(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158287
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/509 20060101AFI20241031BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20241031BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C23C16/509
C23C16/26
H05H1/46 L
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073369
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】516341888
【氏名又は名称】NU-Rei株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】小田 修
(72)【発明者】
【氏名】ノ・ヴァン・ノン
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084BB28
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD14
2G084DD22
2G084DD25
2G084DD55
2G084DD63
2G084FF07
2G084FF13
2G084FF14
4K030AA04
4K030AA09
4K030AA18
4K030BA27
4K030BB01
4K030FA04
4K030GA02
4K030JA03
4K030KA23
4K030KA37
(57)【要約】
【課題】カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる、プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置1。プラズマCVD装置1は、カーボン系ナノ材料を成膜する基板4を配置するチャンバ2と、チャンバ2内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置3と、を有する。プラズマ生成装置3は、基板4の被成膜面41に対向する平坦面311を備えた高周波アンテナ31と、高周波アンテナ31の平坦面311を覆う絶縁性のアンテナカバー32と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置であって、
上記カーボン系ナノ材料を成膜する基板を配置するチャンバと、
該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有し、
上記プラズマ生成装置は、上記基板の被成膜面に対向する平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有する、プラズマCVD装置。
【請求項2】
上記高周波アンテナは、シート状である、請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下である、請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3cm以下である、請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
チャンバと、該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有するプラズマCVD装置を用いて、基板の被成膜面にカーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法であって、
上記プラズマ生成装置は、平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記被成膜面を上記平坦面に対向させて、上記基板を上記チャンバ内に配置した状態で、上記基板の上記被成膜面に上記カーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項6】
上記高周波アンテナは、シート状である、請求項5に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項7】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下である、請求項5又は6に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項8】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3cm以下である、請求項5又は6に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマCVD法により、基板上にカーボンナノ構造体を形成する方法及び装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された方法においては、真空容器内に炭素含有ガスを導入すると共に、真空容器内に配置された高周波アンテナに高周波電力を印加することで、誘導結合型プラズマ(以下、適宜「ICP」という。)を発生させる。このICPのもとで、基板上にカーボンナノ構造体を形成する。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、カーボンナノ構造体を、大面積の基板上へ安価に形成できるカーボンナノ構造体の形成方法を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボン系ナノ材料(例えば、カーボンナノウォール、カーボンナノフレーク、カーボンナノフラワーカーボンナノチューブ、フラーレン、ダイアモンドなど)を、より高い生産性にて製造することが望まれている。本願発明者らは、例えば、カーボン系ナノ材料をリチウムイオン二次電池の負極に用いる技術について研究開発中である。この技術を工業的に実用化する際には、高い生産性が要求されることとなる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる、プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置であって、
上記カーボン系ナノ材料を成膜する基板を配置するチャンバと、
該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有し、
上記プラズマ生成装置は、上記基板の被成膜面に対向する平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有する、プラズマCVD装置にある。
【0008】
本発明の他の態様は、チャンバと、該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有するプラズマCVD装置を用いて、基板の被成膜面にカーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法であって、
上記プラズマ生成装置は、平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記被成膜面を上記平坦面に対向させて、上記基板を上記チャンバ内に配置した状態で、上記基板の上記被成膜面に上記カーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記プラズマCVD装置において、上記プラズマ生成装置は、上記平坦面を備えた高周波アンテナを有する。これにより、上記高周波放電アンテナにおける上記平坦面を構成する部位のインダクタンスを低くすることができる。それゆえ、高周波放電アンテナのインピーダンスを低減することができ、効率的にチャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせることができる。その結果、基板上にカーボン系ナノ材料を高い生産性にて形成することができる。
【0010】
上記カーボン系ナノ材料の製造方法は、平坦面を備えた高周波アンテナを有するプラズマ生成装置を用いる。これにより、基板上にカーボン系ナノ材料を高い生産性にて形成することができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる、プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、プラズマCVD装置の断面説明図。
【
図2】実施形態1における、プラズマ生成装置の断面説明図であり、
図3のII-II線矢視断面相当の説明図。
【
図3】実施形態1における、平坦面の法線方向から見たプラズマ生成装置の説明図であり、
図2のIII-III線矢視断面相当の説明図。
【
図4】実施形態に1おける、平坦面の法線方向から見た、2つのプラズマ生成装置の説明図。
【
図5】実施形態2における、プラズマCVD装置の断面説明図。
【
図6】実施形態2における、上方から見たプラズマCVD装置の平面説明図。
【
図7】実験例1における、(a)試料1の表面のSEM写真、(b)試料1の断面のSEM写真。
【
図8】実験例1における、(a)試料2の表面のSEM写真、(b)試料2の断面のSEM写真。
【
図9】実験例1における、(a)試料3の表面のSEM写真、(b)試料3の断面のSEM写真。
【
図10】実験例1における、(a)試料4の表面のSEM写真、(b)試料4の断面のSEM写真。
【
図11】実験例1における、距離dと膜の成長速度との関係を示す線図。
【
図12】実験例2における、リチウム二次電池の容量と電圧との関係を示す線図。
【
図13】実験例2における、リチウム二次電池の単位面積あたりの容量と電圧との関係を示す線図。
【
図14】実施形態3における、プラズマCVD装置の断面説明図。
【
図15】実施形態4における、プラズマCVD装置の断面説明図。
【
図16】実施形態5における、プラズマ生成装置の斜視説明図。
【
図17】実施形態5における、プラズマ生成装置の断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記カーボン系ナノ材料としては、例えば、カーボンナノウォール、カーボンナノフレーク、カーボンナノフラワーカーボンナノチューブ、フラーレン、ダイアモンドなどが考えられる。
上記基板の材料としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等を用いることができる。基板は、例えば、金属箔とすることができる。
例えば、リチウムイオン電池の負極集電体を構成する金属箔基板に、負極活物質であるカーボン系ナノ材料を成膜することができる。
【0014】
上記高周波アンテナの材料としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属およびそれらの合金及びそれらに金属メッキした金属などを用いることができる。
上記アンテナカバーの材料としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、石英、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化ジルコニウム(ZnO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、熱分解窒化ホウ素(pBN)などの絶縁体を用いることができる。
【0015】
上記高周波アンテナは、シート状とすることができる。この場合には、より効果的に、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる。
【0016】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下とすることができる。この場合にも、より効果的に、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる。
【0017】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3cm以下とすることができる。この場合には、カーボン系ナノ材料の生産性をさらに向上させることができる。
【0018】
(実施形態1)
プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法に係る実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
本形態のプラズマCVD装置1は、カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置である。
図1に示すごとく、プラズマCVD装置1は、チャンバ2と、プラズマ生成装置3と、を有する。チャンバ2には、カーボン系ナノ材料を成膜する基板4を配置する。プラズマ生成装置3は、チャンバ2内に誘導結合型のプラズマ(ICP)を生じさせる。
【0019】
プラズマ生成装置3は、
図2に示すごとく、高周波アンテナ31と、アンテナカバー32と、を有する。高周波アンテナ31は、基板4の被成膜面41に対向する平坦面311を備える。アンテナカバー32は、高周波アンテナ31の平坦面311を覆う。
【0020】
本形態において、高周波アンテナ31は、シート状である。すなわち、高周波アンテナ31は、Cu板等の金属板からなる。
図3に示すごとく、高周波アンテナ31は、平坦面311の法線方向から見た形状が、略長方形状を有する。本形態において、高周波アンテナ31の長さは12cm、幅は2cm、厚みは0.5mmとした。
【0021】
図2に示すごとく、シート状の高周波アンテナ31における、チャンバ2の内側を向いた平坦面311を覆うように、アンテナカバー32が配設されている。アンテナカバー32は、高周波アンテナ31がプラズマと接触するのを防止し、高周波アンテナ31の材料である金属がスパッタリングされてしまうのを防止する。
【0022】
また、高周波アンテナ31におけるチャンバ2と反対側には、絶縁性の支持部材33が配置されている。シート状の高周波アンテナ31は、支持部材33とアンテナカバー32との間に挟持されている。支持部材33及びアンテナカバー32の材料としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、石英、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化ジルコニウム(ZnO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、熱分解窒化ホウ素(pBN)などの絶縁体を用いることができる。本形態において、支持部材33及びアンテナカバー32はアルミナにて構成されている。
【0023】
支持部材33及びアンテナカバー32は、高周波アンテナ31の平坦面311の法線方向から見た形状が、略長方形状を有する。本形態において、当該長方形状の長さは約20cm、幅は約12cmとしている。また、アンテナカバー32の厚みは約3mmとしている。
【0024】
高周波アンテナ31における長手方向の両端部に、高周波電力が印加されるよう構成されている。すなわち、例えば、高周波アンテナ31の長手方向の一端が接地され、他端がインピーダンス整合器(図示略)を介して高周波電源に接続されている。
【0025】
本形態のプラズマCVD装置1は、プラズマ生成装置3を複数有する。
図1には、同様の構造の2個のプラズマ生成装置3が、チャンバ2の上部に並べて配された、プラズマCVD装置1を示す。本形態において、
図4に示すごとく、プラズマ生成装置3における高周波アンテナ31は、その長手方向が、2つのプラズマ生成装置3の並び方向と直交するように配置されている。
【0026】
チャンバ2内には、ヒータ111と、熱電対112と、ヒーターカバー113と、サセプタ114とが設けてある。ヒータ111は、基板4を加熱するためのものである。熱電対112にてヒータ温度が計測され、所定の温度に制御される。ヒーターカバー113は、ヒータ111を保護するとともにサセプタ114の荷重を受けつつ、サセプタ114が直接的にヒータ111に接触することを防ぐ。ヒーターカバー113は、例えば石英からなる。サセプタ114は、基板4を置くための台座としての機能と、ヒータ111からの輻射熱を受けて、更に熱を基板4に伝える機能とを有する。
【0027】
チャンバ2には、ガス導入部211とガス排出部212とが設けてある。
ガス導入部211は、チャンバ2内にガスを導入する部位である。カーボン系ナノ材料の形成にあたっては、炭素源ガスと水素の混合ガスを導入する。炭素源ガスは、プラズマCVD装置1の外部にある原料ガス供給システム121から供給される。各種原料ガスの流量は、流量制御装置122によりあらかじめ決められた流量に一定制御された上で、ガス導入部211に送られる。
【0028】
炭素源ガスには、CH4などの炭化水素ガス、C2F6などのフルオロカーボン、などを用いることができる。より具体的には、例えば、CH4、CF4、C2F6、CHF3、C4F8、C4H8、C2H2を用いることができる。炭素源ガスと水素の流量がそれぞれ所定の値に制御された上で、炭素源ガスと水素とが混合された混合ガスがガス導入部211からチャンバ2内に送られる。炭素源ガスと水素の他、アルゴンなどの不活性ガスを混合してもよい。不活性ガスを混合することでプラズマを発生しやすくすることができる。
【0029】
ガス排出部212は、チャンバ2内のガスを外部に排出する部位である。ガス排出部212は真空ポンプを含む真空排気系131に接続され、排出量が制御される。ガス導入部211からのガスの導入量と、ガス排出部212からのガス排出量の制御により、チャンバ2内部の圧力が制御される。チャンバ2内に送気された原料ガスの内、カーボン系ナノ材料の製造のために消費されなかった余剰分は、ガス排出部212から真空排気系131により排気される。これにより、チャンバ2内は所定の真空度に維持される。真空度は、チャンバ2に設置された真空計221により測定される。
【0030】
本形態において、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dは、6cm以下である。ここで、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dは、平坦面311及び被成膜面41の法線方向に沿った距離(本形態の場合、鉛直方向の距離)を意味する。当該距離は、3cm以下であることが、より好ましい(後述する実験例1参照)。
【0031】
次に、本形態のカーボン系ナノ材料の製造方法につき、説明する。
本形態においては、上述のプラズマCVD装置1を用いて、基板4上にカーボン系ナノ材料を成膜する。
図1に示すごとく、被成膜面41を平坦面311に対向させて、基板4をチャンバ2内に配置した状態で、基板4の被成膜面41にカーボン系ナノ材料を成膜する。
【0032】
すなわち、
図1に示すごとく、サセプタ114に、基板4を載置する。このとき、基板4の被成膜面41とプラズマ生成装置3の高周波アンテナ31の平坦面311とが、対向する。本形態においては、基板4の被成膜面41が上方を向き、高周波アンテナ31の平坦面311が下方を向く。
【0033】
本形態において、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離は、6cm以下である。当該距離は、3cm以下であることが、より好ましい(後述する実験例1参照)。
【0034】
より具体的なカーボン系ナノ材料の製造方法の一例につき、以下に説明する。ここでは、特にカーボン系ナノ材料として、カーボンナノウォール又はカーボンナノフレークを、基板4上に形成する方法として、説明する。また、基板4としては、リチウムイオン二次電池の負極集電体を構成する金属箔基板(例えば銅箔)を用いる。この負極集電体を構成する基板4の上に、負極活物質としてカーボンナノウォール又はカーボンナノフレークを成膜する。これにより、リチウムイオン二次電池の負極を製造する。
【0035】
まず、チャンバ2内のサセプタ114上に、被処理体である基板4を配置する。
次に、ヒータ111によって基板4を加熱し、ガス導入部211からチャンバ2内に炭素源ガスと水素の混合ガスを供給する。希ガス、窒素などの不活性ガスを混合してもよい。炭素源ガスは、CH4などの炭化水素ガス、C2F6などのフルオロカーボンなどである。そして、プラズマ生成装置3によってチャンバ2内にICPを生成してラジカルを発生させる。
【0036】
基板4の温度は、100~800℃の範囲の所定値となるようにヒータ111によって制御する。所定値は、たとえば500℃である。また、チャンバ2内部の圧力が0.5~300Paの範囲となるように制御する。圧力は、ガスの導入量と排出量の制御によって行う。
【0037】
上記の条件下において、基板4の被成膜面41にCH3などの炭素源ラジカルが到達してナノグラフェンの成長核が離散的に複数形成される。そして成長核が壁状に成長してカーボンナノウォールが形成される。炭素源ガスと水素の流量比によって、カーボンナノウォールの形状、成長速度、結晶性などを制御可能である。条件等によっては、カーボンナノフレークとなって成膜されることもある。
【0038】
以上により、基板4の被成膜面41に、カーボンナノウォール又はカーボンナノフレークが成膜され、リチウムイオン二次電池の負極が製造される。
【0039】
本形態のプラズマCVD装置1において、プラズマ生成装置3は、平坦面311を備えた高周波アンテナ31を有する。より具体的には、高周波アンテナ31がシート状である。これにより、高周波アンテナ31のインダクタンスを低くすることができる。それゆえ、高周波電力に対して、インピーダンスを低減することができ、効率的にチャンバ2内に誘導結合型のプラズマ(ICP)を生じさせることができる。その結果、基板4上にカーボン系ナノ材料を高い生産性にて形成することができる。
【0040】
また、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dを、6cm以下とすることにより、効果的に、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる。距離dを3cm以下とすることにより、カーボン系ナノ材料の生産性をさらに向上させることができる。
【0041】
以上のごとく、本形態によれば、カーボン系ナノ材料の高い生産性を実現することができる、プラズマCVD装置及びカーボン系ナノ材料の製造方法を提供することができる。
【0042】
(実施形態2)
本形態は、
図5、
図6に示すごとく、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dを調整することができる、プラズマCVD装置1の形態である。
【0043】
本形態のプラズマCVD装置1においては、プラズマ生成装置3を備えたサブユニット30が、スペーサ301を介してチャンバ2に取り付けられている。チャンバ2の本体は、上部に、サブユニット30を配置するための開口部20を有する。本形態において、サブユニット30は、2つのプラズマ生成装置3を有する。サブユニット30は、外周に形成されたフランジ部302を有する。サブユニット30は、フランジ部302と、チャンバ2の開口部20の周囲との間に、スペーサ301を介在させた状態で、チャンバ2の本体に取り付けられている。スペーサ301は、フランジ部302の全周にわたり配置されている。
【0044】
フランジ部302とチャンバ2の本体との間は、気密封止される。スペーサ301を気密封止のためのシール材とすることもできるし、図示を省略するシール材を、スペーサ301と共に、フランジ部302の全周にわたり配置して、フランジ部302とチャンバ2の本体との間を気密封止することもできる。
【0045】
そして、スペーサ301の高さを適宜変更することで、チャンバ2に対するサブユニット30の高さ位置を調整することができる。すなわち、スペーサ301の高さを適宜変更することで、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dを調整することができる。
【0046】
その他は、実施形態1と同様の構成および作用効果を有する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0047】
(実験例1)
本例においては、実施形態2に示すプラズマCVD装置1(
図5参照)を用いて、カーボンナノウォール又はカーボンナノフレークの形成を行った。そして、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dを変更して、得られるカーボンナノウォール等の形態の変化、及び、成長速度の変化を調べた。
【0048】
基本的には、実施形態1にて説明した製造方法にて、カーボンナノウォール等を、基板4の被成膜面41に成膜した。各製造条件を、下記の表1に示す。すなわち、2つの処理ステップとして、ステップ1とステップ2とをこの順にて連続して行った。ステップ1においては、H2ガス100sccm、Arガス15sccmの流量にて、H2ガスとArガスとの混合ガスをチャンバ2へ導入した。次いで、ステップ2として、Arガス15sccmの流入を維持したまま、H2ガスを止め、CH4ガスを70sccmにて流入させることで、CH4ガスとArガスとの混合ガスをチャンバ2へ導入した。ステップ1からステップ2の間にわたり、プラズマ生成装置3は出力を止めることなく継続した。なお、表1において、「LIA1出力」、「LIA2出力」は、2つのプラズマ生成装置3のそれぞれの出力を意味する。すなわち、ステップ1~ステップ2にわたり、各プラズマ生成装置3の出力を、それぞれ500Wずつに設定した。ここで、プラズマ生成装置3の出力は、高周波アンテナ31に供給する電力である。チャンバ2内の圧力、ヒータ温度、処理時間を、下記の表1のように設定した。
【0049】
【0050】
そして、高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離d(
図5参照)を、3cm、6cm、10cm、15cmとして、それぞれ成膜を行った。距離dを3cmとして成膜したものを「試料1」、距離dを5cmとして成膜したものを「試料2」、距離dを10cmとして成膜したものを「試料3」、距離dを15cmとして成膜したものを「試料4」とする。距離d以外は、同じ条件にて試料1~4を作製した。各試料の膜の表面及び断面を、電子顕微鏡(SEM)にて観察した。これらのSEM写真を、
図7~
図10に示す。これらの写真の倍率は、必ずしも同じではなく、各図に付したスケールを参照されたい。
【0051】
図7(a)が試料1の表面の写真であり、
図7(b)が試料1の断面の写真である。
図8(a)が試料2の表面の写真であり、
図8(b)が試料2の断面の写真である。
図9(a)が試料3の表面の写真であり、
図9(b)が試料3の断面の写真である。
図10(a)が試料4の表面の写真であり、
図10(b)が試料4の断面の写真である。
【0052】
これらの写真から分かるように、試料4(
図10)については、カーボンナノウォールは殆ど形成されず、フレーク状のカーボンナノフレークが形成されている。試料3(
図9)についても、試料4に比べて膜成長が多少進んでるものの、カーボンナノウォールは殆ど形成されていない。これらに対して、試料1及び試料2については、いずれも、カーボンナノウォールが確実に形成されている。特に、試料1は、膜厚が約8.5μmと大きい。すなわち、成膜速度が850nm/minと速い。
【0053】
図11は、距離dと、成膜速度との関係を示すグラフである。このグラフから分かるように、距離dが6cm以下となると成膜速度が速くなり、距離dが3μm以下になると、さらに成膜速度が速くなる。シート状の高周波アンテナ31の平坦面311からの距離dが、6cm以下の領域、特に3cm以下の領域には、特に電子密度の高いプラズマが形成されるためと考えられる。
【0054】
(実験例2)
本例においては、
図12、
図13に示すごとく、実施形態1に示した製造方法によって製造したカーボン系ナノ材料を、負極活物質として備えたリチウムイオン二次電池の性能を確認した。
【0055】
具体的には、実験例1に示した試料1を、負極材料として用いたリチウムイオン二次電池を製造した。すなわち、負極集電体としての銅箔からなる基板4に、上述の方法にて負極活物質としてカーボンナノウォールを形成した(上述の試料1)。この負極材料を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。正極集電体はアルミニウムとし、正極活物質はコバルト酸リチウムとした。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)とした。
このリチウムイオン二次電池につき、容量と電圧との関係(電池特性)を測定した。放電電流及び充電電流は、0.5mAとした。
【0056】
充電(charge)時における電池特性と、放電(discharge)時における電池特性をそれぞれ測定し、
図12に示す。同図において、横軸が充放電容量、縦軸が電圧である。また、単位面積あたりの容量と電圧との関係を
図13に示す。これらの図から分かるように、充分な性能のリチウムイオン二次電池が得られることが確認された。
【0057】
(実施形態3)
本形態は、
図14に示すように、チャンバ2の気密状態を維持したまま、高周波アンテナ31の高さ位置を変更できるよう構成した、プラズマCVD装置1の形態である。
図14においては、プラズマ生成装置3を、ボールねじ等を用いた昇降機構16に取り付けて、チャンバ2に対して昇降できるよう構成した例を示す。
【0058】
これにより、特にチャンバ2を組み立て直さずに、プラズマ生成装置3の高周波アンテナ31の平坦面311と基板4の被成膜面41との間の距離dを、所望の距離に調整することができる。それゆえ、チャンバ2の気密状態を維持したまま、距離dを容易に調整することができる。
【0059】
なお、同図においては、プラズマCVD装置1が一つのプラズマ生成装置3を備えた形態を示したが、複数のプラズマ生成装置3を備えた形態とすることもできる。この場合、複数のプラズマ生成装置3を一つの昇降機構16によって昇降できるよう構成することもできる。
【0060】
また、本形態においては、
図14に示すように、送りロール151に巻かれた状態のシート状の基板4を順次送り出しながら、基板4の被成膜面41に成膜できるよう構成されている。すなわち、本形態のプラズマCVD装置1は、送りロール151と回収ロール152と、一対の支持ロール153とを有する。送りロール151に巻回された未処理の状態の基板4を、一対の支持ロール153を介して、回収ロール152へ巻き取らせる。一対の支持ロール153に支持された状態において、基板4の被成膜面41にカーボン系ナノ材料が成膜される。成膜された基板4は、回収ロール152に巻き取られる。一対の支持ロール153の上を通過する基板4の移動速度は、一定になるように制御される。
【0061】
その他は、実施形態1と同様の構成および作用効果を有する。また、
図14は、模式的な図として記載したが、本形態のプラズマCVD装置1は、適宜、実施形態1と同様の構成を備えたものとすることができる。
【0062】
(実施形態4)
本形態は、
図15に示すごとく、ラマン測定装置14を設置したプラズマCVD装置1の形態である。
ラマン測定装置14は、チャンバ2の外部に配置された、対物部141と測定部142とを有する。対物部141は、基板4の被成膜面41に光照射すると共に被成膜面41からの散乱光を受光する。対物部141と測定部142とは、互いに光ファイバーFにて接続されている。また、チャンバ2には、ガラス等からなる光学窓23が設けられている。この光学窓23を介して、対物部141と被成膜面41との間の光の授受が行われる。すなわち、この光学窓23を介してラマン測定が行われる。
【0063】
測定部142は、いずれも図示を省略する分光器及び光検出器を有する。対物部141は、対物レンズ等を有する。図示を省略する光源(レーザ発振器)から、対物部141を介して、基板4の被成膜面41に光照射する。照射光が、被成膜面41のカーボン系ナノ材料において散乱した散乱光を、対物部141及び光ファイバーFを介して、測定部142へ導く。測定部142に導かれた散乱光は、分光器にて分光される。分光された散乱光を、検出部においてスペクトル検出する。このスペクトル情報から、被成膜面41におけるカーボン系ナノ材料の構造等を解析することができる。
【0064】
本形態によれば、膜状態を測定しながらカーボン系ナノ材料を成膜することが可能となる。
その他は、実施形態3と同様の構成および作用効果を有する。
【0065】
(実施形態5)
本形態は、
図16、
図17に示すごとく、高周波アンテナ31を角棒状とした形態である。
角棒状の高周波アンテナ31の一つの側面が、チャンバ2側を向くように配置される。当該側面は平坦面311として、基板4の被成膜面41に対向する。高周波アンテナ31は、例えば銅によって構成される。
【0066】
プラズマ生成装置3においては、絶縁性の支持部材33に設けた溝部331に、高周波アンテナ31が配置される。実施形態1と同様に、高周波アンテナ31のチャンバ2側には、アンテナカバー32が配置されている。
【0067】
また、本形態においては、給電配線34が、支持部材33を貫通して、高周波アンテナ31の長手方向の略中央部に、接続される。高周波アンテナ31の両端部は接地されている。給電配線34における、高周波アンテナ31と反対側の端部は、インピーダンス整合器を介して、高周波電源に接続されている。これにより、高周波アンテナ31には、長手方向の中央部を境に互いに反対側に、逆向きの高周波電流が流れる。そして、これにより、チャンバ2内にICPが発生する。
その他は、実施形態1と同様の構成および作用効果を有する。
【0068】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 プラズマCVD装置
2 チャンバ
3 プラズマ生成装置
31 高周波アンテナ
311 平坦面
32 アンテナカバー
4 基板
41 被成膜面
【手続補正書】
【提出日】2024-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置であって、
上記カーボン系ナノ材料を成膜する基板を配置するチャンバと、
該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有し、
上記プラズマ生成装置は、上記基板の被成膜面に対向する平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下である、プラズマCVD装置。
【請求項2】
上記カーボン系ナノ材料の成膜速度を150nm/min以上とすることができる、請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3cm以下である、請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3~6cmである、請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
上記カーボン系ナノ材料の成膜速度を150~850nm/minとすることができる、請求項4に記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
チャンバと、該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有するプラズマCVD装置を用いて、基板の被成膜面にカーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法であって、
上記プラズマ生成装置は、平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下であり、
上記被成膜面を上記平坦面に対向させて、上記基板を上記チャンバ内に配置した状態で、上記基板の上記被成膜面に上記カーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項7】
上記カーボン系ナノ材料の成膜速度が150nm/min以上である、請求項6に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項8】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3cm以下である、請求項6又は7に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項9】
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、3~6cmである、請求項6又は7に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【請求項10】
上記カーボン系ナノ材料の成膜速度が150~850nm/minである、請求項9に記載のカーボン系ナノ材料の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の一態様は、カーボン系ナノ材料を製造するためのプラズマCVD装置であって、
上記カーボン系ナノ材料を成膜する基板を配置するチャンバと、
該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有し、
上記プラズマ生成装置は、上記基板の被成膜面に対向する平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下である、プラズマCVD装置にある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の他の態様は、チチャンバと、該チャンバ内に誘導結合型のプラズマを生じさせるプラズマ生成装置と、を有するプラズマCVD装置を用いて、基板の被成膜面にカーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法であって、
上記プラズマ生成装置は、平坦面を備えた高周波アンテナと、該高周波アンテナの上記平坦面を覆う絶縁性のアンテナカバーと、を有し、
上記高周波アンテナの上記平坦面と上記基板の上記被成膜面との間の距離は、6cm以下であり、
上記被成膜面を上記平坦面に対向させて、上記基板を上記チャンバ内に配置した状態で、上記基板の上記被成膜面に上記カーボン系ナノ材料を成膜する、カーボン系ナノ材料の製造方法にある。