(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158357
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ガスセンサユニット
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073503
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 将成
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BJ03
2G004BK05
2G004BL08
(57)【要約】
【課題】酸素イオンの移動に伴う起電力変化を考慮してインピーダンスを精度よく検出する。
【解決手段】本開示のガスセンサユニット10は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けた検出セル21を有し、特定ガス濃度に応じた起電力を出力するガスセンサユニット10であって、検出セル21に対して、パルス信号を印加するパルス印加手段と、パルス信号の印加時の第1電圧V o u t
1を取得する第1電圧取得手段と、パルス信号の印加を終了してから、時間t
a経過時の第2電圧V o u t
2を取得する第2電圧取得手段と、第2電圧V o u t
2を用いて第1電圧V o u t
1を補正することによりインピーダンスR iを算出するインピーダンス算出手段と、を備え、パルス信号の印加を終了してから、酸素イオンの移動に伴う検出セル21の起電力変化Δ 1がゼロになるまでの時間をt
bとしたときに、時間t
aは時間t
bよりも短い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けたセルを有し、特定ガス濃度に応じた起電力を出力するガスセンサユニットであって、
前記セルに対して、パルス信号を印加するパルス印加手段と、
前記パルス信号印加時の第1電圧V 1を取得する第1電圧取得手段と、
前記パルス信号の印加を終了してから、時間t a経過時の第2電圧V 2を取得する第2電圧取得手段と、
前記第2電圧V 2を用いて前記第1電圧V 1を補正することによりインピーダンスR iを算出するインピーダンス算出手段と、を備え、
前記パルス信号の印加を終了してから、酸素イオンの移動に伴う前記セルの起電力変化Δ 1がゼロになるまでの時間をt bとしたときに、前記時間t aは前記時間t bよりも短い、ガスセンサユニット。
【請求項2】
前記パルス信号を印加する通電時間Tは前記時間t bよりも短く、前記時間t aは前記通電時間Tよりも短い、請求項1に記載のガスセンサユニット。
【請求項3】
前記時間t aよりも長く前記時間t bよりも短い時間をt a′とし、前記パルス信号の印加を終了してから、前記時間t a′経過時の第3電圧V 3を取得する第3電圧取得手段をさらに備え、
前記インピーダンス算出手段は、前記第2電圧V 2と前記第3電圧V 3を用いて前記第1電圧V 1を補正することによりインピーダンスR iを算出する、請求項1または請求項2に記載のガスセンサユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサやA/Fセンサ等の空燃比センサが知られている。また、自動車の排気ガス規制の強化に伴い、排気ガス中の窒素酸化物(NOX)量の低減が要求されており、NOX濃度を直接測定できるNOXセンサが開発されている。これらのガスセンサは、ジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質体の表面に一対の電極を形成してなるセルを有し、このセルからの出力に基づいて特定ガスの濃度検出を行っている。
【0003】
これらのガスセンサとして、固体電解質体の外面に測定対象ガスに晒される測定電極を形成し、その固体電解質体の内面に基準ガスに晒される基準電極を形成した構成をなし、測定対象ガス中の酸素濃度を基準ガス中の酸素濃度との差に基づいて検出する酸素センサが知られている。固体電解質体を用いた酸素センサを適正に使用するためには、酸素センサ内に搭載したヒータを制御して酸素センサが酸素濃度を正しく測定できる温度(活性化温度)に制御する必要がある。このため、内燃機関動作中は酸素センサが目標とする制御温度を維持するようにヒータを制御する必要がある。
【0004】
一般に固体電解質体の温度とインピーダンスとには相関性があるため、インピーダンス測定によって目標温度で安定しているかどうかを判断してヒータを制御する。インピーダンス測定は、パルス電圧の印加により生じる電位の変化とパルス電流値から算出する方法が用いられる。例えば、特開2000-258387号公報(下記特許文献1)には、インピーダンス検出手段により検出された高周波インピーダンスに基づいてセル温度を目標温度に調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固体電解質体にパルス電圧を印加すると、それによるパルス電流が流れることで酸素イオンの移動が生じることから、酸素分圧の変化が生じ、固体電解質体の起電力が変化する。そのため、このときの起電力変化も含んだ電位をインピーダンス算出に用いると、正しいインピーダンスを測定できなくなってしまう。特に、理論空燃比(以下「ストイキ」という)近傍で起電力が大きく変化するようなバイナリタイプのセンサでは、ストイキ近傍で過大または過小なインピーダンスが算出されることとなり、これが温度制御に大きく影響することがある。
【0007】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、酸素イオンの移動に伴う起電力変化を考慮してインピーダンスを精度よく検出できるガスセンサユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のガスセンサユニットは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けたセルを有し、特定ガス濃度に応じた起電力を出力するガスセンサユニットであって、前記セルに対して、パルス信号を印加するパルス印加手段と、前記パルス信号印加時の第1電圧V 1を取得する第1電圧取得手段と、前記パルス信号の印加を終了してから、時間t a経過時の第2電圧V 2を取得する第2電圧取得手段と、前記第2電圧V 2を用いて前記第1電圧V 1を補正することによりインピーダンスR iを算出するインピーダンス算出手段と、を備え、前記パルス信号の印加を終了してから、酸素イオンの移動に伴う前記セルの起電力変化Δ 1がゼロになるまでの時間をt bとしたときに、前記時間t aは前記時間t bよりも短い、ガスセンサユニットである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、酸素イオンの移動に伴う起電力変化を考慮してインピーダンスを精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ガスセンサユニットの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、検出セルの検出原理を示す図である。
【
図3】
図3は、単一パルス電圧の波形、および検出セルの第1電圧と第2電圧を取得する方法を示す図である。
【
図4】
図4は、検出セルの検出状態を示す図である。
【
図5】
図5は、パルスONからOFFに切り替わった直後の波形を拡大して示す図である。
【
図6】
図6は、インピーダンスを算出する手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、状態S 1と状態S 0の電位差に基づいてインピーダンスを算出したグラフである。
【
図8】
図8は、
図7のグラフを、平均値からのずれ量で書き直したものである。
【
図9】
図9は、状態S 2と状態S 1の電位差に基づいてインピーダンスを算出したグラフである。
【
図11】
図11は、リーン側における単一パルス電圧の実波形を示す図である。
【
図12】
図12は、リッチ側における単一パルス電圧の実波形を示す図である。
【
図13】
図13は、単一パルス電圧の波形、および検出セルの第2電圧と第3電圧を取得する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示のガスセンサユニットは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けたセルを有し、特定ガス濃度に応じた起電力を出力するガスセンサユニットであって、前記セルに対して、パルス信号を印加するパルス印加手段と、前記パルス信号印加時の第1電圧V 1を取得する第1電圧取得手段と、前記パルス信号の印加を終了してから、時間t a経過時の第2電圧V 2を取得する第2電圧取得手段と、前記第2電圧V 2を用いて前記第1電圧V 1を補正することによりインピーダンスR iを算出するインピーダンス算出手段と、を備え、前記パルス信号の印加を終了してから、酸素イオンの移動に伴う前記セルの起電力変化Δ 1がゼロになるまでの時間をt bとしたときに、前記時間t aは前記時間t bよりも短い、ガスセンサユニットである。
【0013】
セルに対してパルス信号が印加されると、信号印加による電位変化に、酸素イオンの移動に伴う起電力変化Δ 1が加わることになる。一方、パルス信号の印加が終了すると、信号印加による電位変化はすぐにゼロになるものの、酸素イオンの移動に伴う起電力変化Δ 1は時間t bをかけながらゼロになる。上記の構成によると、時間t bよりも短い時間t a経過時の第2電圧V 2を用いて第1電圧V 1を補正しているから、補正しない場合に比べて起電力変化Δ 1による影響を抑制でき、インピーダンスR iを精度よく検出できる。
【0014】
[2]前記パルス信号を印加する通電時間Tは前記時間t bよりも短く、前記時間t aは前記通電時間Tよりも短いことが好ましい。
【0015】
時間t aは通電時間Tよりも短いから、インピーダンスR iをさらに精度よく検出できる。
【0016】
[3]前記時間t aよりも長く前記時間t bよりも短い時間をt a′とし、前記パルス信号の印加を終了してから、前記時間t a′経過時の第3電圧V 3を取得する第3電圧取得手段をさらに備え、前記インピーダンス算出手段は、前記第2電圧V 2と前記第3電圧V 3を用いて前記第1電圧V 1を補正することによりインピーダンスR iを算出することが好ましい。
【0017】
第2電圧V 2と第3電圧V 3を用いて第1電圧V 1を補正しているから、第2電圧V 2だけを用いて第1電圧V 1を補正するよりも精度よくインピーダンスR iを検出できる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のガスセンサユニットの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張または簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率については各図面で異なる場合がある。また、本明細書における「平行」や「垂直」や「直交」は、厳密に平行や垂直や直交の場合のみでなく、本実施形態における作用ならびに効果を奏する範囲内で概ね平行や垂直や直交の場合も含まれる。
【0019】
(実施形態1)
図1は、本開示の実施形態に係るガスセンサユニット10の構成を示す概略図である。ガスセンサユニット10は、ガスセンサ20と、電子制御ユニット(ECU)100と、を備える。電子制御ユニット100はガスセンサ20に接続され、ガスセンサ20はエンジンの排気管に取り付けられている。本実施形態では、排気ガスが流れる流路として排気管を挙げているが、その他にも、排気ガスの一部を吸気管に戻し、新気と排気ガスとを混ぜて燃焼室にガスを供給する流路にガスセンサ20を取り付けてもよい。ガスセンサ20は、測定対象ガス(排気ガス)中の酸素濃度を検出する検出セル21と、検出セル21を活性化温度に保つためのヒータ22と、を備え、いわゆるλセンサとして空燃比に応じた出力信号を出力する。
【0020】
検出セル21は、
図2に示すように、部分安定化ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質体23、および、固体電解質体23の両側に設けられた一対の電極(酸素基準電極24および検知電極25)を備えている。各電極24,25は例えば主として白金で形成することができる。そして、固体電解質体23の内面に形成されるとともに基準ガス(具体的には大気)に晒された酸素基準電極24と、固体電解質体23の外面に形成されるとともに測定対象ガスに晒された検知電極25と、の間で酸素濃度差に応じて起電力が生じ、この起電力を検知することで酸素濃度、ひいては空燃比を検出することができる。
【0021】
ヒータ22は、検出セル21の内側(酸素基準電極24を基準として検知電極25と反対側)に配置されている。ヒータ22は、例えばアルミナ層の内部に白金を主体とする材料にて形成されたヒータ配線(図示せず)を備えて構成されている。ヒータ22は、ヒータ制御回路60から供給される電力により、検出セル21の温度が目標の活性化温度となるように制御される。また、ヒータ配線の一端は、ヒータ制御回路60に電気的に接続され、ヒータ配線の他端はバッテリ50に接続されている。そして、ヒータ22による加熱によって検出セル21が活性化し、酸素濃度検出(空燃比検出)が早期に可能となる。
【0022】
電子制御ユニット100は、ガスセンサ20(検出セル21)からのセンサ出力を検出する出力検出回路30、パルス打ち込み回路(パルス印加手段の一例)40、ヒータ22を制御するヒータ制御回路60、および電子制御ユニット100全体を制御するマイクロコンピュータ(マイコン)70を備えている。マイコン70は、ヒータ制御回路60に接続され、検出セル21の温度が活性化温度となるようにヒータ制御回路60を制御する。マイコン70は、出力検出回路30、パルス打ち込み回路40にもそれぞれ接続されている。マイコン70は、第1電圧取得手段、第2電圧取得手段、第3電圧取得手段、およびインピーダンス算出手段の一例である。
【0023】
出力検出回路30は、検出セル21からのセンサ出力(起電力、電圧)を検出する回路であり、抵抗器等を用いた公知の回路構成からなる。出力検出回路30は、検出したセンサ出力をマイコン70に出力する。
【0024】
マイコン70は、中央演算処理装置としてのCPU71と、データやプログラム等を格納する記憶部(ROM72、RAM73)と、外部機器との間で信号の入出力を行う各種入出力ポート74,75,76と、を備える公知のマイクロコンピュータで構成することができる。マイコン70は、記憶部に格納されたプログラムに基づいてCPU71が各種演算を実行し、演算やデータ転送等の命令の実行を制御する。また、マイコン70は、入力ポート(A/Dポート75)に入力された信号を、入力ポート用レジスタの内容に反映し、出力ポート用レジスタに格納された内容を、出力ポート(I/Oポート74、PWMポート76)に信号として出力する。
【0025】
そして、マイコン70は、出力検出回路30を介して得られたセンサ出力(起電力、電圧)に基づき、酸素濃度、ひいては空燃比を演算する。マイコン70は、空燃比がリッチであるかリーンであるかを判定し、エンジンの燃焼制御等を実行することで、内燃機関の運転状態を制御する。
【0026】
また、マイコン70は、後述する起電力の計算式に基づいてインピーダンスR iを算出し、このインピーダンスR iに応じて、ヒータ22の通電指令をヒータ制御回路60に出力してヒータ通電制御処理を実行する。
【0027】
ヒータ制御回路60はトランジスタを備え、トランジスタのコレクタはヒータ22の一端に接続され、エミッタが所定の抵抗を介して接地され、ベースがマイコン70に接続されている。このため、トランジスタをONにする電圧レベルの信号をマイコン70がトランジスタのベースへ出力している間は、バッテリ50から電圧が供給されヒータ22が発熱する。一方、マイコン70がON信号の出力を停止すると、トランジスタがオフ状態となりヒータ22の加熱が停止される。なお、マイコン70は、通電率で決まる上記ON信号をPWMポート76からヒータ制御回路60に出力し、ヒータ制御回路60がON信号に従ってON・OFFすることで、ヒータ22への通電量がPWM制御されている。なお、ヒータ制御回路60は、トランジスタで構成されるものに限定されず、FET等を用いて構成してもよい。
【0028】
(検出セルの検出原理)
図2を参照しながら検出セル21の検出原理を説明する。検出セル21は、固体電解質体23と、それを挟むように配置された酸素基準電極24および検知電極25と、を備えている。両電極24,25間に、酸素濃度に応じた起電力が発生する。検出セル21は、大気中のCO
2やH
2Oから酸素を汲み入れ、または大気へ酸素を汲み出すように機能する。このようなガスセンサ20では、検出セル21の両電極24,25間にポンプ電流I c pが流れると、検知電極25側から酸素基準電極24側に向けてO
2-イオン(酸素イオン)が移動する。そして検知電極25側と酸素基準電極24側との間に酸素濃度差が生じる。マイコン70は、この酸素濃度差によって生じる起電力に基づいて、排気ガス中の酸素濃度や空燃比λを算出する。
【0029】
(起電力の計算式)
検出セル21から出力される起電力は下記計算式(ネルンストの式)にしたがって算出される。
E M F = ( R T / n F ) * l n ( P R / P M )
R:気体定数[ J / m o l / K ]
T:絶対温度[ K ]
n:反応に含まれる電子数
F:ファラデー定数[ C / m o l ]
P R:酸素基準電極側の酸素濃度[ % ]
P M:検知電極側の酸素濃度[ % ]
【0030】
(インピーダンスR iの算出方法)
次に、
図3および
図4を参照し、検出セル21のインピーダンスR iを検出するための波形およびインピーダンスR iの算出方法について説明する。なお、
図3の横軸は時間を示し、縦軸は起電力(電圧)を示す。
【0031】
まず、単一パルス電圧(パルス信号の一例であって、以下「パルス電圧」という)は、通電時間T(パルスON)にわたって印加される矩形波である。すなわち、通電時間Tはパルス電圧を印加する時間のことである。マイコン70で算出したデジタルデータは、I/Oポート74からパルス打ち込み回路40に出力(パルス出力)される。これにより、矩形状のパルス電圧が、パルス打ち込み回路40によって、出力検出回路30を介して検出セル21に印加される。
【0032】
図3では、パルス電圧印加開始前の状態をS 0とし、パルス電圧印加開始後、時間t
1経過時の状態をS 1とし、パルス電圧印加終了後、時間t
a経過時の状態をS 2とし、パルス電圧印加終了後、時間t
b経過時の状態をS 3とし、その後、パルス電圧印加開始前の状態をS 4とし、パルス電圧印加終了直前の状態をS 5とする。状態S 0と状態S 3と状態S 4の起電力はいずれもE M F
0で同じである。また、状態S 0と状態S 4は同じで、状態S 1と状態S 5は同じである。
【0033】
状態S 0では、排気ガス中の酸素濃度に応じた起電力E M F
0が発生しており、
図4(A)は状態S 0での検出セル21の状態を示しており、検知電極25側と酸素基準電極24側の酸素濃度が安定している。排気ガス中の酸素が検知電極25に取り込まれるとともに、起電力E M F
0(ポンプ電流I c p)により酸素イオンが検知電極25側から酸素基準電極24側に移動している。排気ガス中のCO
2とH
2Oから検知電極25に酸素が取り込まれて増加した分と、検知電極25側から酸素基準電極24側に酸素イオンが移動して減少した分と、がつり合っているため、検知電極25側の酸素濃度は一定となっている。
【0034】
パルス電圧の印加を開始すると、パルス電圧とガスセンサ20のインピーダンスに基づいてパルス電流I r iが流れ、パルス電流I r iにより検知電極25側から大量の酸素イオンが酸素基準電極24側へと移動するため、検知電極25側の酸素濃度P
M 1は徐々に低くなる。状態S 1は、パルス電圧がONになってから、通電時間Tよりも短い時間t
1経過時(パルス電圧印加時)の状態である。
図4(B)は状態S 1での検出セル21の状態を示しており、検知電極25側から酸素基準電極24側へと大量の酸素イオンが移動した状態となっている。
【0035】
ネルンストの式によると、状態S 1の起電力E M F
1は以下の式(1)のとおりである。
式(1):E M F
1 = ( R T / n F ) * l n ( P
R / P
M 1 )
P
M 1の値が小さくなるとl n ( P
R / P
M 1 )の値は大きくなる。したがって、起電力E M F
1はパルス電圧の印加開始直後から徐々に高くなる。
図3では、状態S 1における、酸素イオンの移動に伴う起電力上昇分をΔ 1と記載している。状態S 1の電圧を第1電圧V o u t
1とし、インピーダンスをR iとしたとき、第1電圧V o u t
1は以下の式(2)のように表すことができる。
式(2):V o u t
1 = E M F
0 + Δ 1 + R i * I r i
パルス電圧の印加を終了すると、まずパルス電流I r iに基づく電圧がなくなることで電位が大きく下がる。パルス電圧がOFFになると(パルス電圧の印加を終了すると)、排気ガスから酸素が生成され、検知電極25側の三相界面に酸素が徐々に到達し、検知電極25側の酸素濃度は徐々に回復する。状態S 2は、パルス電圧がOFFになってから、時間t
a経過時の状態であり、
図4(C)は状態S 2での検出セル21の状態を示している。ネルンストの式によると、状態S 2の起電力E M F
2は以下の式(3)のとおりである。
式(3):E M F
2 = ( R T / n F ) * l n ( P
R / P
M 2 )
P
M 2の値が大きくなるとl n ( P
R / P
M 2 )の値は小さくなる。したがって、起電力E M F
2はパルス電圧の印加終了直後から徐々に低くなる。これにより、起電力E M F
2は徐々に下がっていき、状態S 0の起電力E M F
0に戻ることになる。パルス電圧がOFFになってから、状態S 0の起電力E M F
0に戻るまでの時間をt
bとすると、時間t
aは時間t
bよりも短い。時間t
aは時間t
bの10分の1であることが好ましい。
【0036】
厳密には
図5に示すように、パルスONからOFFに切り替わった直後では、ローパスフィルターの時定数に対応する時間(時間t ′と時間 tとの差)が存在する。時間tは通電時間Tに等しく、時間t ′は時間tよりも長い。このため、時間t
aは時間t ′よりも後に設定することになる。
【0037】
図3では、状態S 2の電圧を第2電圧V o u t
2とし、第2電圧V o u t
2(起電力E M F
2)と起電力E M F
0との差をΔ 2と記載している。第2電圧V o u t
2は以下の式(4)のように表すことができる。
式(4):V o u t
2 = E M F
0 + Δ 2
第1電圧V o u t
1と第2電圧V o u t
2との差Δ V o u tを計算すると、以下の式(5)のようになる。
式(5):Δ V o u t = V o u t
1 - V o u t
2 = ( E M F
0 + Δ 1 + R i * I r i ) - (E M F
0 + Δ 2 )
= (Δ 1 - Δ 2 + R i * I r i )
ここで、時間t
a<<時間t
bの場合、P
M 1≒P
M 2となり、Δ 1≒Δ 2となるから、以下の式(6)のとおりになる。
式(6):Δ V o u t = V o u t
1 - V o u t
2 = R i * I r i
したがって、インピーダンスR iは以下の式(7)で算出できることになる。
式(7):R i = Δ V o u t / I r i
(インピーダンスR iの算出方法)
次に、
図6のフローチャートを参照し、インピーダンスR iの算出方法について説明する。マイコン70は、パルス出力をパルス打ち込み回路40に出力する。これにより、単一パルス電圧が検出セル21に印加され、パルスONとなる(ステップS1)。マイコン70は、パルスONになってから時間t
1が経過したか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2で「YES」であれば、マイコン70は、出力検出回路30を介して第1電圧V o u t
1を取得する(読み取る)(ステップS3)。一方、ステップS2で「NO」であれば、時間t
1が経過するまでステップS2の処理を繰り返す。
【0038】
次に、マイコン70は、通電時間Tが経過すると、パルス出力のパルス打ち込み回路40への出力を停止し、単一パルス電圧の検出セル21への印加を停止し、パルスOFFとなる(ステップS4)。マイコン70は、パルスOFFになってから時間t aが経過したか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5で「YES」であれば、マイコン70は、出力検出回路30を介して第2電圧V o u t 2を取得する(読み取る)(ステップS6)。一方、ステップS5で「NO」であれば、時間t aが経過するまでステップS5の処理を繰り返す。
【0039】
次に、マイコン70は、Δ V o u t = V o u t 1 - V o u t 2の算出を行い(ステップS7)、続けてR i = Δ V o u t / I r iの算出を行うことでインピーダンスR iを算出する(ステップS8)。
【0040】
(実施形態の効果確認)
図7と
図8は、Δ V o u t = V o u t
1 - V o u t
0の算出を行い、R i = Δ V o u t / I r iの算出を行うことでインピーダンスR iを算出したものである。インピーダンスR iの算出は、パルス幅を60μs、250μs、500μs、1000μsの4種類の条件で行った。
図7は、インピーダンスR iの実測値を示したグラフであり、
図8は、各条件におけるインピーダンスR iの平均値からのずれ量を示したグラフである。
【0041】
これらのグラフから、リッチ側(λ<1)では、リーン側(λ>1)に比べてインピーダンスR iが大きくなっており、パルス幅が長いほど、インピーダンスR iの変動が増大していることがわかる。つまり、パルス幅が長いほど、パルス電圧の印加時間(通電時間T)が長くなり、酸素イオンの移動量が大きくなり、酸素イオンの移動に伴う起電力上昇分が大きくなっていることを示している。
【0042】
図9と
図10は、Δ V o u t = V o u t
1 - V o u t
2の算出を行い、R i = Δ V o u t / I r iの算出を行うことでインピーダンスR iを算出したものである。インピーダンスR iの算出は、パルス幅を60μs、250μs、500μs、1000μsの4種類の条件で行った。
図9は、インピーダンスR iの実測値を示したグラフであり、
図10は、各条件におけるインピーダンスR iの平均値からのずれ量を示したグラフである。
【0043】
これらのグラフから、リッチ側(λ<1)では、リーン側(λ>1)に比べてインピーダンスR iがわずかに大きくなっているものの、
図7と
図8のグラフに比べると、インピーダンスR iの変動が大きく低減していることがわかる。また、パルス幅が長くなるに伴ってインピーダンスR iの変動が増大する様子は確認されなかった。これは、パルス電圧の印加時間(通電時間T)が長くなっても、Δ V o u t = V o u t
1 - V o u t
2の算出を行うことで酸素イオンの移動に伴う起電力上昇分V o u t
2をキャンセルできていることを示している。
【0044】
(実施形態2)
実施形態2は、インピーダンスR iの算出方法が実施形態1とは異なっており、実施形態1よりも精度よくインピーダンスR iを算出する方法について説明する。実施形態1と重複する説明については省略するものとし、実施形態1と同じ状態S 0 ~ S 5については実施形態1と同じ符号を用いるものとする。
【0045】
図13に示すように、パルス電圧印加終了後、時間t
a′経過時の状態をS 2′とする。時間t
a′は時間t
aよりも長く、時間t
bよりも短い。状態S 2′における電圧をV o u t
2′とする。状態S 2と状態S 2′を直線で結んだ一次関数を直線L 1とし、パルス波形のうちパルス電圧印加終了時の直線(詳細には
図5参照)を直線L 2とする。ここで、直線L 1と直線L 2の交点の状態をS 2″とする。状態S 2″の起電力E M F
2″から状態S 0の起電力E M F
0を減じたものをΔ 2″として算出する。
【0046】
実施形態2では、インピーダンスR iの算出においてΔ 2の代わりにΔ 2″を用いる。状態S 2″の電圧を第3電圧V o u t 2″とし、第3電圧V o u t 2″と起電力E M F 0との差をΔ 2″としている。第3電圧V o u t 2″は以下の式(4)″のように表すことができる。
式(4)″:V o u t 2″ = E M F 0 + Δ 2″
第1電圧V o u t 1と第3電圧V o u t 2″との差ΔV o u t″を計算すると、以下の式(5)″のようになる。
式(5)″:Δ V o u t″ = V o u t 1 - V o u t 2″ = ( E M F 0 + Δ 1 + R i * I r i ) - (E M F 0 + Δ 2″ )
= (Δ 1 - Δ 2″ + R i * I r i )
ここで、時間t a<<時間t bの場合、Δ 1≒Δ 2″となるから、以下の式(6)″のとおりになる。
式(6)″:Δ V o u t″ = V o u t 1 - V o u t 2″ = R i * I r i
したがって、インピーダンスR iは以下の式(7)″で算出できることになる。
式(7)″:R i = Δ V o u t″ / I r i
このようにすれば、実施形態1よりも酸素イオンの移動に伴う起電力上昇分V o u t 2″を精度よく算出できるため、実施形態1よりもインピーダンスR iを精度よく算出できる。
【0047】
(実施形態1,2の作用効果)
(1)本開示のガスセンサユニット10は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体23に一対の電極24,25を設けた検出セル21を有し、特定ガス濃度に応じた起電力を出力するガスセンサユニット10であって、検出セル21に対して、通電時間Tにわたって単一パルス電圧を印加するパルス打ち込み回路40と、単一パルス電圧印加時の第1電圧V o u t 1を取得するマイコン70の第1電圧取得手段と、単一パルス電圧の印加を終了してから、時間t a経過時の第2電圧V o u t 2を取得するマイコン70の第2電圧取得手段と、第2電圧V o u t 2を用いて第1電圧V o u t 1を補正することによりインピーダンスR iを算出するマイコン70のインピーダンス算出手段と、を備え、単一パルス電圧の印加を終了してから、酸素イオンの移動に伴う検出セル21の起電力変化Δ 1がゼロになるまでの時間をt bとしたときに、時間t aは時間t bよりも短い、ガスセンサユニット10である。
【0048】
検出セル21に対して単一パルス電圧が印加されると、電圧印加による電位変化に、酸素イオンの移動に伴う起電力変化Δ 1が加わることになる。一方、単一パルス電圧の印加が終了すると、電圧印加による電位変化はすぐにゼロになるものの、酸素イオンの移動に伴う起電力変化Δ 1は時間t bをかけながらゼロになる。上記の構成によると、時間t bよりも短い時間t a経過時の第2電圧V o u t 2を用いて第1電圧V o u t 1を補正しているから、補正しない場合に比べて起電力変化Δ 1による影響を抑制でき、インピーダンスR iを精度よく検出できる。
【0049】
(2)単一パルス電圧を印加する通電時間Tは時間t bよりも短く、時間t aは通電時間Tよりも短いことが好ましい。
【0050】
時間t aは通電時間Tよりも短いから、インピーダンスR iをさらに精度よく検出できる。
【0051】
(3)時間t aよりも長く時間t bよりも短い時間をt a′とし、単一パルス電圧の印加を終了してから、時間t a′経過時の第3電圧V o u t 2′を取得するマイコン70の第3電圧取得手段をさらに備え、マイコン70のインピーダンス算出手段は、第2電圧V o u t 2と第3電圧V o u t 2′を用いて第1電圧V o u t 1を補正することによりインピーダンスR iを算出することが好ましい。
【0052】
第2電圧V o u t 2と第3電圧V o u t 2′を用いて第1電圧V o u t 1を補正しているから、第2電圧V o u t 2だけを用いて第1電圧V o u t 1を補正するよりも精度よくインピーダンスR iを検出できる。
【0053】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・上記実施形態では電子制御ユニット100としてECUを例示したが、ECUとは別体に電子制御ユニットを設けてもよい。例えば、ガスセンサとECUとの間に、出力検出回路、パルス打ち込み回路、ヒータ制御回路、およびマイクロコンピュータを回路基板に搭載した別体の電子制御ユニットを設置してもよい。
【0055】
・上記実施形態ではパルス信号としてパルス電圧を印加していたが、パルス電流を印加してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10:ガスセンサユニット
20:ガスセンサ 21:検出セル(セル) 22:ヒータ 23:固体電解質体 24:酸素基準電極(電極) 25:検知電極(電極)
30:出力検出回路
40:パルス打ち込み回路(パルス印加手段)
50:バッテリ
60:ヒータ制御回路
70:マイコン(第1電圧取得手段、第2電圧取得手段、第3電圧取得手段、インピーダンス算出手段) 71:CPU 72:ROM 73:RAM 74:I/Oポート 75:A/Dポート 76:PWMポート
100:電子制御ユニット
I c p:ポンプ電流 I r i:パルス電流 R i:インピーダンス
T:通電時間 t 1,t a,t a′,t b:時間
V o u t 1:第1電圧(V 1) V o u t 2:第2電圧(V 2) V o u t 2′:第3電圧(V 3)
Δ 1,Δ 2,Δ 2″:起電力変化