(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158344
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】スポット溶接方法、スポット溶接装置及び通電経路切替装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B23K11/11 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073476
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 智也
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】望月 翼
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AB03
4E165AB13
4E165BA01
4E165BA05
4E165BA08
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB13
(57)【要約】
【課題】板厚比の大きい板組みをスポット溶接により接合するにあたり、最も外側に設けられた薄板にナゲットを十分に溶け込ませる。
【解決手段】スポット溶接装置は、一対の電極4、5の極性を切り替える極性切替機構10を備える。一対の電極4、5の間に板組み20を配したときに、薄板21側に配される電極が正極、その反対側の電極が負極となるように、極性切替機構10で両電極4、5の極性を切り替える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極を備えたスポット溶接装置を用いて、厚さ方向一方側の端部に配された薄板とこれよりも厚い厚板とを重ね合わせた板組みにスポット溶接を施すための方法であって、
前記スポット溶接装置が、前記一対の電極の極性を切り替える極性切替機構を備え、
前記一対の電極の間に前記板組みを配したときに、前記薄板側に配される電極が正極、その反対側の電極が負極となるように、前記極性切替機構で前記一対の電極の極性を切り替えるスポット溶接方法。
【請求項2】
第1電極及び第2電極と、前記第1電極及び第2電極に電流を供給するトランスと、前記第1電極及び第2電極の極性を切り替える極性切替機構とを備えたスポット溶接装置であって、
前記極性切替機構が、前記トランスの正極に接続された正極側導電部材と、前記トランスの負極に接続された負極側導電部材と、前記第1電極が接続された第1可動部材と、前記第2電極が接続された第2可動部材とを備え、
前記第1可動部材が、前記正極側導電部材と前記第1電極とを通電可能に接続すると共に、前記負極側導電部材と前記第1電極との間の通電を遮断する第1電極正極位置と、前記正極側導電部材と前記第1電極との間の通電を遮断すると共に、前記負極側導電部材と前記第1電極とを通電可能に接続する第1電極負極位置との間で移動可能であり、
前記第2可動部材が、前記負極側導電部材と前記第2電極とを通電可能に接続すると共に、前記正極側導電部材と前記第2電極との間の通電を遮断する第2電極負極位置と、前記負極側導電部材と前記第2電極との間の通電を遮断すると共に、前記正極側導電部材と前記第2電極とを通電可能に接続する第2電極正極位置との間で移動可能であるスポット溶接装置。
【請求項3】
第1導電部材と、第2導電部材と、可動部材とを備え、
前記可動部材が、前記第1導電部材と通電可能に接続されると共に、前記第2導電部材との間の通電が遮断される第1の位置と、前記第1導電部材との間の通電が遮断されると共に、前記第2導電部材と通電可能に接続される第2の位置との間で移動可能である通電経路切替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法、スポット溶接装置及び通電経路切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、板厚比(=板組みの総板厚/厚さ方向一方側の表面に露出した最も薄い金属板の板厚)が大きい板組みをスポット溶接により接合する場合、最も外側の薄板にナゲットを溶け込ませることは容易ではない。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、通電開始から0.1秒以内に、ナゲットを成長させる電流を流し続けることにより、ナゲットを板厚方向に成長させて全ての金属板に溶け込ませることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の技術を用いても、最も外側の薄板にナゲットを十分に溶け込ませることができないこともあり、さらなる改善が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、板厚比の大きい板組みをスポット溶接により接合するにあたり、最も外側の薄板にナゲットを十分に溶け込ませることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの検証により、板厚比が高い板組みを一対の電極で挟持して通電するダイレクトスポット溶接で接合する際、電極の極性が溶接品質に影響を及ぼすことが明かになった。具体的に、
図7に示すように、厚さ方向一方側の表面に配された薄板101と、それよりも厚い厚板102、103とを重ねた板組みを溶接するにあたり、薄板101に負極側の電極110を接触させ厚板103に正極側の電極120を接触させた場合(
図7の左欄参照)よりも、厚板103に負極側の電極110を接触させ薄板101に正極側の電極120を接触させた場合(同右欄参照)の方が、薄板101のナゲット径が大きく、且つ、薄板101へのナゲットの溶け込み率(薄板101に溶け込んだナゲットの厚さ方向寸法/薄板101の板厚)が高かった。
【0008】
このように、板厚比が高い板組みをスポット溶接で接合する際には、薄板に正極側の電極を接触させることが好ましい。しかし、スポット溶接装置では、通常、一方の電極にトランスの正極が接続され、他方の電極にトランスの負極が接続されるため、各電極の極性は固定されている。そのため、上記のように正極側の電極を薄板側に配するために、溶接ガンを反転させる必要が生じることがあり、生産性の低下を招く。
【0009】
そこで、本発明は、一対の電極を備えたスポット溶接装置を用いて、厚さ方向一方側の端部に配された薄板とこれよりも厚い厚板とを重ね合わせた板組みにスポット溶接を施すための方法であって、
前記スポット溶接装置が、前記一対の電極の極性を切り替える極性切替機構を備え、
前記一対の電極の間に前記板組みを配したときに、前記薄板側に配される電極が正極、その反対側の電極が負極となるように、前記極性切替機構で前記一対の電極の極性を切り替えるスポット溶接方法を提供する。
【0010】
このように、電極の極性を切り替える極性切替機構を有するスポット溶接装置を使用することで、溶接ガンを反転させることなく、電極の極性を簡単に切り替えることができる。そして、必要に応じて極性切換機構で両電極の極性を切り替えて、薄板側に配される電極を正極、その反対側の電極を負極とすることにより、ナゲットを薄板に溶け込ませやすくなる。
【0011】
例えば、極性切替機構として、正極と負極を反転可能なトランスを使用することができる。しかし、正極と負極を反転可能なトランスは大型且つ高価であるため、スポット溶接装置の大型化やコスト高を招く。
【0012】
そこで、本発明は、第1電極及び第2電極と、前記第1電極及び第2電極に電流を供給するトランスと、前記第1電極及び第2電極の極性を切り替える極性切替機構とを備えたスポット溶接装置であって、
前記極性切替機構が、前記トランスの正極に接続された正極側導電部材と、前記トランスの負極に接続された負極側導電部材と、前記第1電極が接続された第1可動部材と、前記第2電極が接続された第2可動部材とを備え、
前記第1可動部材が、前記正極側導電部材と前記第1電極とを通電可能に接続すると共に、前記負極側導電部材と前記第1電極との間の通電を遮断する第1電極正極位置と、前記正極側導電部材と前記第1電極との間の通電を遮断すると共に、前記負極側導電部材と前記第1電極とを通電可能に接続する第1電極負極位置との間で移動可能であり、
前記第2可動部材が、前記負極側導電部材と前記第2電極とを通電可能に接続すると共に、前記正極側導電部材と前記第2電極との間の通電を遮断する第2電極負極位置と、前記負極側導電部材と前記第2電極との間の通電を遮断すると共に、前記正極側導電部材と前記第2電極とを通電可能に接続する第2電極正極位置との間で移動可能であるスポット溶接装置を提供する。
【0013】
このスポット溶接装置では、例えば、第1可動部材を第1電極正極位置に配すると共に、第2可動部材を第2電極負極位置に配することで、第1電極が正極側、第2電極が負極側となる。一方、第1可動部材を第1電極負極位置に配すると共に、第2可動部材を第2電極正極位置に配することで、第1電極が負極側、第2電極が正極側となる。このように、第1可動部材及び第2可動部材を移動させるだけで、第1電極及び第2電極の極性を簡単に切り替えることができる。
【0014】
上記の技術は、電極の極性切替に限らず、通電経路を切り替える際に応用することができる。すなわち、本発明は、第1導電部材と、第2導電部材と、可動部材とを備え、
前記可動部材が、前記第1導電部材と通電可能に接続されると共に、前記第2導電部材との間の通電が遮断される第1の位置と、前記第1導電部材との間の通電が遮断されると共に、前記第2導電部材と通電可能に接続される第2の位置との間で移動可能である通電経路切替装置としても特徴づけることができる。
【0015】
この場合、可動部材を第1の位置に配することで、第1導電部材を通り第2導電部材を通らない通電経路を形成することができる。一方、可動部材を第2の位置に配することで、第2導電部材を通り第1導電部材を通らない通電経路を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、板厚比の大きい板組みをスポット溶接により接合するにあたり、最も外側の薄板にナゲットを十分に溶け込ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置の側面図である。
【
図2】上記スポット溶接装置に設けられた切替機構の正面図であり、第1電極を正極側、第2電極を負極側とした状態を示す。
【
図3】上記切替機構のシャフトと導電部材との摺動部の断面図である。
【
図4】上記切替機構の正面図であり、第1電極を負極側、第2電極を正極側とした状態を示す。
【
図5】本発明に係る通電経路変更装置を有する溶接設備の側面図であり、一方のアース電極を介した通電経路を形成した状態を示す。
【
図6】上記溶接設備の側面図であり、他方のアース電極を介した通電経路を形成した状態を示す。
【
図7】左欄は、板組みの薄板側の電極を負極とした場合の溶接試験結果を示す図及び写真であり、右欄は、板組みの薄板側の電極を正極とした場合の溶接試験結果を示す図及び写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置としての溶接ロボットは、
図1に示すように、ロボットアーム1と、ロボットアーム1の先端に取り付けられた溶接ガン2とを備える。ロボットアーム1は多関節アームであり、溶接ガン2は、ロボットアーム1の可動範囲内で任意の三次元位置に任意の姿勢で配される。
【0020】
溶接ガン2は、C形のアーム3を有するいわゆるC形ガンである。具体的に、溶接ガン2は、第1電極4と、第2電極5と、電極加圧手段としてのシリンダ6(例えば、エアシリンダや電動シリンダ)と、C形のアーム3と、トランス7と、極性切替機構10とを備える。本実施形態のスポット溶接装置は、第1電極4と第2電極5が同軸に配され、これらで板組みを厚さ方向両側から挟持して溶接を行うダイレクトスポット溶接装置である。尚、以下では、説明の便宜上、電極4、5の軸心方向で、第1電極4側を上側、第2電極5側を下側と言う。
【0021】
シリンダ6の本体はアーム3に固定され、シリンダ6のロッドに第1電極4が固定されている。第2電極5はアーム3に固定されている。シリンダ6のロッドを伸長させて第1電極4を下降させることで、両電極4、5の間に配した板組みを厚さ方向両側から挟持することができる。
【0022】
トランス7は、外部電源から供給された電流を増大させるものであり、アーム3に固定される。トランス7の正極7aおよび負極7bは、極性切替機構10を介して両電極4、5に接続される(詳細は後述する。)。
【0023】
極性切替機構10は、トランス7と両電極4、5との間の通電経路を変更することで、両電極4、5の極性(正極及び負極)を切り替えるものである。極性切替機構10は、
図2に示すように、第1導電部材としての正極側導電部材11と、第2導電部材としての負極側導電部材12と、第1可動部材としての第1シャフト13と、第2可動部材としての第2シャフト14と、第1シャフト13を駆動する第1シリンダ15と、第2シャフト14を駆動する第2シリンダ16とを備える。シリンダ15、16としては、例えばエアシリンダや電動シリンダ等を使用できる。
【0024】
正極側導電部材11及び負極側導電部材12は、導体、特に金属、例えば銅で形成される。正極側導電部材11はトランス7の正極7aと電気的に接続され、負極側導電部材12はトランス7の負極7bと電気的に接続される。正極側導電部材11及び負極側導電部材12は、アーム3に固定されている。
【0025】
第1シャフト13及び第2シャフト14は、導電部13a、14a及び絶縁部13b、14bを有する。図示例では、導電部13a、14aが、導体、特に金属、例えば銅で形成されたシャフト状を成している。絶縁部13b、14bは、シャフト状の導電部13a、14aの表面の軸方向一部領域に設けられ、導電部13a、14aよりも抵抗が高い絶縁材料(例えば樹脂)からなる被膜で形成される。図示例では、絶縁部13b、14bが、導電部13a、14aの外周面のうち、軸方向に離間した2箇所に設けられ、図示例では軸方向両端付近に設けられる。図示例では、各絶縁部13b、14bが導電部13a、14aの全周に設けられる。
【0026】
第1シャフト13の導電部13aには、第1電極4が通電可能に接続される。第2シャフト14の導電部14aには、第2電極5が通電可能に接続される。第1シャフト13と第1電極4、及び、第2シャフト14と第2電極5とは、それぞれ導電材料(例えば銅)からなる可撓性のシャント(図示省略)を介して接続されている。第1シャフト13及び第2シャフト14が駆動された場合、これらが第1電極4及び第2電極5に対して相対移動するが、この場合でも、シャントを介して、第1シャフト13と第1電極4、及び、第2シャフト14と第2電極5との間の通電可能な接続状態が維持される。
【0027】
本実施形態では、
図3に示すように、第1シャフト13及び第2シャフト14が、給電部材17を介して、正極側導電部材11及び負極側導電部材12に接触している。給電部材17は、導電材料、特に金属、例えば銅で形成される。本実施形態では、給電部材17が、シャフト13、14の半径方向に弾性変形可能であり、例えば、円環状のコイルスプリングで構成される。図示例では、正極側導電部材11及び負極側導電部材12に設けられた貫通孔に第1シャフト13及び第2シャフト14が挿入され、導電部材11、12の内周面とシャフト13、14の外周面との間に、給電部材17が半径方向に圧縮された状態で配される。これにより、給電部材17が、自身の弾性力により、導電部材11、12の内周面とシャフト13、14の外周面とに押し付けられる。給電部材17の上下両側には、絶縁材料(例えば樹脂)からなる円盤状の滑り軸受18が設けられる。滑り軸受18の内周面は、シャフト13、14の外周面と微小な半径方向隙間を介して対向し、シャフト13、14の外周面を摺動支持する。一対の滑り軸受18により、給電部材17が軸方向で位置決めされる。
【0028】
第1シャフト13及び第2シャフト14は、軸方向に往復動可能とされる。第1シャフト13は第1シリンダ15により軸方向に駆動され、第2シャフト14は第2シリンダ16により軸方向に駆動される。本実施形態では、第1シャフト13及び第2シャフト14が、導電部材11、12の内周面に設けられた給電部材17と摺動しながら、往復動可能とされる。
【0029】
図2に示す状態では、第1シャフト13が上端位置(第1電極正極位置)に配されている。このとき、第1シャフト13の上側の絶縁部13bは、正極側導電部材11よりも上方に配され、第1シャフト13の導電部13aと正極側導電部材11とが給電部材17を介して通電可能に接続されている。これにより、トランス7の正極7a、正極側導電部材11、給電部材17、第1シャフト13の導電部13a、及び第1電極4という通電経路A1が形成され、第1電極4が正極側となる。一方、第1シャフト13の下側の絶縁部13bは、負極側導電部材12の内周に配されている。このとき、負極側導電部材12の内周に設けられた給電部材17が、第1シャフト13の絶縁部13bに押し付けられているため、負極側導電部材12と第1シャフト13の導電部13aとの間の通電は遮断されている。
【0030】
一方、
図4に示す状態では、第1シャフト13が下端位置(第1電極負極位置)に配されている。この状態で、第1シャフト13の上側の絶縁部13bは、正極側導電部材11の内周に配されている。このとき、正極側導電部材11の内周に設けられた給電部材17が、第1シャフト13の絶縁部13bに押し付けられているため、正極側導電部材11と第1シャフト13の導電部13aとの間の通電は遮断されている。一方、第1シャフト13の下側の絶縁部13bは負極側導電部材12よりも下方に配され、第1シャフト13の導電部13aと負極側導電部材12とが給電部材17を介して通電可能に接続されている。これにより、トランス7の負極7b、負極側導電部材12、給電部材17、第1シャフト13の導電部13a、及び第1電極4という通電経路A2が形成され、第1電極4が負極側となる。
【0031】
第1シリンダ15により第1シャフト13を軸方向に移動させて、
図2に示す上端位置(第1電極正極位置)あるいは
図4に示す下端位置(第1電極負極位置)に配することで、第1電極4の極性を切り替えることができる。
【0032】
また、
図2に示す状態では、第2シャフト14が下端位置(第2電極負極位置)に配されている。この状態では、第2シャフト14の上側の絶縁部14bは、正極側導電部材11の内周に配されている。このとき、正極側導電部材11の内周に設けられた給電部材17が、第2シャフト14の絶縁部14bに押し付けられているため、正極側導電部材11と第2シャフト14の導電部14aとの間の通電は遮断されている。一方、第2シャフト14の下側の絶縁部14bは、負極側導電部材12よりも下方に配され、第2シャフト14の導電部14aと負極側導電部材12とが給電部材17を介して通電可能に接続されている。これにより、トランス7の負極7b、負極側導電部材12、給電部材17、第2シャフト14の導電部14a、及び第2電極5という通電経路B1が形成され、第2電極5が負極となる。
【0033】
一方、
図4に示す状態では、第2シャフト14が上端位置(第2電極正極位置)に配されている。このとき、第2シャフト14の上側の絶縁部14bは、正極側導電部材11よりも上方に配され、第2シャフト14の導電部14aと正極側導電部材11とが給電部材17を介して通電可能に接続されている。これにより、トランス7の正極7a、正極側導電部材11、給電部材17、第2シャフト14の導電部14a、及び第2電極5という通電経路B2が形成され、第2電極5が正極となる。一方、第2シャフト14の下側の絶縁部14bは、負極側導電部材12の内周に配されている。このとき、負極側導電部材12の内周に設けられた給電部材17が、第2シャフト14の絶縁部14bに押し付けられているため、負極側導電部材12と第2シャフト14の導電部14aとの間の通電は遮断されている。
【0034】
以上のように、第2シリンダ16により、第2シャフト14を軸方向に移動させて、
図2に示す下端位置(第2電極負極位置)あるいは
図4に示す上端位置(第2電極正極位置)に配することで、第2電極5の極性を切り替えることができる。
【0035】
図2に示すように、薄板21と、厚板22、23とを重ね合わせた板組み20を溶接する際には、ロボットアーム1で溶接ガン2を移動させて、電極4、5間に板組み20の接合予定部を配置する。例えば、溶接ガン2を最適なルート(溶接ガン2とワークとが干渉しない最短のルート)で移動させたときに、板組み20の薄板21が第1電極4側に配される場合は、
図2に示すように、第1シャフト13を上端位置(第1電極正極位置)に配すると共に、第2シャフト14を下端位置(第2電極負極位置)に配する。これにより、薄板21に接触する第1電極4が正極となり、厚板23側に接触する第2電極5が負極となる。この状態で、電極4、5で板組み20の接合予定部を厚さ方向両側から加圧して、トランス7を介して電極4、5間に通電することで、接合予定部にナゲットが形成されて板組み20が接合される。
【0036】
一方、溶接ガン2を最適なルートで移動させたときに、板組み20の薄板21が第2電極5側に配される場合は、
図4に示すように、第1シャフト13を下端位置(第1電極負極位置)に配すると共に、第2シャフト14を上端位置(第2電極正極位置)に配する。これにより、薄板21側に正極の第2電極5が配され、その反対側に負極の第1電極4が配される。この状態で、電極4、5で板組み20の接合予定部を厚さ方向両側から加圧して、トランス7を介して電極4、5間に通電することで、接合予定部にナゲットが形成されて板組み20が接合される。
【0037】
以上のように、本実施形態では、接合予定部の板組みに応じて、極性切替機構10により電極4、5の極性を適宜切り替えることにより、板組みの薄板側に配される電極を正極、その反対側の電極を負極とする。そして、薄板に正極側の電極を接触させ、その反対側に配された厚板に負極側の電極を接触させた状態で通電することで、ナゲットを薄板に十分に溶け込ませることができるため、溶接品質を高めることができる。
【0038】
また、上記のスポット溶接装置では、第1シャフト13及び第2シャフト14を移動させるだけで、電極4、5の極性を簡単に切り替えることができる。これにより、溶接ガン2を反転させる必要がないため生産性の低下を回避できる。また、大型且つ高価な極性切替可能なトランスが不要であるため、スポット溶接装置の大型化及びコスト高を回避できる。
【0039】
以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0040】
上記の実施形態では、電極4、5の極性を切り替える際、シャフト13、14を互いに反対向きに駆動する場合を示したが、絶縁部14bの位置等を工夫することで、シャフト13、14を同じ向きに駆動して電極4、5の極性を切り替えることも可能である。この場合、シャフト13、14を1個の駆動手段(シリンダ)で駆動することができる。
【0041】
また、上記の実施形態では、シャフト13、14に絶縁部13b、14bを設けることで、導電部13a、14aと導電部材11、12との間の通電を遮断する場合を示したが、これに限られない。例えば、シャフト13、14を、導電部13a、14aと導電部材11、12とが非接触となる位置に配することで、これらの間の通電を遮断することができる。この場合、シャフト13、14の絶縁部13b、14bを省略できる。
【0042】
図5に、本発明をインダイレクトスポット溶接の通電経路の切替に適用した場合を示す。
図5に示す溶接設備は、ワーク50に設けられた複数の接合予定部P1、P2にインダイレクトスポット溶接を施すものである。各接合予定部P1、P2は、複数の金属板の重合部に設けられる。この溶接設備は、第1溶接ロボット31及び第2溶接ロボット32と、本発明に係る通電経路切替装置40とを有する。
【0043】
溶接ロボット31、32は、それぞれロボットアーム35と、その先端に設けられた溶接電極36とを有する。
【0044】
通電経路切替装置40は、可動部材としてのシャフト41と、第1導電部材としての第1アース電極42と、第2導電部材としての第2アース電極43と、シャフト41を軸方向(図中左右方向)に移動させる図示しない駆動手段とを有する。アース電極42、43は、ワーク50のうち、接合予定部P1、P2とは異なる部位で、互いに離間した部位に接触している。シャフト41は、導電部41aと、絶縁部41bとを有する。図示例では、導電部41aが、導体、特に金属、例えば銅で形成されたシャフト状を成している。絶縁部41bは、シャフト状の導電部41aの表面の軸方向一部領域に設けられ、導電部41aよりも抵抗の大きい絶縁材料(例えば樹脂)からなる被膜で形成される。図示例では、絶縁部41bが、導電部41aの外周面のうち、軸方向に離間した2箇所に設けられる。絶縁部41bは、導電部41aの外周面のうち、アース電極42、43と接触し得る周方向領域に設けられ、図示例では導電部41aの全周に設けられる。駆動手段は、例えばエアシリンダや電動シリンダ等で構成される。
【0045】
図5に示す状態では、シャフト41が軸方向一方側(図中左側)の端部に配されている。このとき、シャフト41の右側の絶縁部41bが、第1アース電極42よりも左側に配され、第1アース電極42とシャフト41の導電部41aとが通電可能に接続される。これにより、第1溶接ロボット31の溶接電極36、ワーク50、第1アース電極42、シャフト41の導電部41aという通電経路C1が形成される。一方、第2アース電極43は、シャフト41の絶縁部41bに接触しているため、シャフト41の導電部41aとの間の通電が遮断されている。従って、第2アース電極43を介した通電経路は形成されない。以上の状態で、上記の通電経路C1に電流を供給することで、ワーク50のうち、第1溶接ロボット31の溶接電極36で押圧された部位に溶接が施される。
【0046】
一方、
図6に示す状態では、シャフト41が軸方向他方側(図中右側)の端部に配されている。このとき、シャフト41の左側の絶縁部41bが、第2アース電極43よりも右側に配され、第2アース電極43とシャフト41の導電部41aとが通電可能に接続されている。これにより、第2溶接ロボット32の溶接電極36、ワーク50、第2アース電極43、シャフト41の導電部41aという通電経路C2が形成される。一方、第1アース電極42は、シャフト41の絶縁部41bに接触しているため、シャフト41の導電部41aとの間の通電が遮断されている。従って、第1アース電極42を介した通電経路は形成されない。以上の状態で、上記の通電経路C2に電流を供給することで、ワーク50のうち、第2溶接ロボット32の溶接電極36で押圧された部位に溶接が施される。
【0047】
ワークの複数箇所にインダイレクトスポット溶接を施す場合、通常、アース電極をワークの一箇所に接触させた状態で、ワーク50の複数の接合予定部に溶接電極を順次接触させて通電することで、ワーク50の複数箇所が順次溶接される。例えば、通電経路が適切でなく、良好なナゲットが形成されない場合には、アース電極を移動させて通電経路を変更する必要が生じることがあるが、アース電極を移動させるには手間がかかる。そこで、上記の溶接設備では、シャフト14を軸方向に移動させて、
図5に示す位置(第1の位置)あるいは
図6に示す位置(第2の位置)に配することで、第1アース電極42及び第2アース電極43の何れを使用するかを切り替えることができ、溶接部位に応じた通電経路を容易に設定することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ロボットアーム
2 溶接ガン
3 アーム
4 第1電極
5 第2電極
6 シリンダ
7 トランス
7a 正極
7b 負極
10 極性切替機構
11 正極側導電部材(第1導電部材)
12 負極側導電部材(第2導電部材)
13 第1シャフト(第1可動部材)
13a 導電部
13b 絶縁部
14 第2シャフト(第2可動部材)
14a 導電部
14b 絶縁部
15 第1シリンダ
16 第2シリンダ
20 板組み
21 薄板
22、23 厚板