(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158271
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20241031BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20241031BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073337
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
(72)【発明者】
【氏名】白石 竜朗
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD04
4E168CA03
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA15
4E168EA17
4E168JA27
(57)【要約】
【課題】積層材質が変化した場合の反射光強度の変化を検出しながらレーザ加工するレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を、重畳したレーザビームを出射するレーザ発振器と、レーザビームを導光して被加工物に照射する照射光学系と、被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出して、被加工物のレーザ加工を制御する制御部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、
高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを出射するレーザ発振器と、
前記レーザビームを導光して前記被加工物に照射する照射光学系と、
前記被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出して、前記被加工物のレーザ加工を制御する制御部と、
を備える、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記被加工物からの反射光の反射光強度を処理する反射光信号処理部と、
前記反射光信号処理部による処理結果に基づいて、前記照射光学系を制御する全体システム制御部と、
を含む、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記反射光信号処理部は、前記反射光から、前記短パルスレーザの反射光を前記短パルスレーザのパルス周波数に対応した高周波カットフィルターで除去して、前記連続発振レーザの反射光を得る、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記被加工物からの反射光を導光して前記反射光信号処理部に入射させる反射光光学系をさらに備える、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、前記レーザ加工装置は、前記複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ加工する、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、
高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを前記被加工物に照射する工程と、
前記被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出する工程と、
前記反射光の反射光強度の変化に基づいて、前記被加工物のレーザ加工を制御する工程と、
を含む、レーザ加工方法。
【請求項7】
前記反射光から、前記短パルスレーザの反射光を前記短パルスレーザのパルス周波数に対応した高周波カットフィルターで除去して、前記連続発振レーザの反射光を得る工程をさらに含む、請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、前記レーザビームを前記被加工物に照射する工程において、前記複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ加工する、請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、
高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを複数回にわたって前記被加工物に照射する工程と、
各回のレーザビームの照射ごとに、前記被加工物からの反射光の反射光強度と、指標の反射光強度とを対比して、反射光強度の変化を検出する工程と、
前記反射光強度の変化に基づいて、前記被加工物のレーザ加工を制御する工程と、
を含む、レーザ加工方法。
【請求項10】
所定回数のレーザビームの照射ごとの平均の反射光強度Rmとその分散Rσとに基づいて、前記指標の反射光強度を算出する工程をさらに含む、請求項9に記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
前記指標の反射光強度は、Kを反射光強度のばらつき範囲を決めるためのシグマ管理係数として、Rm+K・Rσで表される、請求項10に記載のレーザ加工方法。
【請求項12】
前記被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、前記レーザビームを複数回にわたって前記被加工物に照射する工程において、前記複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ除去加工する、請求項9に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工方法に関し、より詳細には、短パルスレーザを用いて、積層膜を除去加工する際、レーザ反射光で除去状態を検出しながら、レーザ加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工方法は、レーザ溶接時に溶融部から発光する溶接光(レーザ反射光、熱放射光、プラズマ光など)のピーク強度、若しくは、それらの溶接光強度の積分値(発光エネルギ)から、リアルタイムでレーザ加工状態評価を行ないながらレーザ加工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1では、レーザ加工ヘッド部に取り付けられた溶接光測定部を用いて、レーザ溶接時に溶融部から発光される溶接光からレーザ加工を監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、短パルスレーザ加工は非熱的加工であるため、レーザ除去加工時に熱放射光・プラズマ光がほとんど発生せず、レーザ照射時間も非常に短いため、反射光強度も弱い。更に、短パルスレーザ加工であるため、積層材料に関わらず除去性能に優れており、積層材質が変化しても、反射光強度の変化は少ない。
【0006】
そのため、特許文献1に挙げたようなレーザ加工時の反射光では、除去加工できたかを検出することができない。
【0007】
本開示は、前記従来の課題を解決するものであって、積層材質が変化した場合の反射光強度の変化を検出しながらレーザ加工するレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本開示に係るレーザ加工装置は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを出射するレーザ発振器と、レーザビームを導光して被加工物に照射する照射光学系と、被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出して、被加工物のレーザ加工を制御する制御部と、を備える。
【0009】
本開示に係るレーザ加工方法は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを被加工物に照射する工程と、被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出する工程と、反射光の反射光強度の変化に基づいて、被加工物のレーザ加工を制御する工程と、を含む。
【0010】
また、本開示に係るレーザ加工方法は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを複数回にわたって被加工物に照射する工程と、各回のレーザビームの照射ごとに、被加工物からの反射光の反射光強度と、指標の反射光強度とを対比して、反射光強度の変化を検出する工程と、反射光強度の変化に基づいて、被加工物のレーザ加工を制御する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るレーザ加工装置によれば、レーザ加工時に、回路基板の積層膜の除去加工状態を検出しながら、レーザ除去加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す全体図である。
【
図2】実施の形態1に係るレーザ加工装置において用いるレーザ発振器の構成を示す概略図である。
【
図3】(a)は、実施の形態1に係るレーザ加工装置における変調信号発生器から出る変調信号強度の時間変化を示す図であり、(b)は、従来のレーザ加工装置における変調信号発生器から出る変調信号強度の時間変化を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係るレーザ加工装置におけるレーザ発振器からでるレーザ出力の時間変化を示す図である。
【
図5】(a)~(c)は、回路基板上の積層膜をレーザ除去加工する時の経時変化を示す概略断面図である。
【
図6】回路基板上の積層膜を走査してレーザ除去加工する時の状態を示す概略図である。
【
図7】(a)~(c)は、積層膜除去加工後の様々な断面状態を示す拡大断面図である。
【
図8】(a)~(c)は、抵抗膜に対する短パルスレーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
【
図9】(a)~(c)は、抵抗膜に対する連続発振レーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
【
図10】(a)~(c)は、電極に対する短パルスレーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
【
図11】(a)~(c)は、電極に対する連続発振レーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
【
図12】実施の形態1に係るレーザ加工装置におけるレーザ発振器から出射したレーザビームのレーザ出力の時間変化を示す図である。
【
図13】(a)は、
図12のレーザビームが回路基板の抵抗膜に照射された時の反射光の反射光強度の時間変化を示す図であり、(b)は、
図12のレーザビーム3が回路基板の電極32に照射された時の反射光の反射光強度の時間的変化を示す図であり、(c)は、(b)の反射光について高周波カットフィルターによって短パルスレーザの反射光成分を除去した連続発振レーザの反射光成分を示す図である。
【
図14】実施の形態1に係るレーザ除去加工方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の態様に係るレーザ加工装置は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを出射するレーザ発振器と、レーザビームを導光して被加工物に照射する照射光学系と、被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出して、被加工物のレーザ加工を制御する制御部と、を備える。
【0014】
第2の態様に係るレーザ加工装置は、上記第1の態様において、制御部は、被加工物からの反射光の反射光強度を処理する反射光信号処理部と、反射光信号処理部による処理結果に基づいて、前記照射光学系を制御する全体システム制御部と、を含んでもよい。
【0015】
第3の態様に係るレーザ加工装置は、上記第2の態様において、反射光信号処理部は、反射光から、短パルスレーザの反射光を短パルスレーザのパルス周波数に対応した高周波カットフィルターで除去して、連続発振レーザの反射光を得てもよい。
【0016】
第4の態様に係るレーザ加工装置は、上記第2又は第3の態様において、被加工物からの反射光を導光して反射光信号処理部に入射させる反射光光学系をさらに備えてもよい。
【0017】
第5の態様に係るレーザ加工装置は、上記第1から第4のいずれかの態様において、被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、レーザ加工装置は、複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ加工してもよい。
【0018】
第6の態様に係るレーザ加工方法は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを被加工物に照射する工程と、被加工物からの反射光の反射光強度の変化を検出する工程と、反射光の反射光強度の変化に基づいて、被加工物のレーザ加工を制御する工程と、を含む。
【0019】
第7の態様に係るレーザ加工方法は、上記第6の態様において、反射光から、短パルスレーザの反射光を短パルスレーザのパルス周波数に対応した高周波カットフィルターで除去して、連続発振レーザの反射光を得る工程をさらに含んでもよい。
【0020】
第8の態様に係るレーザ加工方法は、上記第6又は第7の態様において、被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、前記レーザビームを前記被加工物に照射する工程において、複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ加工してもよい。
【0021】
第9の態様に係るレーザ加工方法は、被加工物をレーザ加工するレーザ加工方法であって、高ピークパワーを有する短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザと、を重畳したレーザビームを複数回にわたって被加工物に照射する工程と、各回のレーザビームの照射ごとに、被加工物からの反射光の反射光強度と、指標の反射光強度とを対比して、反射光強度の変化を検出する工程と、反射光強度の変化に基づいて、被加工物のレーザ加工を制御する工程と、を含む。
【0022】
第10の態様に係るレーザ加工方法は、上記第9の態様において、所定回数のレーザビームの照射ごとの平均の反射光強度Rmとその分散Rσとに基づいて、指標の反射光強度を算出する工程をさらに含んでもよい。
【0023】
第11の態様に係るレーザ加工方法は、上記第10の態様において、指標の反射光強度は、Kを反射光強度のばらつき範囲を決めるためのシグマ管理係数として、Rm+K・Rσで表してもよい。
【0024】
第12の態様に係るレーザ加工方法は、上記第9から第11のいずれかの態様において、被加工物は、複数の積層膜を有すると共に、レーザビームを複数回にわたって被加工物に照射する工程において、複数の積層膜のうちの特定の積層膜をレーザ除去加工してもよい。
【0025】
以下、本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではない。また、本開示の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。更に、他の実施の形態との組合せも可能である。
【0026】
(実施の形態1)
<レーザ加工装置>
図1は、実施の形態1に係るレーザ加工装置200の構成を示す全体図である。このレーザ加工装置は、レーザ発振器1、レーザ加工ヘッド部100、反射光信号処理部14、全体システム制御部15を備えている。レーザ加工ヘッド部100は、レーザビーム3の光学系を構成するコリメートレンズ4、ダイクロイックミラー5、加工用ガルバノミラー6a、6b、集光レンズ8、結像レンズ12と、反射光11の光学系を構成する、反射光センサー13と、加工用ガルバノミラー6a、6bを制御するガルバノ制御部7と、を含む。
レーザ発振器1とレーザ加工ヘッド部100とは、加工用光ファイバー2で接続されている。その加工用光ファイバー2から出射したレーザビーム3は、コリメートレンズ4によって平行ビームとなり、ダイクロイックミラー5によって直角に折り曲げられ、2対の加工用ガルバノミラー6a、6bで反射された後、集光レンズ8によって集光され、位置決め治具10上に固定されたワーク(被加工物)9に照射される。照射されたレーザビーム3によってワーク9がレーザ加工される。
【0027】
なお、ダイクロイックミラー5は、レーザビーム3の波長(例えば1070nm)のみ全反射され、それ以外の波長は透過するように、その表面が特殊コーティングされている。但し、全反射と言っても、一般的には99%以上の反射を意味し、残り1%程度は透過している。このレーザ加工装置200では、後述するように、反射光の光強度の検出は、ダイクロイックミラー5を透過する光を用いている。
【0028】
また、ガルバノ制御部7により、2対の加工用ガルバノミラー6a、6bの角度が制御され、ワーク9の面に対して平面2次元的にレーザビーム3を走査することができる。
【0029】
一方、レーザ照射時にワーク9で反射される反射光11は、集光レンズ8を通過し、2対の加工用ガルバノミラー6a、6bで反射され、ダイクロイックミラー5を透過していく。また、
図1において、レーザビーム3と反射光11とは、理解しやすいように、ずらして描いているが、実際には同軸となる。
【0030】
更に、その透過してきた反射光11は、結像レンズ12を介して反射光センサー13に入射される。なお、この入射される反射光11は、上記の通り、元の反射光11のうちのわずか1%程度である。反射光センサー13では、入射した反射光11の反射光強度に応じた電気信号である反射光信号に変換され、反射光信号処理部14に伝送される。
【0031】
反射光信号処理部14では、反射光信号を演算処理する機能を有している。例えば、反射光のうち、短パルスレーザの反射光を遮断する短パルスレーザのパルス周波数に対応した高周波カットフィルター(図示なし)などの機能を有している。これによって、反射光から、短パルスレーザの反射光を除去して、連続発振レーザの反射光を得ることができる。
【0032】
一方、全体システム制御部15は、反射光信号処理部14で演算処理した信号を元に、レーザ発振器1と、2対の加工用ガルバノミラー6a、6bのガルバノ制御部7とを同期制御する。これによって、反射光強度の変化に基づいてワーク9に照射するレーザビーム3の走査を制御することができる。
【0033】
<レーザ発振器>
次に、本実施の形態1で使用するレーザ発振器1について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、実施の形態1に係るレーザ加工装置において用いるレーザ発振器の構成を示す概略図である。
レーザ発振器1は、高ピークパワーを有する繰り返し短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザとを、同時に発振させることができる構成となっている。
図2は、その基本構成を示しており、全反射ミラー21と出力ミラー22との間において、短パルスレーザと連続発振レーザとが同時発振し、短パルスレーザと連続発振レーザとが重畳したレーザビーム3として出力される。例えば、短パルスレーザのパルス幅としては、一般的に、~ns、~psであることが多い。また、短パルスのパルス周波数は、例えば1Hz~100kHzである。なお、パルス周波数は上記の範囲に限られない。
【0034】
図3(a)は、実施の形態1に係るレーザ加工装置における変調信号発生器から出る変調信号強度の時間変化を示す図であり、
図3(b)は、従来のレーザ加工装置における変調信号発生器から出る変調信号強度の時間変化を示す図である。
図4は、実施の形態1に係るレーザ加工装置におけるレーザ発振器からでるレーザ出力の時間変化を示す図である。
変調信号発生器26から、
図3(a)で示すような高繰り返し短パルス信号28Pと連続出力信号28Cとが重畳された電気変調信号が光変調器25に入る。ちなみに、通常の短パルスレーザ発振器のみでは、変調信号発生器26から、
図3(b)で示すような高繰り返し短パルス信号28Pだけの電気変調信号が光変調器25に入る。
【0035】
励起光23が合成器24を通して共振器内に入り、共振器内部において、光変調器25から出てくる短パルス成分だけが、時間圧縮・強度増幅され、短パルスレーザ発振する。その結果、
図4に示すような短パルスレーザ3Pと連続発振レーザ3Cとが重畳されたレーザビーム3が発振する。
【0036】
<レーザ除去加工方法>
次に、実施の形態1に係るレーザ加工装置を用いた、回路基板上の積層膜のレーザ除去加工方法について説明する。
【0037】
図5(a)~(c)は、回路基板30上の積層膜をレーザ除去加工する時の経時変化を示す概略断面図である。
図6は、回路基板30上の積層膜を走査してレーザ除去加工する時の状態を示す概略図である。
図5(a)は、回路基板30の1事例の断面構造を示す概略断面図である。回路基板30は、絶縁基板31上に、金などの導電体からなる電極32が形成され、その上に抵抗膜33、保護膜34が順に積層されている。
レーザビーム3を回路基板30上に照射することにより、保護膜34と抵抗膜33とを除去加工し、電極32を表面に露出させて、外部電極として取り出すことを目的としている。
【0038】
図5(b)は、複数回の走査照射後の回路基板の断面構造を示す概略断面図である。
図5(b)に示すように、保護膜34までが除去加工され、除去加工部35が形成されている。
【0039】
図5(c)は、更に、走査照射回数を重ねた時の回路基板の断面構造を示す概略断面図である。
図5(c)に示すように、保護膜34に加えて抵抗膜33も除去加工され、除去加工部35において、電極32が表面に露出している。
上述した
図5(a)~(c)は、いずれも回路基板の断面構造を示す概略断面図であり、実際には、
図6で示したように、回路基板に対してレーザビーム3が矢印の方向に走査され、その走査回数の増加に伴い、レーザ除去加工が進行する。
【0040】
次に、ある一定の回数だけ走査しレーザ除去加工を行った時の結果を
図7に示す。
図7(a)~(c)は、積層膜除去加工後の様々な断面状態を示す拡大断面図である。
事前の検証実験により、電極32が表面に露出する最適な走査回数を設定したとしても、実際の回路基板においては、各種積層膜の厚みは製造上のばらつきが生じるため、
図7(a)~(c)に示すように、電極32に対するレーザ除去加工量は変動してしまうことがある。
【0041】
図7(a)では、各種積層膜の厚みが正常厚みの場合であり、電極32まで正常に除去加工されている。ところが、
図7(b)のように、抵抗膜33の厚みが厚くなると、電極32まで除去加工ができず、除去不足の不良となる。逆に、
図7(c)のように、抵抗膜33の厚みが薄くなると、電極32が異常に除去加工され、除去過剰の不良となる。
【0042】
そこで、レーザ加工時のワークからの反射光を測定して、その反射光強度の変化を検出することにより、電極32が表面に露出したかを検出する方法がある。しかし、上述のようにレーザ加工時の照射時間(パルス幅に相当)が非常に短いため、その反射光強度も非常に弱く、強度変動も大きい。また、短パルスレーザ加工は、除去加工性に優れており、積層膜の材質に依存せず除去加工できる。そのため、積層膜の除去が進み、積層膜の材質が変化しても、反射光強度の変化としては現れにくい。
【0043】
一方、本発明者は、短パルスレーザと重畳して、積層膜に損傷を与えない低パワーの連続発振レーザを照射すると、連続光であるため積層膜の材質変化(反射率の変化)に応じて、反射光強度が変化することを見いだした。このとき、反射しない連続発振レーザは積層膜に吸収され加熱されるが、低パワーであるため除去加工等の損傷を与えない。
【0044】
そこで、本実施の形態に係るレーザ加工方法では、高ピークパワーを有する高繰り返し短パルスレーザと、低出力の連続発振レーザとを同時にレーザ発振させて重畳させている。このため、高ピークパワーを有する高繰り返し短パルスレーザで積層膜の除去加工を行い、且つ、低出力の連続発振レーザによる反射光から積層膜の除去状態を検出することができる。
【0045】
図8(a)~(c)は、短パルスレーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
図8(a)は、回路基板の抵抗膜33上に、短パルスレーザビーム3Pが照射される直前の断面構造を示す概略断面図である。
図8(b)は、短パルスレーザビーム3Pが抵抗膜33上に照射され、抵抗膜33がアブレーション加工されている時の断面構造を示す概略断面図である。アブレーション加工中は、抵抗膜33の上方にアブレーションプルーム36が発生し、抵抗膜33が昇華したアブレーション粒子37が周囲に飛んでいく。それと同時に、
図8(c)で示すような短パルスレーザの反射光11Pが発生する。
図8(a)~(c)は、短パルスレーザの照射のわずかな間に瞬間的に同時に発生し、複雑なプロセス現象となるため、短パルスレーザの反射光11Pは変動する。
【0046】
一方、
図9(a)~(c)は、連続発振レーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
図9(a)は、回路基板の抵抗膜33上に、連続発振レーザビーム3Cが連続照射されている状態の断面構造を示す概略断面図である。
図9(b)で示すように、連続発振レーザビーム3Cが抵抗膜33上に照射されるが、抵抗膜33は加工されない。そのため、
図9(c)で示すように、安定した連続発振レーザの反射光11Cが発生する。
【0047】
図8、
図9で説明した除去加工が更に進み、電極32にまで到達した時のレーザ加工プロセスが、
図10、
図11である。
【0048】
図10(a)~(c)は、電極32に対する短パルスレーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
図10(a)は、回路基板の電極32上に、短パルスレーザビーム3Pが照射される直前の断面構造を示す概略断面図である。
図10(b)は、短パルスレーザビーム3Pが電極32上に照射され、電極32がアブレーション加工されている時の断面構造を示す概略断面図である。電極32に対しても、アブレーション加工され、電極32の上方にアブレーションプルーム36aが発生し、電極32が昇華したアブレーション粒子37aが周囲に飛んでいく。それと同時に、
図10(c)で示すような短パルスレーザの反射光11Pが発生する。
図10(a)~(c)は、短パルスレーザの照射のわずかな間に瞬間的に同時に発生し、複雑なプロセス現象となるため、短パルスレーザの反射光11Pは変動する。また、電極32も、抵抗膜33と同様にアブレーション加工されるため、加工対象が抵抗膜33から電極32に替わっても短パルスレーザの反射光11Pの強度変化も少ない。
【0049】
図11(a)~(c)は、電極32に対する連続発振レーザによる加工プロセスの経時変化を示す概略断面図である。
一方、
図11(a)は、回路基板の電極32上に、連続発振レーザビーム3Cが連続照射されている状態の断面構造を示す概略断面図である。
図11(b)で示すように、連続発振レーザビーム3Cが電極32上に照射されるが、電極32は加工されない。そのため、
図11(c)で示すように、安定した連続発振レーザの反射光11Cが発生し、電極32の反射率に応じた反射光強度が発生する。抵抗膜33に対して、電極32は金などの高反射材料でできているため、加工対象が抵抗膜33から電極32に替わると、電極32からの連続発振レーザの反射光11Cは強くなる。
【0050】
次に、具体的に、回路基板にレーザビーム3を1回走査した時の反射光11について説明する。
【0051】
図12は、実施の形態1に係るレーザ加工装置におけるレーザ発振器から出射したレーザビーム3のレーザ出力の時間的変化を示す図である。レーザビーム3には、短パルスレーザビーム3Pと連続発振レーザビーム3Cとが重畳されている。
【0052】
図13(a)は、
図12のレーザビーム3が回路基板の抵抗膜33に照射された時の反射光の反射光強度の時間変化を示す図である。この反射光には、短パルスレーザの反射光11Pと連続発振レーザの反射光11Cとが重畳されている。短パルスレーザの反射光11Pは、上述したように、反射光強度が変動しているが、連続発振レーザの反射光11Cは安定している。
【0053】
図13(b)は、
図12のレーザビーム3が回路基板の電極32に照射された時の反射光の反射光強度の時間的変化を示す図である。この反射光には、短パルスレーザの反射光11Pと連続発振レーザの反射光11Cとが重畳されている。この時の短パルスレーザの反射光11Pは、抵抗膜33への照射時の時より、若干増加しているだけで、反射光強度の変動も発生している。
【0054】
一方、連続発振レーザの反射光11Cは、抵抗膜33への照射時の時より、反射光強度が大きくなっており、且つ、安定している。
【0055】
図13(c)は、
図13(b)の反射光について高周波カットフィルターによって短パルスレーザの反射光11P成分を除去した連続発振レーザの反射光11C成分を示す図である。
更に、本実施の形態1に係るレーザ加工装置の反射光信号処理部14には、反射光の短パルス成分(高周波)を遮断する高周波カットフィルターの機能があり、その機能を用いて、短パルスレーザの反射光11P成分だけを除去することができる。高周波カットフィルターとしては、ハード的な回路構成(高周波カットフィルター回路)でも実現できるし、ソフト的には、デジタル的な高周波カットフィルター、若しくは、その反射光の発生タイミングに合わせた時間的なカットフィルターなどにより実現可能である。その機能を用いた結果が、
図13(c)であり、短パルスレーザの反射光11P成分だけが除去され、連続発振レーザの反射光11C成分だけを間欠的に抽出している。
この間欠的に抽出された連続発振レーザの反射光11C成分の反射光強度から、抵抗膜33にレーザ照射されたのか、電極32にレーザ照射されたのか、を検出することができる。
【0056】
前述で説明した
図6に示すように、短パルスレーザによる回路基板上の抵抗膜33の除去加工は、レーザビーム3を、数回~数十回走査して行われる。
【0057】
図14は、実施の形態1に係るレーザ除去加工方法のフローチャートである。
この時のレーザ除去加工方法について、
図14のフローチャートを用いて説明する。
(1)まず、ステップ101で、レーザ除去加工が開始される。
レーザ走査加工が進んでいくと、始めは、深さ方向で表面側の保護膜34が除去加工され、次に、抵抗膜33が除去加工されていく。なお、本フローチャートでは、抵抗膜33が除去加工されている状態から説明していく。
(2)ステップ102で、N回目のレーザ除去加工を行う。
(3)そのレーザ除去加工時の反射光11を測定する(ステップ103)。
この反射光測定と同時に、
図13で説明したように、反射光から短パルスレーザの反射光11P成分を除去し、間欠状の連続発振レーザの反射光11C成分だけを抽出する。
(4)この間欠状の連続発振レーザの反射光11C成分を、1回の走査当たりで平均化した値を、反射光強度R(N)とする(ステップ104)。
(5)一方、初期設定条件として、過去の反射光強度を分析するために
・平均化回数N0(過去直近に走査の何回の反射光強度を使用するか)
・シグマ管理係数K(反射光強度のばらつき範囲を決める)
を、事前に決めておく(ステップ105)。
【0058】
(6)ステップ106では、過去直近走査のN0回の反射光分析を行う。
・分析範囲:(N-N0)回目~(N-1)回目
・反射光強度:R(N-N0)~R(N-1)
から、
・平均の反射光強度Rm、分散Rσ
を算出する。
(7)ステップ107では、今回のレーザ除去加工で得られた反射光強度:R(N)と過去直近走査のN0回の反射光分析から得られた指標:Rm+K・Rσを比較する。
反射光強度R(N)がそれより大きければ、今回のレーザ除去加工での反射光強度が、過去直近走査のN0回での反射光強度より、統計的に有意差があり、反射光強度の変化が生じていると考えられる。
なお、反射光強度の分布が正規分布であるとした場合、シグマ管理係数Kが1の場合には、反射光強度がRm-σ~Rm+σの範囲にあるのはおよそ68%であり、Kが2の場合には、反射光強度がRm-2σ~Rm+2σの範囲にあるのはおよそ95%であり、Kが3の場合には、反射光強度がRm-3σ~Rm+3σの範囲にあるのはおよそ99.7%である。
つまり、抵抗膜33が既に除去されており、その下層である電極32の除去加工に進んでいると判断でき、レーザ除去加工が完了する(ステップ108)。
【0059】
(8)逆に、反射光強度R(N)がまだ小さければ、抵抗膜33の除去加工中であり、その下層の電極32に到達していないと判断される。その場合は、再度、抵抗膜33に対して、N+1回目の除去加工を行う必要がある(ステップ109)。
尚、上述した
図14のフローチャートのステップ107の反射光強度判定において、電極32が除去加工されたかについては、予め決められた一定の判定閾値を用いてもよい。
但し、その場合は、事前検証などにより、何らかの一定の判定閾値設定が必要である。
一方、上述した
図14のフローチャートでは、自動的に判定閾値が決まり、事前に決めておく必要がないことが利点である。
【0060】
上記、述べてきたように、本開示によるレーザ加工方法によれば、回路基板の積層膜の除去加工状態を検出しながら、レーザ除去加工することができる。
【0061】
また、本開示は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、上記記載において、複数の積層膜のうちの抵抗膜のレーザ除去加工を事例として説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、複数の積層膜のうちの保護膜の除去加工、電極の除去加工、更には、抵抗膜の抵抗値を調整するトリミング加工などにも適用可能である。
【0062】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、本開示の請求の範囲内に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のレーザ加工方法では、特定の積層膜の除去加工状態を検出しながら、レーザ除去加工することができるため、高精度な回路基板を形成することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 レーザ発振器
2 加工用光ファイバー
3 レーザビーム
4 コリメートレンズ
5 ダイクロイックミラー
6a、6b 加工用ガルバノミラー
7 ガルバノ制御部
8 集光レンズ
9 ワーク
10 位置決め治具
11 反射光
12 結像レンズ
13 反射光センサー
14 反射光信号処理部
15 全体システム制御部
21 全反射ミラー
22 出力ミラー
23 励起光
24 合成器
25 光変調器
26 変調信号発生器
27 光ファイバー増幅器
28P 短パルス信号
28C 連続出力信号
31 絶縁基板
32 電極
33 抵抗膜
34 保護膜
35 除去加工部
36 アブレーションプルーム
37 アブレーション粒子
100 レーザ加工ヘッド部
200 レーザ加工装置