(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158360
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法
(51)【国際特許分類】
H01R 13/533 20060101AFI20241031BHJP
H05G 1/08 20060101ALI20241031BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20241031BHJP
H01J 37/06 20060101ALN20241031BHJP
H01J 35/06 20060101ALN20241031BHJP
H01R 43/24 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
H01R13/533 B
H05G1/08 K
H01R43/00 B
H01J37/06 Z
H01J35/06 Z
H01R43/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073506
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 将卓
(72)【発明者】
【氏名】林 泰隆
【テーマコード(参考)】
4C092
5C101
5E051
5E063
5E087
【Fターム(参考)】
4C092AA01
4C092AB17
4C092AC08
4C092BB18
5C101DD08
5E051BA01
5E063JB06
5E063XA01
5E087EE06
5E087MM05
5E087QQ06
5E087RR25
5E087RR34
(57)【要約】
【課題】薬剤を適切に塗り分けることが可能な高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法を提供することを目的とする。
【解決手段】高電圧ケーブル接続具1は、高電圧ケーブル2と、高電圧ケーブル2を内部に導入するための導入部32、及び、高電圧ケーブル2の先端部22を内部空間33に収容する収容部34を備えた筐体3と、高電圧ケーブル2の外面に装着されかつ導入部32の内側に内部空間33に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材6と、を備える
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材と、
を備える、高電圧ケーブル接続具。
【請求項2】
高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されることで前記高電圧ケーブル及び前記導入部の間に設けられる金属製又は自己潤滑性を有する樹脂製の可動部材と、
樹脂の硬化により前記内部空間に成形され、前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間に封止する絶縁封止材と、
を備える、高電圧ケーブル接続具。
【請求項3】
前記可動部材は筒状を呈しており、前記高電圧ケーブルは前記可動部材に嵌め込まれている、請求項1又は2に記載の高電圧ケーブル接続具。
【請求項4】
前記導入部及び前記可動部材の間には潤滑剤が介在している、請求項3に記載の高電圧ケーブル接続具。
【請求項5】
高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
を備えた高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法であって、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材を、前記内部空間に接近する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間において所定位置から侵入させる工程と、
前記高電圧ケーブルの先端部の外面及び/又は前記収容部の内面に薬剤を塗布する工程と、
前記可動部材を前記内部空間から離間する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記所定位置に戻す工程と、
を含む、高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子線照射装置やX線発生装置等の機器においては、電子を加速させて電子線を生成している。電子線の生成は、例えばフィラメントの加熱によりフィラメントから空間に熱電子を放出させ、熱電子を所定のエネルギーに達するまで加速することにより行われる。熱電子の加速は、例えばフィラメント及びフィラメントから離れた位置にある電極の間に高電圧を印加することにより行われる。フィラメントに負の電圧を与え、電極に正の電圧を与えることで、熱電子はフィラメントから電極の方に向かって加速される。
【0003】
高電圧は、直流高電圧電源から高電圧ケーブルを介して上述した機器に供給される。高電圧ケーブルは、高電圧ケーブルを取り付けた高電圧ケーブル接続具を用いて上述した機器に接続される。この種の高電圧ケーブル接続具として、例えば特許文献1に記載の高電圧コネクタが提案されている。
【0004】
図9に示すように、特許文献1に記載の高電圧コネクタ100は、筐体101と、筐体101内に配置された高電圧端子102と、筐体101内に充填された絶縁封止材103と、を備えている。高電圧端子102は、筐体101の側壁部から筐体101内に導入された高電圧ケーブル104が接続されている。高電圧ケーブル104は、導体部105がゴム製の絶縁性を有する被覆部106で覆われた構造である。高電圧ケーブル104は、筐体101の側壁部に動かないよう固定されるのが通常である。高電圧端子102は、上述した機器の電極が接続され、高電圧ケーブル104と電極とを導通する。絶縁封止材103は、高電圧ケーブル104の先端部及び高電圧端子102等を筐体101内に封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の高電圧ケーブル接続具において、絶縁封止材103の素材には樹脂が用いられる。流動性を有する液状の樹脂を筐体101内に注入し、筐体101内で樹脂を硬化させることにより、筐体101内で固体化した絶縁封止材103が成形される。
【0007】
図10に示すように、筐体101内に樹脂を注入する前には、筐体101の内面及び筐体101内に収容された高電圧ケーブル104の先端部109の外面に薬剤107,108が塗布される。筐体101の内面には、例えば筐体101内に注入した樹脂が硬化した際に筐体101に接着するのを阻害する機能を果たす薬剤107が塗布される。一方、高電圧ケーブル104の先端部109の外面には、例えば筐体101内に注入した樹脂が硬化した際に高電圧ケーブル104の先端部109に接着するのを補助する機能を果たす薬剤108が塗布される。このように、筐体101の内面及び高電圧ケーブル104の先端部109の外面には異なる種類の薬剤107,108が塗り分けられる。あるいは、筐体101の内面だけに薬剤107が塗布される、又は、高電圧ケーブル104の先端部109の外面だけに薬剤108が塗布される。
【0008】
上述した薬剤の塗布作業においては、筐体101の内面と高電圧ケーブル104の先端部109の外面とが近接している箇所について薬剤を適切に塗り分けるのが難しく、筐体101の内面に薬剤107を塗布する際に高電圧ケーブル104の先端部109の外面に薬剤107が付着したり、高電圧ケーブル104の先端部109の外面に薬剤108を塗布する際に筐体101の内面に薬剤108が付着したり、筐体101の内面及び高電圧ケーブル104の先端部109の外面に意図しない薬剤が付着する可能性がある。筐体101の内面及び高電圧ケーブル104の先端部109の外面に意図しない薬剤が付着すると、絶縁封止材の成形不良(樹脂による封止不良)が発生する可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、薬剤を適切に塗り分けることが可能な高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様は、高電圧ケーブル接続具に関する。本発明の高電圧ケーブル接続具は、高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材と、を備える、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の高電圧ケーブル接続具は、高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、前記高電圧ケーブルの外面に装着されることで前記高電圧ケーブル及び前記導入部の間に設けられる金属製又は自己潤滑性を有する樹脂製の可動部材と、樹脂の硬化により前記内部空間に成形され、前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間に封止する絶縁封止材と、を備える、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第二態様は、高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、を備えた高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法に関する。本発明の高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法は、前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材を、前記内部空間に接近する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間において所定位置から侵入させる工程と、前記高電圧ケーブルの先端部の外面及び/又は前記収容部の内面に薬剤を塗布する工程と、前記可動部材を前記内部空間から離間する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記所定位置に戻す工程と、を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法によれば、筐体の内面及び筐体内に収容された高電圧ケーブルの先端部の外面に薬剤を適切に塗り分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る高電圧ケーブル接続具の概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、高電圧ケーブル接続具に対して薬剤を塗布する方法の手順を説明する図である。
【
図4】
図4は、高電圧ケーブル接続具に対して薬剤を塗布する方法の手順を説明する図である。
【
図5】
図5は、高電圧ケーブル接続具に対して薬剤を塗布する方法の手順を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の変形例に係る高電圧ケーブル接続具の概略構成を示す断面図である。
【
図7】
図7(A)は、
図6のA-A線に沿う切断部端面図であり、
図7(B)は、
図6のB-B線に沿う切断部端面図である。
【
図8】
図8(A)(B)は、
図6に示す高電圧ケーブル接続具において可動部材をスライド移動させる前後の状態を示す断面図である。
【
図9】
図9は、従来例の高電圧ケーブル接続具の概略構成を示す断面図である。
【
図10】
図10は、従来例の高電圧ケーブル接続具において薬剤を塗布した状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、「端部」及び「端」等のように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0016】
高電圧ケーブル接続具の説明
図1及び
図2は、一実施形態の高電圧ケーブル接続具1の概略構成を示す。高電圧ケーブル接続具1は、例えば電子線照射装置やX線発生装置等の高電圧の供給が必要な機器に使用される。
【0017】
高電圧ケーブル接続具1は、高電圧電源に接続される高電圧ケーブル2と、高電圧ケーブル2を内部に導入するための導入部32を備えた筐体3と、高電圧ケーブル2の外面に装着されかつ導入部32の内側に設けられる可動部材6と、を備える。また、高電圧ケーブル接続具1は、高電圧ケーブル2を電子線照射装置やX線発生装置等の機器の電極に導通するための高電圧端子5と、筐体3内に設けられた絶縁封止材4と、を備える。なお、高電圧ケーブル接続具1は、上述した部材2-6に加えて、必要に応じてその他の部材を備える。
【0018】
高電圧ケーブルの説明
図1及び
図2に示すように、高電圧ケーブル2は、導体部20及び被覆部21を備え、導体部20が被覆部21で覆われた構造である。被覆部21は、電気及び熱を通しにくい絶縁性を有する。被覆部21の素材は、天然ゴムに加え、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴム等を例示できる。なお、高電圧ケーブル2は、被覆部21がさらにシースに覆われることで保護されたものであってもよい。高電圧ケーブル2は、横断面(高電圧ケーブル2の長さ方向に対して垂直に切断した断面)の形状が例えば円形である。高電圧ケーブル2は、従来から公知のものを使用できる。
【0019】
筐体の説明
図1及び
図2に示すように、筐体3は、有底筒状に形成された収容部34と、収容部34に連接された筒状の導入部32と、を備える。収容部34は、上部に開口を有し、上部開口を通して内部空間33に樹脂封止材4や高電圧端子5が収容される。筐体3の素材は、金属や高い熱伝導性を有する絶縁材料等を例示でき、好ましくは金属である。
【0020】
収容部34は、底部30及び側壁部31を備える。底部30は、側壁部31の下端に連接され、底部30上の側壁部31で囲まれた空間が内部空間33である。側壁部31の上端は収容部34の上部開口を画定する。側壁部31には、厚み方向に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔から水平に突き出るように導入部32が側壁部31に連接されている。
【0021】
筐体3は、導入部32から側壁部31の貫通孔を通って収容部34の内部に高電圧ケーブル2が導入される。高電圧ケーブル2において、収容部34の内部空間33に突き出た先端側の部分(以下、「高電圧ケーブル2の先端部22」という。)は、内部空間33に収容される。
【0022】
高電圧端子の説明
図1に示すように、高電圧端子5は、収容部34の内部空間33に収容される。高電圧端子5の素材は、銅、真鍮等の低抵抗率の金属を例示できる。高電圧端子5には、高電圧ケーブル2の先端部22における導体部20が高電圧端子5に挿入される形で接続される。高電圧端子5には、高電圧ケーブル2を電子線照射装置やX線発生装置等の機器の電極に導通するため、例えば、上記電極の一部分をセットできる凹部50が設けられている。
【0023】
絶縁封止材の説明
図1に示すように、絶縁封止材4は、収容部34の内部空間33に成形され、高電圧ケーブル2の先端部22及び高電圧端子5を内部空間33に封止する。つまり、高電圧ケーブル2の先端部22及び高電圧端子5は、収容部34の内部で絶縁封止材4中に埋められている。絶縁封止材4は、樹脂の硬化により収容部34の内部空間33に成形される。
【0024】
絶縁封止材4の素材となる樹脂は、熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等を例示できる。
【0025】
導入部32から高電圧ケーブル2を収容部34の内部空間33に挿入し、収容部34の内部空間33に収容させた高電圧端子5に高電圧ケーブル2の先端部22を接続する。この状態で、常温で流動性を有する液体の状態の熱硬化性樹脂を収容部34の内部空間33に注入し、内部空間33において熱硬化性樹脂を加熱することにより、熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、収容部34の内部空間33に固体化した絶縁封止材4が成形され、絶縁封止材4により高電圧ケーブル2の先端部22及び高電圧端子5が内部空間33に封止される。
【0026】
可動部材
図1及び
図2に示すように、可動部材6は、導入部32の内側において、収容部34の内部空間33に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能である。なお、可動部材6がスライド移動可能であるのは、収容部34の内部空間33に樹脂封止材4を成形するために注入した樹脂が硬化する前の状態である。つまり、可動部材6は、収容部34の内部空間33に樹脂の硬化により絶縁封止材4が成形された後はスライド移動が規制される。可動部材6は、例えば、収容部34の内部空間33に樹脂が注入される際には導入部32に対してスライド移動しないように固定手段により固定されてもよいし、樹脂が硬化した後に導入部32に対して固定手段により固定されてもよい。あるいは、可動部材6は、収容部34の内部空間33に樹脂の硬化で固体化した絶縁封止材4が成形されることでスライド移動が規制されていてもよい。
【0027】
可動部材6を内部空間3の方向にスライド移動させることで、高電圧ケーブル2の先端部22を内部空間33において所定位置(先端部22が高電圧端子5に接続される位置)からさらに内部空間33の奥の方に進入させることができる。可動部材6を収容部34の内部空間3から離れる方向にスライド移動させることで、高電圧ケーブル2の先端部22を内部空間3における上記所定位置に戻すことができる。
【0028】
可動部材6の内面の横断面(可動部材6の長さ方向に対して垂直に切断した断面)の形状は例えば円形であり、可動部材6は高電圧ケーブル2を嵌め込むことができる。可動部材6は、高電圧ケーブル2が嵌め込まれることで、高電圧ケーブル2の外面に装着される。可動部材6の内面の横断面の形状及び大きさが、高電圧ケーブル2の外面の横断面の形状及び大きさとほぼ合致していて、高電圧ケーブル2が可動部材6の内部にほぼぴったりに入れ込まれており、高電圧ケーブル2の外面が可動部材6の内面に接触している。高電圧ケーブル2は可動部材6を外面に装着した状態で導入部32から収容部34の内部に導入される。
【0029】
高電圧ケーブル2及び可動部材6の間は、液密な構造とされていることが好ましい。「液密な構造」とは、収容部34の内部空間33に注入された液体(又はゲル状)の状態の樹脂が高電圧ケーブル2及び可動部材6の間を通って筐体3の外部に漏れない構造を意味する。例えば、高電圧ケーブル2の被覆部21がゴム等で形成されていて、被覆部21が圧縮した状態で高電圧ケーブル2が可動部材6に嵌め込まれていると、高電圧ケーブル2及び可動部材6の間がシールされた液密な構造となり、液状の樹脂の漏れを抑制できる。
【0030】
可動部材6は、その外面が導入部32の内面と接触することで、導入部32に対して滑りながらスライド移動する。これにより、可動部材6は、導入部32にガイドされることにより導入部32の内側を直線移動可能である。
【0031】
可動部材6の素材は、金属を例示できる。金属は、滑り特性が高くかつ耐摩耗性が高いため、可動部材6を金属製にすることで、可動部材6は金属製の導入部32の内側において良好にスライド移動可能である。また、可動部材6の素材は、滑り特性が高い樹脂を例示できる。滑り特性が高い樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン、MCナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の自己潤滑性を有する樹脂が挙げられる。可動部材6を滑り特性が高い樹脂製にすることでも、可動部材6は金属製の導入部32の内側において良好にスライド移動可能である。なお、可動部材6を樹脂製にする場合、優れた耐摩耗性を有する樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
可動部材6及び導入部32の間には潤滑剤が介在することが好ましい。潤滑剤は、従来から公知の従滑油やグリースを用いることができる。潤滑剤が可動部材6及び導入部32の間に介在することで、可動部材6がスライド移動した際の可動部材6と導入部32の摩耗を抑制でき、かつ、導入部32に対する可動部材6のスライド移動を滑らかにすることができる。
【0033】
可動部材6は、導入部32において収容部34の内部空間33と反対側の端面(高電圧ケーブル2が挿入される側の端面)において、導入部32との間の隙間をパテ等のシール材で塞がれることが好ましい。これにより、収容部34の内部空間33に注入された液体(又はゲル状)の状態の樹脂が導入部32及び可動部材6の間を通って筐体3の外部に漏れるのを抑制できる。
【0034】
可動部材6の長さは、特に限定されないが、導入部32の長さ方向の全長にわたる程度の長さであることが好ましい。これにより、位置決めの作業性を向上できるとの効果を奏する。
【0035】
薬剤の塗布方法の説明
図3から
図5に示すように、上述した収容部34の内部空間33に樹脂を注入する前に、筐体3の収容部34(側壁部31及び底部30)の内面及び収容部34の内部空間33に収容された高電圧ケーブル2の先端部22の外面に薬剤7,8が塗布される。収容部34の内面には、例えば内部空間33に注入した樹脂が硬化した際に収容部34に接着するのを阻害する機能を果たす薬剤7が塗布される。一方、高電圧ケーブル2の先端部22の外面には、例えば収容部34の内部空間33に注入した樹脂が硬化した際に高電圧ケーブル2の先端部22に接着するのを補助する機能を果たす薬剤8が塗布される。なお、薬剤7,8は、上述した機能を有する薬剤に限定されない。
【0036】
上述した薬剤7,8の塗布作業においては、まず、
図3に示すように、導入部32に対して可動部材6を収容部34の内部空間33に近づく方向にスライド移動させる。これにより、高電圧ケーブル2の先端部22を内部空間33における所定位置から内部空間33の奥の方、つまりは、側壁部31の内面から大きく離れる位置まで進入させる。このとき、可動部材6は、その一部分が導入部32から収容部34の内部空間33に突き出て露出しており、一部分は導入部32の内側に残っている。
【0037】
高電圧ケーブル2の先端部22を側壁部31の内面から大きく離れた位置に仮置きした状態で、
図4に示すように、薬剤7を収容部34の内面に例えば筆、刷毛、ヘラ等を使用して塗布する。また、薬剤7とは異なる種類の薬剤8を高電圧ケーブル2の先端部22の外面に例えば筆、刷毛、ヘラ等を使用して塗布する。
【0038】
薬剤7,8の塗布が完了すると、
図5に示すように、高電圧ケーブル2の先端部22を上述した内部空間33の所定位置に戻すために、可動部材6を収容部34の内部空間33から離れる方向にスライド移動させる。このとき、可動部材6は導入部32の内側に退避する。これにより、高電圧ケーブル2の先端部22を高電圧端子5に接続可能となる。
【0039】
このように、収容部34の内面及び高電圧ケーブル2の先端部22の外面にそれぞれ薬剤7,8を塗布する際に、高電圧ケーブル2の先端部22を側壁部31の内面と近接する位置から側壁部31の内面と大きく離れた位置に移動させることで、高電圧ケーブル2の先端部22の外面と、収容部34の内面とが近接しない。これにより、収容部34の内面及び高電圧ケーブル2の先端部22の外面に異なる種類の薬剤7,8を適切に塗り分けることができるため、収容部34の内面に薬剤7を塗布する際に高電圧ケーブル2の先端部22の外面に薬剤7が付着したり、高電圧ケーブル2の先端部22の外面に薬剤8を塗布する際に収容部34の内面に薬剤8が付着したりするのを抑制できる。よって、収容部34の内面及び高電圧ケーブル2の先端部22の外面に意図しない薬剤が付着することを抑制でき、絶縁封止材4の成形不良(樹脂による封止不良)が発生する可能性を低減できる。
【0040】
なお、薬剤は、一種の薬剤7だけが収容部34の内面に塗布されてもよいし、他の一種の薬剤8だけが高電圧ケーブル2の先端部22の外面に塗布されてもよい。この場合でも、収容部34の内面及び高電圧ケーブル2の先端部22の外面に意図しない薬剤が付着することを抑制できる。
【0041】
作用・効果
以上に説明した本実施形態の高電圧ケーブル接続具1においては、高電圧ケーブル2の外面に装着される可動部材6が導入部32の内側に収容部34の内部空間33に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられている。そして、可動部材6をスライド移動させることで、高電圧ケーブル2の先端部22を収容部34の内部空間33において所定位置からさらに進入させることができる。これにより、高電圧ケーブル2の先端部22の外面が収容部34の内面から大きく離れることで、高電圧ケーブル2の先端部22の外面及び収容部34の内面にそれぞれ異なる薬剤を塗布する際に、それぞれの薬剤の塗布範囲が目視で明確に区別できるため、塗布作業の効率が向上する。そのうえ、高電圧ケーブル2の先端部22の外面と収容部34の内面とが近接しないので、収容部34の内面及び高電圧ケーブル2の先端部22の外面に異なる種類の薬剤7,8を適切に塗り分けることができる。
【0042】
また、本実施形態の高電圧ケーブル接続具1によれば、可動部材6が筒状を呈し、可動部材6に高電圧ケーブル2が嵌め込まれているので、簡易な構造で可動部材6を導入部32に対してスライド移動可能にでき、高電圧ケーブル2の先端部22を収容部34の内部空間33で動かすことができる。
【0043】
また、本実施形態の高電圧ケーブル接続具1によれば、導入部32及び可動部材6の間には潤滑剤が介在しているので、可動部材6がスライド移動した際の可動部材6と導入部32の摩耗を抑制でき、かつ、導入部32に対する可動部材6のスライド移動を滑らかにできる。
【0044】
変形例の説明
以上、本発明の高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法の実施形態について説明したが、本発明の高電圧ケーブル接続具及び高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0045】
例えば変形例として、高電圧ケーブル2及び可動部材6の間に、可動部材6のスライド移動を停止させるストッパー機構を設けることができる。ストッパー機構は、例えば
図6及び
図7に示すように、可動部材6の外面に設けられた少なくとも一つの嵌合突起60と、導入部32の内面に形成された少なくとも一つの嵌合溝320と、で構成できる。嵌合突起60の数と嵌合溝320の数は同じである。可動部材6の外面に複数の嵌合突起60が設けられる場合、複数の嵌合突起60は可動部材6の外面に周方向に間隔をあけて設けられる。導入部320の内面に複数の嵌合溝320が形成される場合、複数の嵌合溝320は導入部320の内面に周方向に間隔をあけて設けられる。
【0046】
嵌合突起60は、可動部材6の外面から所定の高さ突き出るとともに、可動部材6の長さ方向に沿って所定の長さ延びる。嵌合溝320は、導入部32の内面に嵌合突起60の高さとほぼ同じ大きさの深さでへこむとともに、導入部32の長さ方向に沿って所定の長さ延びる。嵌合溝320の長さは嵌合突起60の長さよりも十分に大きい。
【0047】
図8(A)に示すように、高電圧ケーブル2の先端部22が収容部34の内部空間3において上述した所定位置にある場合は、可動部材6の嵌合突起60は導入部32の嵌合溝320において内部空間33と反対側の端の位置で嵌まり込んでいる。
図8(B)に示すように、可動部材6を収容部34の内部空間33に近づく方向にスライド移動させると、嵌合突起60は嵌合溝320内を移動し、その後、嵌合溝320において内部空間33側の端に突き当たる。これにより、可動部材6はこれ以上のスライド移動が規制され、内部空間33に対する高電圧ケーブル2の先端部22の進入を停止できる。また、
図8(B)に示す状態から、可動部材6を収容部34の内部空間33から離れる方向にスライド移動させると、嵌合突起60は嵌合溝320内を移動し、その後、嵌合溝320において内部空間33と反対側の端に突き当たる。これにより、可動部材6はこれ以上のスライド移動が規制され、高電圧ケーブル2の先端部22を上述した内部空間33における所定位置に停止できる。
【0048】
なお、ストッパー機構の構造は、上述した構造に限定されず、可動部材6のスライド移動を上述した適切な位置で停止させることができれば、種々の公知の構造を採用できる。
【0049】
また、上記実施形態では、可動部材6が筒状を呈し、可動部材6に高電圧ケーブル2が嵌め込まれている。例えば変形例として、可動部材6を板状とし、高電圧ケーブル2の外面に周方向に間隔をあけて複数の板状の可動部材6を取り付けてもよい。この変形例では、複数の可動部材6の外面を導入部32の内面に接触させることで、複数の可動部材6は導入部32に対して滑りながらスライド移動可能であり、これにより、高電圧ケーブル2の先端部22を収容部34の内部空間33で動かすことができる。
【0050】
また、上記実施形態では、可動部材6の外面を導入部32の内面に接触させて、可動部材6を導入部32に対して滑らせることでスライド移動させている。例えば変形例として、可動部材6に転動可能な複数のボールを取り付け、ボールの転がりを利用して可動部材6を導入部32に対してスライド移動させてもよい。その他、導入部32に対して高電圧ケーブル2の外面に装着された可動部材6をスライド移動させる構造は、種々の公知の構造を採用できる。
【0051】
また、上記実施形態では、筐体3の側壁部31に導入部32が連接されている。例えば変形例として、筐体3の底部30に導入部32を連接できる。
【0052】
まとめ
以上に説明したとおり、本開示の課題を解決するため、本開示は以下の項1に記載の高電圧ケーブル接続具を包含する。
【0053】
項1.高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材と、
を備える、高電圧ケーブル接続具。
【0054】
また本開示は、本開示の課題を解決するため、以下の項2に記載の高電圧ケーブル接続具を包含する。
【0055】
項2.高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されることで前記高電圧ケーブル及び前記導入部の間に設けられる金属製又は自己潤滑性を有する樹脂製の可動部材と、
樹脂の硬化により前記内部空間に成形され、前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間に封止する絶縁封止材と、
を備える、高電圧ケーブル接続具。
【0056】
また本開示は、上記項1又は2に記載の高電圧ケーブル接続具の好ましい態様として、以下の項3に記載の高電圧ケーブル接続具を包含する。
【0057】
項3.前記可動部材が筒状を呈し、前記可動部材に前記高電圧ケーブルが嵌め込まれている、項1又は2に記載の高電圧ケーブル接続具。
【0058】
また本開示は、上記項3に記載の高電圧ケーブル接続具の好ましい態様として、以下の項4に記載の高電圧ケーブル接続具を包含する。
【0059】
項4.前記導入部及び前記可動部材の間には潤滑剤が介在している、項3に記載の高電圧ケーブル接続具。
【0060】
また本開示は、本開示の課題を解決するため、以下の項5に記載の高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法を包含する。
【0061】
項5.高電圧電源に接続される高電圧ケーブルと、
前記高電圧ケーブルを内部に導入するための導入部、及び、前記高電圧ケーブルの先端部を内部空間に収容する収容部、を備えた筐体と、
を備えた高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法であって、
前記高電圧ケーブルの外面に装着されかつ前記導入部の内側に前記内部空間に対して接近及び離間する方向にスライド移動可能に設けられる可動部材を、前記内部空間に接近する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記内部空間において所定位置から進入させる工程と、
前記高電圧ケーブルの先端部の外面及び/又は前記収容部の内面に薬剤を塗布する工程と、
前記可動部材を前記内部空間から離間する方向にスライド移動させて前記高電圧ケーブルの先端部を前記所定位置に戻す工程と、
を含む、高電圧ケーブル接続具に対する薬剤の塗布方法。
【符号の説明】
【0062】
1 高電圧ケーブル接続具
2 高電圧ケーブル
3 筐体
4 絶縁封止材
6 可動部材
22 高電圧ケーブルの先端部
32 導入部
33 収容部の内部空間
34 収容部