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特開2024-158212塗料用フィラー、塗料組成物、塗料組成物の製造方法、塗膜、物品及び塗膜を有する物品の製造方法
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  • 特開-塗料用フィラー、塗料組成物、塗料組成物の製造方法、塗膜、物品及び塗膜を有する物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158212
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】塗料用フィラー、塗料組成物、塗料組成物の製造方法、塗膜、物品及び塗膜を有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20241031BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073219
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真規
(72)【発明者】
【氏名】藤井 剛
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038DD001
4J038DG002
4J038EA011
4J038HA486
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA19
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA09
4J038PA03
4J038PA06
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できる塗料用フィラー、該塗料用フィラーを用いた塗料組成物、該塗料組成物の製造方法、該塗料組成物により形成された塗膜、該塗膜を有する物品及び塗膜を有する物品の製造方法を提供する。
【解決手段】 塗料用フィラーであって、前記フィラーは、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである、塗料用フィラー。
【選択図】 図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料用フィラーであって、
前記フィラーは、ガラス繊維を含み、
前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、
前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである、塗料用フィラー。
【請求項2】
前記断面形状の、平均扁平率が2.0~8.0、平均円形換算繊維径が0.0045mm~0.034mmである、請求項1記載の塗料用フィラー。
【請求項3】
前記断面形状の、平均扁平率が3.0~6.0である、請求項2記載の塗料用フィラー。
【請求項4】
前記断面形状の、円形換算繊維径の変動係数が10%以下である、請求項1又は2に記載の塗料用フィラー。
【請求項5】
前記断面形状の、扁平率の変動係数が20%以下である、請求項1又は2に記載の塗料用フィラー。
【請求項6】
前記ガラス繊維の含有割合が30質量%以上である、請求項1又は2に記載の塗料用フィラー。
【請求項7】
前記ガラス繊維がガラス繊維の粉砕物である、請求項1又は2に記載の塗料用フィラー。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の塗料用フィラーと塗膜形成樹脂を含む塗料組成物。
【請求項9】
さらに、媒体を含む請求項8記載の塗料組成物。
【請求項10】
媒体中で、塗膜形成樹脂と、請求項1又は2に記載の塗料用フィラーと、を混合する工程を含む、塗料組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項8記載の塗料組成物により形成された塗膜。
【請求項12】
請求項11記載の塗膜を有する物品。
【請求項13】
媒体中で、塗膜形成樹脂と、請求項1又は2に記載の塗料用フィラーと、を混合して塗料組成物を形成する工程と、
前記塗料組成物を物品に塗布する工程と、
塗布した前記塗料組成物を乾燥させて前記媒体を除去して塗膜を得る工程と、を含む、
塗膜を有する物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料用フィラー、該塗料用フィラーを用いた塗料組成物、該塗料組成物の製造方法、該塗料組成物により形成された塗膜、該塗膜を有する物品及び塗膜を有する物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料に無機フィラーを添加することで塗膜の強度や硬度、耐傷付性等を改善できることが知られており、なかでもガラス繊維はその補強効果が大きいとされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭50-25485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本開示者らの検討の結果、塗料にガラス繊維を添加すると、塗膜の硬度は向上するものの、ガラス繊維が塗膜表面に浮き出るために、塗膜の外観が悪くなる、塗膜の光沢度が低下するという問題が生じることが明らかとなった。このように、本開示者らの検討の結果、塗料用フィラーとしてガラス繊維を用いた場合、硬度は改善するものの、塗膜の外観、光沢度が低下することが新たに判明した。
【0005】
本開示は、本開示者らが新たに見出した前記課題を解決し、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できる塗料用フィラー、該塗料用フィラーを用いた塗料組成物、該塗料組成物の製造方法、該塗料組成物により形成された塗膜、該塗膜を有する物品及び塗膜を有する物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ガラス繊維としては、通常、特許文献1に記載されているような、長手方向と直交する断面の断面形状が、円形状のガラス繊維(通常ガラス繊維とも記載する)が使用されている。本開示者らは、鋭意検討の結果、通常ガラス繊維ではなく、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状のガラス繊維(扁平ガラス繊維とも記載する)を使用することにより、更には、扁平ガラス繊維を粉砕したミルドファイバー(MF)を使用することにより、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できることを見出した。本開示者らは、MFを使用する点等について更に鋭意検討の結果、コールターカウンター法による繊維長中央値が特定の範囲である扁平ガラス繊維により前記課題を解決できることを見出した。すなわち、本開示(1)は、塗料用フィラーであって、前記フィラーは、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである、塗料用フィラーに関する。
【0007】
本開示(2)は、前記断面形状の、平均扁平率が2.0~8.0、平均円形換算繊維径が0.0045mm~0.034mmである、本開示(1)記載の塗料用フィラーに関する。
【0008】
本開示(3)は、前記断面形状の、平均扁平率が3.0~6.0である、本開示(2)記載の塗料用フィラーに関する。
【0009】
本開示(4)は、前記断面形状の、円形換算繊維径の変動係数が10%以下である、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の塗料用フィラーに関する。
【0010】
本開示(5)は、前記断面形状の、扁平率の変動係数が20%以下である、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の塗料用フィラーに関する。
【0011】
本開示(6)は、前記ガラス繊維の含有割合が30質量%以上である、本開示(1)~(5)のいずれかに記載の塗料用フィラーに関する。
【0012】
本開示(7)は、前記ガラス繊維がガラス繊維の粉砕物である、本開示(1)~(6)のいずれかに記載の塗料用フィラーに関する。
【0013】
本開示(8)はまた、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の塗料用フィラーと塗膜形成樹脂を含む塗料組成物に関する。
【0014】
本開示(9)は、さらに、媒体を含む本開示(8)記載の塗料組成物に関する。
【0015】
本開示(10)は、媒体中で、塗膜形成樹脂と、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の塗料用フィラーと、を混合する工程を含む、塗料組成物の製造方法に関する。
【0016】
本開示(11)はまた、本開示(8)又は(9)記載の塗料組成物により形成された塗膜に関する。
【0017】
本開示(12)はまた、本開示(11)記載の塗膜を有する物品に関する。
【0018】
本開示(13)はまた、媒体中で、塗膜形成樹脂と、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の塗料用フィラーと、を混合して塗料組成物を形成する工程と、前記塗料組成物を物品に塗布する工程と、塗布した前記塗料組成物を乾燥させて前記媒体を除去して塗膜を得る工程と、を含む、塗膜を有する物品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本開示の塗料用フィラーによれば、前記フィラーは、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmであるため、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できる塗料用フィラー、該塗料用フィラーを用いた塗料組成物、該塗料組成物の製造方法、該塗料組成物により形成された塗膜、該塗膜を有する物品及び塗膜を有する物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)は、通常ガラス繊維の電子顕微鏡写真の一例を示す図である。図1(b)は、扁平ガラス繊維の電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図2図2(a)は、塗膜中の通常ガラス繊維の電子顕微鏡写真及び模式図の一例を示す図である。図2(b)は、塗膜中の扁平ガラス繊維の電子顕微鏡写真及び模式図の一例を示す図である。
図3図3は、繊維断面に外接する長方形の一例を示す模式図である。
図4図4は、実施例、比較例におけるコールターカウンター法による繊維長中央値と光沢度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
本開示の塗料用フィラーは、塗料用フィラーであって、前記フィラーは、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである。これにより、塗膜の外観(表面平滑性)、光沢度の低下を抑えつつ、硬度(塗膜強度)を改善できる塗料用フィラー、該塗料用フィラーを用いた塗料組成物、該塗料組成物の製造方法、該塗料組成物により形成された塗膜、該塗膜を有する物品及び塗膜を有する物品の製造方法を提供することができる。
【0023】
前記作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムによるものと推察される。
前記の通り、ガラス繊維としては、通常、長手方向と直交する断面の断面形状が、円形状のガラス繊維(通常ガラス繊維)が使用されている(図1(a)参照)。一方、本開示では、通常ガラス繊維ではなく、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状のガラス繊維(扁平ガラス繊維)を使用する(図1(b)参照)。更に、使用する扁平ガラス繊維のコールターカウンター法による繊維長中央値が特定の範囲である。
通常ガラス繊維を塗料用フィラーとして使用した場合、塗料を乾燥させ塗膜を形成すると、図2(a)のように、塗膜1中において、通常ガラス繊維10同士が、その断面形状に起因して、様々な方向に向いた状態で重なりやすいため、塗膜表面に通常ガラス繊維10が露出しやすい傾向にあり、塗膜の外観、光沢度が低下しやすい。
一方、本開示のように、コールターカウンター法による繊維長中央値が特定の範囲である扁平ガラス繊維を塗料用フィラーとして使用した場合、塗料を乾燥させ塗膜を形成すると、図2(b)のように、塗膜1中において、扁平ガラス繊維20同士が、その断面形状に起因して、塗装される際には比較的同じ方向に配列した状態で積み重なりやすく、また塗装された後に乾燥して固まるまでの過程で、塗膜1中に含まれる、扁平ガラス繊維の長軸が塗膜1の表面に対して平行になっていない扁平ガラス繊維が、塗料の表面張力や重力によって塗膜1の表面に対して平行となりやすい(レベリング)ため、塗膜表面に扁平ガラス繊維20が露出しにくく、塗膜表面が滑らかとなる傾向にあり、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できる。このように、本開示では、トレードオフの関係にある「塗膜の外観、光沢度」と、「塗膜の硬度」を両立できる。
なお、扁平ガラス繊維を補強材として熱可塑性樹脂に配合して射出成形すると、表面の凹凸やざらつきの無い成形品が得られるとされているが、これは形状の流体力学的な効果により、射出成形機内における熱可塑性樹脂の流動性が高まると同時に、金型に沿って扁平ガラス繊維の平らな面が流れることになり、金型に接触する面に対して、扁平ガラス繊維の平らな面が揃う(配向)ため、表面近傍のガラス繊維が樹脂中に埋まって(隠蔽)、そのまま固まりやすいことが原因であり、本開示の推察されるメカニズムとは作用機能が異なるものである。そのため、高温に加熱されて流動性のある熱可塑性樹脂に混錬し、高圧、高速で流れる射出成形機内で扁平ガラス繊維が配向する場合と、常温で流動性のある塗料に混合し、常圧でゆっくりレベリングする場合とで、好ましいガラス繊維の形状や繊維長が異なると考えられる。また、より強度が重視される射出成形で成形される熱可塑性樹脂と、より外観や光沢度が重視される塗料では、好ましいガラス繊維の形状と繊維長は異なると考えられる。
【0024】
<塗料用フィラー>
本開示の塗料用フィラーは、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである。
【0025】
本明細書において、塗料とは、物品の表面に塗布する材料を意味する。
本明細書において、塗料用フィラーとは、塗料に用いられる充填剤、好ましくは塗料に用いられ、塗料により形成される塗膜の硬度、弾性率及び/又は触感などを改善することが可能な充填剤を意味する。
本明細書において、ガラス繊維とは、繊維状のガラス材料を意味する。
【0026】
本明細書において、扁平形状とは、平面に対して、全ての内角が90°の四角形を外接させた場合に、当該四角形が正方形ではなく、長辺と短辺を有する長方形である形状を意味する。よって、本明細書において、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であるとは、長手方向と直交する断面に、全ての内角が90°の四角形を外接させた場合に、当該四角形が正方形ではなく、長辺と短辺を有する長方形である形状を意味する。なお、以下においては、扁平形状である断面を扁平断面とも記載する。
【0027】
本明細書において、扁平断面の長軸とは、断面に外接する長方形の長辺と平行な中心軸を意味し、扁平断面の短軸とは、断面に外接する長方形の短辺と平行な中心軸を意味する。
本明細書において、扁平断面の長軸の長さとは、断面に外接する長方形の長辺の長さを意味し、扁平断面の短軸の長さとは、断面に外接する長方形の短辺の長さを意味する。例えば、図3では、繊維断面21に外接する長方形22の長辺の長さはLで表される長さであり、短辺の長さはSで表される長さであり、繊維断面21の長軸の長さはLで表される長さであり、繊維断面21の短軸の長さはSで表される長さである。
【0028】
本明細書において、長手方向とは、ガラス繊維の長さ方向を意味し、例えば、図3では、紙面奥方向である。よって、本明細書において、長手方向と直交する断面とは、ガラス繊維の長さ方向と直交する断面を意味する。
本明細書において、ガラス繊維の繊維長は、ガラス繊維の長さ方向の長さを意味する。
本明細書において、ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状とは、ガラス繊維の長さ方向に対し、垂直方向に切断した面の形状を意味する。
【0029】
本明細書において、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0030】
本開示では、前記ガラス繊維の形状等の構造が重要であるため、前記ガラス繊維の組成は特に限定されない。前記ガラス繊維の組成の例として、例えば、Eガラス(組成SiO 52~56質量%、Al 12~16質量%、CaO 15~25質量%、MgO 0~6質量%、B 5~13質量%、NaO+KO 0~2質量%)、Cガラス(組成SiO 64~68質量%、Al 3~5質量%、CaO 11~15質量%、MgO 2~4質量%、B 4~6質量%、NaO+KO 7~10質量%)、Sガラス、Dガラス、ECRガラス、Aガラス、ARガラス等が挙げられる。なかでも、Eガラス組成が好ましい。Eガラスはガラス中のアルカリ成分が少ない組成であるため、アルカリの溶出が発生しにくく、塗料組成物により形成される塗膜への影響が少ない点で好ましい。また、Cガラスは耐酸組成であり、特に塗料に耐酸性が欲しい場合は好ましい。
【0031】
前記扁平形状としては、特に限定されず、例えば、平坦部と平坦部とを結合した形状からなる矩形形、円弧部と平坦部とを結合した形状からなる長円形、ひょうたん形、楕円形、台形、ダンベル形、三角形等が挙げられる。なかでも、形状の一部に平坦部を持つ矩形形、長円形がより好ましい。
【0032】
前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値(D50)は、0.025mm~0.24mmであり、好ましくは0.025mm~0.20mm、より好ましくは0.030mm~0.10mmである。これにより、効果がより好適に得られる。
コールターカウンター法による粒度分布の測定では、電解質溶液中の粒子が細孔を通過する際に変化する電気抵抗から体積変化量を算出し、粒度分布を測定する。測定粒子が本開示のような繊維の場合、算出した体積を繊維断面積で除することにより、繊維長が算出される。算出結果は断面形状の影響を受けないため、繊維長による比較が可能となる。なお、粉砕された後で繊維断面積を測定することは難しい場合があるので、繊維断面積は粉砕前に測定しておくことが好ましい。
本明細書において、コールターカウンター法による繊維長中央値は、体積基準の積算分布で繊維長を小さい順に並べた際に真ん中に位置する値、すなわち、ある繊維長を境として繊維長分布を2つに分割した際、ある繊維長よりも繊維長が短い方のグループに属する繊維と、ある繊維長よりも繊維長が長い方のグループに属する繊維が等量となる繊維長を意味し、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0033】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の平均扁平率は、好ましくは2.0~8.0、より好ましくは3.0~6.0、より好ましくは3.5~5.0である。これにより、効果がより好適に得られる。
ここで、扁平率は、前記長軸の長さ/前記短軸の長さにより算出され、平均扁平率は、扁平率の平均値である。なお、本明細書において、長手方向と直交する断面の断面形状の平均扁平率は、長手方向と直交する断面の平均扁平率と同義であり、平均円形換算繊維径等の他の同様の記載においても断りのない限り、同義である。また、本明細書において、平均値は、特に断りのない限り、個数基準の平均値である。
【0034】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の扁平率の変動係数は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは12%以下であり、小さければ小さいほど好ましいため、下限は特に限定されない。これにより、効果がより好適に得られる。
本明細書において、前記扁平率の変動係数は、前記扁平率の平均値に対する前記扁平率の標準偏差の割合を百分率で表したものである。
【0035】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の前記短軸の平均長さは、好ましくは0.0025mm~0.013mm、より好ましくは0.0055mm~0.010mmである。これにより、効果がより好適に得られる。
【0036】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の前記長軸の平均長さは、好ましくは0.0050mm~0.074mm、より好ましくは0.015mm~0.044mmである。これにより、効果がより好適に得られる。
本明細書において、短軸の平均長さは、短軸の長さの平均値であり、長軸の平均長さは、長軸の長さの平均値である。
【0037】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の平均円形換算繊維径は、好ましくは0.0045mm~0.034mm、より好ましくは0.0050mm~0.024mm、更に好ましくは0.013mm~0.018mmである。これにより、効果がより好適に得られる。
ここで、円形換算繊維径は、断面の面積に基づいて算出される、前記断面形状が円であると仮定した場合の繊維の直径であり、平均円形換算繊維径は、円形換算繊維径の平均値である。
【0038】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の円形換算繊維径の変動係数は、好ましくは10%以下、より好ましくは8.0%以下であり、小さければ小さいほど好ましいため、下限は特に限定されない。これにより、効果がより好適に得られる。
本明細書において、前記円形換算繊維径の変動係数は、前記円形換算繊維径の平均値に対する前記円形換算繊維径の標準偏差の割合を百分率で表したものである。
【0039】
前記ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の前記扁平率、前記短軸の長さ、前記長軸の長さ、前記円形換算繊維径等の断面形状の特性は以下のようにして測定される。
まず、ガラス繊維を樹脂に埋め込む(樹脂包埋する)。次に、ガラス繊維が埋め込まれた樹脂を、樹脂が切断できる装置を用いて切断する。ここで、切断面はポリッシング研磨加工する。そして、樹脂表面を観察し、切断面とガラス繊維の長手方向が直交している繊維を特定する。特定した繊維の切断面が、ガラス繊維の長手方向と直交する断面に該当する。このようにして特定したガラス繊維の長手方向と直交する断面について前記各特性の測定を行う。具体的には、実施例に記載の方法により前記各特性が測定される。
なお、ガラス繊維が塗料として用いられ、塗膜中に存在する場合は、前述のガラス繊維が埋め込まれた樹脂の代わりに、塗膜を使用して測定すればよい。
【0040】
次に、本開示において使用される前記ガラス繊維の製造方法を説明する。当業者であれば、ガラス繊維の形状、繊維長等が定まれば、公知の手法等により当該ガラス繊維を製造することは容易である。
【0041】
扁平ガラス繊維の作製プロセスは、基本的に通常ガラス繊維と同様の作製プロセスではあるが、断面を扁平形状とするために、ガラス融液をガラス繊維として引き出すための、特殊な構造を有するノズルが複数個配列されたガラス繊維製造用のブッシング(以下、ノズルプレートともいう)が必要である。
【0042】
例えば、国際公開第99/028543号、特開2003-048742号公報、特開2010-163342号公報には、断面が扁平形状のガラス繊維を製造するためのノズルであって、長辺壁と短辺壁からなるノズル壁の長辺壁側の先端部に切り欠きを設けたノズルチップ、及び、該ノズルチップが複数個配列されたノズルプレートが開示されている。断面が扁平形状のガラス繊維を製造するためには、ガラス融液を排出する端部の断面が扁平形状のノズルから、ガラス融液を引き出して排出し、ガラス融液を急冷し繊維化する必要がある。ガラス融液の繊維化の際には、ガラス融液の表面張力が高く、融液が丸くなろうとすることから、これに対抗することが、断面が扁平形状のガラス繊維を製造するポイントとなる。
【0043】
ガラス繊維を多量に製造するためには、ベースプレート上に多数のノズルを備えたブッシングを用いることが有効である。多数のノズルを備えるブッシングでは、ベースプレートの面積を大きくする必要がある。ベースプレートの面積が大きい場合、ベースプレートに温度ムラが生じやすくなるため、ガラス繊維の扁平率や断面積にばらつきが生じてしまい、ガラス繊維の断面形状のばらつきが大きくなるおそれがある。その理由として、ベースプレートに温度ムラが生じると、ノズル毎に内部を通るガラス融液の粘度が異なるため、ノズル出口にてガラスが丸くなろうとする力(表面張力)に対抗する力の大きさが異なり、ひいては得られるガラス繊維の扁平率にばらつきが生じると考えられる。更には、比較的温度の低いノズル内ではガラス融液の流れが脈動しやすく、揃った断面形状のガラス繊維が得られないといった不具合が発生しやすい。
【0044】
また、ベースプレートの面積が大きい場合、引き出したガラス融液をベースプレートの中心部で集束するように紡糸すると、ベースプレートの中心部にあるノズルと端部にあるノズルとでは、各ノズルから引き出されるガラス融液の角度(以下、ガラス繊維の引っ張り角度ともいう)が異なるため、ガラス繊維の扁平率や断面積にばらつきが生じてしまい、ガラス繊維の断面形状のばらつきが大きくなるおそれがある。
【0045】
国際公開第99/028543号、特開2003-048742号公報、特開2010-163342号公報に開示されたノズル形状では、断面が扁平形状のガラス繊維を製造できるものの、前述したベースプレートの温度ムラ、及び、ガラス繊維の引っ張り角度の違いに起因してガラス繊維の扁平率や断面積にばらつきが生じてしまい、ガラス繊維の断面形状のばらつきが大きくなるおそれがある。
【0046】
これに対して、国際公開第2020/040033号に開示されているようなガラス繊維製造用のブッシング、具体的には、ベースプレートと、前記ベースプレート上に複数個配列された、ガラス融液を排出するノズルとを備える、ガラス繊維製造用のブッシングであって、前記ベースプレートは、水平断面が扁平状のベース孔を備え、前記ノズルは、前記ベース孔の輪郭に沿って前記ベースプレートから突出するノズル壁と、前記ベース孔から前記ノズル壁の先端へ向かって、前記ベース孔の形状を維持して貫通するノズル孔とを備え、前記ノズル壁は、前記ベースプレートから突出していない一対の切り欠きを有し、前記一対の切り欠きは、前記ノズル孔の長手方向の中心軸を介して相対して対向し、前記切り欠きの幅は、前記ノズル孔の長手方向の中心軸の長さの10%以上、95%以下であるガラス繊維製造用のブッシングを用いて、ガラス繊維を製造することにより、ベースプレートの温度ムラ、及び、ガラス繊維の引っ張り角度の違いに起因するガラス繊維の断面形状のばらつきを小さくすることができ、断面が扁平形状であり、断面形状のばらつきが小さいガラス繊維を製造することが可能である。これにより、前記断面形状の扁平率の変動係数や前記断面形状の円形換算繊維径の変動係数が小さい扁平ガラス繊維を好適に製造できる。なお、ガラス繊維の断面の大きさは、ベース孔及びノズル孔の大きさ、ガラス融液及びノズルの温度、並びに、巻取り機の引っ張り速度等によって適宜設計される。
【0047】
本開示では、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmであるため、ガラス繊維製造用のブッシングにより製造されたガラス繊維を通常は粉砕して、ミルドファイバー(MF)にする必要がある。このように、前記ガラス繊維がガラス繊維の粉砕物であることが好ましい。
【0048】
ガラス繊維を粉砕してMFを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、公知の手法により製造すればよい。例えば、ボールミル、遊星ボールミル、ハンマーミル、ジェットミル、カッターミルなどの公知の粉砕手段を、所望の繊維長に応じて選択することができる。なお、粉砕では、ガラス繊維の断面形状に変化は生じず、ガラス繊維が紡糸された時の断面形状が、そのまま維持される。
【0049】
前記ガラス繊維は、ガラス繊維束であってもよい。また、前記ガラス繊維は、集束剤の塗布や表面処理が施されていてもよい。集束剤としては、特に限定されず、シランカップリング剤、樹脂エマルション、界面活性剤、酸やアルカリ成分などを含む公知の処理剤を用いることができる。また、表面処理としては、特に限定されず、例えば、シランカップリング剤による処理、界面活性剤や化学薬品による処理、めっき処理等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
本開示の塗料用フィラーにおける前記ガラス繊維の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。これにより、効果がより好適に得られる。
本明細書において、本開示の塗料用フィラーにおける前記ガラス繊維の含有割合とは、本開示の塗料用フィラー100質量%における前記ガラス繊維の含有割合を意味し、他の同様の記載の場合も同様である。
【0051】
本開示の塗料用フィラーは、前記ガラス繊維を含むフィラーであるが、前記ガラス繊維以外の他の成分を含有してもよい。前記他の成分としては、特に限定されず、例えば、通常ガラス繊維等の前記ガラス繊維以外のガラス繊維、加工助剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本開示の塗料用フィラーは、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できるため、塗料への使用に好適である。
【0053】
<塗料組成物>
本開示の塗料組成物は、本開示の塗料用フィラーと塗膜形成樹脂を含む。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
本開示の塗料組成物において、本開示の塗料用フィラーの含有割合は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは5~17質量%である。これにより、効果がより好適に得られる。
【0055】
前記塗膜形成樹脂としては、塗膜を形成できる樹脂であれば特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。塗膜形成樹脂の具体例としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂及びその変性物(シリコーン変性アクリル樹脂等);ウレタン樹脂及びその変性物(エステル系ウレタン樹脂;エーテル系ウレタン樹脂;カーボネート系ウレタン樹脂;エポキシ系ウレタン樹脂等);アクリルウレタン樹脂;ポリエステル樹脂及びその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂;エポキシ変性ポリエステル樹脂;シリコーン変性ポリエステル樹脂等);ポリアミド樹脂;メラミン樹脂;フェノール樹脂及びその変性物(アクリル変性フェノール樹脂;エポキシ変性フェノール樹脂等);アルキッド樹脂;エポキシ樹脂;塩化ビニル樹脂;ビニルエステル樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;アクリルシリコーン樹脂;フェノキシ樹脂;アルキド樹脂及びその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);等が挙げられる。
なお、本明細書において、アクリル樹脂とは、主成分がアクリルである樹脂を意味し、その他の樹脂についても同様である。
【0056】
また、前記塗膜形成樹脂は、所望の特性や用途に合わせて、前述した樹脂やそれ以外から選択される1種又は2種以上のものを任意で選択可能である。例えば、主に美観を求められるような塗装用途としてはアクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂やウレタン樹脂、強度を求められるような剥落防止用途としてはエポキシ樹脂やアクリル樹脂が好適に用いられる。また、耐候性や耐薬品性を求められる用途には、例えば、フッ素樹脂を用いることができる。なかでも、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、フッ素樹脂がより好ましい。
【0057】
本開示の塗料組成物において、前記塗膜形成樹脂の含有割合は、好ましくは1~85質量%、より好ましくは20~60質量%である。これにより、効果がより好適に得られる。
【0058】
本開示の塗料組成物は、本開示の塗料用フィラーと前記塗膜形成樹脂に加えて、前記塗膜形成樹脂と反応して硬化塗膜を形成可能な架橋剤を含有することが好ましい。
【0059】
前記架橋剤としては、前記塗膜形成樹脂と反応して硬化塗膜を形成可能であれば特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート化合物;ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物;尿素樹脂等のアミノ樹脂;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記架橋剤の含有量(固形分量)は、前記塗膜形成樹脂の樹脂固形分100質量部に対し、好ましくは5~70質量部、より好ましくは10~30質量部である。これにより、前記塗膜形成樹脂と前記架橋剤との架橋反応が良好に進行し、得られる塗膜外観がより良好となる傾向がある。
【0061】
本開示の塗料組成物は、本開示の塗料用フィラーと前記塗膜形成樹脂に加えて、顔料、染料等の着色剤を含むことで着色してもよい。本開示者は、本開示の塗料用フィラーは、塗料組成物や塗料組成物により形成された塗膜が暗色の場合に光沢度がより優れると考えており、特に、黒色の場合に光沢度が更に優れると考えている。よって、本開示者は、本開示の塗料組成物は、本開示の塗料用フィラーと前記塗膜形成樹脂に加えて、暗色を呈する着色剤を含むことが好ましく、黒色を呈する着色剤を含むことがより好ましいと考えている。
本明細書において、暗色とは、マンセル表色系における明度5以下の色であり、それぞれの色において、明るさの度合いが低く、暗い感じのするものであって、特定の色には限定されない。暗色として具体的には、例えば、黒色、茶色、褐色、紺色、濃灰色等が挙げられる。
【0062】
前記着色剤としては、特に限定されず、例えば、着色顔料、着色染料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記着色顔料としては、特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等が挙げられる。なかでも、カーボンブラックが好ましい。
【0064】
前記着色染料としては、特に限定されず、例えば、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンス(ト)ラキノン系、メチン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系の染料等が挙げられる。
【0065】
本開示の塗料組成物において、前記着色剤の含有割合は、好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。これにより、効果がより好適に得られる。
【0066】
本開示の塗料組成物は特に限定されず、媒体として水を含む水系塗料、媒体として有機溶剤を含む有機溶剤系塗料、媒体を含まない無溶剤塗料のいずれも使用ができるが、媒体に前記塗膜形成樹脂を分散及び/又は溶解させた組成物であることが好ましい。すなわち、本開示の塗料組成物は、本開示の塗料用フィラーと塗膜形成樹脂に加えて、さらに、媒体を含むことが好ましい。これにより、基材への塗布性がより向上し、さらに、塗装された後に乾燥して固まるまでの過程で扁平ガラス繊維のレベリングが起きやすく、得られる塗膜外観がより良好となる傾向がある。
【0067】
前記媒体としては、特に限定されず、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ソルフィット(クラレ社製)等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;トルエン、キシレン、ペンタン、iso-ペンタン、ヘキサン、iso-ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、T-SOL 100、T-SOL 150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤、JXTGエネルギー社製)等の炭化水素系有機溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水、グリコール系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤が好ましい。
【0068】
無溶剤塗料としては、粉体塗料や、液状樹脂塗料が挙げられる。粉体塗料とは、塗膜形成樹脂を含む粉末状の塗料組成物で、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分けられる。熱可塑性樹脂の場合、塗装対象に付着させて加熱溶融後に冷却固化させることで塗膜を形成することができる。また、液状樹脂塗料とは、液状の塗膜形成樹脂を含む塗料組成物で、例えば、紫外線硬化型塗料が挙げられる。紫外線硬化型塗料では、塗装対象に塗布後に紫外線を照射することで光重合反応により塗膜を形成することができる。
【0069】
本開示の塗料組成物に媒体を含む場合、塗料組成物中の前記媒体の含有割合は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~65質量%である。また、塗料組成物に媒体を含む場合、塗料組成物中の前記塗膜形成樹脂の含有割合は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~75質量%であり、塗料組成物中の前記塗料用フィラーの含有割合は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは5~17質量%である。これにより、効果がより好適に得られる。
【0070】
本開示の塗料組成物は、前記成分に加えて、更に、その他の添加剤を含んでもよい。
その他の添加剤としては、特に限定されず、例えば、表面調整剤;体質顔料;ワックス;遮熱顔料;光輝性顔料;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;カップリング剤(シラン系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤等);タレ止め剤;増粘剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;凍結防止剤;乳化剤;防腐剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本開示の塗料組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー、ディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。本開示の塗料組成物の製造方法は、媒体中で、塗膜形成樹脂と、本開示の塗料用フィラーと、を混合する工程を含むことが好ましい。これにより、基材への塗布性がより向上し、さらに、塗装された後に乾燥して固まるまでの過程で扁平ガラス繊維のレベリングが起きやすく、得られる塗膜外観がより良好となる傾向がある。
【0072】
<塗膜>
本開示の塗膜は、本開示の塗料組成物により形成された塗膜である。塗膜の膜厚は、特に限定されず、例えば、0.020~0.10mmである。本開示の塗膜は、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度が改善されているため、上塗り塗膜(保護塗膜、最表層の塗膜)であることが好ましい。もちろん本開示の塗膜は表面の平滑性に優れているため、被塗装物表面の平滑化を目的に中塗り塗料や下塗り塗料に使用しても良い。
【0073】
本開示の塗料組成物の塗装方法は、特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、静電塗装法、浸漬法、電着塗装法、カーテン塗装法、シャワーコート塗装法、ロールコーター塗装法等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの方法等により、本開示の塗料組成物を塗装対象である基材に塗装し、乾燥させることにより塗膜を形成させることができる。
【0074】
本開示の塗料組成物による塗装対象となる基材としては、特に限定されず、例えば、鉄鋼、亜鉛メッキ鋼(例えばトタン板)、錫メッキ鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属基材;石膏、珪酸カルシウム、ガラス、セラミック、コンクリート、セメント、モルタル、スレート等の無機系基材;アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂等のプラスチック基材;紙、布等の繊維基材;木材;等が挙げられる。また、他にも、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材も例示できる。金属基材には、各種表面処理、例えば酸化処理が施された基材も含まれる。また、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)は、無機系基材に含まれる。なお、基材は、その表面が洗剤や溶剤を用いた脱脂、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理、洗浄、研磨等の表面処理が施されたものであってもよく、更に、その上に下塗り塗膜が形成されたものであってもよい。また、基材表面の少なくとも一部に旧塗膜(既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。なかでも、金属基材が好ましい。
【0075】
また、塗装対象として前述したように各種材質の基材が挙げられるが、その具体例としては、特に限定されず、例えば、建築物や構築物等の構造物、車両、家具、建具、電子機器、船舶、路面や、それらの部品が好適に挙げられる。
本明細書において、建築物とは、人間が居住又は滞在する目的で建築された構造物を意味し、例えば住宅(特には戸建や集合住宅)やビル、工場等が挙げられ、構築物とは、人間が居住又は滞在する目的以外のために建設された構造物を意味し、例えば橋梁、タンク、プラント配管、煙突等が挙げられる。また、構造物の部材としては、特に限定されず、例えば、屋根や壁(内壁や外壁等、特にはカーテンウォール)等が挙げられる。また、車両としては、特に限定されず、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等が挙げられる。また、電子機器としては、特に限定されず、例えば、携帯電話、オーディオ機器等の家電機器等が挙げられる。
【0076】
<物品>
本開示の物品は、本開示の塗膜を有する。
本開示の物品は、前述した本開示の塗料組成物により形成された塗膜を有する塗装物品であり、好ましくは該塗膜を基材の表面に有する塗装物品である。ここで、塗膜の膜厚は、特に限定されず、例えば、0.020~0.10mmである。
【0077】
本開示の物品において、基材の詳細については、本開示の塗膜において説明したとおりである。本開示の物品としては、特に限定されず、例えば、本開示の塗膜において塗装対象として説明したような物品の表面に、塗膜を有するものが挙げられる。
【0078】
<塗膜を有する物品の製造方法>
本開示の塗膜を有する物品の製造方法は、媒体中で、塗膜形成樹脂と、本開示の塗料用フィラーと、を混合して塗料組成物を形成する工程と、
前記塗料組成物を物品に塗布する工程と、
塗布した前記塗料組成物を乾燥させて前記媒体を除去して塗膜を得る工程と、を含む。
【0079】
媒体中で、塗膜形成樹脂と、本開示の塗料用フィラーと、を混合して塗料組成物を形成する工程は、<塗料組成物>のセクションで説明した通りである。
前記塗料組成物を物品に塗布する工程は、<塗膜>のセクションで説明した通りである。
塗布した前記塗料組成物を乾燥させて前記媒体を除去して塗膜を得る工程は、<塗膜>のセクションで説明した通りであり、乾燥方法も特に限定されない。
また、本開示の塗膜を有する物品の製造方法は、前記以外の他の工程を含んでもよい。
【実施例0080】
以下、本開示の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
各製造例で得られたガラス繊維は、以下の方法により評価した。
【0082】
(ガラス繊維のコールターカウンター法による繊維長中央値(D50)の測定)
ここでは塗料に添加する、製造例に記載の方法で粉砕したガラス繊維を測定する。測定装置として、電気的検知帯法による精密粒度分布測定装置(Multisizer3、ベックマン・コールター、製造年2007)を用いた。試料溶液は、電解質溶液にガラス繊維を加え、薬さじを用いて混合し、十分に分散させた。サンプルスタンドに電解質溶液の入ったビーカーを設置し、そこに試料溶液をピペットを用いて滴下し、測定を実施した。得られた体積基準の積算分布から、体積を繊維断面積で除して、繊維長中央値(D50)を算出した。
【0083】
(断面観察用サンプルの作製)
ガラス繊維の長手方向と直交する断面は、粉砕前後で変わらないため、ここでは粉砕前の繊維を用いて評価を行った。まず、複数のガラス繊維が束ねられたガラス繊維束を一方向に並べて樹脂に埋め込み、加熱などにより硬化させた(樹脂包埋した)。次に、ガラス繊維が埋め込まれた樹脂を、樹脂が切断できる装置を用いて、並べられたガラス繊維の長手方向と直交する面で切断し、前記切断面をポリッシング研磨加工した。
【0084】
次に、ガラス繊維の長手方向と直交する断面について、走査電子顕微鏡により観察し、各特性の測定を行った。
(前記長軸の長さ、前記短軸の長さの測定)
ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の前記長軸の長さ、前記短軸の長さの測定を行った。
(前記扁平率の算出)
前記長軸の長さ、前記短軸の長さの測定結果に基づいて、前記長軸の長さ/前記短軸の長さにより、ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の扁平率を算出した。
(前記円形換算繊維径の算出)
ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状を、前記短軸の長さを直径とする半円2つと、半円2つの間に、前記長軸の長さから前記半円2つの半径を差し引いたものを横、前記短軸の長さを縦とする長方形を合わせたものと仮定する。すると、ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の面積は、
前記長軸の長さ、前記短軸の長さの測定結果に基づいて、次式(1)により求められる。
(S/2)^2×π+((L-S)×S) (1)
そして、算出した断面形状の面積に基づいて、前記断面形状が円であると仮定した場合の繊維の直径である円形換算繊維径を算出することにより、ガラス繊維の長手方向と直交する断面の断面形状の円形換算繊維径を算出した。
(平均値、変動係数の算出)
前記長軸の長さ、前記短軸の長さ、前記扁平率、前記円形換算繊維径の測定を50個のガラス繊維について行い、それぞれの平均値を算出した。前記扁平率、前記円形換算繊維径については、更に、変動係数も算出した。
【0085】
(製造例1)扁平ガラス繊維の製造
国際公開第2020/040033号に開示されている、ベースプレートと、前記ベースプレート上に複数個配列された、ガラス融液を排出するノズルとを備える、ガラス繊維製造用のブッシングであって、前記ベースプレートは、水平断面が扁平状のベース孔を備え、前記ノズルは、前記ベース孔の輪郭に沿って前記ベースプレートから突出するノズル壁と、前記ベース孔から前記ノズル壁の先端へ向かって、前記ベース孔の形状を維持して貫通するノズル孔とを備え、前記ノズル壁は、前記ベースプレートから突出していない一対の切り欠きを有し、前記一対の切り欠きは、前記ノズル孔の長手方向の中心軸を介して相対して対向し、前記切り欠きの幅は、前記ノズル孔の長手方向の中心軸の長さの10%以上、95%以下であるガラス繊維製造用のブッシングを用いて、断面が扁平形状(長円形)のガラス繊維を製造した。そして、得られたガラス繊維をまず50mmにカットし、その後、ボールミルを用いて粉砕し、扁平ガラス繊維1~6(Eガラス組成)を得た。扁平ガラス繊維1~6の評価結果を表1に示した。
【0086】
(製造例2)通常ガラス繊維の製造
前記ガラス繊維製造用のブッシングが備えるノズルを断面が円状のノズルに変更し、その他の点は、扁平ガラス繊維と同様に行い、通常ガラス繊維1~3(Eガラス組成)を得た。通常ガラス繊維1~3の評価結果を表2に示した。通常ガラス繊維の断面形状は、円形状で、断面の直径は0.011mmであった。
【0087】
(実施例、比較例)
下塗り塗料の主剤(大日本塗料株式会社製マイティ万能水性シーラー(水、酸化チタン、酸化亜鉛等含有))に付属の硬化剤を混合し30分熟成させた後、10cm×10cmの亜鉛メッキ鋼板に刷毛を用いて塗布し、常温下で乾燥させ、厚み0.015mmの下塗り塗膜を形成した。
次に、弱溶剤系フッ素樹脂塗料(ロックペイント株式会社社製サンフロンUV(フッ素樹脂、顔料、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ等含有の茶色の塗料)の主剤に、表1、2に記載の組成に沿って、製造例1、2で得られたガラス繊維を添加して、薬さじを用いて混合し、更に、付属の硬化剤を添加して更に混合し、茶色の上塗り塗料を調製した。上塗り塗料(本開示の塗料組成物)中の媒体の含有割合は35質量%であった。
次に、亜鉛メッキ鋼板上に形成された下塗り塗膜表面に、調製した上塗り塗料を刷毛を用いて塗布し、常温下で乾燥させ、厚み0.040mmの塗膜を形成した。
【0088】
得られた塗膜について、下記試験方法により評価し、結果を表1~2に示した。
【0089】
(塗膜の外観)
塗膜の外観は、目視により、以下の基準により評価した。
×:不良(全体的に凹凸感が強い)
△:やや不良(一部で凹凸感あり)
〇:良好
◎:非常に良好
【0090】
(塗膜の光沢度)
得られた塗膜に対し、HORIBA社製ハンディ光沢計グロスチェッカ IG-331を用いて、60°における塗膜の鏡面光沢度(Gs(60°))を計測し、以下の基準により評価した。光沢度は、40以上であることが好ましい。
×:光沢度0~30
△:光沢度31~45
〇:光沢度46~60
◎:光沢度61~
【0091】
(塗膜の鉛筆硬度)
塗膜の鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4:1999に準拠し、荷重750gの条件において、塑性変形で判定し、以下の基準により評価した。鉛筆硬度は、4B以上であることが好ましい。
×:鉛筆硬度6B未満
△:鉛筆硬度6B~5B(1~2段階向上)
〇:鉛筆硬度4B~2B(3~5段階向上)
◎:鉛筆硬度B~(6段階~向上)
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1、2より、ガラス繊維を含み、前記ガラス繊維は、長手方向と直交する断面の断面形状が、扁平形状であり、前記ガラス繊維の、コールターカウンター法による繊維長中央値が、0.025mm~0.24mmである本開示の塗料用フィラーは、塗膜の外観、光沢度の低下を抑えつつ、硬度を改善できることが分かった。
【0095】
表1、2の結果について、繊維長中央値に対して光沢度をプロットしたグラフを図4に示した。図4から、通常ガラス繊維では、扁平ガラス繊維よりも光沢度が低いだけではなく、その繊維長中央値が大きくなるにつれ、大きく光沢度が低下する一方で、扁平ガラス繊維は、通常ガラス繊維よりも光沢度が高いだけではなく、繊維長中央値が大きくなっても、光沢度の低下が小さく、幅広い繊維長中央値に渡って、光沢度が維持できることが分かった。このように、扁平ガラス繊維では、繊維長中央値を変えても、光沢度を維持できる傾向が見られることが分かった。
【符号の説明】
【0096】
1 塗膜
10 通常ガラス繊維
20 扁平ガラス繊維
21 繊維断面
22 繊維断面に外接する長方形
L 長辺の長さ
S 短辺の長さ
図1
図2
図3
図4