(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158386
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 19/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C01B19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073541
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美枝
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(57)【要約】
【課題】凝集を抑制すると共に,粒子径バラツキの抑制と分散性の高い半導体ナノ粒子を提供できる。
【解決手段】半導体ナノ粒子の製造装置は、水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子をフロー合成する半導体ナノ粒子の製造装置であって、原料溶液を供給する原料供給部と、原料供給部に直列に接続され、原料溶液を加熱する加熱部と、加熱部の前後で分岐され、加熱前後の溶液中の配位子の量を検出する検出部と、検出部で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御部と、制御部に従い配位子溶液を供給する配位子供給部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子をフロー合成する半導体ナノ粒子の製造装置であって、
前記原料溶液を供給する原料供給部と、
前記原料供給部に直列に接続され、前記原料溶液を加熱する加熱部と、
前記加熱部の前後で分岐され、加熱前後の溶液中の前記配位子の量を検出する検出部と、
前記検出部で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御部と、
前記制御部に従い配位子溶液を供給する配位子供給部と、
を備える、半導体ナノ粒子の製造装置。
【請求項2】
前記検出部は、
原料溶液、加熱部で生成された化合物溶液中の配位子の分子量に対応するピークのピーク強度の差分を評価する機構を含み、
前記制御部は、
前記検出部にて検出した値に基づき配位子を導入する量を制御する機構を含み、
前記配位子供給部は、
前記加熱部に並列に設けられ、
前記加熱部で生成された化合物溶液へ合流する形で接続され、
前記制御部に応じて配位子を供給する機構を含む、
請求項1に記載の半導体ナノ粒子の製造装置。
【請求項3】
水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子を合成する半導体ナノ粒子の製造方法であって、
前記原料溶液を供給する原料供給する工程と、
前記原料溶液を加熱する工程と、
前記加熱工程の前後の溶液を分取し、分取した前後の溶液中のそれぞれの配位子の量を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御工程と、
前記制御工程に従い配位子溶液を供給する配位子供給工程と、
を含む、半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記検出工程は、
原料溶液、加熱部で生成された化合物溶液中の配位子の分子量に対応するピークのピーク強度の差分を評価する工程を含み、
前記制御工程は、
前記検出工程にて検出した値に基づき配位子を導入する量を制御する工程を含み、
前記配位子供給工程は、
前記加熱工程で生成された化合物溶液へ前記制御工程に応じて配位子を供給する工程を含む、
請求項3に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記配位子は、水溶性であり、メルカプト基またはジスルフィド基を含む、
請求項3または4に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記原料溶液は、カドミウムを含まない、
請求項3または4に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記検出工程にて
前記原料溶液の配位子に起因するピークのピーク強度Ipreに対し、前記加熱工程で生成された化合物溶液の配位子に起因するピークのピーク強度Iheatの比率Iheat/Ipreは、0.8以上である、
請求項3または4に記載のフロー合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体ナノ粒子の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子は、化学合成によって製造されるナノメートルサイズの微結晶であり、バルク材料とは異なり、バンドギャップエネルギーなどの物理量が粒子径に応じて調整できる特徴を持つ。量子ドットとも呼ばれる半導体ナノ粒子は、その量子サイズ効果により、材料組成だけでなく、粒子径に応じてもバンドギャップエネルギー、つまり、発光波長を調整できる次世代の発光材料として注目されている。
【0003】
また、半導体ナノ粒子は、上記以外の発光特性として、蛍光体や蛍光色素とは異なり、半値幅が狭いことが特徴に挙げられる。半値幅に影響する物性としては大きく2つ挙げられる。1つ目は、前述したとおり粒子径に応じて発光波長を調整できるため、その粒子径分布が半値幅に寄与することである。2つ目は、結晶欠陥が少ないことである。結晶欠陥がある場合、欠陥準位が生成され、本来のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーでエネルギーが放出される。その欠陥準位が多数あれば、様々な準位でエネルギーが放出されるため、半値幅が広くなる。
【0004】
従来、半導体ナノ粒子の製造方法としては、ナノ粒子を構成する元素のイオン源を有機溶媒中で反応させるいわゆるホットソープ法が知られている。しかし、バイオイメージング、バイオアッセイなどのバイオサイエンス分野への適用のためには、半導体ナノ粒子の分散剤として、半導体ナノ粒子の周囲に結合している有機配位子を、水溶性配位子へ置換する工程や両親媒性ポリマーでのコーティング工程が必要となり、工程が繁雑となる。
【0005】
これに対し、水熱合成法による半導体ナノ粒子の開発も検討されている。すなわち、ナノ粒子を構成するイオン源と水溶性配位子とを水溶液中に溶解させ、密閉容器で加熱することにより各イオン源を反応させて半導体ナノ粒子を合成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法(特許文献1)では、半導体ナノ粒子の分散剤として用いる水溶性配位子が熱分解されやすい温度で加熱する必要があり、半導体ナノ粒子の形成過程で配位子濃度が変動し、粒子径や組成、分散性の制御が困難であるという課題がある。また、従来、カドミウムを含む半導体ナノ粒子が存在するが、安全性の点でカドミウムの使用を避けることが求められている。
【0008】
本開示は、前記従来の課題を解決するもので、カドミウムフリーで発光特性、分散性の高い半導体ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示に係る半導体ナノ粒子の製造装置は、水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子をフロー合成する半導体ナノ粒子の製造装置であって、原料溶液を供給する原料供給部と、原料供給部に直列に接続され、原料溶液を加熱する加熱部と、加熱部の前後で分岐され、加熱前後の溶液中の配位子の量を検出する検出部と、検出部で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御部と、制御部に従い配位子溶液を供給する配位子供給部と、を備える。
【0010】
また、本開示に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子を合成する半導体ナノ粒子の製造方法であって、原料溶液を供給する原料供給する工程と、原料溶液を加熱する工程と、加熱工程の前後の溶液を分取し、分取した前後の溶液中のそれぞれの配位子の量を検出する検出工程と、検出工程で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御工程と、制御工程に従い配位子溶液を供給する配位子供給工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本開示に係る半導体ナノ粒子の製造装置によれば、凝集を抑制すると共に,粒子径バラツキの抑制と分散性の高い半導体ナノ粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る半導体ナノ粒子の製造装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る半導体ナノ粒子の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の態様に係る半導体ナノ粒子の製造装置は、水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子をフロー合成する半導体ナノ粒子の製造装置であって、原料溶液を供給する原料供給部と、原料供給部に直列に接続され、原料溶液を加熱する加熱部と、加熱部の前後で分岐され、加熱前後の溶液中の配位子の量を検出する検出部と、検出部で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御部と、制御部に従い配位子溶液を供給する配位子供給部と、を備える。
【0014】
第2の態様に係る半導体ナノ粒子の製造装置は、上記第1の態様において、検出部は、原料溶液、加熱部で生成された化合物溶液中の配位子の分子量に対応するピークのピーク強度の差分を評価する機構を含み、制御部は、検出部にて検出した値に基づき配位子を導入する量を制御する機構を含み、配位子供給部は、加熱部に並列に設けられ、加熱部で生成された化合物溶液へ合流する形で接続され、制御部に応じて配位子を供給する機構を含んでもよい。
【0015】
第3の態様に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、水溶性の配位子、カチオン源、アニオン源を含む原料溶液から半導体ナノ粒子をフロー合成する半導体ナノ粒子の製造方法であって、原料溶液を供給する原料供給する工程と、原料溶液を加熱する工程と、加熱工程の前後の溶液を分取し、分取した前後の溶液中のそれぞれの配位子の量を検出する検出工程と、検出工程で検出された結果に基づき配位子の量を制御する制御工程と、制御工程に従い配位子溶液を供給する配位子供給工程と、を含む。
【0016】
第4の態様に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、上記第3の態様において、検出工程は、原料溶液、加熱部で生成された化合物溶液中の配位子の分子量に対応するピークのピーク強度の差分を評価する工程を含み、制御工程は、検出工程にて検出した値に基づき配位子を導入する量を制御する工程を含み、配位子供給工程は、加熱工程で生成された化合物溶液へ制御工程に応じて配位子を供給する工程を含んでもよい。
【0017】
第5の態様に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、上記第3又は第4の態様において、配位子は水溶性であり、メルカプト基またはジスルフィド基を含んでもよい。
【0018】
第6の態様に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、上記第3から第5のいずれかの態様において、原料溶液は、カドミウムを含まなくてもよい。
【0019】
第7の態様に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、上記第3から第6のいずれかの態様において、検出工程にて原料溶液の配位子に起因するピークのピーク強度Ipreに対し、加熱工程で生成された化合物溶液の配位子に起因するピークのピーク強度Iheatの比率Iheat/Ipreは、0.8以上であってもよい。
【0020】
以下、実施の形態に係る半導体ナノ粒子の製造装置および製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係る半導体ナノ粒子の製造装置の構成を示す概略図である。また、
図2は、半導体ナノ粒子の製造方法のフローチャートである。
図1および
図2に示すように、本実施の形態1に係る半導体ナノ粒子の製造装置は、原料供給部と、加熱部と、検出部と、制御部と、配位子供給部と、を備える。原料供給部は、原料溶液タンク101と送液ポンプ103とを有し、原料溶液11を供給する。加熱部は、原料供給部の送液ポンプ103に直列に接続され、加熱装置106と加熱リアクタ107とを有し、原料溶液11を加熱する。検出部は、加熱部の加熱装置の前後で分岐され、分取するためのT字ミキサ104、開閉弁105、加熱後の溶液を冷却するための冷却装置108、冷却リアクタ109、分子量評価装置110、を有し、加熱前後の溶液中の配位子の量を検出する。制御部は、演算装置111、制御装置112を有する。配位子供給部は、配位子溶液タンク102、送液ポンプを有する。制御部は、検出部で検出された結果に基づき、配位子供給部によって配位子の量を制御する。
【0022】
また、実施の形態1に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、
図2に示すように、原料溶液送液前の原料溶液準備工程P1と、原料供給工程P2と、原料溶液の加熱工程P3と、検出工程P4と、配位子供給工程P5と、回収するための冷却工程P6と、を含む。
半導体ナノ粒子の製造方法について、上記半導体ナノ粒子の製造装置との関連で説明すると、原料供給工程P2として、原料溶液タンク101と送液ポンプ103とを備える。原料溶液の加熱工程P3として、加熱装置106と加熱リアクタ107とを備える。検出工程P4として、分取するためのT字ミキサ104、開閉弁105、加熱後の溶液を冷却するための冷却装置108、冷却リアクタ109、分子量評価装置110、演算装置111、制御装置112を備える。また、配位子供給工程P5として、配位子溶液タンク102、送液ポンプを備える。そして、回収するための冷却工程P6として、冷却装置108、冷却リアクタ109、背圧弁113を備える。
【0023】
以下に、この半導体ナノ粒子の製造方法の各工程について説明する。
【0024】
原料溶液準備工程P1は、水溶性の配位子、原料となるカチオン源、アニオン源の化合物をそれぞれ水と混合し、原料溶液11を準備する工程である。
図1では、原料溶液11は、水溶性の配位子水溶液、カチオン源水溶液、アニオン源水溶液のすべてを混合後の前駆体溶液を図示しているが、それぞれの水溶液を準備し、それぞれのタンクと送液ポンプとを備え、T字ミキサ等の混合装置で順次、混合後、加熱工程へ供給することもできる。
【0025】
水溶性の配位子は、水溶性でメルカプト基(チオール基:-SH)又はジスルフィド基(-S-S-)を含む。また、特に制限はされないが、カルボン酸やアミンおよびアミド、水酸基、スルホン酸などの水溶性官能基を1つ以上含む材料が好ましい。配位子としては、例えば、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオ乳酸、メルカプトエタノール、チオグリセリン、アミノエタンチオール、メルカプトプロパンスルホン酸、N-アセチル-L-システイン、L-システイン、システアミン、リポ酸、トリアジンチオール類などを用いることができる。また、これら1種類ではなく、複数種類の組み合わせも用いることができる。
【0026】
カチオン源は、水溶性でカドミウムを含まなければよく、特に制限はされないが、例えば、亜鉛、インジウム、銅、銀、ガリウム、マグネシウムなどを用いることができ、これら一種類でなく、複数種類の組み合わせも用いることができる。また、そのカチオン源の原料としては、前述のカチオン源の塩化物、臭化物、硫化物、酢酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩などを用いることができる。これによってカドミウムフリーとすることができる。
【0027】
アニオン源は、水溶性であれば、特に制限はされないが、例えば、硫黄、セレン、テルルなどを用いることができ、これら一種類ではなく、複数種類の組み合わせも用いることができる。また。そのアニオン源の原料としては、前述のアニオン源とのナトリウム塩、カリウム塩、水素化ナトリウム塩、水素化カリウム塩、また、金属セレン、テルルを還元剤で還元させた溶液などを用いることができる。
【0028】
原料供給工程P2は、原料溶液11を加熱工程P3へ供給する工程である。前述の通り、原料となる水溶性配位子、カチオン源、アニオン源をすべて混合した原料溶液11を送液ポンプにて加熱工程へ供給する。配位子、カチオン源、アニオン源それぞれの水溶液を送液ポンプで供給し、T字ミキサなどにより順次混合し、加熱工程へ供給することもできる。ただし、その場合、先に配位子とカチオン源を混合し、アニオン源と混合する必要がある。先にカチオン源とアニオン源を混合した場合、即時に析出物が発生し、半導体ナノ粒子を製造することができない。
原料供給タンク101、送液ポンプ103は、特に制限はされないが、必要な流量や圧力に応じて、選定する必要がある。
【0029】
加熱工程P3は、原料供給工程P2から供給された連続流路である加熱リアクタ107内の溶液を加熱装置106にて加熱する工程である。この工程で半導体ナノ粒子が形成される。
P3における加熱温度は、半導体ナノ粒子が形成される温度であれば、特に制限はされないが、例えば、100℃以上200℃以下とすることができる。
また加熱時間は、原料供給濃度や流量、加熱リアクタの長さにより調整することができ、半導体ナノ粒子が形成される時間、かつ目的のサイズに成長できる時間であれば、特に制限はされないが、例えば、0.01分(0.6秒)以上40分以下とすることができる。
【0030】
検出工程P4は、連続流路内の原料溶液の加熱リアクタの前後に分岐できるT字ミキサ104の先にある開閉弁105を開けることによって、その溶液を採取し、配位子の分子量を分子量評価装置110にて検出し、演算装置111と制御装置112とにより必要に応じて配位子供給工程へフィードバックをする工程である。
分子量評価装置110は、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法などが挙げられる。加熱前の配位子に起因する分子量に対応するピークのピーク強度Ipreと加熱後の配位子に起因する分子量に対応するピークのピーク強度Iheatを検出し、演算装置により、それらの比率Iheat/Ipreが0.8以下となれば、配位子供給量を計算し、制御装置によりフィードバックすることができる。
【0031】
配位子供給工程P5は、検出工程P4のフィードバックに応じて配位子溶液を供給する工程である。
配位子供給タンク102、送液ポンプ103は、特に制限はされないが、必要な流量や圧力に応じて、選定する必要がある。加熱工程P3にて加熱された連続流路内へT字ミキサ104を通して供給、混合することができる。
【0032】
冷却工程P6は、加熱工程P3にて加熱された連続流路内の溶液を冷却リアクタ109内の溶液を冷却装置108にて冷却することで半導体ナノ粒子成長をとめる工程である。
冷却工程P6における冷却温度は、半導体ナノ粒子の成長を止めることができる温度であれば、特に制限されないが、例えば、冷却温度は0℃以上5℃以下とすることができる。
また、冷却時間は、半導体ナノ粒子の成長を止めることができる時間であれば、特に制限されないが、例えば、0.1分(6秒)以上10分以下とすることができる。
【0033】
以下、発明者らが行った実験における実施例および比較例について説明する。
【0034】
(実施例)
以下の製造方法によって半導体ナノ粒子を製造した。配位子としてN-アセチル-L-システイン、カチオン源として亜鉛、アニオン源としてテルルを選択した。
【0035】
<原料溶液準備工程P1>
(1)窒素雰囲気下で超純水を攪拌し、溶存する酸素濃度が0.2mg/Lであることを確認し、以降の工程をすべて窒素雰囲気下で行った。
(2)亜鉛イオン源の作製として塩化亜鉛(関東化学製、特級)とN-アセチル-L-システイン(キシダ化学製、特級)を前記超純水へ溶解させた。
(3)その後、水酸化カリウム(和光純薬製、特級)にてZnイオン溶液のpHを調整した。
(4)次に、Teイオン源の作製として、テルル化水素ナトリウムを溶解させ、Teイオン源を作製した。
(5)その後、Znイオン溶液へTeイオン源の量を調整して添加し、塩酸(関東化学、特級)にて前駆体溶液のpHを調整し、原料溶液を作製した。
(6)また、配位子供給用溶液として、N-アセチル-L-システイン(キシダ化学製、特級)を前記超純水へ溶解した。
【0036】
<原料供給工程P2>
原料溶液を密閉容器に入れ、プランジャーポンプにて供給した。流量は2.0ml/minとした。
【0037】
<加熱工程P3>
加熱装置を190℃に設定し、上記原料溶液を加熱リアクタにて加熱時間を4分として、加熱を実施した。
【0038】
<検出工程P4>
連続流路の加熱リアクタ前の開閉弁を開にすることで溶液を採取し、原料溶液内の配位子の分子量に対応するピークを評価した。次に、加熱リアクタ前の開閉弁を閉とし、加熱リアクタ後の開閉弁を開にすることで溶液を採取し、加熱後の配位子の分子量に対応するピークを評価した。
それらの結果から演算装置にて加熱前後の配位子の分子量に対応するピークの比率を算出した結果0.78であった。
【0039】
<配位子供給工程P5>
P4で得られた結果からのフィードバックを受けた結果、配位子溶液を流量0.2ml/minで供給した。
【0040】
<冷却工程P6>
冷却装置を0度に設定し、上記加熱後の溶液を冷却リアクタにて冷却時間を1分として、冷却を行った。
以上の工程によって、実施例に係る半導体ナノ粒子を得た。得られた溶液は透明であった。
【0041】
<発光特性評価>
得られた反応溶液の発光スペクトルを量子効率測定システム(QE-2000:大塚電子株式会社製)にて測定し、発光を確認できた。実施例に係る半導体ナノ粒子では、発光スペクトルのピーク波長、半値幅(発光ピークの半値全幅)は、それぞれ488nm、38.9nmであった。
【0042】
<吸収スペクトル評価>
得られた反応溶液の吸収スペクトルを紫外可視光分光光度計(UV-mini-1240:株式会社島津製作所製)にて測定した。525nmでの吸光度は0.005であった。
【0043】
(比較例)
実施例における配位子供給工程P4において、配位子溶液を供給しなかったことを除いて、実施例に記載の内容と同様である。加熱前後の分子量に対応するピークのピーク強度の比は、0.78であった。
【0044】
<発光特性評価>
実施例と同様に発光特性を測定し、発光を確認できた。実施例に係る半導体ナノ粒子では、発光スペクトルのピーク波長、半値幅(発光ピークの半値全幅)は、それぞれ488nm、41.4nmであった。
【0045】
<吸収スペクトル評価>
実施例と同様に吸収スペクトルを測定した。525nmでの吸光度は0.010であった。
【0046】
実施例、比較例を比較すると加熱前後の配位子の分子量に対応するピークの比率は、いずれも0.7以下となっており、配位子量が減少している。これは、配位子が加熱により熱分解しており、配位子の分散剤としての機能が低減していることを意味している。これに対して、実施例では配位子溶液を供給することにより、分散性が向上し、吸光度が低下したと考えられる。
それに伴い、同様の発光ピーク波長においても半値幅が低減していることが分かる。
以上のことから、実施例に係る半導体ナノ粒子のいずれにおいても、分散性が高く、半値幅は狭い半導体ナノ粒子を合成することが可能である。
【0047】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本開示に係る半導体ナノ粒子の製造装置および製造方法によれば、凝集を抑制すると共に,粒子径バラツキの抑制と分散性の高い半導体ナノ粒子を提供でき、高いS/Nでバイオイメージングやバイオアッセイに用いることができる。本開示に係る半導体ナノ粒子は、バイオ用途以外のセンサやディスプレイの発光材料用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0049】
11 原料溶液
12 配位子溶液
101 原料溶液タンク
102 配位子溶液タンク
103 送液ポンプ
104 T字ミキサ
105 開閉弁
106 加熱装置
107 加熱リアクタ
108 冷却装置
109 冷却リアクタ
110 分子量評価装置
111 演算装置
112 制御装置
113 背圧弁
P1 原料準備工程
P2 原料供給工程
P3 加熱工程
P4 評価工程
P5 配位子供給工程
P6 冷却工程