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  • 特開-エフェロサイトーシス促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158237
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エフェロサイトーシス促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20241031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K35/644
A61P43/00 105
A61K31/352
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073266
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(71)【出願人】
【識別番号】501149684
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢章
(72)【発明者】
【氏名】森岡 翔
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018MD08
4B018MD78
4B018ME14
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC52
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB22
4C087CA37
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC52
(57)【要約】
【課題】新規なエフェロサイトーシス促進剤を提供すること。
【解決手段】プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、エフェロサイトーシス促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、エフェロサイトーシス促進剤。
【請求項2】
ケンフェライドを有効成分として含有する、エフェロサイトーシス促進剤。
【請求項3】
プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、死細胞の除去促進剤。
【請求項4】
ケンフェライドを有効成分として含有する、死細胞の除去促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフェロサイトーシス促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では様々な細胞が分化や分裂を繰り返し、絶えず新たな細胞を産み出している。その一方で、寿命を迎えた細胞や傷ついた細胞には、アポトーシスによる細胞死が誘導される。死細胞は、近接した線維芽細胞やマクロファージの食作用により浄化され、この現象はエフェロサイトーシスと呼称されている。エフェロサイトーシスは様々な貪食の一形態であるが、赤血球の貪食とは異なり死細胞を標的とし、その表面に提示されるホスファチジルセリン(PS)を介したシグナルによって誘導される。また、死細胞が適切に除かれないと二次的にネクローシス細胞となり、細胞の破壊に伴い内容物を周囲に放出して、炎症反応を引き起こす(非特許文献1)。このように常時発生する死細胞を除去するため、エフェロサイトーシスは恒常的に機能している。
【0003】
ところが、組織損傷、炎症、加齢などによって死細胞の発生が増加し、通常のエフェロサイトーシスの許容能力を超えると、死細胞が除去されず蓄積する。また、エフェロサイトーシス機能そのものが低下すると、同様の結果をまねく。このような死細胞の蓄積は種々の疾患の原因や増悪と関連しているため、エフェロサイトーシスを促進して死細胞の蓄積を抑制することで、疾患の軽減や治癒につながると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Morioka et al, Immunity, 2019,50(5), p.1149-1162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エフェロサイトーシスの促進を標的とした疾患の治療方法は未だ確立していない。本発明は、新規なエフェロサイトーシス促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プロポリス及びその抽出物に含まれるケンフェライドに、意外にもエフェロサイトーシスを促進させる作用があることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0007】
本発明は、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、エフェロサイトーシス促進剤を提供する。また、本発明は、それを必要とする対象に有効量のプロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を投与することを含む、エフェロサイトーシスを促進する方法を提供する。
【0008】
本発明は、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、死細胞の除去促進剤を提供する。また、本発明は、それを必要とする対象に有効量のプロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を投与することを含む、死細胞の除去を促進する方法を提供する。
【0009】
本発明において、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種は、ケンフェライドであってよい。
【0010】
本発明は、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、エフェロサイトーシス促進作用に基づく、免疫系の調節剤、又は抗炎症剤を提供する。
【0011】
本発明は、上記エフェロサイトーシス促進剤又は死細胞の除去促進剤を含有する、医薬品、医薬部外品又は食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、エフェロサイトーシス促進剤が提供される。また、本発明によれば、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、死細胞の除去促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例1において、ブラジル産グリーンプロポリスによる線維芽細胞(LR73細胞)のエフェロサイトーシス促進活性の評価の結果を示す図である。
図2】試験例1において、ブラジル産グリーンプロポリスによるマウス腹腔マクロファージ(pMacs)のエフェロサイトーシス促進活性の評価の結果を示す図である。
図3】試験例2において、ブラジル産グリーンプロポリスに含まれる各種成分による線維芽細胞(LR73細胞)のエフェロサイトーシス促進活性の評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係るエフェロサイトーシス促進剤は、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。また、本実施形態に係る死細胞の除去促進剤は、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。以下、本実施形態に係るエフェロサイトーシス促進剤及び死細胞の除去促進剤をまとめて「本実施形態に係る剤」とも称する。
【0016】
本明細書において「エフェロサイトーシス」とは、マクロファージなどの食細胞が死細胞や老化細胞を除去して、組織の恒常性維持、免疫系の調節、抗炎症作用等を促進する形態の食作用を意味し、マクロファージなどの食細胞が、バクテリアや細菌を除去し、感染症を抑制する形態の食作用である「ファゴサイトーシス」とは明確に区別される。
【0017】
プロポリスとは、セイヨウミツバチの巣の巣壁を構成する樹脂状又は蝋状の物質である。プロポリスは、例えばブラジル、中国、ヨーロッパ諸国、オセアニア、アメリカ等、いずれの産地由来のものであってもよく、アレクリン由来、ユーカリ由来等、いずれの植物由来であってもよい。また、プロポリスは、スーパーグリーン、ウルトラグリーン等いずれのランクであってもよい。これらの中でも、ブラジル産グリーンプロポリスが、より高いエフェロサイトーシス作用を得ることができるので好ましい。プロポリスを採取するために利用されるミツバチの種類は特に限定されない。プロポリスは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。
【0018】
プロポリスは、プロポリス原塊であってもよく、プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水又は親水性有機溶媒抽出、抽出物の濃縮又は粉末化、粉末の造粒等の処理が施されたプロポリス処理物であってもよい。これらの中でもプロポリスの親水性有機溶媒抽出により得られる親水性有機溶媒抽出物が、短時間で効率的にバランスよくプロポリスの有効成分が抽出されたものであるため好ましい。抽出に使用する親水性有機溶媒としてはエタノールが好ましい。
【0019】
プロポリスの抽出物を製造する際の抽出方法としては、特に制限されず、例えば、抽出溶媒を用いて常温又は加熱抽出する方法、二酸化炭素等による超臨界抽出法などが挙げられる。このような抽出溶媒としては水、有機溶媒又は含水有機溶媒を使用することができ、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール等の炭素数1~5の低級アルコール;ジエチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン等のケトン類;酢酸、氷酢酸、プロピオン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0020】
プロポリスの抽出物としては、回収された抽出液(必要に応じて更に精製されたものも含む)、当該抽出液を濃縮した濃縮液、凍結乾燥、スプレードライ等により当該抽出液の溶媒が除去された固形物などが含まれる。ここで、抽出液の濃縮、凍結乾燥及びスプレードライは、常法に従って行うことができる。
【0021】
プロポリス又はその抽出物は、市販されているものを用いてもよい。市販されているプロポリスの具体例としては、例えば、プロポリス300(株式会社山田養蜂場製)、プロポリス液30(株式会社山田養蜂場製)等が挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る剤におけるプロポリス又はその抽出物の含有量は、剤全量に対して固形分で10質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよい。また、本実施形態に係る剤におけるプロポリスの含有量は、剤全量に対して固形分で40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってもよい。
【0023】
本実施形態に係る剤がプロポリス又はその抽出物を有効成分として含有する場合、当該剤は、有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり10mg以上1000mg以下の用量で用いることができ、100mg以上600mg以下の用量で用いることが好ましく、150mg以上350mg以下の用量で用いることがより好ましい。当該用量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0024】
ケンフェライドはプロポリスの抽出物に含まれる成分の一つで、下記式:
【化1】

で表される構造を有するフラボノイドである。
【0025】
本実施形態に係る剤におけるケンフェライドの含有量は、剤全量に対して固形分で10質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよい。また、本実施形態に係る剤におけるプロポリスの含有量は、剤全量に対して固形分で40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る剤がケンフェライドを有効成分として含有する場合、当該剤は、有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり10mg以上1000mg以下の用量で用いることができ、100mg以上600mg以下の用量で用いることが好ましく、150mg以上350mg以下の用量で用いることがより好ましい。当該用量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0027】
プロポリス及びその抽出物(例えば、ケンフェライド)は、後述の実施例に示すように、エフェロサイトーシス促進作用を有する。エフェロサイトーシスは、免疫系の調節、抗炎症作用を促進することから、本発明の一実施形態として、プロポリス及びその抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、エフェロサイトーシス促進作用に基づく、免疫系の調節剤、又は抗炎症剤が提供される。
【0028】
本実施形態に係る剤は、経口投与(摂取)されてもよく、非経口により投与されてもよい。本実施形態に係る剤は、一日当たりの有効投与量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。
【0029】
本実施形態に係る剤は、有効成分に加えて、他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)を挙げることができる。
【0030】
本実施形態に係る剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、錠剤(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、有効成分と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0031】
本実施形態に係る剤は、医薬品、医薬部外品、又は食品組成物そのものとして、又はこれらの製品中の成分として使用することができる。本実施形態に係る剤を一成分として含む医薬品、医薬部外品、又は食品組成物は、例えば、これら製品の製造工程における中間製品に、本実施形態に係る剤を添加することにより製造することができる。
【0032】
本実施形態に係る剤を食品組成物として又はその一成分として用いる場合、該食品組成物は、食品の3次機能、すなわち体調調節機能が強調されたものであることが好ましい。食品の3次機能が強調された製品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0033】
食品組成物としては例えば、コーヒー、ジュース及び茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料などが挙げられる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔試験例1〕ブラジル産グリーンプロポリスによる線維芽細胞(LR73細胞)又はマウス腹腔マクロファージ(pMacs)のエフェロサイトーシス促進活性の評価
線維芽細胞(LR73細胞)又はマウス腹腔マクロファージ(pMacs)に、DMSO又はエタノールで溶解したブラジル産グリーンプロポリス(50μg/ml)を添加して、12時間培養した。また、コントロールとして、線維芽細胞又はpMacsにDMSO又はエタノールを添加して12時間培養したものを用いた。
エフェロサイトーシスの評価に使用する死細胞として、T細胞ラインであるJurkat細胞に、紫外線照射によってアポトーシスを誘導し、CypHer 5E(Invitrogen社)により染色したものを用意した。
上記培養した線維芽細胞又はpMacsに死細胞を添加して1時間共培養し、エフェロサイトーシスを誘導した。その後、非貪食Jurkat細胞を洗い流し、エフェロサイトーシスが認められた細胞(CypHer 5E+)の数を全体の細胞割合(%)をフローサイトメトリーにより定量化した。結果を図1及び2に示す。
【0036】
図1より、プロポリスで処理した線維芽細胞では、コントロールと比較して、エフェロサイトーシスが約2倍促進されていることが確認された。また、図2より、プロポリスで処理したpMacsでは、コントロールと比較して、エフェロサイトーシスが約1.4倍促進されていることが確認された。
【0037】
〔試験例2〕ブラジル産グリーンプロポリスに含まれる各種成分による線維芽細胞(LR73細胞)のエフェロサイトーシス促進活性の評価
ブラジル産グリーンプロポリスのエタノール可溶性成分(10μM)用い、試験例1と同様の方法で、各成分のエフェロサイトーシス促進活性を評価した。結果を図3に示す。
【0038】
図3より、ケンフェライドにのみエフェロサイトーシスの促進効果が確認された。
図1
図2
図3