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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158214
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】インフレータブルボート
(51)【国際特許分類】
   B63B 41/00 20060101AFI20241031BHJP
   B63B 35/613 20060101ALI20241031BHJP
   B63B 7/08 20200101ALI20241031BHJP
   B63B 39/06 20060101ALI20241031BHJP
   B63C 9/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B63B41/00
B63B35/613
B63B7/08 B
B63B39/06 A
B63C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073221
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】河合 貴春
(57)【要約】
【課題】
旋回性が損なわれることなく、優れた直進性を示すインフレータブルボートを提供する。
【解決手段】
インフレータブルボート(100)は、船底(10)と、船底(10)の外周に設けられた気胴(20)と、を備え、船首(40)と船尾(42)とを結ぶ第一基準線(80)の中心(M)より当該船尾(42)側において、右舷(20A)および左舷(20B)それぞれにフィン(30)およびフィン(30)を取付けるための基板(32)が設けられおり、フィン(30)が基板(32)に対し繰り返し脱着可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底と、前記船底の外周に設けられた気胴と、を備えるインフレータブルボートであって、
船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より当該船尾側において、右舷および左舷それぞれにフィンおよびフィンを取付けるための基板が設けられており、
前記フィンが前記基板に対し繰り返し脱着可能であることを特徴とするインフレータブルボート。
【請求項2】
前記気胴の所定の位置にオール取付部が設けられており、
側面視において、前記オール取付部と前記船尾との距離を100%としたときに、
前記基板に取り付けられた前記フィンの先端部が、前記船尾から前記距離の50%以上65%以下の位置に配置されている請求項1に記載のインフレータブルボート。
【請求項3】
背面視において前記フィンの基端を通り鉛直方向に伸長する第二基準線を0度としたときに、
板状体である前記フィンが外側に向かって傾いている請求項1または2に記載のインフレータブルボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体により膨張させることで浮力を発揮する気胴を備えるインフレータブルボートに関し、より詳しくは、気胴にフィンが設けられたインフレータブルボートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レジャー用だけではなく、様々な災害が発生した際の救助や避難のための防災用として、ゴムボートやエアボートなどを含むインフレータブルボートの需要が増大している。
【0003】
そのようなインフレータブルボートは、手漕ぎで推進可能なものであって、不使用時にはコンパクトに収納可能であることが求められる。そのため、インフレータブルボートは、シンプルな構造であることが好ましく、エンジンを搭載した船舶に設けられるフィンを有しない態様が一般的であった。
【0004】
しかしながら、インフレータブルボートは、通常の船舶に比べて、重量が軽く、水面下に沈んでいる部分が少ないため、風によって、ボートが横に流され易く、直進性が十分でないという問題があった。
【0005】
そこで本出願人は、船底部分の外周に気胴が固定されており、船底、気胴の下面、気胴の側面、の少なくとも1か所以上に、スケグを有するエアボートを先に提案している(特許文献1)。具体的には特許文献1に、ボートの長さ方向中心から前後方向に亘って取り付けられた板状体であるスケグを備えるエアボートが開示されている。かかるスケグを有するエアボートによれば、直進方向にボートを漕いだ際、ボートが横に流され易く、優れた直進性が示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-334988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述するスケグを備えたエアボートは、直進性は良好に改善される反面、旋回性が損なわれるという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、旋回性が損なわれることなく、優れた直進性を示すインフレータブルボートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインフレータブルボートは、船底と、上記船底の外周に設けられた気胴と、を備えるインフレータブルボートであって、船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より当該船尾側において、右舷および左舷それぞれにフィンおよびフィンを取付けるための基板が設けられおり、上記フィンが上記基板に対し繰り返し脱着可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を備える本発明のインフレータブルボートは、フィンが取り付けられていない従来のインフレータブルボートと同様に収納性に優れ、また良好な旋回性を維持しつつ、高い直進性を示しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態であるインフレータブルボートの斜視図である。
図2】本発明の第一実施形態であるインフレータブルボートの底面図である。
図3】(3A)~(3C)は、本発明の他の実施形態を示す底面図である。
図4】本発明の第一実施形態であるインフレータブルボートの左側面図である。
図5】本発明の第一実施形態であるインフレータブルボートの背面図である。
図6】(6A)は本発明の一実施形態であるインフレータブルボートが水に浮かんだ状態における背面図であり、(6B)は(6A)に示すインフレータブルボートが左に旋回する際の背面図である。
図7】本発明の第二実施形態であるインフレータブルボートの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一実施形態]
以下に図1図6を用いて本発明の第一実施形態を説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。
本発明の説明に関し、いくつかの用語を以下のとおり定義する。前方とは、インフレータブルボートの船首方向を指し、後方とはインフレータブルボートの船尾方向を指す。また上下方向はインフレータブルボートを水に浮かした状態における前後方向および上下方向を指し、左右方向はインフレータブルボートの直進方向に向かった際の左右を指す。また、本発明に関し説明する角度や比率などは、特段の断りがない場合には、人や荷物等が搭載されていない状態で水に浮いたインフレータブルボートに関する。本発明に関し、直進性とは、ボートが直進方向に向かう推進性のことを意味する。
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態であるインフレータブルボート100の斜視図である。図2は、インフレータブルボート100の底面図である。図3A図3Cは、本発明の他の実施形態を示す底面図である。図4は、インフレータブルボート100の左側面図であり、図5は、インフレータブルボート100の背面図である。図6Aはインフレータブルボート100が水に浮かんだ状態における背面図であり、図6B図6Aに示すインフレータブルボート100が左に旋回する際の背面図である。
【0014】
インフレータブルボート100は、船底10と、船底10の外周に設けられた気胴20と、を備える。インフレータブルボート100において、ボートの進行方向に向かって気胴20の右側の部分を右舷20A、左側の部分を左舷20Bと称呼する。
【0015】
インフレータブルボート100は、手漕ぎボートであり、気胴20の上面側の所定の位置には、オール取付部52が設けられている。図1では、オール取付部52にオール50を取り付けられた状態を示している。
【0016】
図2に示すとおり、インフレータブルボート100は、船首40と船尾42とを結ぶ直線を第一基準線80としたとき、第一基準線80の長さ方向の中心Mより船尾42側の領域において、右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれにフィン30を取付けるための基板32が設けられている。図1図2図4図6は、基板32にフィン30が取り付けられた状態を示している。フィン30は基板32に対し繰り返し脱着可能である。
尚、上述するフィン30が設けられる船尾42側の領域とは、より具体的には、中心Mを通過し、第一基準線80に対し直交するラインよりも船尾42側の領域であって、右舷および左舷の水中に沈む領域を指す。
【0017】
インフレータブルボート100は、前後方向の中央である中心Mより船尾42寄りの領域において、右舷20Aおよび右舷20Bそれぞれにフィン30を備えることによって、良好な旋回性を維持しつつ直進性が改善される。本発明者の検討によれば、フィンが中心Mよりも船首40側に設けられた場合、旋回性は損なわれないものの、直進性は何ら改善されなかった。これに対し、フィン30の位置を船尾42寄りにすることで、本発明の所期の課題が解決される。
以下にインフレータブルボート100についてさらに詳細に説明する。
【0018】
インフレータブルボート100は、船底10と、船底10の外周に設けられた気胴20を備え、所謂ゴムボートやエアボートを包含する。インフレータブルボート100の形状や寸法は特に限定されないが、直進性および安定性の観点から、ボートの全長と全幅の比が1:1~2:1であることが好ましく、1:1~1.5:1であることがより好ましい。
【0019】
(船底)
船底10は、インフレータブルボート100の床面を構成する。船底10は板状体などの硬質な部材から構成されてもよいが、より収納性を上げるためにシート状の部材から構成されることが好ましい。シート状の部材により船底10を構成する場合には、図示省略するが、適宜、船底10の上に、取り外し可能な床部材を敷き、あるいは乗船する人が座るための、右舷20Aと左舷20Bとを亘る腰掛部を設けるなどして、使用時に船底10が略平坦な状態を維持できるよう構成してもよい。
【0020】
船底10を構成するための具体的な部材としては、従来のインフレータブルボートの船底を構成する部材から適宜選択することができ、たとえば、ゴム引布や樹脂シートなどの強度が高くかつ柔軟性のあるシート状物が好ましい。上記ゴム引布としては、ポリエステル等の編物、織物、不織布等の繊維基材の両面又は片面をポリ塩化ビニルやエチレンプロピレンジエンゴムなどのゴム等の層を積層したゴム引布などが例示される。また樹脂シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂シート、ポリプロピレン系樹脂シート、ナイロン系樹脂等の各種の樹脂シートが挙げられる。
【0021】
本実施形態では、所定形状のシート状部材を気胴20の下面側に接着または融着などの任意の方法でとりつけて固定している。
【0022】
(気胴)
気胴20は、内部に気体を充填することで膨張する気密性の構造体であり、インフレータブルボート100を水面90において浮かせるための浮力を発揮する。
本実施形態における気胴20は、船底10の外縁12を周方向に連続的に一周する中空気密性のリング状の構造体であり、上述する船底10と同様の部材で構成することができる。尚、図示省略するが、本発明は、リング状の気胴20の替りに、U字状の気胴20あるいは船底10の外縁12を周方向に断続的に一周する気胴20等の種々の態様を包含する。
【0023】
気胴20は、図示省略する給排気口を有する。当該給排気口を介して、気胴20に気体を注入しまた排気させることで、気胴20を膨張させ、また収縮させることができ、収容時にコンパクトな状態にすることができる。
【0024】
(フィンおよび基板)
インフレータブルボート100は、上述するとおり、船尾42側の領域において、右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれに基板32およびかかる基板32に着脱可能に取り付けられるフィン30を備える。フィン30は、インフレータブルボート100の底面側に設けられ直進性を改善するための部材である。スケグを備える上述する特許文献1では、直進性を向上させることができる反面、旋回性が損なわれるという問題があった。しかしながら、フィン30が船尾42寄りに設けられたインフレータブルボート100によれば、良好な旋回性を維持しつつ、直進性を向上させることができる。
【0025】
フィン30の形状は特に限定されないが、直進性をより向上させるとういう観点からは、所定厚みの板状体であることが好ましい。また旋回性をより良好に維持するという観点から、フィン30は、長方形や正方形よりも流線形であることが好ましく、側面視において直進方向と反対方向に面する外縁がS字にカーブしていることがより好ましい。本発明において流線形のフィンとは、水と接触する部分の外縁が流線であることを指し、たとえば外縁において角部を有しない形状を指す。本実施形態におけるフィン30は、厚み5mm以上15mm以下の板状体であって、全体として下方向に膨出した形状をしており、側面視において直進方向と反対方向に面する外縁がS字にカーブしている。またフィン30の前後方向の寸法(先端301から後端304までの長さ)は、良好な旋回性を維持可能な範囲で優れた直進性を引き出す観点から、50mm以上200mm以下であることが好ましい。本実施形態では、基端302の最前部が先端301であり、最後部が終端304であり、基端302より下方に向けてフィン30の前後方向の寸法が小さくなるよう構成されている。
【0026】
フィン30は、水に対し適度な抵抗を発揮し得る硬度を有することが好ましく、たとえば樹脂部材、金属部材または木材などから構成される。特に適度な強度を有しながら軽量性および成形性に優れるという観点からは、フィン30は樹脂部材から構成されることが好ましい。フィン30を構成する樹脂部材としては、たとえば塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂などが挙げられるが、中でも塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0027】
フィン30を取り付けるための基板32は、インフレータブルボート100に取り付けられ固定されている。固定手段は特に限定されず、接着、融着、固定部材の利用など、種々の手段を一種または組み合わせることができる。基板32を構成する部材は、特に限定されず、フィン30を構成する部材と同様の部材から適宜選択することができ、中でもポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0028】
基板32に対するフィン30の着脱の機構は特に限定されないが、たとえば基板32の表面にフィン30の基端302付近を挿入させるための篏合レールが設けられる態様などが例示される。また基板32に対するフィン30の取付角度も特に限定されないが、本実施形態では、基板32の取付面(底面)に対し、フィン30の面が直交する方向に取り付けられている。
【0029】
本実施形態における基板32は、図2に示すとおり第一基準線80のちょうど二分の一の位置(中心M)より船尾42側の領域において、右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれに1つずつ設けられている。本実施形態では、1つの基板32に一枚のフィン30が取り付けられている。右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれに設けられた基板32は、第一基準線80を介してちょうど線対称の位置に設けられ、左右一対のごとく配置されている。
このように右舷20Aおよび左舷20Bの底面の後方側において左右一対のフィン30が取り付けられることで、旋回性を損なうことなく直進性が改善される。
本実施形態における基板32は、フィン30の後端が船尾42より後方側にはみ出さないよう位置決めされている。
【0030】
より優れた直進性および旋回性が示され得るという観点からは、図4に示すとおり、インフレータブルボート100の側面視において、オール取付部52と船尾42との距離L1を100%としたときに、基板32に取り付けられたフィン30の先端301が、船尾42から距離L1の50%以上65%以下の位置に配置されていることが好ましい。ここでフィン30の先端301とは、フィン30が基板32に取り付けられた状態において、最も前方側の位置を指す。また先端301に対し、フィン30の最も後方側の位置を終端304と称する。またL1を特定するためオール取付部52の位置は、オール取付部52のオール30を取り付ける部分の前後方向中心を指す。
【0031】
直進方向に背を向けて乗船することを予定する従来のボートでは、オール50の操作時、船首40側よりも船尾42側における水の一部が当該操作により乱流し、これによって船尾42側が左右などに振れてしまい直進性や旋回性が阻害されている可能性があった。これに対し、本実施形態のインフレータブルボート100では、フィン30の先端301がオール取付部52から適度に離れた位置となるようフィン30が取り付けられることで、オール50の操作により乱れた水流がフィン30により推進方向に良好に整流され、これによって所望方向(即ち、直進方向または旋回方向など)に対する推進性がより改善されるものと推測される。
【0032】
尚、本実施形態では、右舷20Aおよび左舷20Bに一枚ずつフィン30が取り付けられる態様を示しているが、後述するとおり本発明はこれに限定されない。右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれに複数枚のフィン30が取付けられる場合には、最前のフィン30の先端301が、船尾42から距離L1の50%以上65%以下の位置に配置されるとよい。
【0033】
図3を用いてフィン30の取付けに関し、本実施形態とは異なる他の態様の例を説明する。
たとえば、本発明は、図3Aに示すとおり、右舷20Aおよび左舷20Bに一枚ずつフィン30を取り付けるための基板32が設けられるとともに、補助的に船尾42の付近にもフィン30を取り付けるための基板34が設けられたインフレータブルボート100aを包含する。
基板34は、たとえば、インフレータブルボート100aの後方側においてちょうど右舷20Aおよび左舷20Bの境界またはその近傍に設けられる。基板34およびこれに取り付けられるフィン30は、上述する基板32およびこれに取り付けられるフィン30と同様の寸法および形状であってもよいし、異なる寸法および/または形状であってもよい。
【0034】
また本発明は、図3Bに示すとおり、右舷20Aおよび左舷20Bにおいて縦列して2以上の基板32が設けられ、それぞれの基板32にフィン30を取り付けることが可能なインフレータブルボート100bを包含する。
具体的には図3Bでは、同寸法および同形状の2つの基板32が縦列に配置された態様を示しているが、縦列する複数の基板32およびこれらに取り付けられるフィン30は、互いに同寸法および同形状であってもよいし、異なる寸法および/または異なる形状であってもよい。
【0035】
また本発明は、図3Cに示すとおり、右舷20Aおよび左舷20Bにおいて並列して2以上の基板32が設けられ、それぞれの基板32のフィン30を取り付けることが可能なインフレータブルボート100cを包含する。
具体的には図3Cでは、同寸法および同形状の2つの基板32が並列に配置された態様を示しているが、並列する複数の基板32およびこれらに取り付けられるフィン30は、互いに同寸法および同形状であってもよいし、異なる寸法および/または異なる形状であってもよい。尚、図3Cでは、右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれにおいて並列して設けられる基板32は、ちょうど船底10の外縁12を挟んで隣り合うよう配置されている。
【0036】
また図3B図3Cの変形例として、2以上のフィン30を取り付け可能な1つの基板32を右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれの所定の場所に取り付けることで、装着するフィン30の数を増やすこともできる。
【0037】
より優れた旋回性を示すという観点からは、図5に示すとおり、インフレータブルボート100を背面視においてフィン30の基端302を通り鉛直方向に伸長する第二基準線82を0度としたときに、板状体であるフィン30が外側に向かって傾いていることが好ましく、3度以上15度以下の範囲で傾いていることがより好ましく、4度以上10度以下であることがさらに好ましい。フィン30の傾きの調整は、基板32に対するフィン30の取付角度を調整する手段、あるいは、気胴20に対する基板32の取付位置を調整する手段、あるいはこれらの組み合わせなどを挙げることができる。たとえば、本実施形態のように基板32を気胴20に取り付けるための取付面(底面)に対し板状体であるフィン30の面が直交する方向に取り付けられる場合、上記取付面がちょうど船底10の外縁18による僅か段差を亘るよう取り付けることによって基板32を傾斜させ、これによってフィン30を外方向に傾斜させてもよい。
このようにフィン30が所定範囲で傾斜しているインフレータブルボート100は、図6Aに示すとおり、直進している状態または水面90に単に浮かんでいる状態では、フィン30は、第二基準線82に対し、外方向に傾斜しているが、傾斜の度合いは制限されているため、良好な直進性が示され得る。
一方、インフレータブルボート100をたとえば左方向に旋回させるようオールを操作した場合、図6Bに示すとおり、遠心力が働きインフレータブルボート100の左舷20Bが下方に沈み込み、右舷20Aが上方にやや浮いた状態となる。かかる状態では、フィン30は、ちょうど鉛直方向(つまり第二基準線82と並行)またはそれに近い傾斜となり旋回の軸となるため、よりスムーズにインフレータブルボート100の左旋回を実施可能である。同様に、右方向に旋回する場合には、右舷20Aに設けられたフィン30が旋回の軸となって、よりスムーズな右旋回を実施可能である。
【0038】
また、インフレータブルボート100は、図5に示すとおり、背面視において、気胴20の断面中心36を通り鉛直方向に伸長する第三基準線84と、同様に断面中心36を通り第三基準線84から外方向に35度開いた第四基準線86との間に、フィン30を取り付けるための基板32の幅方向中心が位置づけられていることが好ましい。第四基準線86より外方向に基板32を取り付けた場合、フィン30の下端303が船幅Wより外に位置し易く、その結果、インフレータブルボート100を岸に寄せた際などに岩や壁にフィン30が衝突しやすく破損等が生じ易い。本実施形態は背面視においてフィン30の下端303が、船幅Wより外側に突出しないよう(つまり船幅W内に収まるよう)、基板32およびフィン30が配置されている。
【0039】
インフレータブルボート100は、背面視において、気胴20の断面中心36を通り鉛直方向に伸長する第三基準線84と、同様に断面中心36を通り第三基準線84から外方向に35度開いた第四基準線86との間に、フィン30を取り付けるための基板32が設けられ、かつかかる基板32に設けられたフィン30の基端302を通り鉛直方向に伸長する第二基準線82を0度としたときに、板状体であるフィン30が外側に向かって傾いていることがより好ましい。図示する本実施形態では、基板32の幅方向中心が、ちょうど第三基準線34上に位置するよう配置されており、かつ、フィン30が第二基準線82に対し外側に5度傾いている。
【0040】
より優れた旋回性を発揮するという観点からは、インフレータブルボート100は、図5に示すとおり、背面視において、船幅Wに対して、一方のフィン30の下端303から他方のフィン30の下端303までの距離L2が75%以上95%以下であることが好ましい。
このように右舷20Aおよび左舷20Bそれぞれに設けられたフィン30の間隔(距離L2)が適度に大きいことによって、左右方向の荷重移動量を少なくすることができ、旋回時の遠心力に耐える力が増強され、優れた旋回性が示されるものと推察される。
【0041】
上述するとおりフィン30は、基板32に対し繰り返し着脱可能である。そのためインフレータブルボート100は、レジャーなどにおいて特段優れた操作性が求められない場合などには、フィン30を取り付けることなく使用することができ、また必要に応じてフィン30を取り付けることができる。
そして、インフレータブルボート100を収納する際には、フィン30を取り外すことで、収納状態をコンパクトにすることができる。さらに、フィン30が破損した場合には、別のものに容易に交換することがで、また形状の異なる別のフィン30に容易に付け替えることもできる。
【0042】
[第二実施形態]
以下に本発明の第二実施形態のインフレータブルボート200について図7を用いて説明する。図7は、インフレータブルボート200の背面図である。
尚、インフレータブルボート200は、基板32の取付位置が変更になったこと以外は、上述する第一実施形態のインフレータブルボート100と同様に構成される。そのため、第二実施形態では、主に基板32の取付位置について説明する。インフレータブルボート200のそれ以外の構成は、適宜第一実施形態の説明が参照される。
【0043】
インフレータブルボート200では、気胴20の断面中心36を通り鉛直方向に伸長する第三基準線84よりも外側に基板32が取り付けられている。換言すると、第一実施形態は、第二基準線82と第三基準線84とが一致していたが、本実施形態では、基板32に装着されたフィン30の基端302を通り鉛直方向に伸長する第二基準線82'は、第三基準線84より外側に位置している。
このように本発明は、上述する第一実施形態に制限されることなく、基板32の取付位置を変更することができる。ここで基板32は、第一実施形態において説明するとおり、背面視において、気胴20の断面中心36を通り鉛直方向に伸長する第三基準線84と、第三基準線84から外方向に35度開いた第四基準線86との間に取り付けられることが好ましい。
【0044】
図7に示すとおり、本実施形態における基板32に取り付けられた板状体のフィン30は、第二基準線82'を0度としたときに、外側に向かって傾いている。この傾きは、第一実施形態で説明するとおり、3度以上15度以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
本実施形態のように、基板32の取付位置が、第三基準線84に対し上述する好ましい範囲で外方向となるよう決定されることによって、結果として、一方のフィン30の下端303から他方のフィンの下端303までの距離L2をより広く確保し易い。
【0046】
以上に本発明の態様について説明したが、本発明は、上述の説明に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜の態様を含み、また一部を変更することができる。
【実施例0047】
まず実施例および比較例に用いるインフレータブルボートを準備した。
具体的には、長さ寸法1820mm、幅寸法610mmの船底を、リング状の気胴の底面側に貼り付けてなるインフレータブルボートを準備した。気胴は、左右および船尾側においてφ336mmとし船首側がφ511mmとなるよう構成した。船底の構成部材および気胴の構成部材としては、ポリエステル繊維からなる基材の両面にエチレンプロピレンジエンゴムが積層されたゴム引布を用いた。上記インフレータブルボートの左舷および右舷の上面側であって、船首から1325mmの位置にオール取付部の中心位置が配置されるよう、オール取付部を設けた。インフレータブルボートの重量は約10kgであった。
尚、後述する実施例および比較例において、右舷および左舷に取り付けたフィンは上述する第一基準線を中心として線対称に装着されるよう基板の位置を決定した。また実施例および比較例に用いられるフィンを取り付ける基板はいずれも当該フィンを繰り返し着脱可能なものを採用し、またフィンは先端から後端までの長さが150mm、基端から下端までの長さが105mm、最大厚み9.5mmのサイズとし、図1に示される流線形の形状とした。尚、フィンは、ポリ塩化ビニル樹脂を用いて成形し、また基板はポリプロピレン系樹脂を用いて成形した。
【0048】
(実施例1)
上記インフレータブルボートの底面側であって、船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より船尾側において、右舷および左舷それぞれにフィンを装着するための基板を設置してなるインフレータブルボートを実施例1とした。実施例1におけるフィンの位置や角度は、表1に示す。
【0049】
(比較例1)
船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より船尾側だけではなく、船首側においても右舷および左舷それぞれにフィンを装着するための基板を設置したこと以外は、実施例1と同様に構成されたインフレータブルボートを準備し、これを比較例1とした。比較例1におけるフィンの位置や角度は、表1に示す。尚、船首側に設けたフィンは、船尾側に設けたフィンと同形状、同寸法のものを用いた。
【0050】
(比較例2)
比較例1の船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より船尾側に基板を設けなかったこと以外は、比較例1と同様に構成されたインフレータブルボートを比較例2とした。比較例2におけるフィンの位置や角度は、表1に示す。
【0051】
(比較例3)
基板を何ら設けない(即ち、フィンを有しない)こと以外は実施例1と同様のインフレータブルボートを比較例3とした。
【0052】
(直進性の評価)
上述のとおり準備したインフレータブルボートを水の張った全長15mの試験プールの0m地点に浮かし、成人男性が1人乗船した。尚、本試験ではオールは搭載しなかった。
次に、試験者が全長15mの試験プールの15m地点(対岸)から、インフレータブルボートの船首部中央に取り付けられたロープを一定の力で数秒間、直進方向に向けて引っ張った。その後、速やかにロープを手放し、インフレータブルボートの進行を観察し、以下のとおり直進性を評価した。
◎・・・船首部が対岸側に向かって真っすぐの状態を維持しならボートがプールを推進し、対岸到着時、最初に船首部が対岸に接触した。
〇・・・船首部が対岸側に向けて概ね真っすぐの状態を維持しながらボートがプールを推進し、対岸到着時、最初に船首部を少し外れた部分が当該対岸に接触した。
×・・・船首部が対岸側に向けて真っすぐの状態で推進せず、対岸到着時、ボートが横向き又は後ろ向きになってしまったか、あるいは、対岸到着前にボートが横向き又は後ろ向きになってしまい失速し対岸に到着しなかった。
【0053】
(旋回性の評価)
上述のとおり準備したインフレータブルボートを水の張った全長15mの試験プールに浮かし、試験者(成人男性1名)が乗船した。尚、試験者は、船首側に背を向けた姿勢でボートに乗船した。
試験者はインフレータブルボートに搭載されたオールを操作してプール中央までボートを移動させ、次いで左方向に旋回するよう左側のオールを操作し、以下のとおり旋回性を評価した。
◎・・・旋回の操作が非常に行い易く、小回りがききスムーズに旋回することができた。
〇・・・特段の抵抗感なく旋回の操作を行うことができ、旋回することができた。
×・・・操作時に抵抗感があり、旋回し難さを感じた。
【0054】
【表1】
【0055】
上述する本発明は、下記の技術的思想を包含する。
(1)船底と、前記船底の外周に設けられた気胴と、を備えるインフレータブルボートであって、
船首と船尾とを結ぶ第一基準線の中心より当該船尾側において、右舷および左舷それぞれにフィンおよびフィンを取付けるための基板が設けられており、
前記フィンが前記基板に対し繰り返し脱着可能であることを特徴とするインフレータブルボート。
(2)前記気胴の所定の位置にオール取付部が設けられており、
側面視において、前記オール取付部と前記船尾との距離を100%としたときに、
前記基板に取り付けられた前記フィンの先端部が、前記船尾から前記距離の50%以上65%以下の位置に配置されている上記(1)に記載のインフレータブルボート。
(3)背面視において観察し前記フィンの基端を通り鉛直方向に伸長する第二基準線を0度としたときに、
板状体である前記フィンが外側に向かって傾いている上記(1)または(2)に記載のインフレータブルボート。
【符号の説明】
【0056】
10・・・船底
12・・・外縁
20・・・気胴
20A・・・右舷
20B・・・左舷
30・・・フィン
301・・・先端
302・・・基端
303、303A、303B・・・下端
304・・・終端
32、34・・・基板
36・・・断面中心
40・・・船首
42・・・船尾
50・・・オール
52・・・オール取付部
80・・・第一基準線
82、82'・・・第二基準線
84・・・第三基準線
86・・・第四基準線
90・・・水面
100、100a、100b、100c、200・・・インフレータブルボート
L1・・・距離
L2・・・距離
M・・・中心
W・・・船幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7