(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158367
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】正極活物質及びナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20241031BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/054
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073516
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】由淵 想
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】埜崎 寛雄
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL13
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM12
5H029HJ05
5H029HJ13
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB12
5H050CB20
5H050CB29
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】P2型構造を有し、かつ、大きなエネルギー密度を有する正極活物質を開示する。
【解決手段】本開示の正極活物質は、Na含有酸化物を含む。前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有する。前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。前記Na含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有する。前記Na含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質であって、Na含有酸化物粒子を含み、
前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含み、
前記Na含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する、
正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、1モルのOに対して、0.35モル超のNaを含む、
正極活物質。
【請求項3】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
【請求項4】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
【請求項5】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
【請求項6】
正極活物質であって、Na含有酸化物粒子を含み、
前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
【請求項7】
請求項6に記載の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の正極活物質であって、
前記P2型構造は、11.10Å以下のc軸長を有する、
正極活物質。
【請求項9】
ナトリウムイオン二次電池であって、
正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、請求項1~7のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、
ナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は正極活物質及びナトリウムイオン二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、P2型構造を有し、かつ、所定の化学組成を有するNa含有酸化物が開示されている。P2型構造を有するNa含有酸化物は、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-201588号公報
【特許文献2】特開2017-045600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
P2型構造を有する従来の正極活物質は、重量エネルギー密度に関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
正極活物質であって、Na含有酸化物粒子を含み、
前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含み、
前記Na含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する、
正極活物質。
<態様2>
態様1の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、1モルのOに対して、0.35モル超のNaを含む、
正極活物質。
<態様3>
態様1又は2の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
<態様4>
態様1~3のいずれかの正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
<態様5>
態様1~4のいずれかの正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
<態様6>
正極活物質であって、Na含有酸化物粒子を含み、
前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有し、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
<態様7>
態様6の正極活物質であって、
前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する、
正極活物質。
<態様8>
態様1~7のいずれかの正極活物質であって、
前記P2型構造は、11.10Å以下のc軸長を有する、
正極活物質。
<態様9>
ナトリウムイオン二次電池であって、
正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、態様1~8のいずれかの正極活物質を含む、
ナトリウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の正極活物質は、優れた重量エネルギー密度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】P2型構造を有するNa含有酸化物の製造方法の流れの一例を示している。
【
図2】ナトリウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示している。
【
図3】実施例1~3に係る正極活物質のX線回折パターンを示している。
【
図4】比較例1に係る正極活物質のX線回折パターンを示している。
【
図5】実施例1に係る正極活物質の断面SEM画像を示している。
【
図6】実施例1に係る正極活物質の外観SEM画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.正極活物質
1.1 第1形態
第1形態に係る正極活物質は、Na含有酸化物粒子を含む。前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有する。前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。前記Na含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有する。前記Na含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する。
【0009】
1.1.1 結晶構造
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、結晶構造として、少なくともP2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有するとともに、P2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。P2型構造以外の結晶構造としては、例えば、P2型構造からNaを脱挿入した際に形成される各種結晶構造(P3型構造等)が挙げられる。Na含有酸化物粒子は、主相としてP2型構造を有するものであってもよい。Na含有酸化物粒子は、充放電状態によって、主相となる結晶構造が変化し得る。
【0010】
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、1つの結晶子からなる単結晶であってもよいし、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。Na含有酸化物粒子は、その結晶子の端面がインターカレーションの入口及び出口となるものと考えられる。すなわち、Na含有酸化物粒子の結晶子が小さい場合、インターカレーションの出入り口が多くなって反応抵抗が低下する効果、ナトリウムイオンの移動距離が短くなって拡散抵抗が減少する効果、充放電時の膨張収縮量の絶対量が少なくなり、割れが発生し難くなる効果、などが期待できる。例えば、Na含有酸化物粒子を構成する結晶子の直径は、0.1μm以上5.0μm以下、0.5μm以上4.0μm以下、又は、1.0μm以上3.0μm以下であってもよい。尚、「結晶子」や「結晶子の直径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によってNa含有酸化物粒子を観察することにより求めることができる。すなわち、Na含有酸化物粒子を観察し、結晶粒界によって囲まれる1つの閉じられた領域が観察された場合、当該領域を「結晶子」とみなす。当該結晶子について最大のフェレ径を求め、これを「結晶子の直径」とみなす。尚、Na含有酸化物粒子が単結晶からなる場合、当該粒子そのものが一つの結晶子といえ、当該粒子の最大のフェレ径が「結晶子の直径」である。或いは、結晶子の直径は、EBSDやXRDによって求めることもできる。例えば、結晶子の直径は、XRDパターンの回折線の半値幅からシェラーの式に基づいて求めることができる。Na含有酸化物粒子は、いずれかの方法により特定された結晶子の直径が上記の範囲内であると、より高い性能が発揮され易い。Na含有酸化物粒子を構成する結晶子は、当該酸化物の表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。
【0011】
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、所定の平均粒子径(D50)や、所定の平均アスペクト比を有する。このような平均粒子径や平均アスペクト比を達成するため、本実施形態においては、Na含有酸化物粒子の製造時に、後述する特定の工程が採用される。本発明者の知見によると、このような特定の工程を経て得られたNa含有酸化物粒子は、P2型構造のc軸長が、従来よりも小さくなり易い。例えば、第1形態に係るNa含有酸化物粒子におけるP2型構造は、11.10Å以下のc軸長を有するものであってもよい。当該P2型構造は、11.05Å以上11.10Å以下のc軸長を有するものであってもよい。尚、P2型構造の格子定数(a軸長、b軸長及びc軸長)は、Na含有酸化物粒子のX線回折パターンから全パターンフィッティングにより特定することができる。ソフトウェアはリガク社のPDXL2を用いる。ここで、「Na含有酸化物粒子のX線回折パターン」は、以下の条件で取得されたものをいう。すなわち、Na含有酸化物粒子に対して、X線回折装置(リガク、全自動多目的X線回折装置 SmartLab)を用いて、CuKαを線源として、管電圧45kV、管電流200mAで、ステップ幅0.02°、スキャン速度1°/minで2θ/θスキャンを行い、X線回折パターンを取得する。
【0012】
1.1.2 化学組成
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。Na含有酸化物粒子は、特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの一方又は両方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、より高い性能が得られ易い。或いは、Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Na、Mn、Fe及びOを含む場合にも、より高い性能が得られ易い。また、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、構成元素として、1モルのOに対して、0.35モル超のNaを含んでいてもよい。Oに対するNaの量の上限は、特に限定されるものではない。第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、構成元素として、1モルのOに対して、0.35モル超0.50モル以下、又は、0.38モル以上0.45モル以下のNaを含んでいてもよい。このように、1モルのOに対して、0.35モル超のNaを含むNa含有酸化物粒子は、正極活物質として優れた重量エネルギー密度を有するものとなり易い。
【0013】
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。Na含有酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造が維持され易い。上記化学組成において、aは、0超であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上、0.60以上又は0.70以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下であってもよい。また、xは、0以上であり、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、1.00未満、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下又は0.50未満であってもよい。また、yは、0以上であり、0超、0.10以上又は0.20以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、1.00未満、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。また、zは、0以上であり、0超、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、1.00未満、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の化学組成において、p+q+rが0.17未満であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。一方で、元素Mが含まれることで、P2型構造が安定化し易い。上記の化学組成において、p+q+rは0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0014】
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。また、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。従来において、P2型構造を有し、かつ、このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子を作製することは困難であったが、本実施形態においては、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子の製造条件として、後述する特定の条件を採用することで、P2型構造を有し、かつ、このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子を得ることができる。このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子は、正極活物質として優れた重量エネルギー密度を有する。
【0015】
1.1.3 形状
第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、中実の粒子であってよいし、中空の粒子であってもよいし、空隙を有する粒子であってもよい。第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、以下の平均アスペクト比及び平均粒子径を有することで、正極活物質として優れた重量エネルギー密度を有する。
【0016】
1.1.3.1 アスペクト比
P2型構造は、六方晶系であり、Naイオンの拡散係数が大きく、特定の方向に結晶成長し易い。特に、P2型構造を構成する遷移金属元素として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つが含まれる場合に、特定の方向へと板状に結晶成長し易い。そのため、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子は、通常、結晶の成長方向が特定の方向に偏った、アスペクト比の大きな板状粒子となる。具体的には、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子は、通常、3.0を大きく超える平均アスペクト比を有する板状粒子となる。ここで、当該板状粒子の端部がインターカレーションの出入口となる。本発明者が確認した限りでは、アスペクト比の大きな板状粒子は、粒子全体に占めるインターカレーションに寄与する部分の割合が小さくなる傾向にあり、重量エネルギー密度が低下し易い。
【0017】
これに対し、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、結晶の成長方向の偏りが抑えられ、一定以下のアスペクト比を有する。具体的には、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する。P2型構造を有するNa含有酸化物粒子の平均アスペクト比が3.0以下であることで、正極活物質としての重量エネルギー密度等が増大し易い。第1形態に係るNa含有酸化物粒子の平均アスペクト比は、1.0以上2.9以下、1.0以上2.8以下、1.0以上2.7以下、1.0以上2.6以下、1.0以上2.5以下、又は、1.0以上2.4以下であってもよい。
【0018】
尚、Na含有酸化物粒子の「平均アスペクト比」は、以下の通りにして測定する。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によって、Na含有酸化物粒子の断面(Na含有酸化物粒子が後述の正極活物質層に含まれる場合、正極活物質層の断面)を観察し、Na含有酸化物粒子の形状を特定する。当該形状において、最大のフェレ径を特定し、これを「長径」とみなす。また、当該形状において、当該「長径」に直交する最も大きな径を「短径」とみなす。「長径」と「短径」との比(長径/短径)を当該Na含有酸化物粒子の「アスペクト比」とみなす。各々のNa含有酸化物粒子について「アスペクト比」を求め、その数平均値を「平均アスペクト比」とみなす。
【0019】
1.1.3.2 平均粒子径
上述の通り、従来技術において、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子は、結晶の成長方向が特定の方向に偏った、アスペクト比の大きな板状粒子となる。従来技術においては、P2相の成長を抑制しようとすると、Na含有酸化物粒子の平均粒子径が極端に小さくなり、粒子同士の過度の凝集等が懸念され、また、十分な量のP2相が得られない虞がある。従来技術に係るNa含有酸化物粒子は、これらの結果として、十分な重量エネルギー密度が確保され難い。これに対し、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、上記した平均アスペクト比を有しつつも、一定以上の大きさを有することで、このような問題を解消することができる。具体的には、第1形態に係るNa含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有する。第1形態に係るNa含有酸化物粒子の平均粒子径は、2.0μm以上5.0μm以下、2.0μm以上4.0μm以下、又は、2.0μm以上3.0μm以下であってもよい。
【0020】
尚、Na含有酸化物粒子の「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50、メジアン径)である。
【0021】
1.1.4 その他
以上の通り、第1形態に係る正極活物質は、上記の特定の平均粒子径及び平均アスペクト比を有するNa含有酸化物粒子を含むことにより、優れた重量エネルギー密度を有する。第1形態に係る正極活物質は、上記のNa含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のNa含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。上記の効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のNa含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0022】
1.2 第2形態
第2形態に係る正極活物質は、Na含有酸化物粒子を含む。前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有する。前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する。
【0023】
1.2.1 結晶構造
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、第1形態に係るNa含有酸化物粒子と同様に、結晶構造として、少なくともP2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有するとともに、P2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。P2型構造以外の結晶構造としては、例えば、P2型構造からNaを脱挿入した際に形成される各種結晶構造(P3型構造等)が挙げられる。Na含有酸化物粒子は、主相としてP2型構造を有するものであってもよい。Na含有酸化物粒子は、充放電状態によって、主相となる結晶構造が変化し得る。
【0024】
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、第1形態に係るNa含有酸化物粒子と同様に、1つの結晶子からなる単結晶であってもよいし、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。上述の通り、Na含有酸化物粒子は、その結晶子の端面がインターカレーションの入口及び出口となるものと考えられる。すなわち、Na含有酸化物粒子の結晶子が小さい場合、インターカレーションの出入り口が多くなって反応抵抗が低下する効果、ナトリウムイオンの移動距離が短くなって拡散抵抗が減少する効果、充放電時の膨張収縮量の絶対量が少なくなり、割れが発生し難くなる効果、などが期待できる。例えば、Na含有酸化物粒子を構成する結晶子の直径は、0.1μm以上5.0μm以下、0.5μm以上4.0μm以下、又は、1.0μm以上3.0μm以下であってもよい。Na含有酸化物粒子を構成する結晶子は、当該酸化物の表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。
【0025】
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、P2型構造を有するとともに、所定の化学組成を有する。このような結晶構造及び化学組成を達成するため、本実施形態においては、Na含有酸化物粒子の製造時に後述する特定の工程が採用される。本発明者の知見によると、このような特定の工程を経て得られたNa含有酸化物粒子は、P2型構造のc軸長が、従来よりも小さくなり易い。例えば、第2形態に係るNa含有酸化物粒子におけるP2型構造は、11.10Å以下のc軸長を有するものであってもよい。当該P2型構造は、11.05Å以上11.10Å以下のc軸長を有するものであってもよい。c軸長等の格子定数の測定方法については、上述の通りである。
【0026】
1.2.2 化学組成
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する。第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0.30<x<0.60、0.10<y<0.40、0.10<z<0.50、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。従来において、P2型構造を有し、かつ、このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子を作製することは困難であったが、本実施形態においては、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子の製造条件として、特定の条件を採用することで、P2型構造を有するとともに、このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子を得ることができる。このような化学組成を有するNa含有酸化物粒子は、正極活物質としての重量エネルギー密度が高い。aは、0.70超であり、0.75以上又は0.80以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下又は0.90未満であってもよい。また、xは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.30超、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00未満、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.60未満、0.50以下又は0.50未満であってもよい。また、yは、0超、0.10以上、0.10超又は0.20以上であってもよく、かつ、0.50未満、0.45以下又は0.40以下であってもよい。また、zは、0超、0.10以上、0.10超、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00未満、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.50未満、0.40以下又は0.30以下であってもよい。p+q+rは、0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよく、かつ、0.17以下、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0027】
1.2.3 形状
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、中実の粒子であってよいし、中空の粒子であってもよいし、空隙を有する粒子であってもよい。第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、以下の平均アスペクト比及び平均粒子径を有していてもよい。
【0028】
1.2.3.1 アスペクト比
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、結晶の成長方向の偏りが抑えられ、一定以下のアスペクト比を有するものであってもよい。具体的には、第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有するものであってもよい。P2型構造を有するNa含有酸化物粒子の平均アスペクト比が3.0以下であることで、正極活物質としての重量エネルギー密度等が一層増大し易い。第2形態に係るNa含有酸化物粒子の平均アスペクト比は、1.0以上2.9以下、1.0以上2.8以下、1.0以上2.7以下、1.0以上2.6以下、1.0以上2.5以下、又は、1.0以上2.4以下であってもよい。「平均アスペクト比」の測定方法については、上述の通りである。
【0029】
1.2.3.2 平均粒子径
第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有するものであってもよい。第2形態に係るNa含有酸化物粒子の平均粒子径は、2.0μm以上5.0μm以下、2.0μm以上4.0μm以下、又は、2.0μm以上3.0μm以下であってもよい。尚、Na含有酸化物粒子の「平均粒子径」の測定方法については、上述の通りである。
【0030】
1.2.4 その他
以上の通り、第2形態に係る正極活物質は、上記の特定の化学組成を有するNa含有酸化物粒子を含むことにより、優れた重量エネルギー密度を有する。第2形態に係る正極活物質は、上記のNa含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のNa含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。上記の効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のNa含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0031】
2.正極活物質の製造方法
上記の第1形態及び第2形態に係るNa含有酸化物粒子は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
図1に示されるように、一実施形態に係るP2型構造を有するNa含有酸化物粒子の製造方法は、
S1:Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む前駆体を得ること、
S2:前記前駆体の表面をNa源で被覆して、複合体を得ること、
S3:前記複合体を焼成することで、P2型構造を有するNa含有酸化物を得ること、を含む。ここで、前記S3は、
S3-1:前記複合体に対して、300℃以上700℃未満の温度で、2時間以上10時間以下の間、予備焼成を施すこと、
S3-2:前記予備焼成に引き続いて、前記複合体に対して、700℃以上1100℃以下の温度で、30分以上48時間以下の間、本焼成を施すこと、及び
S3-3:前記本焼成に引き続いて、前記複合体を、200℃以上の温度T
1から100℃以下の温度T
2まで、大気放冷すること、を含む。
【0032】
2.1 S1
S1においては、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む前駆体を得る。前駆体は、少なくとも、Mnと、Ni及びCoのうちの一方又は両方と、を含むものであってもよいし、少なくともMnとNiとCoとを含むものであってもよい。前駆体は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む塩であってもよい。例えば、前駆体は、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩のうちの少なくとも1種であってもよい。或いは、前駆体は、塩以外の化合物であってもよい。例えば、前駆体は、水酸化物であってもよい。前駆体は、水和物であってもよい。前駆体は、複数種類の化合物の組み合わせであってもよい。前駆体は、種々の形状であってよい。例えば、前駆体は粒子状であってもよく、後述するように球状粒子であってもよい。前駆体からなる粒子の粒子径は、特に限定されるものではない。前駆体の組成は、最終生成物であるNa含有酸化物の組成と対応するように、適宜決定されればよい。
【0033】
S1においては、遷移金属イオンと水溶液中で沈殿を形成し得るイオン源と、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む遷移金属化合物とを用い、共沈法によって、上記前駆体としての沈殿物を得てもよい。これにより、前駆体としての球状粒子が得られ易い。「遷移金属イオンと水溶液中で沈殿物を形成し得るイオン源」は、例えば、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等のナトリウム塩、水酸化ナトリウム、及び、酸化ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。遷移金属化合物は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む上記の塩や水酸化物等であってよい。具体的には、S1においては、当該イオン源と当該遷移金属化合物とを各々溶液としたうえで、各々の溶液を滴下・混合することで前駆体としての沈殿物を得てもよい。この際、溶媒としては、例えば、水が用いられる。この際、塩基として各種ナトリウム化合物を用いてもよく、また、塩基性の調整のためにアンモニア水溶液等を加えてもよい。共沈法の場合、例えば、遷移金属化合物の水溶液と、炭酸ナトリウムの水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、前駆体としての沈殿物が得られる。或いは、ゾルゲル法によって前駆体を得ることも可能である。特に共沈法によれば、前駆体としての球状粒子が得られ易い。
【0034】
S1においては、前駆体が元素Mを含んでいてもよい。元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。これら元素Mは、例えば、P2型構造を安定化する機能を有する。元素Mを含む前駆体を得る方法は、特に限定されるものではない。S1において共沈法によって前駆体を得る場合、例えば、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つを含む遷移金属化合物の水溶液と、炭酸ナトリウムの水溶液と、元素Mの化合物の水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素とともに元素Mを含む前駆体が得られる。或いは、本開示の製造方法においては、S1において元素Mを添加せず、後述のS2及びS3においてNaドープ焼成を施す際に、元素Mをドープしてもよい。
【0035】
2.2 S2
S2においては、S1によって得られた前駆体の表面をNa源で被覆して、複合体を得る。Na源は、炭酸塩や硝酸塩等のNaを含む塩であってもよいし、酸化ナトリウムや水酸化ナトリウム等の塩以外の化合物であってもよい。S2において、前駆体の表面に被覆されるNa源の量は、その後の焼成時のNa消失分を加味して決定されればよい。
【0036】
S2において、前駆体の表面に対するNa源の被覆率は、特に限定されるものではない。例えば、S2においては、上記の複合体が、上記の前駆体の表面の40面積%以上、50面積%以上、60面積%以上又は70面積%以上をNa源で被覆することによって得られるものであってもよい。或いは、S2においては、上記の複合体が、上記の前駆体の表面の40面積%未満、35面積%以下又は30面積%以下をNa源で被覆することによって得られるものであってもよい。Na源の被覆率が小さいと、複合体を焼成した場合に、複合体の表面においてP2型結晶が成長し易い。一方、Na源の被覆率が大きいと、複合体を焼成した場合に、P2型結晶の結晶子が小さくなり易く、かつ、P2型結晶の成長が抑えられ易い。
【0037】
S2において、上記の前駆体の表面をNa源で被覆する方法は、特に限定されるものではない。例えば、前駆体とNa源とを乾式又は湿式で混合することで、前駆体の表面をNa源で被覆することができる。或いは、転動流動コーティング法やスプレードライ法によって前駆体の表面にNa源を被覆してもよい。すなわち、Na源を溶解したコーティング溶液を準備し、前駆体の表面にコーティング溶液を接触させると同時に、或いは、接触させた後に、乾燥する。コーティングの条件(温度、時間、回数等)を調整することで、前駆体の表面におけるNa源の被覆率を制御することができる。
【0038】
S2においては、前駆体に対してNa源とともにM源が被覆されてもよい。例えば、S2においては、S1によって得られた前駆体と、Na源と、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含むM源とを混合して、複合体を得てもよい。M源は、例えば、炭酸塩や硫酸塩等の元素Mを含む塩であってもよいし、酸化物や水酸化物等の塩以外の化合物であってもよい。前駆体に対するM源の量は、焼成後のNa含有酸化物の化学組成に応じて決定されればよい。
【0039】
2.3 S3
S3においては、S2によって得られた前記複合体を焼成することで、P2型構造を有するNa含有酸化物を得る。S3は、上記のS3-1、S3-2及びS3-3を含む。
【0040】
2.3.1 S3-1
S3-1においては、前記複合体に対して、300℃以上700℃未満の温度で、2時間以上10時間以下の間、予備焼成を施す。S3-1においては、上記の複合体を任意に成形したうえで、予備焼成を施してもよい。予備焼成は、本焼成未満の温度で行われる。予備焼成が不十分であると、S3-2において十分な量のP2相を生成させるために、本焼成を高温かつ長時間とする必要があり、P2相が異常成長する可能性がある。また、S3-1における予備焼成が不十分であると、十分な量のNaドープが困難となり、特定の化学組成を有しつつP2相を得ることが難しくなる可能性がある。予備焼成を十分に行うことによって、本焼成においてP2相を適切に生成させるとともに、P2相以外の結晶相の生成を抑えることができるとともに、P2型Na含有酸化物粒子の形状が適切に制御され易くなる。すなわち、S3-1において、予備焼成温度が300℃以上700℃未満であり、予備焼成時間が2時間以上10時間以下であることで、複合体に対して十分な予備焼成を施すことができ、後述のS3-2及びS3-3を経て得られるP2型構造を有するNa含有酸化物粒子が、所定の平均アスペクト比及び平均粒子径を有するものとなる。また、複合体に対して十分な予備焼成を施すことで、S3-2及びS3-3において、所定の化学組成を有しつつ、P2型構造を適切に生成させることができる。予備焼成温度は、400℃以上700℃未満、450℃以上700℃未満、500℃以上700℃未満、550℃以上700℃未満、又は、550℃以上650℃以下であってもよい。また、予備焼成時間は、2時間以上8時間以下、3時間以上8時間以下、4時間以上8時間以下、5時間以上8時間以下、又は、5時間以上7時間以下であってもよい。予備焼成雰囲気は、特に限定されるものではなく、例えば、酸素含有雰囲気であってもよい。
【0041】
2.3.2 S3-2
S3-2においては、上記の予備焼成に引き続いて、前記複合体に対して、700℃以上1100℃以下の温度で、30分以上48時間以下の間、本焼成を施す。S3-2において、複合体の本焼成温度は、700℃以上1100℃以下であり、好ましくは800℃以上1000℃以下である。本焼成温度が低過ぎると、P2相が生成せず、本焼成温度が高過ぎるとP2相ではなくO3相等が生成し易い。予備焼成温度から本焼成温度に至るまでの昇温条件は、特に限定されるものではない。本焼成時間は、上述の通り、30分以上48時間以下である。ただし、本焼成時間によって、Na含有酸化物の形状が制御され得る。上述したように、本開示の方法において、複合体におけるNa源の被覆率が40面積%以上である場合、当該複合体を焼成した場合に、その表面に結晶子の小さなP2型結晶が形成され易い。本開示の方法においては、複合体の表面に沿ってP2型結晶を成長させることで、P2型結晶の異常成長が抑えられる。結果として、Na含有酸化物粒子の形状が、所定の平均アスペクト比及び平均粒子径を有するものとなる。本焼成時間が短過ぎると、P2相の生成が不十分となる。一方、本焼成時間が長過ぎると、P2型結晶が過剰に成長し、所定の平均アスペクト比及び平均粒子径を達成できない。本発明者が確認した限りでは、本焼成時間が30分以上3時間以下である場合に、Na含有酸化物粒子が所定の平均アスペクト比及び平均粒子径を有するものとなり易い。
【0042】
2.3.3 S3-3
S3-3においては、上記の本焼成に引き続いて、前記複合体を、200℃以上の温度T1から100℃以下の温度T2まで、高速冷却(降温速度20℃/min以上で冷却)する。上記の予備焼成や本焼成は、例えば、加熱炉内において行われる。工程S3-3においては、例えば、加熱炉内で複合体の本焼成を行った後、加熱炉内で200℃以上の任意の温度T1まで冷却し、当該温度T1となった後、加熱炉内から焼成物を取り出し、100℃以下の任意の温度T2まで炉外で高速冷却を行う。温度T1は、200℃以上の任意の温度であり、250℃以上の任意の温度であってもよい。温度T2は、100℃以下の任意の温度であり、50℃以下の任意の温度であってもよく、冷却終了温度であってもよい。温度T1から温度T2に至るまでの間の所定の温度領域においては、原子振動や分子運動等によってP2型構造の層間に水分が侵入し易い。本焼成後の複合体(P2型構造を有するNa含有酸化物)を冷却する際、このような水分が侵入し易い温度領域となる時間を短時間とする(すなわち、高速冷却する)ことで、P2型構造の層間への水分の侵入量が少なくなるものと考えられる。この点、工程S3-3において、本焼成後の複合体を冷却する際、200℃以上の任意の温度T1から100℃以下の任意の温度T2に至るまで、炉外のドライ雰囲気にて放冷を行うことで、温度T1から温度T2に至るまでの間の冷却速度が高速(例えば、20℃/min以上)となり、P2型構造の層間に水分が侵入し難くなり、P2型構造の崩壊等を抑制することができる。結果として、P2型構造を有するとともに、所定の化学組成を有するNa含有酸化物粒子を得ることができる。
【0043】
以上の方法により、第1形態に係るNa含有酸化物粒子や、第2形態に係るNa含有酸化物粒子を製造することができる。
【0044】
3.ナトリウムイオン二次電池
実施形態に係る正極活物質は、上記の特定のNa含有酸化物を含む。当該正極活物質は、例えば、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる。
図2に一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池の構成を概略的に示す。
図2に示されるように、一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池100は、正極活物質層10、電解質層20及び負極活物質層30を有する。ここで、正極活物質層10は、上記の実施形態に係る正極活物質を含む。
【0045】
3.1 正極活物質層
正極活物質層10は、少なくとも上記の実施形態に係る正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。さらに、正極活物質層10はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層10における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層10全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層10の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層10であってもよい。正極活物質層10の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0046】
3.1.1 正極活物質
正極活物質については、上述の通りである。すなわち、正極活物質は、第1形態に係るNa含有酸化物粒子、及び/又は、第2形態に係るNa含有酸化物粒子を含む。上述の通り、正極活物質は、上記のNa含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のNa含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のNa含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0047】
3.1.2 電解質
正極活物質層10に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。固体電解質は、ナトリウムイオン二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、Na3Zr2PSi2O12やNa2O-11Al2O3等の酸化物;NaBH4、NaB10H10、NaCB9H10、NaCB11H12、NaB12Cl12といった水素化物やホウ素化物;Na3PS4、Na3SbS4、Na2.88Sb0.88W0.12S4等の硫化物;NaPF6、NaBF4等のフッ化物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのナトリウムイオンを含み得る。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成はナトリウムイオン二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にナトリウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、NaPF6等が挙げられる。
【0048】
3.1.3 導電助剤
正極活物質層10に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0049】
3.1.4 バインダー
正極活物質層10に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0050】
3.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。ナトリウムイオン二次電池100が固体電池(固体電解質を含む電池であって、一部に液体電解質が併用されたものであってもよいし、液体電解質を含まない全固体電池であってもよい)である場合、電解質層20は、固体電解質を含み、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。この場合、電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。一方で、ナトリウムイオン二次電池100が電解液電池である場合、電解質層20は、電解液を含み、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層10と負極活物質層30との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0051】
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層10に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層10に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、ナトリウムイオン二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0052】
3.3 負極活物質層
負極活物質層30は、少なくとも負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層30はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層30における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層30全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層30の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層30の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0053】
負極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の本開示の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。負極活物質は、例えば、金属ナトリウム等の無機系の負極活物質であってよいし、有機化合物からなる負極活物質であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はナトリウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層30が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0054】
負極活物質層30に含まれ得る電解質としては、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層30に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層30に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層10に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0055】
3.4 正極集電体
図2に示されるように、ナトリウムイオン二次電池100は、上記の正極活物質層10と接触する正極集電体40を備えていてもよい。正極集電体40は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体40は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体40は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体40は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体40を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体40がAlを含むものであってもよい。正極集電体40は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体40は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体40が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体40の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0056】
3.5 負極集電体
図2に示されるように、ナトリウムイオン二次電池100は、上記の負極活物質層30と接触する負極集電体50を備えていてもよい。負極集電体50は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体50は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体50は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体50は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体50を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点等から、負極集電体50がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体50は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体50は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体50が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体50の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0057】
3.6 その他の事項
ナトリウムイオン二次電池100は、上記構成に加え、タブや端子等の二次電池として自明の構成を備えていてもよい。ナトリウムイオン二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。ナトリウムイオン二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。ナトリウムイオン二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0058】
ナトリウムイオン二次電池100は、上記の特定の正極活物質を用いることを除き、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、ナトリウムイオン二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、二次電池とする。尚、電解液電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。
【0059】
4.ナトリウムイオン二次電池の重量エネルギー密度を増大する方法
本開示の技術は、ナトリウムイオン二次電池の重量エネルギー密度を増大する方法としての側面も有する。すなわち、本開示のナトリウムイオン二次電池の重量エネルギー密度を増大する方法は、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質層において上記本開示の正極活物質を使用することを特徴とする。
【0060】
5.ナトリウムイオン二次電池を有する車両
上述の通り、本開示の正極活物質は、優れた重量エネルギー密度を有し、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として好適である。このように重量エネルギー密度の大きなナトリウムイオン二次電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、ナトリウムイオン二次電池を有する車両であって、前記ナトリウムイオン二次電池が、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、前記正極活物質層が、上記本開示の正極活物質を含むもの、としての側面も有する。
【実施例0061】
以上の通り、正極活物質及びナトリウムイオン二次電池等の一実施形態について説明したが、本開示の技術は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
1.正極活物質の作製
1.1 実施例1
1.1.1 前駆体の作製
(1)MnSO4・5H2O、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1溶液を得た。また、別の容器にNa2CO3を1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2溶液を得た。
(2)反応容器(邪魔板あり)に1000mLの純水を入れ、ここに、500mLの第1溶液と、500mLの第2溶液とを、各々、約4mL/minの速度で滴下した。
(3)滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1時間撹拌して、生成物を得た。
(4)生成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離して、沈殿物を回収した。
(5)得られた沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて微粒子を取り除き、前駆体粒子を得た。前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoを含む複合塩であった。また、前駆体粒子におけるMnとNiとCoとのモル比は、Mn:Ni:Co=4:3:3であった。
【0063】
1.1.2 複合体の作製
前駆体粒子とNa2CO3とを、Na0.9Mn0.4Ni0.3Co0.3O2の仕込み組成となるように秤量した。秤量した前駆体とNa2CO3とを、乳鉢を用いて混合することにより、複合体を得た。
【0064】
1.1.3 複合体の焼成
複合体をアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気下で焼成を行い、P2型構造を有するNa含有酸化物を得た。焼成条件については以下の(1)~(7)の通りである。
(1)大気雰囲気の加熱炉に上記の複合体を含むアルミナ坩堝を設置する。
(2)加熱炉内を室温(25℃)から600℃まで115分で昇温させる。
(3)加熱炉内を600℃で360分保持し、予備焼成を行う。
(4)予備焼成後、加熱炉内を600℃から900℃まで100分で昇温させる。
(5)加熱炉内を900℃で60分保持し、本焼成を行う。
(6)本焼成後、加熱炉内を900℃から250℃まで120分で降温させる。
(7)250℃で加熱炉からアルミナ坩堝を取り出し、炉外でドライ雰囲気にて放冷し、10分で25℃にまで到達させる。
【0065】
大気放冷後の焼成物をドライ雰囲気下で乳鉢を用いて粉砕することで、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得た。
【0066】
1.2 実施例2
前駆体粒子の組成及び前駆体粒子とNa2CO3との仕込み比を変更したこと以外は、実施例1と同様である。実施例2においては、前駆体粒子におけるMnとNiとCoとのモル比が、Mn:Ni:Co=5:3:2となるようにした。また、前駆体粒子とNa2CO3とを、Na0.8Mn0.5Ni0.3Co0.2O2の仕込み組成となるように秤量した。
【0067】
1.3 実施例3
前駆体粒子の組成及び前駆体粒子とNa2CO3との仕込み比を変更したこと以外は、実施例1と同様である。実施例3においては、前駆体粒子におけるMnとNiとCoとのモル比が、Mn:Ni:Co=4:2:4となるようにした。また、前駆体粒子とNa2CO3とを、Na0.8Mn0.4Ni0.2Co0.4O2の仕込み組成となるように秤量した。
【0068】
1.4 比較例1
前駆体粒子の組成及び前駆体粒子とNa2CO3との仕込み比を変更し、かつ、前駆体粒子として気流分級後の微粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様である。比較例1においては、前駆体粒子におけるMnとNiとCoとのモル比が、Mn:Ni:Co=5:2:3となるようにした。また、前駆体粒子とNa2CO3とを、Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2の仕込み組成となるように秤量した。
【0069】
2.正極活物質の評価
2.1 元素分析
実施例1~3及び比較例1の各々の正極活物質について、元素分析を行い、化学組成を特定した。結果を下記表1に示す。
【0070】
2.2 X線回折測定による結晶構造の特定
実施例1~3及び比較例1の各々の正極活物質について、CuKαを線源とするX線回折測定を行い、X線回折パターンを取得した。
図3に実施例1~3の各々のX線回折パターンを示す。また、
図4に比較例1のX線回折パターンを示す。
図3及び4に示されるように、実施例1~3及び比較例1のいずれの正極活物質も、空間群P63mcに属するP2型構造を有することがわかる。また、各々のX線回折パターンから、実施例1~3及び比較例1の各々のP2型構造の格子定数(a軸長、b軸長、c軸長)を求めた。結果を下記表1に示す。
【0071】
2.3 平均粒子径の測定
実施例1~3及び比較例1の各々の正極活物質について、平均粒子径(D50)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0072】
2.4 SEM観察による平均アスペクト比の測定
実施例1~3及び比較例1の各々の正極活物質について、ペレット状に成形し、CP加工を行った後、FE-SEMにて断面観察を行い、平均アスペクト比を測定した。結果を下記表1に示す。尚、参考までに、
図5に、実施例1に係る正極活物質をペレット状に成形し、断面を観察した場合のSEM画像を示す。また、
図6に、実施例1に係る正極活物質の外観形状を示す。
【0073】
3.評価用セルの作製
実施例1~3及び比較例1の各々の正極活物質を用いてコインセルを作製した。コインセルの作製手順は以下の通りである。
(1)正極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比で、正極活物質:AB:PVdF=85:10:5となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドンに分散混合して、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーをアルミニウム箔上に塗工し、120℃で一晩真空乾燥させることで、正極活物質層と正極集電体との積層物である正極を得た。
(2)電解液として、ECとDECとを体積比で1:1にて混合した溶媒に、1Mの濃度となるようにNaPF6を溶解させたものを用いた。
(3)負極として金属ナトリウム箔を用意した。
(4)正極、電解液及び負極を用いて、コインセル(CR2032)を作製した。
【0074】
4.充放電特性評価
実施例1~3及び比較例1の各々のコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、1.0-4.8Vの電圧範囲で、0.1C(1C=160mA/g)で充放電し、容量を測定した。結果を下記表1に示す。
(2)実施例4及び比較例2の各々のコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、1.0-4.3Vの電圧範囲で、0.1C(1C=190mA/g)で充放電し、初期放電容量、平均放電電位及び重量エネルギー密度を測定した。結果を下記表2に示す。
【0075】
5.評価結果
実施例1~3及び比較例1の各々について、正極活物質の化学組成、平均粒子径(D50)、平均アスペクト比及び格子定数と、評価セルの初期放電容量、平均放電電位及び重量エネルギー密度とを示す。
【0076】
【0077】
【0078】
表1及び2に示される結果から明らかなように、D50が2.0μm以上と相対的に大きく、かつ、平均アスペクト比が3.0以下と相対的に小さい実施例1~3に係る正極活物質は、D50が2.0μm未満と相対的に小さく、かつ、平均アスペクト比が3.0超と相対的に大きい比較例1に係る正極活物質よりも、優れた重量エネルギー密度を有する。また、実施例1~3に係る正極活物質の初期放電容量や平均放電電位は、比較例1のそれらと同等以上である。
【0079】
また、表1及び2に示される結果から明らかなように、所定の化学組成を有する実施例1~3に係る正極活物質は、実施例1~3とは異なる化学組成を有する比較例1に係る正極活物質よりも、優れた重量エネルギー密度を有する。
【0080】
6.補足
尚、上記の実施例では、共沈法によって前駆体を得る場合を例示したが、前駆体はこれ以外の方法によって得ることもできる。また、上記の実施例では、スプレードライによって前駆体の表面をNa源でコートして複合体を得る場合を例示したが、複合体はこれ以外の方法によって得ることもできる。また、上記の実施例では、P2型構造を有するNa含有酸化物として、所定の化学組成を有するものを例示したが、Na含有酸化物の化学組成はこれに限定されるものではない。また、Na含有酸化物は、Mn、Ni及びCo以外の元素Mがドープされていてもよい。元素Mについては、実施形態において説明した通りである。
【0081】
7.まとめ
以上の通り、Na含有酸化物を含む正極活物質において、当該Na含有酸化物が、以下の要件(1-1)~(1-4)を満たす場合、正極活物質のエネルギー密度が増大するといえる。
(1-1)前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有する。
(1-2)前記Na含有酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。
(1-3)前記Na含有酸化物粒子は、2.0μm以上の平均粒子径を有する。
(1-4)前記Na含有酸化物粒子は、1.0以上3.0以下の平均アスペクト比を有する。
【0082】
また、Na含有酸化物を含む正極活物質において、当該Na含有酸化物が、以下の要件(2-1)及び(2-2)を満たす場合も、正極活物質のエネルギー密度が増大するといえる。
(2-1)前記Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有する。
(2-2)前記Na含有酸化物粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0.70<a≦1.00、0<x<1.00、0<y<0.50、0<z<1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有する。