(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158328
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】抗EGFR抗体の生産方法、FcγRIIIaに対する親和性向上方法及び抗EGFR抗体
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20241031BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241031BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241031BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241031BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241031BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241031BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073449
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】江頭 由里子
(72)【発明者】
【氏名】前田 真吾
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
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4B064DA01
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4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】FcγRIIIaに対する親和性をより高めた抗EGFR抗体を提供することを課題とする。
【解決手段】抗EGFR抗体の軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、上記の課題を解決した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗EGFR抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて前記アミノ酸配列を有する抗EGFR抗体を生成する工程及び前記抗EGFR抗体を回収する工程を含み、
前記抗EGFR抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み、
前記抗EGFR抗体は、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変されたアミノ酸配列を含み、
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、
抗EGFR抗体の生産方法。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む抗EGFR抗体において、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、前記改変前と比べて前記抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法であって、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、FcγRIIIaに対する親和性向上方法。
【請求項3】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも3つのアミノ酸残基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位及び70位のアミノ酸残基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗EGFR抗体の重鎖が、配列番号5のアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記抗EGFR抗体の軽鎖が、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、3以上5以下のアミノ酸残基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基に改変されており、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、抗EGFR抗体。
【請求項11】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも3つのアミノ酸残基である、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位及び70位のアミノ酸残基を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項13】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項14】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項15】
重鎖が、配列番号5のアミノ酸配列を有する、請求項10に記載の抗体。
【請求項16】
前記軽鎖が、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項17】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、3以上5以下のアミノ酸残基である、請求項10に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗EGFR抗体の生産方法に関する。本発明は、抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法に関する。本発明は、抗EGFR抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体のアミノ酸配列を改変して抗体の性質を変化させる技術が知られている。例えば、特許文献1には抗体のフレームワーク領域2(FR2)及びフレームワーク領域3(FR3)を改変することにより抗体の凝集を抑制し、抗体の溶解性や安定性を高めることが記載されている。また、特許文献2には、FR3を改変することで抗体の親和性を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0303406号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0179298号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、抗がん剤等に用いられる抗EGFR抗体を改変してFcγRIIIaに対する親和性を向上させた抗体を提供することである。また、本発明の目的は当該抗体の生産方法及び抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、抗EGFR抗体の軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することで抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させることができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[17]の発明を提供する。
[1] 抗EGFR抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて前記アミノ酸配列を有する抗EGFR抗体を生成する工程及び前記抗EGFR抗体を回収する工程を含み、前記抗EGFR抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み、前記抗EGFR抗体は、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変されたアミノ酸配列を含み、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、抗EGFR抗体の生産方法。
【0007】
[2] 配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む抗EGFR抗体において、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、前記改変前と比べて前記抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法であって、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、FcγRIIIaに対する親和性向上方法。
【0008】
[3] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも3つのアミノ酸残基である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
【0009】
[4] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位及び70位のアミノ酸残基を含む、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0010】
[5] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0011】
[6] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0012】
[7] 前記抗EGFR抗体の重鎖が、配列番号5のアミノ酸配列を有する、上記[1]~[6]のいずれか1に記載の方法。
【0013】
[8] 前記抗EGFR抗体の軽鎖が、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列を含む、上記[1]~[3]のいずれか1、又は上記[4]~[6]を引用しない[7]のいずれか1に記載の方法。
【0014】
[9] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、3以上5以下のアミノ酸残基である、上記[1]~[8]のいずれか1に記載の方法。
【0015】
[10] 配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み、軽鎖のフレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基に改変されており、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及びフレームワーク領域3がChothia法で定義される、抗EGFR抗体。
【0016】
[11] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも3つのアミノ酸残基である、上記[10]に記載の抗体。
【0017】
[12] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位及び70位のアミノ酸残基を含む、上記[10]又は[11]に記載の抗体。
【0018】
[13] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、上記[10]又は[11]に記載の抗体。
【0019】
[14] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基を含む、上記[10]又は[11]に記載の抗体。
【0020】
[15] 重鎖が、配列番号5のアミノ酸配列を有する、上記[10]~[14]のいずれか1に記載の抗体。
【0021】
[16] 前記軽鎖が、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列を含む、上記[10]及び[11]のいずれか1、又は上記[12]~[14]を引用しない[15]のいずれか1に記載の抗体。
【0022】
[17] 前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、3以上5以下のアミノ酸残基である、上記[10]~[16]のいずれか1に記載の抗体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、FcγRIIIaに対する親和性を向上させた抗EGFR抗体、当該抗体の生産方法及び抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
(抗EGFR抗体)
本実施形態の抗EGFR抗体は、Chothia法で定義される軽鎖のFR3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はアスパラギン酸残基に改変されていることを特徴とする。ここで、当該改変前のアミノ酸配列を有する抗EGFR抗体を「未改変の抗EGFR抗体」又は単に「未改変の抗体」という。上記の少なくとも3つのアミノ酸残基は、改変前はアルギニン残基及びアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基である。当該改変により、改変前に比べて抗体のFcγRIIIaに対する親和性が向上する。これにより抗EGFR抗体の抗体依存性細胞障害(antibody dependent cellular cytotoxicity : ADCC)活性が向上することが期待される。
【0026】
フレームワーク領域(FR)とは、抗体の軽鎖及び重鎖のそれぞれの可変領域に存在する、相補性決定領域(CDR)以外の領域である。CDRは、抗体の軽鎖及び重鎖のそれぞれの可変領域に3つずつ存在し、抗体の抗原結合部位を構成する。3つのCDRは、抗体のN末端から数えてCDR1、CDR2及びCDR3と呼ばれる。本明細書において、重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれHCDR1、HCDR2及びHCDR3と呼び、軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれLCDR1、LCDR2及びLCDR3と呼ぶ。FRは、3つのCDRを連結する足場の役割を果たし、CDRの構造安定性に寄与する。FR3とは、FRの一つであり、CDR2とCDR3との間の領域を指す。
【0027】
抗体のアミノ酸配列のナンバリング法は公知のいずれの方法を用いてもよい。例えばChothia法(Chothia C.及びLesk AM., Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins., J Mol Biol., vol.196, p.901-917, 1987)、Kabat法(Kabat EA.ら, Sequences of Proteins of Immunological Interest., NIH publication No.91-3242)、IMGT法(Lefranc MP., IMGT Unique Numbering for the Variable (V), Constant (C), and Groove (G) Domains of IG, TR, MH, IgSF, and MhSF., Cold Spring Harb Protoc. 2011(6):633-642, 2011)、Honergger法(Honegger A.ら, Yet Another Numbering Scheme for Immunoglobulin Variable Domains: An Automatic Modeling and Analysis Tool., J Mol Biol., vol.309, p.657-670, 2001)、ABM法、Contact法などが公知である。本明細書においては、抗EGFR抗体のアミノ酸配列のナンバリングはChothia法の定義に従って記載される。本明細書におけるCDR及びFRはChothia法に基づく。
【0028】
抗EGFR抗体には、少なくとも3つの改変を、軽鎖FR3のいずれの箇所に導入してもよい。好ましくは、抗EGFR抗体において分子内部に折りたたまれて表面に露出しないアミノ酸残基(以下、「非露出残基」ともいう)を除いた領域に当該改変を導入する。軽鎖のFR3から非露出残基を除いた領域にあるアミノ酸残基とは、具体的には、軽鎖の57~81位のアミノ酸残基である。
【0029】
より好ましくは、抗EGFR抗体において非露出残基及びVernierゾーン残基を除いた領域に当該改変を導入する。Vernierゾーン残基とは、FRに含まれるアミノ酸残基のうち、CDRの構造安定性に寄与するアミノ酸残基である。そのため、Vernierゾーン残基に改変を導入しないことが好ましい。軽鎖のFR3から非露出残基及びVernierゾーン残基を除いた領域にあるアミノ酸残基とは、具体的には、軽鎖の57~63位、65位、67位、70位及び72~81位のアミノ酸残基である。
【0030】
さらに好ましくは、抗EGFR抗体において非露出残基及びVernierゾーン残基を除いた領域にあるアミノ酸残基のうち、側鎖が分子表面を向くアミノ酸残基に当該改変を導入する。側鎖が分子表面を向くアミノ酸残基が改変されることにより、表面電荷への寄与がより大きくなる。軽鎖のFR3における側鎖が分子表面を向くアミノ酸残基とは、具体的には、軽鎖の57位、60位、63位、65位、67位、70位、72位、74位、76位、77位及び79~81位のアミノ酸残基である。このうち、改変の導入箇所の候補として特に好ましいのは、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位である。一例では、抗EGFR抗体は軽鎖の65位、67位及び70位の3つのアミノ酸残基が改変される。別の例では、抗EGFR抗体は軽鎖の65位、67位、70位及び72位の4つのアミノ酸残基が改変される。さらに別の例では、抗EGFR抗体は軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位の5つのアミノ酸残基が改変される。
【0031】
FR3に導入する改変の数は抗EGFR抗体の機能を大きく損なわない限り特に限定されないが、好ましくは13アミノ酸以下である。すなわち、改変の数は、具体的には、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13である。より好ましくは、改変の数は5以下である。
【0032】
当該改変は、上述の所定の箇所におけるアルギニン残基及びアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基を、アルギニン残基又はアスパラギン酸残基にする改変である。抗EGFR抗体に導入されるアミノ酸残基の改変は、全ての改変がアルギニン残基への改変であってもよいし、全ての改変がアスパラギン酸残基への改変であってもよい。また、改変箇所のうち一部の箇所をアルギニン残基に改変し、その他の箇所をアスパラギン酸残基に改変してもよい。すなわち、当該改変は、軽鎖の63位におけるアルギニン残基又はアスパラギン残基への改変、軽鎖の65位におけるアルギニン残基又はアスパラギン残基への改変、軽鎖の67位におけるアルギニン残基又はアスパラギン残基への改変、軽鎖の70位におけるアルギニン残基又はアスパラギン残基への改変及び軽鎖の72位におけるアルギニン残基又はアスパラギン残基への改変のうち、少なくとも3つの改変であり得る。軽鎖の65位、67位及び70位の3つのアミノ酸残基が改変される場合、軽鎖の65位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の67位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の70位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変される。軽鎖の65位、67位、70位及び72位の4つのアミノ酸残基が改変される場合、軽鎖の65位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の67位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の70位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の72位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変される。軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位の5つのアミノ酸残基が改変される場合、軽鎖の63位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の65位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の67位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の70位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変され、軽鎖の72位がアルギニン残基又はアスパラギン残基へ改変される。
【0033】
抗EGFR抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、アミノ酸配列SGGを含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、アミノ酸配列YASを含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む。以下に各CDRの配列について記載する。
【0034】
HCDR1:配列番号1
GFSLTNY
【0035】
HCDR2:
SGG
【0036】
HCDR3:配列番号2
LTYYDYEFA
【0037】
LCDR1:配列番号3
SQSIGTN
【0038】
LCDR2:
YAS
【0039】
LCDR3:配列番号4
NNNWPT
【0040】
好ましくは、抗EGFR抗体の重鎖のアミノ酸配列は、配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0041】
配列番号5
QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSAASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0042】
抗EGFR抗体の重鎖は、抗EGFR抗体からADCC活性(ADCC活性については後述)が失われない限りにおいて、改変されていてもよい。
【0043】
上述の通り改変された抗EGFR抗体は、未改変の抗EGFR抗体に比べFcγRIIIaに対する親和性が向上している。「親和性の向上」とは、抗EGFR抗体とFcγRIIIaとの親和性が強くなることを意味する。抗EGFR抗体とFcγRIIIaとの親和性は、公知の方法により評価することができる。例えばFcγRIIIaをリガンドとしたアフィニティーカラムに抗EGFR抗体を供し、その溶出時間(保持時間)を測定することによって確認できる。アフィニティーカラムに供した抗EGFR抗体の溶出時間が長くなることは、親和性が向上したことの指標となる。アフィニティーカラムとしては、例えばTSKgel(登録商標)FcR-IIIA-NPR(東ソー社製)が挙げられる。FcγRIIIaに対する親和性は、抗原抗体反応における動力学的パラメータにより評価してもよいし、ELISA法などの免疫学的測定法により評価してもよい。動力学的パラメータとしては、結合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)及び解離定数(KD)が挙げられる。例えば、解離定数が低くなることは、親和性が向上したことの指標となる。免疫学的測定による親和性の指標としては、例えば50%効果濃度(EC50)が挙げられる。抗原抗体反応における動力学的パラメータは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術により取得できる。
【0044】
FcγRIIIaに対する親和性が向上することによって、ADCC活性が向上すると考えられる。ADCCとは、生体内で、標的細胞(例えば腫瘍細胞)等の細胞表面の抗原に結合した抗体が、抗体のFc領域とナチュラルキラー細胞や好酸球などのエフェクター細胞のFc受容体との結合を介してエフェクター細胞を活性化することで、標的細胞を殺傷する反応を指す。FcγRIIIaに対する親和性の向上により、ADCC活性が向上し、標的細胞(例えば癌細胞)に対する殺傷効果を向上することができると考えられる。ADCC活性は、公知の方法を用いて評価することができ、例えばエフェクター細胞、腫瘍細胞及び抗体を混合してインキュベートし、死滅した腫瘍細胞数を測定することで評価できる。
【0045】
上述のアミノ酸残基の改変を含む抗EGFR抗体の軽鎖は、例えば配列番号6、7又は8のアミノ酸配列を含む。配列番号6は、抗EGFR抗体の軽鎖の配列であって、未改変の抗体に比べて軽鎖65位、67位及び70位のアミノ酸残基がアルギニン残基へと置換されたアミノ酸配列である。配列番号7は、抗EGFR抗体の軽鎖の配列であって、未改変の抗体に比べて軽鎖の65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基がアルギニン残基へと置換されたアミノ酸配列である。配列番号8は、抗EGFR抗体の軽鎖の配列であって、未改変の抗体に比べて軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基へと置換されたアミノ酸配列である。これらのアミノ酸配列を以下に示す。なお、改変によって導入されたアルギニン残基及びアスパラギン酸残基には下線が付されている。
【0046】
配列番号6
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGRGRGTRFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0047】
配列番号7
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGRGRGTRFRLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0048】
配列番号8
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFDGDGDGTDFDLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0049】
抗EGFR抗体は、いずれの動物に由来する抗体であってもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリなどに由来する抗体が挙げられる。抗EGFR抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体であり得る。キメラ抗体は、好適にはヒトと非ヒト動物とのキメラ抗体であり、より好適にはヒトとマウスとのキメラ抗体である。抗EGFR抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。抗EGFR抗体は、FcγRIIIaとの親和性向上の目的で導入される改変の他に、別の目的でアミノ酸残基が改変されていてもよい。例えば、抗原との親和性を向上させる改変、FcRnとの親和性を向上させる改変、抗体の凝集性を抑制する改変、抗体の溶解性を向上させる改変、抗体の熱安定性を向上させる改変などが挙げられる。
【0050】
改変された抗EGFR抗体は、未改変の抗体と同様の用途に用いる事ができる。例えば、抗がん剤の有効成分として利用することができる。
【0051】
(抗EGFR抗体の生産方法)
本実施形態は、上述の抗EGFR抗体の生産方法(以下、単に生産方法ともいう)に関する。
【0052】
当該生産方法は、抗EGFR抗体を生成する工程と、抗EGFR抗体を回収する工程とを含む。具体的には、改変された抗EGFR抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用意する。そして、当該ポリヌクレオチドを用いて、タンパク質発現系により改変抗体を生成し回収する。タンパク質発現系は、宿主細胞を用いる発現系であってもよいし、無細胞タンパク質合成系であってもよい。宿主細胞としては、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母などが挙げられる。無細胞タンパク質合成系としては、例えばコムギ胚芽由来合成系、大腸菌由来合成系、再構成型無細胞タンパク質合成系などが挙げられる。
【0053】
改変された抗EGFR抗体をコードするポリヌクレオチドを作製する方法の一例は以下のとおりである。まず、未改変のEGFR抗体に対し、DNA組み換え技術など公知の分子生物学的技術により、抗体にアミノ酸残基の改変を導入する。例えば、未改変のEGFR抗体を産生するハイブリドーマがある場合は、該ハイブリドーマから抽出したRNAを用いて、逆転写反応及びRACE (Rapid Amplification of cDNA ends)法により、軽鎖をコードするポリヌクレオチド及び重鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれを合成する。ポリヌクレオチドのうち、軽鎖をコードするポリヌクレオチドに対して、軽鎖のFR3の少なくとも3つのアミノ酸残基に改変を導入するためのプライマーを用いてPCR法により増幅することで、FR3に改変が導入された軽鎖をコードするポリヌクレオチドを取得することができる。
【0054】
宿主細胞を用いる場合の抗EGFR抗体産生の一例は以下のとおりである。まず、上記各ポリヌクレオチドを、当該技術において公知の発現用ベクターに組み込んで、軽鎖のFR3が改変された抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを取得する。軽鎖をコードするポリヌクレオチド及び重鎖をコードするポリヌクレオチドは、1つの発現ベクターに組み込まれてもよいし、2つの発現ベクターに別個に組み込まれてもよい。発現ベクターの種類は特に限定されず、哺乳動物細胞用発現ベクターであってもよいし、大腸菌用発現ベクターであってもよい。得られた発現ベクターを適当な宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞又は大腸菌)に導入(トランスフェクション又はトランスフォーメーション)し、宿主細胞で発現させることにより、改変を加えた抗EGFR抗体を生成することができる。次に、宿主細胞を、適当な可溶化剤を含む溶液に溶解して、該溶液中に抗EGFR抗体を遊離させる。上記の宿主細胞が、改変された抗EGFR抗体を培地中に分泌する場合は、培養上清を回収する。
【0055】
一度発現ベクターを導入した宿主細胞の安定株を樹立したら、当該細胞が死滅しない限り、当該細胞を適切な条件下で培養することにより抗体を産生させることができる。また、抗体をコードするポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを保管し、必要に応じて宿主細胞に導入のうえ抗体産生及び回収を行うことができる。発現ベクターの保管は、発現ベクターであるポリヌクレオチドを含む溶液、又は発現ベクターを含む細胞を冷凍保存することにより行うことができる。
【0056】
無細胞タンパク質合成系により抗体を得る場合は、FR3が改変された軽鎖をコードするポリヌクレオチドと、未改変の抗EGFR抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドとを、無細胞タンパク質合成系に添加して、適切な条件下でインキュベートすることで、改変抗体を産生させ、回収することができる。
【0057】
抗体の回収は、アフィニティクロマトグラフィーなどの公知の方法により行うことができる。必要に応じて、回収した抗体を、ゲルろ過などの公知の方法により精製してもよい。
【0058】
(抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法)
本実施形態は、抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させる方法に関する。未改変のEGFR抗体において、FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性を向上させることができる。改変された抗EGFR抗体については上述の通りである。
【0059】
抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性が向上したかどうかは、例えばFcγRIIIaをリガンドとしたアフィニティーカラムに抗EGFR抗体を供し、その溶出時間を測定することによって確認できる。あるいは、抗原抗体反応における動力学的パラメータや、ELISA法などの免疫学的測定法により評価することもできる。動力学的パラメータとしては、結合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)及び解離定数(KD)が挙げられ、好ましくはKDである。免疫学的測定による親和性の指標としては、例えば50%効果濃度(EC50)が挙げられる。あるいは、抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対するADCC活性を測定することによっても評価することができる。
【0060】
抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性が向上する場合、抗原抗体反応におけるKDの値は、例えば、未改変の抗体と比較して約1/2、約1/5、約1/10、約1/20、約1/50、約1/100又は約1/1000である。
【0061】
(抗EGFR抗体のADCC活性を向上させる方法)
本実施形態は、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、SGGのアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1、YASのアミノ酸配列を含むLCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む抗EGFR抗体において、FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、抗EGFR抗体のADCC活性を向上させる方法に関する。未改変のEGFR抗体において、FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はアスパラギン酸残基へ改変することにより、抗EGFR抗体のFcγRIIIaに対する親和性が向上する。これにより、抗EGFR抗体のADCC活性を向上させることができる。改変された抗EGFR抗体については上述の通りである。
【0062】
(ポリヌクレオチド)
本実施形態は、改変された抗EGFR抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。当該ポリヌクレオチドは、適切なベクターに組み込まれた状態であってもよい。
【0063】
(宿主細胞)
本実施形態は、上記のベクターを含む宿主細胞に関する。宿主細胞の種類は特に限定されず、真核細胞、原核細胞等であり得る。真核細胞としては、動物細胞が好ましく、哺乳動物細胞がより好ましい。
【0064】
(医薬組成物)
本実施形態は、改変された抗EGFR抗体を含む医薬組成物に関する。医薬組成物には改変された抗EGFR抗体以外の成分が含まれていてもよい。医薬組成物には、抗EGFR抗体が薬理学的有効量で含有されていることが好ましい。
【0065】
医薬組成物は、薬学的に許容される添加物を含んでいてもよい。そのような添加物としては、当該技術分野において公知の添加物から適宜選択できる。公知の添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、カプセル基剤、可塑剤、着色剤、溶剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、無痛化剤、基剤、乳化剤、懸濁化剤、矯味剤、甘味剤、吸着剤、溶解補助剤、pH調節剤、増粘剤、等張化剤、分散剤、防腐剤、湿潤剤、着香剤、抗酸化剤などが挙げられる。
【0066】
医薬組成物の製剤形態は特に限定されず、例えば、固形製剤、半固形製剤、液状製剤、注射剤、坐剤など、当業者に公知の製剤形態のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば注射剤、液剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
改変された抗EGFR抗体は、様々な腫瘍の治療に好適に用いる事ができる。腫瘍としては特に限定されないが、例えば、大腸癌、結腸癌、直腸癌、頭頚部癌、咽頭癌、口腔癌、喉頭癌、膵臓癌、肺癌、乳癌等が挙げられる。
【0068】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0069】
実施例:抗EGFR抗体の取得とFcγRIIIa結合親和性の測定
FR3を改変した抗EGFR抗体を作成し、FcγRIIIa結合親和性を測定した。
【0070】
(抗EGFR抗体の取得)
抗EGFR抗体の軽鎖のFR3を改変し、3種の改変抗体(以下各改変抗体をR3、R4及びD5とよぶ)を取得した。具体的には以下のとおりである。
【0071】
配列番号6、7及び8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用意した。各ポリヌクレオチドをそれぞれプラスミドに組み込み、当該プラスミドをExpi293細胞にトランスフェクションした。抗EGFR改変抗体を発現させた当該細胞から培養上清を回収し、培養上清から発現させた抗EGFR改変抗体を精製することで各抗EGFR改変抗体を取得した。
【0072】
これらの改変抗体は、未改変の抗EGFR抗体の軽鎖のFR3と比べ、軽鎖のFR3にアミノ酸残基の改変を含んでいた。具体的には、R3(配列番号6)は軽鎖の65位、67位及び70位におけるアルギニン残基への改変を含み、R4(配列番号7)は軽鎖の65位、67位、70位及び72位におけるアルギニン残基への改変を含み、D5(配列番号8)は軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位におけるアスパラギン酸への改変を含んでいた。これらのアミノ酸残基の改変は全て置換であった。
【0073】
R3軽鎖:配列番号6
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGRGRGTRFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0074】
R4軽鎖:配列番号7
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGRGRGTRFRLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0075】
D5軽鎖:配列番号8
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFDGDGDGTDFDLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0076】
これらの改変抗体のHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3及び重鎖のアミノ酸配列は以下の通りであった。
【0077】
HCDR1:配列番号1
GFSLTNY
【0078】
HCDR2:
SGG
【0079】
HCDR3:配列番号2
LTYYDYEFA
【0080】
LCDR1:配列番号3
SQSIGTN
【0081】
LCDR2:
YAS
【0082】
LCDR3:配列番号4
NNNWPT
【0083】
重鎖:配列番号5
QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSAASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0084】
未改変の抗EGFR抗体の軽鎖の配列は配列番号9に示す通りであった。
【0085】
未改変の抗EGFR抗体の軽鎖:配列番号9
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0086】
これらの改変抗体及び未改変の抗EGFR抗体のFcγRIIIa結合親和性を確認した。FcγRIIIa結合親和性の確認には、アフィニティークロマトグラフィーカラムであるTSKgel(登録商標)FcR-IIIA-NPR(東ソー社製)を用いた。このカラムは、抗体のFcγRIIIaに対する結合親和性に基づいて抗体を分離可能なカラムであった。分析条件は以下の通りであった。
【0087】
【0088】
【0089】
上述した条件で各抗EGFR改変抗体をカラムに供し、カラムからの抗体の溶出時間を測定した。その結果を
図1に示す。
図1の縦軸は280nm吸光度、横軸は溶出時間である。また、
図2は
図1の拡大図であり、各グラフの最も強いピーク部分を含む。図中、「WT」は未改変の抗体を表す。
図1及び2より、改変抗体の溶出時間のピークは、未改変の抗体の溶出時間のピークと比較して、右側にずれ、溶出時間が遅延したことが分かった。FR3の軽鎖にアルギニン残基又はアスパラギン酸残基の改変を導入することにより、抗EGFR抗体のFcγRIIIaへの親和性を向上することができた。