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特開2024-158335導電性部材とこれを用いたサーミスタ素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158335
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】導電性部材とこれを用いたサーミスタ素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/47 20060101AFI20241031BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20241031BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L29/48 F
H01C7/04
G01J1/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073462
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前川 和也
(72)【発明者】
【氏名】原 晋治
(72)【発明者】
【氏名】太田 尚城
(72)【発明者】
【氏名】青木 進
(72)【発明者】
【氏名】小久保 眞生子
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴大
【テーマコード(参考)】
2G065
4M104
5E034
【Fターム(参考)】
2G065AB03
2G065BA12
2G065BA34
2G065CA13
4M104BB29
4M104BB30
4M104BB32
4M104DD33
4M104DD34
4M104DD36
4M104DD37
4M104EE05
4M104EE14
4M104EE16
4M104EE17
4M104FF01
4M104FF13
4M104FF18
4M104GG20
4M104HH20
5E034BA09
5E034BB05
5E034BC01
5E034DA07
5E034DC05
5E034DC09
(57)【要約】
【課題】電気抵抗の低下を抑制しつつ熱伝導率を抑制することが可能な導電性部材を提供する。
【解決手段】導電性部材31は、複数の導電性窒化物層32と、導電性窒化物と金属とを含む少なくとも一つの窒化物-金属層33と、を有し、複数の導電性窒化物層32と少なくとも一つの窒化物-金属層33は交互に積層されている。窒化物-金属層33は、金属が導電性窒化物の中に分散した金属分散層33Aを含んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電性窒化物層と、
導電性窒化物と金属とを含む少なくとも一つの窒化物-金属層と、
を有し、
前記複数の導電性窒化物層と前記少なくとも一つの窒化物-金属層は交互に積層され、
前記窒化物-金属層は、前記金属が前記導電性窒化物の中に分散した金属分散層を含む導電性部材。
【請求項2】
前記少なくとも一つの窒化物-金属層の前記導電性窒化物の少なくとも一部は、各窒化物-金属層の層厚方向において、前記各窒化物-金属層の一方の面から他方の面まで連続して存在している、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記少なくとも一つの窒化物-金属層は前記金属分散層のみを含む、請求項2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記少なくとも一つの窒化物-金属層は、前記導電性窒化物が前記金属の中に分散した窒化物分散層を含み、前記窒化物分散層は前記金属分散層と前記導電性窒化物層との間に位置する、請求項2に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記金属は合金からなる、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記合金はCu、Al、Ti、W、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pd、Rh、Ir、In、Mg、Mo、Ga、Ru、Ag、Pt及びAuからなる群から選択された少なくとも2つの元素からなる、請求項5に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記導電性窒化物層は前記窒化物-金属層より層厚が大きい、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記導電性窒化物層の層厚は3nm以上100nm以下である、請求項7に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記窒化物-金属層の層厚は1nm以上10nm未満である、請求項7に記載の導電性部材。
【請求項10】
前記少なくとも一つの窒化物-金属層は複数の窒化物-金属層を含み、
前記複数の導電性窒化物層の層厚は同一であり、前記複数の窒化物-金属層の層厚は同一である、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記導電性窒化物層は、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム及び窒化ジルコニウムからなる群から選択された窒化物、窒化アルミニウムのAlの一部をTi、Ta、Cr及びZrからなる群から選択された少なくとも一つの元素で置換した窒化物または窒化ケイ素のSiの一部をGa、C及びBからなる群から選択された少なくとも一つの元素で置換した窒化物からなる、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項12】
導電性窒化物層と、前記導電性窒化物層の中に分散した金属と、を有する導電性部材。
【請求項13】
サーミスタ膜と、前記サーミスタ膜の一方の面に接触している電極層と、前記電極層に接する配線層と、を有し、
前記電極層および前記配線層の少なくとも一方は請求項1から12のいずれか1項に記載の導電性部材で形成されているサーミスタ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性部材とこれを用いたサーミスタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサなどに用いられるサーミスタ素子は、温度に応じて電気抵抗が変化するサーミスタ膜を備えている。特許文献1にはサーミスタ膜の一例が開示されている。サーミスタ膜に電極が接続され、電極はサーミスタ膜を支持するアーム部の導電パターンに接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-89431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、サーミスタ膜には一般に電極層や配線層が電気的に接続されている。電極層や配線層は導体であるため熱伝導率が高い。一方、サーミスタ膜による検知精度を高めるためにはサーミスタ膜からの放熱を抑えることが望ましく、そのためにはサーミスタ膜に接続される電極層や配線層の熱伝導率を抑えることが望ましい。この様な課題はサーミスタ素子の電極層や配線層に限らず、他の導電性部材に存在することもある。
【0005】
本開示は、電気抵抗の低下を抑制しつつ熱伝導率を抑制することが可能な導電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、導電性部材は、複数の導電性窒化物層と、導電性窒化物と金属とを含む少なくとも一つの窒化物-金属層と、を有し、複数の導電性窒化物層と少なくとも一つの窒化物-金属層は交互に積層されている。窒化物-金属層は、金属が導電性窒化物の中に分散した金属分散層を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電気抵抗の低下を抑制しつつ熱伝導率を抑制することが可能な導電性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサの概略的な分解斜視図である。
図2】サーミスタ素子の概略斜視図である。
図3図2のA-A線に沿ったサーミスタ素子の概略断面図である。
図4図3に示す導電性部材の概略断面図である。
図5図4に示す導電性部材の形成方法を示す概略断面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る導電性部材の概略断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る導電性部材の概略断面図である。
図8】実施例で用いた成膜装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下図面を参照して、本発明の導電性部材とこれを用いたサーミスタ素子の実施形態について説明する。サーミスタ素子は例えば、電磁波センサの一例である赤外線センサに用いられる。赤外線センサは主に、波長が概ね8~14μmである長波長赤外線を検知する。検出する電磁波は赤外線に限定されず、例えば波長100μm~1mmのテラヘルツ波であってもよい。
【0010】
(赤外線センサ1の構成)
図1は赤外線センサ1の概略的な部分斜視図を示している。図1では後述する第1及び第2の配線層10A,10Bの図示を省略している。赤外線センサ1は互いに対向して配置された第1の基板2及び第2の基板3と、第1の基板2と第2の基板3とを接続する側壁(図示せず)と、を有している。第1の基板2と第2の基板3と側壁とによって密閉された内部空間4が形成されている。内部空間4には複数のサーミスタ素子5が設けられている。複数のサーミスタ素子5は第2の基板3に支持され、2次元の格子状のアレイをなしている。内部空間4は負圧ないしは真空にされている。このため、内部空間4での気体の対流が防止または抑制され、サーミスタ素子5への熱的影響を軽減することができる。第1の基板2にはROIC(Readout IC)などの素子6が形成されている。第2の基板3には複数のサーミスタ素子5に電気的に接続された複数のリード7が形成されている。第2の基板3のサーミスタ素子5と対向する部位に赤外線入射部31(図3参照)が形成されている。第1の基板2と第2の基板3は複数の電気接続部材8によって接続されている。
【0011】
(サーミスタ素子5の構成)
図2はサーミスタ素子5の斜視図であり、図3図2のA-A線に沿ったサーミスタ素子5の断面図である。図3では、第1及び第2の導電性支柱9A,9Bとその上に配置される第1及び第2の配線層10A,10Bも併せて示している。便宜上、図2、3は図1と上下を逆にして示している。また、図3ではサーミスタ素子5の厚さ方向の寸法を図2より引き伸ばして表示している。サーミスタ素子5は、サーミスタ膜12を有する本体部11と、本体部11に接続された第1及び第2の配線層10A,10Bと、第1及び第2の導電性支柱9A,9Bと、を有している。第1の配線層10Aは第1の導電性支柱9Aから後述する第1の下部電極層13Aまで延びている。第2の配線層10Bは第2の導電性支柱9Bから後述する第2の下部電極層13Bまで延びている。第1及び第2の配線層10A,10Bは導電体からなり、本体部11の外側では、第1及び第2の導電性支柱9A,9Bとの接続部を除き、両面が誘電体層21で被覆されている。図1に示すように、第1の導電性支柱9Aと第2の導電性支柱9Bはそれぞれ対応するリード7に接続されている。第1及び第2の配線層10A,10Bの本体部11の外側の部分は、素子6などからの熱の影響を低減するためミアンダ形状を有しているが、形状は限定されない。
【0012】
図3を参照すると、本体部11は、サーミスタ膜12と、サーミスタ膜12の第2の基板3と対向する面に接する第1及び第2の下部電極層13A,13Bと、サーミスタ膜12の第1の基板2と対向する面に接する上部電極層14と、を有している。第1及び第2の下部電極層13A,13Bと上部電極層14は導電体からなる。第1の配線層10Aは第1の下部電極層13Aと接し、第2の配線層10Bは第2の下部電極層13Bと接している。サーミスタ膜12、第1及び第2の下部電極層13A,13B、第1及び第2の配線層10A,10Bの本体部11の部分のそれぞれの少なくとも一部は誘電体層22で覆われている。誘電体層22は窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素などで形成され、電磁波吸収体として機能する。第1の下部電極層13Aと第2の下部電極層13Bとの間にはギャップが設けられている。
【0013】
サーミスタ膜12は、例えば、酸化バナジウム、酸化チタン、非晶質シリコン、多結晶シリコン、マンガンを含むスピネル型結晶構造の酸化物、またはイットリウム-バリウム-銅酸化物の膜である。
【0014】
(赤外線センサ1の作動原理)
このように構成された赤外線センサ1は例えば以下のように作動する。第2の基板3の赤外線入射部31から入射した赤外線はサーミスタ素子5のアレイに入射する。入射した赤外線が誘電体層22やサーミスタ膜12に吸収されることによりサーミスタ膜12の温度が変化して、サーミスタ膜12の抵抗が変化する。センス電流が電気接続部材8、第1の導電性支柱9A、第1の配線層10A、本体部11、第2の配線層10B、第2の導電性支柱9B、他の電気接続部材8を順次流れる。本体部11の内部では、センス電流は第1の配線層10A、第1の下部電極層13A、サーミスタ膜12、上部電極層14、サーミスタ膜12、第2の下部電極層13B、第2の配線層10Bを順に流れる。すなわち、センス電流はサーミスタ膜12を膜厚方向に流れる。上部電極層14を省略することによってセンス電流をサーミスタ膜12の面内方向に流すこともできる。サーミスタ膜12の抵抗変化は電圧の変化として第1の基板2のROICにより取り出され、ROICはこの電圧信号を輝度温度に変換する。すべてのサーミスタ素子5が走査され、1画面分の撮像データが得られる。
【0015】
(導電性部材31の構成)
図4は導電性部材31の概念図であり、図4(a)は断面図、図4(b)は図4(a)のA部拡大図、図4(c)は図4(b)のB-B線に沿った断面図を示している。第1及び第2の配線層10A,10B、第1及び第2の下部電極層13A,13B並びに上部電極層14(以下、これらを総称して導電層という場合がある)の少なくともいずれかは以下に説明する導電性部材31で形成されている。例えば、第1及び第2の配線層10A,10B、第1及び第2の下部電極層13A,13B並びに上部電極層14の全てを導電性部材31で構成してもよいし、これらの一部(例えば、第1及び第2の配線層10A,10Bのみ、第1及び第2の下部電極層13A,13Bのみ)を導電性部材31で構成してもよい。
【0016】
ここで、導電性部材31の目的について説明する。サーミスタ膜12に入射した輻射熱エネルギーが導電層を通って放熱すると赤外線センサ1の検知精度の低下につながる。このため、導電層からの放熱を抑制することが望ましい。導電層からの放熱は導電層の熱伝導によって引き起こされる。固体中での熱伝導は原子の振動が担う。特に、金属などの導電性材料における熱伝導では、結晶格子間を伝わる振動(フォノン・格子振動)によるエネルギー伝達と、伝導電子の移動に基づくエネルギー伝達の2つの機構があると考えられている。導電性材料におけるエネルギー伝達では伝導電子の寄与が大きいので、一般に導電性材料は電気の良導体であるとともに熱の良導体でもある(ヴィーデマン=フランツ則)。従って、導電層は誘電体層21,22と比べて容積が小さいにも拘らず、熱の伝達経路として無視できない。しかし、導電層においてもフォノンを介した熱伝導の寄与が一定程度存在するため、フォノンによる熱伝導を低下させることで、導電層からの放熱を抑制することができる。
【0017】
気体分子運動論において、分子や電子などの粒子が散乱源(同じ粒子の場合もあれば、異なる粒子の場合もある)による散乱(衝突)で妨害されることなく進むことのできる距離(自由行程という)の平均値を平均自由行程という。粒子は弾道的な直線運動を行い、散乱源に衝突すると方向を変え、再び弾道的な直線運動を行う。粒子が平均自由行程に等しい距離を運動すると、平均して他の粒子と1回衝突する。フォノンにおいてもこのような考え方を取ることが可能である。フォノンが他の物質と衝突するまでの移動距離は確率的な分布を取り、その平均移動距離(平均自由行程)はフォノンの伝導のしやすさの指標となる。すなわち、フォノンによる熱伝導を低下させることはフォノンの平均自由行程を減少させることと同義である。
【0018】
導電層における電子の平均自由行程は無限媒質を前提にした値よりも小さくなる。しかし、無限媒質を前提にした電子の平均自由行程は数百nm程度であるため、導電層における電子の平均自由行程は、導電層の構造によらず、無限媒質を前提にした値からあまり小さくならない。導電層におけるフォノンの平均自由行程は無限媒質におけるフォノンの平均自由行程よりも小さくなる。そして、無限媒質を前提にしたフォノンの平均自由行程は数μmであり無限媒質を前提にした電子の平均自由行程よりも長いため、フォノンの平均自由行程は、電子の平均自由行程と比べて、導電層の構造から影響を受けやすい。従って、フォノンの平均自由行程が短くなる構造を採用することで、導電性の低下(比抵抗の増加)を抑えつつ、熱伝導性が低下した導電層を実現することができる。導電層に用いられる導電性部材31はこのような基本原理に基づき構成されており、電子の平均自由行程はあまり影響を受けず、フォノンの平均自由行程を短くすることができる。
【0019】
以下の説明において、X,Y方向を導電性部材31の面内方向、Z方向を導電性部材31の厚さ方向とする。X,Y,Z方向は互いに直交している。導電性部材31は、導電性窒化物層の中に面内方向(X-Y面)及び厚さ方向Zに分散した金属を有している。換言すれば、導電性部材31は複数の導電性窒化物層32と、少なくとも一つの(本実施形態では複数の)窒化物-金属層33と、を含んでいる。本実施形態の導電性部材31は複数の導電性窒化物層32と複数の窒化物-金属層33とからなるが、他の導電層を含んでいてもよい。複数の導電性窒化物層32と少なくとも一つの(本実施形態では複数の)窒化物-金属層33は交互に積層され、積層方向(厚さ方向Zと一致するため、以下積層方向Zという場合がある)の両端が導電性窒化物層32となっている。図4(a)には5つの導電性窒化物層32と4つの窒化物-金属層33を示しているが、導電性窒化物層32と窒化物-金属層33の数は限定されない。複数の導電性窒化物層32の層厚(Z方向寸法)は同一とすることができ、複数の窒化物-金属層33の層厚(Z方向寸法)も同一とすることができる。これによって製造工程が単純化される。
【0020】
導電性窒化物層32は例えば、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム及び窒化ジルコニウムからなる群から選択された窒化物から形成することができる。導電性窒化物層32は、例えば、窒化アルミニウムのAlの一部をTi、Ta、Cr及びZrからなる群から選択された少なくとも一つの元素で置換した窒化物から形成することもできる。窒化アルミニウムは絶縁体であるが、窒化アルミニウムに上記少なくとも一つの元素をドーパントとして混入することで導電性を持たせることができる。導電性窒化物層32は、例えば、窒化ケイ素のSiの一部をGa、C及びBからなる群から選択された少なくとも一つの元素で置換した窒化物から形成することもできる。窒化ケイ素は絶縁体であるが、窒化ケイ素に上記少なくとも一つの元素をドーパントとして混入することで導電性を持たせることができる。導電性窒化物、またはドーパントによって導電性を付与された窒化物はそれ自体が導電性部材31の導電部として機能するので、導電性部材31の比抵抗の増加を抑える点で好ましい。
【0021】
窒化物-金属層33は導電性窒化物と金属とを含む。具体的には、窒化物-金属層33は、金属が導電性窒化物の中に分散した金属分散層33Aを含む。本実施形態では、窒化物-金属層33は金属分散層33Aのみを含んでいる(金属分散層33Aのみで構成されている)。以下の説明で、窒化物-金属層33における導電性窒化物の部分を窒化物部34といい、窒化物部34の中に分散した金属の部分を金属部35という。窒化物部34は、導電性窒化物層32を構成する上記導電性窒化物のいずれかで形成するのが好ましく、製造工程の簡略化の観点からは、導電性窒化物層32を構成する導電性窒化物と同じであることがさらに好ましい。金属部35は異なる金属の多層構造であってもよい。
【0022】
金属は単一の元素からなる金属でもよいが、合金からなることが好ましい。合金の例として、Cu、Al、Ti、W、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pd、Rh、Ir、In、Mg、Mo、Ga、Ru、Ag、Pt及びAuからなる群から選択された少なくとも2つの元素からなる合金が好ましい。
【0023】
図4(c)に示すように、金属分散層33Aの厚さ方向Zにみたときに、金属分散層33Aにおいては、金属分散層33Aの厚さ方向Zと直交する任意の断面において、複数の金属部35が互いに離間して島状に分布しており、導電性窒化物(窒化物部34)は連続的に分布している。換言すれば、金属分散層33Aの厚さ方向Zにみたときに、金属分散層33Aの厚さ方向Zと直交する任意の断面において、導電性窒化物(窒化物部34)は金属部35によって複数の領域に分断されていない。また、本実施形態では金属分散層33Aは窒化物-金属層33と一致するので、各窒化物-金属層33の導電性窒化物(窒化物部34)の少なくとも一部は、各窒化物-金属層33の厚さ方向Zにおいて、各窒化物-金属層33の一方の面(隣接する一方の導電性窒化物層32との境界)から他方の面(隣接する他方の導電性窒化物層32との境界)まで連続して存在する。図4(a)では、便宜上金属分散層33Aの中に同じ長さの金属部35が均等な間隔で配列するように示されているが、金属部35の寸法、平面形状、間隔は互いに異なっていてもよく、各金属分散層33Aにおける金属部35の個数も互いに異なっていてよい。
【0024】
導電性窒化物は金属部35のバリア層としても機能する。金属が水や酸素と反応して金属酸化物(絶縁体)になると導電性部材31の比抵抗が増加し、赤外線センサ1の性能が低下し寿命も短くなることがある。本実施形態では、導電性窒化物層32が導電性部材31の積層方向Zの両端に設けられ、窒化物-金属層33の面内方向においても窒化物部34が金属部35の周囲にあるので、金属部35の酸化が生じにくい。
【0025】
このように構成された導電性部材31では、複数の導電性窒化物層32と複数の窒化物-金属層33が交互に積層されているため、導電性窒化物層32と金属部35との間に異相の境界部36が多数形成される。境界部36はフォノン散乱を促進しフォノンの平均自由行程の減少に寄与するため、導電性部材31の熱伝導率の低減が可能となる。一方、島状に分布する金属部35によって、各窒化物-金属層33の面内方向(X-Y面)においても導電性窒化物(窒化物部34)と金属部35との間に異相の境界部37が多数形成される。境界部37もフォノン散乱を促進しフォノンの平均自由行程の減少に寄与するため、導電性部材31の熱伝導率の低減が可能となる。つまり、導電性部材31は厚さ方向Zに伝搬するフォノンと面内方向(X-Y面)に伝搬するフォノンの両者に対してフォノン散乱を促進することができる。特に窒化物-金属層33の金属部35は合金とすることが好ましい。金属部35が単一の元素からなる金属部35と比べて、金属部35自体の熱伝導率が小さくなり、導電性部材31の熱伝導率を一層低減することができる。
【0026】
窒化物-金属層33の層厚H1(Z方向寸法)は1nm以上10nm未満であることが好ましい。本実施形態では窒化物-金属層33の層厚H1は金属分散層33Aの層厚に等しい。特に窒化物-金属層33の層厚H1が1nm程度であると、窒化物-金属層33が金属分散層33Aのみを含む構成を得ることが容易となる。導電性窒化物層32の層厚H2(Z方向寸法)は窒化物-金属層33の層厚H1より大きいことが好ましい。導電性窒化物層32の層厚H2は3nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm程度が特に好ましい。このような導電性部材31においては、電子の平均自由行程はフォノンの平均自由行程より大きく、例えば、フォノンの平均自由行程が10nm程度であり、電子の平均自由行程は40~50nmである。このような導電性部材31においては、電子はフォノンよりも散乱が生じにくいため、導電性の低下を抑えつつ、熱伝導性の低下を促進することができる。
【0027】
(導電性部材31の作製方法)
図5は導電性部材31の作製方法を示す概略断面図である。ここでは一組の導電性窒化物層32と窒化物-金属層33を作製するステップを示している。図5(a)に示すステップに続き図5(b)、図5(c)に示すステップを繰り返すことで導電性部材31を形成することができる。図5に示す各ステップは抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング法、イオンビームデポジション法、スパッタリング法などの物理蒸着法により行うことができる。まず、図5(a)に示すように、導電性部材31を形成する面(図示せず)の上に導電性窒化物層32を形成する。例えばサーミスタ膜12の上に導電性部材31からなる上部電極層14を作成する場合は、サーミスタ膜12の上面に導電性窒化物層32を形成する。次に、図5(b)に示すように、金属部35を形成する。後述するように成膜条件を調整することで、図4(c)に示すようなX-Y面内で互いに孤立した複数の金属部35を、導電性窒化物層32の上に導電性窒化物層32に接して形成することができる。金属部35と金属部35の間は空間38となっている。次に、図5(c)に示すように、導電性窒化物を成膜する。導電性窒化物の一部は金属部35と金属部35の間の空間38を充填し、窒化物-金属層33が形成され、さらに成膜を続けることによって、窒化物-金属層33の上に次の導電性窒化物層32が形成される。本ステップの終了後、必要に応じて導電性窒化物層32の上面を平坦化してもよい。
【0028】
(第2の実施形態)
図6は第2の実施形態における導電性部材31の構成を示す、図4(b)と同様の断面図である。窒化物-金属層33は金属分散層33Aと金属層33Bとを有している。金属分散層33Aの構成は上述の通りである。金属層33Bは金属のみからなり導電性窒化物を含んでいない。金属層33Bは金属分散層33Aより先に形成される。本実施形態においても、導電性部材31は厚さ方向Zに伝搬するフォノンと面内方向(X-Y面)に伝搬するフォノンの両者に対してフォノン散乱を促進することができる。
【0029】
(第3の実施形態)
図7(a)は第3の実施形態における導電性部材31の構成を示す、図4(b)と同様の断面図、図7(b)は図7(a)のC-C線に沿った断面図、図7(c)は図7(a)のD-D線に沿った断面図である。窒化物-金属層33は金属分散層33Aと窒化物分散層33Cとを有している。金属分散層33Aの構成は上述の通りである。窒化物分散層33Cは導電性窒化物が金属の中に分散した層で、導電性窒化物と金属の関係が金属分散層33Aと逆になっている。窒化物分散層33Cは金属分散層33Aと導電性窒化物層32との間に位置する。窒化物分散層33Cは金属分散層33Aより先に形成される。本実施形態では、各窒化物-金属層33の導電性窒化物(窒化物部34)の少なくとも一部は、各窒化物-金属層33の厚さ方向Zにおいて、各窒化物-金属層33の一方の面(隣接する一方の導電性窒化物層32との境界)から他方の面(隣接する他方の導電性窒化物層32との境界)まで連続して存在する。本実施形態においても、導電性部材31は厚さ方向Zに伝搬するフォノンと面内方向(X-Y面)に伝搬するフォノンの両者に対してフォノン散乱を促進することができる。また、窒化物分散層33Cにおける導電性窒化物(窒化物部34)と金属部35との間にも境界部39が多数形成される。境界部39も厚さ方向Zに伝搬するフォノンと面内方向(X-Y面)に伝搬するフォノンの両者に対してフォノン散乱を促進する。
【0030】
第1~第3の実施形態の導電性部材31は成膜条件を調整することで作製することができる。スパッタリング法などの物理蒸着法を用いる場合、数nm程度の薄膜を高速レートで成膜すると金属部35が島状に成長しやすく、第1の実施形態の導電性部材31が形成されやすい。また、金属が成膜される導電性窒化物層32の表面の自由エネルギーが小さい場合や金属が成膜される導電性窒化物層32の表面温度が低い場合も、金属部35が島状に成長しやすい。同様の条件で成膜時間を長くして10nm程度以上の薄膜を成膜すると、島状部分の金属部35の下側同士がつながっていくため、第2または第3の実施形態の導電性部材31が形成されやすい。導電性窒化物層32上への金属の成膜時間(後述する実施例におけるシャッター48の開放時間)を長くすると、第3の実施形態のような窒化物分散層33Cの上に金属分散層33Aが形成された構成が得られやすく、さらに成膜時間を長くすると、第2の実施形態のような金属層33Bの上に金属分散層33Aが形成された構成が得られやすい。
【0031】
(実施例)
導電性部材31の作製方法を実施例によってさらに詳細に説明する。導電性部材31は電子ビーム蒸着法を用いて作製した。図8に実施例で用いた成膜装置の概要図を示す。まず、蒸着ハース41Aに導電性窒化物の一部となるZrをセットし、蒸着ハース41Bに窒化物-金属層33の一部となるAuをセットし、蒸着ハース41Cに窒化物-金属層33の一部となるCuをセットした。真空チャンバー42内のウエハホルダー43に基板44をセットし、真空ポンプ45を用いて真空チャンバー42を8×10-5(Pa)以下に減圧した。
【0032】
次に、窒化ジルコニウム膜を成膜した。基板44の温度を90℃として、ガス供給装置46からガスノズル47を通して、真空チャンバー42に窒素ガスを流量10sccmで導入した。電子ビーム源EB1から電子ビームを所定のパワーで照射し、蒸着ハース41AにセットしたZrを加熱し、窒化ジルコニウム膜を蒸着レート0.04nm/秒で基板44に蒸着させた。蒸着レートが0.04nm/秒に達する前はシャッター48を閉めておき、蒸着レートが0.04nm/秒に達したらシャッター48を開け、その後シャッター48を125秒間開放して膜厚5nmの窒化ジルコニウム膜を成膜した。シャッター48の開放時間は窒化ジルコニウム膜の成膜時間に等しい。目的の膜厚に達したら直ちにシャッター48を閉め、電子ビーム源EB1による加熱を止め、窒素ガスの導入を停止した。
【0033】
次にAuCu合金膜を成膜した。基板44の温度を25℃として、電子ビーム源EB1から電子ビームを所定のパワーで照射し、蒸着ハース41BにセットしたAuを加熱した。これと同時に、電子ビーム源EB2から電子ビームを所定のパワーで照射し、蒸着ハース41CにセットしたCuを加熱し、Auを蒸着レート0.3nm/秒、Cuを蒸着レート0.1nm/秒で窒化ジルコニウム膜に蒸着させた。蒸着レートがこれらの値に達する前はシャッター48を閉めておき、これらの値に達したらシャッター48を開け、その後シャッター48を5秒間開放して膜厚2nmのAuCu合金膜を成膜した。シャッター48の開放時間はAuCu合金膜の成膜時間に等しい。目的の膜厚に達したら直ちにシャッター48を閉め、電子ビーム源EB1、EB2による加熱を止めた。その後、窒化ジルコニウム膜とAuCu合金膜の成膜サイクルを15回繰り返し、最後に窒化ジルコニウム膜の成膜を1回行った。この様にして、図4,5に示すような金属部35が島状に形成された導電性部材31を形成することができた。
【0034】
窒化ジルコニウム膜の成膜工程において、基板44の温度は例えば80~100℃の間から選択可能であり、窒素ガスの流量は例えば1~50sccmから選択可能であり、窒化ジルコニウム膜の蒸着レートは例えば0.03~0.05nm/秒の範囲から選択可能である。AuCu合金膜の成膜工程において、Auの蒸着レートは例えば0.1~0.5nm/秒の範囲から選択可能であり、Cuの蒸着レートは例えば0.03~0.5nm/秒の範囲から選択可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 赤外線センサ
5 サーミスタ素子
10A,10B 第1及び第2の配線層
12 サーミスタ膜
13A,13B 第1及び第2の下部電極層
14 上部電極層
31 導電性部材
32 導電性窒化物層
33 窒化物-金属層
33A 金属分散層
33B 金属層
33C 窒化物分散層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8