(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158393
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20241031BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20241031BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20241031BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20241031BHJP
C10M 135/36 20060101ALN20241031BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20241031BHJP
C10M 133/56 20060101ALN20241031BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20241031BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20241031BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20241031BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241031BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241031BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M137/10 A
C10M137/04
C10M135/36
C10M133/16
C10M133/56
C10M133/12
C10M129/10
C10N10:12
C10N10:04
C10N30:06
C10N40:02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073551
(22)【出願日】2023-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB05C
4H104BE07C
4H104BE11C
4H104BF03C
4H104BG19C
4H104BH03C
4H104BH07C
4H104DA02A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性、耐摩耗性を奏する潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、鉱物油を含む基油と、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)を含む摩擦調整剤と、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤と、ジンクチオフォスフェート(ZnDTP)を含む摩耗防止剤と、コハク酸イミドを含む分散剤と、カルシウム系清浄剤と、を含有する、潤滑油組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油を含む基油と、
モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)を含む摩擦調整剤と、
リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤と、
ジンクチオフォスフェート(ZnDTP)を含む摩耗防止剤と、
コハク酸イミドを含む分散剤と、
カルシウム系清浄剤と、を含有する、
潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤を含有する、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記MoDTPの含有量は、組成物100質量%に対して1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲である、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記リン酸エステル及び前記チアジアゾールの合計含有量は、組成物100質量%に対して0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲である、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記ZnDTPの含有量は、組成物100質量%に対して1.0質量%以上5.0量%以下の範囲である、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記コハク酸イミドの含有量は、組成物100質量%に対して0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲である、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記カルシウム系清浄剤の含有量は、組成物100質量%に対して0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲である、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性を有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械や自動車において、エンジン、変速機、減速機、圧縮機、油圧装置等の各種装置には、潤滑油組成物が用いられている。例えば、減速機をみても、造船(タワークレーン等の減速機)、製鉄(各種クレーン、コンベア、ミキサー、圧延機等の減速機、ウォームギヤ)、パルプ製紙(抄紙機、フロアコンベア、ドライヤー等の減速機)、窯業セメント(クラッシャー、ボールミル、ペレタイザー、キルン、コンベア等の減速機)、ゴム、ビニール(ロール軸受、スパー、へベル、ヘルカル、ウォーム等の減速機)、石炭(選炭ベルトコンベア、アンローダの減速機)、電力(バウルミルの減速機)、その他(岸壁荷上機・アンローダ、コンベア、水平引き込み等の減速機)などの種々の産業機械を構成する装置に、潤滑油組成物が用いられている。
【0003】
近年、上述した産業用機械や自動車の高性能化の要求に伴い、その様々な要求に対応し得る潤滑油組成物が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、低粘度化に伴う省燃費性に加え、低摩耗と低摩擦とを両立させることを課題として、潤滑油基油に対して、チアジアゾールを含む金属不活性化剤と、アミン系摩擦調整剤とを特定量で配合させた潤滑油組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、低粘度化に伴う省燃費性に加えて、低摩耗と差動部耐焼き付性とを両立させることを課題として、潤滑油基油に対して、粘度指数向上剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び無灰分散剤からなる各種の添加剤を配合させた潤滑油組成物が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの先行文献には、幅広い温度領域において安定的に低摩擦性、耐摩耗性を発揮することに関する技術課題については開示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-165528号公報
【特許文献2】特開2021-080429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性を奏する潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、鉱物油を含む基油に対して、特定の添加剤を組み合わせて配合することで、幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、鉱物油を含む基油と、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)を含む摩擦調整剤と、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤と、ジンクチオフォスフェート(ZnDTP)を含む摩耗防止剤と、コハク酸イミドを含む分散剤と、カルシウム系清浄剤と、を含有する、潤滑油組成物である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、さらに、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤を含有する、潤滑油組成物である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は2の発明において、前記MoDTPの含有量は、組成物100質量%に対して1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲である、潤滑油組成物である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記リン酸エステル及び前記チアジアゾールの合計含有量は、組成物100質量%に対して0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲である、潤滑油組成物である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記ZnDTPの含有量は、組成物100質量%に対して1.0質量%以上5.0量%以下の範囲である、潤滑油組成物である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記コハク酸イミドの含有量は、組成物100質量%に対して0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲である、潤滑油組成物である。
【0016】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記カルシウム系清浄剤の含有量は、組成物100質量%に対して0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲である、潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性を有する潤滑油組成物を提供することができる。例えば、産業機械の軸受や摺動部等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例12、比較例5及び6の潤滑油組成物のSRV試験結果のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0020】
≪1.潤滑油組成物≫
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、鉱物油を含む基油と、各種の添加剤成分とを含有する潤滑油組成物である。特に、SRV試験の評価において、40℃~120℃の広い温度領域に亘って、優れた低摩擦性、耐摩耗性を発揮するものである。したがって、例えば、産業機械の軸受や摺動部等に好適に用いることができる。
【0021】
具体的に、本実施の形態に係る潤滑油組成物は、鉱物油を含む基油と、モリブデンジチオフォスフェートを含む摩擦調整剤と、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤と、ジンクチオフォスフェートを含む摩耗防止剤と、コハク酸イミドを含む分散剤と、カルシウム系清浄剤と、を含有する、ことを特徴とする。
【0022】
また、好ましくは、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及びチオフェノール系酸化防止剤からなる群から選択される1種以上の酸化防止剤を含有する。
【0023】
このような潤滑油組成物によれば、後述する実施例でも明確に示すように、幅広い温度領域において安定的に優れた低摩擦性、耐摩耗性を発揮する。
【0024】
[基油]
基油(潤滑油基油)は、潤滑油組成物の主成分をなすものである。本実施の形態に係る潤滑油組成物では、基油として鉱物油を含有する。
【0025】
鉱物油とは、天然の原油から分離、蒸留、精製されて得られる油である。鉱物油としては、特に限定されず、例えば、液体石油、パラフィン系、ナフテン系、あるいは混合パラフィン/ナフテン系の溶媒処理又は酸処理されたものを用いることができる。なお、このような鉱物油は、一般的に合成油よりも安価であり、基油として鉱物油を用いることで、安価に潤滑油組成物を製造することができる。
【0026】
鉱物油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、潤滑油組成物の有利な効果を損なわない範囲で、合成油を混合してもよい。
【0027】
基油の含有量は、特に限定されないが、例えば、組成物全量(100質量%)に対して70質量%以上90質量%以下程度とすることができる。なお、複数種類の基油を混合して配合する場合、その合計含有量が上述した範囲となるようにする。
【0028】
[摩擦調整剤]
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)を含む摩擦調整剤を含有する。MoDTPは、硫黄を含有する有機モリブデン化合物であり、摩擦調整剤として作用する。MoDTPは、塗布した摩擦面における摩擦によって、層状構造の結晶からなる二硫化モリブデン(Mo2S)の被膜(Mo膜)を形成させ、その被膜により摩擦を低減する。この潤滑油組成物では、摩擦調整剤としてMoDTPを含有することにより、優れた低摩擦性、耐摩耗性を発揮する。
【0029】
摩擦調整剤であるMoDTPの含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して1.0質量%以上5.0質量%以下の割合とすることが好ましい。
【0030】
なお、摩擦調整剤としては、MoDTPに加えて、他の種類の化合物を併用してもよい。他の種類の摩擦調整剤としては、例えば、有機モリブデン化合物であるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の金属摩擦調整剤や、アミン系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、エーテル系摩擦調整剤、イミド系摩擦調整剤等の金属を有しない有機摩擦調整剤が挙げられる。
【0031】
[極圧剤]
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤を含有する。このように、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤を含有することによりで、優れた低摩擦性、耐摩耗性を発揮する。
【0032】
リン酸エステル(リン酸エステル系極圧剤)としては、種々のものを用いることができるが、その中でも、トリクレジルフォスフェートを用いることが好ましい。このようなリン酸エステルを用いることで、極圧性を有効に向上させることができる。なお、リン酸エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
チアジアゾールとしては、種々のもの用いることができる。例えば、2,5-(tert-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-デシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ウンデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ドデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-トリデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-テトラデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ペンタデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ヘキサデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ヘプタデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-オクタデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-(tert-ノナデシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールまたは2,5-(tert-エイコシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、およびこれらのオリゴマー及び混合物が挙げられる。なお、チアジアゾールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
極圧剤であるリン酸エステルの含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して0.5質量%以上4.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。また、チアジアゾールの含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0035】
また、潤滑油組成物において、極圧剤であるリン酸エステル及びチアジアゾールの合計含有量としては、組成物全量(100質量%)に対して0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0036】
[摩耗防止剤]
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、ジンクチオフォスフェート(ZnDTP)を含む摩耗防止剤を含有する。ZnDTPは、下記一般式で表される化合物であり、摩耗防止剤(耐摩耗剤)として作用する。ZnDTPは、塗布した摩擦面における摩擦により、リン酸亜鉛の被膜(Zn膜)を形成させ、その被膜により摩耗を低減する。この潤滑油組成物では、摩耗防止剤としてZnDTPを含有することにより、優れた低摩擦性、耐摩耗性を発揮する。
【0037】
【0038】
上記の一般式において、R1~R4は炭化水素基(アルキル基)であり、同一であっても異なるものであってもよい。例えば、R1~R4としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第2級ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、4-メチルペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、ヘキサデシルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ベンジル基が挙げられる。
【0039】
摩耗防止剤であるZnDTPの含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0040】
なお、摩擦調整剤としては、ZnDTPに加えて、他の種類の化合物を併用してもよい。他の種類の摩擦調整剤としては、例えば、有機リン化合物が挙げられる。
【0041】
[分散剤]
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、コハク酸イミドを含む分散剤を含有する。コハク酸イミドを含む分散剤は、組成物を構成する添加剤を基油中に良好に分散させることができ、低摩擦性、耐摩耗性を向上させる。また、コハク酸イミドは、摩耗防止性を向上させるようにも作用する。
【0042】
コハク酸イミドとしては、例えば、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加したモノタイプコハク酸イミド、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加しビスタイプコハク酸イミドが挙げられる。また、モノタイプコハク酸イミドやビスタイプコハク酸イミドをホウ素変性させたホウ素化コハク酸イミドを用いることができる。
【0043】
具体的に、コハク酸イミドは、例えば、炭素数40~400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100~200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0044】
分散剤であるコハク酸イミドの含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0045】
[清浄剤]
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、カルシウム系清浄剤を含有する。カルシウム系清浄剤は、潤滑油組成物を塗布する塗布面(金属面)の汚れ(スラッジ、デポジット等)を除去し、またそれら汚れの付着を防止して清浄化する機能を有する。これにより、この潤滑油組成物を構成する上述した添加剤による低摩擦性、耐摩耗性をより一層に向上させることができる。
【0046】
カルシウム系清浄剤としては、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレート等が挙げられる。これらのカルシウム系清浄剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。その中でも特に、カルシウム系清浄剤は、過塩基性のカルシウムサリシレートであることが好ましい(塩基価が150~500mgKOH/g、特には250~500mgKOH/g)。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保することができる。
【0047】
カルシウム系清浄剤の含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
なお、清浄剤としては、カルシウム系清浄に加えて、他の種類の清浄剤を併用してもよい。他の種類の清浄剤としては、過塩基性のマグネシウム系清浄剤等が挙げられる。
【0049】
[酸化防止剤]
必須の構成ではないが、本実施の形態に係る潤滑油組成物においては、さらに酸化防止剤を含有させることができる。酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、チオフェノール系酸化防止剤等が挙げられ、これらの1種以上を含有させることができる。
【0050】
酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、組成物全量(100質量%)に対して0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
(アミン系酸化防止剤)
アミン系酸化防止剤としては、特に限定されないが、芳香族アミン系酸化防止剤を用いることが好ましい。芳香族アミノ酸系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化ナフチルアミンが挙げられる。潤滑油組成物においては、1種単独で用いてもよく、2種以上を屏東してもよい。例えば、芳香族アミン系酸化防止剤であるアルキル化ジフェニルアミン及びアルキル化ナフチルアミンを組み合わせにて含有させてもよい。
【0052】
アルキル化ジフェニルアミンとしては、オクチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミン等が挙げられる。例えば、オクチル化ジフェニルアミンとしては、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン等が挙げられる。また、オクチル、ブチル混合化ジフェニルアミンを使用することもできる。
【0053】
アルキル化ナフチルアミンとしては、例えば、N-フェニル-1,1,3,3-テトラメチルブチルナフタレン-1-アミン、フェニル-1-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0054】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、種々のものを用いることができる。例えば、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、6-メチルヘプチル-3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、2,6-di-tert-ブチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3’,5’-di-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等を用いることができる。
【0055】
(チオフェノール系酸化防止剤)
チオフェノール系酸化防止剤としては、種々のものを用いることができる。例えば、チオジエチレンビス[3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0056】
[その他の添加剤]
なお、上述した成分のほかに、その目的に応じて、各種の添加剤をさらに配合させることができる。例えば、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、油性剤等を添加することができる。これら各種の添加剤の含有量は、それぞれ要求される性能に応じて任意に定めることができるが、上述した構成成分の性能を損なわない範囲とする。
【0057】
[潤滑油組成物の動粘度]
本実施の形態に係る潤滑油組成物の動粘度は、特に限定されず、広範な範囲の動粘度を取り得て、有効に作用し得る。
【0058】
≪2.潤滑油組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、一般的な潤滑油剤組成物の製造方法と同様にして製造することができる。
【0059】
具体的には、例えば、鉱物油からなる基油中に、上述した各添加剤成分を所定量添加配合させて撹拌混合する。撹拌に際しては、公知の撹拌機等を用いることができる。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
≪潤滑油組成物の製造≫
実施例、比較例において、下記表1に示す組成となるように潤滑油組成物を製造し、その潤滑油組成物についてSRV試験を行い、低摩擦性、耐摩耗性の評価を行った。
【0062】
具体的には、下記表1に示す各成分原料(単位:質量%)を秤量してスリーワンモーターで混合した。潤滑油組成物の成分原料はそれぞれ以下のものを用いた。
【0063】
[基油]
・鉱物油A:商品名スーパーオイルB100(ENEOS社製)
・鉱物油B:商品名スーパーオイルB460(ENEOS社製)
[摩擦調整剤]
・MoDTP-A:商品名アデカサクラルーブ310G(ADEKA社製)
・MoDTP-B:商品名アデカサクラルーブ300(ADEKA社製)
・MoDTP-C:商品名MOLYVAN L(バンダービルト社製)
・MoDTP-D:商品名ADDITIN RC3580(ランクセス製)
[極圧剤]
・リン酸エステルA:商品名TCP(大八化学社製)
・リン酸エステルB:商品名レオフォス50(味の素ファインテクノ製)
・リン酸エステルC:商品名レオフォス65(味の素ファインテクノ製)
・リン酸エステルD:商品名レオフォス95(味の素ファインテクノ製)
・チアジアゾール:商品名HiTEC4313(アフトン社製)
[摩耗防止剤]
・プライマリータイプZnDTP:
商品名ADDITIN RC3048(ランクセス社製)
・セカンダリータイプZnDTP:商品名HiTEC7169(アフトン社製)
・メチレンビスジチオカーバメート:VANLUBE7723(バンダービルト社製)
[分散剤]
・ビスタイプコハク酸イミド:商品名OLOA5080(シェブロン社製)
・ホウ素化コハク酸イミド:商品名LUBRIZOL935(ルーブリゾール社製)
[酸化防止剤]
・アミン系酸化防止剤:商品名IRGANOX L57(BASF社製)
・フェノール系酸化防止剤:商品名IRGANOX L135(BASF社製)
【0064】
≪低摩擦性、耐摩耗性の評価≫
上述したように、実施例、比較例の潤滑油組成物について以下の条件でSRV試験を行い、低摩擦性、耐摩耗性の評価を行った。
[SRV試験条件]
テストピース:上部 Φ15×22mmシリンダ(材質SUJ-2相当)
下部 Φ24×7.85mmディスク(材質SUJ-2相当)
荷重:400N
振動数:50Hz
振幅:1.5mm
温度:40℃、60℃、80℃、100℃、120℃
時間:各温度で5分
摩擦係数:各温度で5分後の安定した値
【0065】
≪結果≫
下記表1に、実施例、比較例の潤滑油組成物の組成と、評価結果を示す。また、
図1は、実施例12、比較例5及び6の潤滑油組成物のSRV試験結果のグラフ図であり、横軸が温度(℃)、縦軸が摩擦係数を示す。
【0066】
【0067】
上記表1及び
図1に示した、実施例、比較例の結果から、実施例の潤滑油組成物のように、鉱物油を含む基油と、モリブデンジチオフォスフェートを含む摩擦調整剤と、リン酸エステルと、チアジアゾールとを含む極圧剤と、ジンクチオフォスフェートを含む摩耗防止剤と、コハク酸イミドを含む分散剤と、カルシウム系清浄剤と、を含有する潤滑油組成物であることにより、SRV試験の評価において40℃~120℃の広い温度領域に亘って低摩擦性、耐摩耗性を発揮することがわかった。