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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158231
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素供給装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 7/04 20060101AFI20241031BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20241031BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F17C7/04
C01B3/00 Z
F02M21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073256
(22)【出願日】2023-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年2月23日に開催された「富士スピードウェイ公式テスト」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 良太
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松尾 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】中野 智洋
【テーマコード(参考)】
3E172
4G140
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA01
3E172BD03
3E172DA61
3E172EB03
3E172EB10
3E172GA16
3E172GA17
3E172KA03
4G140AB01
(57)【要約】
【課題】熱媒体に液体を用いる気化器において熱媒体の凍結を抑制する。
【解決手段】加熱器20と、気化器40と、加熱器20と気化器40の間に熱媒体を循環させる循環流路30と、気化器40の熱媒体の圧力P1、P2と、気化器40の熱媒体の温度TLと、気化器40から流出する水素ガスの温度THが入力される制御部70と、を含む水素供給装置100であって、制御部70は、圧力P1,P2と、温度TLと、水素ガスの温度THに基づいて、水素エンジン15の出力を制限する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の熱媒体を加熱する加熱器と、
加熱された前記熱媒体により液体水素を気化させて水素ガスとする気化器と、
前記加熱器と前記気化器の間に前記熱媒体を循環させる循環流路と、
前記気化器の前記熱媒体の圧力と、前記気化器の前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度とのいずれか一つ又は複数が入力される制御部と、を含む水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器の前記熱媒体の圧力と、前記気化器の前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度のいずれか一つ又は複数に基づいて、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器の前記熱媒体の入口圧力と、前記気化器の前記熱媒体の出口圧力とが入力され、
前記入口圧力と前記出口圧力との差圧が所定の圧力閾値以上の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器から流出する前記熱媒体の温度が入力され、
前記熱媒体の温度が所定の温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項4】
請求項1に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器から流出する前記水素ガスの温度が入力され、
前記水素ガスの温度が所定の水素ガス温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、
を特徴とする水素供給装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水素供給装置であって、
前記制御部は、
前記気化器の前記熱媒体の入口圧力と、前記気化器の前記熱媒体の出口圧力と、前記気化器から流出する前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と、が入力され、
前記入口圧力と前記出口圧力との差圧が所定の圧力閾値以上の場合、又は前記熱媒体の温度が所定の温度閾値未満の場合、又は前記水素ガスの温度が所定の水素ガス温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、
を特徴とする水素供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素を気化して水素ガスを供給する水素供給装置の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体水素とLNGとの熱交換を行う熱交換器において、LNGの流路の入口と出口の差圧を検出し、差圧が大きい場合にLNGの流路の凍結を検出する技術が開示されている。また、特許文献1には、上記の差圧が大きい場合には、熱交換器をバイパスするバイパス流路に液体水素を通流させ、熱交換器を通流する液体水素の流量を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-210976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ガソリンに代わって水素ガスを直接燃焼させる水素エンジンを搭載した水素エンジン車両が用いられている。これらの水素エンジン車両では、液体水素を気化器で気化させた水素ガスを水素エンジンに供給する方法が用いられている。気化器は液体水素と熱媒体との熱交換器であり、熱媒体としては凍結しにくいヘリウムガス等の気体が用いられている。しかし、熱媒体として気体を用いた場合、気化器が大型になってしまうという問題があった。このため、熱媒体として水などの液体を用いることが検討されている。しかし、液体の熱媒体を用いると熱媒体の凍結により気化器の熱交換性能が低下し、極低温の水素ガスが水素配管に流入して水素配管が損傷するおそれがある。このため、気化器に液体の熱媒体を用いる場合には熱媒体の凍結を抑制することが必要となる。
【0005】
そこで、本開示の水素供給装置は、熱媒体に液体を用いる気化器において、熱媒体の凍結を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水素供給装置は、液体の熱媒体を加熱する加熱器と、加熱された前記熱媒体により液体水素を気化させて水素ガスとする気化器と、前記加熱器と前記気化器の間に前記熱媒体を循環させる循環流路と、前記気化器の前記熱媒体の圧力と、前記気化器の前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度とのいずれか一つ又は複数が入力される制御部と、を含む水素供給装置であって、前記制御部は、前記気化器の前記熱媒体の圧力と、前記気化器の前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度のいずれか一つ又は複数に基づいて、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限すること、を特徴とする。
【0007】
これにより、熱媒体に液体を用いた気化器において、熱媒体の凍結を抑制することができる。
【0008】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器の前記熱媒体の入口圧力と、前記気化器の前記熱媒体の出口圧力とが入力され、前記入口圧力と前記出口圧力との差圧が所定の圧力閾値以上の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限してもよい。
【0009】
このように、差圧により凍結を検知して動力装置の出力を制限するので、効果的に熱媒体の凍結を抑制することができる。
【0010】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器から流出する前記熱媒体の温度が入力され、前記熱媒体の温度が所定の温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限してもよい。
【0011】
このように、気化器から流出する熱媒体の温度により凍結を検出して動力装置の出力を制限するので、効果的に熱媒体の凍結抑制できる。
【0012】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度が入力され、前記水素ガスの温度が所定の水素ガス温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限してもよい。
【0013】
このように、気化器から流出する前記水素ガスの温度により動力装置の出力を制限するので、極低温の水素ガスが動力装置に供給されることを効果的に抑制できる。
【0014】
本開示の水素供給装置において、前記制御部は、前記気化器の前記熱媒体の入口圧力と、前記気化器の前記熱媒体の出口圧力と、前記気化器から流出する前記熱媒体の温度と、前記気化器から流出する前記水素ガスの温度と、が入力され、前記入口圧力と前記出口圧力との差圧が所定の圧力閾値以上の場合、又は前記熱媒体の温度が所定の温度閾値未満の場合、又は前記水素ガスの温度が所定の水素ガス温度閾値未満の場合に、前記水素ガスが供給される動力装置の出力を制限してもよい。
【0015】
このように、複数の検出値の中の1つ又は複数の検出値によって動力装置の出力を制限するので、効果的に熱媒体の凍結を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の水素供給装置は、熱媒体に液体を用いる気化器において、熱媒体の凍結を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の水素供給装置と、その水素供給装置が搭載された水素エンジン車両の構成を示す系統図である。
図2図1に示す水素供給装置の動作を示すフローチャートである。
図3図1に示す水素供給装置の他の動作を示すフローチャートである。
図4図1に示す水素供給装置の他の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら実施形態の水素供給装置100について説明する。以下の説明では、水素供給装置100は、水素エンジン車両200に搭載される動力装置である水素エンジン15に水素ガスを供給するものとして説明する。
【0019】
図1に示すように、水素供給装置100は、熱媒体を加熱して気化器40に供給する加熱回路10と、気化器40で気化した水素ガスを水素エンジン15に供給する水素回路50と、制御部70とを備えている。最初に加熱回路10について説明する。加熱回路10は、加熱器20と、気化器40と、循環流路30と、循環ポンプ34と、で構成される。
【0020】
加熱器20は、内部に冷却水流路21と熱媒体流路31とを備えている。冷却水流路21は、水素エンジン15の内部流路17を通流した温度の高い冷却水が通流する。熱媒体流路31は、気化器40のケーシング41の内部を通流した低温の熱媒体が通流する。加熱器20は、冷却水流路21を通流する温度の高い冷却水と低温の熱媒体との間で熱交換を行わせて熱媒体を加熱する。ここで、熱媒体は、液体であり、例えば、ロングライフクーラント(LLC)であってもよい。
【0021】
冷却水流路21は、冷却水供給管22と、冷却水戻り管23によって内部流路17に接続されている。内部流路17と、冷却水流路21と、冷却水供給管22と、冷却水戻り管23とは、水素エンジン15と加熱器20との間で冷却水を循環させる冷却水循環流路25を形成する。冷却水循環流路25は、水素エンジン15で温度の上昇した冷却水を加熱器20の冷却水流路21に循環させる。
【0022】
気化器40は、ケーシング41と、ケーシング41の内部に収容された水素チューブ45で構成される。ケーシング41の内部には、加熱器20で加熱された温度の高い熱媒体が通流する。水素チューブ45の内部には低温の液体水素又は水素ガスが通流する。ケーシング41の内部を通流する熱媒体は水素チューブ45の外面を流れ、内部の液体水素を加熱、気化して水素ガスとする。
【0023】
循環流路30は、加熱器20の熱媒体流路31と、熱媒体供給管32と、気化器40のケーシング41と、熱媒体戻り管33とで構成されている。熱媒体供給管32は、熱媒体流路31の出口と気化器40の熱媒体入口42とを接続する。熱媒体戻り管33は、気化器40の熱媒体出口43と熱媒体流路31の入口とを接続する。また、熱媒体供給管32には、循環流路30に熱媒体を圧送する循環ポンプ34が設けられている。熱媒体供給管32の熱媒体入口42の近傍には、気化器入口熱媒体圧力P1を検出する入口圧力センサ35が設けられている。また、熱媒体戻り管33の熱媒体出口43の近傍には、気化器出口熱媒体圧力P2を検出する出口圧力センサ36と、気化器出口熱媒体温度TLを検出する熱媒体温度センサ38とが設けられている。
【0024】
循環ポンプ34で加圧された熱媒体は、熱媒体供給管32を通って熱媒体入口42からケーシング41の内部に流入する。熱媒体は、ケーシング41の内部で水素チューブ45の外面を流れ、水素チューブ45の中を流れる低温の液体水素と熱交換して温度が低下する。温度の低下した熱媒体は、気化器40の熱媒体出口43から熱媒体戻り管33に流出する。熱媒体は、熱媒体戻り管33から加熱器20の熱媒体流路31に流入する。そして、熱媒体流路31で冷却水流路21を流れる温度の高い冷却水と熱交換して温度の上昇した熱媒体は熱媒体供給管32から循環ポンプ34に還流する。
【0025】
次に、水素回路50について説明する。水素回路50は、液体水素タンク51と、液体水素ポンプ入口管52と、液体水素ポンプ53と、液体水素入口管54と、水素チューブ45と、水素ガス出口管56と、減圧弁57と、水素ガス供給管59とで構成されている。
【0026】
液体水素タンク51は内部に低温の液体水素を貯留するタンクである。液体水素ポンプ入口管52は液体水素タンク51と液体水素ポンプ53の吸込口とを接続する。液体水素入口管54は、液体水素ポンプ53の吐出口と水素チューブ45の入口とを接続する。水素ガス出口管56は、水素チューブ45の出口と減圧弁57とを接続する。水素ガス出口管56には、気化器出口水素ガス温度THを検出する水素ガス温度センサ58が取り付けられている。水素ガス供給管59は、減圧弁57と水素エンジン15のインジェクタ16とを接続する。
【0027】
液体水素タンク51に貯留された極低温の液体水素は液体水素ポンプ53によって加圧され、液体水素ポンプ入口管52から水素チューブ45の中に流入する。水素チューブ45の中を流れる液体水素は、水素チューブ45の外面を通流する温度の高い熱媒体との間で熱交換し、気化して水素ガスとなる。水素チューブ45の中を流れる水素ガスは、水素チューブ45の外面を通流する温度の高い熱媒体との間で熱交換し、所定の温度の水素ガスとなって水素チューブ45の出口から水素ガス出口管56に流出する。水素ガスは減圧弁57で水素エンジン15への供給圧力に減圧された後、水素ガス供給管59を通って水素エンジン15のインジェクタ16に供給される。水素ガスは水素エンジン15の内部で燃焼して駆動力を発生するとともに、内部流路17を通流する冷却水の温度を上昇させる。
【0028】
水素エンジン15は、エンジン制御部60によって制御される。エンジン制御部60は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU61と、制御プログラムや制御データが格納されるメモリ62とを含むコンピュータである。エンジン制御部60は、インジェクタ16の開度を調整して水素エンジン15の出力を調整する。エンジン制御部60には、水素エンジン車両200に取り付けられたスタートスイッチ18が接続されている。エンジン制御部60は、スタートスイッチ18がONになると水素エンジン15を始動させ、スタートスイッチ18がOFFとなると水素エンジン15を停止する。また、エンジン制御部60は、後で説明する制御部70と通信して情報の授受を行う。エンジン制御部60は、スタートスイッチ18のオン/オフ信号を制御部70に出力する。また、エンジン制御部60は、制御部70から水素エンジン出力制限信号と水素エンジン停止信号とを受信する。
【0029】
制御部70は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU71と、制御プログラムや制御データを格納するメモリ72とを備えるコンピュータである。循環ポンプ34と、液体水素ポンプ53とは制御部70に接続されて制御部70の指令によって動作する。また、入口圧力センサ35と、出口圧力センサ36と、熱媒体温度センサ38、水素ガス温度センサ58とは制御部70に接続されている。入口圧力センサ35が検出した気化器入口熱媒体圧力P1と、出口圧力センサ36が検出した気化器出口熱媒体圧力P2と、熱媒体温度センサ38が検出した気化器出口熱媒体温度TLと、水素ガス温度センサ58が検出した気化器出口水素ガス温度THは、制御部70に入力される。また、制御部70は、エンジン制御部60と情報の授受を行う。制御部70は、エンジン制御部60からスタートスイッチ18のオン/オフ信号を受信する。また、制御部70は、生成した水素エンジン出力制限信号と水素エンジン停止信号とをエンジン制御部60に出力する。
【0030】
次に図2を参照して水素供給装置100の動作について説明する。制御部70は、図2のステップS101からS108の動作を所定の制御タイミングでスタートスイッチ18がオフとなるまで繰り返して実行する。
【0031】
スタートスイッチ18がオンになると、水素エンジン15と水素供給装置100が始動する。水素供給装置100の制御部70は、図2のステップS101で入口圧力センサ35によって気化器入口熱媒体圧力P1を取得する。そして、制御部70は、図2のステップS102で出口圧力センサ36によって気化器出口熱媒体圧力P2を取得する。そして、制御部70は、図2のステップS103において下記の式1で差圧ΔPを算出する。
差圧ΔP=P1-P2 ・・・・・・・・ (式1)
【0032】
制御部70は、図2のステップS104で差圧ΔPが第1圧力閾値以上かどうか判断する。ここで、第1圧力閾値は、例えば、凍結のない正常状態での循環ポンプ34のデューティが100%の際の最大差圧の2倍程度に設定してもよい。そして、制御部70は、図2のステップS104でNOと判断した場合、つまり、差圧ΔPが第1圧力閾値未満の場合には、熱媒体の凍結は発生していないと判断して図2のステップS108に進む。制御部70は、ステップS108でエンジン制御部60からスタートスイッチ18のオフ信号を受信しているか判断する。制御部70は、図2のステップS108でNOと判断した場合には、図2のステップS101に戻ってステップS101からステップS104、ステップS108の動作を繰り返して実行する。一方、制御部70は、図2のステップS108でYESと判断した場合には処理を終了する。
【0033】
また、制御部70は、図2のステップS104でYESと判断した場合には、熱媒体の凍結が始まっていると判断し、図2のステップS105に進む。
【0034】
制御部70は、図2のステップS105で差圧ΔPが第2圧力閾値以上かどうか判断する。ここで、第2圧力閾値は、例えば、循環流路30を構成する各流路の最大許容圧力でもよいし、凍結のない正常状態での循環ポンプ34のデューティが100%の際の最大差圧の3倍程度に設定してもよい。そして、制御部70は、図2のステップS105でNOと判断した場合、すなわち、差圧ΔPが第1圧力閾値以上で第2圧力閾値未満の場合には、凍結が始まっているが熱媒体の流れはあると判断する。そして、制御部70は、図2のステップS105でNOと判断した場合には、図2のステップS107に進んで、水素エンジン出力制限信号を生成してエンジン制御部60に出力する。エンジン制御部60は、制御部70から水素エンジン出力制限信号を受信したら、水素エンジン15の出力を所定の出力まで低減する。これにより、気化器40の水素チューブ45を通流する液体水素、或いは水素ガスの流量が少なくなる。
【0035】
一方、図2のステップS105でYESと判断した場合、すなわち差圧ΔPが第2圧力閾値以上の場合には、制御部70は、凍結により循環流路30のどこかに閉塞が発生していると判断する。そして、制御部70は、図2のステップS106に進んで水素エンジン停止信号を生成してエンジン制御部60に出力する。エンジン制御部60は、制御部70から水素エンジン停止信号を受信したら、水素エンジン15を停止する。これにより、気化器40の水素チューブ45の中を流れる液体水素或いは水素ガスの流量がゼロとなる。
【0036】
制御部70は、図2のステップS106又はステップS107の動作を実行したら、図2のステップS108に進む。そして、先に説明したと同様、制御部70は、図2のステップS108でNOと判断した場合には、図2のステップS101に戻ってステップS101からステップS108の動作を繰り返して実行し、図2のステップS108でYESと判断した場合には処理を終了する。
【0037】
以上説明したように、制御部70は、図2のステップS101からS108の動作を所定の制御タイミングでスタートスイッチ18がオフとなるまで繰り返して実行する。差圧ΔPが第1圧力閾値未満で、制御部70が図2のステップS104でNOと判断した場合には、制御部70は、図2のステップS105からステップS107を実行せず、水素エンジン出力制限信号、水素エンジン停止信号をエンジン制御部60に出力しない。この場合、水素エンジン15は出力制限なしで運転される。
【0038】
差圧ΔPが第1圧力閾値と第2圧力閾値の間で、制御部70が図2のステップS104でYESと判断し、図2のステップS105でNOと判断した場合には、制御部70は、図2のステップS101からステップS105とステップS107とを繰り返して実行する。これにより、水素エンジン15の出力制限状態が保持される。水素エンジン15の出力制限状態が維持されると、液体水素又は水素ガスの流量が少ない状態が維持されるので、凍結が解消され、差圧ΔPが低下してくる。そして、差圧ΔPが第1圧力閾値未満まで低下し、制御部70が図2のステップS104でNOと判断した場合には、制御部70は、図2のステップS105、ステップS107を実行せず、水素エンジン出力制限信号をエンジン制御部60に出力しなくなる。エンジン制御部60は、制御部70から水素エンジン出力制限信号の入力がなくなると、水素エンジン15の出力制限を解除して、水素エンジン15を通常の出力に戻す。
【0039】
同様に、差圧ΔPが第2圧力閾値以上で、制御部70が図2のステップS104でYESと判断し、図2のステップS105でYESと判断した場合には、制御部70は、図2のステップS101からステップS106を繰り返して実行する。これにより、水素エンジン15の停止状態が保持される。水素エンジン15の停止状態が維持されると、液体水素又は水素ガスの流量がゼロの状態が維持されるので、凍結が解消され、差圧ΔPが低下してくる。そして、差圧ΔPが第2圧力閾値未満となって、制御部70が図2のステップS105でNOと判断した場合には、制御部70は、図2のステップS106を実行せず、図2のステップS107を実行して水素エンジン出力制限信号を出力する。エンジン制御部60は、制御部70から水素エンジン出力制限信号が入力されると水素エンジン15を始動して出力制限運転を行う。そして、先に説明したと同様、凍結が解消され、差圧ΔPが第1圧力閾値未満まで低下し、制御部70が図2のステップS104でNOと判断した場合には、制御部70は、水素エンジン出力制限信号をエンジン制御部60に出力しなくなり、エンジン制御部60は、水素エンジン15の出力制限を解除して、水素エンジン15を通常の出力に戻す。
【0040】
このように、制御部70は、気化器入口熱媒体圧力P1と気化器出口熱媒体圧力P2の差圧ΔPが所定の圧力閾値以上の場合に、水素エンジン15の出力を制限、又は水素エンジン15を停止するので、液体の熱媒体の凍結を効果的に抑制できる。また、気化器40から極低温の水素ガスが流出することを抑制し、水素ガス出口管56、減圧弁57、水素ガス供給管59のシール部材が損傷することを抑制できる。
【0041】
次に、図3を参照しながら水素供給装置100の他の動作について説明する。先に図2を参照して説明したと同様の動作については簡単に説明する。図3に示す他の動作は、図2に示す動作が差圧ΔPに基づいて水素エンジン15の出力制限、停止を判断したのに代えて、気化器出口熱媒体温度TLに基づいて水素エンジン15の出力制限、停止を判断する。
【0042】
制御部70は、図3のステップS201で熱媒体温度センサ38から気化器出口熱媒体温度TLを取得する。そして、制御部70は、図3のステップS202で気化器出口熱媒体温度TLが第1温度閾値未満かどうか判断する。第1温度閾値は、水素チューブ45の外面で熱媒体の凍結が始まったことを示す温度であり、例えば、熱媒体の凍結温度(-TA(℃))の1/4程度(-TA/4(℃))に設定してもよいし、試験等により値を決定してもよい。
【0043】
制御部70は、図3のステップS202でNOと判断した場合には、水素エンジン出力制限信号、水素エンジン停止信号の出力を行わずに図3のステップS206に進み、図3のステップS206でYESと判断するまで、図3のステップS201、ステップS202、ステップS206を繰り返し実行する。
【0044】
制御部70は、図3のステップS202でYESと判断した場合、すなわち、気化器出口熱媒体温度TLが第1温度閾値未満となったら、図3のステップS203に進んで、気化器出口熱媒体温度TLが第2温度閾値未満かどうかを判断する。ここで、第2温度閾値は、水素チューブ45の外面で熱媒体が凍結し、気化器40から流出する水素ガスの温度が水素ガス出口管56、減圧弁57、水素ガス供給管59に用いられているシール部材の使用下限温度まで低下すると推定される温度である。例えば、シール部材の使用下限温度(-TB(℃))の1/2程度(-TB/2(℃))に設定してもよいし、試験等により値を決定してもよい。
【0045】
制御部70は、図3のステップS203でNOと判断した場合には図3のステップS205に進んで水素エンジン出力制限信号を生成してエンジン制御部60に出力する。また、図3のステップS203でYESと判断した場合には、図3のステップS204に進んで水素エンジン停止信号を生成してエンジン制御部60に出力する。
【0046】
制御部70は、図3のステップS204又はステップS205を実行したらステップS206に進む。制御部70は、図3のステップS206でNOと判断した場合には、ステップS201に戻り、ステップS206でYESと判断した場合には、動作を終了する。
【0047】
制御部70は、図3のステップS201からS206の動作を所定の制御タイミングでスタートスイッチ18がオフとなるまで繰り返して実行する。これにより、制御部70は、気化器出口熱媒体温度TLが第1温度閾値未満で第2温度閾値以上の場合には、水素エンジン15の出力を制限した状態を保持し、気化器出口熱媒体温度TLが第2温度閾値未満の場合には、水素エンジン15の停止状態を保持する。これにより、水素供給装置100は、液体の熱媒体の凍結を効果的に抑制できる。また、気化器40から極低温の水素ガスが流出することを抑制し、水素ガス出口管56、減圧弁57、水素ガス供給管59のシール部材が損傷することを抑制できる。
【0048】
次に図4を参照して水素供給装置100の他の動作について説明する。図4に示す動作は、図2を参照して説明した動作の気化器出口熱媒体温度TLに代えて、気化器出口水素ガス温度THに基づいて水素エンジン15の停止、或いは出力制限を行うものである。制御部70が図4のステップS301で水素ガス温度センサ58によって気化器出口水素ガス温度THを取得し、図4のステップS302、ステップS303で気化器出口水素ガス温度THと第1水素ガス温度閾値、第2水素ガス温度閾値との比較に基づいて水素エンジン15の停止、出力制限を行うこと以外は、先に図3を参照して説明した動作と同様である。
【0049】
ここで、第1水素ガス温度閾値は、第1温度閾値と同様、水素チューブ45の外面で熱媒体の凍結が始まったと推定される水素ガスの温度であり、例えば、熱媒体の凍結温度(-TA(℃))の1/4程度(-TA/4(℃))に設定してもよいし、試験等により値を決定してもよい。また、第2水素ガス温度閾値は、第2温度閾値と同様、水素ガスの温度が水素ガス出口管56等に用いられているシール部材の使用下限温度まで低下すると推定される温度である。例えば、シール部材の使用下限温度(-TB(℃))の1/2程度(-TB/2(℃))に設定してもよいし、試験等により値を決定してもよい。
【0050】
図4に示す動作は、図3に示す動作と同様、液体の熱媒体の凍結を効果的に抑制できるとともに、極低温のガスが気化器40から流出することによる水素ガス出口管56等に用いられているシール部材が損傷することを抑制できる。
【0051】
以上の説明では、制御部70は、図2図3図4を参照して説明した各動作を行うこととして説明したがこれに限らない。制御部70は、図2図3図4を参照して説明した3つの動作を同時に行い、いずれか一つの動作において、水素エンジン出力制限信号、或いは水素エンジン停止信号が生成された場合には、その信号をエンジン制御部60に出力して水素エンジン15を出力制限、或いは停止させるようにしてもよい。このように、複数の検出値の中の1つ又は複数の検出値によって水素エンジン15の出力制限、停止を行うので、効果的に熱媒体の凍結を抑制できる。
【0052】
また、以上の説明では、水素供給装置100は水素エンジン車両200の水素エンジン15に水素ガスを供給するものとして説明したがこれに限定されない。例えば、車両に搭載された燃料電池に水素ガスを供給するものでもよい。この場合、燃料電池から電力の供給を受けるモータの出力を制限、或いはモータを停止することにより、熱媒体の凍結を抑制してもよい。この場合、燃料電池とモータとは車両の動力装置を構成する。
【符号の説明】
【0053】
10 加熱回路、15 水素エンジン、16 インジェクタ、17 内部流路、18 スタートスイッチ、20 加熱器、21 冷却水流路、22 冷却水供給管、23 冷却水戻り管、25 冷却水循環流路、30 循環流路、31 熱媒体流路、32 熱媒体供給管、33 熱媒体戻り管、34 循環ポンプ、35 入口圧力センサ、36 出口圧力センサ、38 熱媒体温度センサ、40 気化器、41 ケーシング、42 熱媒体入口、43 熱媒体出口、45 水素チューブ、50 水素回路、51 液体水素タンク、52 液体水素ポンプ入口管、53 液体水素ポンプ、54 液体水素入口管、56 水素ガス出口管、57 減圧弁、58 水素ガス温度センサ、59 水素ガス供給管、60 エンジン制御部、61、71 CPU、62、72 メモリ、70 制御部、100 水素供給装置、200 水素エンジン車両。
図1
図2
図3
図4