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特開2024-15838釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤
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  • 特開-釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015838
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20240130BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20240130BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118172
(22)【出願日】2022-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】522104576
【氏名又は名称】株式会社信商事
(74)【代理人】
【識別番号】100160990
【弁理士】
【氏名又は名称】亀崎 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】長岡 寛
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005NA06
2B005NA14
2B150AA08
2B150AB04
2B150AB20
2B150CD26
2B150DD01
(57)【要約】
【課題】集魚性能を高めた釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤を提供する。
【解決手段】釣り餌用の加工オキアミの製造方法では、オキアミを着色剤で着色することで、オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にする。着色剤は、食用色素である。着色剤は、黒色、茶色、紫色、又は濃紺である。着色剤は、多価アルコール若しくは糖類を混合した液体、又はデキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖若しくは澱粉を混合した粉末である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキアミを着色剤で着色することで、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にすることを特徴とする
釣り餌用の加工オキアミの製造方法。
【請求項2】
前記着色剤は、食用色素であることを特徴とする
請求項1に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法。
【請求項3】
前記食用色素は、黒色、茶色、紫色、又は濃紺であることを特徴とする
請求項2に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法。
【請求項4】
前記着色剤は、多価アルコール又は糖類を混合した液体であることを特徴とする
請求項2又は3に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法。
【請求項5】
前記着色剤は、デキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖又は澱粉を混合した粉末であることを特徴とする
請求項2又は3に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法。
【請求項6】
オキアミを着色し、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にするオキアミの着色剤であって、
食用色素と、多価アルコール又は糖類と、を混合した液体であることを特徴とする
オキアミの着色剤。
【請求項7】
オキアミを着色し、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にするオキアミの着色剤であって、
食用色素と、デキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖又は澱粉と、を混合した粉末であることを特徴とする
オキアミの着色剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤に関する。
【背景技術】
【0002】
解凍しただけの生のオキアミ(例えば、ナンキョクオキアミ)は、時間の経過とともに消化酵素の働きにより黒変し、身が柔らかくなるなどの変化を起こす。このようなオキアミを釣り餌として用いた場合、釣り針から脱落しやすくなるため、釣果に悪影響を及ぼす。それを解決するために多価アルコール、保湿剤、糖類に浸漬し、漂白剤などと併用させることにより加工したものが市販されている。これにより、店頭に並びさらに釣り人が使用している間も劣化が大幅に抑えられている。それらの中にはアミノ酸などを添加し魚の摂餌性を高めたものがある(例えば、特許文献1参照)。ほかにも赤、黄などに着色し他の商品との差別化を図った商品も数多く市販されている。
【0003】
なお、鮮やかな色彩のオキアミに対してわざわざ暗色にするような手法は、黒変して偶然に暗色になったもの以外には見当たらない。また、黒変が起きると身質が低下し針持ちが低下してしまうため、暗色のオキアミは好まれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-125687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような釣り餌としてのオキアミにおいては、集魚性能を高めることで、他のオキアミとの差別化を推し進め、利用価値を高めることが要求される。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、集魚性能を高める釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、オキアミを着色剤で着色することで、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にすることを特徴とする釣り餌用の加工オキアミの製造方法である。
【0008】
ところで、魚類の色覚は、色彩を判別するための錐体細胞と明暗を識別する錐体細胞との2種類があることが知られている。一般的に物体を見るとき、明暗を判別する人の桿体細胞の感度は三原色(色彩)を判別する錐体細胞に対して20倍の感度があるといわれている。一方、魚類の桿体細胞の感度は人のそれと比較して5倍の感度があるため、魚類の錐体細胞の感度を1とした場合、桿体細胞の感度は人の100倍となる。そのため、魚にアピールするには三原色を軸とした色の違いよりも明暗の違いの方が餌を発見する上で大きな影響があり、釣り餌(オキアミ)においては高い明度のものの方が、魚類に対するアピールが強くなる。
【0009】
このような中、発明者は以下のことを発見し、本発明に至った。
・近年、温暖化の影響を受け日本沿岸の海水温度は上昇傾向にあり、それが影響してなのか周年にわたりエサ取り(目的以外の魚)と呼ばれるフグなどの小魚の異常繁殖がみられる。
・これら表層に群がるエサ取りは、釣り餌の明暗に敏感で明るい色のものを視覚で発見するとすぐに摂餌行動を開始する。
・下層に居る大型魚は海中がやや暗いこともあり、視覚だけでなく嗅覚によって餌を発見し摂餌行動を起こす。
・そのことから色の暗いオキアミは、表層近くでエサ取りに発見される確率が低い。
【0010】
本発明によれば、魚類の視覚的機能に基づいて、明度を低くする(明度Lを20以上45以下にする)ことにより、海中への投入後の沈下途中に表層近くに群れている小魚(目的以外の魚、エサ取り)を視覚的に回避し、それよりも深い場所にいる本命の大型魚に食わせる確率を大幅に向上させることができる。
【0011】
(2)本発明はまた、前記着色剤は、食用色素であることを特徴とする上記(1)に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法である。
【0012】
(3)本発明はまた、前記食用色素は、黒色、茶色、紫色、又は濃紺であることを特徴とする上記(2)に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法である。
【0013】
(4)本発明はまた、前記着色剤は、多価アルコール又は糖類を混合した液体であることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法である。
【0014】
(5)本発明はまた、前記着色剤は、デキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖又は澱粉を混合した粉末であることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法である。
【0015】
(6)本発明はまた、オキアミを着色し、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にするオキアミの着色剤であって、食用色素と、多価アルコール又は糖類と、を混合した液体であることを特徴とするオキアミの着色剤である。
【0016】
(7)本発明はまた、オキアミを着色し、前記オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にするオキアミの着色剤であって、食用色素と、デキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖又は澱粉と、を混合した粉末であることを特徴とするオキアミの着色剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記(1)~(5)に記載の釣り餌用の加工オキアミの製造方法、並びに上記(6)及び(7)に記載のオキアミの着色剤によれば、表層付近に群れているエサ取りと呼ばれる小魚の集魚性能を制約することができ、結果として本命である大型魚の集魚性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例及び比較例1~3に係る方法で製造された加工オキアミを写す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤について詳細に説明する。
【0020】
まず、釣り餌用の加工オキアミの製造方法について説明する。
【0021】
釣り餌用の加工オキアミの製造方法では、生のオキアミ(例えば、ナンキョクオキアミ)を着色剤で着色することで、当該オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にする。例えば、冷凍状態の生のオキアミを液体の着色剤(着色液)に浸漬し、自然解凍させることで着色することで、当該オキアミのL色空間における明度Lを20以上45以下にする。なお、オキアミのL色空間における明度Lは、20以上45以下であることとしたが、30以上45以下であることが好ましく、40以上45以下であることがより好ましい。
【0022】
オキアミの着色剤は、食用色素(天然色素)又はコーヒー粉末であり、黒色、茶色、紫色、又は濃紺であることが好ましい。この着色剤は、食用色素に、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール(PG)、グリセリン)若しくは糖類を混合した液体、又は食用色素に、デキストリン粉末、セルロース粉末、粉糖若しくは澱粉を混合した粉末である。液体の着色剤(着色液)の場合、食用色素の質量パーセント濃度は、0.03%以上0.4%以下であることが好ましい。粉末の着色剤の場合、食用色素の重量パーセントは、0.02%以上0.3%以下であることが好ましい。このような着色剤には、pH調整剤としてDL-リンゴ酸を添加したり、鮮度保持のための保存料として安息香酸ナトリウムを添加したりすることが好ましい。DL-リンゴ酸の質量パーセント濃度は、0.2%以上0.4%以下であることが好ましく、0.3%であることがより好ましい。安息香酸ナトリウムの質量パーセント濃度は、0.2%以上0.4%以下であることが好ましく、0.3%であることがより好ましい。
【0023】
なお、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール(PG)、グリセリン)がオキアミの内部に含まれている水分を奪うので、その代わりに食用色素が浸透することになる。特に、プロピレングリコールは、オキアミとの相性が良く、オキアミの身質改善にも関与する。プロピレングリコールは、そのままの濃度では濃すぎてオキアミが締まりすぎてしまうので、プロピレングリコールの質量パーセント濃度が20%以上30%以下となるように、水に対してプロピレングリコールを混合したものを用いることが好ましい。このとき、プロピレングリコールの濃度を高くすることで食用色素の付着は海中においてもより長時間となり、薄くすることで食用色素の抜けも早まる。ただし、オキアミは、頭部と脚部といった微細な構造部分から強く着色されるが、それらの部分は食用色素が抜けにくい。ところが、エサ取りと呼ばれる小魚の多くは、水面近くの表層において、この微細な構造部分を好んで攻撃してくるので、食用色素による着色により、オキアミの弱点を補う格好になる。なお、オキアミは、海中で10秒間に約40cm沈下する。海中に投じてから30秒ほど、オキアミに付着した食用色素が濃厚な状態であれば、十分に目的を達成することが可能となる。
【実施例0024】
次に、図1を用いて、実施例に係る釣り餌用の加工オキアミの製造方法について説明する。図1は、本発明の実施例及び比較例1~3に係る方法で製造された加工オキアミを写す写真である。
【0025】
冷凍状態のブロックの生のオキアミを液体の着色剤(着色液)に一晩浸漬し、自然解凍させることで着色した。このとき、実施例及び比較例1~3の4種類の着色液(ただし、比較例1は、着色液に代わる溶液)を用い、比較した。黒色の食用色素としては、共立食品株式会社(東京都台東区)が市販する竹炭由来のものを用いた。
【0026】
実施例の着色液として、黒色の食用色素と、保湿剤としてのプロピレングリコールと、鮮度保持のための保存料としての安息香酸ナトリウムと、pH調整剤としてのDL-リンゴ酸と、を混合した水溶液を用いた。このとき、食用色素の質量パーセント濃度を0.03%とし、プロピレングリコールの質量パーセント濃度を30%とし、安息香酸ナトリウムの質量パーセント濃度を0.3%とし、DL-リンゴ酸の質量パーセント濃度を0.3%とした。実施例の着色液で着色したオキアミをサンプルB(図1における右下の写真を参照)とした。
【0027】
比較例1の溶液として、保湿剤としてのプロピレングリコールと、鮮度保持のための保存料としての安息香酸ナトリウムと、pH調整剤としてのDL-リンゴ酸と、を混合した水溶液を用いた。このとき、プロピレングリコールの質量パーセント濃度を30%とし、安息香酸ナトリウムの質量パーセント濃度を0.3%とし、DL-リンゴ酸の質量パーセント濃度を0.3%とした。比較例1の溶液に一晩浸漬したオキアミをサンプルN(図1における左上の写真を参照)とした。
【0028】
比較例2の着色液として、黒色の食用色素と、保湿剤としてのプロピレングリコールと、鮮度保持のための保存料としての安息香酸ナトリウムと、pH調整剤としてのDL-リンゴ酸と、を混合した水溶液を用いた。このとき、食用色素の質量パーセント濃度を0.01%とし、プロピレングリコールの質量パーセント濃度を30%とし、安息香酸ナトリウムの質量パーセント濃度を0.3%とし、DL-リンゴ酸の質量パーセント濃度を0.3%とした。比較例2の着色液で着色したオキアミをサンプルA(図1における左下の写真を参照)とした。
【0029】
比較例3の着色液として、黒色の食用色素及び墨汁と、保湿剤としてのプロピレングリコールと、鮮度保持のための保存料としての安息香酸ナトリウムと、pH調整剤としてのDL-リンゴ酸と、を混合した水溶液を用いた。このとき、食用色素及び墨汁の合計の質量パーセント濃度を10%とし、プロピレングリコールの質量パーセント濃度を30%とし、安息香酸ナトリウムの質量パーセント濃度を0.3%とし、DL-リンゴ酸の質量パーセント濃度を0.3%とした。比較例3の着色液で着色したオキアミをサンプルC(図1における右上の写真を参照)とした。
【0030】
[実験]
次に、実験として、実施例に係るサンプルB(図1における右下の写真を参照)、比較例1に係るサンプルN(図1における左上の写真を参照)、比較例2に係るサンプルA(図1における左下の写真を参照)、及び比較例3に係るサンプルC(図1における右上の写真を参照)を用いて釣り(フィールドテスト)を行ったが、そのテストについて説明する。実験は、2022年7月2日、静岡県熱海市の通称エボシと呼ばれる沖磯にて、通称ウキフカセ釣りという釣り方で行った。ウキフカセ釣りでは、解凍した未加工のオキアミと配合釣り餌を混合させた撒き餌を海中に投入して魚を寄せながら釣った。1投げ毎にサンプルN→サンプルA→サンプルB→サンプルCという順に交換し、各サンプルについて12投ずつ行った。アタリが出た場合は即座に仕掛けを回収し、反応が無い場合は最大3分ほど投入したまま待った。この実験では、表1に示す釣果となった。
【0031】
【表1】
×:餌が取られて釣果無
フ:フグ類(クサフグ、キタマクラ)、ベラ(ホシササノハベラ)などのエサ取り
〇:メジナ(メジナ、クロメジナ)本命
△:アタリのみで釣果無
▲:反応なし
【0032】
比較例1に係るサンプルN(通常の色素のオキアミ)は、仕掛けを投入してすぐにエサ取りにとられてしまい、ほとんどがアタリさえ認識することなく釣果を得ることができず、評価は×であった。
【0033】
比較例2に係るサンプルA(弱く着色されたオキアミ)は、若干良好であったが明確な違いは確認できず、評価は△であった。
【0034】
実施例に係るサンプルB(明確にトーンが暗く仕上がったオキアミ)は、明らかに優位な釣果が見られ、評価は◎であった。
【0035】
比較例3に係るサンプルC(ほぼ黒色に仕上がったオキアミ)は、黒くなりすぎて魚から発見されにくいと思われる結果となり、評価は○であった。
【0036】
その後、2022年7月22日、栃木県産業技術センターにおいて、冷凍保管しておいた前記サンプルの色彩の測定を行った。分光測色計としてコニカミノルタ株式会社製のCM-5を用い、サンプルを直径50mmのシャーレ型セルに詰めて測定した。表2に示す測定の結果となった。
【0037】
【表2】
【0038】
以上説明したように、釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤によれば、魚類の視覚的機能に基づいて、明度を低くする(明度Lを20以上45以下にする)ことにより、海中への投入後の沈下途中に表層近くに群れている小魚(目的以外の魚、エサ取り)を視覚的に回避し、それよりも深い場所にいる本命の大型魚に食わせる確率を大幅に向上させることができる。すなわち、釣り餌用の加工オキアミの製造方法、及びオキアミの着色剤によれば、表層付近に群れているエサ取りと呼ばれる小魚の集魚性能を制約することができ、結果として本命である大型魚の集魚性能を高めることができる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。すなわち、各構成の位置、寸法(大きさ、長さ、厚さ)、数量、形状、材質や、製造の手順などは適宜変更できる。

図1