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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158305
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】試験方法、試験システム及び供試体
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20241031BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N3/32 H
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073407
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝雄
【テーマコード(参考)】
2G061
2G066
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA01
2G061CA05
2G061CA14
2G061CB01
2G061DA12
2G061DA19
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EB02
2G061EB07
2G061EC02
2G061EC05
2G066AC20
2G066CA01
2G066CA02
(57)【要約】
【課題】試験片の一面をサーモグラフィ計測とデジタル画像相関法の両方で計測する。
【解決手段】試験方法は、試験片と、前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、を有する供試体を準備し、第1の計測装置により、前記第1の層から放射され前記第2の層を透過する前記第1の光を計測し、計測結果に基づき前記試験片の第1の変形を計測し、前記第2の層に励起光としての前記第2の光を照射し、第2の計測装置により、前記第3の光を放射する前記第2の層の表面の前記パターンを撮影し、撮影結果に基づき前記試験片の第2の変形を計測する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を有する供試体を準備し、
第1の計測装置により、前記第1の層から放射され前記第2の層を透過する前記第1の光を計測し、計測結果に基づき前記試験片の第1の変形を計測し、
前記第2の層に励起光としての前記第2の光を照射し、第2の計測装置により、前記第3の光を放射する前記第2の層の表面の前記パターンを撮影し、撮影結果に基づき前記試験片の第2の変形を計測する
試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の試験方法であって、
前記第1の計測装置は、前記第2の光及び前記第3の光を検知せず、
前記第2の計測装置は、前記第1の光及び前記第2の光を検知しない
試験方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記第1の光は、第1の波長帯域を有し、
前記第2の光は、前記第1の波長帯域と異なる第2の波長帯域を有し、
前記第3の光は、前記第1の波長帯域と異なる第3の波長帯域を有する
試験方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記第2の層の最大厚さは、50μm以下である
試験方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記第2の層の最大厚さは、20μm以下である
試験方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記試験片の前記一面と、前記一面の裏面とは、非対称である
試験方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記第1の変形は疲労荷重による変形であり、
前記第2の変形は静荷重及び/又は疲労荷重による変形である、
試験方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の試験方法であって、
前記第1の変形及び前記第2の変形に基づき前記試験片の変形を評価する
試験方法。
【請求項9】
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を有する供試体の前記第1の層から放射され前記第2の層を透過する前記第1の光を計測し、計測結果に基づき前記試験片の第1の変形を計測する第1の計測装置と、
前記第2の層に励起光としての前記第2の光を照射し、前記第3の光を放射する前記第2の層の表面の前記パターンを撮影し、撮影結果に基づき前記試験片の第2の変形を計測する、第2の計測装置と、
を具備する試験システム。
【請求項10】
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を具備する供試体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片の変形を計測するための試験方法、試験システム及び供試体に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料の強度試験において変形の過程及び破壊の原因を調べるためには、負荷される荷重に対する構造材料の変形挙動を計測する必要がある。歪ゲージやレーザー変位計は、構造材料の局所的な計測点のみでしか変形挙動が得られない。光ファイバーは、歪ゲージの点計測と比較して光ファイバー上に沿った線上での変形の計測が可能である。しかし、近年は数値解析技術の高度化に伴った解析結果と実験結果の比較の観点から、より多くの計測点が必要となっている。このため、構造材料の試験片表面の面計測を行うことが求められている。
【0003】
面計測技術の一つである非接触温度計測であるサーモグラフィ計測では、試験片表面の放射率を均一にして、負荷時の放射熱から損傷の検出、主応力和の計測を行う。
【0004】
他の面計測技術であるデジタル画像相関法(DIC:Digital Image Correlation)では、試験片表面のスペックルパターン(放射率が不均一)の動きから負荷時の歪を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-066455号公報
【特許文献2】特表2019-519446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サーモグラフィ計測の欠点の一つとして、主応力和から各軸方向の応力への分解が出来ないことがあげられる。デジタル画像相関法は、各軸方向の歪を計測できるが、変形が小さい場合の精度はよいとは言えない。サーモグラフィ計測及びデジタル画像相関法を相互に補完するため、サーモグラフィ計測及びデジタル画像相関法の両方を行うことが望ましい。
【0007】
しかしながら、デジタル画像相関法は放射率が不均一なスペックルパターンを、サーモグラフィ計測は放射率が均一な表面を計測するため、通常、両計測手法で同一の試験片表面を計測することはできない。
【0008】
そのため、従来、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法を実施するためには、表裏が対称な試験片を用いて、一面をサーモグラフィ計測、反対面をデジタル画像相関法としていた。また、試験片の損傷を計測する場合、損傷が表裏に対称に入る必要があった。
【0009】
逆に言えば、片面が損傷した試験片の損傷面は、表裏の対称性が無いため、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法との両方で計測することは出来ない。また、例えば、スキン-ストリンガー(外板-縦通材)構造やリベット継手構造等の表裏の対称性が無い構造の試験片は、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法との両方で計測することは出来ない。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、試験片の一面をサーモグラフィ計測とデジタル画像相関法の両方で計測することにある。本発明の目的は、さらに、表裏の対象性が無い試験片の変形を、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法の両方で計測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態に係る試験方法は、
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を有する供試体を準備し、
第1の計測装置により、前記第1の層から放射され前記第2の層を透過する前記第1の光を計測し、計測結果に基づき前記試験片の第1の変形を計測し、
前記第2の層に励起光としての前記第2の光を照射し、第2の計測装置により、前記第3の光を放射する前記第2の層の表面の前記パターンを撮影し、撮影結果に基づき前記試験片の第2の変形を計測する。
【0012】
これにより、試験片の一面を、第1の計測装置及び第2の計測装置の両者で計測可能である。
【0013】
前記第1の計測装置は、前記第2の光及び前記第3の光を検知せず、
前記第2の計測装置は、前記第1の光及び前記第2の光を検知しなくてもよい。
【0014】
このため、同時に、第1の計測装置が第1の光を検知して試験片の変形を計測し、且つ、第2の計測装置が供試体1に第2の光を照射して第3の光を検知して試験片の変形を計測することが可能である。
【0015】
前記第1の光は、第1の波長帯域を有し、
前記第2の光は、前記第1の波長帯域と異なる第2の波長帯域を有し、
前記第3の光は、前記第1の波長帯域と異なる第3の波長帯域を有してもよい。
【0016】
このため、同時に、第1の計測装置が第1の光を検知して試験片の変形を計測し、且つ、第2の計測装置が供試体1に第2の光を照射して第3の光を検知して試験片の変形を計測することが可能である。
【0017】
前記第2の層の最大厚さは、50μm以下でもよい。
【0018】
第2の層の最大厚さが50μmより大きいと、第2の層自体の体積変化も大きくなり、結果的に、第2の層自体の微小温度変化も第1の計測装置が検知可能な変化となる可能性がある。このため、第1の計測装置が検知する温度変化が、試験片の温度変化のみでなく、第2の層の温度変化も含まれたものとなる可能性がある。第1の計測装置が試験片のみの温度変化を検出できないと、結果的に、試験片のみの体積変化を検出できなくなる。
【0019】
前記第2の層の最大厚さは、20μm以下でもよい。
【0020】
第2の層の最大厚さが20μm以下であると、第2の層自体の体積変化が小さく、結果的に、第2の層自体の微小温度変化も第1の計測装置が検知不能な程度の変化となる可能性が高い。このため、第1の計測装置が検知する温度変化が、試験片の温度変化のみであり、第2の層の温度変化が含まれない可能性が高い。第1の計測装置が試験片のみの温度変化を検出するため、結果的に、試験片のみの体積変化を検出できる。
【0021】
前記試験片の前記一面と、前記一面の裏面とは、非対称でもよい。
【0022】
本実施形態によれば、試験片の一面上に第1の層及び第2の層を重ねて製作することにより、試験片の表裏の対称性は不要となる。例えば継手構造などの表裏の対称性がない構造の一つの試験片の一面を、第1の計測装置と第2の計測装置の両者を用いて計測することが可能である。
【0023】
前記第1の変形は疲労荷重による変形であり、
前記第2の変形は静荷重及び/又は疲労荷重による変形でもよい。
【0024】
疲労荷重により生じるひずみは、静荷重により生じるひずみより小さい。このため、試験機が供試体1に周期的に応力を印加し、試験片を疲労荷重(ひずみが比較的小さい)により変形させ、第1の計測装置により、微小な温度変化に基づき、試験片の疲労荷重による第1の変形を計測するのがよい。一方、試験機が供試体1に一定の応力を印加し続け、供試体1を静荷重(ひずみが比較的大きい)により変形させ、第2の計測装置により、パターンの変位に基づき、試験片の静荷重による第2の変形を計測するのがよい。
【0025】
前記第1の変形及び前記第2の変形に基づき前記試験片の変形を評価してもよい。
【0026】
第1の計測装置による計測及び第2の計測装置による計測の両方を行い、評価装置により相互に補完するのがよい。
【0027】
本発明の一形態に係る試験システムは、
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を有する供試体の前記第1の層から放射され前記第2の層を透過する前記第1の光を計測し、計測結果に基づき前記試験片の第1の変形を計測する第1の計測装置と、
前記第2の層に励起光としての前記第2の光を照射し、前記第3の光を放射する前記第2の層の表面の前記パターンを撮影し、撮影結果に基づき前記試験片の第2の変形を計測する、第2の計測装置と、
を具備する。
【0028】
本発明の一形態に係る供試体は、
試験片と、
前記試験片の少なくとも一面上に形成され、第1の光を放射する第1の材料からなる第1の層と、
前記第1の層上に形成され、励起光である第2の光が照射されたとき第3の光を放射し且つ前記第1の光を透過させる第2の材料からなり、表面にパターンを有する第2の層と、
を具備する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、試験片の一面をサーモグラフィ計測とデジタル画像相関法の両方で計測することができる。本発明によれば、さらに、表裏の対象性が無い試験片の変形を、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法の両方で計測することができる。
【0030】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る供試体を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る試験システムを模式的に示す。
図3】本発明の一実施形態に係る試験方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0033】
1.供試体
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る供試体を模式的に示す断面図である。
【0035】
供試体1は、試験片100と、第1の層110と、第2の層120とを有する。
【0036】
試験片100は、強度試験において変形の過程及び破壊の原因を調べるために、負荷される荷重に対する変形挙動の計測の対象となる試験片である。試験片100の一面101は、典型的には平滑である。試験片100の一面101と、一面101の裏面102とは、対称でもよいし、非対称でもよい。言い換えれば、試験片100は、例えば、スキン-ストリンガー(外板-縦通材)構造やリベット継手構造等の表裏の対称性が無い構造でよい。試験片100は、三次元造形技術により製作した試験片でもよく、一面101が平滑であればよい。試験片100の材料は、例えば、金属、複合材料等でよく、特定の材料に限定されない。
【0037】
第1の層110は、試験片100の少なくとも一面101上に形成される。第1の層110は、厚さが均一で、表面111が平滑な層である。第1の層110は、黒色塗料(第1の材料)からなる。黒色塗料は、高い放射率で赤外線(第1の光)を放射する。赤外線(第1の光)の波長帯域(第1の波長帯域)は、780nm~1mm程度である。黒色塗料は、平滑な一面101に平滑に塗布される。これにより、第1の層110の表面111は、平滑面となり、均質な放射率を有する。黒色塗料は、例えば、アサヒペン製耐熱塗料ツヤ消し黒(成分:合成樹脂(シリコン)、顔料、有機溶剤)を使用することができる。
【0038】
第2の層120は、第1の層110の表面111上に形成される。第2の層120は、透明塗料(第2の材料)からなる。第2の材料は、励起光である紫外線(第2の光)が照射されたとき、光(第3の光)を放射し、且つ、赤外線(第1の光)を透過させる。紫外線(第2の光)の波長帯域(第2の波長帯域)は、200nm~400nm程度である。第2の層120が放射する光(第3の光)の波長帯域(第3の波長帯域)は、赤外線(第1の光)の波長帯域(第1の波長帯域)と異なればよい。例えば、第2の層120は、青色光(第3の光)を放射し、その波長帯域(第3の波長帯域)は、430nm~490nm程度でよい。
【0039】
第2の層120を形成する透明塗料は、第1の層110の平滑な表面111に非平滑に塗布される。第2の層120は、表面121にパターン122を有する。パターン122は典型的にはスペックルパターン122である。スペックルパターン122は、ランダムで非周期的な凹凸のパターンであり、表面全体として不均一な放射率を有する。スペックルパターン122を有する表面121が、供試体1の表面となる。
【0040】
スペックルパターン122の形成方法の一例を説明する。例えば、スペックルパターン122に用いることができるタトゥーシールを、赤外線を透過させる透明塗料(第2の材料)で製作することにより、大きさが均一で赤外線を透過するスペックルパターン122を、第1の層110の表面111に貼り付けることが可能である。なおスペックルパターン122の形成方法はシールに限定されず如何なる方法でもよい。第2の層120の最大厚さは、50μm以下、より好ましくは20μm以下である。透明塗料は、例えば、シンロイヒ株式会社製 マジックルミノペイント ブルーを使用することができる。
【0041】
2.試験システム
【0042】
図2は、本発明の一実施形態に係る試験システムを模式的に示す。
【0043】
試験システム2は、試験機200と、サーモグラフィ計測装置210(第1の計測装置)と、DIC計測装置220(第2の計測装置)とを有する。試験システム2は、さらに、評価装置230を評価してもよい。
【0044】
試験機200は、例えば油圧試験機である。試験機200には、供試体1が設置される。試験機200は、供試体1に応力(図2の矢印)を印加する。具体的には、試験機200は、供試体1に周期的に応力を印加して試験片100に疲労荷重を生じさせる。試験機200は、また、供試体1に一定の応力を印加し続けることにより試験片100に静荷重を生じさせる。疲労荷重により生じるひずみは、静荷重により生じるひずみより小さい。
【0045】
サーモグラフィ計測装置210(第1の計測装置)は、赤外線カメラを有し、赤外線(780nm~1mm程度)の一部の波長帯域の光を検知可能である。例えば、サーモグラフィ計測装置210は、2.5μm~5.0μm(2500nm~5000nm)程度の波長帯域の赤外線を検知可能でよい。一方、サーモグラフィ計測装置210は、赤外線以外の波長帯域の光、具体的には、第2の層120に照射される紫外線(第2の光、波長帯域200nm~400nm程度)及び第2の層120が放射する青色光(第3の光、波長帯域430nm~490nm程度)を検知不能である。赤外線カメラの解像度は、例えば、312×256ピクセルでよい。
【0046】
試験機200が供試体1に応力を印加すると、試験片100が荷重により変形し、試験片100の体積変化により微小な温度変化が生じる。温度が高い部分ほど放射される赤外線のエネルギー量が大きい。サーモグラフィ計測装置210は、供試体1の第1の層110から放射され第2の層120を透過する赤外線(第1の光)を赤外線カメラで計測し、赤外線のエネルギー量の計測結果に基づき試験片100の変形を計測する。具体的には、サーモグラフィ計測装置210は、下記の式(1)に基づき、温度変化を主応力和に変換する。
【0047】
ΔT=-Km×T×Δσ・・・(1)
【0048】
ここで、ΔT:温度変化、Km:熱弾性係数、T:絶対温度、Δσ:主応力和の変化である。
【0049】
また、上記の様に、第2の層120の最大厚さは、50μm以下、より好ましくは20μm以下である。第2の層120の最大厚さが50μmより大きいと、第2の層120自体の体積変化も大きくなり、結果的に、第2の層120自体の微小温度変化もサーモグラフィ計測装置210が検知可能な変化となる可能性がある。このため、サーモグラフィ計測装置210が検知する温度変化が、試験片100の温度変化のみでなく、第2の層120の温度変化も含まれたものとなる可能性がある。サーモグラフィ計測装置210が試験片100のみの温度変化を検出できないと、結果的に、試験片100のみの体積変化を検出できなくなる。
【0050】
一方、第2の層120の最大厚さが20μm以下であると、第2の層120自体の体積変化が小さく、結果的に、第2の層120自体の微小温度変化もサーモグラフィ計測装置210が検知不能な程度の変化となる可能性が高い。このため、サーモグラフィ計測装置210が検知する温度変化が、試験片100の温度変化のみであり、第2の層120の温度変化が含まれない可能性が高い。サーモグラフィ計測装置210が試験片100のみの温度変化を検出するため、結果的に、試験片100のみの体積変化を検出できる。
【0051】
DIC計測装置220(第2の計測装置)は、光源装置221と、2台のDICカメラ222、223とを有する。光源装置221は、供試体1の第2の層120に励起光としての紫外線(第2の光、波長帯域200nm~400nm程度)の一部の波長帯域の光を照射する。例えば、光源装置221は、波長帯域365nm程度の紫外線を照射するLEDでよい。光源装置221は必ずしもDIC計測装置220に含まれず、独立してもよい。
【0052】
DIC計測装置220は、2台のDICカメラ222、223により、第2の層120が放射する光(第3の光)の波長帯域(第3の波長帯域)の少なくとも一部の波長帯域の光を検知可能である。本例では、DIC計測装置220は、青色光(第3の光、波長帯域430nm~490nm程度)の一部の波長帯域の光を検知可能である。例えば、DIC計測装置220は、440nm~490nm程度の波長帯域の青色光を検知可能でよい。
【0053】
一方、DIC計測装置220は、青色光以外の波長帯域の光、具体的には、第1の層110が放射する赤外線(第1の光、波長帯域780nm~1mm程度)及び第2の層120に照射される紫外線(第2の光、波長帯域200nm~400nm程度)を検知不能でもよい。例えば、DIC計測装置220は、装置性能的に赤外線及び/又は紫外線を検知不能でもよいし、覆い等を用いて物理的に赤外線及び/又は紫外線を検知不能でもよい。逆に言えば、DIC計測装置220が検出する波長で第2の層120の表面121のスペックルパターン122が発光すれば、スペックルパターン122の発光色によらず、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法を同一面で計測可能である。
【0054】
DIC計測装置220は、紫外線により励起され青色光(第3の光)を放射する第2の層120の表面121のスペックルパターン122を撮影する。DICカメラ222、223の解像度は、例えば、2750×2200ピクセルである。2台のDICカメラ222、223を使用しステレオ撮影することで、第2の層120の表面121のスペックルパターン122の3次元形状が算出できる。
【0055】
試験機200が供試体1に応力を印加すると、供試体1が荷重により変形し、第2の層120の表面121のスペックルパターン122が変位する。DIC計測装置220は、供試体1の負荷前後の表面のスペックルパターン122を撮影し、撮影結果に基づき試験片100の変形を計測する。言い換えれば、DIC計測装置220は、供試体1の変形前後におけるデジタル画像から、供試体1の変位量、変位方向を求め、供試体1の表面121のひずみを計測する。
【0056】
上記の様に、疲労荷重により生じるひずみは、静荷重により生じるひずみより小さい。このため、試験機200が供試体1に周期的に応力を印加し、試験片100を疲労荷重(ひずみが比較的小さい)により変形させ、サーモグラフィ計測装置210により、微小な温度変化に基づき、試験片100の疲労荷重による変形(第1の変形)を計測するのがよい。一方、試験機200が供試体1に一定の応力を印加し続け、供試体1を静荷重(ひずみが比較的大きい)により変形させ、DIC計測装置220により、スペックルパターン122の変位に基づき、試験片100の静荷重による変形(第2の変形)を計測するのがよい。
【0057】
なお、上記の様に、サーモグラフィ計測装置210は、赤外線を検知する一方、紫外線及び青色光を検知不能である。DIC計測装置220は、青色光を検知する一方、赤外線及び/又は紫外線を検知不能でもよい。このため、同時に、サーモグラフィ計測装置210が赤外線を検知して試験片100の変形を計測し、且つ、DIC計測装置220が供試体1に紫外線を照射して青色光を検知して試験片100の変形を計測することが可能である。
【0058】
評価装置230は、サーモグラフィ計測装置210が計測する第1の変形と、DIC計測装置220が計測する第2の変形に基づき、試験片100の変形を評価する。
【0059】
サーモグラフィ計測装置210は、急勾配への追従性がよい(亀裂検出感度が高い)反面、応力成分(σx,σy)への分離ができず、応力値の校正が必要である。一方、DIC計測装置220は、軸方向に分解されたひずみ(εx,εy,εz)の計測が可能である反面、ひずみが小さいと誤差が大きく(50μm~110μm程度)、亀裂周りの計測はデータが粗くなり不向きである。このため、サーモグラフィ計測装置210によるサーモグラフィ計測及びDIC計測装置220によるデジタル画像相関法の両方を行い、評価装置230により、サーモグラフィ計測及びデジタル画像相関法を相互に補完するのがよい。
【0060】
3.試験方法
【0061】
図3は、本発明の一実施形態に係る試験方法を示すフローチャートである。
【0062】
まず、試験片100の一面101上に第1の層110を形成する。次に、第1の層110の表面111上に、表面121にスペックルパターン122を有する第2の層120を形成する。これにより、供試体1を準備する。供試体1を試験機200に設置する(ステップS1)。
【0063】
試験機200を駆動して供試体1に応力を印加して試験片100に荷重を生じさせる。サーモグラフィ計測装置210により、供試体1の第1の層100から放射され第2の層120を透過する赤外線を計測し、計測結果に基づき試験片100の変形を計測する(ステップS2)。典型的には、試験機200が供試体1に周期的に応力を印加し、試験片100を疲労荷重(ひずみが比較的小さい)により変形させる。サーモグラフィ計測装置210により、微小な温度変化に基づき、試験片100の疲労荷重による変形(第1の変形)を計測する。
【0064】
試験機200を駆動して供試体1に応力を印加して試験片100に荷重を生じさせる。DIC計測装置220により、供試体1の第2の層120の表面121に紫外線を照射し、紫外線により励起され青色光を放射する第2の層120の表面121のスペックルパターン122を撮影する。DIC計測装置220は、供試体1の負荷前後の表面のスペックルパターン122を撮影し、撮影結果に基づき試験片100の変形を計測する(ステップS3)。典型的には、試験機200が供試体1に一定の応力を印加し続け、供試体1を静荷重(ひずみが比較的大きい)により変形させる。DIC計測装置220により、スペックルパターン122の変位に基づき、試験片100の静荷重及び/又は疲労荷重による変形(第2の変形)を計測する。
【0065】
評価装置230は、サーモグラフィ計測装置210が計測する第1の変形と、DIC計測装置220が計測する第2の変形に基づき、試験片100の変形を評価する(ステップS4)。
【0066】
4.結語
【0067】
従来、試験片の一面の計測については、サーモグラフィ計測かDIC計測のいずれかしか選択できなかった。このため、サーモグラフィ計測とDIC計測を実施するためには、表裏が対称な試験片を用いて、一面をサーモグラフィ計測、反対面をDIC計測としていた。また、試験片の損傷を計測する場合、損傷を表裏に対称に設ける必要があった。
【0068】
逆に言えば、片面が損傷した試験片の損傷面は、表裏の対称性が無いため、サーモグラフィ計測とDIC計測との両方で計測することは出来ない。また、例えば、スキン-ストリンガー(外板-縦通材)構造やリベット継手構造等の表裏の対称性が無い構造の試験片は、サーモグラフィ計測とデジタル画像相関法との両方で計測することは出来ない。
【0069】
これに対して、本実施形態によれば、試験片100の一面101上に、サーモグラフィ計測のための赤外線を放射する平滑な第1の層110を形成する。第1の層110の表面111上に、赤外線を透過し赤外線と異なる波長を放射する材料で、DIC計測に用いられるスペックルパターン122を有する第2の層120を形成する。これにより、試験片100の一面101を、サーモグラフィ計測及びDIC計測の両者で計測可能である。
【0070】
本実施形態によれば、試験片100の一面101上に第1の層110及び第2の層120を重ねて製作することにより、試験片100の表裏の対称性は不要となる。例えば継手構造などの表裏の対称性がない構造の一つの試験片100の一面101に対して、サーモグラフィ計測とDIC計測を用いて計測することが可能である。
【0071】
本実施形態は、試験片100が金属、複合材料を問わず適用が可能であるため、これらの材料の研究、開発、評価において実施する試験に適用可能である。また、既存の製造様式だけでなく、三次元造形技術により製作した試験片100についても試験片100の一面101が平滑であれば、適用可能である。
【0072】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 供試体
100 試験片
101 一面
102 裏面
110 第1の層
111 表面
120 第2の層
121 表面
122 スペックルパターン
2 試験システム
200 試験機
210 サーモグラフィ計測装置
220 DIC計測装置
221 光源装置
222,223 DICカメラ
230 評価装置
図1
図2
図3