IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パワーウェーブの特許一覧

<>
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図1
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図2
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図3
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図4
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図5
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図6
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図7
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図8
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図9
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図10
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図11
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図12
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図13
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図14
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図15
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図16
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図17
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図18
  • 特開-送電装置及び非接触給電システム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158356
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】送電装置及び非接触給電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/40 20160101AFI20241031BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20241031BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H02J50/40
H02J50/10
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073501
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】521487580
【氏名又は名称】株式会社パワーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100174757
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
【テーマコード(参考)】
5G503
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA04
5G503BB01
5G503CC08
5G503FA06
5G503GB08
(57)【要約】
【課題】高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができる送電装置及び非接触給電システムを提供すること。
【解決手段】送電装置10は、高周波電源11と、複数の送電部17a~17cと、分配回路12と、伝送線路16a~16cと、を有する。送電部17a~17cは、電動モビリティ2に設けられた受電部21a~21cのいずれかとワイヤレス結合器を形成することで、その受電部21a~21cに対して電力を送信する。分配回路12は、高周波電源11より出力される高周波電力を、複数の送電部17a~17cのそれぞれに分配する。伝送線路16a~16cは、分配回路12により分配される電力を対応する送電部17a~17cへ伝送する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するための受電部を有して前記移動体に設けられた受電装置に対し、非接触にて電力を送信する送電装置であって、
高周波電源と、
前記受電部とワイヤレス結合器を形成することでその受電部に対して電力を送信する送電部であって、それぞれが同時に同一の前記受電装置に対して前記電力を送信するものではない複数の送電部と、
前記高周波電源より出力される高周波電力を、前記複数の送電部のそれぞれに分配するための分配回路と、
前記複数の送電部のそれぞれに対応して設けられ、前記分配回路により分配される電力を対応する前記送電部へ伝送する伝送線路と、を備えることを特徴とする送電装置。
【請求項2】
前記複数の送電部のそれぞれに対応して、リアクタンスのずれを補償する補償回路を備えることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項3】
前記補償回路は、
対応する前記送電部に接続される前記伝送線路におけるリアクタンスのずれを補償する伝送線路用補償回路と、
対応する前記送電部により形成され得る前記ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償する結合器用補償回路と、を備え、
少なくとも前記伝送線路用補償回路は、前記分配回路と同一の筐体内に設けられることを特徴とする請求項2記載の送電装置。
【請求項4】
前記結合器用補償回路は、
前記送電部側に設けられる結合器用一次側補償回路と、前記受電部側に設けられる結合器用二次側補償回路とによって、前記ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償するものであり、
前記結合器用一次側補償回路は、前記伝送線路用補償回路より前記高周波電源側に配置され且つ前記分配回路と同一の筐体内に設けられることを特徴とする請求項3記載の送電装置。
【請求項5】
前記伝送線路用補償回路は、
前記伝送線路と前記伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成され、
前記結合器用補償回路は、
前記ワイヤレス結合器と前記結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成されることを特徴とする請求項3記載の送電装置。
【請求項6】
前記伝送線路は、同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成されることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項7】
前記分配回路は、
前記複数の送電部のそれぞれに接続される前記伝送線路のそれぞれに対応して、対応する前記伝送線路へ送電を行い、また、その送電を停止するためのスイッチを備え、
前記送電装置は、
対応する送電部による電力の送信を行うか否かに基づいて、それぞれのスイッチを制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項8】
前記高周波電源と、前記分配回路とは、同一の筐体内に設けられることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項9】
移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するための受電部を有して前記移動体に設けられた受電装置と、
請求項1から8のいずれかに記載の送電装置と、を備える非接触給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に給電する電力を受信するための受電部を有する受電装置に対して非接触にて電力を送信する送電装置と、その送電装置を備えた非接触給電システムとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や、無人で自動的に活動する電動モビリティが注目され、種々の研究開発がなされている。このような電気自動車及び電動モビリティを普及させるために、搭載されるバッテリのコストや重量、給電時間の長さ、リサイクルの難度、人的コストの増加等が課題となっている。このような課題を解決するための方法の1つとして、無人かつ非接触(ワイヤレス)で給電する技術が検討されている。
【0003】
このような非接触による給電方式として、例えば磁界結合方式や電界結合方式等がある。磁界結合方式は、送電コイルと受電コイルとの間に形成される磁界の結びつきによって電力が磁界エネルギーとして空間を伝わることで、非接触で電力を伝送する(例えば、特許文献1参照)。電界結合方式は、送電電極と受電電極との間に形成されるコンデンサによって電力が電界エネルギーとして空間を伝わることで、非接触で電力を伝送する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5624109号公報
【特許文献2】特許第6761962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気自動車及び電動モビリティといった移動体に対し非接触による給電(非接触給電)を行う状態として、給電スポットに停車した移動体に給電する停車中給電と、稼働(走行)中の移動体に対して給電する走行中給電との2状態が考えられる。
【0006】
非接触給電システムでは、電力を非接触で送電する送電部(送電コイル又は送電電極)の付近に高周波電源を置くレイアウトが一般的である。しかしながら、複数の移動体に対して同時に停車中給電を行いたい場合、給電スポットを複数設ける必要があり、それぞれの給電スポットに対して設けられる高周波電源の設置に多くのスペースが必要となる。これにより、例えば工場内で複数の電動モビリティに対し停車中給電を行う場合、高周波電源の設置が作業スペースを圧迫するという問題点があった。また、駐車場等に停車(又は駐車)する電気自動車に停車中給電を行う場合も、高周波電源の設置が駐車スペースを圧迫したり、駐車可能台数の減少を招いたりするという問題点があった。
【0007】
また、走行中給電の場合、予め決められたルートに沿って送電部を埋設する必要がある。しかしながら、この場合、高周波電源の設置位置との関係によっては移動体が通らない、又は、通る割合の少ない場所にも送電部を埋設する必要があるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができる送電装置及び非接触給電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明の第1の態様に係る送電装置は、移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するための受電部を有して前記移動体に設けられた受電装置に対し、非接触にて電力を送信するものであって、高周波電源と、前記受電部とワイヤレス結合器を形成することでその受電部に対して電力を送信する送電部であって、それぞれが同時に同一の前記受電装置に対して前記電力を送信するものではない複数の送電部と、前記高周波電源より出力される高周波電力を、前記複数の送電部のそれぞれに分配するための分配回路と、前記複数の送電部のそれぞれに対応して設けられ、前記分配回路により分配される電力を対応する前記送電部へ伝送する伝送線路と、を備える。
【0010】
本発明の第2の態様に係る送電装置は、第1の態様に係る送電装置において、前記複数の送電部のそれぞれに対応して、リアクタンスのずれを補償する補償回路を備える。
【0011】
本発明の第3の態様に係る送電装置は、第2の態様に係る送電装置において、前記補償回路は、対応する前記送電部に接続される前記伝送線路におけるリアクタンスのずれを補償する伝送線路用補償回路と、対応する前記送電部により形成され得る前記ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償する結合器用補償回路と、を備え、少なくとも前記伝送線路用補償回路は、前記分配回路と同一の筐体内に設けられる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る送電装置は、第3の態様に係る送電装置において、前記結合器用補償回路は、前記送電部側に設けられる結合器用一次側補償回路と、前記受電部側に設けられる結合器用二次側補償回路とによって、前記ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償するものであり、前記結合器用一次側補償回路は、前記伝送線路用補償回路より前記高周波電源側に配置され且つ前記分配回路と同一の筐体内に設けられる。
【0013】
本発明の第5の態様に係る送電装置は、第3又は第4の態様に係る送電装置において、前記伝送線路用補償回路は、前記伝送線路と前記伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成され、前記結合器用補償回路は、前記ワイヤレス結合器と前記結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。
【0014】
本発明の第6の態様に係る送電装置は、第1から第5のいずれかの態様に係る送電装置において、前記伝送線路は、同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成される。
【0015】
本発明の第7の態様に係る送電装置は、第1から第6のいずれかの態様に係る送電装置において、前記分配回路は、前記複数の送電部のそれぞれに接続される前記伝送線路のそれぞれに対応して、対応する前記伝送線路へ送電を行い、また、その送電を停止するためのスイッチを備え、前記送電装置は、対応する送電部による電力の送信を行うか否かに基づいて、それぞれのスイッチを制御する制御部を備える。
【0016】
本発明の第8の態様に係る送電装置は、第1から第7のいずれかの態様に係る送電装置において、前記高周波電源と、前記分配回路とは、同一の筐体内に設けられる。
【0017】
本発明の第9の態様に係る非接触給電システムは、負荷に給電する電力を受信するための受電部を有する受電装置と、第1から第8のいずれかの態様に係る送電装置と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様に係る送電装置によれば、移動体に設けられた受電装置の受電部とワイヤレス結合器を形成する送電部に対し、高周波電源から高周波電力が供給され、その送電部からワイヤレス結合器を形成する受電部へ非接触にて電力が送信される。その受電部にて受信した電力が移動体に設けられた負荷に給電される。ここで、送電装置は、それぞれが同時に同一の前記受電装置に対して前記電力を送信するものではない複数の送電部を有している。高周波電源から出力される高周波電力は、分配回路によって、複数の送電部のそれぞれに分配される。そして、分配された電力は、複数の送電部のそれぞれに対応して設けられた各伝送線路によって、対応する送電部に伝送される。このように、分配回路を設けることで、1つの高周波電源から複数の送電部に対して電力を分配できる。また、高周波電源とそれぞれの送電部との距離が離れていたり、また、その距離が区区であったりしても、それぞれの送電部に対応する伝送線路によって、分配回路により分配された電力を伝送できる。よって、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができるという効果がある。
【0019】
本発明の第2の態様に係る送電装置によれば、第1の態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、複数の送電部のそれぞれに対応して設けられた補償回路によって、それぞれの送電部におけるリアクタンスのずれが補償される。これにより、それぞれの送電部が、それぞれの事情に合わせた形状で構成され、また、それぞれの事情に合わせた位置に設置されたとしても、補償回路によって高周波電源から負荷側を見た入力インピーダンスの虚部を略ゼロにし、安定して非接触給電を行うことができる。よって、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができるという効果がある。
【0020】
本発明の第3の態様に係る送電装置によれば、第2の態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。補償回路は、伝送線路用補償回路と結合器用補償回路とを有しており、伝送線路用補償回路によって、対応する送電部に接続される伝送線路におけるリアクタンスのずれが補償され、結合器用補償回路によって、対応する送電部により形成され得るワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれが補償される。これにより、それぞれの送電部に対応して設けられる補償回路を、伝送線路用補償回路と結合器用補償回路とに分けて容易に設計できるという効果がある。また、少なくとも伝送線路用補償回路が分配回路と同一の筐体内に設けられるので、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができると共に、送電装置が設けられるエリアにおける当該送電装置の省スペース化を図ることができるという効果がある。
【0021】
本発明の第4の態様に係る送電装置によれば、第3の態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、結合器用補償回路は、送電部側に設けられる結合器用一次側補償回路と、受電部側に設けられる結合器用二次側補償回路とによって、ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償するように構成される。そして、結合器用一次側補償回路は、伝送線路用補償回路より高周波電源側に配置され、その伝送線路用補償回路と併せて分配回路と同一の筐体内に設けられる。これにより、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度をより向上させることができると共に、送電装置が設けられるエリアにおける当該送電装置の省スペース化をより図ることができるという効果がある。
【0022】
本発明の第5の態様に係る送電装置によれば、第3又は第4の態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、伝送線路と伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように伝送線路用補償回路が構成され、ワイヤレス結合器と結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように結合器用補償回路が構成される。ここで、前段に変成器又はジャイレータを設け、後段にも変成器又はジャイレータを設けて、これらを縦続接続した場合、1つの変成器又はジャイレータの特性となる。そこで、伝送線路用補償及び結合器用補償回路を上記のような構成とすることで、高周波電源から給電対象となる負荷をそれぞれ見た場合に、1つの変成器又はジャイレータを介して負荷が接続されたものと見なすことができる。よって、高周波電源からそれぞれの負荷を見た入力インピーダンスの虚部が略ゼロとなるので、高周波電源から負荷に対して安定して効率よく給電できる。そして、伝送線路と伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように伝送線路用補償回路を設計し、ワイヤレス結合器と結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように結合器用補償回路を設計することで、高周波電源から負荷に対して安定して効率よく給電できる補償回路を容易に実現できるという効果がある。
【0023】
本発明の第6の態様に係る送電装置によれば、第1から第5のいずれかの態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、伝送線路が同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成されるので、伝送線路を壁や地面に容易に這わせることができる。これにより、高周波電源に対する送電部の設置位置が任意の位置であっても、同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成された伝送線路によって、分配回路と送電部とを容易に接続できる。よって、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度を更に高めることができるという効果がある。
【0024】
本発明の第7の態様に係る送電装置によれば、第1から第6のいずれかの態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、分配回路には、複数の送電部のそれぞれに接続される伝送線路のそれぞれに対応して、対応する伝送線路へ送電を行い、また、その送電を停止するためのスイッチが設けられており、対応する送電部による電力の送信を行うか否かに基づいて、それぞれのスイッチが制御部により制御される。これにより、電力の送信を行わない(例えば、ワイヤレス結合器が構成されてない)送電部に接続される伝送線路に対して送電を停止するようにスイッチを制御することで、そのような状態にある送電部に対して電力が供給されることを抑制できる。よって、無駄に電力が消費されることを抑制でき、また、送電部から不要な電磁波が漏洩することを抑制できる。従って、省エネルギー化を図ることができ、また、安全性を確保できるという効果がある。
【0025】
本発明の第8の態様に係る送電装置によれば、第1から第7のいずれかの態様に係る送電装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、高周波電源と、分配回路とが、同一の筐体内に設けられるので、高周波電源と送電部とのレイアウトの自由度をより向上させることができると共に、送電装置が設けられるエリアにおける当該送電装置の省スペース化をより図ることができるという効果がある。
【0026】
本発明の第9の態様に係る非接触給電システムによれば、第1から第8のいずれかの態様に係る送電装置が設けられ、その送電装置の送電部から送信される電力が非接触にて、移動体に設けられた受電装置にて受信される。そして、受電装置によって、受信した電力が、その移動体に設けられた負荷に対して給電される。これにより、対応する送電装置と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施の形態に係る送電装置及び非接触給電システムの概略構成を示す概略構成図である。
図2】同非接触給電システムの回路構成の一例を概略的に示した回路図である。
図3】同非接触給電システムの回路構成の別の例を概略的に示した回路図である。
図4】(a)は、同非接触給電システムに設けられる伝送線路用補償回路と結合器用補償回路とを説明するための図であり、(b)は、変成器及びジャイレータの特性を説明するための図である。
図5】変成器を2段縦続接続した場合、ジャイレータを2段縦続接続した場合、変成器とジャイレータとを縦続接続した場合、ジャイレータと変成器とを縦続接続した場合の特性を示した図である。
図6】伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つの変成器として見なされる場合において、(a)は、高周波電源が定電圧源である場合の分配回路の例を示した回路図であり、(b)は、高周波電源が定電流源である場合の分配回路の例を示した回路図である。
図7】伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つのジャイレータとして見なされる場合において、(a)は、高周波電源が定電圧源である場合の分配回路の例を示した回路図であり、(b)は、高周波電源が定電流源である場合の分配回路の例を示した回路図である。
図8】(a)は、伝送線路用補償回路の回路構成をT型回路として実現する場合の回路構成図であり、(b)は、伝送線路用補償回路の回路構成をπ型回路として実現する場合の回路構成図であり、(c)は、伝送線路用補償回路と伝送線路との組み合わせによる回路特性を変成器とした場合とジャイレータとした場合とのそれぞれについて、伝送線路用補償回路をT型回路として構成した場合とπ型回路として構成した場合の各素子のリアクタンスの計算式を示した図である。
図9】ワイヤレス結合器が電界結合方式により構成される場合の、結合器用補償回路が取り得る接続方式と、各接続方式の結合器用補償回路及びワイヤレス結合器のトポロジと、各接続方式に対する結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路のリアクタンスの計算式と、各接続方式において結合器用補償回路及びワイヤレス結合器より得られる回路特性及びその変成比又はジャイレーションレジスタンスの計算式を示した図である。
図10】ワイヤレス結合器が磁界結合方式により構成される場合の、結合器用補償回路が取り得る接続方式と、各接続方式の結合器用補償回路及びワイヤレス結合器のトポロジと、各接続方式に対する結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路のリアクタンスの計算式と、各接続方式において結合器用補償回路及びワイヤレス結合器より得られる回路特性及びその変成比又はジャイレーションレジスタンスの計算式を示した図である。
図11】(a)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に直列接続されるインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共に変成器を構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図であり、(b)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に並列接続されるインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共に変成器を構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。
図12】(a)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に直列接続されるインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共にジャイレータを構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図であり、(b)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に並列接続されるインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共にジャイレータを構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。
図13】(a)は、設計した非接触給電システムの等価回路の一例を示した図であり、(b)は、設計した同等価回路の各パラメータの値を示した図である。
図14】同等価回路のシミュレーション結果を示した図である。
図15】(a)は、設計した非接触給電システムの等価回路の別の例を示した図であり、(b)は、設計した同等価回路の各パラメータの値を示した図である。
図16】同等価回路のシミュレーション結果を示した図である。
図17】設計した非接触給電システムの等価回路の更に別の例を示した図である。
図18】設計した同等価回路の各パラメータの値を示した図である。
図19】同等価回路のシミュレーション結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。よって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素並びに構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。従って、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0029】
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施の形態に係る送電装置10及び非接触給電システム1の概略を説明する。図1は、送電装置10及び非接触給電システム1の概略構成を示す概略構成図である。図2は、非接触給電システム1の回路構成の一例を概略的に示した回路図である。図3は、非接触給電システム1の回路構成の別の例を概略的に示した回路図である。
【0030】
非接触給電システム1は、移動体に設けられた負荷に対して非接触(無線)にて給電するシステムである。例えば、非接触給電システム1は、図1に示すように、移動体として複数の電動モビリティ2が無人で自動的に走行しながら活動する工場内に設けられる。
【0031】
電動モビリティ2は、例えば、無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)や自動搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)等が知られている。無人搬送車(AGV)は、事前にプログラムされたソフトウェアに基づき、磁気テープ、ビーコン、バーコード等のガイドに従って自動的に走行するものである。自動搬送ロボット(AMR)は、地図情報、現在位置情報、及び、センシングにより得られる周囲の状況を判断しながら、加速、減速、操舵を制御して、ガイドなしに自動的に走行するものである。
【0032】
電動モビリティ2には、その走行に必要な電力を蓄電するバッテリ(図示せず)が設けられている。非接触給電システム1は、このバッテリを負荷として、そのバッテリに対して非接触にて給電するものであり、バッテリは、非接触給電システム1より給電された電力を充電することで、蓄電がなされる。
【0033】
なお、非接触給電システム1により負荷に対して給電が行われる移動体は、上記の電動モビリティ2に限られるものではなく、例えば公道(又は私道)を走行する電気自動車や、電動キックボード、また、一人乗りの移動支援機器であるパーソナルモビリティ等であってもよい。また、非接触給電システム1により給電が行われる負荷は、バッテリに限られるものではなく、給電された電力によって動作するもの(例えば、モータ)等であってもよい。
【0034】
以下、非接触給電システム1が、工場内を走行する電動モビリティ2のバッテリに対して給電を行う場合を例として説明を続ける。非接触給電システム1が、他の移動体が有する負荷に対して給電を行う場合は、「工場内」を、その移動体が走行する場所に読み替えることで説明できる。
【0035】
非接触給電システム1は、工場内に固定して設置された送電装置10と、個々の電動モビリティ2に設けられた受電装置(図2及び図3に示す第一受電装置20a、第二受電装置20b及び第三受電装置20cの少なくともいずれか1つ)とにより構成される。
【0036】
先ず、受電装置(第一受電装置20a、第二受電装置20b及び第三受電装置20c)について説明する。第一受電装置20a、第二受電装置20b及び第三受電装置20cは、それぞれ別個の電動モビリティ2に設けられており、いずれも同じ電動モビリティ2に設けられたバッテリ(受電側負荷)に給電するための電力を非接触(無線)にて受信する装置である。
【0037】
第一受電装置20aは、図2及び図3に示す通り、少なくとも第一受電部21aと第一結合器用二次側補償回路142aとを有して構成される。また、他の受電装置(第二受電装置20b、第三受電装置20c)も、同様の構成を有する。
【0038】
即ち、第二受電装置20bは、少なくとも第二受電部21bと第二結合器用二次側補償回路142bとを有して構成され、第三受電装置20cは、少なくとも第三受電部21cと第三結合器用二次側補償回路142cとを有して構成される。そして、第二受電部21b及び第三受電部21cは、第一受電部21aと同様の構成を有し、第二結合器用二次側補償回路142b及び第三結合器用二次側補償回路142cは、第一結合器用二次側補償回路142aと同様の構成を有するものである。
【0039】
よって、以下では、第一受電装置20a(第一受電部21a及び第一結合器用二次側補償回路142a)を中心に説明し、第二受電装置20b(第二受電部21b及び第二結合器用二次側補償回路142b)と、第三受電装置20c(第三受電部21c及び第三結合器用二次側補償回路142c)との詳細な説明は省略する。
【0040】
なお、以下の説明において、第一受電部21a、第二受電部21b、第三受電部21cをまとめて「受電部」とも言う。また、第一結合器用二次側補償回路142a、第二結合器用二次側補償回路142b、第三結合器用二次側補償回路142cをまとめて「結合器用二次側補償回路」とも言う。
【0041】
第一受電部21aは、送電装置10の後述する第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのいずれか(図2及び図3に示す例では、第一送電部17a)とワイヤレス結合器(図2及び図3に示す例では、第一ワイヤレス結合器30a)を形成する。
【0042】
第一受電部21aは、第一送電部17aと第一ワイヤレス結合器30aを形成する場合、第一送電部17aから送信される電力を非接触(無線)にて受信する。第一受電部21aは、第二送電部17bと第二ワイヤレス結合器30bを形成する場合、第二送電部17bから送信される電力を非接触(無線)にて受信する。第一受電部21aは、第三送電部17cと第三ワイヤレス結合器30cを形成する場合、第三送電部17cから送信される電力を非接触(無線)にて受信する。
【0043】
ワイヤレス結合器は、例えば電界結合方式によるものであってもよいし、磁界結合方式によるものであってもよい。電界結合方式の場合、第一受電部21aは、平板状の導体である電極によって構成される。また、磁界結合方式の場合、第一受電部21aは、コイルにより構成される。
【0044】
第一結合器用二次側補償回路142aは、第一受電部21aの出力側において第一受電部21aと縦続接続され、第一受電部21aとワイヤレス結合器を形成する送電部に対応して送電装置10に設けられた後述の結合器用一次側補償回路と共に、結合器用補償回路を構成する。
【0045】
例えば、第一受電部21aが第一送電部17aと第一ワイヤレス結合器30aを形成する場合、第一送電部17aに対応して送電装置10に設けられた第一結合器用一次側補償回路141aと共に第一結合器用補償回路14aを構成する。第一受電部21aが第二送電部17bと第二ワイヤレス結合器30bを形成する場合、第二送電部17bに対応して送電装置10に設けられた第二結合器用一次側補償回路141bと共に第二結合器用補償回路14bを構成する。第一受電部21aが第三送電部17cと第三ワイヤレス結合器30cを形成する場合、第三送電部17cに対応して送電装置10に設けられた第三結合器用一次側補償回路141cと共に第三結合器用補償回路14cを構成する。
【0046】
第一結合器用二次側補償回路142aの詳細については、第一結合器用補償回路14a、第二結合器用補償回路14b、第三結合器用補償回路14c(以下、これらをまとめて「結合器用補償回路」とも言う。)の説明と併せて後述するが、これら結合器用補償回路によって、対応するワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれが補償される。
【0047】
第一受電装置20aは、第一受電部21aにて受信した電力を、図示しない整流回路を介して直流電圧に変換した後、バッテリに給電する。バッテリは、給電された電力を蓄電する。電動モビリティ2は、このバッテリに蓄電された電力を用いてモータを駆動する等し、工場内を走行する。
【0048】
次いで、送電装置10について説明する。図1に示す通り、送電装置10は、電源ユニット5と、複数の送電部(図1に示す例では、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17c)と、複数の伝送線路(図1に示す例では、第一伝送線路16a、第二伝送線路16b及び第三伝送線路16c)とにより構成される。
【0049】
第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cは、いずれも工場内の床下若しくは壁の中に固定して埋設され、又は、床上に設置される。図2及び図3に示す通り、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cはそれぞれ、個々の電動モビリティ2に設けられた受電装置の受電部とワイヤレス結合器を形成することで、その受電部に対して電力を非接触(無線)にて送信する。また、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cは、それぞれ独立して異なる電動モビリティ2の受電装置に対して電力を送信可能に構成される。なお、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cは、それぞれが同時に同一の受電装置に対して電力を送信するものではない。
【0050】
具体的には、第一送電部17aは、図2及び図3に示す第一受電装置20aの第一受電部21a、第二受電装置20bの第二受電部21b、及び第三受電装置20cの第三受電部21cのいずれかと、第一ワイヤレス結合器30aを形成可能である。また、第二送電部17bは、これらの受電部のいずれかと第二ワイヤレス結合器30bを形成可能であり、第三送電部17cは、これらの受電部のいずれかと第三ワイヤレス結合器30cを形成可能である。
【0051】
第一送電部17aは、第一ワイヤレス結合器30aを形成した受電部に対して、非接触(無線)にて電力を送信し、第二送電部17bは、第二ワイヤレス結合器30bを形成した受電部に対して、非接触(無線)にて電力を送信し、第三送電部17cは、第三ワイヤレス結合器30cを形成した受電部に対して、非接触(無線)にて電力を送信する。
【0052】
ここで、ワイヤレス結合器が電界結合方式の場合、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cは、平板状の導体である電極によって構成される。この場合、上記した通り、いずれの受電装置の受電部も平板状の導体である電極によって構成される。第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cはそれぞれ、受電装置の受電部と対向することで電界結合を形成し、対向した受電部に対して電力を送信する。
【0053】
また、ワイヤレス結合器が磁界結合方式の場合、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cは、コイルによって構成される。この場合、上記した通り、いずれの受電装置の受電部もコイルによって構成される。第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cはそれぞれ、受電装置の受電部と接近することで磁界結合を形成し、接近した受電部に対して電力を送信する。
【0054】
ここで、第一送電部17a及び第三送電部17cは、給電スポットと呼ばれる位置の床下又は壁の中に埋設されて固着される。給電スポットは、その位置に停車(又は駐車)した電動モビリティ2に対して給電を行う場所である。即ち、第一送電部17a及び第三送電部17cは、給電スポットに停車した電動モビリティ2に対して給電する停車中給電を行うために設けられた送電部である。
【0055】
一方、第二送電部17bは、電動モビリティ2が走行し得るルート(走行路)の床下又は壁の中に埋設されて固着される。即ち、第二送電部17bは、稼働(走行)中の電動モビリティ2に対して給電する走行中給電を行うために設けられた送電部である。
【0056】
このように、非接触給電システム1は、電動モビリティ2に対して停車中給電を行う送電部(第一送電部17a、第三送電部17c)と、走行中給電を行う送電部(第二送電部17b)とが混在して設けられる。なお、非接触給電システム1は、電動モビリティ2に対して停車中給電を行う送電部のみが複数設けられるものであってもよいし、電動モビリティ2に対して走行中給電を行う送電部のみが複数設けられるものであってもよい。
【0057】
電源ユニット5は、第一送電部17a、第二送電部17b、第三送電部17cのそれぞれに電力を供給するものであり、1つの筐体の中に、図1に示す高周波電源11と分配回路12と制御部18とを有して構成される。電源ユニット5が構成される筐体は、工場内に固定して設置される。
【0058】
高周波電源11は、直流電力又は商用電力から高周波電力を生成する高周波インバータにより構成され、高周波インバータにて生成された高周波電力を出力する。分配回路12は、高周波電源11より出力される高周波電力を、第一送電部17a、第二送電部17b、第三送電部17cの複数の送電部のそれぞれに分配するための回路である。制御部18は、複数の伝送部のそれぞれに接続される後述の伝送線路(第一伝送線路16a、第二伝送線路16b、第三伝送線路16c)のそれぞれに対応して分配回路12に設けられた、スイッチ(図2及び図3に示す第一スイッチ13a、第二スイッチ13b及び第三スイッチ13c)を制御する。分配回路12及び制御部18の詳細については図2及び図3を参照して後述する。
【0059】
伝送線路は、複数の送電部のそれぞれに対応して設けられ、分配回路12と対応する送電部とを接続する。具体的には、第一伝送線路16aは、第一送電部17aに対応して設けられ、分配回路12により第一送電部17aに対して分配される電力を、第一送電部17aへ伝送する。第二伝送線路16bは、第二送電部17bに対応して設けられ、分配回路12により第二送電部17bに対して分配される電力を、第二送電部17bへ伝送する。第三伝送線路16cは、第三送電部17cに対応して設けられ、分配回路12により第三送電部17cに対して分配される電力を、第三送電部17cへ伝送する。
【0060】
これらの伝送線路は、いずれも同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成される。
【0061】
次に、図2及び図3を参照して、分配回路12の詳細について説明する。図2に示す例では、1つの高周波電源11に対し、複数の送電部(第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17c)がそれぞれ並列接続されるように分配回路12が構成される。この場合、高周波電源11として常に一定の電圧が出力される定電圧源を用いることで、高周波電源11から出力される電圧が、並列接続されたそれぞれの送電部に印加される。これにより、高周波電源11から出力される高周波電力が、それぞれの送電部に分配される。
【0062】
また、図3に示す例では、1つの高周波電源11に対し、複数の送電部(第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17c)がそれぞれ直列接続されるように分配回路12が構成される。この場合、高周波電源11として常に一定の電流が出力される定電流源を用いることで、高周波電源11から出力される電流がそれぞれの送電部に流れる。これにより、高周波電源11から出力される高周波電力が、それぞれの送電部に分配される。
【0063】
分配回路12は、図2及び図3に示す通り、複数の送電部のそれぞれに接続される伝送線路のそれぞれに対応して、対応する伝送線路への送電を行い、また、その送電を停止するスイッチ(第一スイッチ13a、第二スイッチ13b及び第三スイッチ13c)が設けられる。例えば、第一スイッチ13aは、第一伝送線路16aに対応して設けられ、第一伝送線路16aへ送電を行い、また、その送電を停止する。第二スイッチ13bは、第二伝送線路16bに対応して設けられ、第二伝送線路16bへ送電を行い、また、その送電を停止する。第三スイッチ13cは、第三伝送線路16cに対応して設けられ、第三伝送線路16cへ送電を行い、また、その送電を停止する。
【0064】
分配回路12が、図2に示す通り、1つの高周波電源11に対して複数の送電部をそれぞれ並列接続させるように構成される場合、それぞれのスイッチは、対応する伝送線路と直列接続される。この場合、スイッチが閉状態にあると、高周波電源と対応する伝送線路とが接続され、高周波電源から出力される電力が対応する伝送線路に送電される。一方、スイッチが開状態にあると、高周波電源と対応する伝送線路とが切り離され、高周波電源から出力される電力の対応する伝送線路への送電が停止される。
【0065】
一方、分配回路12が、図3に示す通り、1つの高周波電源11に対して複数の送電部をそれぞれ直列接続させるように構成される場合、それぞれのスイッチは、対応する伝送線路と並列接続される。この場合、スイッチが開状態にあると、スイッチはオープン状態となるため、高周波電源から出力される電力が対応する伝送線路に送電される。一方、スイッチが閉状態にあると、スイッチはショート状態となるため、高周波電源から出力される電力はスイッチを通ることになり、対応する伝送線路への送電が停止される。
【0066】
これらのスイッチは、制御部18により制御される。制御部18は、それぞれの送電部毎に、その送電部による電力の送信を行うか否かを判断し、その判断結果に基づいて、判断対象となった送電部に接続される伝送線路に対応するスイッチを制御する。
【0067】
送電部による電力の送信を行うか否かの判断は、例えば、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかを判断することで行われる。例えば、制御部18は、それぞれの電動モビリティ2の位置情報を取得し、その位置情報に基づいて、一の送電部と電動モビリティ2の受電部とでワイヤレス結合器が形成されたか否かを判断してもよい。また、電動モビリティ2から送信される無線信号(電波、光等)をそれぞれの送電部の近傍に設けられた受信器により受信されるか否かによって、制御部18が、一の送電部と電動モビリティ2の受電部とでワイヤレス結合器が形成されたか否かを判断してもよい。
【0068】
制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成していると判断すると、その送電部による電力の送信を行うと判断して、その送電部に接続される伝送線路へ送電が行われるように、その伝送線路に対応するスイッチを制御する。また、制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成していないと判断すると、その送電部による電力の送信を行わないと判断して、その送電部に接続される伝送線路への送電が停止ように、その伝送線路に対応するスイッチを制御する。
【0069】
なお、説明の便宜上、制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかを判断して、送電部による電力の送信を行うか否かの判断を行うものとしたが、制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかを判断することなく、電動モビリティ2の位置関係等からそのまま判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかを判断してもよい。
【0070】
また、制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかの判断に基づいて、即、対応する送電部に接続される伝送線路に対応したスイッチを制御するものも、「対応する送電部による電力の送信を行うか否かに基づいて、それぞれのスイッチを制御する」という本発明の概念に含まれる。
【0071】
また、制御部18は、送電部による電力の送信を行うか否かを判断する場合に、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成しているかの判断に加えて、給電対象となる電動モビリティ2のバッテリの充電状態を判断してもよい。即ち、制御部18は、判断対象となる送電部がワイヤレス結合器を形成している場合に、ワイヤレス結合器を形成した受電部を有する電動モビリティ2のバッテリの充電状態を電動モビリティ2より受信し、そのバッテリが満充電状態にあれば、送電部による電力の送信を行わないと判断して、対応するスイッチを制御してもよい。
【0072】
分配回路12は、また、図2及び図3に示す通り、それぞれの送電部に対し、スイッチと伝送線路との間に、結合器用一次側補償回路と伝送線路用補償回路とが縦続接続されている。
【0073】
即ち、第一送電部17aに対し、第一スイッチ13aと第一伝送線路16aとの間に第一結合器用一次側補償回路141aと第一伝送線路用補償回路15aとが縦続接続される。第二送電部17bに対し、第二スイッチ13bと第二伝送線路16bとの間に第二結合器用一次側補償回路141bと第二伝送線路用補償回路15bとが縦続接続される。第三送電部17cに対し、第三スイッチ13cと第三伝送線路16cとの間に第三結合器用一次側補償回路141cと第三伝送線路用補償回路15cとが縦続接続される。
【0074】
また、それぞれの結合器用一次側補償回路(第一結合器用一次側補償回路141a、第二結合器用一次側補償回路141b、第三結合器用一次側補償回路141c)は、伝送線路用補償回路(第一伝送線路用補償回路15a、第二伝送線路用補償回路15b、第三伝送線路用補償回路15c)よりも高周波電源11側に配置される。
【0075】
ここで、図4及び図5を参照しながら、それぞれの送電部に対応して設けられる伝送線路用補償回路と結合器用補償回路(結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路)について説明する。図4(a)は、伝送線路用補償回路と結合器用補償回路(結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路)とを説明するための図であり、図4(b)は、変成器及びジャイレータの特性を説明するための図である。図5は、変成器を2段縦続接続した場合、ジャイレータを2段縦続接続した場合、変成器とジャイレータとを縦続接続した場合、ジャイレータと変成器とを縦続接続した場合の特性を示した図である。
【0076】
図4(a)は、第一送電部17a及び第一受電部21aにより形成される第一ワイヤレス結合器30aに対して設けられる第一伝送線路用補償回路15a及び第一結合器用補償回路14aを図示しており、以下の説明においても、第一伝送線路用補償回路15a及び第一結合器用補償回路14aについて説明する。
【0077】
なお、第一ワイヤレス結合器30aを形成する受電装置側の受電部がいずれの受電部であっても、第一伝送線路用補償回路15a及び第一結合器用補償回路14aは同様の構成を持つ。また、第二送電部17bに対して設けられる第二伝送線路用補償回路15b及び第二結合器用補償回路14b、並びに第三送電部17cに対して設けられる第三伝送線路用補償回路15c及び第三結合器用補償回路14cは、どの受信部と第二ワイヤレス結合器30b又は第三ワイヤレス結合器30cを形成したとしても、第一伝送線路用補償回路15a及び第一結合器用補償回路14aと同様の構成を持つ。よって、これらの説明は省略する。
【0078】
第一伝送線路用補償回路15aは、第一伝送線路16aにおけるリアクタンスのずれを補償する回路である。第一結合器用補償回路14aは、この第一結合器用補償回路14aを構成する送電装置10側に設けられた第一結合器用一次側補償回路141aと、第一受電装置20a側に設けられた第一結合器用二次側補償回路142aとによって、第一ワイヤレス結合器30aにおけるリアクタンスのずれを補償する回路である。
【0079】
ここで、高周波電源11は、入力インピーダンスによって動作が大きく変化する。特に、高周波電源11から電動モビリティ2のバッテリ(負荷)側を見た入力インピーダンスの虚部が大きくなると、高周波電源11においてエネルギー損失が発生し、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊が生じる恐れがある。また、その入力インピーダンスの虚部により無効電力が発生するので、高周波電源11からバッテリへの供給電力が低下し、給電効率の低下につながる。
【0080】
第一伝送線路用補償回路15a及び第一結合器用補償回路14aは、それぞれがリアクタンスのずれを補償することで、高周波電源11から見た入力インピーダンスの虚部を略ゼロにするように調整する。ここで、高周波電源11から見た入力インピーダンスの虚部を略ゼロにするように調整するとは、高周波電源11から見た入力インピーダンスの虚部を理想的にゼロにするように調整することであり、実装上の誤差によって入力インピーダンスの虚部がゼロから外れることを許容することを意味する。
【0081】
具体的には、第一伝送線路用補償回路15aは、第一伝送線路16aと第一伝送線路用補償回路15aとによって、変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。また、第一結合器用補償回路14aは、第一ワイヤレス結合器30aと、第一結合器用補償回路14aを構成する第一結合器用一次側補償回路141a及び第一結合器用二次側補償回路142aとによって、変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。
【0082】
ここで、図4(b)に示す通り、変成器の特性とは、Fパラメータ(縦続行列)が対角行列(左上から右下にかけての対角成分以外が0である正方行列)となる状態を意味し、ジャイレータの特性とは、Fパラメータ(縦続行列)が反対角行列(左下から右上にかけての反対角成分以外が0である正方行列)となる状態を意味する。
【0083】
変成器及びジャイレータは、同種を2つ組み合わせて縦続接続した場合、図5に示す通り、変成器の特性を示す。即ち、2つの変成器が縦続接続された場合、全体のFパラメータは、各々の変成器のFパラメータの積で求めることができ、結果として変成器の特性である対角行列となる。また、2つのジャイレータが縦続接続された場合も、全体のFパラメータは変成器の特性である対角行列となる。
【0084】
一方、変成器及びジャイレータは、異種を2つ組み合わせて縦続接続した場合、図5に示す通り、ジャイレータの特性を示す。即ち、前段に変成器、後段にジャイレータが縦続接続された場合、全体のFパラメータはジャイレータの特性である反対角行列となる。また、後段にジャイレータ、前段に変成器が縦続接続された場合も、全体のFパラメータはジャイレータの特性である反対角行列となる。
【0085】
これにより、第一伝送線路16aと第一伝送線路用補償回路15aとによって変成器又はジャイレータの特性となるようにし、第一ワイヤレス結合器30aと第一結合器用補償回路14aを構成する第一結合器用一次側補償回路141a及び第一結合器用二次側補償回路142aとによって変成器又はジャイレータの特性となるようにすることで、非接触給電システム1は、第一送電部17aに対応する第一伝送線路16a、第一伝送線路用補償回路15a、第一ワイヤレス結合器30a及び第一結合器用補償回路14aを、1つの変成器又はジャイレータとして等価的に見なすことができる。
【0086】
そして、変成器及びジャイレータは、そのインピーダンス変換特性として図4(b)に示す特性を有している。即ち、変成器又はジャイレータに接続される負荷インピーダンスをZlとした場合に、変成比がnの変成器の入力インピーダンスZinは、nZlとなり、ジャイレーションレジスタンスがrgのジャイレータの入力インピーダンスZinは、rg/Zlとなる。
【0087】
よって、第一ワイヤレス結合器30aの出力側(第一受電装置20a)に接続される整流回路及びバッテリのインピーダンスが、実部のみ(抵抗成分のみ)を有するように構成すれば、非接触給電システム1は、高周波電源11から見た第一送電部17aの入力インピーダンスの虚部を略ゼロとして実部のみとすることができる。
【0088】
また、非接触給電システム1は、高周波電源11から出力される高周波電力を分配し得る送電部毎に、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路を設けている。そして、各伝送線路用補償回路は、対応する送電部に接続される伝送線路と共に変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。また、各結合器用補償回路は、対応する送電部により構成されるワイヤレス結合器と共に変成器又はジャイレータの特性となるように、結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路が構成される。
【0089】
よって、非接触給電システム1は、高周波電源11から出力される高周波電力を、任意の位置に設置された各送電部に分配したとしても、高周波電源11から見たそれぞれの送電部の入力インピーダンスの虚部を略ゼロとして実部のみとすることができる。しかも、各送電部に対して接続される伝送線路の長さが異なったとしても、その伝送線路の長さの違いによって異なる位相遅延量を、それぞれの伝送線路用補償回路にて補償でき、それぞれで容易に高周波電源11から見たそれぞれの送電部の入力インピーダンスの虚部を略ゼロとして実部のみとすることができる。
【0090】
従って、図2に示すように、高周波電源11に対して複数の送電部を並列接続した場合であっても、また、図3に示すように、高周波電源11に対して複数の送電部を直列接続した場合であっても、スイッチによって高周波電源11と接続される送電部の合成入力インピーダンスは、虚部が略ゼロとなって実部のみとなる。
【0091】
その結果、非接触給電システム1は、高周波電源11においてエネルギー損失が発生し、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊が生じる恐れを抑制できる。また、非接触給電システム1は、無効電力の発生を抑制できるので、高周波電源11からバッテリへの給電効率を高く維持できる。よって、非接触給電システム1は、高周波電源11から出力される高周波電力を任意の位置に設置された各送電部に分配しつつ、安定した動作を行うことができる。
【0092】
ここで、図4(b)に示す通り、変成器は、定電圧が入力された場合に定電圧が出力され、定電流が入力された場合に定電流が出力される。これにより、各送電部に対応する伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つの変成器として構成される場合、高周波電源11の種類(定電圧源又は定電流源)に応じて、分配回路12の好ましい構成が図6に示す通りに決定される。
【0093】
まず、図6(a)は、伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つの変成器として見なされ、高周波電源11が定電圧源である場合の分配回路12の例を示した回路図である。この場合、分配回路12は、高周波電源11に対して複数の送電部を並列接続するように構成するのが好ましい。高周波電源11からは定電圧が出力されるので、スイッチが閉じた経路では、バッテリ(負荷)に一定の電圧が出力される。
【0094】
よって、それぞれの送電部に対して接続されたバッテリ(負荷)の抵抗値が変動したとしても、それぞれのバッテリ(負荷)に対して一定の電圧が維持されて出力されるので、安定した給電動作を実現できる。また、スイッチが開いた経路では、高周波電源11からの電力の供給が抑制されるので、高周波電源11全体の出力電力を減少させることができ、省電力化を図ることができる。
【0095】
次いで、図6(b)は、伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つの変成器として見なされ、高周波電源11が定電流源である場合の分配回路12の例を示した回路図である。この場合、分配回路12は、高周波電源11に対して複数の送電部を直列接続するように構成するのが好ましい。高周波電源11からは定電流が出力されるので、スイッチが開いた経路では、バッテリ(負荷)に一定の電流が出力される。
【0096】
よって、それぞれの送電部に対して接続されたバッテリ(負荷)の抵抗値が変動したとしても、それぞれのバッテリ(負荷)に対して一定の電流が維持されて出力されるので、安定した給電動作を実現できる。また、スイッチが閉じた経路では、高周波電源11からの電力の供給が抑制されるので、高周波電源11全体の出力電力を減少させることができ、省電力化を図ることができる。
【0097】
一方、図4(b)に示す通り、ジャイレータは、定電圧が入力された場合に定電流が出力され、定電流が入力された場合に定電圧が出力される。これにより、各送電部に対応する伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つのジャイレータとして構成される場合、高周波電源11の種類(定電圧源又は定電流源)に応じて、分配回路12の好ましい構成が図7に示す通りに決定される。
【0098】
まず、図7(a)は、伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つのジャイレータとして見なされ、高周波電源11が定電圧源である場合の分配回路12の例を示した回路図である。この場合、分配回路12は、高周波電源11に対して複数の送電部を並列接続するように構成するのが好ましい。高周波電源11からは定電圧が出力されるので、スイッチが閉じた経路では、バッテリ(負荷)に一定の電流が出力される。
【0099】
よって、それぞれの送電部に対して接続されたバッテリ(負荷)の抵抗値が変動したとしても、それぞれのバッテリ(負荷)に対して一定の電流が維持されて出力されるので、安定した給電動作を実現できる。また、スイッチが開いた経路では、高周波電源11からの電力の供給が抑制されるので、高周波電源11全体の出力電力を減少させることができ、省電力化を図ることができる。
【0100】
次いで、図7(b)は、伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が1つのジャイレータとして見なされ、高周波電源11が定電流源である場合の分配回路12の例を示した回路図である。この場合、分配回路12は、高周波電源11に対して複数の送電部を直列接続するように構成するのが好ましい。高周波電源11からは定電流が出力されるので、スイッチが開いた経路では、バッテリ(負荷)に一定の電圧が出力される。
【0101】
よって、それぞれの送電部に対して接続されたバッテリ(負荷)の抵抗値が変動したとしても、それぞれのバッテリ(負荷)に対して一定の電圧が維持されて出力されるので、安定した給電動作を実現できる。また、スイッチが閉じた経路では、高周波電源11からの電力の供給が抑制されるので、高周波電源11全体の出力電力を減少させることができ、省電力化を図ることができる。
【0102】
以上のように、各送電部に対応する伝送線路、伝送線路用補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路の全体として回路特性(変成器か、ジャイレータか)と、高周波電源11の種類(定電圧源か、定電流源か)との組み合わせで、4通りの構成が考えられる。どの構成を使用するかは、アプリケーションの特性に応じて決定されてもよい。
【0103】
次いで、図8図12を参照して、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路の設計方法について説明する。
【0104】
まず、図8(a)は、伝送線路用補償回路の回路構成をT型回路として実現する場合の回路構成図である。図8(b)は、伝送線路用補償回路の回路構成をπ型回路として実現する場合の回路構成図である。図8(c)は、伝送線路用補償回路と伝送線路との組み合わせによる回路特性を変成器とした場合とジャイレータとした場合とのそれぞれについて、伝送線路用補償回路をT型回路として構成した場合とπ型回路として構成した場合の各素子のリアクタンスの計算式を示した図である。図8(c)に示す各素子のリアクタンスX1、X2、X3は、図8(a)及び図8(b)に示す各素子のリアクタンスX1、X2、X3に対応する。
【0105】
伝送線路用補償回路と伝送線路との組み合わせによる回路特性(変成器か、ジャイレータか)と、伝送線路用補償回路の回路構成(T型回路か、π型回路か)とを、使用するアプリケーションに求められる仕様等に基づいて決定する。また、回路特性を変成器とする場合はその変成器の変成比nを、回路特性をジャイレータとする場合はそのジャイレータのジャイレーションレジスタンスrgを、求められる仕様に応じて決定する。そして、接続される伝送線路の特性インピーダンスZcと位相遅延量Φとに基づいて、図8(c)に示す決定した回路特性及び回路構成に対応した計算式により、各素子のリアクタンスX1、X2、X3の値を決定する。
【0106】
次いで、図9は、ワイヤレス結合器が電界結合方式により構成される場合の、結合器用補償回路が取り得る接続方式と、各接続方式の結合器用補償回路及びワイヤレス結合器のトポロジと、各接続方式に対する結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路のリアクタンスの計算式と、各接続方式において結合器用補償回路及びワイヤレス結合器より得られる回路特性及びその変成比又はジャイレーションレジスタンスの計算式を示した図である。
【0107】
電界結合方式によるワイヤレス結合器は、図9のトポロジに示す通り、3つのコンデンサ(C1、C2、Cc)がπ型に接続された等価回路で示される。このような等価回路で示される電界結合方式によるワイヤレス結合器に対して、一次側(入力側、送電側、高周波電源側)にインダクタL1で構成された結合器用一次側補償回路を接続し、二次側(出力側、受電側、負荷側)にインダクタL2で構成された結合器用二次側補償回路を接続することで、結合器用補償回路及びワイヤレス結合器の組み合わせによる変成器又はジャイレータの回路特性を得ることができる。
【0108】
ここで、結合器用一次側補償回路は、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続して実現でき、また、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続して実現できる。また、結合器用二次側補償回路は、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続して実現でき、また、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続して実現できる。
【0109】
結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続し、結合器用二次側補償回路として、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続するS-S方式の場合、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成はジャイレータとなる。また、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続し、結合器用二次側補償回路として、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続するP-P方式の場合も、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成はジャイレータとなる。これらの場合、ジャイレータのジャイレーションレジスタンスrgはそれぞれ、図9に示す計算式により算出される。
【0110】
一方、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続し、結合器用二次側補償回路として、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続するS-P方式の場合、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成は変成器となる。また、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、インダクタL1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続し、結合器用二次側補償回路として、インダクタL2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続するP-S方式の場合も、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成は変成器となる。これらの場合、変成器の変成比nはそれぞれ、図9に示す計算式により算出される。
【0111】
ワイヤレス結合器が電界結合方式により構成される場合、使用するアプリケーションに求められる仕様等に基づいて伝送線路用補償回路と伝送線路との組み合わせによる回路特性(変成器か、ジャイレータか)を決定し、その上で、結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路の接続方式をS-S方式、P-P方式、S-P方式、P-S方式から決定する。そして、決定した接続方式に基づいて、結合器用一次側補償回路のインダクタL1のインダクタンスと、結合器用二次側補償回路のインダクタL2のインダクタンスとを、図9に示す計算式を用いて決定する。
【0112】
また、図10は、ワイヤレス結合器が磁界結合方式により構成される場合の、結合器用補償回路が取り得る接続方式と、各接続方式の結合器用補償回路及びワイヤレス結合器のトポロジと、各接続方式に対する結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路のリアクタンスの計算式と、各接続方式において結合器用補償回路及びワイヤレス結合器より得られる回路特性及びその変成比又はジャイレーションレジスタンスの計算式を示した図である。
【0113】
磁界結合方式によるワイヤレス結合器は、図9のトポロジに示す通り、2つのインダクタ(L1、L2)が結合係数kで結合した変圧器として示される。このような磁界結合方式によるワイヤレス結合器に対して、一次側(入力側、送電側、高周波電源側)にコンデンサC1で構成された結合器用一次側補償回路を接続し、二次側(出力側、受電側、負荷側)にコンデンサC2で構成された結合器用二次側補償回路を接続することで、結合器用補償回路及びワイヤレス結合器の組み合わせによる変成器又はジャイレータの回路特性を得ることができる。
【0114】
ここで、結合器用一次側補償回路は、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続して実現でき、また、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続して実現できる。また、結合器用二次側補償回路は、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続して実現でき、また、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続して実現できる。
【0115】
結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続し、結合器用二次側補償回路として、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続するS-S方式の場合、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成はジャイレータとなる。また、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続し、結合器用二次側補償回路として、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続するP-P方式の場合も、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成はジャイレータとなる。これらの場合、ジャイレータのジャイレーションレジスタンスrgはそれぞれ、図10に示す計算式により算出される。
【0116】
一方、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して直列接続し、結合器用二次側補償回路として、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して並列接続するS-P方式の場合、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成は変成器となる。また、結合器用補償回路の接続方式が、結合器用一次側補償回路として、コンデンサC1をワイヤレス結合器の入力に対して並列接続し、結合器用二次側補償回路として、コンデンサC2をワイヤレス結合器の出力に対して直列接続するP-S方式の場合も、結合器用補償回路とワイヤレス結合器との組み合わせによる回路構成は変成器となる。これらの場合、変成器の変成比nはそれぞれ、図10に示す計算式により算出される。
【0117】
ワイヤレス結合器が磁界結合方式により構成される場合も電界結合方式の場合と同様に、使用するアプリケーションに求められる仕様等に基づいて伝送線路用補償回路と伝送線路との組み合わせによる回路特性(変成器か、ジャイレータか)を決定し、その上で、結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路の接続方式をS-S方式、P-P方式、S-P方式、P-S方式から決定する。そして、決定した接続方式に基づいて、結合器用一次側補償回路のコンデンサC1のキャパシタンスと、結合器用二次側補償回路のコンデンサC2のキャパシタンスとを、図10に示す計算式を用いて決定する。
【0118】
なお、図9又は図10に示す計算式により決定した、結合器用一次側補償回路のインダクタL1のインダクタンス又はコンデンサC1のキャパシタンスは、結合器用一次側補償回路をワイヤレス結合器の入力側に直結して設けた場合の値である。一方、非接触給電システム1は、図2及び図3を参照して上記した通り、結合器用一次側補償回路を伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側、より具体的には、スイッチと伝送線路用補償回路との間に設けている。これは、結合器用一次側補償回路を伝送線路用補償回路と共に分配回路12内に設けるためである。
【0119】
結合器用一次側補償回路を伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設ける場合、図9及び図10に示す計算式により決定した結合器用一次側補償回路のインダクタL1のインダクタンス又はコンデンサC1のキャパシタンスに対して、図11及び図12に示すようなインピーダンス変換を行うことで、伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設ける場合の結合器用一次側補償回路のインピーダンスを決定できる。
【0120】
例えば、図11(a)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に直列接続されるリアクタンスXs(インピーダンスjXs)のインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共に変成比nの変成器を構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。この場合、伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設けられる結合器用一次側補償回路は、リアクタンスがnXs(インピーダンスjnXs)となるインダクタ又はコンデンサをワイヤレス結合器に対して直列に接続する。
【0121】
また、図11(b)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に並列接続されるリアクタンスXp(インピーダンスjXp)のインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共に変成比nの変成器を構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。この場合、伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設けられる結合器用一次側補償回路は、リアクタンスnXp(インピーダンスjnXs)となるインダクタ又はコンデンサをワイヤレス結合器に対して並列に接続する。
【0122】
また、図12(a)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に直列接続されるリアクタンスXs(インピーダンスjXs)のインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共にジャイレーションレジスタンスrgのジャイレータを構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。この場合、伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設けられる結合器用一次側補償回路は、リアクタンスが-rg/Xs(インピーダンス-jrg/Xs)となるインダクタ又はコンデンサをワイヤレス結合器に対して並列に接続する。
【0123】
また、図12(b)は、結合器用一次側補償回路としてワイヤレス結合器の入力側に並列接続されるリアクタンスXp(インピーダンスjXp)のインダクタ又はコンデンサを、伝送線路と共にジャイレーションレジスタンスrgのジャイレータを構成する伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に移動させる場合のインピーダンス変換を示した図である。この場合、伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に設けられる結合器用一次側補償回路は、リアクタンスが-rg/Xp(インピーダンス-jrg/Xp)となるインダクタ又はコンデンサをワイヤレス結合器に対して直列に接続する。
【0124】
以上のようにして、非接触給電システム1は、高周波電源11から出力される高周波電力を分配し得る送電部毎に、送電部に接続される伝送線路と共に変成器又はジャイレータの特性となるように伝送線路用補償回路を設計し、また、対応する送電部により構成されるワイヤレス結合器と共に変成器又はジャイレータの特性となるように結合器用一次側補償回路及び結合器用二次側補償回路を設計できる。
【0125】
次いで、図13及び図14を参照して、上記説明した方法で設計した非接触給電システム1の一例のシミュレーション結果を示す。図13(a)は、設計した非接触給電システム1の等価回路を示した図であり、図13(b)は、上記説明した方法により設計した図13(a)に示す等価回路の各パラメータの値を示した図である。また、図14は、そのシミュレーション結果を示した図である。
【0126】
図13(a)に示す通り、設計する非接触給電システム1は、2つの送電部を、定電圧源として動作する高周波電源11に対して並列接続するものとした。また、それぞれの送電部において、電界結合方式によるワイヤレス結合器が構成されるものとした。なお、非接触給電システム1は、伝送線路を差動線路とし、ワイヤレス結合器も差動で動作するものとした。
【0127】
その上で、それぞれの送電部について、その送電部の伝送線路と組み合わせることで変成比n1が0.833である変成器41の特性となるπ型回路で構成された伝送線路用補償回路(コンデンサC1、コンデンサC2、インダクタL2)を設計した。
【0128】
また、それぞれの送電部について、その送電部により構成されるワイヤレス結合器と組み合わせることで変成比n2が1.2である変成器42の特性となるP-S方式で接続された結合器用一次側補償回路(インダクタL1)及び結合器用二次側補償回路(インダクタL3)を設計した。
【0129】
このように設計することで、伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路を1つの変成器として見なした場合に、その変成比nが、n1×n2=1.0となるようにした。なお、結合器用一次側補償回路(インダクタL1)は、伝送線路及び伝送線路用補償回路で構成される変成器41に基づくインピーダンス変換(図11(b)参照)を行った。
【0130】
以上に基づき、上記説明した方法により設計した結果、図13(a)に示す等価回路の各パラメータの値は、図13(b)に示すものとなった。この各パラメータの値を持つ図13(a)に示した等価回路に対し、高周波電源11として電源電圧Vs(実効値)が100Vrms、周波数が6.78MHzの定電圧を入力し、一方の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl1(50Ω)に出力される電圧である出力電圧v1と、他方の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl2(100Ω)に出力される電圧である出力電圧v2と、をシミュレーションによって計算した。
【0131】
その結果、図14に示す通り、出力電圧v1及び出力電圧v2は、負荷抵抗Rl1の抵抗値と負荷抵抗Rl2の抵抗値とが異なっていても、いずれも入力電圧vsがそのまま出力されることが分かった。これは、伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が、1つの変成器(変成比n=1.0)の特性となるように、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路を設計できたからである。
【0132】
次いで、図15及び図16を参照して、上記説明した方法で設計した非接触給電システム1の別の例のシミュレーション結果を示す。図15(a)は、設計した非接触給電システム1の等価回路を示した図であり、図15(b)は、上記説明した方法により設計した図15(a)に示す等価回路の各パラメータの値を示した図である。また、図16は、そのシミュレーション結果を示した図である。
【0133】
図15(a)に示す通り、設計する非接触給電システム1は、2つの送電部を、定電流源として動作する高周波電源11に対して直列接続するものとした。また、それぞれの送電部において、電界結合方式によるワイヤレス結合器が構成されるものとした。なお、非接触給電システム1は、伝送線路を差動線路とし、ワイヤレス結合器も差動で動作するものとした。
【0134】
その上で、それぞれの送電部について、その送電部の伝送線路と組み合わせることでジャイレーションレジスタンスrg1が60Ωであるジャイレータ43の特性となるT型回路で構成された伝送線路用補償回路(インダクタL1、コンデンサC2、インダクタL2)を設計した。
【0135】
また、それぞれの送電部について、その送電部により構成されるワイヤレス結合器と組み合わせることで変成比n2が1.2である変成器44の特性となるP-S方式で接続された結合器用一次側補償回路(コンデンサC1)及び結合器用二次側補償回路(インダクタL3)を設計した。
【0136】
このように設計することで、伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路を1つのジャイレータとして見なした場合に、そのジャイレーションレジスタンスrgが、rg1/n2=50Ωとなるようにした。
【0137】
なお、結合器用一次側補償回路(コンデンサC1)は、伝送線路及び伝送線路用補償回路で構成されるジャイレータ43に基づくインピーダンス変換(図12(b)参照)を行ったものである。よって、接続方式がP-S方式、即ち、ワイヤレス結合器と並列接続されるものとされた結合器用一次側補償回路は、ジャイレータ43を挟んで伝送線路用補償回路よりも高周波電源11側に移動させることにより、ワイヤレス結合器(送電部)と直列接続される。
【0138】
以上に基づき、上記説明した方法により設計した結果、図15(a)に示す等価回路の各パラメータの値は、図15(b)に示すものとなった。この各パラメータの値を持つ図15(a)に示した等価回路に対し、高周波電源11として電源電流Is(実効値)が1Arms、周波数が6.78MHzの定電流を入力し、一方の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl1(50Ω)に出力される電圧である出力電圧v1と、他方の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl2(100Ω)に出力される電圧である出力電圧v2と、をシミュレーションによって計算した。
【0139】
その結果、図14に示す通り、出力電圧v1及び出力電圧v2は、負荷抵抗Rl1の抵抗値と負荷抵抗Rl2の抵抗値とが異なっていても、いずれも50Vrmsの電圧が出力されることが分かった。これは、伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が、1つのジャイレータ(ジャイレーションレジスタンスrg=50Ω)の特性となるように、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路を設計できたからである。即ち、電源電流Is=1Armsに対し、rg×Is=50Ω×1Arms=50Vrmsの電圧が、出力電圧v1及びv2として出力されることをシミュレーションからも示すことができた。
【0140】
次いで、図17図19を参照して、上記説明した方法で設計した非接触給電システム1の更に別の例のシミュレーション結果を示す。図17は、設計した非接触給電システム1の等価回路を示した図であり、図18は、上記説明した方法により設計した図17に示す等価回路の各パラメータの値を示した図である。また、図19は、そのシミュレーション結果を示した図である。
【0141】
図17に示す通り、設計する非接触給電システム1は、図13(a)に示した等価回路に対して、更に1つの送電部を、定電圧源として動作する高周波電源11に対して並列接続するものとした。即ち、この例では、3つの送電部を定電圧源として動作する高周波電源11に対して並列接続するものとした。
【0142】
そして、それぞれの送電部において、電界結合方式によるワイヤレス結合器が構成されるものとした。また、非接触給電システム1は、伝送線路を差動線路とし、ワイヤレス結合器も差動で動作するものとした。ただし、図13(a)に対して新たに追加した送電部に接続される伝送線路の伝送線路長(位相遅延量)と、その送電部により構成されるワイヤレス結合器の電極間容量とが、いずれも他の送電部に対する値と異なるものとした(図18参照)。
【0143】
その上で、図13(a)に対して新たに追加した送電部について、その送電部の伝送線路と組み合わせることで変成比n3が0.375である変成器45の特性となるπ型回路で構成された伝送線路用補償回路(インダクタL5、インダクタL6、コンデンサC5)を設計した。
【0144】
また、その送電部について、その送電部により構成されるワイヤレス結合器と組み合わせることで変成比n4が2.67である変成器46の特性となるP-S方式で接続された結合器用一次側補償回路(インダクタL4)及び結合器用二次側補償回路(インダクタL7)を設計した。
【0145】
このように設計することで、図13(a)に対して新たに追加した送電部に対応する、伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路を1つの変成器として見なした場合に、その変成比nが、n1×n2=1.0となるようにした。なお、結合器用一次側補償回路(インダクタL4)は、伝送線路及び伝送線路用補償回路で構成される変成器41に基づくインピーダンス変換(図11(b)参照)を行った。
【0146】
以上に基づき、上記説明した方法により設計した結果、図17に示す等価回路の各パラメータの値は、図18に示すものとなった。なお、図13(a)に示す等価回路で示される各パラメータは、図13(b)に示したものをそのまま流用している。
【0147】
この各パラメータの値を持つ図17に示した等価回路に対し、高周波電源11として電源電圧Vs(実効値)が100Vrms、周波数が6.78MHzの定電圧を入力し、一の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl1(50Ω)に出力される電圧である出力電圧v1と、別の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl2(100Ω)に出力される電圧である出力電圧v2と、更に別の送電部にて構成されるワイヤレス結合器の出力に接続された負荷抵抗Rl3(25Ω)に出力される電圧である出力電圧v3と、をシミュレーションによって計算した。
【0148】
その結果、図19に示す通り、出力電圧v1、出力電圧v2及び出力電圧v3は、送電部毎に、対応する伝送線路長やワイヤレス結合器の容量が異なっていたとしても、また、接続される負荷抵抗Rl1の抵抗値、負荷抵抗Rl2の抵抗値及び負荷抵抗Rl3とが異なっていたとしても、入力電圧vsがそのまま出力されることが分かった。これは、いずれの送電部に対しても伝送線路、伝送線路補償回路、ワイヤレス結合器及び結合器用補償回路が、変成比n=1.0の1つの変成器の特性となるように、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路を設計できたからである。
【0149】
以上より、本実施の形態に係る送電装置10及び非接触給電システム1は、次の作用効果を奏する。
【0150】
(1)それぞれ別個の電動モビリティ2に設けられた第一受電装置20aの第一受電部21a、第二受電装置20bの第二受電部21b及び第三受電装置20cの第三受電部21cのいずれかとワイヤレス結合器を形成可能な第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cに対し、高周波電源11から高周波電力が供給される。そして、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのそれぞれから、ワイヤレス結合器を形成する第一受電部21a、第二受電部21b又は第三受電部21cへ非接触にて電力が送信される。第一受電部21a、第二受電部21b又は第三受電部21cにて受信した電力は、電力を受信した受電部を有する電動モビリティ2のバッテリ(負荷)に給電される。
【0151】
ここで、送電装置10は、上記した通り、それぞれが同時に同一の受電装置に対して電力を送信するものではなく、且つ、それぞれが異なる電動モビリティ2の受電装置に対して電力を送信可能な複数の送電部(第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17c)を有している。高周波電源11から出力される高周波電力は、分配回路12によって、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのそれぞれに分配される。そして、第一送電部17aに対して分配される電力は、第一送電部17aに対応して設けられた第一伝送線路16aによって第一送電部17aに伝送され、第二送電部17bに対して分配される電力は、第二送電部17bに対応して設けられた第二伝送線路16bによって第二送電部17bに伝送され、第三送電部17cに対して分配される電力は、第三送電部17cに対応して設けられた第三伝送線路16cによって第三送電部17cに伝送される。
【0152】
このように、送電装置10及び非接触給電システム1は、分配回路12を設けることで、1つの高周波電源11から複数の送電部に対して電力を分配できる。また、高周波電源11とそれぞれの送電部との距離が離れていたり、また、その距離が区区であったりしても、それぞれの送電部に対応して設けられた伝送線路によって、分配回路12により分配された電力を伝送できる。よって、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、個々の送電装置10に対応して高周波電源を設ける必要がないため、送電装置10が設置される工場内の作業スペースを広く確保できる。
【0153】
また、工場内の電動モビリティ2に対し走行中給電を行う場合であっても、分配回路12と各送電部とを対応する伝送線路にて接続するので、送電部と高周波電源11とを接続するために、電動モビリティ2が通らない、又は、通る割合の少ない場所にまで送電部を埋設する必要がない。即ち、電動モビリティ2が頻繁に通るルート上に埋設された送電部に対して、伝送線路を介して分配回路12により分配された電力を伝送できる。
【0154】
(2)第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのそれぞれに対応して設けられた補償回路によって、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのそれぞれにおけるリアクタンスのずれが補償される。これにより、第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cがそれぞれの事情に合わせた形状で構成され、また、それぞれの事情に合わせた位置に設置されたとしても、補償回路によって高周波電源11からバッテリ(負荷)側を見た入力インピーダンスの虚部を略ゼロにすることができる。よって、送電装置10及び非接触給電システム1は、安定して非接触給電を行うことができるので、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0155】
(3)第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cのそれぞれに対応して設けられる補償回路は、伝送線路用補償回路と結合器用補償回路とを有しており、伝送線路用補償回路によって、対応する送電部に接続される伝送線路におけるリアクタンスのずれが補償され、結合器用補償回路によって、対応する送電部により形成され得るワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれが補償される。これにより、それぞれの送電部に対応して設けられる補償回路を、伝送線路用補償回路と結合器用補償回路とに分けて容易に設計できる。特に、伝送線路が、それぞれで異なる線路長を有することで位相遅延量が異なったとしても、それぞれの伝送線路におけるリアクタンスのずれを伝送線路用補償回路だけで容易に補償することができる。また、少なくとも伝送線路用補償回路が分配回路12内に設けられるので、伝送線路用補償回路を設置する場所を別途設ける必要がない。これにより、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化を図ることができる。
【0156】
(4)結合器用補償回路はいずれも、送電部側に設けられる結合器用一次側補償回路と、受電部側に設けられる結合器用二次側補償回路とによって、ワイヤレス結合器におけるリアクタンスのずれを補償するように構成される。そして、結合器用一次側補償回路は、伝送線路用補償回路より高周波電源11側に配置され、その伝送線路用補償回路と併せて分配回路12内に設けられる。これにより、結合器用一次側補償回路を設置する場所も別途設ける必要がないので、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度をより向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化をより図ることができる。
【0157】
(5)伝送線路用補償回路は、伝送線路と伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成され、結合器用補償回路は、ワイヤレス結合器と結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。ここで、前段に変成器又はジャイレータを設け、後段に変成器又はジャイレータを設けて、これらを縦続接続した場合、1つの変成器又はジャイレータの特性となる。そこで、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路を、上記のような構成とすることで、高周波電源11から給電対象となるバッテリをそれぞれ見た場合に、1つの変成器又はジャイレータを介してバッテリが接続されたものと見なすことができる。
【0158】
よって、高周波電源11からそれぞれのバッテリを見た入力インピーダンスの虚部が略ゼロとなるので、高周波電源11からバッテリに対して安定して効率よく給電できる。そして、伝送線路と伝送線路用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように伝送線路用補償回路を設計し、ワイヤレス結合器と結合器用補償回路とにより変成器又はジャイレータの特性となるように結合器用補償回路を設計することで、高周波電源11からバッテリに対して安定して効率よく給電できる補償回路を容易に実現できる。
【0159】
(6)第一送電部17aに電力を伝送する第一伝送線路16a、第二送電部17bに電力を伝送する第二伝送線路16b、第三送電部17cに電力を伝送する第三伝送線路16cは、いずれも同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成される。これにより、第一伝送線路16a、第二伝送線路16b及び第三伝送線路16cを壁や地面に容易に這わせることができる。よって、高周波電源11に対する第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cの設置位置が任意の位置であっても、同軸ケーブル又はシールドケーブルにより構成された第一伝送線路16a、第二伝送線路16b及び第三伝送線路16cによって、分配回路12と第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17cとを容易に接続できる。従って、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を更に高めることができる。
【0160】
また、第一伝送線路16a、第二伝送線路16b及び第三伝送線路16cとして、同軸ケーブル又はシールドケーブルが用いられることで、対応する送電部に対するこれら伝送線路の取り付け、取り外しを容易に行うことができる。これにより、工場内における送電部のレイアウト変更を容易に行うことができる。また、工場内の電動モビリティ2に対し走行中給電を行う場合、一度送電部を埋設すると、工場内のレイアウトの自由度が制限されたり、そのレイアウト変更が困難であったりするが、少なくとも高周波電源11や分配回路12の位置の変更や各伝送線路の配線レイアウトの変更を容易に行うことができる。
【0161】
(7)分配回路12には、第一送電部17aに接続される第一伝送線路16a、第二送電部17bに接続される第二伝送線路16b及び第三送電部17cに接続される第三伝送線路16cのそれぞれに対応して、対応する伝送線路へ送電を行い、また、その送電を停止するためのスイッチ(第一スイッチ13a、第二スイッチ13b及び第三スイッチ13c)が設けられている。そして、対応する送電部による電力の送信を行うか否かに基づいて、それぞれのスイッチが制御部18により制御される。
【0162】
これにより、電力の送信を行わない(例えば、ワイヤレス結合器が構成されてない)送電部に接続される伝送線路に対して送電を停止するようにスイッチを制御することで、そのような状態にある送電部に対して電力が供給されることを抑制できる。よって、無駄に電力が消費されることを抑制でき、また、送電部から不要な電磁波が漏洩することを抑制できる。従って、省エネルギー化を図ることができ、また、安全性を確保できる。
【0163】
(8)高周波電源11と、分配回路12とが、電源ユニット5として同一の筐体内に設けられる。これにより、高周波電源11と分配回路12とをまとめて、送電部より距離を置いて設置できる。よって、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度をより向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化をより図ることができる。また、制御部18もあわせて電源ユニット5として同一の筐体内に設置されるので、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度をより向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化をより図ることができる。
【0164】
そのほか、送電装置10及び非接触給電システム1は、上記の説明の中で個々に説明した構成に基づき、その構成に対して説明した効果を享受する。
【0165】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、以下に説明する変形例を含む各実施の形態は、それぞれ、他の実施の形態が有する構成の一部又は複数部分を、その実施の形態に追加し或いはその実施の形態の構成の一部又は複数部分と交換等することにより、その実施の形態を変形して構成するようにしても良い。また、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0166】
上記実施の形態では、送電装置10が1つの高周波電源11に対して3つの送電部(第一送電部17a、第二送電部17b及び第三送電部17c)に対して分配回路12により電力を分配する場合について説明した。これに対し、送電装置10は、1つの高周波電源11に対し、2以上の複数の送電部に対して分配回路12により電力を分配するものであってよい。この場合、スイッチ、伝送線路、伝送線路用補償回路及び結合器用補償回路は、それぞれの送電部に対応して設けられる。そして、各伝送線路用補償回路は、対応する送電部に接続される伝送線路とあわせて変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。また、結合器用補償回路は、対応する送電部により構成されるワイヤレス結合器とあわせて変成器又はジャイレータの特性となるように構成される。
【0167】
上記実施の形態では、別個の電動モビリティ2に設けられた3つの受電装置(第一受電装置20a、第二受電装置20b及び第三受電装置20c)を例に、非接触給電システム1の構成を説明したが、非接触給電システム1において送電装置10より電力を受信可能な受電装置の数は1以上の任意の数であってよい。
【0168】
上記実施の形態では、複数の受電装置のそれぞれが、複数の送電部のいずれとも、その受電装置の受電部とワイヤレス結合器を構成し得る場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、少なくとも一の受電装置が、その受電装置の受電部とワイヤレス結合器を構成し得る送電部を、複数の送電部の中から限定されるものであってもよい。図17図19に示した設計例では、上下方向に3段並んで図示されたワイヤレス結合器に対し、負荷抵抗Rl1及び負荷抵抗Rl2に対して給電可能なワイヤレス結合器は上2段に限定され、負荷抵抗Rl3に対して給電可能なワイヤレス結合器は下一段に限定される。そして、このような場合であっても、1つの高周波電源11から各ワイヤレス結合器の送電部に対して、分配回路12から高周波電力を分配でき、本発明の効果を享受できる。
【0169】
上記実施の形態では、伝送線路用補償回路が分配回路12内に設けられる場合について説明したが、伝送線路用補償回路は分配回路12とは異なる回路として設けられつつ、分配回路12と一緒に電源ユニット5として同一の筐体内に設けられてもよい。これによっても、伝送線路用補償回路を設置する場所を別途設ける必要がなく、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化を図ることができる。
【0170】
上記実施の形態では、結合器用一次側補償回路が分配回路12内に設けられる場合について説明したが、結合器用一次側補償回路は分配回路12とは異なる回路として設けられつつ、分配回路12と一緒に電源ユニット5として同一の筐体内に設けられてもよい。これによっても、結合器用一次側補償回路を設置する場所を別途設ける必要がなく、高周波電源11と送電部とのレイアウトの自由度を向上させることができると共に、送電装置10が設けられるエリアにおける当該送電装置10の省スペース化を図ることができる。
【0171】
上記実施の形態では、制御部18が高周波電源11及び分配回路12と共に、電源ユニット5の筐体内に設けられる場合について説明したが、制御部18は、電源ユニット5の筐体の外部に設けられてもよい。例えば、電動モビリティ2の走行を管理するコンピュータが別途設けられている場合は、当該コンピュータに制御部18が構築されてもよい。
【符号の説明】
【0172】
1 非接触給電システム
2 電動モビリティ
5 電源ユニット
10 送電装置
11 高周波電源
12 分配回路
13a 第一スイッチ
13b 第二スイッチ
13c 第三スイッチ
14a 第一結合器用補償回路
14b 第二結合器用補償回路
14c 第三結合器用補償回路
15a 第一伝送線路用補償回路
15b 第二伝送線路用補償回路
15c 第三伝送線路用補償回路
16a 第一伝送線路
16b 第二伝送線路
16c 第三伝送線路
17a 第一送電部
17b 第二送電部
17c 第三送電部
18 制御部
20a 第一受電装置
20b 第二受電装置
20c 第三受電装置
21a 第一受電部
21b 第二受電部
21c 第三受電部
30a 第一ワイヤレス結合器
30b 第二ワイヤレス結合器
30c 第三ワイヤレス結合器
41 変成器
42 変成器
43 ジャイレータ
44 変成器
45 変成器
46 変成器
141a 第一結合器用一次側補償回路
141b 第二結合器用一次側補償回路
141c 第三結合器用一次側補償回路
142a 第一結合器用二次側補償回路
142b 第二結合器用二次側補償回路
142c 第三結合器用二次側補償回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19