時間要素が2個の数3を用いてもよい。
【数22】
【数23】
本発明の方式を用いて、数3で数22を制御した場合の応答を
図7に示す。このように、冗長なむだ時間要素があっても制御可能なので、制御対象の次数が未知の場合は、むだ時間要素を多めに用いることが1つの対策となる。なお、ここでは数3に数24の値を用いた。これは特異値分解(数25)を利用して擬似逆行列を求める方法(数27)により求めた。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0012】
また、本発明の方式は対象が高次であってもよいので、未知線形制御系の目標値整形等にも利用可能である。
【0013】
最後に、ポジカスト制御の重要な性質である有限時間整定について補足的に述べる。ポジカスト制御は、むだ時間をコントローラに用いて連続時間有限時間整定制御が可能であることを示した方法でもある。本発明の方式によって、制振だけでなく有限時間整定も実現するには、誤差を含まない「完全なデータ」が必要と考えられる。なおオリジナルのポジカスト制御においても、有限時間整定制御を実際に行うには制御対象の「完全なモデル」が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】オリジナルのモデルベースのポジカスト制御の応答例(2次制御対象)
【
図5】本発明の方式を用いた制御例(2次制御対象)
【
図6】本発明の方式を用いた制御例(2次制御対象、S次目標値)
【
図7】本発明の方式を用いた制御例(1次制御対象)
【符号の説明】
【0015】
1 ポジカストコントローラ
2 制御対象モデル
3 制御対象(未知線形システム)