(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158358
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/00 20120101AFI20241031BHJP
【FI】
F16H48/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073504
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克也
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA42
3J027FA46
3J027FB01
3J027HJ05
3J027HK09
3J027HK12
(57)【要約】
【課題】差動装置による差動発生時に実際の車両状態を考慮して差動が過大になることの予兆を検知すること。
【解決手段】動力源の動力が差動装置を介して左右の駆動輪に伝達される車両1の制御装置30であって、左右の駆動輪の車輪速差が所定値以上である場合に、左右の駆動輪のそれぞれにおける駆動輪軸重とタイヤ摩擦係数との積算値から求まるトルクに、車輪速差を積算した値の逐次累積値が、閾値以上であるか否かを判定し、逐次累積値が閾値以上であると判定された場合には、左右の駆動輪の差動が過大であることを車両の乗員に対して報知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の動力が差動装置を介して左右の駆動輪に伝達される車両の制御装置であって、
前記左右の駆動輪の車輪速差が所定値以上である場合に、前記左右の駆動輪のそれぞれにおける駆動輪軸重とタイヤ摩擦係数との積算値から求まるトルクに、前記車輪速差を積算した値の逐次累積値が、閾値以上であるか否かを判定し、
前記逐次累積値が閾値以上であると判定された場合には、前記左右の駆動輪の差動が過大であることを前記車両の乗員に対して報知する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、動力源の動力が差動装置を介して左右の駆動輪に伝達される車両において、左右の駆動輪のうちの片輪がスリップした状態では自動変速機によるシフトアップを制限するように制御を実行する制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成は、差動装置により左右の駆動輪が差動している状態において、差動が過大になることの予兆検知を行うものではなかった。左右の駆動輪が差動する際に差動が過大になる予兆を検知する場合には、実際の車両状態を考慮した予兆検知であることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、差動装置による差動発生時に実際の車両状態を考慮して差動が過大になることの予兆を検知することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動力源の動力が差動装置を介して左右の駆動輪に伝達される車両の制御装置であって、前記左右の駆動輪の車輪速差が所定値以上である場合に、前記左右の駆動輪のそれぞれにおける駆動輪軸重とタイヤ摩擦係数との積算値から求まるトルクに、前記車輪速差を積算した値の逐次累積値が、閾値以上であるか否かを判定し、前記逐次累積値が閾値以上であると判定された場合には、前記左右の駆動輪の差動が過大であることを前記車両の乗員に対して報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、差動発生時に左右の駆動輪における駆動輪軸重とタイヤ摩擦力とに基づいて求まる負荷を用いた判定処理を行うため、差動が過大になることの予兆を適切に報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態における車両を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、制御フローを示すフローチャート図である。
【
図3】
図3は、摩擦係数とスリップ率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態における車両の制御装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、実施形態における車両を模式的に示す図である。車両1は、前後左右に四つ車輪を有し、動力源の動力がディファレンシャル機構を介して駆動輪に伝達される。
【0011】
車両1は、左前輪11と、右前輪12と、左後輪13と、右後輪14と、第1積載荷重センサ21と、第2積載荷重センサ22と、第3積載荷重センサ23と、第4積載荷重センサ24とを備える。
【0012】
第1~第4積載荷重センサ21~24は、積載荷重を検出する。第1積載荷重センサ21は、左前輪11のサスペンションに取り付けられ、積載荷重の変化を検出する。例えば積載荷重はリーフスプリングの変位として検出される。第2積載荷重センサ22は、右前輪12のサスペンションに取り付けられ、積載荷重の変化を検出する。第3積載荷重センサ23は、左後輪13のサスペンションに取り付けられ、積載荷重の変化を検出する。第4積載荷重センサ24は、右後輪14のサスペンションに取り付けられ、積載荷重の変化を検出する。
【0013】
車両1は、車両1を制御する制御装置30を備える。制御装置30は、車両1に搭載された電子制御装置である。この制御装置30は、例えばCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコントローラを主要構成部品とした制御装置である。制御装置30には、第1~第4積載荷重センサ21~24からの信号が入力される。
【0014】
制御装置30は、車重予測部と、タイヤ摩擦係数予測部と、を備える。
【0015】
車重予測部は、駆動輪軸重を予測する。車重予測部は、積載荷重センサにより検出された積載荷重と、空車時の車両1の車重との和を算出する。算出された和が駆動輪軸重として予測されたものとなる。制御装置30は、第1~第4積載荷重センサ21~24から入力された信号を用いて駆動輪軸重を予測する。
【0016】
タイヤ摩擦係数予測部は、摩擦係数とスリップ率との相関関係を示すマップを用いて、タイヤ摩擦係数を予測する。スリップ率は、車輪速から車体速を減じた値を車体速で除した値である。制御装置30は、車両1の車体速と、車輪の車輪速とを用いてスリップ率を算出する。
【0017】
車両1は、車輪速を検出する車輪速センサと、車体速を検出する車体速センサとを備える。車輪速センサは、左前輪11の車輪速を検出する第1車輪速センサと、右前輪12の車輪速を検出する第2車輪速センサと、左後輪13の車輪速を検出する第3車輪速センサと、右後輪14の車輪速を検出する第4車輪速センサとを含む。車輪速センサと車体速センサとからの信号が制御装置30に入力される。
【0018】
制御装置30は、車輪速センサから入力された信号に基づいて車輪の回転速度(回転数)を検出する。また、制御装置30は、車体速センサから入力された信号に基づいて車両1の速度(車体速)を検出する。
【0019】
そして、制御装置30は、車両1に搭載された各種センサから入力された信号を用いて、左右の駆動輪の差動が過大になることの予兆を検知するとともに、その予兆を検知した場合にはその旨を車両1の乗員に報知する。
【0020】
図2は、制御フローを示すフローチャート図である。
図2に示す制御は制御装置30により実施される。
【0021】
制御装置30は、右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS1)。NRは、右車輪の回転数を表す。NLは、左車輪の回転数を表す。Nsadouは、ディファレンシャル機構による左右の駆動輪での差動発生を左右車輪速差により判定するための所定値である。この所定値は、予め設定された値である。ステップS1では、ディファレンシャル機構に連結された左右の駆動輪について、右車輪の回転数と左車輪の回転数との差の絶対値が所定値よりも大きいか否かが判定される。制御装置30、車輪速センサから入力された信号を用いて左右の駆動輪の回転数差を算出する。
【0022】
ステップS1において右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きくないと判定された場合(ステップS1:No)、この制御ルーチンはステップS1にリターンする。
【0023】
ステップS1において右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きいと判定された場合(ステップS1:Yes)、制御装置30は、ディファレンシャル機構による左右の駆動輪での差動が発生していると判定する(ステップS2)。ステップS2において制御装置30はディファレンシャル機構による差動が発生していると判断する。
【0024】
そして、制御装置30は、差動が発生していると判断すると、左右の駆動輪での差動発生からの連続逐次累積値が閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3では、左右の駆動輪のそれぞれにおける駆動輪軸重とタイヤ摩擦係数との積算値から求まるトルクに、左右の駆動輪の回転数差(車輪速差)を積算した値の逐次累積値が、閾値以上であるか否かが判定される。
【0025】
具体的には、制御装置30は、車重予測部により予測した駆動輪軸重と、タイヤ摩擦係数予測部により予測したタイヤ摩擦係数とを用いてトルクを算出する。このトルクは、「μR×MR+μL×ML」により表される。μRは、右タイヤの摩擦係数を表す。MRは、右タイヤの積載物を含めた分担荷重を表す。μLは、左タイヤの摩擦係数を表す。MLは、左タイヤの積載物を含めた分担荷重を表す。分担荷重は、車輪が分担する車体の荷重である。制御装置30は、
図3に示すように、スリップ率に対する摩擦係数を表すマップを用いて、摩擦係数を予測することができる。また、制御装置30は、このトルクに左右の車輪の回転数差を掛けた値の逐次累積値を算出する。この逐次累積値は、ステップS2により差動が発生していると判断されてからの累積値である。そして、制御装置30は、この逐次累積値が閾値よりも大きいか否かを判定する。Dsadouは、報知を行う逐次累積値である。
【0026】
連続逐次累積値が閾値よりも大きいと判定された場合(ステップS3:Yes)、制御装置30は、ディファレンシャル機構による左右の駆動輪での差動が過大であることを報知する(ステップS4)。ステップS4において、制御装置30は、左右の駆動輪による差動が過大になることの予兆を検知したと判断し、その旨を車両1の乗員に報知する。制御装置30は、車両1の車室内に設けられた表示装置などの報知装置に、差動が過大であることを示す情報を報知する。ステップS4の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0027】
一方、連続逐次累積値が閾値よりも大きくないと判定された場合(ステップS3:No)、制御装置30は、右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS5)。NRは、右車輪の回転数を表す。NLは、左車輪の回転数を表す。Nsadouは、ディファレンシャル機構による左右の駆動輪での差動発生を左右車輪速差により判定するための所定値である。この所定値は、予め設定された値である。ステップS5では、ディファレンシャル機構に連結された左右の駆動輪について、右車輪の回転数と左車輪の回転数との差の絶対値が所定値よりも大きいか否かが判定される。制御装置30、車輪速センサから入力された信号を用いて左右の駆動輪の回転数差を算出する。
【0028】
ステップS5において右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きいと判定された場合(ステップS5:Yes)、この制御ルーチンはステップS3にリターンする。
【0029】
ステップS5において右車輪の回転数と左車輪の回転数との回転数差が所定値よりも大きくないと判定された場合(ステップS5:No)、この制御ルーチンはステップS1にリターンする。
【0030】
このように、左右の駆動輪の車輪速度差が所定値Nsadouを上回った場合、制御装置30は、車体速と車輪速との差を車体速で除したスリップ率を用いて、このスリップ率に対する摩擦係数を予測する。さらに、制御装置30は、空車時の分担荷重と積載荷重センサにより計測された荷重との和を算出する。そして、制御装置30は、左右の駆動輪ごとに、予測した摩擦係数と荷重の和との積を算出し、その左右の駆動輪に対する積の合計値を算出する。加えて、制御装置30は、その合計値に左右の駆動輪の回転数差を掛けて、所定時間ごとに逐次積算した値を求める。そのうえで、制御装置30は、その逐次積算した値が、所定値Dsadouを超えたときに報知を行う。
【0031】
以上説明した通り、実施形態によれば、左右の駆動輪で差動が発生した際、実際の車両状態に基づいて負荷を算出しているため、適切な報知を行うことができる。
【0032】
なお、積載荷重センサは、各車輪のサスペンションに取り付けられるものに限定されない。例えば、車両1の車室内に設けられた各座席に積載荷重センサが設けられてもよい。つまり、積載荷重センサは座席に設けられた荷重センサ、いわゆる着座センサであってもよい。
【0033】
また、制御装置30による予兆検知は、AI(人工知能)や機械学習を用いても実施されてもよい。
【0034】
また、摩擦係数のマップは、
図3に示すように、スリップ率と走行距離とに対して設定されてもよい。このマップは、走行距離が長くなるにつれて、同じスリップ率に対する摩擦係数が小さくなる特性を有する。
【0035】
また、駆動輪軸重は、いわゆる駆動輪に作用する接地荷重である。そのため、各駆動輪に対して設けられた軸重センサにより駆動輪軸重が検出される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 車両
11 左前輪
12 右前輪
13 左後輪
14 右後輪
21 第1積載荷重センサ
22 第2積載荷重センサ
23 第3積載荷重センサ
24 第4積載荷重センサ
30 制御装置