(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158308
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】冷媒用ホースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F16L11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073417
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】岡 知輝
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA12
3H111BA15
3H111BA25
3H111CB06
3H111CB07
3H111CB14
3H111CB29
3H111CC03
3H111DA07
3H111DA26
3H111DB09
3H111EA02
3H111EA20
(57)【要約】
【課題】補強コードの太径化を回避しつつ、5~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても実用可能な耐久性を確保できる冷媒用ホース及びその製造方法を提供する。
【解決手段】外径0.4mm以上0.6mm以下の繊維コード4を複数の仕様に異ならせて、各仕様の繊維コード4を使用したホース成形体のサンプル7の加硫後に、サンプル7から取り出した各繊維コード4の150℃での引張荷重と伸度との関係及び室温での切断強力を把握し、冷媒用ホース1の補強コード4に要求される150℃での1.3cN/dtex負荷時の伸度の規格値及び室温での切断強力の規格値と、把握している各繊維コード4の引張荷重と伸度との関係、室温での切断強力とに基づいて各規格値を満足する繊維コード4の仕様を決定し、決定した仕様の繊維コード4を補強コード4として使用したホース成形体7を加硫して冷媒用ホース1を製造する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に積層されている内面層と外面層との間に補強コードからなる補強層が同軸上に積層されていて、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒が流れる冷媒用ホースにおいて、
前記補強コードとして、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードが使用されていて、前記ホースから取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上である冷媒用ホース。
【請求項2】
前記ホースから取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が5.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が260N以上である請求項1に記載の冷媒用ホース。
【請求項3】
前記補強層が、同軸上に積層されている第一補強層と第二補強層との2層構造であり、第一補強層がホース軸心に対して前記補強コードをスパイラル状に巻付けて形成されていて、第二補強層が前記補強コードを第一補強層の前記補強コードとは反対方向にスパイラル状に巻付けて形成されていて、第一補強層と第二補強層との間に中間ゴム層が介在している請求項1または2に記載に冷媒用ホース。
【請求項4】
内面層、補強コードからなる補強層、外面層を順次同軸上に積層してホース成形体を成形し、このホース成形体を加硫することにより、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒が流れる冷媒用ホースを製造する冷媒用ホースの製造方法において、
外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードの仕様を複数に異ならせて、それぞれの仕様の前記繊維コードを使用して成形した前記ホース成形体のサンプルを加硫した後に、前記サンプルから取り出したそれぞれの前記繊維コードの引張り試験を150℃の条件下で行って、引張荷重と伸度との関係を予め把握しておき、かつ、それぞれの前記繊維コードの引張り試験を室温の条件下で行って、切断強力を把握しておき、
前記冷媒用ホースの前記補強コードに要求される150℃での1.3cN/dtex負荷時の伸度および室温での切断強力のそれぞれの規格値と、予め把握している前記関係および前記切断強力とに基づいて、それぞれの前記規格値を満足する加硫前の繊維コードの仕様を決定し、この決定した仕様の繊維コードを前記補強コードとして使用して前記ホース成形体を成形する冷媒用ホースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒用ホースおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒用ホースおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷媒が流れる冷媒用ホースが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。冷媒用ホースには一般的に、内面層、補強コードからなる補強層、外面層が順次同軸上に積層された構造が採用されている。内面層、外面層、補強層のそれぞれの仕様は、冷媒用ホースに要求される性能に基づいて適切に設定される。
【0003】
特許文献1では、冷蔵冷凍室に使用される冷媒用ホースが提案されている。特許文献1では、ホースの耐久性を向上させるために、補強層を形成する補強糸の20℃における1.6cN/dtex負荷時の中間伸度が特定されている。この補強糸は、ホースが製造される際に加硫工程を経ることになる。特許文献1のように加硫前の補強糸の特性を特定しても、加硫前と加硫後とでは補強糸の特性が変化するので、加硫後のホースでの補強糸の実際の特性は不明である。それ故、補強糸を意図するように機能させて要求される性能を満足するホースを得るには不確実性が高くなる。また、冷凍冷蔵室に使用される冷媒用ホースと、車両に搭載されるエアコンデショナーに使用される冷媒用ホースとでは要求される性能が異なる(特許文献1の段落0005)。
【0004】
車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒用ホースでは、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用することがある。ホースの耐圧性を向上させるために、補強コードを太径化するとホースの柔軟性が低下する。車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒用ホースは狭いスペースに配置されるので良好な柔軟性を有する必要がある。それ故、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒用ホースについては、補強コードの太径化を回避しつつ、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても十分な耐久性を確保するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒用ホースに使用される補強コードの太径化を回避しつつ、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても実用上十分な耐久性を確保できる冷媒用ホースおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の冷媒用ホースは、同軸上に積層されている内面層と外面層との間に補強コードからなる補強層が同軸上に積層されていて、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒が流れる冷媒用ホースにおいて、前記補強コードとして、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードが使用されていて、前記ホースから取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明の冷媒用ホースの製造方法は、内面層、補強コードからなる補強層、外面層を順次同軸上に積層してホース成形体を成形し、このホース成形体を加硫することにより、車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒が流れる冷媒用ホースを製造する冷媒用ホースの製造方法において、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードの仕様を複数に異ならせて、それぞれの仕様の前記繊維コードを使用して成形した前記ホース成形体のサンプルを加硫した後に、前記サンプルから取り出したそれぞれの前記繊維コードの引張り試験を150℃の条件下で行って、引張荷重と伸度との関係を予め把握しておき、かつ、それぞれの前記繊維コードの引張り試験を室温の条件下で行って、切断強力を把握しておき、前記冷媒用ホースの前記補強コードに要求される150℃での1.3cN/dtex負荷時の伸度および室温での切断強力のそれぞれの規格値と、予め把握している前記関係および前記切断強力とに基づいて、それぞれの前記規格値を満足する加硫前の繊維コードの仕様を決定し、この決定した仕様の繊維コードを前記補強コードとして使用して前記ホース成形体を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷媒用ホースによれば、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードを補強コードとして使用することで、補強コードの太径化を回避できる。これに伴い、良好な柔軟性を有する冷媒用ホースが得られる。そして、加硫して製造されたホースから取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上であるので、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても実用上十分な耐久性を確保できる冷媒用ホースが得られる。
【0010】
本発明の冷媒用ホースの製造方法によれば、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードを補強コードとして使用することで、補強コードの太径化を回避できる。そして、前記冷媒用ホースの前記補強コードに要求される150℃時の1.3cN/dtex負荷時の伸度および室温での切断強力のそれぞれの規格値と、予め把握している前記関係および前記切断強力とに基づいて、それぞれの前記規格値を満足する加硫前の繊維コードの仕様を決定する。それ故、それぞれの前記規格値を伸度6.0%以下、切断強力220N以上にすれば、加硫して製造されたホースから取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上の特性を有する繊維コードの仕様を把握することができる。したがって、この把握した仕様の繊維コードを前記補強コードとして使用して成形した前記ホース成形体を加硫することで、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても実用上十分な耐久性を確保できる冷媒用ホースを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の冷媒用ホースの実施形態を一部切り欠いて例示する説明図である。
【
図2】
図1のホースの横断面構造を例示する説明図である。
【
図3】ホース成形体を一部切り欠いて例示する説明図である。
【
図4】ホース成形体の加硫工程を例示する説明図である。
【
図5】加硫したホース成形体のサンプルから取り出した繊維コードの150℃の条件下での引張試験の結果を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の冷媒用ホースおよびその製造方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1、
図2に例示する冷媒用ホース1(以下、ホース1という)の実施形態は、同軸上に、内面層2、補強層3、外面層5が順次積層された構造になっている。この実施形態では、補強層3は同軸上に積層されている第一補強層3aと第二補強層3bとの2層構造であり、第一補強層3aと第二補強層3bとの間には中間ゴム層6が介在している。図中の一点鎖線CLはホース軸心を示している。
【0014】
ホース1には、乗用車、トラック、バス、建設車両など各種車両に搭載されるエアコンデショナーの冷媒Cが流れる。冷媒Cとしては、HFC-134a、HFO-1234yなどを例示できる。
【0015】
内面層2には冷媒Cが直接接触する。そのため、内面層2には冷媒Cに対する耐久性等を考慮して適切な材質(樹脂やゴムなど)が採用され、例えばポリアミド(PA)とゴム系材料のブレンド材が用いられる。冷媒CとしてHFO-1234yが使用される場合には、内面層2にはナイロン系樹脂を用いることで、この冷媒Cに対する非透過性を向上させることができる。内面層2の層厚は例えば0.5mm以上2.5mm以下にする。内面層2の内径(即ち、ホース1の内径)は例えば11mm以上13mm以下である。内面層2は1層構造に限らず、複層構造にすることもできる。例えば、内周側から外周側に向かって、樹脂層とゴム層の積層構造、ゴム層と樹脂層の積層構造、異なる種類の樹脂の積層構造、異なる種類のゴム層の積層構造、或いは、これらを適宜組み合わせた構造の内面層2を採用することができる。
【0016】
外面層5には、ホース1に対する要求性能に応じて適切な材質が採用され、例えば、CRゴム、EPDMゴム、SBRゴム等の各種ゴムや各種樹脂が用いられる。外面層5の層厚は例えば0.5mm以上2.5mm以下にする。
【0017】
補強層3は補強コード4によって形成されている。この実施形態では、第一補強層3aはホース軸心CLに対して補強コード4をスパイラル状に巻付けて形成されていて、第二補強層3bは補強コード4を第一補強層3aの補強コード4とは反対方向にスパイラル状に巻付けて形成されている。補強コード4の巻付け密度(編組密度)は95%以上にすることが好ましい。巻付け密度(編組密度)が100%であると、補強コード4がすき間なく巻き付けられている状態である。
【0018】
補強層3はこの実施形態のようにスパイラル構造に限らず、補強コード4をホース軸心CLに対して所定角度で傾斜して編組させたブレード構造にすることもできる。スパイラル構造の補強層3の層数は2層(複数層)であるが、ブレード構造の補強層3の層数は2層(複数層)に限らず1層の場合もある。
【0019】
補強コード4としては、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードが使用されている。詳述すると、補強コード4として、ポリエステル繊維コードなどの樹脂繊維コードが使用される。補強コード4は例えば、3本~4本のポリエステル製のフィラメントが撚られた仕様(片撚り構造)にする。3本~4本のフィラメントが下撚りされることで補強コード4が形成されている。3本~4本のフィラメントを撚って補強コード4を形成することで、補強コード4の耐疲労性を損なうことなく、破断強度を向上させるには有利になる。
【0020】
例えば、下記(1)式により算出される補強コード4の撚り係数Kを250以上400以下に設定する。
撚り係数K=T×D1/2・・・(1)
ここで、Tは補強コード4の下撚り数(回/10cm)、Dは補強コード4の総繊度(dtex)である。
【0021】
中間ゴム層6は、隣り合って積層される第一補強層3aと第二補強層3bを強固に接合するとともに、それぞれの補強コード4どうしが接触して損耗することを回避する緩衝材として機能する。中間ゴム層6は、ホース製造で使用されている公知の仕様のものを用いればよい。中間ゴム層6は省略することも可能である。
【0022】
さらに、この実施形態では、使用前のホース1から取り出した補強コード4の引張特性が特定されている。ホース1は加硫工程を経て製造されるので、ホース1から取り出した補強コード4は加硫工程を経ている。
【0023】
補強コード4の引張特性を詳述すると、使用前のホース1から取り出した補強コード4を150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下であり、かつ、室温(20℃~25℃)の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上である。この引張り試験は、JIS L1017:2002に準拠して行われる。この引張り試験によって、それぞれの仕様の繊維コードの引張荷重と伸度との関係を測定し、その測定データから1.3cN/dtex時伸度E1を算出する。上述の引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度E1が5.0%以下、切断強力が260N以上であることがより好ましい。
【0024】
一般的には、繊維コードは加硫工程での加熱によって収縮する。そのため、同じ繊維コードでの加硫後の1.3cN/dtex時伸度E1は、加硫前の1.3cN/dtex時伸度よりも大きくなることが多い。ただし、繊維コードの仕様によって加硫前と加硫後のこの引張特性の変化具合は異なるので、この変化具合はそれぞれの仕様の繊維コードを用いて実際に測定しなければ判明しない。
【0025】
5MPa~7MPa程度のホース内圧が作用する場合に、補強コード4に作用する引張荷重は1.3cN/dtex程度である。そして、ホース1が設置されるエンジンルールなどの高温の使用環境下を考慮して、この実施形態では、補強コード4の150℃での1.3cN/dtex負荷時の伸度E1の規格値Ce(6.0%以下)が特定されている。また、今までの様々な知見から補強コード4の室温(20℃~25℃)での切断強力の規格値Cf(220N以上)が特定されている。したがって、ホース1に使用されている補強コード4は、それぞれの規格値Ce、Cfを満足している。
【0026】
補強コード4が上述した引張特性(規格値Ce、Cf)を満足するのであれば、ポリエステル繊維の他に例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、66ナイロン繊維などを用いることもできる。
【0027】
次に、本発明のホースの製造方法によってホース1を製造する手順の一例を説明する。
【0028】
まず、ホース1に使用する補強コード4の仕様を決定する。そこで、補強コード4として繊維コードを使用し、外径が0.4mm以上0.6mm以下の補強コード4の仕様を複数に異ならせて、それぞれの仕様の補強コード4を使用して、
図3に例示するホース成形体7のサンプルを公知の方法で成形する。
【0029】
例えば、補強コード4の外径、フィラメントの本数、フィラメントの撚り数、フィラメントの材質の少なくとも1種類を異ならせることで、補強コード4の仕様を異ならせる。公知の方法で補強コード4を熱処理する際の加熱温度、テンションの大きさ、熱処理する際の速度(時間)の少なくとも1種類を調整して補強コード4の仕様を異ならせることもできる。或いは、これらを複数組み合わせて補強コード4の仕様を異ならせることもできる。
【0030】
次いで、それぞれの仕様の補強コード4を使用したホース成形体7のサンプルを加硫してホース1のサンプルを製造する。ホース1のサンプルを製造する際には
図3に例示するように、棒状のマンドレル8を芯材として、公知の方法により、マンドレル8の外周側に順次、内面層2、第一補強層3a、中間ゴム層6、第二補強層3b、外面層5を構成する部材を積層して、マンドレル8の外周面上にホース成形体7のサンプルを成形する。第一補強層3a、第二補強層3bを成形する際には、準備したそれぞれの仕様の補強コード4をホース軸心CLに対してスパイラル状に巻付ける。
【0031】
次いで、ホース成形体7のサンプルを加硫する際には、ホース成形体7のサンプルの最外周面に、外型として機能する被覆材9を積層してホース成形体7のサンプルの全長を被覆材9によって覆う。被覆材9はホース製造で使用されている公知のものであり、ポリメチルペンテンや11ナイロンなどによって形成されている。
【0032】
次いで、
図4に例示するように、被覆材9により被覆されたホース成形体7のサンプルをマンドレル8とともに加硫装置10の内部に配置する。加硫装置10としては、加硫函などのホース製造で使用されている公知の設備を使用すればよい。加硫装置10によってホース成形体7のサンプルを所定時間加硫することで、ホース1のサンプルが製造される。加硫工程の終了後に、マンドレル8をホース1のサンプルから引き抜き、被覆材9をホース1のサンプルから除去する。
【0033】
その後、製造したホース1のサンプルから補強コード4を取り出す。取り出したそれぞれの仕様の補強コード4に対して、150℃の条件下および室温(20℃~25℃)の条件下で引張り試験を行う。この引張り試験は、上述したJIS L1017:2002に準拠して行われる。この150℃の条件下での引張り試験によって
図5に例示するデータを取得する。
図5に例示するデータD1~D5は、それぞれの仕様の補強コード4の引張荷重と伸度(伸び率%)との関係を示していて、引張試験を行うことで、この関係を予め把握する。また、室温の条件下での引張り試験によって、それぞれの仕様の補強コード4の切断強力(データDt1~Dt5)を予め把握する。尚、150℃の条件下と室温の条件下の引張り試験ではそれぞれ、別のサンプルを使用し、同じサンプルは使用しない。即ち、150℃の条件下での引張り試験を行ったサンプルを、室温の条件下での引張り試験に使用することはない。
図5には、仕様の異なる5種類の補強コード4のデータD1~D5が記載されているが、より多くの種類(例えば10種類以上)の仕様の補強コード4の引張試験のデータが取得されることが好ましい。
【0034】
それぞれの補強コード4の繊度は既知なので、それぞれの補強コード4に1.3cN/dtexの引張荷重が負荷されている場合に補強コード4に負荷されている引張荷重F1は算出できる。そこで、データD1~D5を使用して、この引張荷重F1が負荷されている時(即ち、1.3cN/dtexの負荷時)のそれぞれの補強コード4の伸び(伸び率)%を把握する。尚、
図5は5種類の補強コード4の繊度が同じであるとして記載されている。
【0035】
図5に例示するデータD1~D5において、それぞれの補強コード4に引張荷重F1が負荷している時(即ち、1.3cN/dtexの負荷時)の伸度は、破線矢印で示すように1.5%程度、3.3%程度、5.2%程度、7.8%程度、13.2%程度になる。したがって、150℃での1.3cN/dtex負荷時の伸度の規格値Ceが6.0%以下であれば、この規格値Ceを満足するのはデータD1、D2、D3に該当する補強コード4の仕様になる。規格値Ceが5.0%以下であれば、この規格値Ceを満足するのはデータD1、D2に該当する補強コード4の仕様になる。このようにデータD1~D5を用いて、所望の規格値Ceを満足する補強コード4の仕様を把握できる。
【0036】
また、室温での補強コード4の切断強力の規格値Cfが220N以上であれば、予め把握しているデータDt1~Dt5からこの規格値Cfを満足する補強コード4の仕様を把握できる。このようにデータDt1~Dt5を用いて、所望の規格値Cfを満足する補強コード4の仕様を把握できる。
【0037】
上述のようにして、ホース1の補強コード4に要求される150℃時の1.3cN/dtex負荷時の伸度および室温時の切断強力のそれぞれの規格値Ce、Cfと、予め把握している
図5に例示するそれぞれの仕様の補強コード4の引張荷重と伸度との関係(データD1~D5)および切断強力(データDt1~Dt5)と、に基づいて、それぞれの規格値Ce、Cfを満足する加硫前の補強コード4の仕様を決定する。
【0038】
ホース1を製造する際には、上述の決定した仕様の補強コード4を使用して、
図3に例示するホース成形体7を成形する。次いで、成形したホース成形体7を
図4に例示するように加硫装置10の内部に配置して加硫することによりホース1を製造する。ホース1を製造する手順は、上述したホース1のサンプルを製造する手順と同様である。
【0039】
このホース1およびこのホース1の製造方法によれば、外径が0.4mm以上0.6mm以下の繊維コードが補強コード4として使用されているので、補強コード4の太径化を回避できる。そのため、ホース1の良好な柔軟性を確保するには有利になり、ホース1を車両の狭いエンジンルームなどに配置し易くなるまた、補強コード4の太径化を回避することで、ホース1を製造する際の加工性の向上、軽量化にも有利になる。
【0040】
そして、このホース1では、加硫して製造されたホース1から取り出した前記補強コードを150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上である。そのため、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用してもホース1の膨張が抑制されて実用上十分な耐久性を確保することが可能になる。
【0041】
このホース1の製造方法によれば、上述したように、規格値Ce、Cfを満足する加硫前の補強コード4の仕様を決定するので、加硫して製造されたホースから取り出した補強コード4を150℃の条件下で引張り試験を行った際の1.3cN/dtex負荷時の伸度が6.0%以下、かつ、室温の条件下で引張り試験を行った際の切断強力が220N以上になる補強コード4の仕様を把握することができる。したがって、規格値Ce、Cfを満足する仕様の補強コード4を使用して成形したホース成形体7を加硫することで、5MPa~7MPa程度のホース内圧が繰り返し作用しても実用上十分な耐久性を確保できるホースを得ることが可能になる。
【実施例0042】
ポリエステル製の4本のフィラメントを撚って形成された補強コード(片撚り構造)の仕様を表1のように異ならせて、従来例、実施例1~5、比較例1~5の合計11種類を作製した。これら11種類の補強コードの上述した撚り係数Kは250~400の範囲であった。それぞれの補強コードを用いて
図1、
図2に例示する構造のホースを製造した。製造したそれぞれのホースは補強コードの仕様が異なるだけでその他の部材や加硫条件は同じである。
【0043】
製造したそれぞれのホースから補強コードを取り出して、150℃の条件下および室温の条件下でJIS L1017:2002に準拠して引張試験を行った。150℃の条件下での引張試験での測定データから1.3cN/dtex時伸度E1を算出した。その結果は表1に示すとおりである。また、室温の条件下での引張試験で測定された切断強力は表1に示すとおりである。
【0044】
また、製造したそれぞれのホースに対して、下記のホース加圧時膨張量測定およびインパルス耐久試験を実施した。また、それぞれのホースを製造する際の加工性を評価した。
【0045】
[ホース加圧時膨張量測定試験]
それぞれのホースに150℃の雰囲気下で7.0MPaのホース内圧を負荷して30秒間保持して放圧し、放圧してから30秒後にそれぞれのホースの内容積を測定し、ホース内圧を負荷する前のホース内容積に対する増加量を算出した。そして、ホース単位長さ当たりの内容積の増加量を膨張量として表1に示した。この膨張量の値が小さい程、ホース内圧によるホースの膨張が抑制されて耐圧性に優れていることを意味する。
【0046】
[インパルス耐久試験]
それぞれのホースに150℃の雰囲気下で、ホース内圧として0MPaを1秒間維持した後に7.0MPaを1秒間維持するサイクルを繰り返してホースの耐久性を評価した。即ち、0.5Hzの周期で0MPaと7.0MPaのホース内圧を矩形波で繰り返し負荷して、ホースが損傷する負荷回数(サイクル数)を測定した。表1では、負荷回数が45万回未満でホースが損傷した場合を×、45万回以上60万回未満でホースが損傷した場合を〇、60万回以上でもホースが損傷しない場合を◎で示した。
【0047】
[加工性]
それぞれのホースを製造する際の加工し易さを製造ラインで確認した。表1では、円滑にホースを製造できる場合を〇、円滑に製造できない場合を×で示した。比較例5は補強コードが太すぎて円滑にスパイラル状に巻付けることができなかった。そのため、評価可能なホースを製造することができず、上述した膨張量、耐久性の評価を実施できなかった。
【0048】
【0049】
表1の結果から実施例1~6では、従来例に比してホースの膨張量が抑制されて、実用上十分な耐久性を確保できることが分かる。また、実施例1~6では、ホースを製造する際の加工性が良好であることが分かる。