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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158229
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】化成処理の前処理の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073251
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA02
2G050BA20
2G050CA03
2G050EB10
(57)【要約】
【課題】短時間で精度良く耐食性を評価することができる化成処理の前処理の評価方法を提供する。
【解決手段】化成処理の前処理の評価方法は、合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理の評価方法であって、評価対象の前処理を行った合金部品の試験片である第1試験片を表面分析し、第1試験片の合金成分の割合を表す第1元素組成を取得するステップと、所定の相関関係と、第1元素組成とに基づき、第1試験片に対する前処理を評価するステップとを含み、相関関係は、合金部品の試験片である第2試験片に対して前処理を行った後、表面分析して得た第2試験片の合金成分の割合を表す第2元素組成と、第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づく相関関係である。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理の評価方法であって、
評価対象の前記前処理を行った前記合金部品の試験片である第1試験片を表面分析し、前記第1試験片の合金成分の割合を表す第1元素組成を取得するステップと、
所定の相関関係と、前記第1元素組成とに基づき、前記第1試験片に対する前記前処理を評価するステップと
を含み、
前記相関関係は、前記合金部品の試験片である第2試験片に対して前記前処理を行った後、表面分析して得た前記第2試験片の合金成分の割合を表す第2元素組成と、前記第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づく相関関係である
化成処理の前処理の評価方法。
【請求項2】
前記相関関係は、複数の異なる処理条件で前記前処理を行った複数の前記第2試験片の表面分析によって得られた各前記第2元素組成と、各前記第2試験片に前記化成処理を行った後、前記耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づいて得られた相関関係である
請求項1に記載の化成処理の前処理の評価方法。
【請求項3】
前記表面分析におけるスパッタリングの表面深さが所定の同一範囲に設定されている
請求項2に記載の化成処理の前処理の評価方法。
【請求項4】
前記相関関係は、前記第2元素組成に基づく第1成分比に基づく値を被除数に含み、かつ、前記第2元素組成に基づく第2成分比に基づく値を除数に含む除算の結果得られた値と、前記第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた腐食の度合いを表す値との相関関係である
請求項1から3のいずれかに記載の化成処理の前処理の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化成処理の前処理の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1の背景技術の欄に記載されているように、金属材料の耐食性評価は、耐食性評価試験(腐食促進試験)、電気化学測定等によって行われる。耐食性評価試験には、塩水噴霧試験、これに湿潤や乾燥の雰囲気条件を組み合わせる複合サイクル試験があり、これらの試験では、試験片や実部品の腐食を促進することで実環境よりも短期間で耐食性の優劣が判断される。ただし、これらの試験に要する時間は、要求される仕様によって異なるが、例えば数十~数百時間に及ぶことがある。一方、電気化学測定は例えば一時間程度で行うことができるが、定量評価性が比較的低い場合があり、また、塩水噴霧試験や複合サイクル試験との関連性が取りにくいという課題がある。
【0003】
なお、塩水噴霧試験は、試験槽内で塩水を噴霧し、一定時間後に試験片に発生した腐食ピット数で耐食性を評価する試験である。また、複合サイクル試験は、試験槽内で塩水噴霧、乾燥、湿潤などの腐食サイクルを組み合わせて一定時間後に試験片に発生した腐食ピット数で耐食性を評価する試験である。また、電気化学測定は、試験液に試験片を浸漬し、孔食電位を測定することで耐食性を評価する試験である。
【0004】
また、特許文献2には、例えばオーステナイト系ステンレス鋼のような長時間の耐久性を有する耐熱鋼に関しても、精度よく、クリープ余寿命を評価することができる耐熱鋼の損傷評価方法が記載されている。特許文献2に記載されている評価方法は、検査対象である耐熱鋼を腐食させてその耐熱鋼表面に腐食ピットを発生させ、その腐食ピットの単位面積当たりの個数であるピット個数密度の検出を行うとともに、耐熱鋼が破壊に至るまでの余寿命を示すクリープ寿命消費率とピット個数密度との関係線図を予め用意しておき、ピット個数密度の検出値に基づき関係線図からクリープ余寿命が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-54607号公報
【特許文献2】特開2008-32480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記事情を背景としてなされたものであって、短時間で精度良く耐食性を評価することができる化成処理の前処理の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る化成処理の前処理の評価方法は、合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理の評価方法であって、評価対象の前記前処理を行った前記合金部品の試験片である第1試験片を表面分析し、前記第1試験片の合金成分の割合を表す第1元素組成を取得するステップと、所定の相関関係と、前記第1元素組成とに基づき、前記第1試験片に対する前記前処理を評価するステップとを含み、前記相関関係は、前記合金部品の試験片である第2試験片に対して前記前処理を行った後、表面分析して得た前記第2試験片の合金成分の割合を表す第2元素組成と、前記第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づく相関関係である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の化成処理の前処理の評価方法によれば、短時間で精度良く耐食性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る製造工程の一例を示す図である。
図2】本開示の実施形態に係る相関関係の取得処理の例を示す図である。
図3】本開示の実施形態に係る相関式導出処理の一例を示す図である。
図4】本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
図5】本開示の実施形態に係る相関式導出処理の他の例を示す図である。
図6】本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
図7】本開示の実施形態に係る相関式導出処理の他の例を示す図である。
図8】本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
図9】本開示の実施形態に係る評価処理の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る化成処理の前処理の評価方法について、図1図9を参照して説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0011】
本開示の実施形態に係る化成処理の前処理の評価方法は、合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理の評価方法である。まず、図1を参照して、評価対象となる化成処理の前処理の例について説明する。
【0012】
図1は、本開示の実施形態に係る製造工程の一例を示す図である。図1に示す製造工程の例は、機械加工(ステップS11)がなされた合金11に、表面処理12(ステップS21)を施し、さらに塗装13(ステップS15)を施す例である。なお、合金11は、銅が添加されたアルミニウム合金であるとする。
【0013】
図1に示す例では、機械加工(ステップS11)の後、油除去のためアルカリ性の溶液を用いたアルカリ洗浄が行われる(ステップS12)。次に自然酸化膜除去のため、酸性の溶液を用いた酸洗浄が行われる(ステップS13)。次に防食被膜生成のため、化成処理が行われる(ステップS14)。次に、塗装が行われ(ステップS15)、その後、組立工程が実施される(ステップS16)。
【0014】
なお、化成処理は、金属などの素材の表面に、化学的な方法によって皮膜を形成する処理である。また、図1に示す例では、本実施形態が評価対象とする前処理(ステップS22)が、アルカリ洗浄(ステップS12)と、酸洗浄(ステップS13)とを含む。また、表面処理(ステップS21)は、前処理(ステップS22)と化成処理(ステップS13)とを含む。なお、実際の製造工程では、例えば、水洗浄、湯洗浄等の工程が各工程の間に含まれている。
【0015】
本開示の実施形態に係る化成処理の前処理の評価方法は、事前に次の処理を実施する。すなわち、(1)まず、評価対象の前処理が行われた複数の合金の試験片に対して表面分析を行うことで、主成分であるアルミニウムと他の元素との各成分比(組成)を把握する。なお、本実施形態において表面分析によって得た合金の成分比は、合金中の表面および表面から所定の深さ以内の各成分元素の比率であり、例えば全成分元素の質量に対する各成分元素の各質量の比率で表すことができる。ただし、これに限定されず、成分比は、例えば原子比や体積比で表してもよい。また、合金の組成は、合金を構成する各元素の量(質量、原子数等)の割合である。ただし、ここで、各元素とは、合金が含むすべての元素という意味と、合金が含む少なくとも2以上の元素という意味を含む。(2)次に、その評価対象の前処理が行われた合金の試験片に対して耐食性評価試験を実施する。(3)次に、耐食性評価試験の結果得られた定量的な試験結果と、表面分析の結果得られた各成分比とに基づいて相関関係(相関式)を算出する。
【0016】
図2は、本開示の実施形態に係る相関関係の取得処理の例を示す図である。図2に示す処理では、例えば複数の異なる処理条件で前処理を行った複数の試験片の表面分析によって得られた各元素組成と、各試験片に化成処理を行った後、耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づいて元素組成と耐食性の試験結果とに基づく相関関係を取得する(ステップS30)。なお、元素組成は、各元素の各成分比と読み替えてもよい。また、この相関関係は、例えば、耐食性評価試験によって得られた腐食を表す数値や指標と、表面分析によって得られた各元素の成分比に基づく数値との間の関係とすることができる。すなわち、相関関係を求める各要素を、耐食性評価試験後の腐食を表す数値や指標、および、表面分析によって得られた各元素の成分比に基づく数値とすることができる。ここで、成分比に基づく数値は、例えば、特定の1つの元素の成分比または複数の元素の成分比の合計としてもよい。あるいは、成分比に基づく数値は、例えば、1または複数の元素の成分比の合計に対する1または複数の元素の成分比の合計の割合(以下、この割合を成分比率ともいう)を表す値とすることができる。例えば、合金が元素E1と元素E2と元素E3を含む場合、成分比率は(元素E1の成分比)÷(元素E2の成分比+元素E3の成分比)とすることができる。この場合、相関関係は、元素組成に基づく第1成分比に基づく値を被除数に含み、かつ、元素組成に基づく第2成分比に基づく値を除数に含む除算の結果得られた値と、試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた腐食の度合いを表す値との相関関係である。本実施形態に係るアルミニウム合金の場合、成分比率は、例えば、銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値とすることができる。また、相関関係を取得する際の前処理における処理条件については、複数の試験片に対して必ずしも異ならせなくてもよい。例えば、前処理における溶液の使用時間が異なっていれば、処理条件は同一としてもよい。
【0017】
図3は、本開示の実施形態に係る相関式導出処理の一例を示す図である。図4は、本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
【0018】
図3に示す例は、評価対象の前処理を図1に示す酸洗浄(ステップS13)とし、化成処理を図1に示す化成処理(ステップS14)とし、表面分析をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法)とし、相関関係を求める一方の要素を銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値とし、耐食性評価試験を塩水噴霧試験として、相関関係を求める他方の要素を腐食ピット数とする場合の例である。また、試験片に対しては図3に示す処理の前に例えばアセトンなどの溶剤や洗浄剤で洗浄を実施する。
【0019】
図3に示す例では、まず、複数の試験片に対して評価対象の前処理を実施する(ステップS40)。なお、ステップS40では、複数の試験片に対して行う前処理の処理条件(例えば処理時間、液流速、温度、濃度等)を、例えば試験片ごと変化させることが望ましい。次に、前処理を実施した複数の試験片の一部に対してXPSによる表面分析を実施し、銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値(成分比率)(A)を取得する(ステップS41)。また、複数の試験片の残部に対して化成処理を実施する(ステップS42)。次に、化成処理を実施した複数の試験片に対して塩水噴霧試験を実施して試験結果として単位面積当たりの耐食性腐食ピット数(B)を取得する(ステップS43)。そして、成分比率(A)とピット数(B)の測定結果の相関付けによって相関式を導出する(ステップS44)。図4に相関式の例を示す。
【0020】
図4において、横軸は銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値(A)であり、縦軸は単位面積当たりの耐食性腐食ピット数(B)である。丸印は測定結果を表し、実線が相関式を表す曲線である。図4に示す例において、ピット数の閾値が破線で示す値であるとすると、実線と破線の交点に対応する成分比率を基準として例えば前処理の合否を評価することができる。
【0021】
図3に示す処理によって取得した相関式を用いることで、アルミニウムの成分比と銅の成分比の各値から、塩水噴霧試験による耐食性評価無しで適切な前処理条件を選定することができるようになる。
【0022】
図5は、本開示の実施形態に係る相関式導出処理の他の例を示す図である。図6は、本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
【0023】
また、図5に示す例は、評価対象の前処理を図1に示すアルカリ洗浄(ここではケイ酸系アルカリ洗浄とする)(ステップS12)とし、化成処理を図1に示す化成処理(ステップS14)とし、表面分析をXPSとし、合金の成分比率をケイ素の成分比をアルミニウムの成分比で除した値とし、耐食性評価試験を塩水噴霧試験とする場合の例である。また、試験片に対しては図5に示す処理の前に例えばアセトンなどの溶剤や洗浄剤で洗浄を実施する。
【0024】
図5に示す例では、まず、複数の試験片に対して評価対象の前処理(アルカリ洗浄)を実施する(ステップS50)。なお、ステップS50では、複数の試験片に対して行う前処理の処理条件(例えば処理時間、液流速、温度、濃度等)を、例えば試験片ごと変化させることが望ましい。次に、前処理を実施した複数の試験片の一部に対してXPSによる表面分析を実施し、ケイ素の成分比をアルミニウムの成分比で除した値(A)を取得する(ステップS51)。また、複数の試験片の残部に対して、ステップS13に対応する前処理(酸洗浄)を実施する(ステップS52)。ここでは、複数の試験片に対する前処理の処理条件は同一とする。次に、化成処理を実施する(ステップS53)。次に、化成処理を実施した複数の試験片に対して塩水噴霧試験を実施して試験結果として単位面積当たりの耐食性腐食ピット数(B)を取得する(ステップS54)。そして、成分比率(A)とピット数(B)の測定結果の相関付けによって相関式を導出する(ステップS55)。図6に相関式の例を示す。
【0025】
図6において、横軸はケイ素との成分比をアルミニウムの成分比で除した値(A)であり、縦軸は単位面積当たりの耐食性腐食ピット数(B)である。丸印は測定結果を表し、実線が相関式を表す曲線である。図6に示す例において、ピット数の閾値が破線で示す値であるとすると、実線と破線の交点に対応する成分比を基準として例えば前処理の合否を評価することができる。
【0026】
図5に示す処理によって取得した相関式を用いることで、アルミニウムの成分比とケイ素の成分比の各値から、塩水噴霧試験による耐食性評価無しで適切なケイ酸系アルカリ洗浄条件を選定することができるようになる。
【0027】
図7は、本開示の実施形態に係る相関式導出処理の一例を示す図である。図8は、本開示の実施形態に係る相関式の例を示す図である。
【0028】
図7に示す例は、評価対象の前処理を図1に示す酸洗浄(ステップS13)とし、化成処理を図1に示す化成処理(ステップS14)とし、表面分析をXPSとし、合金の成分比率を銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値とし、耐食性評価試験を電気化学測定とする場合の例である。また、試験片に対しては図7に示す処理の前に例えばアセトンなどの溶剤や洗浄剤で洗浄を実施する。
【0029】
図7に示す例では、まず、複数の試験片に対して前処理を実施する(ステップS60)。なお、ステップS60では、複数の試験片に対して行う前処理の処理条件を、例えば試験片ごと変化させることが望ましい。次に、前処理を実施した複数の試験片の一部に対してXPSによる表面分析を実施し、銅との成分比をアルミニウムの成分比で除した値(A))を取得する(ステップS61)。また、複数の試験片の残部に対して化成処理を実施する(ステップS62)。次に、化成処理を実施した複数の試験片に対して電気化学測定を実施して試験結果として孔食電位(B)を取得する(ステップS63)。そして、成分比率(A)と孔食電位(B)の測定結果の相関付けによって相関式を導出する(ステップS64)。図8に相関式の例を示す。
【0030】
図8において、横軸は銅の成分比をアルミニウムの成分比で除した値(A)であり、縦軸は孔食電位(B)である。矩形の高さが相関関係を表す。図8に示す例において、液成分濃度の良好または不良の判定における孔食電位の閾値が破線で示す値であるとすると、孔食電位の閾値と等しい孔食電位に対応するアルミニウムと銅との成分比を基準として例えば前処理の合否を評価することができる。
【0031】
図7に示す処理によって取得した相関式を用いることで、アルミニウムの成分比と銅の成分比の値から、前処理(酸洗浄)による孔食電位を推定できるようになり、例えば前処理液の成分濃度の良否を判断できるようになる。
【0032】
なお、上述した例では、表面分析をXPSとする場合と例としたが、表面分析の手法は他の手法であってもよい。例えば、2次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion Mass Spectrometry)、オージェ電子分光分析法(AES;Auger Electron Spectroscopy)等としてもよい。また、表面分析におけるスパッタリングの表面深さは所定の同一範囲に設定しておくことが望ましい。例えば、スパッタリングの表面深さは2.5nm以内とすることで相関係数が高い相関式を導出することができる。
【0033】
図9は、本開示の実施形態に係る評価処理の例を示す図である。なお、図9に示す例では、評価対象の試験片を第1試験片、成分比を第1元素組成という。図9に示す処理では、まず、合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理である評価対象の前処理を行った合金部品の試験片である第1試験片を表面分析し、第1試験片の各合金成分の割合を表す第1元素組成を取得する(ステップS71)。次に、図2のステップS30で取得した相関関係と、第1元素組成とに基づき、第1試験片に対する前処理を評価する(ステップS72)。
【0034】
(作用効果)
上記構成の化成処理の前処理の評価方法によれば、短時間で精度良く耐食性を評価することができる。
【0035】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記実施形態では、XPSによる表面分析を行う試験片と、化成処理および耐食性評価試験を行う試験片とを別の試験片としたが、表面分析を行った試験片に対して化成処理および耐食性評価試験を行うようにしてもよい。また、図5に示す酸洗浄(ステップS52)は省略してもよい。また、耐食性評価試験は、他の品質評価試験としてもよい。
【0036】
<付記>
上記実施形態に記載の化成処理の前処理の評価方法は、例えば以下のように把握される。
【0037】
(1)第1の態様に係る化成処理の前処理の評価方法は、合金部品に対する化成処理の前に行われる溶液を用いた前処理の評価方法であって、評価対象の前記前処理を行った前記合金部品の試験片である第1試験片を表面分析し、前記第1試験片の合金成分の割合を表す第1元素組成を取得するステップと、所定の相関関係と、前記第1元素組成とに基づき、前記第1試験片に対する前記前処理を評価するステップとを含み、前記相関関係は、前記合金部品の試験片である第2試験片に対して前記前処理を行った後、表面分析して得た前記第2試験片の合金成分の割合を表す第2元素組成と、前記第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づく相関関係である。本態様および以下各態様によれば、短時間で精度良く耐食性を評価することができる。
【0038】
(2)第2の態様に係る化成処理の前処理の評価方法は、(1)の化成処理の前処理の評価方法であって、前記相関関係は、複数の異なる処理条件で前記前処理を行った複数の前記第2試験片の表面分析によって得られた各前記第2元素組成と、各前記第2試験片に前記化成処理を行った後、前記耐食性評価試験を実施した結果得られた試験結果とに基づいて得られた相関関係である。本態様によれば、適切に相関関係を取得することができる。
【0039】
(3)第3の態様に係る化成処理の前処理の評価方法は、(1)または(2)の化成処理の前処理の評価方法であって、前記表面分析におけるスパッタリングの表面深さが所定の同一範囲に設定されている。本態様によれば、さらに適切に相関関係を取得することができる。
【0040】
(4)第4の態様に係る化成処理の前処理の評価方法は、(1)~(3)の化成処理の前処理の評価方法であって、前記相関関係は、前記第2元素組成に基づく第1成分比に基づく値を被除数に含み、かつ、前記第2元素組成に基づく第2成分比に基づく値を除数に含む除算の結果得られた値と、前記第2試験片に対して耐食性評価試験を実施した結果得られた腐食の度合いを表す値との相関関係である。
【符号の説明】
【0041】
11…合金
12…表面処理
13…塗装
S14…化成処理
S22…前処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9