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特開2024-158361二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158361
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20241031BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/042 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
B01D53/32
C25B9/00 A
C25B1/01 Z
C25B9/23
C25B11/042
C25B11/081
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073507
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 雅卓
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健男
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA15
4K011AA21
4K011AA32
4K011BA04
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA11
4K021CA15
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB46
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】水分解反応を利用した二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収において、低いエネルギー消費で二酸化炭素を水分解生成物と分離し、回収、濃縮することができる、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法を提供する。
【解決手段】電気化学触媒として機能する材料(例えば電気化学触媒11g)にイオン交換膜11fを密接させた電極と、電気化学触媒として機能する材料とイオン交換膜11fとの界面を密着する密着機構11hと、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学触媒として機能する材料にイオン交換膜を密接させた電極と、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する密着機構と、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、
前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項4】
請求項3に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜の表面を押さえ込む柱状もしくは壁状の構造体、または多孔質構造体を利用して密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項5】
請求項1に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であり、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であり、
前記電気化学セルは、電解液を流通させながら電気化学反応を行うセルであることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項6】
請求項5に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記二酸化炭素の回収は、前記電気化学セルを用いて水を電気分解して水酸化物イオンとプロトンとを生成する水電解反応を行い、前記生成した水酸化物イオンに二酸化炭素を接触させることによって前記二酸化炭素を炭酸イオンへと変換することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項7】
請求項6に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記回収した二酸化炭素の脱離は、前記生成したプロトンに前記変換した炭酸イオンを接触させることによって前記炭酸イオンを二酸化炭素へと変換することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項8】
請求項5に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
前記電気化学触媒として機能する材料が酸化イリジウムであり、前記イオン交換膜が陽イオン交換膜であり、
前記電気化学セルは、カソードとして白金を含む電極、アノードとして前記陽イオン交換膜を密接させた前記酸化イリジウムを含む電極を有し、前記カソードと前記アノードとの間の電解液槽に、前記カソードと前記アノードとを隔てる陽イオン交換膜を有し、
前記密着機構は、前記アノードの前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極の表面を押さえ込む柱状の構造体を利用して密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項9】
請求項8に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮装置であって、
上記水の電気分解反応において、前記電解液槽に電解液を送液することによってカソード側の電解液に二酸化炭素を回収し、前記回収した二酸化炭素をアノード側の電解液で脱離することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮装置。
【請求項10】
電気化学触媒として機能する材料にイオン交換膜を密接させた電極と、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する密着機構と、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項11】
請求項10に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、
前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項13】
請求項12に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜の表面を押さえ込む柱状もしくは壁状の構造体、または多孔質構造体を利用して密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項14】
請求項10に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であり、
前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であり、
前記電気化学セルは、電解液を流通させながら電気化学反応を行うセルであることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項15】
請求項14に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記二酸化炭素の回収は、前記電気化学セルを用いて水を電気分解して水酸化物イオンとプロトンとを生成する水電解反応を行い、前記生成した水酸化物イオンに二酸化炭素を接触させることによって前記二酸化炭素を炭酸イオンへと変換することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項16】
請求項15に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記回収した二酸化炭素の脱離は、前記生成したプロトンに前記変換した炭酸イオンを接触させることによって前記炭酸イオンを二酸化炭素へと変換することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項17】
請求項14に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
前記電気化学触媒として機能する材料が酸化イリジウムであり、前記イオン交換膜が陽イオン交換膜であり、
前記電気化学セルは、カソードとして白金を含む電極、アノードとして前記陽イオン交換膜を密接させた前記酸化イリジウムを含む電極を有し、前記カソードと前記アノードとの間の電解液槽に、前記カソードと前記アノードとを隔てる陽イオン交換膜を有し、
前記密着機構は、前記アノードの前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極の表面を押さえ込む柱状の構造体を利用して密着する機構であることを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【請求項18】
請求項17に記載の二酸化炭素の回収脱離濃縮方法であって、
上記水の電気分解反応において、前記電解液槽に電解液を送液することによってカソード側の電解液に二酸化炭素を回収し、前記回収した二酸化炭素をアノード側の電解液で脱離することを特徴とする二酸化炭素の回収脱離濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題等に対する対策の一つとして、大気中等の二酸化炭素(CO)を分離、回収、貯留する技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により水酸化ナトリウム水溶液と塩酸を生成し、生成した水酸化ナトリウム水溶液に空気を供給し、その空気中の二酸化炭素を溶け込ませ、生成した炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを含む水溶液に対し、生成した塩酸を供給して溶け込んだ二酸化炭素を気体として取り出す二酸化炭素回収システムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、アミノ基含有化合物を含む吸収液に、二酸化炭素を含む排ガスを気液接触させて二酸化炭素を吸収し、この二酸化炭素吸収液を電気分解および気液分離して二酸化炭素の脱離と吸収液の再生を行う二酸化炭素回収装置および二酸化炭素回収方法が記載されている。
【0005】
特許文献3~6には、水酸化ナトリウムと塩化カルシウムを含む混合液に二酸化炭素を接触させ、二酸化炭素を炭酸カルシウム(CaCO(固体))として固定し、副生成物である塩化ナトリウムの電気分解で水酸化ナトリウムを生成し再利用する、二酸化炭素の固定方法、固定化二酸化炭素の製造方法、および二酸化炭素の固定装置が記載されている。
【0006】
非特許文献1には、水分解反応で生じる水酸化物イオン(OH)と電解液中のカルシウムイオン(Ca2+)を利用し、二酸化炭素を炭酸カルシウム(固体)として回収し、これを水分解反応で生じるプロトン(H)と反応させることによって二酸化炭素を脱離する技術が記載されている。
【0007】
非特許文献2には、電気化学フローセルによる水分解反応で生じる水酸化物イオンとプロトンを二酸化炭素回収と脱離に利用する技術が記載されている。
【0008】
非特許文献3には、水分解反応で生じる水酸化物イオンとプロトンを利用した二酸化炭素の回収脱離と、生成する二酸化炭素/水素の混合ガスからのメタノール製造技術が記載されている。
【0009】
非特許文献4には、電解槽の隔膜にバイポーラー膜を用いた電気化学セルによる水分解反応を利用した二酸化炭素の回収技術が記載されている。
【0010】
非特許文献5には、金属電極とイオン交換膜からなる多槽型の電気化学セルでの電解反応を利用した二酸化炭素の回収技術が記載されている。
【0011】
特許文献1の方法は、塩化ナトリウム水溶液の電気分解反応により生じる水酸化ナトリウムと塩酸を利用して二酸化炭素の回収と脱離を行うが、投入した電気エネルギーは電気分解反応で消費され、貯蔵、回収することができない。
【0012】
特許文献2の方法は、二酸化炭素回収液としてアミノ基含有化合物を使用しており、吸収液の気化拡散によるアミノ基含有化合物に起因する臭いや有害性が課題となる。
【0013】
特許文献3~6および非特許文献1の方法は、電解反応と電解液中に添加した二酸化炭素固体化剤により二酸化炭素を固体として回収するが、固体化した二酸化炭素の分取および移送工程が必要となる。
【0014】
非特許文献2~4の方法は、水分解反応を利用した二酸化炭素回収脱離技術であるが、本願発明とは電気化学セルの構造が異なる。また、非特許文献2,3の方法では、水電解生成物と脱離二酸化炭素が混合するため、二酸化炭素の単離には分離工程が必要となる。
【0015】
非特許文献5の方法は、電気化学反応を利用した二酸化炭素回収脱離技術であるが、本願発明とは電極上で進行する化学反応が異なり、投入した電気エネルギーも消費されて貯蔵することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2019-181451号公報
【特許文献2】特開2015-199042号公報
【特許文献3】特許第6739680号公報
【特許文献4】特許第6817485号公報
【特許文献5】特許第6864143号公報
【特許文献6】特許第6906111号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Sustainable Energy Fuels, 2021, 5, pp.4355-4367
【非特許文献2】2021 ECS Meeting Abstracts, MA2021-02, 1835
【非特許文献3】Int. J. Hydrogen Energy, Vol. 20, No. 8, pp.653-663, 1995
【非特許文献4】AICHE JOURNAL, Vol. 55, No.12, (2009), pp.3286-3293
【非特許文献5】Electrochimica Acta, 219, (2016), pp.655-663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、電気化学反応を利用した二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収において、低いエネルギー消費で二酸化炭素を水分解生成物と分離し、回収、濃縮することができる、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、電気化学触媒として機能する材料にイオン交換膜を密接させた電極と、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する密着機構と、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮する、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置である。
【0020】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であることが好ましい。
【0021】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であることが好ましい。
【0022】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜の表面を押さえ込む柱状もしくは壁状の構造体、または多孔質構造体を利用して密着する機構であることが好ましい。
【0023】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であり、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であり、前記電気化学セルは、電解液を流通させながら電気化学反応を行うセルであることが好ましい。
【0024】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記二酸化炭素の回収は、前記電気化学セルを用いて水を電気分解して水酸化物イオンとプロトンとを生成する水電解反応を行い、前記生成した水酸化物イオンに二酸化炭素を接触させることによって前記二酸化炭素を炭酸イオンへと変換することが好ましい。
【0025】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記回収した二酸化炭素の脱離は、前記生成したプロトンに前記変換した炭酸イオンを接触させることによって前記炭酸イオンを二酸化炭素へと変換することが好ましい。
【0026】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、前記電気化学触媒として機能する材料が酸化イリジウムであり、前記イオン交換膜が陽イオン交換膜であり、前記電気化学セルは、カソードとして白金を含む電極、アノードとして前記陽イオン交換膜を密接させた前記酸化イリジウムを含む電極を有し、前記カソードと前記アノードとの間の電解液槽に、前記カソードと前記アノードとを隔てる陽イオン交換膜を有し、前記密着機構は、前記アノードの前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極の表面を押さえ込む柱状の構造体を利用して密着する機構であることが好ましい。
【0027】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、上記水の電気分解反応において、前記電解液槽に電解液を送液することによってカソード側の電解液に二酸化炭素を回収し、前記回収した二酸化炭素をアノード側の電解液で脱離することが好ましい。
【0028】
本発明は、電気化学触媒として機能する材料にイオン交換膜を密接させた電極と、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する密着機構と、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮する、二酸化炭素の回収脱離濃縮方法である。
【0029】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であることが好ましい。
【0030】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であることが好ましい。
【0031】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜の表面を押さえ込む柱状もしくは壁状の構造体、または多孔質構造体を利用して密着する機構であることが好ましい。
【0032】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記電気化学セルは、水の電気分解反応で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段を有し、前記電極は、前記イオン生成物を前記イオン交換膜に局在化する電極であり、前記密着機構は、前記電気化学触媒として機能する材料および前記イオン交換膜が液体または気体と接触することを可能として、前記電気化学触媒として機能する材料と前記イオン交換膜との界面を密着する機構であり、前記電気化学セルは、電解液を流通させながら電気化学反応を行うセルであることが好ましい。
【0033】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記二酸化炭素の回収は、前記電気化学セルを用いて水を電気分解して水酸化物イオンとプロトンとを生成する水電解反応を行い、前記生成した水酸化物イオンに二酸化炭素を接触させることによって前記二酸化炭素を炭酸イオンへと変換することが好ましい。
【0034】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記回収した二酸化炭素の脱離は、前記生成したプロトンに前記変換した炭酸イオンを接触させることによって前記炭酸イオンを二酸化炭素へと変換することが好ましい。
【0035】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、前記電気化学触媒として機能する材料が酸化イリジウムであり、前記イオン交換膜が陽イオン交換膜であり、前記電気化学セルは、カソードとして白金を含む電極、アノードとして前記陽イオン交換膜を密接させた前記酸化イリジウムを含む電極を有し、前記カソードと前記アノードとの間の電解液槽に、前記カソードと前記アノードとを隔てる陽イオン交換膜を有し、前記密着機構は、前記アノードの前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極とを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、前記陽イオン交換膜と前記酸化イリジウムを含む電極の表面を押さえ込む柱状の構造体を利用して密着する機構であることが好ましい。
【0036】
前記二酸化炭素の回収脱離濃縮方法において、上記水の電気分解反応において、前記電解液槽に電解液を送液することによってカソード側の電解液に二酸化炭素を回収し、前記回収した二酸化炭素をアノード側の電解液で脱離することが好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、電気化学反応を利用した二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収において、低いエネルギー消費で二酸化炭素を水分解生成物と分離し、回収、濃縮することができる、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置および二酸化炭素の回収脱離濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係る二酸化炭素回収脱離濃縮装置の一例の概略構成と電解液の流れを示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る二酸化炭素回収脱離濃縮装置の他の例の概略構成と電解液の流れを示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る二酸化炭素回収脱離濃縮装置における電気化学フローセルの概略構成と電気化学フローセル内で想定される化学反応を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る二酸化炭素回収脱離濃縮装置における二酸化炭素回収分離濃縮器の概略構成と生成物の移動経路を示す図である。
図5】実施例における、定電流電解における2極間電圧(V)(図5(a))、カソード(Pt極)への印加電圧(V)(図5(b))、アノード(IrO極)への印加電圧(V)(図5(c))の経時変化(a:柱状構造あり系、b:柱状構造なし系)を示すグラフである。
図6】実施例における、二酸化炭素回収濃縮評価における低濃度二酸化炭素容器(図6(a))および二酸化炭素貯蔵容器(図6(b))内の二酸化炭素濃度の経時変化(a:柱状構造あり系、b:柱状構造なし系、c:無電解)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0040】
本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮装置は、電気化学触媒として機能する材料にイオン交換膜を密接させた電極と、電気化学触媒として機能する材料とイオン交換膜との界面を密着する密着機構と、を有する電気化学セルを用いて、電気化学反応を行いながら二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を行い、二酸化炭素を濃縮する装置である。
【0041】
本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0042】
図1に示す二酸化炭素回収濃縮装置1は、例えば、電気化学セルの作用極部11aと、電解液槽部11bと、電気化学セルの対極部11cと、で構成される。作用極部11aには、作用極となる電気化学触媒11gと、イオン交換膜11fと、電気化学触媒11gとイオン交換膜11fとの界面を密着する密着機構11hと、を備える。対極部11cには、対極となる電気化学触媒11dを備える。電解液槽部11bには、電解液槽11k、電解液槽11lと、電解液槽11kの電解液の流入口13a、流出口13cと、電解液槽11lの電解液の流入口13b、流出口13dと、作用極となる電気化学触媒11gと対極となる電気化学触媒11dを隔て、水の電気分解反応等で生じる気体生成物とイオン生成物とを空間的に分離する分離手段として隔膜11eと、を備える。二酸化炭素回収濃縮装置1は、二酸化炭素回収剤を含む電解液と回収対象の二酸化炭素を反応させる気液接触器15と、電解液から脱離した二酸化炭素と電解液とを分離する気液分離器17とを備えてもよい。
【0043】
図1の例では、密着機構11hは、多孔質構造体であり、多孔質構造体には電気化学触媒11gおよびイオン交換膜11fに液体や気体などを接触させるための少なくとも1つの開口部11i(イオン交換膜11f側)および開口部11j(電気化学触媒11g側)が形成されている。
【0044】
二酸化炭素回収濃縮装置1において、対極となる電気化学触媒11dと作用極となる電気化学触媒11gとの間に電圧が印加されて、例えば、水の分解反応が行われる。水の分解反応は、電気化学触媒11dにおいて水(HO)から水素(H)および水酸化物イオン(OH)を生じさせ、電気化学触媒11gにおいて水(HO)から酸素(O)およびプロトン(H)を生じさせる電気化学反応である。
カソード: 4HO+4e → 2H+4OH
アノード: 2HO → O+4H+4e
【0045】
流入口13a、流入口13bを通して電解液槽11k、電解液槽11lに電解液がそれぞれ供給される。作用極部11aの電気化学触媒11gには、開口部11jを通して、例えば水蒸気含有気体が流通される。電解液槽11kに供給された電解液は、水電解反応により生じた水素(H)および水酸化物イオン(OH)とともに流出口13cから気液接触器15へ送液される。気液接触器15では、二酸化炭素の回収剤である水酸化物イオン(OH)を含む電解液と回収対象の二酸化炭素(CO)を反応させる。
【0046】
一方、電解液槽11lに流入口13bを通して気液接触器15で回収対象の二酸化炭素(CO)から生成した炭酸水素イオン(HCO )を含む電解液が供給され、電解液槽11lにおいて、電気化学触媒11gに密着されたイオン交換膜11fから開口部11iを通して供給されるプロトン(H)と炭酸水素イオン(HCO )とが反応して二酸化炭素(CO)と水(HO)へ化学変換される。電気化学触媒11gにおいて生成した酸素(O)は開口部11jを通して排出される。二酸化炭素(CO)を含む電解液は流出口13dを通して気液分離器17へ送液される。気液分離器17では、電解液から脱離した二酸化炭素(CO)と電解液とが分離される。
【0047】
二酸化炭素回収濃縮装置1では、例えば水の電気分解反応により電気化学触媒11d、電気化学触媒11gでイオン生成物(水酸化物イオン:OH、プロトン:H)を生成し、気体生成物とイオン生成物とを隔膜11eにより空間的に分離し、電気化学触媒11gに密着させたイオン交換膜11fにプロトン(H)を局在化させ、このイオン交換膜11fに電解液を接触させることによって二酸化炭素回収剤を含む電解液の生成や電解液中に回収した二酸化炭素(CO)の脱離を行う。電気化学触媒11gとイオン交換膜11fとの界面を密着する密着機構11hにより界面の剥離を抑制することによって、イオン交換膜11fへのイオン生成物の局在化を円滑にするとともに電気化学セルの電気抵抗を低下させて水の電気分解反応等の電気化学反応に必要な電気エネルギーを低減することができる。
【0048】
本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮装置の他の例として、水分解反応を利用した二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素の脱離と、を連続させて二酸化炭素を濃縮する、二酸化炭素の回収脱離濃縮装置を示して説明する。このような二酸化炭素回収濃縮装置の一例の概略構成を図2に示す。
【0049】
図2に示す二酸化炭素回収濃縮装置3は、水分解反応を利用して二酸化炭素含有気体から二酸化炭素を回収、濃縮する装置である。二酸化炭素回収濃縮装置3は、水の分解反応を行う水分解反応手段として、水の電気分解反応を行う電気化学フローセル10と、電解液の循環と生成ガスの気液分離および二酸化炭素の回収と濃縮を行う二酸化炭素回収分離濃縮手段として、二酸化炭素回収分離濃縮器12と、二酸化炭素回収液から脱離した二酸化炭素を貯蔵する二酸化炭素貯蔵手段として、二酸化炭素回収容器14と、から構成される。
【0050】
二酸化炭素回収濃縮装置3に用いた電気化学フローセル10の構成の一例を図3に示す。
【0051】
電気化学フローセル10は、例えば、カソード電解槽10aと、アノード電解槽(1)10bと、アノード電解槽(2)10cとで構成される多室型の電気化学フローセルである。電気化学フローセル10は、カソード(WE)10dと、電気化学触媒として機能する材料を含むアノード(CE)10gと、を有する。電気化学フローセル10は、カソード10dにおいて生じた水素および水酸化物イオンと、アノード10gにおいて生じた酸素およびプロトンと、を空間的に分離する分離手段として、隔膜10eを有し、アノード10gにおいて生じた酸素とプロトンとを分離し、分離したプロトンを局所的に濃縮して局在化するプロトン濃縮手段として、イオン交換膜10fを有する。
【0052】
カソード電解槽10aは、カソード10dを備え、カソード電解槽10aとアノード電解槽(1)10bとは、隔膜10eで仕切られている。アノード電解槽(1)10bとアノード電解槽(2)10cとは、アノード10gで仕切られている。アノード10gに密接させてイオン交換膜10fが設置され、アノード10gとイオン交換膜10fとの界面を密着させ、界面剥離を抑制するための密着機構10hが導入されている。電解液として、カソード電解槽10aには、カソード電解液42aが、アノード電解槽(1)10bには、アノード電解液42bが用いられている。カソード10d-アノード10g間には、電源40によって電圧が印加される。カソード電解槽10aには、参照極(RE)38が設置されていてもよい。
【0053】
図3の例では、密着機構10hは、少なくとも1つの柱を有する柱状の構造体であり、少なくとも1つの開口部10iが形成されている。
【0054】
電気化学フローセル10において、水の分解反応が行われる。水の分解反応は、例えば、電気化学フローセル10において電解液中でカソード10dおよびアノード10gに電圧を印加し、カソード10dにおいて水(HO)から水素(H)および水酸化物イオン(OH)を生じさせ、アノード10gにおいて水(HO)から酸素(O)およびプロトン(H)を生じさせる電気化学反応である。
カソード: 4HO+4e → 2H+4OH
アノード: 2HO → O+4H+4e
【0055】
二酸化炭素回収濃縮装置3に用いた二酸化炭素回収分離濃縮器12の構成の一例を図4に示す。
【0056】
二酸化炭素回収分離濃縮器12は、例えば、電気化学フローセル10のカソード10dにおいて生じた水素をカソード電解液42aから気液分離するガス分離槽12aと、水素を気液分離したカソード電解液42aと二酸化炭素含有気体との接触を行う二酸化炭素回収槽12bと、電気化学フローセル10において脱離させた二酸化炭素をアノード電解液42bから気液分離する二酸化炭素分離槽12dと、を備える多槽構造を有する。二酸化炭素回収分離濃縮器12は、二酸化炭素回収槽12bからのカソード電解液42aと、二酸化炭素分離槽12dからのアノード電解液42bと、を混合して電気化学フローセル10のカソード電解槽10aおよびアノード電解槽(1)10bへ循環させる電解液送出槽12cをさらに含んでもよい。ガス分離槽12a、二酸化炭素回収槽12b、電解液送出槽12c、および二酸化炭素分離槽12dは、電解液循環のために各槽が流路で接続された構造を有している。ガス分離槽12a、二酸化炭素回収槽12b、電解液送出槽12c、および二酸化炭素分離槽12dは、例えば底部付近または水面付近が流路で接続された構造を有していてもよい。
【0057】
図2,3,4に示すように、電気化学フローセル10のカソード電解槽10aのカソード電解液出口と、二酸化炭素回収分離濃縮器12のガス分離槽12aのカソード電解液入口とは、カソード電解液配管20により接続されている。アノード電解槽(1)10bのアノード電解液出口と、二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素分離槽12dのアノード電解液入口とは、アノード電解液配管22により接続されている。電解液送出槽12cの電解液出口と、カソード電解槽10aの電解液入口およびアノード電解槽(1)10bの電解液入口とは、電解液配管24および電解液配管24から分岐した電解液配管24a,24bによりそれぞれ接続されている。アノード電解槽(2)10cの生成ガス出口には、生成ガス放出配管26が接続されている。アノード電解槽(2)10cの水蒸気入口には、水蒸気供給配管28が接続されている。ガス分離槽12aの生成ガス出口には、生成ガス放出配管30が接続されている。二酸化炭素回収槽12bの二酸化炭素含有気体入口には、二酸化炭素含有気体供給配管32が接続され、二酸化炭素含有気体出口には、二酸化炭素含有気体放出配管34が接続されている。二酸化炭素分離槽12dの二酸化炭素出口と、二酸化炭素回収容器14の二酸化炭素入口とは、二酸化炭素放出配管36により接続されている。
【0058】
本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮方法および二酸化炭素回収濃縮装置3の動作について説明する。
【0059】
電気化学フローセル10において、カソード10d-アノード10g間に電源40によって電圧が印加されて、上記の通りに水の分解反応が行われる。
【0060】
二酸化炭素回収分離濃縮器12の電解液送出槽12cから電解液配管24および電解液配管24a,24bを通して、電気化学フローセル10のカソード電解槽10aおよびアノード電解槽(1)10bに電解液が供給される。アノード電解槽(2)10cには、水蒸気供給配管28を通して、例えば水蒸気含有気体が流通される。カソード電解槽10aに供給された電解液は、カソード電解液42aとして、水電解反応により生じた水素(H)および水酸化物イオン(OH)とともにカソード電解液配管20を通して、二酸化炭素回収分離濃縮器12のガス分離槽12aへ還流される。ガス分離槽12aでは、カソード電解液42aから水素(H)が気液分離され、生成ガス放出配管30を通して排出される。水酸化物イオン(OH)を含むカソード電解液42aは底部付近の流路を通して二酸化炭素回収槽12bへと導入される。二酸化炭素回収槽12bでは、水酸化物イオン(OH)を含むカソード電解液42aに二酸化炭素含有気体が二酸化炭素含有気体供給配管32を通してバブリングされ、二酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH)の反応によって二酸化炭素(CO)が炭酸水素イオン(HCO3-)としてカソード電解液42a中に回収される。余剰の二酸化炭素(CO)は、二酸化炭素含有気体放出配管34を通して放出され、再び二酸化炭素含有気体供給配管32を通して二酸化炭素回収槽12bへとバブリングされる。炭酸水素イオン(HCO3-)を含むカソード電解液42aは水面付近の流路を通して電解液送出槽12cへと導入される。電解液送出槽12cにおいて、カソード電解液42aは、後述するように二酸化炭素分離槽12dから底部付近の流路を通して導入されたアノード電解液42bと混合され、電解液配管24および電解液配管24a,24bを通して、再び電気化学フローセル10へと循環される。
【0061】
一方、電気化学フローセル10のアノード電解槽(1)10bに炭酸水素イオン(HCO3-)を含む電解液が供給され、アノード電解槽(1)10bにおいて、アノード10gに密着されたイオン交換膜10fから供給されるプロトン(H)と炭酸水素イオン(HCO3-)とが反応して二酸化炭素(CO)と水(HO)へ化学変換される。アノード電解槽(2)10cにおいて、生成した酸素(O)が生成ガス放出配管26を通して排出される。二酸化炭素(CO)を含むアノード電解液42bはアノード電解液配管22を通して二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素分離槽12dへ還流される。二酸化炭素分離槽12dでは、二酸化炭素(CO)を含むアノード電解液42bから二酸化炭素(CO)が気液分離され、二酸化炭素放出配管36を通して二酸化炭素回収容器14内に貯蔵、濃縮される。アノード電解液42bは、底部付近の流路を通して電解液送出槽12cへと導入される。アノード電解液42bは、上述したように二酸化炭素回収槽12bから水面付近の流路を通して導入されたカソード電解液42aと混合され、電解液配管24および電解液配管24a,24bを通して、再び電気化学フローセル10へと循環される。
【0062】
このように、本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮方法および二酸化炭素回収濃縮装置3では、二酸化炭素の回収は、カソード10dで生じる水酸化物イオン(OH)を含むカソード電解液42aに二酸化炭素含有気体を接触させる。また、回収した二酸化炭素の脱離は、イオン交換膜10fにおいて局所的に濃縮したプロトン(H)に、回収した二酸化炭素から生成した炭酸水素イオン(HCO3-)を含むアノード電解液42bを接触させる。
【0063】
そして、二酸化炭素の濃縮は、二酸化炭素の脱離を行う電気化学フローセル10のカソード10dおよびアノード10gと、二酸化炭素の回収を行う二酸化炭素回収分離濃縮器12と、の間において電解液を循環することによって、二酸化炭素の回収と二酸化炭素の脱離とを連続的に進行させる。
【0064】
カソード10d-アノード10g間の隔膜10eとして例えば陽イオン交換膜が用いられ、カソード生成物(水素:H、水酸化物イオン:OH)とアノード生成物(酸素:O、プロトン:H)の生成場が分離される。さらに、アノード10gに密着されてイオン交換膜10fとして例えば陽イオン交換膜が設置されることによって、アノード10gで生成する酸素(O)とプロトン(H)とが分離され、イオン交換膜10fの表面にプロトン(H)が局所的に濃縮される。
【0065】
このような電気化学フローセル10の構成により、水分解反応による水素(H)および酸素(O)の製造とともに、電解液の循環によってカソード10dで生成される水酸化物イオン(OH)によって二酸化炭素含有気体から二酸化炭素(CO)が炭酸水素イオン(HCO3-)として回収され、炭酸水素イオン(HCO3-)がアノード10gで生成されるプロトン(H)と反応することによって二酸化炭素(CO)が脱離される。このように、本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮装置3では、水の分解反応によって二酸化炭素の回収剤である水酸化物イオン(OH)と脱離剤であるプロトン(H)とを生成し、水の分解生成物と脱離した二酸化炭素を分離、回収することができ、水の分解反応に投入するエネルギーの一部を回収することが可能である。
【0066】
また、水の電気分解反応を利用して二酸化炭素の回収と脱離を連続して行うことによって低濃度の二酸化炭素を濃縮して高濃度の二酸化炭素を製造することができる。また、二酸化炭素の回収と脱離は電気的に制御することが可能であり、投入された電気エネルギーは有用物質(水素(H)および酸素(O))として回収および貯蔵することができる。このため二酸化炭素回収、脱離に必要なエネルギーコストを大幅に低減することができる。
【0067】
以上の通り、本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮方法および二酸化炭素回収濃縮装置では、例えば水の電気分解反応において電解液中に生じる水酸化物イオン(OH)およびプロトン(H)を空間的に分離することによって、二酸化炭素の回収と脱離を実現している。電気化学フローセル10の電極間、すなわちカソード10dとアノード10gとの間に隔膜10eを配置することによってカソード10dで生じる水酸化物イオンとアノード10gで生じるプロトンとを空間的に分離し、それぞれを二酸化炭素の回収と回収した二酸化炭素の脱離に利用することができる。さらにアノード10gにイオン交換膜10fを密着させることによって、アノード生成物である酸素(O)とプロトン(H)との分離と、イオン交換膜10fの表面へのプロトン(H)の局所的な濃縮と、を実現させた。また、電解液を各電解槽に循環させ、二酸化炭素の回収と脱離を連続的かつ継続的に進行させることによって、低濃度の二酸化炭素から高濃度の二酸化炭素の製造を実現する。本装置に投入される電気エネルギーは、水の電気分解反応に利用されるため、二酸化炭素の回収、脱離工程では電気エネルギーの直接的な消費がほとんどない。また、電気化学反応に投入したエネルギーは水素と酸素として回収、貯蔵することができる。このため従来の二酸化炭素回収や固定化技術とは異なり、エネルギーの製造(水素生成)と二酸化炭素の回収、脱離、濃縮とを平行して進行することができるため、二酸化炭素の回収、脱離エネルギーの大幅な低減を実現することができる。
【0068】
そして、本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮方法および二酸化炭素回収濃縮装置では、水の電気分解反応を利用した二酸化炭素の回収脱離濃縮装置において、電気化学フローセルの電解液槽に、カソード10dとアノード10gとを隔てる隔膜10eと、電解反応で生じるプロトンを濃縮する陽イオン交換膜等のイオン交換膜10fをアノード10gに密着させる密着機構10hを導入することによって、低エネルギー消費な二酸化炭素回収脱離濃縮を実現した。
【0069】
陽イオン交換膜等のイオン交換膜10fとアノード10gとを密着させて剥離を抑制することによって、電気化学フローセル10の電気抵抗が下がる。これにより、水電解に必要な電気エネルギーが低下し、低エネルギー消費で二酸化炭素回収脱離濃縮が進行する。
【0070】
このように、本実施形態に係る二酸化炭素回収濃縮方法および二酸化炭素回収濃縮装置では、水の電気分解反応によって生じる水酸化物イオンとプロトンを利用して二酸化炭素の回収と脱離を行う二酸化炭素回収脱離濃縮において、電気化学フローセル10で生じる電解抵抗を低下させることによって水の電気分解反応に必要なエネルギーを低減し、さらに電気分解反応に投入するエネルギーの一部を回収可能である低エネルギー消費な二酸化炭素回収脱離濃縮装置を実現することができる。
【0071】
回収対象の二酸化炭素含有気体は、例えば、二酸化炭素を含有する空気等である。
【0072】
電気化学反応は、水の電気分解反応の他に、酸素還元反応(カソード)と酸素生成反応(アノード)とを組み合わせたプロトン(H)と水酸化物イオン(OH)を生成する反応等であってもよい。
【0073】
カソード10dとしては、白金箔(白金(Pt)極)の他に、水素発生触媒となる炭素(C)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)やこれらの化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
アノード10gとしては、酸化イリジウム(IrO)を担持したチタン多孔質シート(酸化イリジウム(IrO)極)の他に、酸素発生触媒となるマンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)やこれらの化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
分離手段としては、カソード10dにおいて生じた水素および水酸化物イオンと、アノード10gにおいて生じた酸素およびプロトンと、を空間的に分離することができるものであればよく、特に制限はない。分離手段としては、例えば、カソード10dとアノード10gとの間に設置した隔膜10eが用いられ、隔膜10eとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)等の陽イオン交換膜の他に、市販されている一般的な陽イオン交換膜や、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等の陽イオン交換基を有する高分子鎖からなる膜等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
プロトン濃縮手段としては、アノード10gにおいて生じた酸素とプロトンとを分離し、分離したプロトンを局所的に濃縮することができるものであればよく、特に制限はない。プロトン濃縮手段としては、例えば、アノード10gに密接させて設置したイオン交換膜10fが用いられ、イオン交換膜10fとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)等の陽イオン交換膜の他に、市販されている一般的な陽イオン交換膜や、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等の陽イオン交換基を有する高分子鎖からなる膜等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
密着機構10hは、アノード10gとイオン交換膜10fとの界面を密着することができる機構であればよく、特に制限はない。密着機構10hは、例えば、電気化学触媒として機能する材料を含むアノード10gおよびイオン交換膜10fが液体または気体と接触することを可能として、アノード10gとイオン交換膜10fとの接触界面を密着する機構である。より具体的には、密着機構10hは、電気化学触媒として機能する材料を含むアノード10gとイオン交換膜10fとを互いに押さえ込んで密着させる構造を有し、アノード10gとイオン交換膜10fの表面を押さえ込む柱状もしくは壁状の構造体、または多孔質構造体を利用して密着する機構である。
【0078】
密着機構10hの材質,例えば柱状の構造体、壁状の構造体、または多孔質構造体の材質としては、例えば、酸やアルカリ等に対する安定性を有する金属や樹脂等を用いればよい。密着機構10hの柱状の構造体の柱の大きさ、壁状の構造体の壁の大きさ等は、開口部10iの大きさを考慮して、アノード10gとイオン交換膜10fとの界面を密着することができる程度に適宜設定すればよいが、例えば、イオン交換膜10fの表面のうち柱または壁により被覆される部分の割合が10~60%の範囲となるように設定すればよい。開口部10iの大きさは、イオン交換膜10fが液体と接触することができる程度に適宜設定すればよいが、例えば、イオン交換膜10fの表面のうち柱または壁に被覆されない部分の割合が40~90%の範囲となるように設定すればよい。図1の二酸化炭素回収濃縮装置1の開口部11j(電気化学触媒11g側)のようにアノード10g側に開口部を設ける場合は、開口部の大きさは、アノード10gが気体と接触することができる程度に適宜設定すればよいが、例えば、アノード10gの表面のうち柱または壁に被覆されない部分の割合が40~90%の範囲となるように設定すればよい。
【0079】
電解液としては、硫酸カリウム水溶液、アルカリ金属元素と水酸化物イオン(OH)、炭酸水素イオン(HCO )、硫酸水素イオン(HSO )、チオ硫酸イオン(S 2-)、炭酸イオン(CO 2-)等の陰イオンとを含む水溶液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
水蒸気含有気体は、例えば、水蒸気飽和アルゴンの他に、水蒸気飽和した不活性ガス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
電気化学フローセル10は、例えば、白金(Pt)を電極触媒とするカソード10dと、酸化イリジウム(IrO)を電極触媒とするアノード10gを有し、隔膜10eとして陽イオン交換膜を二電極間に設置し、イオン交換膜10fとして陽イオン交換膜をカソード10dの酸化イリジウム極に密接させて設置した構造を有する三室型の電気化学反応フローセルである。
【実施例0082】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<実施例1、比較例1>
[二酸化炭素回収濃縮装置の構成]
図2に示す二酸化炭素回収濃縮装置3を用いた。本装置は、水の電気分解反応を行う電気化学フローセル10、電解液の循環と生成ガスの気液分離および二酸化炭素回収と濃縮を行う二酸化炭素回収分離濃縮器12、二酸化炭素回収液から脱離した二酸化炭素を貯蔵する二酸化炭素回収容器14から構成した。電解液として硫酸カリウム水溶液(濃度:0.5mol/L)を用い、その循環には定量送液ポンプ(MP-2000、EYELA、循環流速:10~15mL/min)を使用した。ガスの循環にはエアポンプ(ASONE、EAP-01、循環流速:1~1.5L/min)を用いた。
【0084】
[電気化学フローセルの構成]
電気化学フローセル10として、図3に示す電気化学フローセルを用いた。電気化学フローセル10は、カソード電解槽10a、アノード電解槽(1)10b、アノード電解槽(2)10cで構成した。カソード(WE)10dとして白金箔(白金(Pt)極、3.14cm)、アノード(CE)10gとして酸化イリジウム(IrO)を担持したチタン多孔質シート(酸化イリジウム(IrO)極、3.14cm)、参照極(RE)38としてAg/AgCl極(RE-14、イーシーフロンティア)を用いた。カソード(WE)-アノード(CE)間の隔膜10eとして陽イオン交換膜(Nafion(登録商標)117、3.14cm)を用い、カソード生成物(水素:H、水酸化物イオン:OH)とアノード生成物(酸素:O、プロトン:H)の生成場を分離した。さらに、アノード(CE)10gに密着させてイオン交換膜10f(Nafion(登録商標)117、3.14cm)を設置し、アノード(CE)10gの酸化イリジウム担持面とイオン交換膜10fとを密着させ、界面剥離を抑制するための密着機構10hとして複数の柱状構造を導入した。これによって、アノード10gで生成する酸素とプロトンとを分離し、イオン交換膜10fの表面にプロトンを局所的に濃縮した。このような電気化学フローセル10の構成により、水分解反応による水素および酸素の製造とともに、電解液の循環によってカソードで生成する水酸化物イオンによる二酸化炭素回収し、これをアノードで生成するプロトンと反応させることによって二酸化炭素を脱離する二酸化炭素の回収と脱離を実現した。
【0085】
[二酸化炭素回収分離濃縮器の構成]
二酸化炭素回収分離濃縮器12として、図4に示す二酸化炭素回収分離濃縮器を用いた。二酸化炭素回収分離濃縮器12は、ガス分離槽12a、二酸化炭素回収槽12b、電解液送出槽12c、二酸化炭素分離槽12dで構成し、電解液循環のために各槽の底部付近を流路で接続した。電解液送出槽12cから電気化学フローセル10のカソード電解槽10aおよびアノード電解槽(1)10bに電解液を供給した。カソード電解槽10aに供給した電解液は、水電解反応により生じた水素および水酸化物イオンとともに二酸化炭素回収分離濃縮器12のガス分離槽12aへ還流した。ガス分離槽12aでは、電解液から水素を気液分離し、水酸化物イオンを含む電解液は二酸化炭素回収槽12bへと導入した。二酸化炭素回収槽12bでは、水酸化物イオンを含む電解液に円筒ガス噴射管(ASONE、ケラミフィルター)を用いて二酸化炭素含有気体をバブリングし、二酸化炭素と水酸化物イオンの反応によって二酸化炭素を炭酸水素イオン(HCO3-)として電解液中に回収した。炭酸水素イオンを含む電解液は電解液送出槽12cを経て再び電気化学フローセル10へと循環させた。電気化学フローセル10のアノード電解槽(1)10bに供給した炭酸水素イオンを含む電解液は、アノード10gに密着させたイオン交換膜10fから供給されるプロトンと反応して二酸化炭素と水(HO)へ化学変換され、電解液とともに二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素分離槽12dへ還流させた。二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素分離槽12dでは電解液から気液分離した二酸化炭素を二酸化炭素回収容器14内に貯蔵、濃縮し、電解液は電解液送出槽12cを経て再び電気化学フローセル10へと循環させた。
【0086】
[比較対象となる二酸化炭素回収脱離濃縮装置]
前記の二酸化炭素回収濃縮装置3の比較対象として、前記の電気化学フローセル10から密着機構10hを除いた電気化学フローセルで構成した二酸化炭素回収濃縮装置を用いた。両装置を用いて同様の二酸化炭素回収脱離濃縮評価を行い、それらの性能を比較した。以後、これら2つの二酸化炭素の回収脱離濃縮評価をそれぞれ柱状構造あり系(実施例1)、柱状構造なし系(比較例1)と記す。
【0087】
[二酸化炭素回収脱離濃縮評価方法]
上記の二酸化炭素回収濃縮装置(柱状構造あり系(実施例1)、柱状構造なし系(比較例1))を用いて二酸化炭素の回収、脱離、濃縮を評価した。電気化学フローセル10における水の電気分解反応は、電気化学測定装置(SP-150、Bio-Logic Science Instruments)を用いた定電流電解により進行させた。回収する二酸化炭素は、密閉容器(回収二酸化炭素容器、容積:12L)内に調製した二酸化炭素含有空気(二酸化炭素濃度:約2000ppm)とし、エアポンプを介して二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素回収槽12bへ循環した。二酸化炭素回収容器14として空気(二酸化炭素濃度:約450ppm)を満たした密閉容器(容積:1.3L)を用い、エアポンプを介して二酸化炭素回収分離濃縮器12の二酸化炭素分離槽12dと接続した。回収二酸化炭素容器および二酸化炭素回収槽12b内の二酸化炭素濃度の経時変化は、非分散型赤外吸収(NDIR)方式の二酸化炭素センサを備えた二酸化炭素濃度・温度・湿度データロガーTR-76Ui(株式会社ティアンドデイ)を用いて計測した。また、水電解反応においてアノード電解槽(2)10cで生成する酸素(O)をガスクロマトグラフ(マルチガスアナライザー#5、SRI Instruments)で定量し、水電解反応の電流効率とカソードでの水素(H)生成量を見積もった。
【0088】
[定電流電解による水の電気分解]
電気化学フローセル10のカソード電解槽10aとアノード電解槽(1)10bに電解液、アノード電解槽(2)10cに水蒸気飽和アルゴン(5sccm)を流通させながら定電流電解による水の電気分解反応を行った。カソード10dとアノード10g間の電流値を、0mA(0~0.5時間)、-35mA(0.5~4.5時間)、0mA(4.5時間以降)と連続的に変化させた。
【0089】
[水の電気分解挙動]
定電流電解に伴う2極間電圧、カソードおよびアノードに対する印加電圧の経時変化を図5に示す。-35mAでの定電流電解(0.5~4.5時間)における2極間電圧の平均値は、柱状構造あり系で-4.78V、柱状構造なし系で-7.43Vとなり、柱状構造の導入によって2極間電圧が2.62V低下した(図5(a)参照)。カソードに対する印加電圧の平均値は両系とも-1.52Vであり、柱状構造の有無に関わらず印加電圧はほぼ一定であった(図5(b)参照)。一方、アノードに対する印加電圧の平均値は3.26V(柱状構造あり系)、5.91V(柱状構造なし系)であり、柱状構造の導入によってアノードに対する印加電圧が半減した(図5(c)参照)。また、柱状構造なし系では電解中の印加電圧の変動幅が大きいのに対して、柱状構造あり系では印加電圧の変動幅が小さくなった。以上の結果は、電気化学フローセルにアノード10gの酸化イリジウム(IrO)担持面とイオン交換膜10fの界面剥離を抑制するための柱状構造を導入することによって、イオン交換膜-IrO界面の密着性が改善され、アノード10gに対する印加電圧が低下することによって水の電気分解に必要な電気エネルギーが低減したことを示している。また、両系においてアノード電解槽(2)10cで生成した酸素(O)の生成量はほぼ同じであり、その生成電流効率は96~97%に達した。これは両系において定量的な水電解反応が進行していることを示しており、導入した柱状構造が水の電気分解生成物の生成量や電流効率に影響をほとんど与えないことを示している。
【0090】
[電解のときの二酸化炭素回収脱離濃縮の評価]
両系における回収二酸化炭素容器と二酸化炭素回収容器14内の二酸化炭素濃度の経時変化を図6に示す。-35mAでの定電流電解で水電解反応を進行させた0.5~4.5時間に、回収対象である二酸化炭素の入った回収二酸化炭素容器内の二酸化炭素濃度が低下し、再脱離した二酸化炭素を溜める二酸化炭素回収容器14内の二酸化炭素濃度が上昇した。回収二酸化炭素容器内の二酸化炭素濃度は、柱状構造あり系で2038ppmから532ppm、柱状構造なし系で2027ppmから695ppmへ低下した(図6(a)参照)。濃度変化から推定した二酸化炭素回収量は、それぞれ18.1mL(柱状構造あり系)、16.0mL(柱状構造なし系)となった。一方、二酸化炭素回収容器14内の二酸化炭素濃度は、452ppmから7820ppm(柱状構造あり系)、573ppmから6584ppm(柱状構造なし系)へ増加し、それぞれ9.6mL(柱状構造あり系)、7.8mL(柱状構造なし系)の二酸化炭素が放出された(図6(b)参照)。
【0091】
[無電解のときの二酸化炭素回収脱離濃縮の評価]
同様の二酸化炭素回収脱離濃縮の評価を、水電解反応を行わずに実施すると、電気化学フローセルのアノード電解槽(2)10cからの酸素(O)の検出量はバックグランドレベルであった。また、回収二酸化炭素容器内の二酸化炭素は電解液への溶解吸収によって1.14mL回収された(図6(c)参照)。一方、二酸化炭素回収容器14内の二酸化炭素濃度はほぼ変化せず、溶解吸収された二酸化炭素の再脱離はほとんど進行しなかった。
【0092】
[二酸化炭素回収脱離濃縮エネルギーの評価]
二酸化炭素回収濃縮評価の結果を表1に示す。2極間平均電流値(mA)、2極間平均電圧値(V)、電解時間の積から求めた水電解エネルギーは、2411J(柱状構造あり系)、3749J(柱状構造なし系)であり、生成した水素(H)のエネルギーを除いた消費エネルギーは、1817J(柱状構造あり系)、3148J(柱状構造なし系)となった。また、測定された二酸化炭素回収量から電解液への溶解吸収量(1.14mL)を除いた水電解に起因する二酸化炭素回収量は、16.9mL(柱状構造あり系)、14.9mL(柱状構造なし系)と推定した。これらの数値から算出した二酸化炭素回収エネルギーはそれぞれ60GJ/ton-CO(柱状構造あり系)、119GJ/ton-CO(柱状構造なし系)となった。この結果は、イオン交換膜-IrO界面を密着させて接触界面を保持することによって電気化学フローセルでの水電解抵抗が低下し、二酸化炭素回収エネルギーの大幅な低減につながることを示している。
【0093】
【表1】
【0094】
このように、電気化学反応を利用した二酸化炭素含有気体からの二酸化炭素の回収において、低いエネルギー消費で二酸化炭素を水分解生成物と分離し、回収、濃縮することができた。
【符号の説明】
【0095】
1,3 二酸化炭素回収脱離濃縮装置、10 電気化学フローセル、10a カソード電解槽、10b アノード電解槽(1)、10c アノード電解槽(2)、10d カソード、10e,11e 隔膜、10f,11f イオン交換膜、10g アノード、10h,11h 密着機構、10i,11i,11j 開口部、11a 作用極部、11b 電解液槽部、11c 対極部、11d,11g 電気化学触媒、11k、11l 電解液槽、12 二酸化炭素回収分離濃縮器、12a ガス分離槽、12b 二酸化炭素回収槽、12c 電解液送出槽、12d 二酸化炭素分離槽、13a,13b 流入口、13c,13d 流出口、14 二酸化炭素回収容器、15 気液接触器、17 気液分離器、20 カソード電解液配管、22 アノード電解液配管、24,24a,24b 電解液配管、26,30 生成ガス放出配管、28 水蒸気供給配管、32 二酸化炭素含有気体供給配管、34 二酸化炭素含有気体放出配管、36 二酸化炭素放出配管、38 参照極、40 電源、42a カソード電解液、42b アノード電解液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6