(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158332
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】マイクロニードルデバイス及びその適用方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A61M37/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073455
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 康太
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 幸夫
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA71
4C267BB02
4C267CC01
(57)【要約】
【課題】マイクロニードルが皮膚の角質層を完全に貫通せず、かつ、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量を増加させ、かつ、セラミド量を増加させることができる、マイクロニードルデバイスの適用方法を提供すること。
【解決手段】三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させる方法であって、上記三次元培養皮膚に、基板と上記基板上に配置されたマイクロニードルを備えるマイクロニードルデバイスを適用することを含み、上記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、上記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で上記基板上に配置されており、上記マイクロニードルデバイスを上記三次元培養皮膚に適用するときの荷重が0.5N~1.5Nである、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させる方法であって、
前記三次元培養皮膚に、基板と前記基板上に配置されたマイクロニードルを備えるマイクロニードルデバイスを適用することを含み、
前記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、
前記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で前記基板上に配置されており、
前記マイクロニードルデバイスを前記三次元培養皮膚に適用するときの荷重が0.5N~1.5Nである、
方法。
【請求項2】
前記皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子が、SPTLC3、FLG及びTGM1からなる群から選択される1以上の遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させるためのマイクロニードルデバイスであって、
基板と前記基板上に配置されたマイクロニードルを備え、
前記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、
前記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で前記基板上に配置されており、
前記三次元培養皮膚に適用するときの前記マイクロニードルデバイスにかかる荷重が0.5N~1.5Nである、
マイクロニードルデバイス。
【請求項4】
前記皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子が、SPTLC3、FLG及びTGM1からなる群から選択される1以上の遺伝子である、請求項3に記載のマイクロニードルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイス及びその適用方法に関する。より詳細には、三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させるためのマイクロニードルデバイス及び三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬剤の経皮吸収を向上させるためのデバイスとして、基板上に微小突起を設けたもの(微小突起付きアレイ)が知られている。微小突起は、皮膚最外層である角質層を穿刺することを目的とし、様々なサイズや形状が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
微小突起付きアレイを利用した場合の薬剤の適用方法についても様々な方法が提案されている。特許文献2には、薬剤を微小突起表面にコーティングすること、微小突起に薬剤あるいは生体成分を透過させるための溝又は中空部分を設けること、微小突起自身に薬剤を混合すること等が記載されている。また、特許文献2には、リザーバー媒体は糖類を含むことが好ましく、特に、ガラス(非晶質の固体物質)を形成するラクトース、ラフィノース、トレハロースもしくはスクロースのような安定化用糖類を含むことも記載されている。
【0004】
特許文献3及び4には、微小突起の高さを10μm~3mmとし、且つ微小突起の先端部の形状を平坦形状又は丸みを帯びた形状とすることで、微小突起が角質層を貫通することなく、表皮を引き伸ばしながら、突起に付着又は含まれる化粧料、医薬、プラスチック等の化合物を投与できる旨の記載がある。
【0005】
特許文献5には、基板と、基板に設けられ、該基板と接続する底部から先端部に向けて細くなるテーパ状の微小突起とを有する微小突起付きアレイと、微小突起付きアレイを皮膚に当てるための押さえ手段と、を備え、微小突起の任意の側面における先端部から底部までの距離をaとし、該距離を示す第1の線分を基板上に投影してなる第2の線分の長さをbとした場合に、1.0<(a/b)≦7.5の関係が成立し、微小突起の高さが50~300μmであり、微小突起が皮膚の角質層を貫通しない微小突起付きアレイを有するデバイスに関する記載がある。
【0006】
特許文献6には、角層の損傷を抑制することができ、且つ、突起具を皮膚に押し当てるのみで血流促進効果を得ることができる突起具の使用方法として、熱可塑性樹脂を含み、微細突起の先端径が10μm~400μmである突起具を、非侵襲又は低侵襲で皮膚に押し付ける方法が記載されている。
【0007】
非特許文献1には、マイクロニードル法は、表皮と表層真皮にダメージを与えることで効果を発揮し、コラーゲンやエラスチンの発現を誘導するとともに、皮膚構造を改善することを目的としている旨の記載がある。
【0008】
非特許文献2には、リンクルクリームとマイクロニードルパッチの併用治療は、リンクルクリーム又はパッチのみの単独塗布と比較して、カラスの足跡と鼻唇溝のIGAスコアを有意に改善した旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2001-506904号公報
【特許文献2】特表2004-504120号公報
【特許文献3】特開2007-089792号公報
【特許文献4】特開2007-130417号公報
【特許文献5】国際公開第2011/148994号
【特許文献6】特開2022-188715号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Robati et al., "Efficacy of microneedling versus fractionalEr:YAG laser in facial rejuvenation", J Cosmet Dermatol, 2020, 19(6):1333-1340.
【非特許文献2】Hong et al., "Efficacy and safety of a novel, solublemicroneedle patch for the improvement of facial wrinkle", J CosmetDermatol, 2018, 17(2): 235-241.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、皮膚バリア機能を亢進するためにマイクロニードルデバイスを皮膚に適用する場合、表皮と表層真皮を損傷させる、すなわちマイクロニードルが皮膚の角質層を貫通する、必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
皮膚が傷む可能性を回避するためには、マイクロニードルが皮膚の角質層を完全に貫通せず(表皮と表層真皮を損傷させない)、かつ、そのような適用条件下で皮膚バリア機能の亢進に関わる因子を誘導できるマイクロニードルデバイスが望ましい。本発明者らが詳細に検討した結果、三次元培養皮膚モデルを用いた試験において、所定の長さのマイクロニードルが所定の密度で基板上に配置されたマイクロニードルデバイスを、所定の荷重をかけて上記皮膚に適用すると、マイクロニードルが皮膚の角質層を貫通しないにも関わらず、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量を増加させ、かつ、セラミド量を増加させることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]を含む。
[1]三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させる方法であって、
上記三次元培養皮膚に、基板と上記基板上に配置されたマイクロニードルを備えるマイクロニードルデバイスを適用することを含み、
上記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、
上記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で上記基板上に配置されており、
上記マイクロニードルデバイスを上記三次元培養皮膚に適用するときの荷重が0.5N~1.5Nである、
方法。
[2]上記皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子が、SPTLC3、FLG及びTGM1からなる群から選択される1以上の遺伝子である、[1]に記載の方法。
[3]三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させるためのマイクロニードルデバイスであって、
基板と上記基板上に配置されたマイクロニードルを備え、
上記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、
上記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で上記基板上に配置されており、
上記三次元培養皮膚に適用するときの上記マイクロニードルデバイスにかかる荷重が0.5N~1.5Nである、
マイクロニードルデバイス。
[4]上記皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子が、SPTLC3、FLG及びTGM1からなる群から選択される1以上の遺伝子である、[3]に記載のマイクロニードルデバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マイクロニードルが皮膚の角質層を完全に貫通せず、かつ、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量を増加させ、かつ、セラミド量を増加させることができる、マイクロニードルデバイス及びその適用方法を提供することができる。かかるマイクロニードルデバイスを適用すると、しわ改善等の効果が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を示して、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させるためのものであり、基板と上記基板上に配置されたマイクロニードルを備え、上記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、上記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で上記基板上に配置されており、上記三次元培養皮膚に適用するときの上記マイクロニードルデバイスにかかる荷重は0.5N~1.5Nである。
【0016】
本発明の一実施形態に係る三次元培養皮膚中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量及びセラミド量を増加させる方法は、上記三次元培養皮膚に、基板と上記基板上に配置されたマイクロニードルを備えるマイクロニードルデバイスを適用することを含み、上記マイクロニードルの長さが300μm~900μmであり、上記マイクロニードルが28本/cm2~640本/cm2の密度で上記基板上に配置されており、上記マイクロニードルデバイスを上記三次元培養皮膚に適用するときの荷重が0.5N~1.5Nである。
【0017】
マイクロニードルデバイスは、基板と、基板の主面上に配置された複数のマイクロニードルと、を備える。
【0018】
基板は、マイクロニードルを支持するための土台である。基板の形状は特に限定されず、例えば、矩形(正方形、長方形等)、略円形(円、楕円等)、三日月形、勾玉型又は他の多角形等の任意の形状とすることができ、かつ、主面は平坦又は曲面であってよい。基板の面積は、例えば、0.5cm2~10cm2、0.5cm2~5cm2、1cm2~5cm2、0.5cm2~3cm2、又は1cm2~3cm2とすることができる。基板の厚みは、例えば、50μm~2000μm、300μm~1200μm、又は500μm~1000μmとすることができる。
【0019】
マイクロニードルは、基板の主面から立ち上がった微小な構造物であり、基板と接続する底部から先端部に向けて細くなるテーパ状を呈する。マイクロニードルの形状は、例えば、四角錐形等の多角錐形又は円錐形とすることができる。マイクロニードルは微小構造であり、マイクロニードルの、基板の主面に対する垂直方向の長さ(高さ)は、300μm~900μmであり、400μm~600μm又は450μm~550μmとすることができる。なお、複数の長さのマイクロニードルが混在していてもよい。マイクロニードルの長さがこれらの範囲であると、マイクロニードルデバイスを0.5N~1.5Nの荷重で皮膚に適用した場合に、マイクロニードルが角質層を完全に貫通せず、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量及びセラミド量を増加させることができる。
【0020】
マイクロニードルは、基板の主面上に、例えば、正方格子状、長方格子状、斜方格子状、45°千鳥状、又は60°千鳥状に配置される。
【0021】
マイクロニードルの先端部は、針形状を含む凸状構造物だけでなく、平坦であったり、丸みを帯びた形状であってもよい。先端部が平坦である場合には、その平坦部の面積は20μm2~1000μm2であってもよいし、100μm2~800μm2であってもよい。先端部が丸みを帯びている場合には、先端部の曲率半径が2μm~200μmであってもよいし、5μm~100μmであってもよいし、10μm~50μmであってもよい。
【0022】
マイクロニードルが基板上に配置される密度(針密度)は、マイクロニードルを実質的に備える領域における、単位面積あたりのマイクロニードルの本数で表される。マイクロニードルを実質的に備える領域とは、マイクロニードルデバイスに配置された複数のマイクロニードルのうち最外部のマイクロニードルを結んで得られる領域である。針密度は、28本/cm2~640本/cm2であり、50本/cm2~200本/cm2又は75本/cm2~175本/cm2とすることができる。マイクロニードルの密度がこれらの範囲であると、マイクロニードルデバイスを0.5N~1.5Nの荷重で皮膚に適用した場合に、マイクロニードルが角質層を完全に貫通せず、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量及びセラミド量を増加させることができる。
【0023】
基板及びマイクロニードルの材質は、例えば、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類又は合成の若しくは天然の樹脂素材とすることができる。多糖類としては、プルラン、キチン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びキトサンが例示される。樹脂素材は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸-co-ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミノ酸(例えば、ポリ-γ-アミノ酪酸)等の生分解性ポリマーとすることができ、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、環状オレフィン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等の非分解性ポリマーであってもよい。材質は、皮膚への持続的な密着性の観点から、ポリ乳酸等の生分解性ポリマー又はポリプロピレン等の非分解性ポリマーであることが好ましく、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体であることが特に好ましい。
【0024】
マイクロニードルデバイスの製法としては、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工、金属又は樹脂を用いた精密機械加工(放電加工、レーザー加工、ダイシング加工、ホットエンボス加工、射出成型加工等)、機械切削加工等が挙げられる。これらの加工法により、マイクロニードルと基板とが一体に成型される。
【0025】
マイクロニードルデバイスは、荷重が0.5N~1.5Nとなるように三次元培養皮膚に適用する。荷重は、0.75N~1.25N又は0.9N~1.1Nであってもよい。かかる荷重でマイクロニードルデバイスを適用することで、マイクロニードルが角質層を完全に貫通せず、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量及びセラミド量を増加させることができる。例えば、マイクロニードルデバイスの裏面(マイクロニードルがない面)にバネの一端を固定し、バネの他端を三次元培養皮膚の培養容器の蓋に固定することで、マイクロニードルデバイスにかかる荷重を上記数値範囲内に調節することができる。マイクロニードルデバイスにかかる荷重を調節する別の方法としては、例えば、マイクロニードルデバイスに分銅を載せる方法、フォースゲージを用いて所定の荷重で押し当てる方法がある。
【0026】
三次元培養皮膚とは、ヒト皮膚に構造が類似する人工の皮膚モデルである。三次元培養皮膚は、角質層、顆粒層、有棘層及び基底層の全層を含む表皮を有するものであることが好ましい。三次元培養皮膚は、市販されているものを購入することができる。市販の三次元培養皮膚としては、例えば、T-skin(EPISKIN社)、EPI-MODEL(株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング)及びEFT-400(MatTek社)等が挙げられる。三次元培養皮膚の培養条件は特に限定されず、一般的な条件、例えば、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内で培養することができる。マイクロニードルデバイスを適用するときも、同じ条件下で三次元培養皮膚を培養する。マイクロニードルデバイスの適用時間は、4時間~24時間とすることができ、4時間~12時間、6時間~10時間又は7時間~9時間であってもよい。かかる時間マイクロニードルデバイスを適用することで、皮膚バリア機能の亢進に関わる遺伝子のmRNAの発現量及びセラミド量を増加させることができる。
【0027】
三次元培養皮膚は、ヒト皮膚の代わりに、化粧品及び医薬品の安全性及び有効性の試験に使用することが可能である。したがって、本実施形態に係るマイクロニードルデバイスを三次元培養皮膚に適用することで、化粧品及び医薬品の安全性及び有効性を評価することが可能となる。
【0028】
皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子は、セリンパルミトイル転移酵素(SPTLC3)、フィラグリン(FLG)、トランスグルタミナーゼ(TGM1)、コラーゲン、コラーゲン受容体、インテグリン、ヒアルロン酸合成酵素、インボルクリン、ロリクリン、ラミニン等が挙げられる。本実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、三次元培養皮膚細胞中の皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量、好ましくは、SPTLC3、FLG及びTGM1からなる群から選択される1以上の遺伝子のmRNA発現量を増加させることができる。mRNA発現量を増加させるとは、マイクロニードルデバイスを適用しない三次元培養皮膚細胞と比較して、マイクロニードルデバイスを適用した三次元培養皮膚細胞におけるmRNA発現量が多いことをいう。mRNA発現量は、RT-PCR法により定量することができる。mRNA発現量は、ハウスキーピング遺伝子に対する発現量として定量することができ、ハウスキーピング遺伝子として、β-アクチン、GAPDH及び18SリボソームRNAが挙げられる。
【0029】
セラミドは、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物群の総称である。セラミド量を増加させるとは、マイクロニードルデバイスを適用しない三次元培養皮膚細胞と比較して、マイクロニードルデバイスを適用した三次元培養皮膚細胞におけるセラミド量が多いことをいう。ここで、セラミドは任意の種類のセラミドであってよく、セラミド1、セラミド2、セラミド3及びセラミド5からなる群から選択される1以上のセラミド又はこれらの合計量であってもよく、セラミド1、セラミド2及びセラミド3からなる群から選択される1以上のセラミド又はこれらの合計量であってもよい。
【実施例0030】
(1)マイクロニードルデバイスの作製
直径が8mm、厚みが700μmの円柱状の基板の0.5cm2の領域に密度152本/cm2でマイクロニードルを備え、各マイクロニードルは長さ500μm、先端面積100μm2の四角錐である、ポリ乳酸のマイクロニードルデバイスを作製した。
【0031】
(2)経表皮水分蒸散量(TEWL)の測定
三次元培養全層皮膚モデルであるT-skin(6well)をEPISKIN社より購入した。T-skinの納品から3日以内に、6ウェルプレート内で付属の液体培地による培養(37℃、5%CO2)を開始した。培養開始から24時間後、培地交換を行った。T-skinの表面にマイクロニードルデバイスを設置し、6ウェルプレートの蓋に取り付けたバネで1N、2N又は3Nの荷重をかけることでマイクロニードルデバイスをT-skinに適用した。コントロール群はマイクロニードルデバイス及びバネを適用していない自然な状態で培養した。各群n=3で24時間培養(37℃、5%CO2)した。マイクロニードルデバイスの適用から24時間後、培養プレートをインキュベーターから取り出し、クリーンベンチ内で30分静置した。その後、マイクロニードルデバイスをT-skinから取り除き、その直後にT-skinのTEWLを水分蒸散計VapoMeter(Delfin Technologies社)で測定した。測定は3回繰り返した。
【0032】
(3)mRNA発現量の測定
T-skinの納品から3日以内に、6ウェルプレート内で付属の液体培地による培養(37℃、5%CO2)を開始した。培養開始から24時間後、6ウェルプレートの蓋に取り付けたバネで1N又は2Nの荷重かけながら8時間マイクロニードルデバイスを適用したこと以外は、上記(2)と同様にマイクロニードルデバイスを適用した。各群n=3又はn=4で、繰り返し3回試験した。8時間の適用(37℃、5%CO2)後、マイクロニードルデバイスが適用されていた直下のT-skinのみを回収するため、直径8mmの生検パンチ(BP-80F、カイインダストリーズ社)でT-skinをくり抜き、皮膚サンプルを1mLのRNA保存液(RNAprotect Tissue Reagent;QIAGEN社)に浸した。皮膚サンプルは4℃で保存し、3日以内にRNA抽出を行った。
【0033】
RNA抽出キット(RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(50);QIAGEN社)の標準プロトコールに従って皮膚サンプルからRNAを抽出した。その際に皮膚サンプルはTissueRuptor(QIAGEN社)を用いてホモジネートした。
【0034】
抽出したRNAサンプル中のRNA濃度をUV分光度計(Simplinano;Biochrom社)で測定した。RNAサンプルは-80℃で保存した。RNAサンプルは氷上で融解し、濃度が一定となるようにRNase Free Waterで希釈した。目的遺伝子プライマー及び内在性コントロール(β-アクチン)プライマーはPCR試薬(TaqManTMRNA to CTTM 1-ステップキット;Thermo Fisher Scientific社)及びRNase Free Waterで混和した。
【0035】
測定はApplied Biosystems(登録商標) 7500fastリアルタイムPCR装置(Thermo Fisher Scientific社)を用いて下表1の条件で行った。測定結果はΔΔCt法によって相対遺伝子発現量として得た。各プライマーは、Thermo Fisher Scientific社から購入した。各プライマーのAssay IDを表2に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
(4)セラミドの含量測定
T-skinの納品から3日以内に、6ウェルプレート内で付属の液体培地による培養(37℃、5%CO2)を開始した。培養開始から24時間後、6ウェルプレートの蓋に取り付けたバネで1Nの荷重かけながら8時間マイクロニードルデバイスを適用したこと以外は、上記(2)と同様にマイクロニードルデバイスを適用した。各群n=4で試験した。8時間の適用(37℃、5%CO2)後、マイクロニードルデバイスを取り除き、T-skinの培養を続けた。マイクロニードルデバイスを皮膚から取り除いて64時間後、マイクロニードルデバイスが適用されていた直下のT-skinのみを回収するため、直径8mmの生検パンチでT-skinをくり抜き、表皮と真皮を分離して冷凍保存した。
【0039】
冷凍保存したT-skinの表皮を150μLのメタノール溶媒に入れ、Tissue Ruptorを用いてホモジナイズした。300μLのクロロホルム溶媒を加えた後、超音波を10分かけ、フィルター濾過(SLLG033NB;Merck Milipore社)した。窒素ガスでセラミド抽出溶媒を揮発させ、0.1mLのクロロホルム:メタノール(2:1)溶媒に再溶解し、測定サンプルを調製した。
【0040】
調製したサンプル5μL又は20μLをキャピラリーピペット(Ringcaps 10μL;Hirschmann社)でHPTLCプレート(Silica gel 60;Merck KGaA社)にスポットした。検量線用サンプル(860823P,860924P,860724P,860850P及び860524P;Avanti Polar Lipids社)5μLも同様にスポットした。クロロホルム:メタノール:酢酸(190:9:1)の展開溶媒で2回展開した。展開後に風乾したHPTLCプレートを10%硫酸銅/8%リン酸溶液に浸し、ホットプレート(HHP-170D;アズワン社)で180℃、10分間加熱した。カメラ(iPhone(登録商標)14;Apple社)でHPTLCを撮影し、ImageJ(National Institutes of Health)で定量解析した。定量値は同一プレート内の検量線を基に算出した。
【0041】
(5)遊離アミノ酸の含量測定
T-skinの納品から3日以内に、6ウェルプレート内で付属の液体培地による培養(37℃、5%CO2)を開始した。培養開始から24時間後、6ウェルプレートの蓋に取り付けたバネで1Nの荷重かけながら8時間マイクロニードルデバイスを適用したこと以外は、上記(2)と同様にマイクロニードルデバイスを適用した。各群n=3で試験した。8時間の適用(37℃、5%CO2)後、マイクロニードルデバイスを取り除き、T-skinの培養を続けた。マイクロニードルデバイスを皮膚から取り除いて64時間後、マイクロニードルデバイスが適用されていた直下のT-skinのみを回収するため、直径8mmの生検パンチでT-skinをくり抜き、表皮と真皮を分離して冷凍保存した。
【0042】
冷凍保存したT-skinの表皮を10mL用ねじ口試験管に移し、メタノール:超純水(8:2)を2mL添加した。内部標準液(50μmol/mL ノルバリン溶液)0.01mLを添加した。ポリトロンホモジナイザー(10,000~18,000rpm,30秒を5~6回)で皮膚線維がある程度破砕されるまでホモジナイズした。遠心分離により不溶物を取り除き、孔径0.2μmの精密ろ過フィルターでろ過して抽出液を得た。抽出液80μLをマイクロチューブに添加し、遠心濃縮器で乾固した。アミノ酸誘導体化試薬(AccQ-Tag Ultra;Waters社)に付属のホウ酸緩衝液80μLを添加し、撹拌と超音波処理によりアミノ酸を溶解した。アミノ酸誘導体化試薬20μLを添加し、直ちに撹拌し、55℃で10分間加温した。冷却後、チューブをスピンダウンし、HPLC用バイアルに移した。HPLC測定は下記条件に従って実施した。
【0043】
装置:Waters UPLC H class
カラム:Waters AccQ・Tag Ultra 1.7μm 長さ150mm×内径2mm
移動相:
A) AccQ・Tag Ultra溶離液A
B)水/AccQ・Tag Ultra溶離液B(90/10)
C)水
D)AccQ・Tag Ultra溶離液B
※A,B,C,Dのグラジエント溶出による。
流速:0.44 mL/分
カラム温度:49℃
検出器:UV(260nm)
定量計算:内部標準添加法
【0044】
(6)TEWL及び炎症性サイトカインのmRNA発現量の結果
TEWLの結果を表3に示す。炎症性サイトカインであるIL-6及びTNFαのmRNA発現レベル(コントロール群に対して標準化した数値)を表4に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
表3に示す結果から明らかなように、2N又は3Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、TEWLの増加が認められた。TEWLの増加は、マイクロニードルデバイスによる角質層の損傷を示唆する。一方、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、TEWLの増加は認められなかった。表4に示す結果から明らかなように、2Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、炎症性サイトカインのmRNA発現量の増加が認められた。炎症性サイトカインのmRNA発現量の増加は、マイクロニードルデバイスによる角質層の損傷を示唆する。一方、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、炎症性サイトカインのmRNA発現量の増加は認められなかった。
【0048】
以上の結果から、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを皮膚に適用すると、マイクロニードルデバイスは皮膚の角質層を貫通することがなく、安全性に問題がないことが確認された。
【0049】
(7)皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量の結果
皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子であるセリンパルミトイル転移酵素(SPTLC3)、フィラグリン(FLG)及びトランスグルタミナーゼ(TGM1)のmRNA発現レベル(コントロール群に対して標準化した数値)を表5に示す。
【0050】
【0051】
表5に示す結果から明らかなように、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、皮膚バリア機能の亢進に関連する遺伝子のmRNA発現量の増加が認められた。
【0052】
(8)セラミド含量の結果
セラミド含量の結果を表6に示す。総セラミドはセラミド1、セラミド2、セラミド3及びセラミド5の合計量である。
【0053】
【0054】
表6に示す結果から明らかなように、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、セラミド1、セラミド2、セラミド3及び総セラミド量の増加が認められた。
【0055】
(9)アミノ酸含量及びフィラグリン分解に関与する酵素のmRNA発現量の結果
アミノ酸含量(コントロール群に対して標準化した数値)を表7に示す。フィラグリン分解に関与する酵素であるカスパーゼ14(CASP14)及びブレオマイシン水解酵素(BLMH)のmRNA発現レベル(コントロール群に対して標準化した数値)を表8に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
表7に示す結果から明らかなように、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、ヒスチジン、フェニルアラニン及びトリプトファンの含量の増加が認められた。表8に示す結果から明らかなように、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、フィラグリン分解に関与する酵素の遺伝子のmRNA発現量の増加が認められた。フィラグリンはヒスチジンリッチなタンパク質であり、1Nの荷重でマイクロニードルデバイスを適用すると、フィラグリンが分解され、アミノ酸含量が増加し、それによって皮膚の水分保持に働く可能性が示唆された。
【0059】
また、マイクロニードルデバイスの材質をポリ乳酸に代えてポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を用いた以外は、上記(1)に記載の方法と同様にしてマイクロニードルデバイスを作製した。これらのマイクロニードルデバイスを用いて上記(2)~(9)に記載の試験を実施したところ、ポリ乳酸製のマイクロニードルデバイスと同等の結果を示した。