(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015836
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】不動産取引の価格予測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/16 20240101AFI20240130BHJP
【FI】
G06Q50/16
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118168
(22)【出願日】2022-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】513055964
【氏名又は名称】株式会社コーニッシュ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】今村 健人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】山口 琢己
(72)【発明者】
【氏名】田中 高士
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC27
(57)【要約】
【課題】不動産の物件の取引価格を精度良く予測することができる価格予測装置及び方法を提供する。
【解決手段】価格予測装置は、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する取得インタフェースと、取得インタフェースから取得された物件情報に基づいて、取引価格の予測値を算出する演算回路とを備える。演算回路は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、取得された物件情報(S1)と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出する(S2)。演算回路は、抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築する(S3)。演算回路は、構築した回帰モデルに、取得された物件情報を入力して、取引価格の予測値を出力させる(S4)。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動産の物件の取引価格を予測する価格予測装置であって、
前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する取得インタフェースと、
前記取得インタフェースから取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出する演算回路とを備え、
前記演算回路は、
物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、
抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、
構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる
価格予測装置。
【請求項2】
前記複数の要因は、物件所在地、物件名、物件種別、土地面積、建物延床面積、築年数、建物構造、用途地域、建ぺい率、容積率及び路線価のうちの少なくとも2つを含む
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項3】
前記取引価格は、不動産の事業者が物件を仕入れる購入価格を含む
請求項1または2に記載の価格予測装置。
【請求項4】
前記所定の類似基準は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記複数の要因における2以上の要因の値がそれぞれ共通または所定差以内であるか否かに応じて、類似か否かを決定する
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項5】
前記演算回路は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記所定の類似基準に基づいて、前記複数の要因における2要因の組合せ毎に各要因を比較する
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項6】
前記回帰モデルは線形回帰モデルである、請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項7】
前記回帰モデルはベイズ回帰モデルである、請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項8】
不動産の物件の取引価格を予測する価格予測方法であって、
コンピュータが、前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得すること、及び
前記コンピュータの演算回路が、前記取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出することを含み、
前記演算回路は、
物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、
抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、
構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる
価格予測方法。
【請求項9】
請求項8に記載の価格予測方法をコンピュータの演算回路に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動産の物件の取引価格を予測する価格予測装置及び方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、不動産に関して過去に蓄積された実績データに基づき、集合住宅を建築して賃貸運営する場合の収支額を算出する不動産事業計画支援装置を開示している。当該装置は、集合住宅の建築費、賃貸運営による収入額及び支出額の各々について、集合住宅の仕様または賃貸物件の条件を表す複数の変数(項目)を用いた重回帰分析により、試算を行うことで、各試算結果に基づいて収支額の推計結果を算出する。特許文献1の装置は、実績データにおける1回目の機械学習で得られた回帰方程式による試算結果と、実績との誤差が大きい物件を除外して2回目の機械学習を行い、回帰方程式を修正する。これにより、当該装置は、修正された回帰方程式による各試算結果に基づいて収支額を算出し、推計結果の信頼性を向上させることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置は、機械学習により集合住宅に関して汎用的に適用可能な回帰方程式を求めるために、十分に多い物件数の実績データが得られることを前提としており、実績データの物件数が少ない場合等に精度良い推計を実現し難いことに本発明者は着目した。
【0005】
本発明は、不動産の物件の取引価格を精度良く予測することができる価格予測装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る価格予測装置は、不動産の物件の取引価格を予測する。価格予測装置は、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する取得インタフェースと、取得インタフェースから取得された物件情報に基づいて、取引価格の予測値を算出する演算回路とを備える。演算回路は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出する。演算回路は、抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築する。演算回路は、構築した回帰モデルに、取得された物件情報を入力して、取引価格の予測値を出力させる。
【0007】
本発明の一態様に係る価格予測方法は、不動産の物件の取引価格を予測する方法である。価格予測方法は、コンピュータが、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得すること、及びコンピュータの演算回路が、取得された物件情報に基づいて、取引価格の予測値を算出することを含む。演算回路は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出する。演算回路は、抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築する。演算回路は、構築した回帰モデルに、取得された物件情報を入力して、取引価格の予測値を出力させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る価格予測装置及び方法によれば、不動産の物件の取引価格を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る価格査定システムを説明するための図
【
図2】価格査定システムにおけるクライアント端末の構成を例示するブロック図
【
図3】価格査定システムにおける価格算出サーバの構成を例示するブロック図
【
図4】価格査定システムの動作例を説明するための図
【
図5】価格査定システムにおける物件情報を説明するための図
【
図6】価格算出サーバの動作を例示するフローチャート
【
図7】価格算出サーバにおける事前物件群の抽出処理を例示するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の態様)
本発明の第1態様によれば、不動産の物件の取引価格を予測する価格予測装置であって、前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する取得インタフェースと、前記取得インタフェースから取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出する演算回路とを備え、前記演算回路は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる、価格予測装置が提供される。
【0011】
本発明の第2態様によれば、前記複数の要因は、物件所在地、物件名、物件種別、土地面積、建物延床面積、築年数、建物構造、用途地域、建ぺい率、容積率及び路線価のうちの少なくとも2つを含む、第1態様に記載の価格予測装置が提供される。
【0012】
本発明の第3態様によれば、前記取引価格は、不動産の事業者が物件を仕入れる購入価格を含む、第1態様または第2態様に記載の価格予測装置が提供される。
【0013】
本発明の第4態様によれば、前記所定の類似基準は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記複数の要因における2以上の要因の値がそれぞれ共通または所定差以内であるか否かに応じて、類似か否かを決定する、第1態様から第3態様のいずれか1つに記載の価格予測装置が提供される。
【0014】
本発明の第5態様によれば、前記演算回路は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記所定の類似基準に基づいて、前記複数の要因における2要因の組合せ毎に各要因を比較する、第1態様から第4態様のいずれか1つに記載の価格予測装置が提供される。
【0015】
本発明の第6態様によれば、前記回帰モデルは線形回帰モデルである、第1態様から第5態様のいずれか1つに記載の価格予測装置が提供される。
【0016】
本発明の第7態様によれば、前記回帰モデルはベイズ回帰モデルである、第1態様から第6態様のいずれか1つに記載の価格予測装置が提供される。
【0017】
本発明の第8態様によれば、不動産の物件の取引価格を予測する価格予測方法であって、コンピュータが、前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得すること、及び前記コンピュータの演算回路が、前記取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出することを含み、前記演算回路は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、抽出した取引事例群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる、価格予測方法が提供される。
【0018】
本発明の第9態様によれば、第8態様に記載の価格予測方法をコンピュータの演算回路に実行させるためのプログラムが提供される。
【0019】
以下、添付の図面を参照して実施の形態に係る価格予測装置を説明する。以下の説明では、同様の構成要素には同一の符号を付している。それらの重複する説明については適宜、省略する。
【0020】
(実施形態1)
実施の形態1では、本発明の価格予測装置を用いる一例として、不動産の取引における物件の情報から取引価格を予測してユーザに提示する価格査定システムについて説明する。
【0021】
1.構成
実施形態1に係る価格査定システムについて、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る価格査定システム1の概要を説明するための図である。
【0022】
本実施形態の価格査定システム1は、例えば不動産開発会社等の不動産事業者が物件を取引する際に、物件の取引価格を査定する用途に適用される。本システム1は、例えば、
図1に示すように、査定対象の物件に関する物件情報を入力するクライアント端末10と、クライアント端末10から入力された物件の物件情報に基づいて、当該物件の取引価格を予測した価格を算出する価格算出サーバ20とを備える。
【0023】
本システム1において、クライアント端末10と価格算出サーバ20とは、例えばインターネット等の通信ネットワークを介して、互いにデータ通信可能である。本システム1では、不動産事業者等のユーザは、例えばクライアント端末10により、取引価格の予測結果すなわち予測価格を確認することができる。
【0024】
以下、本システム1におけるクライアント端末10及び価格算出サーバ20の具体的な構成について、
図2及び
図3を用いてそれぞれ説明する。価格算出サーバ20は、本実施形態における価格予測装置の一例である。
【0025】
1-1.クライアント端末の構成
図2は、クライアント端末10の構成を例示するブロック図である。クライアント端末10は、例えばパーソナルコンピュータであるが、タブレット端末またはスマートフォンなど各種の情報処理装置で構成可能である。
【0026】
図2のクライアント端末10は、CPU11と、通信インタフェース12と、記憶装置13と、入力インタフェース14と、ディスプレイ15とを備える。以下、インタフェースを「I/F」と略記する。
【0027】
CPU11は、クライアント端末10の全体動作を制御する。CPU11は、記憶装置13に格納されたアプリケーションプログラム16等を実行して、所定の機能を実現する。クライアント端末10は、CPU11に加えて、またはCPU11代えて、MPU等の種々のプロセッサを備えてもよい。
【0028】
通信I/F12は、無線または有線の通信回線を介して通信ネットワークに接続可能である。通信I/F12は、例えば4G,5G等の技術により、またはIEEE802.11等の規格に従って通信を行う通信回路である。通信I/F12は、イーサネット(登録商標)等の規格に従って有線通信を行う通信回路であってもよい。クライアント端末10は、通信I/F12を介して他の機器と直接通信を行ってもよく、アクセスポイント経由で通信を行ってもよい。
【0029】
記憶装置13は、例えばアプリケーションプログラム16等のコンピュータプログラム及び各種データを記憶する記憶媒体である。記憶装置13として、例えばハードディスクドライブ(HDD)、またはソリッド・ステート・ドライブ(SSD)等の半導体記憶装置を採用し得る。記憶装置13は、例えばDRAMまたはSRAM等のRAMにより構成される一時的な記憶素子を備えてもよく、CPU11の作業領域として機能してもよい。アプリケーションプログラム16は、CPU11により実行され、クライアント端末10の各種機能を実現する。なお、アプリケーションプログラム16は、通信ネットワークを介して提供されてもよく、可搬性を有する記録媒体に格納されていてもよい。
【0030】
入力I/F14は、ユーザの操作によって入力される諸情報を取得する。例えば、入力I/F14には、キーボード、マウス、トラックパッド、タッチパッド等の何れか、又はそれらの組合せを採用し得る。入力I/F14は、例えばディスプレイ15と共にタッチパネルを構成してもよい。また、入力I/F14は、例えばUSB,Bluetooth(登録商標)等の所定の規格に従って外部機器と接続する回路で構成されてもよく、外部機器から入力される諸情報を取得してもよい。
【0031】
ディスプレイ15は、例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである。ディスプレイ15は、例えば通信I/F12から受信された情報、入力I/F14から入力された情報、及び入力I/F14を操作するための各種アイコンなど、各種の情報を表示してもよい。ディスプレイ15は、入力I/F14においてユーザによる各種の入力操作を受け付けるための入力フィールド及び疑似的なボタン等を表示してもよい。
【0032】
1-2.価格算出サーバの構成
図3は、価格算出サーバ20の構成を例示するブロック図である。価格算出サーバ20は、例えばコンピュータのような情報処理装置、例えばPCである。
【0033】
図3の価格算出サーバ20は、演算回路の一例であるCPU21と、価格算出サーバ20を通信ネットワークに接続する通信I/F22と、各種データ及びコンピュータプログラム等を記憶する記憶装置23とを備える。
【0034】
CPU21は、例えば記憶装置23に格納された制御プログラム26を実行して、価格算出サーバ20の各種機能を実現する。価格算出サーバ20の演算回路は、CPU21に限らず、MPUまたはGPU等の種々のプロセッサで実現されてもよく、1つまたは複数のプロセッサで構成されてもよい。
【0035】
通信I/F22は、無線または有線の通信回線を介して価格算出サーバ20を通信ネットワークに接続可能な通信回路であり、例えばクライアント端末10の通信I/F12と同様の所定の規格等により通信を行う。通信I/F12は、例えばUSBまたはHDMI(登録商標)等の所定の通信規格により、外部機器を接続する回路を構成してもよい。通信I/F22は、価格算出サーバ20において、クライアント端末10等の外部機器から諸情報を受信する取得部あるいは外部機器に諸情報を送信する出力部を構成してもよい。
【0036】
記憶装置23は、例えばHDDまたはSDDにより構成され得る記憶媒体である。記憶装置23は、例えば制御プログラム26及び各種データを記憶する。
図3に例示するように、記憶装置23は、物件情報等を管理する物件データベース28を備える。物件データベース28は、例えば取引の成立により取引価格が決定された、または不動産事業者等による査定により取引価格が評価された複数の取引事例の各物件について、物件情報と取引価格とを関連付けて格納する。
【0037】
さらに記憶装置23は、例えば価格算出モデル27の構築後には、価格算出モデル27を格納する。価格算出モデル27は、入力される物件情報に基づいて取引価格を出力する回帰モデルの一例である。価格算出モデル27は、物件データベース28内に物件情報と取引価格とが関連付けて格納された取引事例のデータ、即ち取引実績データを用いて構築される。価格算出モデル27の詳細は後述する。
【0038】
記憶装置23は、例えば各種のRAM等により構成される一時的な記憶素子を備えてもよく、CPU21の作業領域として機能してもよい。制御プログラム26は、CPU21により実行され、例えば価格算出モデル27の構築及び制御といった価格算出サーバ20における各種機能を実現する。なお、制御プログラム26は、通信ネットワークを介して提供されてもよく、可搬性を有する記録媒体に格納されていてもよい。
【0039】
以上のようなクライアント端末10及び価格算出サーバ20の構成は一例であり、上記の例に限らない。例えば本実施形態の価格予測方法は、分散コンピューティングにおいて実行されてもよい。また、クライアント端末10及び価格算出サーバ20の演算回路は、各種機能を実現するように設計された専用の電子回路または再構成可能な電子回路などのハードウェア回路であってもよい。演算回路は、GPGPU、TPU、マイコン、DSP、FPGA及びASIC等の種々の半導体集積回路で構成されてもよい。
【0040】
2.動作
以上のように構成される価格査定システム1の動作を以下に説明する。
【0041】
2-1.動作例
価格査定システム1の動作例について、
図1及び
図4を用いて説明する。
図4は、価格査定システム1の動作例を説明するための図である。
【0042】
図4は、本システム1のクライアント端末10における表示例を示す。クライアント端末10は、例えばアプリケーションプログラム16の実行により、ディスプレイ15に
図4に示すような表示画面30を表示する。
【0043】
クライアント端末10は、例えば表示画面30上に表示している入力欄31において、入力I/F14により、ユーザが査定対象の物件情報を入力する操作を受け付ける。
図4の例では、後述のような物件情報における物件、土地及び建物に関する各種の項目毎に、複数の入力欄31が表示されている。各入力欄31は、例えばテキストまたは数値を入力可能に設けられる。
【0044】
なお、例えば査定対象の物件情報が価格算出サーバ20の物件データベース28に登録されている場合、表示画面30上の入力欄31に「物件名」を入力して検索ボタン32を押下するユーザ操作等により、他の入力欄31が自動入力されてもよい。例えば、本システム1において、価格算出サーバ20は、クライアント端末10からの物件名の問合せに応じて物件データベース28の検索処理を行い、当該物件名に関連付けて管理されている物件情報をクライアント端末10に返してもよい。
【0045】
本システム1では、クライアント端末10は、例えば物件情報の入力後、表示画面30上の選択欄33において、取引価格のうちの購入価格または販売価格の何れかを選択するユーザ操作を受け付ける。購入価格は、不動産事業者が物件を仕入れる際の価格であり、販売価格は、不動産事業者が物件を売却する際の価格である。
【0046】
クライアント端末10は、例えば表示画面30上に表示した計算ボタン34を押下するユーザ操作に応じて、入力された物件情報及び選択欄33での選択結果を価格算出サーバ20に送信する。価格算出サーバ20は、クライアント端末10から受信した(あるいは物件データベース28の検索により取得した)物件情報に基づいて、選択された購入価格または販売価格を予測価格として算出する。価格算出サーバ20は、算出した予測価格をクライアント端末10に送信する。
【0047】
クライアント端末10は、例えば表示画面30上の表示欄35に、価格算出サーバ20から受信した予測価格の計算結果を表示する。さらに本システム1は、クライアント端末10における表示画面30上の保存ボタン36を押下するユーザ操作に応じて、例えば、価格算出サーバ20の物件データベース28に、算出された予測価格を対応する物件情報と関連付けて格納してもよい。
【0048】
以上のように、本システム1は、例えばクライアント端末10から入力される査定対象の物件情報に基づいて、価格算出サーバ20において算出した予測価格を、クライアント端末10に表示させる。
【0049】
2-2.物件情報について
以下、本実施形態の価格査定システム1における物件情報について、
図5を用いて説明する。
図5は、本システム1における物件情報を説明するための図である。
【0050】
不動産の取引価格を評価する際に用いられる取引事例比較法では、多数の取引事例から選択した事例と査定対象とにおける物件の仕様及び周辺地域等の要因を比較することで、取引事例における各要因と取引価格との関係から査定対象の取引価格が決定される。そこで、本システム1においても、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を用いて、例えば物件データベース28の取引事例から選択した事例の物件情報と取引価格の関係に基づき、査定対象の物件情報から予測価格を算出し得ることが考えられる。
【0051】
本システム1の物件情報は、例えば
図5に示すように、物件所在地、物件名、公簿土地面積、公簿建物延床面積、建物構造、物件種別、築年数、用途地域、建ぺい率、容積率、路線価、利回り、及び収入の各項目を含む。各項目は、例えば物件情報を構成する複数の要因に対応する。物件情報の各項目について、以下説明する。
【0052】
物件所在地及び物件名は、それぞれ物件の住所及び名称を示し、例えばテキストデータとして入力される。公簿土地面積及び公簿建物延床面積は、それぞれ不動産登記簿に記載されている物件の土地の面積及び建物の延床面積を示し、例えば、平方メートル(m2)単位(または坪単位)で数値データとして入力される。
【0053】
建物構造は、例えば物件の建物の構成材料による区分を示し、
図5に示す物件情報では、木造、軽量鉄骨造、重量鉄骨造、鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造の各区分を含む。なお、本システム1におけるクライアント端末10では、例えば
図4に示す表示画面30において、建物構造等の区分または所定の数値を入力する入力欄31は、各区分または数値を選択可能なプルダウンメニュー等として構成されてもよい。
【0054】
図5の物件情報において、物件種別は、下位の項目としての物件種別、物件用途、及び建物用途の各カテゴリを含む。各カテゴリの種別としては、例えば「一棟収益店舗」等の不動産取引における種別、「住居」等の用途に関する種別、その他「土地及び建物」等の種別が挙げられるが、これらに限らない。
【0055】
築年数は、物件の取引価格を予測する時点にける建物の建築時からの経過年数を示し、数値データとして入力される。本システム1において、築年数に代えて建築年月日が入力されてもよく、例えば建築年月日及び予測時点の年月日に基づいて築年数が算出されてもよい。
【0056】
用途地域は、物件の土地の用途区分を示す。
図5の物件情報では、用途地域は、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、田園住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域、または非該当の各区分を含む。
【0057】
建ぺい率は、物件の土地の面積、即ち敷地面積に対する建物の建築面積の割合を示す。
図5に例示する物件情報では、建ぺい率は、30%,40%,50%,60%,80%の何れかを示す数値として入力される。容積率は、敷地面積に対する建物の延床面積の割合を示す。
図5の例において、容積率は、50%,60%,80%,100%,150%,200%,300%,400%,500%,600%,700%,800%,900%,1000%,1100%,1200%,1300%の何れかを示す数値である。建ぺい率及び容積率は、上記の用途地域に応じて制限され得る。
【0058】
路線価は、物件の土地について決定される価格であり、例えば1平方メートル(または1坪)毎の価格を示す数値データとして入力される。利回りは、例えば物件の購入価格、即ち投資額に対して不動産の運用で得られる家賃等の収入による収益率を示す。例えば、利回りは、物件を満室の賃貸で運用した場合を想定して設定され、所定の期間(1年など)あたりの収益率を%単位の数値で示す。また、収入は、こうした不動産の運用で見込まれる家賃等の収入を例えば円単位の数値で示す。
【0059】
以上の物件情報における項目は一例であり、本システム1は、上記の項目の一部に基づいて予測価格を算出してもよい。物件情報は、上記の項目のうちの少なくとも2つを含んでいればよい。例えば、本システム1は、物件の購入価格を予測する際には、利回り及び収入の各項目を用いずに、後述の価格算出モデル27により予測価格を算出する。本システム1は、例えば購入価格を算出後に、購入価格、利回り及び収入等を用いて販売価格の予測価格を算出してもよい。また、物件情報は、
図4及び
図5に例示する項目に限らず、例えば物件の売却予定時期及び建物価格等、他の項目を含んでいてもよい。
【0060】
2-3.全体動作
価格査定システム1の価格算出サーバ20において、以上のような物件情報に基づいて予測価格を算出する全体的な動作について、
図6を用いて説明する。
【0061】
図6は、価格算出サーバ20の動作を例示するフローチャートである。
図6に示すフローチャートの処理は、例えばクライアント端末10から、表示画面30の計算ボタン34が押下されたことを示す信号が送信され、価格算出サーバ20において通信I/F22を介して受信されたときに開始される。本フローチャートに示す各処理は、例えば価格算出サーバ20のCPU21により実行される。
【0062】
まず、CPU21は、例えば通信I/F22によって、クライアント端末10から入力された査定対象の物件(「対象物件」ともいう。)の物件情報を取得する(S1)。
【0063】
CPU21は、取得した対象物件の物件情報に基づき、物件データベース28において取引価格と関連付けて蓄積された複数の取引事例から、物件情報が対象物件と所定の類似基準において類似する取引事例の物件群を事前物件群として抽出する(S2)。事前物件群の抽出処理(S2)について、詳細は後述する。
【0064】
次に、CPU21は、抽出した事前物件群に基づいて、価格算出モデル27を構築する(S3)。ステップS3において、CPU21は、事前物件群における物件情報と、対応する取引価格とを訓練データとして機械学習を実行し、学習済みの価格算出モデル27を生成する。本実施形態の価格算出モデル27は、例えばベイズ線形回帰モデルを利用して構成される。
【0065】
本実施形態の価格算出モデル27では、不動産取引における取引価格が正規分布に従う統計モデルを仮定する。例えば、価格算出モデル27の出力y、入力x、及び係数wの関係は次式のような統計モデルで表せる。
【数1】
ここで、pは確率分布、Nは正規分布、φは基底関数、αは正則化パラメータ(ノイズの精度)をそれぞれ示す。基底関数には、例えば多項式基底φ(x)=xを用いることができる。
【0066】
また、係数wについての事前分布は、例えば平均が「0」で、共分散行列が単位行列の定数倍である正規分布を仮定して、正則化パラメータλ(係数wの精度)を用いて次式のように表せる。ここで、Iはサイズが係数wの次元数である単位行列を示す。
【数2】
正則化パラメータα,λの事前分布は、例えばそれぞれガンマ分布に設定され、各々の初期値及びハイパーパラメータがユーザ等により適宜、設定されてもよい。
【0067】
価格算出モデル27の構築(S3)において、CPU21は、事前物件群の物件情報X及び取引価格yに基づき、尤度p(y|X,w)を計算する。尤度は、事前物件群における統計モデルの総積として計算できる。CPU21は、計算した尤度と事前分布から、ベイズ推定により係数wについての事後分布p(w|X,y)を算出する。このように、事前物件群として抽出された取引価格が既知の取引実績データに基づいて、係数wの分布が更新され、係数wを有する回帰モデルとして学習済みの価格算出モデル27が生成される。
【0068】
その後、CPU21は、構築した価格算出モデル27に対象物件の物件情報を入力し、予測価格を算出する(S4)。例えばステップS4において、CPU21は、まず、事後分布で統計モデルを平均した条件付き期待値の計算により、事前物件群の物件とは異なる新たな物件の取引価格の分布として予測分布p(y*|x*)を算出する。x*,y*は、それぞれ対象物件の物件情報及び予測価格を示す。CPU21は、例えば対象物件の物件情報を入力した場合の予測分布を計算し、その平均を予測価格として算出する。
【0069】
予測価格の算出後(S4)、CPU21は、本フローチャートの処理を終了する。
【0070】
以上の処理によると、取得した対象物件の物件情報(S1)に応じて、対象物件に類似する事前物件群が物件データベース28内の取引実績データから抽出され(S2)、抽出した事前物件群に基づいて価格算出モデル27が構築される(S3)。こうした対象物件に応じて構築された価格算出モデル27により、対象物件の予測価格が算出される(S4)。これにより、これにより、取引実績データから、例えば対象物件との比較による取引価格の推定に利用し得る取引事例を事前物件群として抽出して、対象物件に応じた価格算出モデル27を構築でき、対象物件の物件情報に基づいて、予測価格を精度良く算出することができる。
【0071】
また、本実施形態の価格算出モデル27は、ベイズ線形回帰モデルを利用して構成される。こうした価格算出モデル27によれば、例えば事前分布等の仮定から、少量の訓練データであっても、精度良く予測価格を算出可能な回帰モデルを得ることができる。また、少量の訓練データであっても、過学習を抑制することができる。さらに、例えば訓練データの取引事例が追加された場合に、価格算出モデル27を更新し易くすることができる。
【0072】
なお、物件情報において値が複数の区分の何れかに該当する項目については、値を数値化した上で以上の処理が実行されてもよい。数値化には、例えばラベルエンコーディングまたはカウントエンコーディング等の方法が用いられてもよい。
【0073】
2-4.事前物件群の抽出処理
図6のステップS2における事前物件群の抽出処理の詳細を、
図7を用いて説明する。
【0074】
図7は、価格算出サーバ20における事前物件群の抽出処理(S2)を例示するフローチャートである。本フローチャートの処理は、対象物件の物件情報を取得した後(
図6のS1)、例えば記憶装置23に当該物件情報を保持した状態で開始される。
【0075】
事前物件群の抽出処理(S2)において、CPU21は、例えば物件データベース28内の複数の取引事例における各物件情報と、対象物件の物件情報との間で、物件情報の2項目の組合せ毎に、各項目を比較する。例えば、
図5の物件情報において、「建物構造」と「用途地域」の組合せでは、各取引事例と対象物件との間で、建物構造及び用途地域がそれぞれ比較される。
【0076】
図7のフローチャートにおいて、まず、CPU21は、例えば記憶装置23を参照して、物件情報における2項目毎の組合せを取得する(S11)。各組合せは、例えば物件情報に基づいて予め生成され、記憶装置23に保持される。CPU21は、例えば、上記の建物構造と用途地域の組合せの他、建物構造と築年数、路線価と築年数などの各組合せを取得する。
【0077】
次に、CPU21は、取得した組合せ毎に、物件データベース28の取引実績データにおいて、所定の類似基準により、物件情報が対象物件と類似している物件を検索する(S12)。CPU21は、取引実績データの各物件と対象物件との間で、例えば組合せの2項目が、それぞれ所定の類似基準において類似である場合、当該2項目の組合せについて類似であると判断する。
【0078】
所定の類似基準は、例えば取引実績データの各取引事例と対象物件との間で、物件情報における各組合せの2項目の値がそれぞれ共通または所定差以内であるか否かに応じて、類似か否かを決定する。例えば、値が複数の区分の何れかに該当する項目については、値が共通のとき類似であると決定され、値が数値である項目については、値の差分が所定差以内のとき類似であると決定される。所定差は、例えば取引実績データの複数の取引事例において、物件情報の項目毎に予め算出した標準偏差として設定される。所定差は、算出した標準偏差に所定の係数を乗じた値として設定されてもよい。
【0079】
CPU21は、物件データベース28の検索結果(S12)に応じて、取引実績データから対象物件と類似する事前物件群を抽出する(S13)。例えば、CPU21は、取引実績データに、ステップS11で取得した全ての組合せについて対象物件と類似する物件があると判断した場合、当該物件を抽出する。また、CPU21は、例えば全ての組合せについて類似する物件の数が所定数を超えない場合、一部の組合せについて類似する物件を抽出する。この際、例えば物件情報の建物構造、用途地域、路線価及び築年数といった特定の項目における各2項目の組合せについて、対象物件と類似であると判断される物件が抽出されてもよい。
【0080】
上記の特定の項目は、例えば取引実績データに基づき、複数の物件の物件情報における2項目間の分散及び共分散から得られる相関係数を予め計算して、相関係数が上位の項目に決定されてもよい。また、例えば、取引実績データの複数の物件における1物件と他の物件とのマハラノビス距離といった各種指標に応じて、事前物件群の抽出に用いる特定の項目が決定されてもよい。
【0081】
事前物件群の抽出後(S13)、CPU21は、抽出した事前物件群の物件情報と取引価格とを対応付けて、価格算出モデル27の訓練データを生成する(S14)。例えば、CPU21は、生成した訓練データを記憶装置23に保持する。その後、CPU21は、本フローチャートに示す処理を終了する。
【0082】
以上の処理によると、取引実績データから、物件情報における2項目の組合せ毎に対象物件と類似する物件を検索して(S12)、対象物件と物件情報が類似する事前物件群が抽出される(S13)。そして、事前物件群の物件情報と取引価格を対応付けて含むように、価格算出モデル27の訓練データが生成される(S14)。これにより、例えば取引実績データにおける複数の取引事例から、対象物件との比較を考慮した事前物件群を抽出して訓練データを生成でき、対象物件の取引価格を精度良く予測する価格算出モデル27を構築し易くすることができる。
【0083】
例えば、訓練データとは別の取引実績データにおける価格算出モデル27の性能評価を本発明者が実施したところ、予測価格と実際の取引価格との比率すなわち誤差は、平均で10%未満であった。一方、事前物件群の抽出を行わずに構築した価格算出モデルの性能評価では、誤差が平均で20%程度であったことから、事前物件群の抽出処理による予測精度の向上が確認された。
【0084】
3.効果等
以上のように、本実施形態における価格算出サーバ20は、不動産の物件の取引価格を予測する価格予測装置の一例である。価格算出サーバ20は、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する通信I/F22(取得インタフェースの一例)と、通信I/F22から取得された物件情報に基づいて、取引価格の予測値を算出するCPU21(演算回路の一例)とを備える。CPU21は、物件データベース28における取引実績データ(物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例の一例)から、対象物件の物件情報(取得された物件情報(S1)の一例)と所定の類似基準において物件情報が類似する事前物件群(取引事例群の一例)を抽出する(S2)。CPU21は、抽出した事前物件群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する価格算出モデル27(回帰モデルの一例)を構築する(S3)。CPU21は、構築した価格算出モデル27に、対象物件の物件情報を入力して、予測価格(取引価格の予測値の一例)を出力させる(S4)。
【0085】
以上の価格算出サーバ20によると、対象物件の物件情報と所定の類似基準で類似するように抽出された事前物件群(S2)を用いて価格算出モデル27が構築され(S3)、構築された価格算出モデル27により対象物件の予測価格が算出される(S4)。これにより、例えば、対象物件と物件の条件等が近い事前物件群を抽出して、事前物件群の物件情報と取引価格との関係を反映した価格算出モデル27を構築することができ、対象物件の予測価格を精度良く算出し易くすることができる。
【0086】
本実施形態において、物件情報を構成する複数の要因の一例として、物件情報の項目は、物件所在地、物件名、物件種別、土地面積、建物延床面積、築年数、建物構造、用途地域、建ぺい率、容積率及び路線価のうちの少なくとも2つを含む。物件情報の要因は、特に築年数、建物構造、用途地域及び路線価の各要因を含むことで、予測価格を精度良く算出し易いと考えられるが、物件情報の要因はこれらに限らない。
【0087】
本実施形態において、取引価格は、不動産の事業者が物件を仕入れる購入価格を含む。取引価格としては、購入価格に限らず、物件の販売価格が算出されてもよい。
【0088】
本実施形態において、所定の類似基準は、取引実績データ(複数の取引事例の一例)における各取引事例の物件情報と、対象物件の物件情報(取得された物件情報の一例)との間で、物件情報の複数の項目(複数の要因の一例)における2以上の項目の値がそれぞれ共通または所定差以内であるか否かに応じて、類似か否かを決定する。なお、例えば物件情報の各項目の値が数値化される場合には、値が所定差以内であるか否かの類似基準のみが用いられてもよい。
【0089】
本実施形態においてCPU21は、取引実績データ(複数の取引事例の一例)における各取引事例の物件情報と、対象物件の物件情報(取得された物件情報の一例)との間で、所定の類似基準に基づいて、物件情報の複数の項目(複数の要因の一例)における2項目の組合せ毎に各項目を比較する(S12)。これにより、例えば正の相関が強い2項目の組合せについて、取引実績データの各取引事例と対象物件とを比較して、対象物件と類似する事前物件群を精度良く抽出し易くすることができると考えられる。
【0090】
本実施形態において、価格算出モデル27は線形回帰モデルである。これにより、例えば、価格算出モデル27の係数から、価格算出モデル27の入出力の関係として、各説明変数が目的変数に与える影響を分析し易くすることができる。
【0091】
本実施形態において、価格算出モデル27はベイズ回帰モデルである。これにより、例えば少量の訓練データを用いても、過学習を抑制ながら、精度良く予測価格を算出し易い価格算出モデル27を構築することができる。
【0092】
本実施形態において、不動産の物件の取引価格を予測する価格予測方法が提供される。本実施形態の価格予測方法は、コンピュータの一例である価格算出サーバ20が、取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得すること(S1)、及び価格算出サーバ20のCPU21(演算回路の一例)が、取得された物件情報に基づいて、取引価格の予測値を算出すること(S2~S4)を含む。CPU21は、物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例の一例として、物件データベース28における取引実績データから、対象物件の物件情報(取得された物件情報の一例)と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群の一例として、事前物件群を抽出する(S2)。CPU21は、抽出した事前物件群における物件情報及び取引価格を訓練データとして、入力される物件情報に基づいて対応する取引価格の予測値を出力する回帰モデルの一例として、価格算出モデル27を構築する(S3)。CPU21は、構築した価格算出モデル27に、対象物件の物件情報を入力して、取引価格の予測値を出力させる(S4)。
【0093】
本実施形態において、以上のような価格予測方法を、コンピュータの演算回路の一例として価格算出サーバ20のCPU21に実行させるためのプログラムの一例として、制御プログラム26が提供される。本実施形態の価格予測方法によると、不動産の物件の取引価格を精度良く予測することができる。
【0094】
(他の実施形態)
以上のように、本発明の例示として、実施形態1を説明した。しかしながら本発明は、これに限らず、他の実施の形態にも適用可能である。以下、他の実施の形態を例示する。
【0095】
実施形態1では、価格算出モデル27の構築(S3)において、取引価格の分布、及び事前分布に正規分布を仮定する例を説明した。分布の仮定は、これに限らず、例えば取引価格の分布にポアソン分布を仮定してもよく、事前分布にガンマ分布を仮定してもよい。
【0096】
実施形態1では、価格算出モデル27の構築(S3)において、価格算出モデル27が多項式基底を用いたベイズ線形回帰モデルを利用して構成される例を説明した。基底関数は、これに限らず、ガウス基底等が用いられてもよい。また、価格算出モデル27は線形回帰モデルに限らず、非線形回帰モデルとして構成されてもよい。また、価格算出モデル27はベイズ回帰モデルに限らない。
【0097】
実施形態1では、対象物件の予測価格を算出後(S4)、価格算出サーバ20が処理を終了する例を説明した。本実施形態の価格算出サーバ20は、さらに価格算出モデル27の予測性能を向上させるための処理を実行してもよい。例えば、価格算出サーバ20は、クライアント端末10からユーザ操作による予測価格の修正値を取得して、修正値と対象物件の物件情報とを対応付けて物件データベース28に追加することで、取引実績データを疑似的な取引事例で水増ししてもよい。また、例えば予測価格と修正値との差分を誤差として、誤差の大きさに応じた報酬の設定により強化学習が実行されてもよい。
【0098】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、不動産の取引における物件の取引価格を予測する価格予測装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 価格査定システム
10 クライアント端末
20 価格算出サーバ
21 CPU
22 通信インタフェース
26 制御プログラム
27 価格算出モデル
【手続補正書】
【提出日】2023-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動産の物件の取引価格を予測する価格予測装置であって、
前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得する取得インタフェースと、
前記取得インタフェースから取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出する演算回路とを備え、
前記演算回路は、
物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、
抽出した取引事例群における取引事例毎の物件情報及び取引価格を含む訓練データに基づいて、説明変数として入力される物件情報から目的変数として取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、
構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる
価格予測装置。
【請求項2】
前記複数の要因は、物件所在地、物件名、物件種別、土地面積、建物延床面積、築年数、建物構造、用途地域、建ぺい率、容積率及び路線価のうちの少なくとも2つを含む
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項3】
前記取引価格は、不動産の事業者が物件を仕入れる購入価格を含む
請求項1または2に記載の価格予測装置。
【請求項4】
前記所定の類似基準は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記複数の要因における2以上の要因の値がそれぞれ共通または所定差以内であるか否かに応じて、類似か否かを決定する
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項5】
前記演算回路は、前記複数の取引事例における各取引事例の物件情報と、前記取得された物件情報との間で、前記所定の類似基準に基づいて、前記複数の要因における2要因の組合せ毎に各要因を比較する
請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項6】
前記回帰モデルは線形回帰モデルである、請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項7】
前記回帰モデルはベイズ回帰モデルである、請求項1に記載の価格予測装置。
【請求項8】
不動産の物件の取引価格を予測する価格予測方法であって、
コンピュータが、前記取引価格を形成する複数の要因から構成される物件情報を取得すること、及び
前記コンピュータの演算回路が、前記取得された物件情報に基づいて、前記取引価格の予測値を算出することを含み、
前記演算回路は、
物件情報を用いて取引価格が評価された複数の取引事例から、前記取得された物件情報と所定の類似基準において物件情報が類似する取引事例群を抽出し、
抽出した取引事例群における取引事例毎の物件情報及び取引価格を含む訓練データに基づいて、説明変数として入力される物件情報から目的変数として取引価格の予測値を出力する回帰モデルを構築し、
構築した回帰モデルに、前記取得された物件情報を入力して、前記取引価格の予測値を出力させる
価格予測方法。
【請求項9】
請求項8に記載の価格予測方法をコンピュータの演算回路に実行させるためのプログラム。