(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158244
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】容器詰めの果汁含有飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20241031BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20241031BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/52 101
A23L2/02 A
A23L2/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073277
(22)【出願日】2023-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年5月10日 日本全国の容器詰め飲料を販売する店舗(ECサイトを含む)にて販売 (2)令和4年5月10日 ウェブサイトを通じて公開 (3)令和5年3月21日 日本全国の容器詰め飲料を販売する店舗(ECサイトを含む)にて販売 (4)令和5年3月14日 ウェブサイトを通じて公開 (5)令和4年5月10日 動画サイトを通じて公開 (6)令和4年5月10日 ウェブサイトを通じて公開 (7)令和4年9月30日 ウェブサイトを通じて公開 (8)令和4年12月31日 ウェブサイトを通じて公開 (9)令和5年3月21日 動画サイトを通じて公開 (10)令和4年5月10日 amazon.co.jp(登録商標)のサイト内を通じて公開 (11)令和5年3月21日 amazon.co.jp(登録商標)のサイト内を通じて公開
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 昂史
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LE10
4B117LG05
4B117LK01
4B117LK02
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK16
4B117LL01
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】加熱殺菌等の製造時や長期保存時の劣化臭が低減された容器詰め果汁含有飲料を提供する。
【解決手段】容器詰め果汁含有飲料において、果汁と、食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料とを含有させ、飲料中の果汁の割合を5~40%、糖度を4.0~9.0、マグネシウムの含有量を0.5~10.0mg/100mlとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果汁と、食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料とを含み、以下(ア)~(エ)を満たす果汁含有飲料:
(ア)飲料中の果汁の割合が5~40%である、
(イ)飲料の糖度が4.0~9.0である、
(ウ)飲料中のマグネシウムの含有量が0.5~10.0mg/100mlである、
(エ)容器詰めの飲料である。
【請求項2】
マグネシウム材料がナチュラルミネラルウォーターである、請求項1に記載の果汁含有飲料。
【請求項3】
果汁が混濁果汁を含む、請求項1又は2に記載の果汁含有飲料。
【請求項4】
色差計による飲料の明度(L*)が20~80である、請求項3に記載の果汁含有飲料。
【請求項5】
色差計による飲料の彩度(C*)が4以上である、請求項1又は2に記載の果汁含有飲料。
【請求項6】
容器が透明容器である、請求項1又は2に記載の果汁含有飲料。
【請求項7】
下記の工程(i)~(iii);
(i)飲料中の果汁の割合が5~40%となる量の果汁を添加する工程、
(ii)飲料の糖度を4.0~9.0に調整する工程、
(iii)食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料を添加する工程、
を有する、果汁含有飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で長期保存可能な容器詰めの果汁含有飲料に関する。より詳細には、加熱殺菌等の製造時や常温での長期間保存時の劣化臭が低減された容器詰めの果汁含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁は、栄養付加、嗜好性付与、甘味付与など種々の効果を有する。そのため、果汁を使用した飲料(以下、果汁飲料)が多く開発されている。果汁飲料としては、消費者の多様な好みに応えるために様々な果汁率、風味を有する飲料が販売されている。特に、果実を想起させるような天然感に優れた飲料、すなわち実際の果実が有する熟成感やコク、ボリューム感を有する飲料(例えば、100%果汁飲料のような高果汁飲料)は非常に人気がある。そのため、高果汁飲料でない場合にも飲んだときに果汁感をより感じられるようにするために、飲料中の糖や酸などの成分含有割合の調整等を行って果汁感を増強することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
一般に、果汁を使用した飲料、特に常温で長期間保存可能な加熱殺菌されて密封容器詰めされた果汁含有飲料は、加熱殺菌や長期保存することにより、果汁由来の成分が変化して加熱臭やイモ臭とも呼ばれる劣化臭(オフフレーバー)が強く感じられるようになり、従来果汁の持つ果物を想起させる風味がマスキングされてしまう。そのため、果汁含有飲料の風味劣化を抑制する技術が検討されている。例えば、特定割合のアスコルビン酸系酸化防止剤を用いることにより、加熱殺菌時の安定性に優れた混濁果汁飲料を製造する方法(特許文献2)、レモン果汁を含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、前記飲料のpHを3.0以上に調整することにより香味劣化臭の原因となるシトラールの環化反応を抑制する方法(特許文献3)等がある。また、アスコルビン酸を添加した果汁飲料にこうじ酸を使用することにより、経時的な褐変を抑制する方法(特許文献4)や、アスコルビン酸カルシウムを果汁飲料全量に対して特定の割合となるように配合させることにより、容器詰め飲料の褐変を抑制する方法(特許文献5)も提案されている。
【0004】
ところで、近年、天然水に対する関心が高まっており、炊飯にミネラルウォーター類を用いることが検討され、4種のミネラルイオン(Na,Mg,Ca,K)を所定の配合比で含有する炊飯水を用いることにより、炊飯米の食味が向上することが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-060956号公報
【特許文献2】特開2016-96797号公報
【特許文献3】特開2007-39610号公報
【特許文献4】特開平5-103647号公報
【特許文献5】特開2013-34452号公報
【特許文献6】特開2002-369659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加熱殺菌等の製造時や長期保存時の劣化臭が低減された容器詰め果汁含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の果汁量及び糖度を満たす果汁含有飲料に、マグネシウム含有量が特定の量となるようにマグネシウム材料を添加することにより、果汁含有飲料の製造時や保存時の劣化臭を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]果汁と、食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料とを含み、以下(ア)~(エ)を満たす果汁含有飲料:
(ア)飲料中の果汁の割合が5~40%である、
(イ)飲料の糖度が4.0~9.0である、
(ウ)飲料中のマグネシウムの含有量が0.5~10.0mg/100mlである、
(エ)容器詰めの飲料である。
[2]マグネシウム材料がナチュラルミネラルウォーターである、[1]に記載の果汁含有飲料。
[3]果汁が混濁果汁を含む、[1]又は[2]に記載の果汁含有飲料。
[4]色差計による飲料の明度(L*)が20~80である、[3]に記載の果汁含有飲料。
[5]色差計による飲料の彩度(C*)が4以上である、[1]又は[2]に記載の果汁含有飲料。
[6]容器が透明容器である、[1]又は[2]に記載の果汁含有飲料。
[7]下記の工程(i)~(iii);
(i)飲料中の果汁の割合が5~40%となる量の果汁を添加する工程、
(ii)飲料の糖度を4.0~9.0に調整する工程、
(iii)食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料を添加する工程、
を有する、果汁含有飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、加熱殺菌等の製造時や保存時における果汁に起因する劣化臭が効果的に低減された、長期保存可能な容器詰め果汁含有飲料の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
(果汁含有飲料)
本発明の果汁含有飲料(以下、「本発明の飲料」とも表記する)とは、果汁を原料として配合した飲料を意味する。本発明の飲料は、果汁の割合が5~40%である。ここで、本発明の果汁の割合(%)とは、飲料の総重量に対するストレート果汁換算した果汁の割合(重量%)をいい、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Bx)に基づいて換算される。例えば、JAS規格第3条の濃縮オレンジの規格によれば、濃縮オレンジ果汁をストレート果汁換算する場合に用いられる糖用屈折計示度の基準は11°Bxであるから、55°Bxの濃縮オレンジ果汁を飲料中3.0重量%配合した場合、果汁の割合は15%となる。なお、果汁率をJAS規格の糖用屈折計示度に基づいて換算する際には、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0012】
本発明の飲料における果汁の割合は、上記の通り5~40%であるが、劣化臭低減効果がより奏されやすいという観点から、飲料中の果汁の割合は、6%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましく、9%以上が特に好ましい。また、果汁量の上限は35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。
【0013】
本明細書でいう果汁とは、果実を粉砕して搾汁したり、裏ごししたりするなどして得られる液体成分をいい、当該液体成分を濃縮したもの(濃縮果汁)や、これらの希釈還元物(還元果汁)も含む。本発明の飲料では、効果の顕著さから、濃縮果汁が好適に使用できる。
【0014】
本発明の飲料で用いる果汁は、透明果汁及び混濁果汁のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。ここで、混濁果汁とは、食物繊維(例えばプロトペクチン)などの不溶性固形分を含む果汁をいう。また、透明果汁とは、遠心分離法や酵素分解等の不溶性固形分の可溶化方法を用いて、不溶性固形分を可溶化して取り除いた清澄化果汁をいう。一般に、透明果汁に比べて混濁果汁は果汁中の油成分や糖類、ビタミン類、色素類が徐々に酸化するため香味や外観の劣化が生じやすいことが知られている(例えば、特許文献2参照)。本発明ではそのように劣化が生じやすい混濁果汁を含有する飲料においても、劣化臭の低減効果を得ることができる。したがって、混濁果汁を含む飲料は、本発明の好ましい態様の一つである。
【0015】
混濁果汁を用いる場合、上述の果汁の割合の範囲内であれば、その使用量は特に限定されないが、L*a*b*表色系で規定される明度(L*)を混濁度合いの指標として用いた場合に、L*値が20~80であることが好ましく、25~75であることがより好ましく、30~70であることがさらに好ましく、35~65であることが特に好ましい。ここで、本明細書中、特に断りがない限り数値は端点を含むものとする。L*値が上記範囲内の混濁果汁含有飲料は、適度に混濁した飲料である。なお、L*値は、色差計により測定することができる。
【0016】
果汁の原料となる果実の種類としては特に制限されるものではないが、例えば、柑橘類(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライム等)、熱帯果実類(パイナッル、バナナ、グァバ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ等)、ブドウ類(マスカット、巨峰等)、ベリー類(イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー等)、リンゴ、桃、カシス、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、メロン等が挙げられる。これらの果実は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。本発明の好ましい態様では、2種以上の果実の果汁を含む。これらの中でも、柑橘類の果実が好ましく、オレンジやグレープフルーツがより好ましい。すなわち、混濁果汁としては柑橘類混濁果汁が好ましく、オレンジ由来のオレンジ混濁果汁やグレープフルーツ由来のグレープフルーツ混濁果汁がより好ましい。これら柑橘類混濁果汁を用いた飲料は、本発明の劣化臭低減効果をより顕著に享受できる。
【0017】
(糖度)
一般に、果汁含有飲料は、果実を想起させるようなコクやボリューム感を付与するために、果汁量や糖類の配合量を調整して、飲料の糖度(ブリックス(Brix))は10より高い値となるように調整されている(上記特許文献1の実施例及び比較例等参照)。一方、本発明では、飲料の糖度が4.0~9.0となるように調整することが重要である。一般的な果汁含有飲料よりも低い範囲の糖度とすることで、後述するマグネシウム材料の添加による果汁の劣化臭低減効果を享受することができる。本発明の飲料の糖度は、好ましくは5.0~9.0であり、より好ましくは6.0~9.0である。なお、本発明において糖度とは、糖用屈折計を使用して20℃で測定した示度(可溶性固形分量)をいう。
【0018】
後述するように、本発明の飲料では、たんぱく質や脂質を含まない態様が好ましい。すなわち、炭水化物含有量が4.0~9.0g/100ml(好ましくは5.0~9.0g/100ml、より好ましくは6.0~9.0g/100ml)である飲料は、本発明の飲料の好ましい態様の一例である。ここで、炭水化物とは、糖質と食物繊維の総量をいう。本発明の飲料中の糖度や炭水化物量は、果汁と各種糖類の配合量を調整して、上記の値となるように調整することができる。本発明の飲料に使用できる糖類としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖等またはそれらの組み合わせが挙げられる。中でも、単糖又は二糖が好適に用いられる。単糖としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトース(果糖)、プシコース、アロース、ソルボースまたはそれら組み合わせが挙げられる。二糖としては、ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース(麦芽糖)、イソマルトースまたはそれら組み合わせが挙げられる。中でも、本発明の効果の顕著さから、スクロース、フルクトースが好適に用いられる。
【0019】
(マグネシウム材料)
本発明は、果汁含有飲料で知覚される加熱臭やイモ臭とも呼ばれる劣化臭(オフフレーバー)を、マグネシウム材料を添加することで効果的に低減する。ここで、本明細書でいう劣化臭の低減とは、劣化臭の発生が抑制されることと、発生した劣化臭がマスキングされていることのいずれか一方または両方を含む。劣化臭が低減された果汁含有飲料とは、マグネシウム材料を配合しない果汁含有飲料と比較して劣化臭が低減されていることを意味する。
【0020】
果汁(特に混濁果汁)には、高分子状態のペクチンやパルプ質等が含まれ、金属イオンを添加することは、これら成分の凝集や沈殿を促進するため、通常、果汁含有飲料に金属イオンをあえて添加することは行われない。本発明では、糖度を低く設定した上で少量のマグネシウム材料を添加することで、果汁の凝集や沈殿を促進させることなく、果汁に起因する劣化臭を低減することができる。
【0021】
本明細書でいうマグネシウム材料とは、マグネシウムを含有する素材を意味し、具体的には、食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上をいう。水溶性のマグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム等が挙げられる。また、天然ミネラル素材としては、乳清ミネラル、苦汁(粗製海水塩化マグネシウム)、ナチュラルミネラルウォーター等が挙げられる。ここで、ナチュラルミネラルウォーターとは、ナチュラルウォーター(特定の水源から採水された地下水を原水とし、沈殿、濾過、加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わないもの)のうち、鉱化された地下水(地表から浸透し、地下を移動中又は地下に滞留中に地層中の無機塩類が溶解した地下水(天然の二酸化炭素が溶解し、発泡性を有する地下水を含む)をいう。)を原水としたものをいう。メカニズムは不明であるが、マグネシウム材料としてナチュラルミネラルウォーターを使用した場合には、マグネシウムを含有する水溶性のミネラル素材(無機塩類)を純水に人工的に溶解して製造した場合と比較して、本発明の劣化臭低減効果がより一層顕著に発現すること、さらに色調の安定性も高いことを確認している。したがって、ナチュラルミネラルウォーターは、本発明のマグネシウム材料の好適な態様の一例である。
【0022】
果汁中にもマグネシウム等のミネラル分が存在する。したがって、果汁含有飲料中には、上記マグネシウム材料として添加したもの以外にも、果汁由来のミネラル分が存在する。本明細書では、果汁中のマグネシウムとは別に、上記マグネシウム材料として外的に添加されるマグネシウム材料由来のマグネシウムを外因性マグネシウムと表記する。本発明では、果汁に対して特定量の外因性マグネシウムを添加することで、飲料の劣化臭を効果的に低減できる。外因性マグネシウムの添加量は、飲料全体に対して0.2mg/100ml以上が好ましく、0.3mg/100mlがより好ましく、0.4mg/100ml以上がさらに好ましく、0.5mg/100ml以上が特に好ましい。外因性マグネシウムの添加量の上限は、果汁の凝集・沈殿や飲料の香味への影響から、2.0mg/100ml以下が好ましく、1.5mg/100ml以下がより好ましく、1.2mg/100ml以下がより好ましい。
【0023】
本発明では、最終的に得られる飲料中のマグネシウム含有量(果汁由来のマグネシウムと、マグネシウム材料として添加した外因性マグネシウムの両方を含む)が、0.5mg/100ml以上となるように調整する。飲料中のマグネシウムの含有量が高いほど劣化臭低減効果が得られやすいことから、マグネシウムの含有量は1.0mg/100ml以上が好ましく、1.5mg/100ml以上がより好ましく、2.0mg/100ml以上がさらに好ましい。マグネシウム含有量の上限は特に制限されず、香味や安定性の観点から適宜設定すればよいが、通常、飲料中のマグネシウム含有量は10.0mg/100ml以下であり、8.0mg/100ml以下が好ましく、5.0mg/100ml以下がより好ましい。飲料中のマグネシウム含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)により測定することができる。
【0024】
マグネシウム材料として、ナチュラルミネラルウォーターを用いる場合、当該ナチュラルミネラルウォーターとしては、上記所定量のマグネシウムを含有するものであれば特に制限されないが、カルシウム等の2価金属イオンが多いと、果汁中のペクチン質等と反応して、凝集や沈殿を起こしたり、果汁由来の色調の安定性を悪くすることがある。したがって、ナチュラルミネラルウォーター中のカルシウム量は2.0mg/100ml以下であることが好ましく、1.5mg/100ml以下であることがより好ましく、1.0mg/100ml以下であることがさらに好ましい。このようなナチュラルミネラルウォーターとしては、硬度15~75の軟水であることが好ましく、硬度20~70であることがより好ましく、硬度25~60であることがより好ましい。ここで、硬度とは、水の中に含まれるミネラル類のうちカルシウムとマグネシウムの合計含有量の指標をいい、本明細書では次式で示されるアメリカ硬度に基づく数値を表す。
式:硬度(mg/L)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1。
【0025】
(色調)
上述のとおり、本発明は、マグネシウム材料を添加することにより容器詰め果汁含有飲料の劣化臭を低減することを特徴とするが、果汁由来の成分変化を抑制できるので、容器詰め飲料の製造時の加熱処理による着色変化や容器詰め飲料の長期保存に伴う外観変化も抑制できるという利点がある。
【0026】
この色調維持効果を享受できる観点から、本発明の好ましい実施形態の一つとして、L*a*b*表色系で規定される彩度(C*)が4以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上となる色を有する飲料を挙げることができる。ここで彩度(C*)とは、色彩の飽和度、すなわち色の鮮やかさの感覚を意味し、0~100の範囲(値が小さいとくすんだ色、値が大きいと鮮やかな色)で表わされる値である。彩度(C*)の上限は特に制限されないが、通常、50以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下、特に好ましくは20以下である。彩度(C*)は、色差計でL*値、a*値、b*値を測定し、この値を用いた下記式から算出できる。なお、本明細書の彩度は、製造直後の容器詰めの飲料の色調を測定した値をいう。
式:C*=(a*2+b*2)1/2。
【0027】
上記の彩度(C
*)を有する飲料の中でも、マンセル表色系において規定される色相が特定の範囲内である飲料は、見た目にも鮮やかで食欲をそそる飲料であり、本発明の特に好適な態様である。具体的には、色相がマンセル色相環(
図1)において、R(赤)、YR(黄赤)、Y(黄)、又はRP(赤紫)である飲料、すなわち、色相が10P(0RP)から10Y(0GY)である飲料は特に好ましい。なお、本発明において色相の範囲を記載する場合は、特に指定が無い場合、
図1の表において時計回りの範囲をあらわし、また、主要色相の境界部分、例えばYとGYの境界部分は10Yまたは0GYと表現することができる。
【0028】
(その他成分)
その他、本発明の果汁含有飲料には、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲であれば、上記成分に加え、果汁含有飲料に一般的に配合される成分、例えば、甘味成分、酸味料、酸化防止剤、香料、ビタミン等を適宜添加することができる。
【0029】
本発明の飲料は、果汁の割合が5~40%である。果汁の割合が5~40%の飲料は、果汁100%の飲料に比べて、果実の味や香りが薄くなるため、甘味成分や酸味料等を加えて、飲料としての味のバランスを調整することが好ましい。甘味成分としては、上述の糖類が好適に用いられる。甘味成分として、高甘味度甘味料を用いることもできるが、高甘味度甘味料は特有の風味を有しており、本発明の効果を知覚し難くさせることがあるため、本発明の飲料は、高甘味度甘味料を含まないことが好ましい。高甘味度甘味料としては、具体的には、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、サッカリンナトリウムが例示できる。
【0030】
また、乳や乳製品は、本発明の効果を知覚し難くさせることがあるため、本発明の飲料は、乳成分を含まないことが好ましい。ここで、乳成分とは、ミルク風味やミルク感を付与するために添加する乳由来の成分をいい、例えば、乳、全脂乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、脱脂練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、バター、バターオイル、バターミルク、バターミルクパウダー、カゼイン、ホエー、チーズなどが挙げられる。乳成分のうち、とりわけ乳たんぱく質や乳脂肪は劣化臭を発生しやすく、本発明の果汁由来の劣化臭低減効果を阻害しやすい。乳由来以外のたんぱく質や脂質も同様の傾向にあることから、飲料中のたんぱく質含有量は0.5g/100ml未満、脂質含有量は0.5g/100ml未満であることが好ましい。ここで、飲料中のたんぱく質含有量は、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているケルダール法で、飲料中の脂質含有量は、同法の「2 脂質」に記載に基づき、酸分解法で求めることができる。
【0031】
本発明の飲料は、上述のとおり、糖度が低めに設定されている。糖度が低い飲料において酸度が高すぎると、飲用した際に感じる果汁らしさを損ない、また、本発明の効果が知覚され難くなるため、本発明の飲料は、酸度を0.05~0.50%程度に調整することが好ましい。より好ましくは0.10~0.40%、さらに好ましくは0.15~0.35%である。ここで、本明細書でいう酸度とは、飲料中に含まれる酸の濃度(重量/体積%)を示す値であり、クエン酸換算値である。クエン酸換算酸度は、果実飲料の日本農林規格(令和元年6月27日農林水産省告示第475号)に沿った中和滴定法により算出される。酸度の調整は、酸味料を用いて行うことができる。酸味料としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸三ナトリウム、無水クエン酸、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、又はそれらの塩類等が挙げられる。
【0032】
本発明の飲料は、炭酸飲料であっても非炭酸飲料であってもよいが、効果の顕著さから非炭酸飲料であることが好ましい。
【0033】
(容器詰め飲料)
本発明の飲料は、密封された容器詰めの飲料である。当該容器は、一般の容器詰め飲料と同様に、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。本発明の飲料は、所定量のマグネシウム材料を含有させることにより、光劣化耐性を有する。したがって、本発明の効果を顕著に享受できることから、透明容器、特に、PETボトル容器は好適な態様である。ここで、透明容器とは、実質的に内容物を外側から目視することができる遮光されていない容器をいい、着色されている容器も透明容器に含まれるものとする。
【0034】
本発明の好適な態様の飲料としては、加熱殺菌及び密封された容器詰めの果汁含有飲料がある(加熱殺菌及び密封された容器詰めの飲料を加熱密封容器詰め飲料と呼ぶ)。本明細書における加熱殺菌とは、食品衛生法に定められた条件と同等以上の効果が得られる加熱による殺菌をいい、例えば、果汁とマグネシウム材料とを含有する調合液を高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法が挙げられる。加熱殺菌の条件は、果汁含有飲料の調合液の特性や使用する保存容器に応じて適宜選択すればよいが、UHT殺菌法の場合、通常120~150℃で1~120秒間程度、好ましくは130~145℃で30~120秒間程度の条件であり、レトルト殺菌法の場合、通常110~130℃で10~30分程度、好ましくは120~125℃で10~20分間程度の条件である。
【0035】
(製造方法)
本発明では、上述の通り、所定範囲の果汁の割合及び糖度に調整された果汁含有飲料にマグネシウム材料を添加することで、果汁の劣化臭が低減された果汁含有飲料を得ることができる。上述の通り、マグネシウムは果汁からも飲料中に持ち込まれ得るが、本発明では、飲料に、マグネシウム材料(好ましくはナチュラルミネラルウォーター)を添加することが重要である。
【0036】
本発明は、別の観点から言えば、飲料の調製時にマグネシウム材料を添加することを含む、劣化臭が低減された果汁含有飲料の製造方法であるとも言える。すなわち、下記の工程(i)~(iii);
(i)飲料中の果汁の割合が5~40%となる量の果汁を添加する工程、
(ii)飲料の糖度を4.0~9.0に調整する工程、
(iii)食品に使用可能な水溶性のマグネシウム塩又は天然ミネラル素材から選択される1種以上のマグネシウム材料を添加する工程、
を有する、果汁含有飲料の製造方法である。
【0037】
マグネシウム材料は、飲料液を容器に充填する前のいずれの段階で添加してもよいが、飲料の加熱殺菌を行う前に添加することが好ましい。これにより、マグネシウム材料が添加されていない場合に比べて、劣化臭が低減された、果汁含有飲料を提供することができる。
【実施例0038】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0039】
<成分分析>
(1)マグネシウム、カルシウム含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているマグネシウム又はカルシウムの分析方法に従い、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)を用いて測定した。
【0040】
(2)たんぱく質含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているケルダール法にて分析し、下記式により求めた:
たんぱく質含有量(g/100g)=(V-B)×F×0.0014×K×100÷S
V:本試験滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:0.05mol/L硫酸標準溶液のファクター
K:窒素・たんぱく質換算係数
S:試料のサンプリング量 (g)
0.0014:0.05mol/L硫酸標準溶液1mlに対する窒素量(g)。
【0041】
(3)炭水化物含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されている方法に準じて、飲料の重量から、たんぱく質、脂質、灰分、及び水分の量を控除して算定した。
【0042】
(4)糖度
デジタル屈折計Rx-5000(アタゴ社製)を使用して20℃で可溶性固形分量を測定した。
【0043】
実験例1 マグネシウムによる劣化臭低減効果(1)
マグネシウム材料として、塩化マグネシウムを用いた。表1に示す処方の原材料を混合し、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られるプレート式熱交換器での高温短時間殺菌(UHT殺菌)後、一定の温度まで冷却し、ホットパック充填を行い、糖度の異なる果汁の割合が15%の容器詰め飲料(たんぱく質:0.1g/100ml、脂質:0g/100ml、酸度:0.27)を製造した。色差計(コニカミノルタ社製CM-5)を用いて、各飲料のL*、a*、b*値を測定し、彩度(C*=(a*2+b*2)1/2)を求めた。明度(L*)は35~38であり、彩度(C*)は14~16であった。また、飲料の液色をJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の色見本と照合したところ、最も近しい色は2.5Y8/10であった。
【0044】
各飲料について、各種成分分析を行うとともに、専門パネル5名による官能評価を行った。評価は、パネルに対し、マグネシウム(MgCl)無添加の飲料(対照)とMgClを添加した飲料(実験品)とをそれぞれ組み合わせたペアを提示した。パネルは提示されたペアのうちどちらが劣化臭をより強く感じるか、2点識別試験により評価した。
【0045】
結果を表2に示す。糖度が4.0~9.0の範囲であり、マグネシウム材料を配合したサンプル(No.1-3~1-5)は、対照(MgCl無添加)と比較して劣化臭の低減効果が顕著であった。
【0046】
【0047】
【0048】
実験例2 マグネシウムによる劣化臭低減効果(2)
マグネシウム材料として、硫酸マグネシウム又はナチュラルミネラルウォーター(マグネシウム含有量:1.1mg/100ml、カルシウム含有量:0.3mg/100ml)を用いること以外は、実験例1と同様にして表3に示す処方で果汁15%の容器詰め飲料を製造し(明度(L*):35~38、彩度(C*):14~16、たんぱく質:0.1g/100ml、脂質:0g/100ml、酸度:0.27)、実験例1と同様に評価した。結果を表4に示す。マグネシウム材料を変えた場合にも劣化臭低減効果が確認できた。さらに、サンプルNo.2-2(塩化マグネシウム使用)とNo.2-3又はNo.2-4を同パネルにペアで提示し、提示されたペアの飲料サンプルで劣化臭の強さに差があるか、差がある場合にはどちらの飲料が劣化臭をより強く感じるか、を評価した。結果を表5に示す。マグネシウム材料としてナチュラルミネラルウォーターを用いた場合、マグネシウム塩を用いた場合よりも、劣化臭低減効果が大きいことが判明した。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
実験例3 マグネシウムによる劣化臭低減効果(3)
マグネシウム量及び果汁量を変える以外は、実験例1と同様にして表6に示す処方で果汁の割合が10%の容器詰め果汁含有飲料を製造した(明度(L*):35~38、彩度(C*):14~16、色相10YR8/12、たんぱく質:0.1g/100ml、脂質:0g/100ml、酸度:0.23)。容器として500mL容量の透明PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル容器を用い、当該容器に充填した飲料を10000ルクスの可視光照射下で、15℃で60日間保存した後、官能評価した。結果を表7に示す。マグネシウム材料を配合した実験品(No.3-2~3-9)では、対照(No.3-1)と比較して劣化臭が低減されたと判断するパネルが現れ、外因性マグネシウムの量が0.2mg/100ml以上となる飲料(No.3-3~3-9)ではパネルの過半数が知覚できるほど顕著に劣化臭が低減された。マグネシウム量が多いほど劣化臭低減効果が得られたが、外因性マグネシウムの量が2.4mg/100mlの実験品(No.3-9)では果汁成分の凝集沈殿が発生しており、そのせいか劣化臭低減作用が知覚され難くなった。また、マグネシウム由来のえぐ味を感じるパネルが存在した。これより、外因性マグネシウム量の上限は、2.0mg/100ml程度(好ましくは1.8mg/100ml、より好ましくは1.5mg/100ml、さらに好ましくは1.2mg/100ml)であることが示唆された。
【0053】
【0054】
【0055】
実験例4 マグネシウムによる劣化臭低減効果(4)
マグネシウム材料として、市販のナチュラルミネラルウォーター(マグネシウム含有量:2.6mg/100ml、カルシウム含有量:8.9mg/100ml、硬度:329mg/L、pH7.2)を用いる以外は、実験例3と同様にして表8に示す処方で果汁の割合が10%のPETボトル入りの果汁含有飲料を製造し(明度(L*):35~38、彩度(C*):14~16、色相10YR8/12、たんぱく質:0.1g/100ml、脂質:0g/100ml、酸度:0.23)、光照射試験を行って官能評価した。結果を表9に示す。マグネシウム材料としてナチュラルミネラルウォーターを用いた場合にも劣化臭低減効果が得られた。
【0056】
【0057】
【0058】
実験例3及び実験例4で得られたマグネシウム材料を添加した飲料について、No.3-2(塩化マグネシウム)とNo.4-7(ナチュラルミネラルウォーター)のようにマグネシウム量が同じでマグネシウム材料のみが異なる2品をペアとして提示し、劣化臭の強さを評価した。結果を表10に示す。ナチュラルミネラルウォーターを用いたサンプルの方が水溶性のマグネシウム塩(MgCl)を用いた場合よりも劣化臭低減効果が大きかった。また、保存後の飲料の液色がより鮮やかに維持されていた。
【0059】
【0060】
実験例5 果汁の影響
マグネシウム材料として、塩化マグネシウム又は市販のナチュラルミネラルウォーター(マグネシウム含有量:0.6mg/100ml、カルシウム含有量:0.8mg/100ml、硬度:45mg/L、pH7.0)を用いた。表11に示す処方で実験例1と同様にして、容器詰めの果汁含有飲料を製造した。専門パネル6名で、対照と比較した場合の劣化臭の強さを5点法(5点:対照と比較して非常に劣化臭が低減されている、4点:対照と比較して僅かに劣化臭が低減されている、3点:対照と同程度である、2点:対照よりも劣化臭を僅かに強く感じる、1点:対照よりも劣化臭を強く感じる)により各自が評価し、その結果に基づき合意により評価点を決定した。結果を表12に示す。果汁の種類を変えた場合にも所定量のマグネシウム材料を含有させることで、劣化臭を低減させることができた。その効果は、透明果汁よりも混濁果汁の方が顕著であることが示唆された。
【0061】
【0062】