(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158364
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】コイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20241031BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01F30/10 E
H01F30/10 F
H01F30/10 T
H01F5/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073512
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】谷 昇一
(72)【発明者】
【氏名】井谷 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安原 慶一
(57)【要約】
【課題】組立作業性に優れ、しかも強度信頼性に優れたコイル装置を提供すること。
【解決手段】筒部を有するボビン3と、筒部3に巻回してあるワイヤ8と、ボビン3に取り付けられるカバー5と、中脚部21を有するコア2と、を有するコイル装置1である。カバー5は、筒部の貫通孔31に連通するように筒部の端部に配置される端開口51を持つ端壁52と、ボビン3に嵌合する第1係合部55または55Aを持つ側壁54と、を有する。中脚部21は、端開口51および貫通孔31に挿入される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部を有するボビンと、
前記筒部に巻回してあるワイヤと、
前記ボビンに取り付けられるカバーと、
中脚部を有するコアと、を有するコイル装置であって、
前記カバーは、前記筒部の貫通孔に連通するように前記筒部の端部に配置される端開口を持つ端壁と、前記ボビンに嵌合する第1係合部を持つ側壁と、を有し、
前記中脚部は、前記端開口および前記貫通孔に挿入されるコイル装置。
【請求項2】
前記筒部は、前記鍔部の径方向の外側に突出する鍔部を有し、
前記鍔部は、前記第1係合部に嵌合する第2係合部を有する請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記第2係合部は、前記鍔部の外周面から前記径方向の外側に突出する凸部を有する請求項2に記載のコイル装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記第1係合部を変形させて案内する傾斜面と、前記第1係合部が係止するフック部と、を有する請求項3に記載のコイル装置。
【請求項5】
前記側壁は、前記カバーの上壁に対して撓み弾性変形可能な垂下片を有し、
前記第1係合部は、前記垂下片に具備してある請求項1に記載のコイル装置。
【請求項6】
前記第1係合部は、前記第2係合部が係止可能に前記垂下片に形成してあるスリット孔である請求項5に記載のコイル装置。
【請求項7】
前記第1係合部は、前記第2係合部が係止可能に前記垂下片に形成してある爪部である請求項5に記載のコイル装置。
【請求項8】
前記垂下片の先端は、前記カバーに形成してある中央開口に入り込むように配置してある請求項5に記載のコイル装置。
【請求項9】
前記ボビンは、前記ワイヤのコイル部から引き出されたリード部と接続される端子が取り付けられる端子台を有し、
前記カバーは、前記端子台を覆う端子台被覆部を有する請求項1~8のいずれかに記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばトランスなどのコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル装置の高耐圧化に対応するため、ボビンとコアとの間に絶縁カバーを介在させることで、コイル装置の高耐圧化を図ることがある(たとえば特許文献1)。このタイプのコイル装置では、ボビンに絶縁カバーを組み合わせ、さらにコアを組み込む設計になっている。
【0003】
しかし組立作業時にボビンと絶縁カバーが固定されていないため、位置決めが難しく組立作業性に劣る。また、コア上部でボビンと絶縁カバーとコアを接着しているが、これらの接合強度に課題があり、コイル装置の強度信頼性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、組立作業性に優れ、しかも強度信頼性に優れたコイル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の好ましい態様に係るコイル装置は、
筒部を有するボビンと、
前記筒部に巻回してあるワイヤと、
前記ボビンに取り付けられるカバーと、
中脚部を有するコアと、を有するコイル装置であって、
前記カバーは、前記筒部の貫通孔に連通するように前記筒部の端部に配置される端開口を持つ端壁と、前記ボビンに嵌合する第1係合部を持つ側壁と、を有し、
前記中脚部は、前記端開口および前記貫通孔に挿入される。
【0007】
このように構成することで、カバーがボビンに取り付けられると、カバーの第1係合部がボビンに嵌合する。そのため、たとえばカバーが取り付けられたボビンを搬送する際にも、カバーがボビンから外れ難くなり、組立作業性が向上する。また、カバーの端開口とボビンの貫通孔との位置決めがなされ、端開口と貫通孔にコアを取り付け易くなり、この点でも組立作業性が向上する。
【0008】
また、第1係合部によりカバーがボビンに嵌合して固定され、たとえばカバーの端開口とボビンの貫通孔を利用して接着剤によりコアとボビンとを接着することにより、カバーとボビンとコアとの接着強度が向上し、コイル装置の強度信頼性が向上する。特に、カバーの端壁ではなく、カバーの側壁に第1係合部を設けることで、カバーの端壁に形成される端開口の開口面積を広くすることが容易になる。その結果、コアの中脚部がカバーの端開口を通してボビンの貫通孔に挿入し易くなると共に、そのコアの上部でカバーの端開口から露出するボビンの外面の面積を大きくすることが容易になる。そのため、その露出部分に具備される接着剤により、カバーとボビンとコアとの接着強度が向上し、コイル装置の強度信頼性が特に向上する。
【0009】
好ましくは、前記筒部は、前記鍔部の径方向の外側に突出する鍔部を有し、前記鍔部は、前記第1係合部に嵌合する第2係合部を有する。このように構成することで、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置の強度信頼性がさらに向上する。
【0010】
好ましくは、前記第2係合部は、前記鍔部の外周面から前記径方向の外側に突出する凸部を有する。このように構成することで、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置の強度信頼性がさらに向上する。
【0011】
好ましくは、前記凸部は、前記第1係合部を変形させて案内する傾斜面と、前記第1係合部が係止するフック部と、を有する。カバーをボビンに取り付ける際に、カバーの第1係合部は、凸部の傾斜面に案内されて弾性変形し、その後に、元の形状に戻り、ワンタッチ式にフック部に係止し、カバーがボビンに嵌合する。したがって、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置の強度信頼性がさらに向上する。
【0012】
好ましくは、前記側壁は、前記カバーの上壁に対して撓み弾性変形可能な垂下片を有し、前記第1係合部は、前記垂下片に具備してある。このように構成することで、第1係合部が弾性変形しやすくなり、カバーをワンタッチ式にボビンに嵌合し易くなる。したがって、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置の強度信頼性がさらに向上する。
【0013】
たとえば、前記第1係合部は、前記第2係合部が係止可能に前記垂下片に形成してあるスリット孔であってもよい。あるいは、前記第1係合部は、前記第2係合部が係止可能に前記垂下片に形成してある爪部であってもよい。このように構成することで、第1係合部が弾性変形しやすくなり、カバーをワンタッチ式にボビンに嵌合し易くなる。したがって、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置の強度信頼性がさらに向上する。
【0014】
好ましくは、前記垂下片の先端は、前記カバーに形成してある中央開口に入り込むように配置してある。このように構成することで、垂下片の撓み弾性変形が、中央開口の開口縁部により制限され、必要以上に垂下片が変形することを抑制することができる。あるいは、前記垂下片の先端は、前記カバーに形成してある中央開口に入り込まないように構成してあってもよい。
【0015】
前記ボビンは、前記ワイヤのコイル部から引き出されたリード部と接続される端子が取り付けられる端子台を有してもよく、前記カバーは、前記端子台を覆う端子台被覆部を有してもよい。カバーの端子台被覆部によって、端子からコアへの絶縁距離が長くなり、絶縁耐圧が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は一実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
【
図3】
図3は
図1に示すコイル装置のボビンの構成を示す斜視図である。
【
図7】
図7は
図1に示すコイル装置のカバーの構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は
図1に示すコイル装置のコア装着前の状態を示す斜視図である。
【
図9】
図9は
図8に示すコア装着前のコイル装置の平面図である。
【
図10】
図10は他の実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。また、以下、実施形態により具体的に説明するが、これらの実施形態に限定されない。
【0019】
第1実施形態
図1に示すように、本実施形態に係るコイル装置1は、たとえばEV(Electric Vehicle:電動輸送機器)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド自動車)、あるいはコミュータ(車両)用の車載用充電器、あるいは家庭用または産業用電気機器の電源回路、あるいはコンピュータ機器の電源回路などに用いられ、高電圧が印加されるトランスなどとして用いられ、
【0020】
図1および
図2に示すように、このコイル装置1は、コア(磁性コア)2と、ボビン3と、カバー5と、を有する。なお、図面において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸は、コイル装置1の高さ(厚み)に対応する。また、X軸は、後述するコイル部の巻軸に平行である。
【0021】
図2および
図3に示すように、ボビン3は、筒部30と、筒部30のX軸方向の相互に反対側に位置するように筒部30に一体に成形してある一対の端子台36,36を有する。
【0022】
なお、本実施形態では、一対の端子台36,36は、相互に同じ構成を有しているが、必ずしも同じ構成ではなくてもよい。たとえば一方の端子台36に装着してある端子9の数と、他方の端子台36に装着してある端子9の数とは異なっていてもよい。また、たとえば一方の端子台36に装着してある端子9の形状と、他方の端子台36に装着してある端子9の形状とは異なっていてもよく、端子台相互の形状が異なっていてもよい。
【0023】
ボビン3の筒部30は、ワイヤ8が巻回される巻芯部と、巻芯部のX軸方向の両側に位置する第1端鍔部32と第2端鍔部32とを有する。また、第1端鍔部32と第2端鍔部32との間に位置する筒部30の巻芯部の外周には、1つ以上の中間鍔部33が一体に形成してある。筒部30には、第1端鍔部32と中間鍔部33と第2端鍔部32とが形成してある巻芯部をX軸方向に貫通するコア脚用貫通孔31が形成してある。
【0024】
中間鍔部33,33には、たとえばZ軸に沿う上部または下部位置で、周方向に沿って一カ所以上の切欠33aが形成してあってもよい。切欠33aを通して、ワイヤ8が通過可能になっている。端鍔部32,32には、中間鍔部33,33の切欠33aと同様な切欠は形成しないことが好ましい。
【0025】
図2に示すように、コア2,2は、本実施形態では、同じ形状であり、X-Y断面で断面E字形状を有し、いわゆるE型コアを構成する。すなわち、各コア2,2は、それぞれY軸方向に延びるベース部23と、ベース部23のY軸方向の両端からX軸方向に突出している一対の外脚部22,22と、これらの外脚部22,22の間でY軸方向の中央からX軸方向に突出する中脚部21とを有する。
【0026】
本実施形態では、それぞれの中脚部21,21は、ボビン3のコア脚用貫通孔31の内部にX軸方向の両側から挿入されるようになっている。ボビン3のコア脚用貫通孔31の内部において、中脚部21,21の先端は、接触して付き合わされていてもよいし、所定のギャップを挟んで向き合うように構成してもよい。なお、ギャップを形成することにより、ギャップの幅に応じてリーケージ特性を調整することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、それぞれのベース部23の中央部にZ軸に沿って下方に凹む凹部23aを有するが、凹部23aを形成することなく、それぞれのベース部23は、Y軸に沿って同じZa軸に沿う高さを有していてもよい。その場合には、中脚部21のZ軸に沿う高さは、外脚部22のZ軸に沿う高さと略同一となる。本実施形態では、凹部23aがあるため、中脚部21のZ軸に沿う高さは、外脚部22のZ軸に沿う高さよりも小さい。
【0028】
図2に示すように、中脚部21,21は、コア脚用貫通孔31の内周面形状に一致するように、略四角柱形状を有しているが、その形状は、特に限定されず、コア脚用貫通孔31の形状に合わせて変化させても良い。また、外脚部22,22の内面は、カバー5の側壁54の外面形状に合わせた形状を有し、外脚部22,22の外面は、XZ平面(X軸とZ軸を含む平面)に平行な平面を有している。本実施形態では、各コア2,2の材質は、金属、フェライト等の軟磁性材料が挙げられるが、特に限定されない。
【0029】
端子台36,36は、それぞれ端鍔部32,32のZ軸方向の下方から、Y軸方向の外側(ボビン3の中心から見て外側/以下同様)に延長している。好ましくは、端子台36のZ軸に沿う上面が貫通孔31の底面よりも、後述するカバー5の端子台被覆部57の厚み分で低くなっている。端子台被覆部57の上面と貫通孔31の底面とが面一になるように構成してあることが好ましい。コア2の中脚部21を、端子台被覆部57の上面から貫通孔31の底面に案内し易くするためである。
【0030】
端子台36,36のY軸方向の幅は、端鍔部32,32のY軸方向幅よりも大きく、鍔部32のY軸方向の両端面から所定幅で飛び出している。鍔部32,32のY軸方向の両端面からそれぞれ端子台36,36がY軸に沿って飛び出している所定幅は、コア2の外脚部22のY軸方向幅と略同じであることが好ましい。端子台36,36の上面は、それぞれカバー5の端子台被覆部57,57で覆われ、その上に、コア2,2が配置されるようになっている。
【0031】
各端子台36,36には、それぞれ複数の端子9がY軸に沿って配列して埋め込まれている。
図3に示すように、各端子9は、継線部91と実装部92とを有し、それらの間が、端子台36の内部に埋め込まれるように、ボビン3の端子台36にインサート成形してある。
【0032】
継線部91には、複数のワイヤ8の内のいずれかのリード部が接続してある。実装部92は、たとえば図示しない回路基板などの回路パターンに接続される部分であり、各端子9を通して、ワイヤ8により形成してあるコイル部80が回路基板などの外部回路に接続される。
【0033】
図3に示すように、本実施形態では、第1端鍔部32と中間鍔部33との間、および中間鍔部33と第2端鍔部32との間に位置する巻芯部の外周部に、複数のワイヤ8が巻回してあり、コイル部80とコイル部80とで単一または複数のトランスを構成している。
【0034】
ワイヤ8は、単線で構成されてもよく、あるいはリッツ線などの撚り線で構成されてもよい。ワイヤ8の線径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~0.4mmの範囲である。ワイヤ8は、金属線などの導電線で構成されるが、絶縁被覆ワイヤであってもよい。
【0035】
図3に示す各コイル部80を構成する各ワイヤ8の両端部である一対のリード部(図示省略)は、
図5に示す端子台36の底面に形成してある補強リブ37の間に形成してあるリード通路38をそれぞれ通り、各端子9へと導かれて、端子9の継線部91に接続してある。
【0036】
筒部30と端子台36を含むボビン3は、たとえばPPS、PET、PBT、LCP、ナイロンなどのプラスチックで一体的に成形してあるが、その他の絶縁部材で構成されてもよい。ただし、本実施形態では、ボビン3としては、たとえば1W/m・K以上に熱伝導率が高いプラスチックで構成することが好ましく、たとえばPPS、ナイロンなどで構成してある。
【0037】
図2および
図7に示すように、カバー5は、ボビン3とは別の部材で構成してある。このカバー5は、ボビン3と同じ材質の絶縁部材で構成することも可能であるが、ボビン3よりも弾力性に優れた絶縁部材で構成してあることが好ましく、たとえばLCP、ナイロンなどで構成されることが好ましい。
【0038】
カバー5は、一対の端子台36のZ軸に沿う上面をそれぞれ覆う端子台被覆部57,57と、各端子台被覆部57,57のY軸方向の両端を、それぞれ連絡するようにX軸に沿って延びる連絡被覆部58,58とを有する。端子台被覆部57,57と連絡被覆部58,58との上面は、面一であり、それらの上に、各コア2,2のベース部23,23と外脚部22,22とが配置されるようになっている。
【0039】
端子台被覆部57,57と連絡被覆部58,58とで囲まれたカバー5の中央部には、中央開口56が形成してあり、その中央開口56には、Z軸に沿う下方からボビン3の筒部30の上部が差し込まれるようになっている。
【0040】
カバー5の中央開口56におけるX軸に沿う両端の各開口縁からは、それぞれ端壁52がZ軸に沿って上方に一体的に立ち上げられるように形成してある。各端壁52のY軸に沿って中央部には、中央開口56に交差して連通する端開口51がそれぞれ形成してある。
【0041】
図8に示すように、端開口51は、ボビン3の貫通孔31の横断面よりもY軸方向幅およびZ軸方向幅が大きく、ボビン3の端面32aが露出するようになっている。また、ボビン3の端面32における貫通孔31のZ軸に沿った上部に形成してある係合凸部32bが端開口51の上部に内側から入り込み外方に露出するようになっているが、カバー5の端壁52の外面から必ずしも飛び出す必要はない。
【0042】
また、カバー5は、X軸に沿って両側に位置する各端壁52のZ軸に沿う上端を連絡する上壁53を有する。さらに、カバー5は、ボビン3の鍔部32,33のY軸に沿う両端を覆う側壁54,54を有する。
図7~
図9に示すように、各側壁54,54は、中央開口56に繋がっている側開口54aに位置する垂下片54bを有する。垂下片54bは、上壁53から滑らかに垂下するように上壁53に連続しているが、側開口54aにより端壁52とは直接的には連続しないようになっている。
【0043】
また、垂下片52は、中央開口56のY軸に沿った両端に連続して形成してある余裕隙間56aにより、連絡被覆部58とは直接的には繋がらないように構成してある。すなわち、垂下片54bの先端(下端)は、余裕隙間56aを形成するように、中央開口56のY軸に沿った両端にそれぞれ入り込み、垂下片54bの先端(下端)面は、連絡被覆部58の底面(下面)と略面一に構成してある。
【0044】
垂下片54bは、カバー5の上壁53に対して片持ち梁式に撓み弾性変形可能になっており、垂下片54bの先端54b1は、余裕隙間56aのY軸に沿った幅で外側に変位可能になっている。それぞれの垂下片54bには、第1係合部としてのスリット孔55が、
図3に示す中間鍔部33の数に対応して形成してある。本実施形態では、垂下片54b毎に、二つのスリット孔55が垂下片54bの外面形状に沿ってZ軸の上下に延びるように形成してある。
【0045】
図8に示す各スリット孔55には、
図3に示す各中間鍔部33のY軸に沿った端部に形成してある凸部(第2係合部)34がカバー5の内側から入り込んで係合するようになっている。
図3に示すように、ボビン3の各中間鍔部33の凸部34は、各中間鍔部33のY軸に沿う端部からY軸に沿って外側に突出するように一体的に形成してある。
【0046】
X軸に沿って向き合う
図2に示す端壁52と端壁52との間の幅は、X軸に沿って向き合うボビン3の端鍔部32の端面32aと端鍔部32の端面32aとの間の幅と略同一、または少し広い程度である。また、カバー5の上壁53の内面から側壁54の内面に至る内周面の形状は、凸部34を除く中間鍔部33の外周面の形状と、端鍔部32の外周面の形状とに略一致し、これらは接触していてもよい。
【0047】
各中間鍔部33の外周面からの凸部34のY軸に沿った突出高さは、カバー5の垂下片54bの厚みと同等以上であることが好ましく、凸部34の突出先端が、スリット孔55から露出して垂下片54bの外面から少し突出する程度が好ましい。各凸部34のX軸に沿う厚みは、各中間鍔部33のX軸に沿う厚みと同程度であることが好ましい。各スリット孔55のX軸方向幅は、各スリット孔55に凸部34が入り込み易いように、凸部34のX軸に沿う幅よりも少し大きい程度が好ましい。
【0048】
各スリット孔55の上端は、側開口54aの上端位置よりもZ軸に沿って低い位置にあることが好ましいが、同じ位置でもよく、それよりも高い位置でもよい。各スリット孔55の下端は、側開口54aの下端位置よりもZ軸に沿って高い位置にあり、たとえば
図3および
図6に示すボビン3の凸部34のZ軸に沿う下端に形成してあるフック部34bが係止する位置に配置してあることが好ましい。
【0049】
凸部34のZ軸に沿う上部には、凸部34のY軸に沿った最大高さ位置に向けて突出高さが徐々に大きくなる傾斜面34aが形成してある。凸部34のZ軸に沿う下部には、凸部34のY軸に沿った最大高さ位置から中間鍔部33の外周面に急に変化するフック部34bが形成してある。これらの傾斜面34aおよびフック部34bの役割については後述する。
【0050】
次に、本実施形態に係るコイル装置1の製造方法の一例を説明する。コイル装置1は、
図3~
図5に示すように、ボビン3の巻芯部にワイヤ8を巻回すると共に、
図2に示す各部材を組み立てることによって製造される。
【0051】
まず、
図3~
図5に示すボビン3を準備し、ボビン3の筒部30の巻芯部に複数のワイヤ8を巻回し、コイル部80を形成すると共に、ワイヤ8の両端であるリード部(図示省略)を端子9の継線部91に接続する。リード部を端子9の継線部91に接続するための方法としては、特に限定されないが、たとえばカシメ接続、熱圧着、レーザ溶接、ハンダ接続などの方法が例示される。
【0052】
次に、
図3に示すボビン3の上から
図7に示すカバー5を取り付ける。その際に、
図2に示すように、ボビン3の筒部30の上部が、カバー5の中央開口56に差し込まれるように、カバー5をボビン3に組み合わせる。その際に、ボビン3の凸部34は、中央開口56のY軸方向の両端に入り込んでいる垂下片54bの先端54b1に当接する。さらにカバー5をボビン3に押し付けると、垂下片54bの先端54b1は、
図9に示す余裕隙間56aの範囲内で、
図3に示す凸部34の傾斜面34aに沿ってY軸に沿って外側に押し広げられ、垂下片54bは上壁53に対して撓み弾性変形する。
【0053】
さらにカバー5をボビン3に押し付けると、各凸部34が各スリット孔55に入り込んだ状態で、カバー5の垂下片54bの先端54b1が元の形状に戻り、スリット孔55の下端が、凸部34のフック部34bにワンタッチ式に係止することになる。その結果、カバー5はボビン3にワンタッチ式に固定され、カバー5に形成してある端開口51とボビン3の貫通孔31とが自己整合的に位置合わせされる。
【0054】
その状態では、
図8および
図9に示すように、ボビン3の凸部34がスリット孔55を通して、カバー5垂下片54bの外側に露出している。なお本実施形態では、凸部55は、カバー5の端開口51には具備されないことから、カバー5の端開口51およびボビン3の貫通孔31の開口断面を狭めない形状を有している。
【0055】
次に、カバー5がボビン3に取り付けられた状態で、カバー5に対して、X軸に沿って両方向からコア2,2を取り付ける。すなわち、コア2,2の中脚21,21を、カバー5の端開口51からボビン3の貫通孔31の内部に差し込み、コア2,2の外脚部22,22は、カバー5の連絡被覆部58の上面に設置されるように、コア2,2をカバー5に取り付ける。
【0056】
貫通孔31の内部に入り込んだ中脚部21,21の先端同士の間にはギャップを持たせてもよいし、ギャップは0であってもよい。また、外脚部22の先端同士は、接触していることが好ましい。
【0057】
次に、
図1に示すように、カバー5に組み合わされたコア2,2の周囲にテープ11を取り付けて、コア2,2がカバー5およびボビン3に固定されることを補強してもよい。なお、テープ11は、絶縁性のテープであることが好ましく、たとえばプラスチックまたはゴム製のテープで構成してある。
【0058】
次に、
図1に示すように、カバー5の端開口51から露出しているボビン3の端面32aの上部と、コア2のベース部23の上面の一部と、ボビン3の貫通孔31の内部に入り込んでいる中脚部21の一部とに少なくとも跨がるように、接着剤10を塗布する。
【0059】
接着剤10は、ボビン3の端面32aの上部から突出して端開口51に露出している係合凸部32bにも接触することが好ましい。また、接着剤10は、カバー5の端壁52の一部にも接触することが好ましい。さらに接着剤10は、コア2のベース部23の凹部23aの内部に収まっていることが好ましい。接着剤10としては、特に限定されないが、たとえばエポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤などが用いられる。
【0060】
本実施形態では、たとえば
図1に示すように、端開口51から露出する係合凸部32Bの下部とコア2の上面との間に十分な隙間があり、端開口51のY軸に沿った幅から露出するボビン3の端面32aの面積を十分に大きくすることができる。そのため、流動性が少ない接着剤10でも、端開口51の内部および貫通孔31の内部に接着剤10が入り込見やすい。そのため、接着剤10によるコア2とボビン3とカバー5との接着強度が向上し、コイル装置1への振動荷重に対する強度も向上する。また、本実施形態では、強度が向上することから、カバー5の肉厚も薄くすることが可能になる。
【0061】
なお、接着剤10と同じまたは異なる接着剤を、カバー5の端子台被覆部57の上面とテープ11との交差部に塗布し、これらを固定するようにしてもよい。なお、テープ11を具備させない場合には、接着剤は、コア2のベース部23とカバー5の端子台被覆部57とを接着固定してもよい。
【0062】
本実施形態に係るコイル装置1では、カバー5がボビン3に取り付けられると、カバー5の第1係合部であるスリット孔55がボビン3の凸部34に嵌合する。そのため、たとえばカバー5の上壁53の上面を吸着ノズルなどで保持して、カバー5が取り付けられたボビン3を搬送する際にも、カバー5がボビン3から外れ難くなり、組立作業性が向上する。
【0063】
また、カバー5がボビン3に取り付けられると自動的に、カバー5の端開口51とボビン3の貫通孔31との位置決めがなされ、端開口51と貫通孔31にコア2を取り付け易くなり、この点でも組立作業性が向上する。
【0064】
また、スリット孔55と凸部34の嵌合によりカバー5がボビン3に嵌合して固定され、たとえばカバー5の端開口51とボビン3の貫通孔31を利用して接着剤10によりコア2とボビン3とを接着することにより、カバー5とボビン3とコア2との接着強度が向上し、コイル装置1の強度信頼性が向上する。
【0065】
特に、カバー5の端壁52ではなく、カバー5の側壁54に第1係合部としてのスリット孔55を設けることで、カバー5の端壁52に形成される端開口51の開口面積を広くすることが容易になる。その結果、コア2の中脚部21がカバー5の端開口51を通してボビン3の貫通孔31に挿入し易くなると共に、そのコア2の上部でカバー5の端開口51から露出するボビン3の端面32aの面積を大きくすることが容易になる。そのため、その露出部分に具備される接着剤10により、カバー5とボビン3とコア2との接着強度が向上し、コイル装置1の強度信頼性が特に向上する。
【0066】
また、ボビン3の筒部30は、中間鍔部33の径方向の外側に突出する鍔部34を有し、鍔部33は、スリット孔55に嵌合する凸部34を有する。このように構成することで、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置1の強度信頼性がさらに向上する。
【0067】
さらに、凸部34は、スリット孔55が形成してある垂下片54を変形させて案内する傾斜面34aと、スリット孔55の下端が係止するフック部34bと、を有する。カバー5をボビン3に取り付ける際に、カバー5の垂下片54bの先端54b1は、凸部34の傾斜面34aに案内されて弾性変形し、その後に、元の形状に戻り、ワンタッチ式に凸部34がスリット孔55に係止し、カバー5がボビン3に嵌合する。したがって、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置1の強度信頼性がさらに向上する。
【0068】
本実施形態では、カバーの側壁54は、上壁53に対して撓み弾性変形可能な垂下片54bを有し、スリット孔55は、垂下片54bに具備してある。このように構成することで、垂下片54bが弾性変形しやすくなり、カバー5をワンタッチ式にボビン3に嵌合し易くなる。したがって、さらに組立作業性が向上すると共に、コイル装置1の強度信頼性がさらに向上する。
【0069】
また本実施形態では、垂下片54bの先端54b1は、カバー5に形成してある中央開口56に入り込むように配置してある。このように構成することで、垂下片54bの撓み弾性変形が、中央開口56のY軸に沿って向き合う開口縁部(余裕隙間56aを形成している開口縁)により制限され、必要以上に垂下片54bが変形することを抑制することができる。なお、垂下片54bの先端54b1は、カバー5に形成してある中央開口56に入り込まないように構成してあってもよい。
【0070】
さらに本実施形態では、ボビン3は、ワイヤ8のコイル部80から引き出されたリード部と接続される端子9が取り付けられる端子台36を有し、カバー5は、端子台36を覆う端子台被覆部57を有する。カバー5の端子台被覆部57によって、端子9からコア2への絶縁距離が長くなり、絶縁耐圧が向上する。
【0071】
第2実施形態
図10および
図11に示す本実施形態に係るコイル装置1Aは、前述した第1実施形態に係るコイル装置1とは、以下に示す部分が相違し、共通する部分の説明は、第1実施形態と同様なので省略する。
【0072】
本実施形態では、ボビン3は、前述した第1実施形態のボビン3と同様であるが、カバー5Aが、第1実施形態のカバー5とは異なる。
図10および
図11に示すように、本実施形態では、カバー5Aの各側面54には、それぞれ一対の垂下片54bを有し、これらの垂下片54bの先端部54b1は、X軸に沿って所定間隔で分離している。
【0073】
それぞれの垂下片54bの先端部54b1には、X軸に沿って相互に近接する方向に突出する爪部55A(第1係合部)が垂下片54bと一体的に具備してある。それぞれの爪部55Aは、そのZ軸に沿う上端にフック縁部55A1を有し、そのZ軸に沿う下端に傾斜縁部55A2を有する。
【0074】
爪部55Aのフック縁部55A1は、
図10に示すように、ボビン3にカバー5Aが取り付けた状態で、ボビン3の凸部34のフック部34bに係止可能になっている。爪部55Aの傾斜縁部55A2は、カバー5Aをボビン3の上から取り付け始める際に、ボビン3の凸部34の傾斜部34aに接触し、さらにカバー5Aをボビン3に押し付けると、傾斜部34aに沿って摺動移動する。
【0075】
その結果、爪部55Aは、垂下片54bと共に、Y軸に沿って外側に押し広げられるように弾性変形する。垂下片54bは、上壁53に対して撓み弾性変形すると共に、多少、ねじり弾性変形が加わることもある。さらにカバー5Aをボビン3に押し付けると、垂下片54bと共に爪部55Aが元の形状に戻り、爪部55Aのフック縁部55A1が凸部34のフック部34bにワンタッチ式に係止することになる。その結果、カバー5はボビン3にワンタッチ式に固定され、カバー5に形成してある端開口51とボビン3の貫通孔31とが自己整合的に位置合わせされる。
【0076】
このように構成することでも、垂下片54bは弾性変形しやすくなり、カバー5Aをワンタッチ式にボビン3に嵌合し易くなる。したがって、本実施形態でも、組立作業性が向上すると共に、コイル装置1Aの強度信頼性がさらに向上する。なお、垂下片54b自体の強度は、スリット55が形成してある第1実施形態の垂下片54bの方が、爪部55Aが形成してある第2実施形態の垂下片54bよりも高い。また、第2実施形態において、X軸に沿って近接して配置される爪部55Aの先端同士は、前述した第2実施形態では分離してあるが、これらは繋がっていてもよい。また、第1実施形態において、X軸に沿って近接して配置されるスリット55同士は、前述した第1実施形態では分離してあるが、これらは繋がっていてもよい。
【0077】
また、前述した第1実施形態でも同様であるが、カバー5A(カバー5も同様、以下同じ)とボビン3とのZ軸に沿う位置合わせは、カバー5Aの端子台被覆部57の内面がボビン3の端子台36の上面に接触することなどにより成される。あるいは、カバー5Aとボビン3とのZ軸に沿う位置合わせは、カバー5の上面53の内面がボビン3の鍔部32,33の上部(
図3参照)に接触することなどにより成されてもよい。あるいは、カバー5Aとボビン3とのZ軸に沿う位置合わせは、ボビン3の端面32aに形成してある係合凸部32bがカバー5Aの端開口51の上部開口縁に接触することにより成されてもよい。
【0078】
また、カバー5Aとボビン3とのX軸に沿う位置合わせは、カバー5Aの端壁52の内面がボビン3の端面32(
図3参照)に接触することなどにより成される。あるいは、カバー5Aとボビン3とのX軸に沿う位置合わせは、カバー5Aの垂下片54bがボビンの凸部34に接触することなどにより成されてもよい。
【0079】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0080】
たとえば上述した実施形態では、
図2に示すように、コア部を同じE型のコア2,2を組み合わせて構成したが、一方のコアをE型コアとし、他方のコアをI型コアなどに構成し、相互に異なる形状のコアを組み合わせて構成してもよい。また、コア2,2は、それぞれそれぞれ複数に分割されていてもよい。
【0081】
また上述した実施形態では、第2係合部としての凸部34は、中間鍔部33毎に形成してあるが、凸部34は、中間鍔部33毎に形成する必要はなく、少なくともいずれか一つの中間鍔部33または端鍔部32に形成してあればよい。また、第1係合部としてのスリット孔55または爪部55Aは、必ずしも凸部34の数に合わせて形成する必要はないが、凸部34の形成位置に合わせて形成することが好ましい。
【0082】
また上述した実施形態では、垂下片54bの先端54b1は、中央開口56の内部に入り込むように形成してあるが、中央開口56に入り込まないように構成してあってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,1A…コイル装置
2…コア
21…中脚部
22…外脚部
23…ベース部
23a…凹部
3…ボビン
30…筒部
31…貫通孔
32…端鍔部
32a…端面
32b…係合凸部
33…中間鍔部
33a…切欠
34…凸部(第2係合部)
34a…傾斜面
34b…フック部
36…端子台
37…補強リブ
38…リード通路
5,5A…カバー
51…端開口
52…端壁
52a…開口縁
53…上壁
54…側壁
54a…側開口
54b…垂下片
54b1…先端
55…スリット孔(第1係合部)
55A…爪部(第1係合部)
55A1…フック縁部
55A2…傾斜縁部
56…中央開口
56a…余裕隙間
57…端子台被覆部
58…連絡被覆部
8…ワイヤ
80…コイル部
9…端子
91…継線部
92…実装部
10…接着剤
11…テープ