(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158215
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素供給装置
(51)【国際特許分類】
F17C 7/04 20060101AFI20241031BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20241031BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F17C7/04
C01B3/00 Z
F02M21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073222
(22)【出願日】2023-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年2月23日に開催された「富士スピードウェイ公式テスト」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小阪 尋昭
(72)【発明者】
【氏名】川上 佳史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】中野 智洋
【テーマコード(参考)】
3E172
4G140
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA01
3E172BD03
3E172DA90
3E172EB03
3E172EB10
3E172GA16
3E172GA17
3E172KA03
4G140AB01
(57)【要約】
【課題】動力装置に供給する水素ガスの温度を所定の温度範囲に保つ。
【解決手段】加熱器20と、気化器40と、加熱器20と気化器40の間に熱媒体を循環させる循環流路30と、加熱器20をバイパスするように循環流路30に接続されるバイパス流路35と、熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路と、熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路と、の間で流路を切り換える加熱器入口弁36とバイパス弁37と、制御部70と、を含み、制御部70は、気化器入口熱媒体温度TLが設定温度TS未満の場合に、熱媒体の流路を第1流路に切り換え、気化器入口熱媒体温度TLが設定温度TS以上の場合に、熱媒体の流路を第2流路に切り換える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を加熱する加熱器と、
加熱された前記熱媒体により液体水素を気化させて水素ガスとする気化器と、
前記加熱器と前記気化器の間に前記熱媒体を循環させる循環流路と、
前記加熱器をバイパスするように前記循環流路に接続されるバイパス流路と、
前記熱媒体が前記加熱器を通流し、前記バイパス流路を通流しない第1流路と、前記熱媒体が前記バイパス流路を通流し、前記加熱器を通流しない第2流路と、の間で流路を切り換える切り換え弁と、
前記切り換え弁の動作を調節する制御部と、を含む水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器に流入する前記熱媒体の温度が設定温度未満の場合に、前記切り換え弁によって前記熱媒体の流路を前記第1流路に切り換え、
前記気化器に流入する前記熱媒体の温度が前記設定温度以上の場合に、前記切り換え弁によって前記熱媒体の流路を前記第2流路に切り換えること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器から流出する前記水素ガスが供給される動力装置の出力と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と、が入力され、
前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と前記動力装置の出力に基づいて前記設定温度を算出すること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器から流出する前記水素ガスの温度に基づいてベース設定温度を計算し、
前記動力装置の出力に基づいて設定温度補正値を算出し、
前記ベース設定温度と前記設定温度補正値との合計を前記設定温度とすること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項4】
請求項3に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器から流出する前記水素ガスの温度が高くなるにつれ前記ベース設定温度が低くなるように前記ベース設定温度を算出し、
前記動力装置の出力が大きくなるにつれて前記設定温度補正値が大きくなるように前記設定温度補正値を算出すること、
を特徴とする水素供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素を気化して水素ガスを供給する水素供給装置の水素ガスの温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンに供給する燃料を気化する気化器において、周囲の温度に応じて燃料流量を変化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ガソリンに代わって水素ガスを直接燃焼させる水素エンジンを搭載した水素エンジン車両が用いられている。これらの水素エンジン車両では、液体水素を気化させた水素ガスを水素エンジンに供給する方法が用いられている。水素エンジンに供給される水素ガスの温度が高すぎると水素エンジンの出力が低下してしまい、水素ガスの温度が低すぎると極低温の水素ガスにより水素配管が損傷する場合がある。このため、水素エンジンに供給する水素ガスは所定の温度範囲とすることが求められている。
【0005】
そこで、本開示の水素供給装置は、動力装置に供給する水素ガスの温度を所定の温度範囲に保つことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水素供給装置は、熱媒体を加熱する加熱器と、加熱された前記熱媒体により液体水素を気化させて水素ガスとする気化器と、前記加熱器と前記気化器の間に前記熱媒体を循環させる循環流路と、前記加熱器をバイパスするように前記循環流路に接続されるバイパス流路と、前記熱媒体が前記加熱器を通流し、前記バイパス流路を通流しない第1流路と、前記熱媒体が前記バイパス流路を通流し、前記加熱器を通流しない第2流路と、の間で流路を切り換える切り換え弁と、前記切り換え弁の動作を調節する制御部と、を含む水素供給装置であって、前記制御部は、前記気化器に流入する前記熱媒体の温度が設定温度未満の場合に、前記切り換え弁によって前記熱媒体の流路を前記第1流路に切り換え、前記気化器に流入する前記熱媒体の温度が前記設定温度以上の場合に、前記切り換え弁によって前記熱媒体の流路を前記第2流路に切り換えること、を特徴とする。
【0007】
これにより、気化器から流出する水素ガスの温度を所定の温度範囲に保つことができる。
【0008】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器から流出する前記水素ガスが供給される動力装置の出力と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と、が入力され、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と前記動力装置の出力に基づいて前記設定温度を算出してもよい。
【0009】
これにより、動力装置の出力が変化した場合でも、動力装置に供給される水素ガスの温度を所定の温度範囲に保つことができる。
【0010】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度に基づいてベース設定温度を計算し、前記動力装置の出力に基づいて設定温度補正値を算出し、前記ベース設定温度と前記設定温度補正値との合計を前記設定温度としてもよい。
【0011】
これにより、動力装置の出力に応じた設定温度を算出することができる。
【0012】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度が高くなるにつれ前記ベース設定温度が低くなるように前記ベース設定温度を算出し、前記動力装置の出力が大きくなるにつれて前記設定温度補正値が大きくなるように前記設定温度補正値を算出してもよい。
【0013】
これにより、気化器から流出する水素ガスの温度と動力装置の出力に応じた設定温度を算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の水素供給装置は、動力装置に供給する水素ガスの温度を所定の温度範囲に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の水素供給装置と、その水素供給装置が搭載された水素エンジン車両の構成を示す系統図である。
【
図2】
図1に示す制御部のメモリに格納されたベース設定温度算出用マップである。
【
図3】
図1に示す制御部のメモリに格納された設定温度補正値算出用マップである。
【
図4】
図1に示す水素供給装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら実施形態の水素供給装置100について説明する。以下の説明では、水素供給装置100は、水素エンジン車両200に搭載される動力装置である水素エンジン15に水素ガスを供給するものとして説明する。
【0017】
図1に示すように、水素供給装置100は、熱媒体を加熱して気化器40に供給する加熱回路10と、気化器40で気化した水素ガスを水素エンジン15に供給する水素回路50と、制御部70とを備えている。最初に加熱回路10について説明する。加熱回路10は、加熱器20と、気化器40と、循環流路30と、バイパス流路35と、循環ポンプ34と、加熱器入口弁36と、バイパス弁37とで構成される。
【0018】
加熱器20は、内部に冷却水流路21と熱媒体流路31とを備えている。冷却水流路21は、水素エンジン15の内部流路17を通流した温度の高い冷却水が通流する。熱媒体流路31は、気化器40のケーシング41の内部を通流した低温の熱媒体が通流する。加熱器20は、冷却水流路21を通流する温度の高い冷却水と低温の熱媒体との間で熱交換を行わせて熱媒体を加熱する。ここで、熱媒体は、液体であり、例えば、ロングライフクーラント(LLC)であってもよい。
【0019】
冷却水流路21は、冷却水供給管22と、冷却水戻り管23によって内部流路17に接続されている。内部流路17と、冷却水流路21と、冷却水供給管22と、冷却水戻り管23とは、水素エンジン15と加熱器20との間で冷却水を循環させる冷却水循環流路25を形成する。冷却水循環流路25は、水素エンジン15で温度の上昇した冷却水を加熱器20の冷却水流路21に循環させる。
【0020】
気化器40は、ケーシング41と、ケーシング41の内部に収容された水素チューブ45で構成される。ケーシング41の内部には、加熱器20で加熱された温度の高い熱媒体が通流する。水素チューブ45の内部には低温の液体水素又は水素ガスが通流する。ケーシング41の内部を通流する熱媒体は水素チューブ45の外面を流れ、内部の液体水素を加熱、気化して水素ガスとする。
【0021】
循環流路30は、加熱器20の熱媒体流路31と、熱媒体供給管32と、気化器40のケーシング41と、熱媒体戻り管33とで構成されている。熱媒体供給管32は、熱媒体流路31の出口と気化器40の熱媒体入口42とを接続する。熱媒体戻り管33は、気化器40の熱媒体出口43と熱媒体流路31の入口とを接続する。また、熱媒体供給管32には、循環流路30に熱媒体を循環させる循環ポンプ34が設けられている。また、熱媒体供給管32の熱媒体入口42の近傍には、気化器入口熱媒体温度TLを検出する熱媒体温度センサ38が設けられている。
【0022】
循環ポンプ34で加圧された熱媒体は、熱媒体供給管32を通って熱媒体入口42からケーシング41の内部に流入する。熱媒体は、ケーシング41の内部で水素チューブ45の外面を流れ、水素チューブ45の中を流れる低温の液体水素と熱交換して温度が低下する。温度の低下した熱媒体は、気化器40の熱媒体出口43から熱媒体戻り管33に流出する。熱媒体は、熱媒体戻り管33から加熱器20の熱媒体流路31に流入する。そして、熱媒体流路31で冷却水流路21を流れる温度の高い冷却水と熱交換して温度の上昇した熱媒体は熱媒体供給管32から循環ポンプ34に還流する。
【0023】
バイパス流路35は、熱媒体流路31をバイパスするように、熱媒体供給管32と熱媒体戻り管33とを接続する。バイパス流路35には、バイパス弁37が設けられている。また、バイパス流路35の分岐点と熱媒体流路31の入口との間の熱媒体戻り管33には加熱器入口弁36が設けられている。バイパス弁37と加熱器入口弁36とは、熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路と、熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路との間で流路を切り換える切り換え弁を構成する。すなわち、加熱器入口弁36が開でバイパス弁37が閉の場合には、熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路が形成される。一方、加熱器入口弁36が閉でバイパス弁37が開の場合には、熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路が形成される。
【0024】
次に、水素回路50について説明する。水素回路50は、液体水素タンク51と、液体水素ポンプ入口管52と、液体水素ポンプ53と、液体水素入口管54と、水素チューブ45と、水素ガス出口管56と、減圧弁57と、水素ガス供給管59とで構成されている。
【0025】
液体水素タンク51は内部に低温の液体水素を貯留するタンクである。液体水素ポンプ入口管52は液体水素タンク51と液体水素ポンプ53の吸込口とを接続する。液体水素入口管54は、液体水素ポンプ53の吐出口と水素チューブ45の入口とを接続する。水素ガス出口管56は、水素チューブ45の出口と減圧弁57とを接続する。水素ガス出口管56には、気化器出口水素ガス温度THを検出する水素ガス温度センサ58が取り付けられている。水素ガス供給管59は、減圧弁57と水素エンジン15のインジェクタ16とを接続する。
【0026】
液体水素タンク51に貯留された極低温の液体水素は液体水素ポンプ53によって加圧され、液体水素ポンプ入口管52から水素チューブ45の中に流入する。水素チューブ45の中を流れる液体水素は、水素チューブ45の外面を通流する温度の高い熱媒体との間で熱交換し、気化して水素ガスとなる。水素チューブ45の中を流れる水素ガスは、水素チューブ45の外面を通流する温度の高い熱媒体との間で熱交換し、所定の温度の水素ガスとなって水素チューブ45の出口から水素ガス出口管56に流出する。水素ガスは減圧弁57で水素エンジン15への供給圧力に減圧された後、水素ガス供給管59を通って水素エンジン15のインジェクタ16に供給される。水素ガスは水素エンジン15の内部で燃焼して駆動力を発生するとともに、内部流路17を通流する冷却水の温度を上昇させる。
【0027】
水素エンジン15は、エンジン制御部60によって制御される。エンジン制御部60は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU61と、制御プログラムや制御データが格納されるメモリ62とを含むコンピュータである。エンジン制御部60は、インジェクタ16の開度を調整して水素エンジン15の出力を調整する。エンジン制御部60は、水素エンジン車両200に取り付けられたスタートスイッチ18が接続されている。エンジン制御部60は、スタートスイッチ18がONになると水素エンジン15を始動させ、スタートスイッチ18がOFFとなると水素エンジン15を停止する。また、エンジン制御部60は、後で説明する制御部70と通信して情報の授受を行う。エンジン制御部60は、水素エンジン15の出力とスタートスイッチ18のオン/オフ信号を制御部70に出力する。
【0028】
制御部70は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU71と、制御プログラムや制御データを格納するメモリ72とを備えるコンピュータである。加熱器入口弁36と、バイパス弁37と、循環ポンプ34と、液体水素ポンプ53とは制御部70に接続されて制御部70の指令によって動作する。また、熱媒体温度センサ38と水素ガス温度センサ58とは制御部70に接続され熱媒体温度センサ38が検出した気化器入口熱媒体温度TLと、水素ガス温度センサ58が検出した気化器出口水素ガス温度THとは制御部70入力される。また、制御部70は、エンジン制御部60と情報の授受を行う。制御部70は、エンジン制御部60から水素エンジン15の出力とスタートスイッチ18のオン/オフ信号とを受信する。
【0029】
制御部70はメモリ72の中に
図2に示すベース設定温度算出用マップ75と、
図3に示す設定温度補正値算出用マップ76とを格納している。ベース設定温度算出用マップ75は、気化器出口水素ガス温度THに対するベース設定温度TBを規定したマップである。ベース設定温度TBは、気化器出口水素ガス温度THがTH1まではTB2である。気化器出口水素ガス温度THがTH1とTH2(TH2>TH1)の間では、ベース設定温度TBは、気化器出口水素ガス温度THが高くなるにつれTB2からTB1まで低下する。そして、ベース設定温度TBは、気化器出口水素ガス温度THがTH2を超えるとTB1一定となる。また、設定温度補正値算出用マップ76は、水素エンジン15の出力に対する設定温度補正値TCを規定したマップである。設定温度補正値TCは、水素エンジン15の出力がW1よりも小さい場合には、最小値TC1である。そして、設定温度補正値TCは水素エンジン15の出力がW1からW2まで大きくなるとTC1からTC2まで大きくなる。そして、水素エンジン15の出力がW2を超えると、設定温度補正値TCはTC2一定となる。
【0030】
制御部70は、ベース設定温度算出用マップ75を用いて算出したベース設定温度TBと、設定温度補正値算出用マップ76を用いて算出した設定温度補正値TCにより、設定温度TSを下記の式1で算出する。
設定温度TS=ベース設定温度TB+設定温度補正値TC ・・・ (式1)
設定温度TSは、気化器入口熱媒体温度TLの温度制御を行う場合の目標値である。制御部70は、気化器出口水素ガス温度THが低くなるとベース設定温度TBを高くして気化器入口熱媒体温度TLの温度制御目標値を高くする。これにより、制御部70は、気化器出口水素ガス温度THが低くなった場合に気化器入口熱媒体温度TLを高くして気化器出口水素ガス温度THが高くなるように先行制御する。
【0031】
また、制御部70は、気化器出口水素ガス温度THが高くなるとベース設定温度TBを低くして気化器入口熱媒体温度TLの温度制御目標値を低くする。これにより、気化器出口水素ガス温度THが高くなった場合に気化器入口熱媒体温度TLを低くして気化器出口水素ガス温度THを低下させるように先行制御する。
【0032】
また、水素エンジン15の出力が大きくなると水素ガスの流量が大きくなり、気化器出口水素ガス温度THが低下してくる。一方、水素エンジン15の出力が小さくなると気化器出口水素ガス温度THが上昇してくる。この場合、設定温度TS=ベース設定温度TBとしていると制御応答の遅れから水素エンジン15の出力の増加/減少により気化器出口水素ガス温度THが大きく低下/上昇する場合がある。そこで、実施形態の水素供給装置100では、設定温度補正値算出用マップ76と式1を用いて水素エンジン15の出力に応じて設定温度TSを変化させる先行制御を行う。これにより、気化器出口水素ガス温度THの大きな変動を抑制する。つまり、水素エンジン15の出力が大きくなると出力増加による気化器出口水素ガス温度THの低下を見込んだ分だけ設定温度TSを高くするように設定温度補正値TCを大きくする。また、水素エンジン15の出力が小さくなると出力低下による気化器出口水素ガス温度THの上昇を見込んだ分だけ設定温度TSを低くするように設定温度補正値TCを小さくする。これにより、簡便な方法で水素エンジン15の出力の変動があった場合でも、気化器出口水素ガス温度THを所定の温度範囲に保つことができる。
【0033】
次に
図4を参照して水素供給装置100の動作について説明する。スタートスイッチ18がオンになると、水素エンジン15と水素供給装置100が始動する。水素供給装置100の制御部70は、
図4のステップS101で水素ガス温度センサ58によって気化器出口水素ガス温度THを取得する。制御部70は、
図4のステップS102に進んで、メモリ72に格納しているベース設定温度算出用マップ75を参照して気化器出口水素ガス温度THに対応するベース設定温度TBを算出する。
【0034】
図4のステップS103で制御部70は、エンジン制御部60から水素エンジン15の出力を受信する。そして、制御部70は、
図4のステップS104で
図3に示す設定温度補正値算出用マップ76を参照して水素エンジン15の出力に対応する設定温度補正値TCを算出する。
【0035】
次に、制御部70は、
図4のステップS105に進んで先に述べた式1により設定温度TSを算出する。
【0036】
次に、制御部70は、
図4のステップS106に進んで、熱媒体温度センサ38によって気化器入口熱媒体温度TLを取得する。そして、制御部70は、
図4のステップS107に進んで、気化器入口熱媒体温度TLが設定温度TS以上かどうかを判断する。制御部70は、
図4のステップS107でYESと判断した場合には、
図4のステップS108に進んで、加熱器入口弁36を閉とするとともにバイパス弁37を開とする。これにより熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路が形成される。この場合、循環ポンプ34で加圧された熱媒体は、熱媒体供給管32から気化器40のケーシング41、熱媒体戻り管33、バイパス流路35を通って循環ポンプ34に還流する。
【0037】
一方、
図4のステップS107でNOと判断した場合、制御部70は、
図4のステップS109に進んで加熱器入口弁36を開とし、バイパス弁37を閉とする。これにより、熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路が形成される。この場合、循環ポンプ34で加圧された熱媒体は、熱媒体供給管32から気化器40のケーシング41、熱媒体戻り管33、加熱器20の熱媒体流路31を通って循環ポンプ34に還流する。
【0038】
制御部70は、
図4のステップS108又はステップS109を実行したら
図4のステップS110に進む。制御部70は、ステップS110でエンジン制御部60からスタートスイッチ18のオフ信号を受信しているか判断する。制御部70は、
図4のステップS110でNOと判断した場合には、
図4のステップS101に戻ってステップS101からステップS110の動作を繰り返して実行する。一方、制御部70は、
図4のステップS110でYESと判断した場合には処理を終了する。
【0039】
このように、気化器入口熱媒体温度TLが設定温度TS以上の場合には、制御部70は、加熱器入口弁36を閉とするとともにバイパス弁37を開として熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路が形成する。これにより、水素エンジン15から熱媒体への熱移動がなくなり、熱媒体の温度が低下し、気化器出口水素ガス温度THが低下する。一方、気化器入口熱媒体温度TLが設定温度TS未満の場合には、制御部70は、加熱器入口弁36を開とするとともにバイパス弁37を閉として熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路が形成される。これにより、水素エンジン15から熱媒体への熱移動により熱媒体の温度が上昇し、気化器出口水素ガス温度THが高くなる。これにより、水素供給装置100は、気化器出口水素ガス温度THを所定の範囲内に保ち、水素ガスの温度が高くなることによる水素エンジン15の出力の低下や、水素ガスの温度が低くなることによる水素配管の損傷を抑制することができる。
【0040】
また、制御部70は、水素エンジン15の出力増加による気化器出口水素ガス温度THの低下を見込んだ分だけ設定温度TSを高くするように設定温度補正値TCを大きくし、水素エンジン15の出力低下による気化器出口水素ガス温度THの上昇を見込んだ分だけ設定温度TSを低くするように設定温度補正値TCを小さくする。これにより、簡便な方法で水素エンジン15の出力の変動があった場合でも、気化器出口水素ガス温度THを所定の温度範囲に保つことができる。
【0041】
尚、水素供給装置100では、循環流路30を循環する熱媒体としてLLC等の液体を用いている。このため、循環流路30に中を還流する熱媒体の熱容量が大きい。これにより、切り換え弁で熱媒体の流路を第1流路と第2流路との間で切り換えるという簡便な制御で気化器出口水素ガス温度THを所定の温度範囲に保つことができる。
【0042】
以上の説明では、バイパス弁37と加熱器入口弁36とは、熱媒体が加熱器20を通流し、バイパス流路35を通流しない第1流路と、熱媒体がバイパス流路35を通流し、加熱器20を通流しない第2流路との間で流路を切り換える切り換え弁を構成するとして説明したがこれに限定されない。例えば、流路をバイパス流路側と加熱器側とで切り換える三方弁によって切り換え弁を構成してもよい。
【0043】
また、以上の説明では、水素供給装置100は水素エンジン車両200の水素エンジン15に水素ガスを供給するものとして説明したがこれに限定されない。例えば、車両に搭載された動力装置である燃料電池に水素ガスを供給するものでもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 加熱回路、15 水素エンジン、16 インジェクタ、17 内部流路、18 スタートスイッチ、20 加熱器、21 冷却水流路、22 冷却水供給管、23 冷却水戻り管、25 冷却水循環流路、30 循環流路、31 熱媒体流路、32 熱媒体供給管、33 熱媒体戻り管、34 循環ポンプ、35 バイパス流路、36 加熱器入口弁、37 バイパス弁、38 熱媒体温度センサ、40 気化器、41 ケーシング、42 熱媒体入口、43 熱媒体出口、45 水素チューブ、50 水素回路、51 液体水素タンク、52 液体水素ポンプ入口管、53 液体水素ポンプ、54 液体水素入口管、56 水素ガス出口管、57 減圧弁、58 水素ガス温度センサ、59 水素ガス供給管、60 エンジン制御部、61、71 CPU、62、72 メモリ、70 制御部、75 ベース設定温度算出用マップ、76 設定温度補正値算出用マップ、100 水素供給装置、200 水素エンジン車両。