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  • 特開-エフィナコナゾール含有組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158211
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エフィナコナゾール含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20241031BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241031BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241031BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61K47/18
A61K47/10
A61P31/10
A61K9/08
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073212
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】辰野 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西尾 真季
(72)【発明者】
【氏名】武隈 由紀絵
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA13
4C076BB31
4C076CC32
4C076DD37S
4C076DD51
4C076FF37
4C076FF51
4C076FF61
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086BC17
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA63
4C086NA03
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、安定性に優れ、環境に配慮したエフィナコナゾール含有組成物を提供することである。
【解決手段】本発明によれば、エフィナコナゾール、キレート剤及び抗酸化剤を含み、デカメチルシクロペンタシロキサンを含まない組成物であって、組成物全体の質量に対する抗酸化剤の含有濃度が、1.0質量%未満である、組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフィナコナゾール、キレート剤及び抗酸化剤を含み、デカメチルシクロペンタシロキサンを含まない組成物であって、
組成物全体の質量に対する抗酸化剤の含有濃度が、1.0質量%未満である、組成物。
【請求項2】
キレート剤が、エデト酸、エデト酸塩、又は、エデト酸若しくはエデト酸塩の水和物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
キレート剤がエデト酸ナトリウム水和物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
抗酸化剤が、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)から選択される一種以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
抗酸化剤がBHAである、請求項1又は4に記載の組成物。
【請求項6】
組成物全体におけるエフィナコナゾールの含有濃度に対する抗酸化剤の含有濃度の比(抗酸化剤の含有濃度(質量%)/エフィナコナゾールの含有濃度(質量%))が、0.01~0.1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
pH調整剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
60℃かつ遮光条件下で3週間保存した場合における、保存開始時の400nmの吸光度に対する保存後の400nmの吸光度の比(保存後の400nmの吸光度(Abs.)/保存開始時の400nmの吸光度(Abs.))が2.0以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
爪白癬の治療に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフィナコナゾールを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エフィナコナゾール(化学名:(2R,3R)-2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-(4-メチレンピペリジン-1-イル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ブタン-2-オール)は、アゾール系抗真菌薬の一種として知られる。日本においては、エフィナコナゾールを有効成分とするクレナフィン(登録商標)爪外用液が、爪白癬の治療薬として承認されている(非特許文献1)。
【0003】
エフィナコナゾールは、熱や光に不安定であり、保存中に変色が生じやすいという問題が知られている。この問題に対し、特定の添加剤と配合して製剤化することにより、エフィナコナゾールの変色を抑制する製剤技術がいくつか報告されている。例えば、特許文献1には、エフィナコナゾール、エタノール、水、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩をそれぞれ特定の濃度で含む、製剤時に無色であり、約40℃の温度で少なくとも3週間の保存後に無色又は淡黄色である組成物に関する発明が記載されている。特許文献2には、エフィナコナゾール、特定の不揮発性エステル、pH調整剤及び抗酸化剤を含み、エチレンジアミン四酢酸を実質的に含有しない製剤に関する発明が記載されている。
【0004】
他方で、爪外用剤においては、所定以上の爪透過性が求められ、爪透過性を高めるために添加剤の処方の工夫がなされている。非特許文献1に記載された爪外用液は、添加剤として、エタノール、デカメチルシクロペンタシロキサン、アジピン酸ジイソプロピル、乳酸アルキル等を含む。これらの添加剤のうち、デカメチルシクロペンタシロキサンは、環状シリコーン化合物の一種であり、伸びが良く粘性のない感触を付与して塗り易くする目的で一般的に用いられる油性成分の溶剤として知られる。
【0005】
一方で、デカメチルシクロペンタシロキサンは、水系における生体影響への懸念から、欧州化学品規則(REACH:Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)において、高懸念物質の候補とされている(非特許文献2)。欧州では、所定濃度以上でデカメチルシクロペンタシロキサンを含み、使用後に水で洗い流される製品の販売が禁止されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6774518号公報
【特許文献2】国際公開第2021/132348号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】クレナフィン(登録商標)爪外用液10%医薬品インタビューフォーム
【非特許文献2】ECHA (EUROPEAN CHEMICAL AGENCY) ANNEX XVII TO REACH - Conditions of restriction, Entry 70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2には、エフィナコナゾール含有製剤における変色を抑制するための添加剤の処方が記載されているが、これらによってもエフィナコナゾールの熱による変色は完全には抑制されない。そのため、エフィナコナゾールの安定性をさらに向上させる技術が求められている。また、非特許文献2に、デカメチルシクロペンタシロキサンの水系における生体影響への懸念が記載されていることから、環境等の観点よりデカメチルシクロペンタシロキサンを含まない処方が望まれている。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、安定性に優れ、環境に配慮したエフィナコナゾール含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、エフィナコナゾール含有組成物において、キレート剤及び抗酸化剤を配合することにより、エフィナコナゾールの安定性が向上することを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、意外なことに、エフィナコナゾール含有組成物において、デカメチルシクロペンタシロキサンを含有しないようにすることにより、皮膚への刺激性が低減されることを見出した。
【0012】
本発明者らは、以上の知見を見出したことから、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]エフィナコナゾール、キレート剤及び抗酸化剤を含み、デカメチルシクロペンタシロキサンを含まない組成物であって、組成物全体の質量に対する抗酸化剤の含有濃度が、1.0質量%未満である、組成物。
[2]キレート剤が、エデト酸、エデト酸塩、又は、エデト酸若しくはエデト酸塩の水和物である、[1]に記載の組成物。
[3]キレート剤がエデト酸ナトリウム水和物である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]抗酸化剤が、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)から選択される一種以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]抗酸化剤がBHAである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]組成物全体の質量に対する抗酸化剤の含有濃度が、0.1質量%以上1.0質量%未満である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]組成物全体におけるエフィナコナゾールの含有濃度に対する抗酸化剤の含有濃度の比(抗酸化剤の含有濃度(質量%)/エフィナコナゾールの含有濃度(質量%))が、0.01~0.1である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]pH調整剤を含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9]60℃かつ遮光条件下で3週間保存した場合における、保存開始時の400nmの吸光度に対する保存後の400nmの吸光度の比(保存後の400nmの吸光度(Abs.)/保存開始時の400nmの吸光度(Abs.))が2.0以下である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物。
[10]爪白癬の治療に使用するための、[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定性に優れ、皮膚刺激性が低減されたエフィナコナゾール含有組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ヒト爪モデルによる透過性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(組成物)
本発明は、エフィナコナゾール含有組成物に関する。本発明の組成物は、身体の特定の部位、特に皮膚、粘膜、爪等に直接的に適用することを目的とするものであり、好ましくは爪に塗布することを目的とするものである。
【0017】
本発明の組成物は、有効成分としてエフィナコナゾールを含む。本発明の組成物におけるエフィナコナゾールの含有濃度は、特に限定されないが、組成物全体の質量に対し5~15質量%であることが好ましく、8~12質量%であることがより好ましく、10質量%であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の組成物は、1種又は2種以上のキレート剤を含んでもよい。キレート剤としては、例えば、エデト酸、エデト酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)又はこれらの水和物等を用いることができる。好ましい態様においては、本発明の組成物はエデト酸塩を含む。
【0019】
本発明の組成物におけるキレート剤の含有濃度は、組成物全体の質量に対して、0.00005~0.001質量%であることが好ましく、0.0001~0.0005質量%であることがより好ましく、0.0002~0.0003質量%であることがさらに好ましく、0.00025質量%であることが特に好ましい。また、本発明の組成物全体におけるエフィナコナゾールの含有濃度に対するキレート剤の含有濃度の比(キレート剤の含有濃度(質量%)/エフィナコナゾールの含有濃度(質量%))は、0.000005~0.0001であることが好ましく、0.00001~0.00005であることがより好ましく、0.00002~0.00003であることがさらに好ましく、0.000025であることが特に好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、1種又は2種以上の抗酸化剤を含んでいてもよい。本発明において抗酸化剤という場合、有効成分等より酸化されやすく、酸化にかかわる物質を還元する、いわゆる還元性抗酸化剤を指し、酸化反応の触媒としての金属イオンの作用を阻害する、いわゆるキレート剤は含まない。還元性抗酸化剤には、親水性抗酸化剤と親油性抗酸化剤とが含まれ得る。親水性抗酸化剤としては、例えば、乾燥硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等が挙げられる。親油性抗酸化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、没食子酸プロピル等が挙げられる。好ましい態様においては、本発明の組成物は、1種以上の親油性抗酸化剤を含む。さらに好ましい態様においては、本発明の組成物は、BHT及びBHAから選択される1種以上を含む。特に好ましくは、本発明の組成物はBHAを含む。
【0021】
本発明の組成物における抗酸化剤の含有濃度は、組成物全体の質量に対して、0.01質量%以上1.0質量%未満であることが好ましく、0.05~0.9質量%であることがより好ましく、0.1~0.8質量%であることがさらに好ましく、0.1~0.5質量%であることが特に好ましく、0.1~0.2質量%であることが最も好ましい。また、本発明の組成物全体におけるエフィナコナゾールの含有濃度に対する抗酸化剤の含有濃度の比(抗酸化剤の含有濃度(質量%)/エフィナコナゾールの含有濃度(質量%))は、0.001以上0.1未満であることが好ましく、0.005~0.09であることがより好ましく、0.01~0.08であることがより好ましく、0.01~0.05であることが特に好ましく、0.01~0.02であることが最も好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、デカメチルシクロペンタシロキサンを含まない。デカメチルシクロペンタシロキサンは、化粧品表示名称等では、シクロメチコン等と表記されることもある。「デカメチルシクロペンタシロキサンを含まない」という場合には、デカメチルシクロペンタシロキサンを全く含まないだけではなく、デカメチルシクロペンタシロキサンを実質的に含まないことも意味する。「デカメチルシクロペンタシロキサンを実質的に含まない」とは、本発明の効果を阻害しない程度にデカメチルシクロペンタシロキサンを含むことを包含する。
【0023】
本発明の組成物は、安定性や爪透過性を高めるため、1種又は2種以上のpH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤は、当業者において公知のものであれば特に限定されないが、例えば、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、リン酸、リン酸塩、乳酸、乳酸塩、酒石酸、酒石酸塩、リンゴ酸、リンゴ酸塩、塩酸又はこれらの無水物等であってよい。好ましくは、本発明の組成物は無水クエン酸を含む。
【0024】
一つの態様において、本発明の組成物は、エフィナコナゾール及び各添加剤を溶媒に溶解することにより調製される。用いる溶媒は、エフィナコナゾール及びその他の添加剤を溶解することが可能なものであれば特に限定されないが、例えば、極性溶媒及び非極性溶媒から選択される1種以上であってよい。1種又は2種以上の極性溶媒と1種又は2種以上の非極性溶媒とを組み合わせて用いてもよい。極性溶媒としては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、水等を用いることができ、好ましくは水及びエタノールのうちの1種以上が用いられる。水は、特に限定されないが、例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水等を用いることができ、好ましくは、精製水を用いることができる。非極性溶媒としては、例えば、乳酸アルキル及びアジピン酸ジイソプロピルのうちの1種以上を用いることができる。乳酸アルキルは、乳酸と脂肪族アルコールがエステル結合した化合物である。脂肪族アルコールは直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有し、アルキル基の炭素数は、任意の数であってよく、例えば4~6、12~13、12~14、12~15等であり、好ましくは12~15である。本明細書において、例えば、炭素数12~15のアルキル基を有する乳酸アルキルは、C12-15乳酸アルキル、乳酸アルキル(C12-15)等と記載される場合がある。
【0025】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない程度の範囲において、1種又は2種以上のその他の添加剤をさらに含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤(乳化剤)、保存剤(防腐剤)等の他に、増粘剤、紫外線吸収剤、香料、清涼剤、矯臭剤等の公知の添加剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、溶剤に抗酸化剤及びキレート剤を溶解した後に、エフィナコナゾールを添加して溶解する。上記の溶剤を用いて定容し、エフィナコナゾール含有組成物を調製する。必要に応じて、適宜ろ過してもよい。
【0027】
(熱安定性)
本発明の組成物によれば、エフィナコナゾールの熱安定性を向上させることができる。熱安定性は、例えば、所定の温度条件下で所定の期間、エフィナコナゾール含有組成物を保存した場合において、保存開始時と保存後の組成物の着色ないし変色をそれぞれ測定し、両者を比較することにより評価することができる。保存開始時と比較した保存後の着色の変化が小さい場合には、熱安定性が高いと評価することができる。保存の温度条件は、例えば、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、又は70℃以上とすることができ、保存期間において一定であってもなくてもよい。保存の温度条件は、好ましくは60℃かつ保存期間において一定とすることができる。保存は、遮光条件下で行ってもよく、開放条件下で行ってもよい。保存期間は、例えば、1日以上、3日以上、5日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上とすることができ、好ましくは3週間とすることができる。
【0028】
エフィナコゾール含有組成物の着色は、例えば、組成物において、吸光度の測定、色差の測定、色知覚の特定等を行うことによって評価することができる。吸光度の測定は、当業者に公知の方法によって行ってよく、例えば、分光光度計等の吸光光度計を用いて実施してよい。本発明の組成物の吸光度の測定における波長は、例えば、400~600nmとすることができ、好ましくは400nmとすることができる。色差の測定は、例えば色差計を用いて実施することができる。色知覚は、例えば、JIS Z 8721-1993「色の表示方法-三属性による表示」における色知覚の三属性(色相、明度、彩度)に従って尺度化し、特定することができる。なお、エフィナコゾール含有組成物の明らかな着色ないし変色による外観変化は、目視、観察等によって判断してもよい。
【0029】
本発明の組成物においては、60℃、遮光条件下で3週間保存した場合における、保存開始時の400nmの吸光度に対する保存後の400nmの吸光度の比(保存後の400nmの吸光度(Abs.)/保存開始時の400nmの吸光度(Abs.))が、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましく、1.0以下であることが特に好ましい。また、本発明の組成物においては、60℃、遮光条件下で3週間保存した場合における、400nmの吸光度(Abs.)が、例えば0.0600 Abs.以下又は0.0500 Abs.以下であってよく、0.0400 Abs.以下であることが好ましく、0.0397 Abs.以下であることがより好ましく、0.0350 Abs.以下であることがさらに好ましく、0.0342 Abs.以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(光安定性)
本発明の組成物によれば、エフィナコナゾールの光安定性を向上させることができる。光安定性は、例えば、曝光試験を行い、曝光後の物理的な性質(色調、澄明度等の外観、溶状等)の変化、光分解生成物又は残存成分の量等を測定することにより評価することができる。曝光は、例えば、積算照射量が30~120万lx・hrとなるように試験対象を照射することにより行う。照射に用いる光源は、特に限定されず、国際照明委員会により屋外の昼光の標準と定められたD65や、これと同等の室内の間接的な昼光の標準であるID65を用いることができる。これらの他に、ISO10977(1993)に類似の出力を示す白色蛍光ランプ及び320~400nmにスペクトル分布をもち、350~370nmに放射エネルギーの極大を示す近紫外蛍光ランプを用いてもよく、照射に用いる光源は、当業者において適宜選択することができる。積算照射量とは、単位時間あたりに照射される累積の照射量であり、例えば、「lx・hr」や「W・h/m2」等の単位で表すことができる。「lx・hr」とは、単位時間(hr)における総照射量(lx)を表し、「W・h/m2」とは、単位時間・単位面積当たりの総近紫外線放射エネルギーを表す。
【0031】
本発明の組成物の一つの態様においては、積算照射量60万lx・hrでの照射後におけるエフィナコナゾールの残存率が、98.5%以上であることが好ましく、98.8%以上であることがより好ましく、99.2%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
(皮膚刺激性)
爪外用液を爪に塗布する際に、爪周囲の皮膚に液が触れるため、皮膚刺激性は小さい方が望ましい。本発明によれば、エフィナコナゾール含有組成物による皮膚への刺激性を改善することができる。皮膚刺激性は、例えば、経済開発機構(OECD)の化学物質の試験に関するガイドラインTG404(急性皮膚刺激性/腐食性)に記載される試験方法又はこれに準ずる方法により評価することができるが、評価方法は特にこれらに限定されない。皮膚刺激性の改善とは、処置を施した皮膚において、例えば、以下に示す皮膚の一次刺激性インデックス(P.I.I)の値が3.1以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.7以下となることをいう。
【0033】
P.I.Iは、処置後の所定の時間の皮膚における、前記ガイドラインTG404に記載されるDraizeの基準による皮膚反応のスコアを用いて算出される。この場合における皮膚反応のスコア化は、処置後のどの時点においてしてもよいが、例えば、処置から3時間後~13日後にすることができ、好ましくは処置から3~48時間後にすることができる。また、この場合における皮膚反応をスコア化する皮膚の部位は、1箇所又は複数箇所であってよく、健常皮膚、損傷した皮膚、又は健常皮膚と損傷した皮膚の両方であってよい。皮膚の損傷としては、真皮まで傷つけないように角層を擦傷する程度が好ましい。一例として、P.I.Iは、本明細書の実施例にて示されるように、処置から3及び48時間後、すなわち試料が皮膚に適用されなくなった時点から3及び48時間後の、Draizeの基準における紅斑・痂皮形成及び浮腫形成のそれぞれの平均スコアを、健常皮膚部及び損傷(真皮まで傷つけないように角層を擦傷)した皮膚部において算出し、これらを平均したものとすることができる。Draizeの基準を以下に示す。
【0034】
Draizeの基準
<紅斑/痂皮形成>
0:紅斑なし
1:ごく軽度の紅斑(かすかに認められる程度)
2:明らかな紅斑
3:中等度から強い紅斑
4:深紅色の強い紅斑に軽い痂皮形成(傷害は深部に及ぶ)
【0035】
<浮腫形成>
0:浮腫なし
1:ごく軽度の浮腫(かすかに認められる程度)
2:軽度の浮腫(周囲と明らかに区分可能)
3:中等度の浮腫(1 mm程盛り上がっている)
4:強い浮腫(1 mm以上盛り上がり、周囲にも広がる)
【0036】
(剤形、効能)
本発明の組成物には、液剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤等が含まれるが、好ましい態様においては、本発明の組成物は、液剤、すなわち液体の剤である。特に好ましくは、本発明の組成物は、爪外用液、すなわち爪に塗布する外用液剤である。
【0037】
本発明の組成物は、爪白癬の治療に有用である。原因となる真菌の侵入経路等により、爪白癬はいくつかの病型に分類されるが、本発明の組成物はいずれの病型の爪白癬に対しても有効であり得る。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0039】
被験物質の調製
表1に記載の組成となるように、それぞれの被験物質を調製した。具体的には、エフィナコナゾール以外の各添加剤を混和、溶解した後、エフィナコナゾールを加えて溶解し、エタノールを用いて定容し、被験物質を調製した。
【0040】
【表1】
【0041】
試験例1.着色評価(熱安定性試験)
<試験方法>
調製した薬液4mLを透明ガラス容器に収容し、60℃(遮光条件下)で保存した。保存前と保存3週間後の紫外可視吸収スペクトルを、紫外可視分光光度計(UV-2450、株式会社島津製作所製)を用いて測定し、400nmの吸光度値を記した。
【0042】
<試験結果>
結果を表2に示す。抗酸化剤を含有せず、キレート剤を含有している比較例1、2及び抗酸化剤を含有しているが、キレート剤を含有しない比較例5の被験物質においては微黄色に着色した。対して、抗酸化剤及びキレート剤を含有する場合には着色が抑えられ、エフィナコナゾールの熱安定性が向上することが示された。
【0043】
【表2】
【0044】
試験例2.光安定性試験
<試験方法>
表1の比較例3、4、5及び実施例3、4の組成に基づいて調製した被験物質の薬液4mLを透明ガラス容器に収容し、光安定性試験装置(LTL-200A-15WCD、ナガノサイエンス株式会社製)を用いて、D65蛍光ランプを光源として、25℃の条件下、積算照射量が60万lx・hrとなるように照射した。その後、高速液体クロマトグラフィーにより、紫外吸光光度計(測定波長:260nm)で光照射前後のエフィナコナゾールの濃度を定量した。定量したエフィナコナゾールの濃度から、下記の式に従ってエフィナコナゾール残存率(%)を算出した。
【0045】
エフィナコナゾール残存率(%)=(光照射後のエフィナコナゾール濃度)/(光照射前のエフィナコナゾール濃度)×100
【0046】
<試験結果>
結果を表3に示す。抗酸化剤を含有しているが、キレート剤を含有しない比較例5と比較して、キレート剤及び抗酸化剤を含有する場合には、エフィナコナゾールの光安定性が向上することが示され、特に実施例3及び実施例4の被験物質においては、エフィナコナゾールの光安定性が高くなることが示された。
【0047】
【表3】
【0048】
試験例3.皮膚一次性刺激試験
<試験方法>
馴化を行ったウサギ(雌性、Kbs:JW)3匹の背部を、バリカンを用いて除毛し、健常皮膚部、損傷皮膚部(18Gの注射針で真皮まで傷つけないように角層を擦傷)を、各々2箇所、計4箇所設け、投与部位とした。
各投与試料(実施例3の被験物質又は対照物質のクレナフィン(登録商標)爪外用液10%製剤)をリント布に0.5 mLずつ含浸させて投与部位に貼付し、無浸透性絆創膏(ブレンダーム、3 M)を用いて、24時間閉塞貼付を行った。更に密着性を良くするために粘着性スポンジ絆創膏及び粘着性伸縮包帯を用いて固定した。
貼付除去3,24,48及び72時間及び4~13日後にDraizeの基準により皮膚反応を判定し、貼付除去3及び48時間後の紅斑・痂皮形成及び浮腫形成のそれぞれの平均評点を算出し、合計したものを反応強度とした。健常皮膚部と損傷皮膚部における反応強度の平均を一次刺激性インデックス(P.I.I)とし、刺激性を評価した。
【0049】
なお、Draize法による皮膚反応の判定基準は、下記の症状に基づいてスコア付けしたものである。
【0050】
<紅斑/痂皮形成>
0:紅斑なし
1:ごく軽度の紅斑(かすかに認められる程度)
2:明らかな紅斑
3:中等度から強い紅斑
4:深紅色の強い紅斑に軽い痂皮形成(傷害は深部に及ぶ)
【0051】
<浮腫形成>
0:浮腫なし
1:ごく軽度の浮腫(かすかに認められる程度)
2:軽度の浮腫(周囲と明らかに区分可能)
3:中等度の浮腫(1 mm程盛り上がっている)
4:強い浮腫(1 mm以上盛り上がり、周囲にも広がる)
【0052】
対照物質として用いたクレナフィン(登録商標)爪外用液の組成を以下に示す(非特許文献1より)。
【表4】
【0053】
<試験結果>
被験物質ならびに対照物質ともに、健常皮膚(各投与試料群n = 3)及び損傷皮膚(各投与試料群n = 3)において貼付除去3時間後から皮膚反応がみられ、貼付除去72時間後においても皮膚反応が残存したため観察期間を延長した結果、被験物質では貼付除去6日後、対照物質では貼付除去12日後までに皮膚反応は消失した。P.I.Iを算出した結果、被験物質は1.7、対照物質は3.2となり、評価区分は被験物質が「弱い刺激物」、対照物質が「中等度刺激物」であった(表5)。
【0054】
【表5】
【0055】
したがって、被験物質の皮膚刺激性が対照物質と比較して軽度であることから、被験物質は刺激性が改善された製剤である。
【0056】
試験例4.ヒト爪モデルによる透過性試験
<試験方法>
ヒトの爪は、白人男性手指爪(人指し指爪、中指爪、薬指爪)、年齢:46~61歳を用いた。ヒト爪をフランツセルに挟み込み、レシーバー側に40%ポリエチレングリコール400含有リン酸緩衝生理食塩液(PEG400含有PBS)を入れ、ドナー側に被験物質(実施例3)又は対照物質(クレナフィン(登録商標)爪外用液10%製剤)を2 μL入れた。レシーバー側のPEG400含有PBSを経時的にサンプリングし、透過したエフィナコナゾールの量を高速液体クロマトグラフィー-質量分析計にて測定した。
【0057】
<試験結果>
図1、表6に示すように、被験物質(実施例3)は、14日後の爪への累積透過量(Q)が3.68±1.56 μg/cm2、定常状態の透過速度(Permeation rate)が0.46±0.19 μg/cm2/日であり、Lag time(薬物の爪透過が定常状態に達するまでの時間)は5.91±0.75日を示した。一方、対照物質(クレナフィン(登録商標))は、14日後の爪への累積透過量が3.76±1.21 μg/cm2、定常状態の透過速度が0.47±0.17 μg/cm2/日であり、Lag timeは5.81±0.44日を示した。
【0058】
【表6】
【0059】
本結果より、被験物質は、対照物質と同等の良好な爪透過性を示した。
図1