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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158309
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】滑り支承
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241031BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20241031BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
F16F15/04 E
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073418
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】片山 行雄
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AD03
2E139CA02
2E139CA24
2E139CB20
2E139CC11
2E139CC13
3J048AA02
3J048AA06
3J048BA08
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる滑り支承を提供する。
【解決手段】滑り支承100は、コンクリートを含む第1構造体102と第2構造体101とが上下方向に対向して配置された免震層103に設置される滑り支承であって、第1構造体102における第2構造体101側を向く滑り面1と、滑り面1に当接するように設置されるとともに、滑り面1に対して水平方向に第2構造体101と一体となって滑動可能な滑り材2と、を備え、滑り面1は、コンクリートで形成された前記第1構造体102の研磨面である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを含む第1構造体と第2構造体とが上下方向に対向して配置された免震層に設置される滑り支承であって、
前記第1構造体における前記第2構造体側を向く滑り面と、
前記滑り面に当接するように設置されるとともに、前記滑り面に対して水平方向に前記第2構造体と一体となって滑動可能な滑り材と、を備え、
前記滑り面は、コンクリートで形成された前記第1構造体の研磨面である滑り支承。
【請求項2】
前記滑り材は、前記第2構造体に固定されている請求項1に記載の滑り支承。
【請求項3】
前記前記滑り材と前記第2構造体との間に配置され、前記滑り材及び前記第2構造体に固定された積層ゴム部を備える請求項1に記載の滑り支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の下部構造体に固定された滑り板と、滑り板の上側に配置され柱等の上部構造体に固定された滑り材と、を有する滑り支承が知られている。地震時に滑り材が滑り板の上面に接触して可動して二次剛性が低減されて、地震の揺れを建物に伝達することを抑制するものである。
【0003】
滑り支承には、剛滑り支承と、滑り材の上側に積層ゴムが設けられた弾性すべり支承の2種類がある。滑り材としてPTFEで表面処理したフッ素樹脂等が使用され、滑り板としてステンレス板が使用されている。滑り板のステンレス板の厚さは約10mm以下であり、滑り板をコンクリート基礎等の下部構造体に固定するために、約30~50mmの厚い鋼板のフランジプレートの上側に滑り板を取り付けて、フランジプレートを下部構造体にボルト等で固定するようにしている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0004】
滑り板と滑り材との間の摩擦係数は、低摩擦(μ≒0.01)、中摩擦(μ≒0.08)、高摩擦(μ≒0.1)の3種類がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-167661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
滑り材に生じる最大面圧は15Mpa(長期荷重)~40Mpa(短期荷重)程度であるのに対して、鋼材の圧縮強度は235Mpaである。滑り材に生じる最大面圧が鋼材の圧縮強度の1/10程度にしかならず、鋼製のフランジプレートは必要以上の強度を有している。フランジプレートは厚い鋼板を使用しているため、コストがかかったり、鋼材自体も重いため運送と施工に負担がかかったりするという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる滑り支承を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る滑り支承は、コンクリートを含む第1構造体と第2構造体とが上下方向に対向して配置された免震層に設置される滑り支承であって、前記第1構造体における前記第2構造体側を向く滑り面と、前記滑り面に当接するように設置されるとともに、前記滑り面に対して前記第2構造体と一体となって水平方向に滑動可能な滑り材と、を備え、前記滑り面はコンクリートで形成された前記第1構造体の研磨面である。
【0009】
このように構成された滑り支承では、滑り面は、第1構造体のコンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承を、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0010】
また、本発明に係る滑り支承は、前記滑り材は、前記第2構造体に固定されていてもよい。
【0011】
このように構成された滑り支承は、剛滑り支承であり、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承を、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0012】
また、本発明に係る滑り支承は、前記前記滑り材と前記第2構造体との間に配置され、前記滑り材及び前記第2構造体に固定された積層ゴム部を備えていてもよい。
【0013】
このように構成された滑り支承は、弾性滑り支承であり、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承を、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る滑り支承によれば、高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る滑り支承を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る滑り支承の挙動を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験(樹脂材料Aの場合)の結果を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験(樹脂材料Bの場合)の結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験後(樹脂材料Aの場合)の試験体の状態を示す写真である。
図6】本発明の一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験後(樹脂材料Bの場合)の試験体の状態を示す写真である。
図7】本発明の一実施形態の変形例1に係る滑り支承を示す模式図である。
図8】本発明の一実施形態の変形例2に係る滑り支承を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る滑り支承について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る滑り支承を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る滑り支承100は、剛滑り支承である。滑り支承100は、構造物の上部構造体(第2構造体)101と地盤に支持された下部構造体(第1構造体)102との間の免震層103に設置される。上部構造体101と下部構造体102とは、上下方向に対向して配置され、水平方向に相対変位可能に構成されている。免震層103には、1以上の滑り支承100が設置されている。
【0017】
滑り支承100は、滑り面1と、滑り材2と、上部フランジプレート3と、を備える。
【0018】
下部構造体102は、コンクリートを含む材料で形成されている。下部構造体102は、例えば鉄筋コンクリート造で形成されている。滑り面1は、下部構造体102における上部構造体101側を向く面の少なくとも一部である。滑り面1は、下部構造体102を所定の研磨工程によって研磨された研磨面である。例えば、コンクリートを打設して下部構造体102を形成して、1週間養生した後に、#400、#800、#3000~#6000の順で研磨を行う。
【0019】
上面が滑り面1となる下部構造体102を形成するコンクリートは、圧縮強度100Mpa以上及びヤング係数35000N/m以上の少なくとも一方の条件を満たすものである。基準設計面圧(長期面圧)が15Mpaの場合、コンクリート材料の圧縮限界は50Mpa以上であることが好ましい。短期面圧は、基準設計面圧の2倍の30Mpaであることが好ましい。
【0020】
なお、コンクリート材料のヤング係数は、下記の式(1)より求める。
【0021】
【数1】
【0022】
滑り材2は、摩擦減衰作用を持つ板状の部材である。滑り材2は、樹脂材料で形成されている。滑り材2のヤング係数は、400N/m以下であることが好ましい。滑り材2の樹脂材料の摩擦係数は、適宜設定可能である。
【0023】
滑り材2を形成する樹脂材料のヤング係数/下部構造体102を形成するコンクリートのヤング係数(=ヤング係数比)は、1%以下であることが好ましい。
【0024】
滑り材2は、下部構造体102に形成された滑り面1に当接するように、滑り面1に設置されている。滑り材2は、滑り面1に固定等されておらず、滑り面1上を水平方向に滑動可能とされている。
【0025】
滑り材2の下面に、複数の小さな凹部(ディンプル)が設けて、凹部内に油を充填することで、摩擦係数を低減してもよい。凹部は、例えば直径10mm±10%、深さ0.5mm±20%である。
【0026】
上部フランジプレート3は、滑り材2と上部構造体101との間に配置されている。換言すると、上部フランジプレート3は、滑り材2の上側に配置されている。滑り材2は、上部フランジプレート3に固定されている。上部フランジプレート3は、上部構造体101に固定されている。換言すると、滑り材2は、上部フランジプレート3を介して上部構造体101に固定されている。滑り材2は、上部構造体10と一体となって水平方向に摺動可能である。上部フランジプレート3は、例えば上部構造体101に設けられたベースプレート101aに固定されている。
【0027】
図2は、滑り支承100の挙動を示す図である。
図2に示すように、構造物に水平方向の力が作用して、滑り材2と滑り面1との間に生じる摩擦力よりも大きな水平方向の力が作用すると、滑り材2が滑り面1上を滑動する。上部フランジプレート3に固定された上部構造体101も、滑り材2と同じく水平方向に変位する。
【0028】
次に、摩擦試験結果について説明する。
【0029】
<材料>
[コンクリート材料試験体]
・サイズ:50cm×20cm×5cm
・試験体打設して1週間の養生後、コンクリート表面に対して機械による研磨で#400、#800、#3000~#6000の順で研磨を行う
[滑り材]
・直径:90mm
・樹脂材料A,Bの2種類
・樹脂材料A,Bともヤング係数400N/m以下
・樹脂材料Aの表面には複数の小さな凹部(ディンプル)が設けられ、凹部内に油を充填している(図5参照)
・樹脂材料Aは低摩擦係数の樹脂材料
・樹脂材料Bは中摩擦係数の樹脂材料
【0030】
<試験条件>
[試験機]
・二軸せん断往復動試験装置を使用
[パラメータ]
・a コンクリート板:1種類(同じ配合、同じ研磨工程、コンクリートの実圧縮強度120Mpa)
・b 滑り材:2種類(低摩擦係数の樹脂材料A、中摩擦係数の樹脂材料B)
・c 面圧:2.5Mpa,5Mpa,10Mpa,15Mpa,20Mpa,30Mpa,40Mpa
・d 加振速度:1cm/s(ストロック±150mm、1サイクル),10cm/s(ストロック±150mm、5サイクル)
【0031】
<試験結果>
(1)摩擦係数と速度との関係
摩擦試験の結果を図3及び図4に示す。
・縦軸:摩擦係数=鉛直荷重/最大水平荷重(両方とも摩擦試験での実測値)
・横軸:面圧(=鉛直荷重/滑り材面積)
面圧15Mpaで得た摩擦係数は、樹脂材料Aは約0.01であり、樹脂材料Bは約0.08である(ステンレスの場合0.11)。樹脂材料A,Bの両方とも従来の滑り支承と同じ高面圧で、同等の摩擦係数を得ていることが分かった。
【0032】
(2)試験後の写真
図5及び図6に示すように、面圧が高くてもコンクリート板の表面が削られた痕跡が全くなく、健全であった。滑り材の方で摩耗を生じたが、摩擦性能への影響はない(摺動距離は合計10.8m)。
【0033】
このように構成された滑り支承100では、滑り面1は、下部構造体102のコンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承100を、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0034】
従来のように、ステンレス製の滑り板及び滑り板を下部構造体に固定するための鋼製のフランジプレートは必要なく、滑り面1をコンクリートで製造することができるため、免震すべり支承の性能を保持したままで、大幅なコストダウンが実現することができる。
【0035】
(変形例1)
次に、変形例1について、主に図7を用いて説明する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態と同一又は同様な部材及び部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0036】
図7は、本発明の一実施形態の変形例1に係る滑り支承を示す模式図である。
図7に示すように、本変形例に係る滑り支承100Aは、弾性滑り支承である。滑り支承100Aでは、滑り面1と、滑り材2と、積層ゴム部4と、を備えている。
【0037】
積層ゴム部4は、滑り材2と第2構造体101との間に配置されている。積層ゴム部4は、上部ゴム支持プレート4aと、ゴム本体4bと、下部ゴム支持プレート4cと、を有している。ゴム本体4bは、上部ゴム支持プレート4aと下部ゴム支持プレート4cとの間に配置されている。ゴム本体4bは、上部ゴム支持プレート4a及び下部ゴム支持プレート4cに接合されている。ゴム本体4bは、鋼板と、ゴム系材料等から形成される粘弾性体とが上下方向に複数層に積層されて構成されている。
【0038】
上部ゴム支持プレート4aは、上部構造体101のベースプレート101aに固定されている。下部ゴム支持プレート4cは、滑り材2に固定されている。換言すると、積層ゴム部4は、上部構造体101及び滑り材2に固定されている。
【0039】
このように構成された滑り支承100Aでは、滑り面1は、下部構造体102のコンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承100Aを、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0040】
(変形例2)
次に、変形例2について、主に図8を用いて説明する。
図8は、本発明の一実施形態の変形例2に係る滑り支承を示す模式図である。
図8に示すように、本変形例に係る滑り支承100Bでは、滑り面1Bと、滑り材2Bと、下部フランジプレート3Bと、を備えている。
【0041】
滑り面1Bは、基礎梁や基礎床等のコンクリートで形成された上部構造体(第1構造体)101Bの研磨面である。滑り面1Bは、下部構造体(第2構造体)102B側を向く下面である。
【0042】
滑り材2Bは、上部構造体101Bに形成された滑り面1Bに当接するように、滑り面1Bに設置されている。滑り材2は、滑り面1Bに固定等されておらず、滑り面1Bに沿って水平方向に滑動可能とされている。
【0043】
下部フランジプレート3Bは、滑り材2Bと下部構造体102Bとの間に配置されている。換言すると、下部フランジプレート3Bは、滑り材2Bの下側に配置されている。滑り材2Bは、下部フランジプレート3Bに固定されている。下部フランジプレート3Bは、下部構造体102Bに固定されている。換言すると、滑り材2Bは、下部フランジプレート3Bを介して下部構造体102Bに固定されている。
【0044】
このように構成された滑り支承100Bでは、滑り面1Bは、上部構造体101Bのコンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承100Aを、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0045】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0046】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係る滑り支承100は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0047】
1,1B 滑り面
2,2B 滑り材
4 積層ゴム部
101 上部構造体(第2構造体)
101B 上部構造体(第1構造体)
102 下部構造体(第1構造体)
102B 下部構造体(第2構造体)
103 免震層
100,100A,100B 滑り支承
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8