(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158383
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ボールペンチップ、ボールペンレフィル、ボールペン及びボールペンチップの組み立て方法
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20241031BHJP
B43K 7/02 20060101ALI20241031BHJP
B43K 7/12 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
B43K1/08
B43K7/02
B43K7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073536
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】菅原 良昌
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
2C350KC05
2C350NA21
2C350NC02
2C350NC20
2C350NE01
(57)【要約】
【課題】ボールペンのボールの後退量を精度よく制御すること。
【解決手段】ボールペンチップ40は、ボール42と、ボール42を抱持するボール抱持室71を有するチップ本体70と、チップ本体70内に配置され、軸方向daに移動可能なスライド部材100と、スライド部材100の後方に配置され、チップ本体70に対して固定された固定部材120と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールと、
前記ボールを抱持するボール抱持室を有するチップ本体と、
前記チップ本体内に配置され、軸方向に移動可能なスライド部材と、
前記スライド部材の後方に配置され、前記チップ本体に対して固定された固定部材と、を備えた、ボールペンチップ。
【請求項2】
前記ボールが前記チップ本体の前端縁部に接触し且つ前記スライド部材が前記ボールに接触している状態において、前記スライド部材の後端と前記固定部材の前端との間に隙間が形成される、請求項1に記載のボールペンチップ。
【請求項3】
前記スライド部材と前記固定部材との間に配置された弾発部材をさらに備える、請求項1に記載のボールペンチップ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のボールペンチップと、インキを収容するインキ収容筒と、を備えたボールペンレフィル。
【請求項5】
請求項4に記載のボールペンレフィルを備えたボールペン。
【請求項6】
チップ本体のボール抱持室内にボールを配置する工程と、
前記ボールの後方における前記チップ本体内にスライド部材を配置する工程と、
前記スライド部材を前記チップ本体内において後退させた状態で、前記チップ本体に対する前記スライド部材の位置を固定する工程と、
固定部材の前端が前記スライド部材の後端に接触するまで、前記固定部材を前記チップ本体内に挿入する工程と、を備えた、ボールペンチップの組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンチップ、ボールペンレフィル、ボールペン及びボールペンチップの組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンの先端に設けられたボールに強い筆圧が作用した場合に、ボールが後退できるように構成されたボールペンがある(特許文献1参照)。このようなボールペンでは、ボールが後退することにより、チップ本体とボールとの間の隙間の大きさが変化する。これにより、チップ本体とボールとの間の隙間を通って流出するインキの量が変化する。インキの流出量を変化させることにより、筆跡の太さ及び/又は濃さを変化させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたボールペンでは、チップ本体を構成する筒体の中間部分を内方へ押圧変形させて、筒体に第2の規制壁部を形成している。ボールが後退する際には、ボールとともに押圧部材が後退する。押圧部材の後端が第2の規制壁部に接触すると、ボール及び押圧部材の後退が停止する。すなわち、このボールペンでは、第2の規制壁部の位置により、ボールの後退量が規定される。筒体を押圧変形させることにより第2の規制壁部を形成する場合、押圧変形させる箇所の位置精度が低い場合には、ボールの後退量が変化し得る。この場合、ボールペンごとの筆跡の太さ及び/又は濃さにばらつきが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ボールペンのボールの後退量を精度よく制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるボールペンチップは、
[1] ボールと、
前記ボールを抱持するボール抱持室を有するチップ本体と、
前記チップ本体内に配置され、軸方向に移動可能なスライド部材と、
前記スライド部材の後方に配置され、前記チップ本体に対して固定された固定部材と、を備えた、ボールペンチップ、である。
【0007】
本発明によるボールペンチップは、
[2] 前記ボールが前記チップ本体の前端縁部に接触し且つ前記スライド部材が前記ボールに接触している状態において、前記スライド部材の後端と前記固定部材の前端との間に隙間が形成される、[1]に記載のボールペンチップ、である。
【0008】
本発明によるボールペンチップは、
[3] 前記スライド部材と前記固定部材との間に配置された弾発部材をさらに備える、[1]又は[2]に記載のボールペンチップ、である。
【0009】
本発明によるボールペンレフィルは、
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載のボールペンチップと、インキを収容するインキ収容筒と、を備えたボールペンレフィル、である。
【0010】
本発明によるボールペンは、
[5] [4]に記載のボールペンレフィルを備えたボールペン、である。
【0011】
本発明によるボールペンチップの組み立て方法は、
[6] チップ本体のボール抱持室内にボールを配置する工程と、
前記ボールの後方における前記チップ本体内にスライド部材を配置する工程と、
前記スライド部材を前記チップ本体内において後退させた状態で、前記チップ本体に対する前記スライド部材の位置を固定する工程と、
固定部材の前端が前記スライド部材の後端に接触するまで、前記固定部材を前記チップ本体内に挿入する工程と、を備えた、ボールペンチップの組み立て方法、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボールペンのボールの後退量を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、ボールペンの一例を没入状態で示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のボールペンを突出状態で示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のボールペンのボールペンチップを拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図3のボールペンチップのチップ本体近傍を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図4のボールペンチップのボール近傍を拡大して示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のボールペンチップの中空管を前方から見て示す図である。
【
図7】
図7は、ボールペンチップの一変形例を示す縦断面図である。
【
図8】
図8は、
図7のボールペンチップのチップ本体近傍を拡大して示す縦断面図である。
【
図9】
図9は、
図8のボールペンチップのボール近傍を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0015】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0016】
本明細書では、ボールペン10の中心軸線Aが延びる方向(長手方向、縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向とする。また、軸方向daに沿って、ペン先側を前方とし、ペン先と反対側を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、ボールペン10の一例を没入状態で示す縦断面図であり、
図2は、ボールペン10を突出状態で示す縦断面図である。ボールペン10は、軸筒20と、軸筒20内に組み込まれたボールペンレフィル30と、ボールペンレフィル30の先端を軸筒20から出没させるための出没機構12と、を備えている。
【0018】
軸筒20は、前軸22と、前軸22の外面を取り囲んで配置されたグリップ部材24と、前軸22に連結された後軸26と、後軸26の外周面に設けられたクリップ28と、を含んでいる。軸筒20の中心軸線は、ボールペン10の中心軸線Aと一致している。前軸22は、前端に設けられ、ボールペンレフィル30のボールペンチップ40の先端部が出没可能な前端開口部22aを有している。後軸26は、前軸22に対して取り付けられている。とりわけ、図示された例では、後軸26の前端部の内面に形成された雌ネジ部が、前軸22の後端部に外面に形成された雄ネジ部に螺合することにより、後軸26が前軸22に取り付けられている。グリップ部材24は、使用者がボールペン10で筆記を行う際に、指でつかむことが意図されている。前軸22及び後軸26は、例えば樹脂で形成され、グリップ部材24は、例えばゴムやエラストマーで形成される。
【0019】
出没機構12は、ボールペン10を、前軸22の前端開口部22aからボールペンチップ40の先端部が没入する没入状態と、前端開口部22aからボールペンチップ40の先端部が突出する突出状態と、を交互に切り換えるための機構である。
図1では、ボールペン10が没入状態において示されており、
図2では、ボールペン10が突出状態において示されている。出没機構12は、操作部14と、弾発部材16と、を含んでいる。図示された例では、操作部14は、軸筒20(後軸26)の後端から後方に突出するノック部材である。なお、これに限られず、操作部14は、例えば、軸筒20(後軸26)に対して前後動可能に配置されたクリップ28であってもよい。弾発部材16は、例えばコイルバネである。弾発部材16は、軸筒20(前軸22)の内面に形成された内段22bと、ボールペンレフィル30の内筒体50の外面に形成された鍔部54の前面と、の間に圧縮状態で配置されている。
【0020】
図1に示されているように、没入状態では、弾発部材16の弾発力により、ボールペンレフィル30が後方に向かって付勢され、これにより、ボールペンチップ40の先端部は前端開口部22aから没入している。使用者が指で操作部14を前方へ押すと、ボールペンレフィル30が前方に向かって移動し、ボールペンチップ40の先端部が前端開口部22aから前方へ突出する。使用者が操作部14から指を離しても、ボールペンレフィル30は、ボールペンチップ40の先端部が前端開口部22aから前方へ突出した状態を維持する。再度、使用者が指で操作部14を前方へ押すと、ボールペンレフィル30が前方に向かって微小距離だけ移動する。使用者が操作部14から指を離す又は操作部14に対する前方への押圧力を緩めると、弾発部材16の弾発力により、ボールペンレフィル30が後方に向かって付勢され、ボールペンチップ40の先端部が前端開口部22aから没入する。このような出没動作を実現する出没機構12は公知であるので詳細な説明は省略する。一例として、出没機構12として、回転カム機構を有する出没機構を用いることが可能である。
【0021】
ボールペンレフィル30は、軸筒20内に出没可能に収容されている。ボールペンレフィル30は、インキを収容するインキ収容筒35と、インキ収容筒35の前端に取り付けられたボールペンチップ40と、を含んでいる。ボールペンレフィル30の中心軸線は、ボールペン10の中心軸線Aと一致している。また、インキ収容筒35の中心軸線及びボールペンチップ40の中心軸線は、ボールペン10の中心軸線Aと一致している。インキとしては、ボールペンに使用可能なインキが特に制限なく使用され得る。一例として、インキとして熱変色性インキを使用することができる。熱変色性インキは、可逆熱変色性インキであってもよい。可逆熱変色性インキとしては、一例として、加熱により発色状態から消色状態へ変化し、冷却により消色状態から発色状態へ変化する加熱消色型の可逆熱変色性インキが使用され得る。
【0022】
図3は、ボールペンチップ40を示す図であり、
図2においてIIIが付された領域を拡大して示す縦断面図である。
図4は、ボールペンチップ40のチップ本体70近傍を示す図であり、
図3においてIVが付された領域を拡大して示す縦断面図である。
図4では、軸筒20(前軸22)の図示は省略されている。
図5は、ボールペンチップ40のボール42の近傍を示す図であり、
図4においてVが付された領域を拡大して示す縦断面図である。
図6は、ボールペンチップ40の中空管90を前方から見て示す図である。
【0023】
ボールペンチップ40は、ボール42と、チップ本体70と、スライド部材100と、固定部材120と、を含んでいる。
図3及び
図4に示された例では、ボールペンチップ40は、弾発部材48と、内筒体50と、をさらに含んでいる。弾発部材48は、スライド部材100と固定部材120との間に配置されている。ボールペンチップ40は、インキ流路45を有している。インキ流路45は、ボールペンチップ40内を軸方向daに沿って貫通している。インキ収容筒35内に収容されたインキは、インキ流路45を通ってボール42へ向けて流れる。図示された例では、インキ流路45は、後述の内筒体内孔51、固定部材内孔126、保持部材内孔112、インキ通路91、及びボール抱持室71を含む。
【0024】
内筒体50は、インキ収容筒35の前端に取り付けられた、略筒状の形状を有する部材である。とりわけ、内筒体50の後端部がインキ収容筒35の前端内に挿入されることにより、内筒体50がインキ収容筒35に取り付けられている。内筒体50は、内筒体内孔51と、鍔部54と、を有している。内筒体内孔51は、内筒体50を軸方向daに貫通する貫通孔である。内筒体内孔51は、インキ流路45の一部を構成する。
【0025】
鍔部54は、内筒体50の外周面から径方向の外側へ向かって突出している。図示された例では、鍔部54の後面には、インキ収容筒35の前端が当接している。また、鍔部54の前面には、弾発部材16の後端が当接している。
【0026】
チップ本体70は、ボール42を保持する部材である。図示された例では、チップ本体70は、内筒体50に取り付けられている。とりわけ、チップ本体70の後端部が内筒体50の前端部内に挿入されることにより、チップ本体70が内筒体50に取り付けられている。チップ本体70は、ボール抱持室71と、前端縁部73と、を有している。
【0027】
ボール抱持室71は、ボール42を抱持する機能を有するとともに、当該ボール抱持室71内にインキを保持して、ボール42にインキを付着させる機能を有する。ボール抱持室71は、チップ本体70の前端から後方へ向けて形成された穴部で構成される。図示された例では、ボール抱持室71内にボール42を配置した後に、チップ本体70の前端縁部73が内側(中心軸線A側)に向かって変形するようにかしめられることにより、ボール42がボール抱持室71に抱持される。前端縁部73は、チップ本体70の前端部において内方へ向かって突出し、ボール42の前方側の一部に対して環状に当接可能である。前端縁部73の内面は、切頭円錐面状となっている。ボール42の一部は、ボール抱持室71から前方へ突出している。また、ボール42の他の一部は、ボール抱持室71から後方へ突出してもよい。
【0028】
スライド部材100は、チップ本体70の内部に配置されており、チップ本体70に対して軸方向daに移動可能である。
図3及び
図4に示された例では、スライド部材100は、中空管90と保持部材110とを含んでいる。
【0029】
保持部材110は、中空管90を保持する部材である。保持部材110は、保持部材内孔112と、内段114とを有している。保持部材内孔112は、保持部材110を軸方向daに貫通する貫通孔である。保持部材内孔112は、インキ流路45の一部を構成する。内段114は、保持部材内孔112に形成された段部である。内段114は、概ね後方を向く面を含んでいる。図示された例では、弾発部材48の前端が内段114に接触する。これにより、内段114は、弾発部材48の弾発力を受ける。
【0030】
中空管90は、保持部材内孔112を通過したインキをボール42へ供給する機能を有する。中空管90は、保持部材110に取り付けられた、略筒状の形状を有する部材である。図示された例では、中空管90の後端部が保持部材110内に前方から圧入されることにより、中空管90が保持部材110に取り付けられている。これにより、中空管90は、保持部材110に対して固定されている。中空管90は、インキ通路91を有している。インキ通路91は、中空管90を軸方向daに貫通する貫通孔である。インキ通路91は、保持部材内孔112からボール42へ向かうインキの通路である。
図5及び
図6によく示されているように、本実施形態では、インキ通路91は、中空管内孔92と、溝状部93とを含んでいる。
【0031】
中空管内孔92は、中空管90の中心軸線に沿って軸方向daに延びる、筒状の貫通孔である。中空管90の中心軸線は、ボールペン10の中心軸線Aと一致している。したがって、本明細書において、中空管90の中心軸線を中心軸線Aと表記することもある。溝状部93は、中空管内孔92に連通しており、中心軸線Aに直交する断面において中空管内孔92から径方向の外側へ向かって放射状に延びている。溝状部93は、中空管90を軸方向daに貫通して延びている。中空管内孔92及び溝状部93は、軸方向daに中空管90の前端から後端まで延びている。
図5及び
図6に示された例では、中空管90は、複数の溝状部93を有している。中心軸線Aに直交する断面において、複数の溝状部93は、互いに等角度間隔を有して配置されていることが好ましい。
図5及び
図6に示された例では、中空管90は、互いに90度の角度間隔を有する4つの溝状部93を有している。なお、これに限られず、中空管90は、1つ~3つ又は5つ以上の溝状部93を有してもよい。図示された例では、溝状部93の溝幅は、中空管内孔92の直径より小さい。これにより、溝状部93内のインキに掛かる毛細管力が強くなる。このため、インキの流動性が向上し、溝状部93を通過したインキがボール42に供給されることで、ボール42と前端縁部73との隙間からのインキ吐出量が増加しても十分なインキがボール抱持室71に供給される。
【0032】
中空管90は、例えば合成樹脂で形成されている。合成樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアセタール、ポリアミド、ナイロン等を用いることができる。中でも、PEEKは、耐摩耗性や耐衝撃性など機械的強度に優れており、寸法安定性も良いことから好適に使用され得る。中空管90は、押し出し成型により形成されてもよい。この場合、中空管内孔92及び溝状部93と外周部とが軸方向daに沿って一様に形成されると共に、中空管90を安価で製作することができる。本実施形態では、中空管90は全体が合成樹脂製である。これにより、筆記時に必要以上の高い筆圧がボール42を介して中空管90に伝わった際、中空管90は、塑性変形しない範囲で弾性変形することができる。本実施形態では弾性変形部99が弾性変形する際、例えば、中空管90が軸方向daに圧縮されたり径方向に撓んだりすることにより、過大な筆圧を吸収することができる。なお、中空管90は、合成樹脂以外の材料、例えば金属材料、で形成されてもよい。
【0033】
中空管90の先端部には、ボール42と当接してボール42を支持するボール受け座95が設けられている。本実施形態では、ボール受け座95は、面取りされた形状を有している。とりわけ、図示された例では、ボール受け座95は、ボール42の外形に沿った球面形状を有している。これにより、ボール42とボール受け座95とが互いに摺動した際に、ボール受け座95が摩耗することが抑制される。
【0034】
固定部材120は、スライド部材100の後方に配置されている。固定部材120は、チップ本体70に対して固定されている。固定部材120は、係合部122と、固定部材内孔126と、内段128と、を有している。係合部122は、チップ本体70に対して係合する部分である。本変形例では、係合部122は、固定部材120の外周面から径方向の外側に向けて突出した突出部である。固定部材120が、後方からチップ本体70内に挿入され、係合部122がチップ本体70内に圧入されることにより、固定部材120がチップ本体70に対して固定される。なお、本変形例では、固定部材120の後方部分に切欠き124が形成されている。切欠き124は、固定部材120の後方部分の変形を容易にし、固定部材120をチップ本体70内に挿入しやすくする機能を有する。
【0035】
固定部材内孔126は、固定部材120を軸方向daに貫通する貫通孔である。固定部材内孔126は、インキ流路45の一部を構成する。内段128は、固定部材内孔126に形成された段部である。内段128は、概ね前方を向く面を含んでいる。図示された例では、弾発部材48の後端が内段128に接触する。これにより、内段128は、弾発部材48の弾発力を受ける。
【0036】
弾発部材48は、スライド部材100と固定部材120との間に配置されている。弾発部材48は、例えばコイルスプリングである。弾発部材48は、スライド部材100の内段114と固定部材120の内段128との間に、圧縮された状態で配置されている。したがって、この状態において、弾発部材48が伸長する方向に弾発部材48の弾発力が生じている。この弾発力により、スライド部材100は、ボール42を前方へ向けて押圧する。
【0037】
スライド部材100の後端と固定部材120の前端との間には、軸方向daに沿った隙間Gが形成されている。スライド部材100は、隙間Gの軸方向daに沿った寸法だけ、軸方向daに移動することができる。隙間Gの軸方向daに沿った寸法は、例えば0.003mm以上0.2mm以下とすることができる。
【0038】
非筆記状態においては、弾発部材48の弾発力により、ボール42及びスライド部材100は前方へ向けて押し付けられている。したがって、非筆記状態においては、ボール42及びスライド部材100は、ボール42及びスライド部材100の軸方向daに沿った移動範囲における最も前方に位置している。筆記時に、ボール42が紙等の筆記面に押し付けられると、ボール42は筆記面から筆圧を受ける。この筆圧により、ボール42及びスライド部材100は後退する。スライド部材100の後端が固定部材120の前端に接触すると、ボール42及びスライド部材100のそれ以上の後退が妨げられる。したがって、ボール42及びスライド部材100の軸方向daに沿った移動距離は、隙間Gの軸方向daに沿った寸法によって規定される。
【0039】
本実施形態のボールペンチップ40によれば、ボールペンチップ40を構成する各部品の寸法精度によらず、隙間Gの軸方向daに沿った寸法により、筆圧を受けた際のボール42の後退量を規定することができる。したがって、ボール42の後退量を精度よく規定することができる。
【0040】
次に、ボールペンチップ40の組み立て方法について説明する。まず、チップ本体70のボール抱持室71内にボール42を配置する。次に、ボール42の後方におけるチップ本体70内にスライド部材100を配置する。スライド部材100は、チップ本体70の後方からチップ本体70内に挿入される。次に、スライド部材100をチップ本体70内において所望の寸法だけ後退させた状態で、チップ本体70に対するスライド部材100の位置を固定する。例えば、治具を用いてボール42を前方から後方へ向けて所望の寸法だけ押し込む。この状態で弾発部材48をチップ本体70内に挿入する。なお、弾発部材48をチップ本体70内に挿入した後に、ボール42、スライド部材100及び弾発部材48を、チップ本体70に対して所望の寸法だけ後退させてもよい。
【0041】
その後、固定部材120を、チップ本体70の後方からチップ本体70内に挿入する。とりわけ、固定部材120の前端がスライド部材100の後端に接触するまで、固定部材120をチップ本体70内に挿入する。このとき、弾発部材48は、スライド部材100の内段114と固定部材120の内段128との間で圧縮される。この状態でボール42の後方への押圧を解除すると、弾発部材48の弾発力により、ボール42及びスライド部材100が前方へ移動して、ボール42が前端縁部73に接触する。このとき、スライド部材100の後端と固定部材120の前端との間には、軸方向daに沿った所望の寸法を有する隙間Gが形成される。
【0042】
本実施形態のボールペンチップ40の組み立て方法によれば、ボール42を前方から後方へ向けて所望の寸法だけ押し込んだ状態で、固定部材120をチップ本体70内に挿入するだけで、隙間Gの軸方向daに沿った寸法を所望の寸法とすることができる。したがって、簡単な組み立て作業により、筆圧を受けた際のボール42の後退量を精度よく規定することができる。
【0043】
図1~
図4に示された例では、中空管90は、保持部材110を介して弾発部材48により前方へ向けて付勢されている。この状態において、中空管90のボール受け座95はボール42に当接し、ボール42は、チップ本体70の前端縁部73に当接している。
【0044】
図5に示された例では、中空管90の外径D
90は、ボール42の外径D
42より大きい。中空管90の外径D
90がボール42の外径D
42以下である場合、中空管90のインキ通路91の大きさを十分に大きくすることができない。また、図示された例では、中空管90は、保持部材110を介して弾発部材48により前方へ向けて付勢されている。これにより、中空管90は、軸方向daに圧縮力を受ける。中空管90の外径D
90がボール42の外径D
42以下である場合に、中空管90のインキ通路91の大きさを大きくしてしまうと、中空管90の壁部の厚さが小さくなり、弾発部材48に付勢されて中空管90に生じる圧縮力により中空管90が座屈するおそれもある。
【0045】
これに対して、
図5に示された例では、中空管90の外径D
90がボール42の外径D
42より大きいので、中空管90の強度を十分に確保しながらも、インキ通路91の大きさ(断面積)を大きくすることができる。これにより、インキ通路91の寸法や形状の設計の自由度を向上させることが可能になる。例えば、インキ通路91に含まれる中空管内孔92及び溝状部93の寸法や形状の設計の自由度を向上させることができる。
【0046】
とりわけ、中空管90の外径D90は、ボール42の外径D42の1.05倍以上2.0倍以下である。中空管90の外径D90が、ボール42の外径D42の1.05倍以上であることにより、中空管90のインキ通路91の大きさ(断面積)を十分に大きくすることができる。また、中空管90の外径D90が、ボール42の外径D42の2.0倍以下であることにより、中空管90の外側に位置するチップ本体70が大きくなることを抑制することができる。これにより、チップ本体70の先端部分の視認性が低下し、筆記しづらくなることを抑制することができる。好ましくは、中空管90の外径D90は、ボール42の外径D42の1.1倍以上である。また、好ましくは、中空管90の外径D90は、ボール42の外径D42の1.5倍以下である。
【0047】
中空管90の外径D90は、ボール抱持室71の内径D71より大きくてもよい。この場合、インキ通路91の大きさ(断面積)をさらに十分に確保することができる。これにより、インキ通路91の寸法や形状の設計の自由度を向上させることが可能になる。
【0048】
好ましくは、中空管90の外径D90は、ボール抱持室71の内径D71の1.01倍以上2.0倍以下であってもよい。中空管90の外径D90が、ボール抱持室71の内径D71の1.01倍以上であることにより、中空管90のインキ通路91の大きさ(断面積)をさらに十分に大きくすることができる。また、中空管90の外径D90が、ボール抱持室71の内径D71の2.0倍以下であることにより、中空管90の外側に位置するチップ本体70が大きくなることを抑制することができる。
【0049】
中空管90の中心軸線Aから溝状部93の径方向の外端部94までの距離L94は、ボール42の外径D42の1/2より大きくてもよい。換言すると、中空管90の中心軸線Aから溝状部93の径方向の外端部94までの距離L94は、ボール42の半径より大きくてもよい。外端部94は、中心軸線Aに直交する断面において、溝状部93における径方向の最も外側に位置する部分である。換言すると、外端部94は、中心軸線Aに直交する断面において、溝状部93における中心軸線Aから最も離間した部分である。
【0050】
上述したように、溝状部93は、毛細管力を利用してインキの流動性を向上させ、ボール抱持室71へインキを十分に供給する機能を有している。中空管90の中心軸線Aから溝状部93の径方向の外端部94までの距離L94が、ボール42の外径D42の1/2より大きいことにより、中心軸線Aに直交する断面において、溝状部93の溝幅を大きくすることなく溝状部93の断面積を大きくすることができる。したがって、インキ通路91(溝状部93)を介したインキの流量を増加させることができる。
【0051】
好ましくは、距離L94は、ボール42の外径D42の1/2の1.01倍以上1.5倍以下であってもよい。距離L94が、ボール42の外径D42の1/2の1.01倍以上であることにより、溝状部93の大きさ(断面積)をさらに十分に大きくすることができる。また、距離L94が、ボール42の外径D42の1/2の1.5倍以下であることにより、チップ本体70が大きくなることを抑制することができる。
【0052】
距離L94は、ボール抱持室71の内径D71の1/2より大きくてもよい。換言すると、距離L94は、ボール抱持室71の半径より大きくてもよい。この場合、中心軸線Aに直交する断面において、溝状部93の溝幅を大きくすることなく溝状部93の断面積をさらに大きくすることができる。したがって、インキ通路91(溝状部93)を介したインキの流量を増加させることができる。
【0053】
好ましくは、距離L94は、ボール抱持室71の内径D71の1/2の1.01倍以上1.3倍以下であってもよい。距離L94が、ボール抱持室71の内径D71の1/2の1.01倍以上であることにより、溝状部93の大きさ(断面積)をさらに十分に大きくすることができる。また、距離L94が、ボール抱持室71の内径D71の1/2の1.3倍以下であることにより、チップ本体70が大きくなることを抑制することができる。
【0054】
中空管内孔92の内径D92は、ボール42の外径D42より小さくてもよい。これにより、溝状部93が形成されていない箇所における中空管90の壁部の厚さを大きくすることができる。したがって、中空管90の強度を十分に確保することができる。
【0055】
好ましくは、中空管内孔92の内径D92は、ボール42の外径D42の0.2倍以上0.9倍以下であってもよい。中空管内孔92の内径D92が、ボール42の外径D42の0.2倍以上であると、中空管内孔92の断面積及びインキ通路91の断面積を十分に確保することができる。したがって、インキ通路91を介したインキの流量を十分に確保することができる。また、中空管内孔92の内径D92が、ボール42の外径D42の0.9倍以下であると、溝状部93が形成されていない箇所における中空管90の壁部の厚さをより十分に確保することができる。
【0056】
本実施形態のボールペンチップ40は、ボール42と、ボール42を抱持するボール抱持室71を有するチップ本体70と、チップ本体70内に配置され、軸方向daに移動可能なスライド部材100と、スライド部材100の後方に配置され、チップ本体70に対して固定された固定部材120と、を備える。
【0057】
本実施形態のボールペンレフィル30は、上述のボールペンチップ40と、インキを収容するインキ収容筒35と、を備える。
【0058】
本実施形態のボールペン10は、上述のボールペンレフィル30を備える。
【0059】
このようなボールペンチップ40、ボールペンレフィル30及びボールペン10によれば、筆圧によりボール42及びスライド部材100が後退した際に、スライド部材100の後端が固定部材120の前端に接触すると、ボール42及びスライド部材100のそれ以上の後退が妨げられる。したがって、スライド部材100の軸方向daにおける移動可能量により、筆圧を受けた際のボール42の後退量を規定することができる。したがって、ボール42の後退量を精度よく規定することができる。
【0060】
本実施形態のボールペンチップ40では、ボール42がチップ本体70の前端縁部73に接触し且つスライド部材100がボール42に接触している状態において、スライド部材100の後端と固定部材120の前端との間に隙間Gが形成される。
【0061】
このようなボールペンチップ40によれば、ボールペンチップ40を構成する各部品の寸法精度によらず、隙間Gの軸方向daに沿った寸法により、筆圧を受けた際のボール42の後退量を規定することができる。したがって、ボール42の後退量をさらに精度よく規定することができる。
【0062】
本実施形態のボールペンチップ40は、スライド部材100と固定部材120との間に配置された弾発部材48をさらに備える。
【0063】
このようなボールペンチップ40によれば、非筆記状態において、弾発部材48の弾発力により、ボール42及びスライド部材100を前方へ向けて押し付けることができる。したがって、非筆記状態においてボール42とチップ本体70の前端縁部73との隙間からインキが漏れ出すことを抑制することができる。
【0064】
本実施形態のボールペンチップ40の組み立て方法は、チップ本体70のボール抱持室71内にボール42を配置する工程と、ボール42の後方におけるチップ本体70内にスライド部材100を配置する工程と、スライド部材100をチップ本体70内において後退させた状態で、チップ本体70に対するスライド部材100の位置を固定する工程と、固定部材120の前端がスライド部材100の後端に接触するまで、固定部材120をチップ本体70内に挿入する工程と、を備える。
【0065】
このようなボールペンチップ40の組み立て方法によれば、ボール42を前方から後方へ向けて所望の寸法だけ押し込んだ状態で、固定部材120をチップ本体70内に挿入するだけで、隙間Gの軸方向daに沿った寸法を所望の寸法とすることができる。したがって、簡単な組み立て作業により、筆圧を受けた際のボール42の後退量を精度よく規定することができる。
【0066】
図7~
図9を参照して、本実施形態の変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述の実施形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
【0067】
図7は、
図3に対応する図であり、ボールペンチップ40の一変形例を示す縦断面図である。
図8は、
図7のボールペンチップ40のボール42の近傍を示す図であり、
図7においてVIIIが付された領域を拡大して示す縦断面図である。
図9は、
図8のボールペンチップ40のボール42近傍を拡大して示す縦断面図である。
【0068】
本変形例では、内筒体50は内段55を有している。内段55は、内筒体内孔51に設けられた段部である。図示された例では、内筒体内孔51は、小径部と、小径部の位置に位置するとともに小径部よりも大きな内径を有する大径部とを含んでおり、内段55は、小径部と大径部との境界部に設けられた段部である。
【0069】
図7~
図9に示された例では、ボールペンチップ40は、弾発部材48に加えて他の弾発部材130を有している。弾発部材130は、バネ部130aと、バネ部130aから前方に延び、ボール42に後方から当接するロッド部130bと、を有している。バネ部130aは、例えばコイルスプリングで構成される。ロッド部130bの後端はバネ部130aに接続されており、ロッド部130bの前端はボール42に後方から当接している。図示された例では、バネ部130aの後端が内筒体50の内段55に当接している。この状態において、バネ部130aは圧縮状態にあり、バネ部130aが伸長する方向に付勢力を生じている。ロッド部130bは、固定部材内孔126、保持部材内孔112及び中空管内孔92を通って、バネ部130aからボール42まで延びている。ロッド部130bは、バネ部130aの付勢力をボール42に伝達する。
【0070】
本変形例では、ボール42は、弾発部材48及び他の弾発部材130の両方から、弾発力を受ける。すなわち、ボール42は、弾発部材48の弾発力及び弾発部材130の弾発力を組み合わせた弾発力を受ける。このため、弾発部材48の弾発力は、
図8及び
図9を参照して説明した変形例における弾発部材48の弾発力よりも小さくてもよい。また、本変形例では、弾発部材48を省略してもよい。この場合、中空管90はボール42に押し付けられることがないので、中空管90の前端部が摩耗することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 ボールペン
12 出没機構
14 操作部
16 弾発部材
20 軸筒
22 前軸
22a 前端開口部
22b 内段
24 グリップ部材
26 後軸
28 クリップ
30 ボールペンレフィル
35 インキ収容筒
40 ボールペンチップ
42 ボール
45 インキ流路
48 弾発部材
48a バネ部
48b ロッド部
50 内筒体
51 内筒体内孔
54 鍔部
55 内段
70 チップ本体
71 ボール抱持室
73 前端縁部
90 中空管
91 インキ通路
92 中空管内孔
93 溝状部
94 外端部
95 ボール受け座
100 スライド部材
110 保持部材
112 保持部材内孔
114 内段
120 固定部材
122 係合部
124 切欠き
126 固定部材内孔
128 内段
130 他の弾発部材
130a バネ部
130b ロッド部
A 中心軸線