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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158301
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20241031BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241031BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16C33/12 A
C23C14/06 F
F16C17/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073393
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】城谷 友保
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 藍里
【テーマコード(参考)】
3J011
4K029
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA01
3J011KA02
3J011MA02
3J011QA04
3J011SB12
3J011SB13
3J011SB14
3J011SB15
3J011SB20
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA34
4K029BC02
4K029BD04
4K029CA05
4K029CA13
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】DLC層のさらなる微細な分離を図り、形状的ななじみのさらなる向上、およびこれにともなう耐焼付性のさらなる向上を図る摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動部材10は、軸受合金層12と、軸受合金層12の相手材との摺動側に設けられている第一DLC層11と、を備える。第一DLC層11は、予め設定された添加元素を含むDLCで形成され、添加元素の濃度が高い高濃度部21、および高濃度部21よりも添加元素の濃度が低い低濃度部22が、厚さ方向に対して垂直な方向へ交互に形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受合金層と、前記軸受合金層の相手材との摺動側に設けられている第一DLC層と、を備える摺動部材であって、
前記第一DLC層は、
予め設定された添加元素を含むDLCで形成され、
前記添加元素の濃度が高い高濃度部、および前記高濃度部よりも前記添加元素の濃度が低い低濃度部が、厚さ方向に対して垂直な方向へ交互に形成されている、
摺動部材。
【請求項2】
前記第一DLC層の前記軸受合金層側において前記高濃度部に対応して設けられ、前記添加元素の濃度が前記高濃度部よりも高い核部をさらに備える、
請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記核部の外径aは、1nm≦a≦125nmであり、
前記第一DLC層の厚さ方向へ垂直な断面において、隣り合う前記核部の間隔Daは、2a≦Da≦8aである、
請求項2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記添加元素は、炭化物を形成する元素のうちの1種類以上である、
請求項1から3のいずれか一項記載の摺動部材。
【請求項5】
前記添加元素は、W、Co、Zr、Ta、Nb、V、Ti、Cr、Si、Ni、Moから選択される1種類以上である、
請求項4記載の摺動部材。
【請求項6】
前記軸受合金層と前記第一DLC層との間に設けられ、W、Co、Zr、Ta、Nb、V、Ti、Cr、Si、Ni、Moから選択される元素のうちの1種類以上で形成された中間層を、さらに備える、
請求項1記載の摺動部材。
【請求項7】
前記第一DLC層の摺動側に設けられ、前記添加元素の濃度が前記第一DLC層の全体に含まれる前記添加元素の濃度よりも低いDLCからなる第二DLC層を、さらに備える、
請求項6記載の摺動部材。
【請求項8】
前記第一DLC層の厚さT1、および前記第二DLC層の厚さT2は、
T1>T2
である、
請求項7記載の摺動部材。
【請求項9】
前記第一DLC層と前記第二DLC層とは、硬さの差が100HV以下である、
請求項7記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受に用いられる摺動部材として、相手材と摺動する最表面にDLC(Diamond Like Carbon)層を形成するものが知られている(特許文献1)。DLC層が形成された摺動部材は、相手材との摩擦係数が低減される。そのため、DLC層が形成された摺動部材は、焼付の発生頻度が低下するという特性を有している。一方、DLC層は、非常に硬いことから、摩耗や変形を生じにくい。そのため、DLC層を有する摺動部材と相手材とは、形状的ななじみによるオイルクリアランスの確保を期待しにくいという問題がある。また、DLC層の脆さに起因して剥がれが生じると、局所的な摩擦係数の増大を招き、耐焼付性の低下を招くという問題がある。
【0003】
特許文献1の場合、DLC層は意図的な分離の起因とする起因部が設けられている。この起因部を起点としてDLC層が分離することにより、DLC層は下地材に追従して変形し、形状的ななじみ性の向上を図っている。しかし、摺動部材への要求性能が高まり、摺動部材と相手材との摺動条件はさらに厳しくなっている。そのため、DLC層のさらなる微細な分離が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-143802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、DLC層のさらなる微細な分離を図り、形状的ななじみのさらなる向上、およびこれにともなう耐焼付性のさらなる向上を図る摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態による摺動部材は、軸受合金層と、前記軸受合金層の相手材との摺動側に設けられている第一DLC層と、を備える。前記第一DLC層は、予め設定された添加元素を含むDLCで形成され、前記添加元素の濃度が高い高濃度部、および前記高濃度部よりも前記添加元素の濃度が低い低濃度部が、厚さ方向に対して垂直な方向へ交互に形成されている。
【0007】
このように、一実施形態による摺動部材では、第一DLC層は、厚さ方向に対して垂直な方向へ添加元素の濃度の濃淡によって高濃度部および低濃度部が形成されている。つまり、一実施形態による摺動部材の第一DLC層は、原子レベルで高濃度部および低濃度部が交互に形成されている。そのため、第一DLC層は、この添加元素の濃度の濃淡によって生じる強度的な変化部分を起点として分離が促される。したがって、第一DLC層がより微細に分離され、形状的ななじみをさらに向上することができ、耐焼付性のさらなる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図2のI-I線における断面を示す模式図
図2】一実施形態による摺動部材を軸方向の端部から見た模式図
図3】一実施形態による摺動部材の他の実施形態の断面を示す模式図
図4】一実施形態による摺動部材の要部を示す模式図
図5】一実施形態による摺動部材において形成界面を図4に示す矢印V方向から見た模式図
図6】一実施形態による摺動部材の第一DLC層の構造を説明するための模式図
図7】一実施形態による摺動部材の他の実施形態の断面を示す模式図
図8】焼付試験の条件を示す概略図
図9】一実施形態による摺動部材における第一DLC層と相手材との接触を示す模式図
図10】一実施形態による摺動部材における第一DLC層と相手材との接触にともなうなじみを示す模式図
図11】一実施形態による摺動部材における第一DLC層と相手材との接触にともなうなじみを軸方向の端部から見た状態を示す模式図
図12】一実施形態による摺動部材の実施例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、摺動部材の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すように摺動部材10は、第一DLC層11と、軸受合金層12を備えている。第一DLC層11は、軸受合金層12において相手材との摺動側に設けられている。第一DLC層11は、軸受合金層12に積層されており、軸受合金層12と接着している。軸受合金層12は、例えばCu系またはAl系などの合金で形成されている。なお、摺動部材10は、Feや鋼などで形成されている裏金層13を備えていてもよい。第一DLC層11は、軸受合金層12とは反対側に相手材と摺動する摺動面14を形成している。第一DLC層11は、ビッカース硬さ(HV)に基づく硬度が250HV~1500HVである。これにより、第一DLC層11による相手材への攻撃性の低減が図られる。
【0010】
第一DLC層11は、予め設定された添加元素を含んでいる。添加元素は、W、Co、Zr、Ta、Nb、V、Ti、Cr、Si、Ni、Moのように炭化物を形成する元素から選択される1種以上の元素である。第一DLC層11は、全体として添加元素を1vol%~60vol%含んでいる。これにより、第一DLC層11は、形状的ななじみが生じやすくなる。また、摺動部材10は、図3に示すように第一DLC層11および軸受合金層12に加え、中間層15を備えていてもよい。中間層15は、第一DLC層11と軸受合金層12との間に設けられている。中間層15は、添加元素と同様にW、Co、Zr、Ta、Nb、V、Ti、Cr、Si、Ni、Moから選択される1種以上の元素で形成されている。図1に示すように第一DLC層11の軸受合金層12側の端部は、形成界面16である。また、図3に示すように中間層15を有する摺動部材10の場合、第一DLC層11の中間層15側の端部は、形成界面16である。以下、本明細書中において形成界面16と称する場合、これら第一DLC層11の軸受合金層12側の端面、および第一DLC層11の中間層15側の端面を示すものとする。
【0011】
第一DLC層11は、図4および図5に示すように高濃度部21、低濃度部22および核部23を備えている。高濃度部21と低濃度部22とは、第一DLC層11に含まれる添加元素の濃度が異なっている。これら高濃度部21と低濃度部22とは、厚さ方向に対して垂直な方向、つまり形成界面16の平面方向、換言すると摺動面14に沿った方向へ交互に形成されている。
【0012】
高濃度部21は、添加元素の濃度が1vol%~60vol%であり、低濃度部22は、添加元素の濃度が0.5vol%~59vol%である。これにより、第一DLC層11は、摺動性能への影響を低減しつつ、形状的ななじみが生じやすくなる。高濃度部21は、添加元素の濃度が相対的に低濃度部22よりも高い領域である。高濃度部21および低濃度部22は、これらの境界部において添加元素の濃度が明確に変化しているわけではない。つまり、図4において模式的に示すように、高濃度部21と低濃度部22との境界部は、添加元素の濃度が連続的に変化している。図4では、理解を容易にするために、模式的に添加元素の濃度の高い高濃度部21は濃い色で示し、低濃度部22は薄い色で示している。また、高濃度部21は、必ずしも第一DLC層11の厚さ方向へ明確な柱状に形成されなくてもよい。すなわち、高濃度部21は、核部23を中心に3次元的な半球状の範囲に形成してもよい。このように、高濃度部21が3次元的に形成される場合でも、隣り合う高濃度部21の間には低濃度部22が存在する。なお、第一DLC層11において、高濃度部21における添加元素の濃度が最も高い領域と、低濃度部22における添加元素の濃度が最も低い領域との濃度差は、1vol%以上であることが好ましい。このような濃度差を形成することにより、第一DLC層11は、分離が促され、形状的ななじみが生じやすくなる。
【0013】
核部23は、第一DLC層11の軸受合金層12側に設けられている。核部23は、第一DLC層11と軸受合金層12とが直接積層されているとき、第一DLC層11の軸受合金層12側の端部である形成界面16に設けられている。また、核部23は、中間層15が設けられているとき、第一DLC層11の中間層15側の端部である形成界面16に設けられている。核部23は、第一DLC層11の高濃度部21に対応して設けられている。つまり、核部23は、第一DLC層11の高濃度部21においてそれぞれ軸受合金層12側の端部に位置している。核部23は、第一DLC層11において添加元素の濃度が高くなっている領域である。この場合、核部23は、添加元素の濃度が60%以上であることが好ましい。第一DLC層11は、添加元素を除く領域がa-C:Hで構成されている。なお、図4では、理解を容易にするために、模式的に核部23は、白色で示している。添加元素の濃度は、この高濃度部21と核部23との間においても、連続的に変化している。
【0014】
核部23は、図6に示すように外径aが1nm≦a≦125nmに設定されている。この核部23の外径aを基準として、核部23の相互における最短の間隔Daは、2a≦Da≦8aである。核部23の間隔Daは、図1図4および図6に示すように第一DLC層11の厚さ方向の断面において、隣り合う核部23の中心までの最短の距離に相当する。このことから、核部23の最短の間隔Daは、数nmから数百nm程度と、従来と比較して十分に小さく設定される。なお、図4に示すような第一DLC層11の構造は、図1の矢印X方向の断面においても同様に形成される。
【0015】
核部23は、第一DLC層11の軸受合金層12側の端部である形成界面16に、図5に示すように概ね均等に配置されている。この核部23は、スパッタリングによる第一DLC層11の形成に先立って添加元素のみをスパッタリングしたとき、添加元素によって形成界面16に形成される。このとき、核部23を形成する添加元素は、自身の相互作用およびスパッタリングの条件に基づいて、核部23の外径aに相関する間隔Daを保持しながら概ね規則的に配置される。
【0016】
高濃度部21は、核部23の外径aを基準として、図6に示すように隣り合う別の高濃度部21までの間隔DbがDb=2a程度であることが好ましい。この場合、間隔Dbは、2a≦Db≦8a程度の範囲としてもよい。同様に、低濃度部22は、核部23の外径aを基準として、隣り合う別の低濃度部22までの間隔DcがDc=2a程度であることが好ましい。この場合も、間隔Dcは、2a≦Dc≦8a程度の範囲としてもよい。高濃度部21は、第一DLC層11を形成する炭素(C)を添加元素とともにスパッタリングすることによって、核部23に対応して形成界面16から第一DLC層11の厚さ方向へ成長する。すなわち、高濃度部21は、核部23から軸受合金層12と反対側へ伸びて形成される。また、核部23に対応して形成される高濃度部21の相互の間には、高濃度部21よりも添加元素の濃度が低い低濃度部22が形成される。
【0017】
図4に示すように、高濃度部21と低濃度部22との境界部は、添加元素の濃度が連続的に変化しており、高濃度部21と低濃度部21との境界部において添加元素の濃度が明確に変化しているわけではない。そのため、間隔Dbおよび間隔Dcは、以下のように定義して算出している。まず、形成界面16における核部23の中心点を抽出する。この中心点から、間隔Daの1/4を半径として、形成界面16に沿って円形状の領域を定義する。この領域の幅、つまり中心点を中心とする円形状の領域の直径に相当する部分の長さは間隔Dcと定義する。そして、定義した間隔Dcに挟まれた領域は、間隔Dbと定義する。
【0018】
第一DLC層11と軸受合金層12との間に中間層15を設けることにより、形成界面16から成長する添加元素は中間層15への定着が高まる。すなわち、中間層15は、添加元素と同一または添加元素と物質的な共通性が高い元素で形成することが好ましい。このように元素を選択して中間層15を形成することにより、核部23は、中間層15に形成されやすくなり、中間層15への定着性も向上する。中間層15は、0.1μm~1μm程度の厚みで形成することが好ましい。これにより、第一DLC層11と軸受合金層12との接着力を確実に確保することができる。
【0019】
摺動部材10は、図7に示すように第二DLC層30をさらに備えていてもよい。第二DLC層30は、第一DLC層11の摺動側、つまり第一DLC層11の軸受合金層12と反対側の面に積層されている。第二DLC層30は、第一DLC層11と同様にDLCで形成されている。第二DLC層30は、添加元素の濃度が第一DLC層11の全体に含まれる添加元素の濃度よりも低く設定されている。すなわち、第二DLC層30は、積層される対象となる第一DLC層11よりも添加元素の濃度が低く、添加元素の濃度が0~20vol%に設定されている。このように第二DLC層30の添加元素の濃度を設定することにより、第二DLC層30は、相手材への攻撃性を低減することができるとともに、第一DLC層11との硬さの差を容易に調整することができる。また、第一DLC層11の厚さはT1、第二DLC層30の厚さはT2としたとき、T1>T2である。このように、第二DLC層30は、第一DLC層11よりも薄く形成されている。第二DLC層30は、硬度が250HV~1500HVに設定することが好ましい。この場合、第一DLC層11と第二DLC層30とは、硬さの差が100HV以下であることがより好ましい。これにより、第二DLC層30による相手材への攻撃性の低減が図られる。第一DLC層11、高濃度部21、低濃度部22および第二DLC層30における添加元素の濃度は、摺動部材10の断面から電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定している。第一DLC層11の全体における添加元素の濃度は、高濃度部21の添加元素の濃度および低濃度部22の添加元素の濃度を平均することにより算出している。
【0020】
次に、摺動部材10の製造方法の一例について説明する。
第一DLC層11は、上述のようにスパッタリング装置を用いて形成される。軸受合金層12が形成された材料は、チャンバ内に収容される。材料が収容されたチャンバは、内部が例えば1.0×10-3Pa以下まで減圧される。減圧の後、材料は、例えば不活性ガスを用いて前処理が施される。前処理が完了すると、形成界面16となる軸受合金層12の表面には核部23が形成される。この核部23の形成に先立って、軸受合金層12の表面に中間層15を形成してもよい。中間層15は、軸受合金層12の表面に添加元素を単独でスパッタリングすることにより形成する。核部23は、数分程度の短時間のスパッタリングを実施することにより、形成界面16に形成される。このとき、核部23は、添加元素の相互作用によって、図6に示すように核部23の外径aに応じた間隔Daで概ね均等に形成界面16に形成される。これら核部23の外径aおよび間隔Daは、例えばスパッタリングの所要時間、バイアス電圧、使用するターゲットおよびチャンバ内の圧力などによって制御される。外径aおよび間隔Daは、特にチャンバ内の圧力によって制御される。
【0021】
核部23が形成された材料は、第一DLC層11が形成される。第一DLC層11は、核部23の形成に比較して十分に長時間のスパッタリングによって形成される。また、第一DLC層11を形成するとき、単位時間当たりの成膜の厚さは、核部23の形成に比較して大きく設定されている。第一DLC層11が形成されると、必要に応じて第二DLC層30が形成される。第二DLC層30を形成するとき、単位時間当たりの成膜の厚さは、第一DLC層11に比較して小さく設定されている。
以上の手順により、摺動部材10は形成される。なお、上記の開示は製造方法の一例であり、第一DLC層11に高濃度部21および低濃度部22を形成する製造方法は、上記の開示に限定されない。
【0022】
以下、本実施形態の摺動部材10の作用について、実施例および比較例の検証に基づいて説明する。実施例および比較例は、焼付試験に基づいて評価した。焼付試験は、図8に示す条件によって行なった。焼付試験では、半割形状に成形した実施例および比較例の摺動部材10を用いた。焼付試験では、図8に示す条件に基づいて、図9および図10に示すように、S55Cからなる軸状の相手材40と不正な当たりで摺動させたとき、焼付が生じない最大面圧を測定した。
【0023】
図9に示すように摺動部材10と相手材40とを不正な当たりで摺動させたとき、摺動部材10の軸受合金層12は、相手材40から加わる力によって図10に示すように変形する。このとき、本実施形態による摺動部材10の第一DLC層11は、添加元素の濃度の濃淡によって強度的な変化部分を起点として分離が促される。すなわち、第一DLC層11は、添加元素の濃度の異なる高濃度部21および低濃度部22が交互に形成されているため、微細な感覚で部分的な強度の相違が生じる。これにより、第一DLC層11は、この強度が相違する部分を起点として微細な分離が促される。そのため、本実施形態による摺動部材10のように、微細に破壊された第一DLC層11は、図10および図11に示すように軸受合金層12の変形に追従して変形する。その結果、摺動部材10は、相手材40と不正に接する場合でも、軸受合金層12の変形に追従して容易し、耐焼付性の向上を図ることができる。
【0024】
図12に示すように、実施例1~実施例15は、第一DLC層11が軸受合金層12に直接積層されており、中間層15が設けられていない例である。実施例16~実施例24は、第一DLC層11と軸受合金層12との間に中間層15が設けられている例である。実施例18~実施例24は、第一DLC層11に加えて第二DLC層30が設けられている例である。
【0025】
一方、比較例1および比較例2は、軸受合金層12に添加元素を含む第一DLC層11が設けられているものの、第一DLC層11における添加元素の濃度分布が形成されていない例である。つまり、比較例1および比較例2は、第一DLC層11に高濃度部21および低濃度部22が形成されていない。比較例3および比較例4は、第一DLC層11と軸受合金層12との間に中間層15を設けた例である。比較例3および比較例4における第一DLC層11は、添加元素を含んでいない。
【0026】
これらの実施例1~実施例24は、比較例1~比較例4と比較して耐焼付性が向上していることが分かる。すなわち、実施例1~実施例24のように高濃度部21と低濃度部22とが交互に形成されている第一DLC層11は、不正な当たりにともなう応力が加わると、添加元素の濃度が低い低濃度部22において破壊が促される。そのため、第一DLC層11は、軸受合金層12の変形への追従性が向上する。その結果、摺動部材10の耐焼付性は向上する。また、実施例1~実施例13によれば、第一DLC層11に含まれる添加元素の種類および添加元素の組み合わせは、耐焼付性に影響を与えないことが分かる。
【0027】
実施例12~実施例24によれば、核部23の間隔Daは、小さくなるほど耐焼付性が向上することが分かる。核部23の間隔Daが小さくなると、当然ながら高濃度部21の間隔Dbおよび低濃度部22の間隔Dcは、いずれも小さくなる。そのため、第一DLC層11は、核部23の間隔Daが小さくなるにしたがって、より微細な破壊が促される。そのため、第一DLC層11は、軸受合金層12の変形への追従性がより向上する。その結果、摺動部材10の耐焼付性は向上する。
【0028】
実施例15および実施例16によれば、中間層15が設けられている実施例16は、耐焼付性が向上することが分かる。中間層15は、高濃度部21の成長の起点となる核部23の定着性の向上に寄与する。すなわち、中間層15は、第一DLC層11に添加される添加元素と同一または近似する性質の元素で形成されており、核部23との親和性が高い。そのため、中間層15を形成することにより、第一DLC層11と軸受合金層12との接着力が高まる。その結果、軸受合金層12からの第一DLC層11の脱離が低減され、摺動部材10の耐焼付性がより向上する。
【0029】
第二DLC層30が設けられている実施例17~実施例24は、耐焼付性がさらに向上することが分かる。第二DLC層30は、特に相手材40との摺動初期において、摺動部材10と相手材40との接触抵抗の低減に寄与する。そのため、第二DLC層30を設けることにより、摺動部材10と相手材40との摺動における損傷が低減され、摺動部材10の耐焼付性がより向上する。この場合、T1>T2となる実施例21~実施例24は、耐焼付性がさらに向上することが分かる。このように、T1>T2とすることにより、軸受合金層12の変形に追従する第一DLC層11の分離がより促される。その結果、耐焼付性のさらなる向上を図ることができる。これに加え、第一DLC層11と第二DLC層30との硬度の差が100HV以下となる実施例24は、耐焼付性がさらに向上することが分かる。このように、第一DLC層11と第二DLC層30との硬度の差を小さくすることにより、第一DLC層11と第二DLC層30との接着力が向上する。その結果、耐焼付性のさらなる向上を図ることができる。
【0030】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
図面中、10は摺動部材、11は第一DLC層、12は軸受合金層、15は中間層、21は高濃度部、22は低濃度部、23は核部、30は第二DLC層を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12