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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158399
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】圧電膜積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20241031BHJP
   H10N 30/00 20230101ALI20241031BHJP
   H10N 30/01 20230101ALI20241031BHJP
   H10N 30/076 20230101ALI20241031BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20241031BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20241031BHJP
   H10N 30/85 20230101ALI20241031BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/00
H10N30/01
H10N30/076
H10N30/30
H10N30/079
H10N30/85
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073561
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
(57)【要約】
【課題】異常粒に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制できる圧電膜積層体を提供する。
【解決手段】Si基板11と、Si基板11の一面11a上に形成された下層ScAlN膜13と、下層ScAlN膜13におけるSi基板11と反対側の一面13aの上に形成され、アモルファス膜で構成された中間層14と、中間層14における下層ScAlN膜13と反対側の一面14aの上に形成された上層ScAlN膜15と、を有した圧電膜積層体とし、下層ScAlN膜13の一面13aにおける最大高さRz2が、中間層14の膜厚より小さく、下層ScAlN膜13の膜厚の14%未満になっている。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜積層体であって、
基材(11)と、
前記基材の一面(11a)上に形成された下層ScAlN膜(13)と、
前記下層ScAlN膜における前記基材と反対側の一面(13a)の上に形成された中間層(14)と、
前記中間層における前記下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に形成された上層ScAlN膜(15)と、を有し、
前記下層ScAlN膜の前記一面における最大高さ(Rz2)は、前記中間層の膜厚より小さく、前記下層ScAlN膜の膜厚の14%未満になっている、圧電膜積層体。
【請求項2】
前記中間層は、アモルファス膜である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項3】
前記アモルファス膜は、SiN膜、TEOS膜、シリコン酸化膜、HfOx膜、Mo酸化膜、Al膜のいずれか1つもしくは複数によって構成されている、請求項2に記載の圧電膜積層体。
【請求項4】
前記アモルファス膜は、導電性である、請求項2に記載の圧電膜積層体。
【請求項5】
前記基材と前記下層ScAlN膜との間に形成された第1電極膜(31)と、
前記下層ScAlN膜と前記上層ScAlN膜との間に形成された第2電極膜(32)と、
前記上層ScAlN膜における前記中間層と反対側の一面(15a)の上に形成された第3電極膜(33)と、を備えている、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項6】
前記第1電極膜、前記第2電極膜、前記第3電極膜は、Pt、Mo、Ti、W、Ruのいずれか1層もしくは複数層によって構成されている、請求項5に記載の圧電膜積層体。
【請求項7】
前記下層ScAlN膜に含まれるScの濃度は、24原子%~43原子%である、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
【請求項8】
圧電膜積層体の製造方法であって、
基材(11)を用意することと、
前記基材の一面(11a)上に下層ScAlN膜(13)を形成することと、
前記下層ScAlN膜における前記基材と反対側の一面(13a)を平坦化することと、
前記下層ScAlN膜の前記一面の上に中間層(14)を形成することと、
前記中間層における前記下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に上層ScAlN膜(15)を形成することと、を有し、
前記中間層を形成することでは、該中間層の膜厚を、前記平坦化することの前における前記下層ScAlN膜の前記一面の最大高さ(Rz2)より小さく、前記平坦化することの後における前記下層ScAlN膜の前記一面の最大高さより大きくする、圧電膜積層体の製造方法。
【請求項9】
前記平坦化することでは、ミリング、CMP、エッチバック、ウェットエッチングのいずれか1つを行う、請求項8に記載の圧電膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、下地材となる基材上に複数の圧電膜が積層された圧電膜積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電膜をScAlNで構成する場合、Scを高濃度に含有させることで圧電定数を高くすることができ、圧電応答性を向上できることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5190841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Scを高濃度に含有させることで圧電定数を高くできる反面、c軸の向きがランダムである異常粒を増加させる。異常粒は、ScAlN膜の表面から突出すような状態で存在するため、ScAlN膜の表面に凹凸が残った状態になる。このため、ScAlN膜の上にアモルファス膜で構成される中間層を介してさらにScAlN膜を成膜すると、中間層が下地となるScAlN膜の凹凸の影響を受ける。中間層が絶縁膜で構成されていて容量値を持っているが、ScAlN膜の凹凸の影響を緩和するために中間層を厚くすると、容量値が低い絶縁膜がScAlN膜の間に存在することになり、ScAlNの実効的な圧電性が下がる。このため、中間層を厚くするのは好ましくない。一方、中間層を薄くすると、中間層から異常粒が突き出し、中間層上に配置されるScAlN膜に異常粒が引き継がれて圧電性を低下させたり、中間層厚のばらつきによる圧電性のばらつきを発生させたりする。
【0005】
本開示は上記点に鑑みて、異常粒に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制できる圧電膜積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
圧電膜積層体であって、
基材(11)と、
基材の一面(11a)上に形成された下層ScAlN膜(13)と、
下層ScAlN膜における基材と反対側の一面(13a)の上に形成された中間層(14)と、
中間層における下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に形成された上層ScAlN膜(15)と、を有し、
下層ScAlN膜の一面における最大高さ(Rz2)は、中間層の膜厚より小さく、下層ScAlN膜の膜厚の14%未満になっている。
【0007】
このように、下層ScAlN膜の一面における最大高さが中間層の膜厚より小さく、下層ScAlN膜の膜厚の14%未満になっている。つまり、下層ScAlN膜の一面が平坦化されることで、最大高さが中間層の膜厚よりも小さくされている。このため、圧電定数d33を確保することができ、異常粒に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制することが可能となる。
【0008】
請求項8に記載の発明は、
圧電膜積層体の製造方法であって、
基材(11)を用意することと、
基材の一面(11a)上に下層ScAlN膜(13)を形成することと、
下層ScAlN膜における基材と反対側の一面(13a)を平坦化することと、
下層ScAlN膜の一面の上に中間層(14)を形成することと、
中間層における下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に上層ScAlN膜(15)を形成することと、を有し、
中間層を形成することでは、該中間層の膜厚を、平坦化することの前における下層ScAlN膜の一面の最大高さ(Rz2)より小さく、平坦化することの後における下層ScAlN膜の一面の最大高さより大きくする。
【0009】
このように、下層ScAlN膜の一面を平坦化することで、中間層の膜厚を平坦化前における下層ScAlN膜の一面の最大高さより小さく、平坦化後における下層ScAlN膜の一面の最大高さより大きくすることができる。これにより、圧電定数d33を確保することができ、異常粒に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制することが可能となる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】第1実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
図1B図1Aに示す圧電膜積層体の各部の最大高さの説明図である。
図2】ScAlNの結晶構造を示す図である。
図3A】第1実施形態における圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図3B図3Aに続く圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図3C図3Bに続く圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図3D図3Cに続く圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図4】平坦化前の下層ScAlN膜の一面の最大高さと第2中間層の膜厚の関係を示した断面図である。
図5A】下層ScAlN膜の一面の表面AFM像を示す図である。
図5B図5A中のVB-VB線上の断面において、下層ScAlN膜の一面の凹凸を観測した結果を示す図である。
図6】アモルファス膜の上にScAlN膜を形成した場合のアモルファス膜の膜厚に対する圧電定数d33の変化を示した図である。
図7】第2中間層を厚く形成した後に平坦化し、その上に上層ScAlN膜を成膜した場合の様子を示した断面図である。
図8】第2実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
図9A】第2実施形態における圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図9B図9Aに続く圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図9C図9Bに続く圧電膜積層体の製造工程を示す図である。
図10】第2電極膜の一面の最大高さの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
図1Aおよび図1Bに示すように、本実施形態の圧電膜積層体10は、Si基板11と、第1中間層12と下層ScAlN膜13、第2中間層14と上層ScAlN膜15と、を備える。これらの膜が順に積層されることにより、圧電膜積層体10が構成されている。
【0014】
Si基板11は、半導体材料であるSiで主に構成された基板である。Si以外の半導体材料で構成された基板が用いられてもよい。なお、ここでは記載していないが、Si基板11の一面11aにTEOS(Tetraethyl ort hosilicate)膜などが形成されていても良い。
【0015】
第1中間層12は、Si基板11の一面11a上に形成されており、ScAlNの下地となる層を含んで構成されている。第1中間層12は、複数層の積層構造でも良いし、単層構造でも良い。第1中間層12は、アモルファス膜で構成されていると、その上に形成されるScAlNの結晶性を良好にすることが可能となる。第1中間層12が積層構造とされる場合には、ScAlNと接する最表面の層がアモルファス膜で構成されていると好ましい。また、本実施形態では、第1中間層12は、絶縁性材料で構成されており、複数層の積層構造とされている場合には少なくともScAlNと接する最表面の層が絶縁性材料で構成されている。図1Bに示される第1中間層12におけるSi基板11と反対側の一面12aの最大高さRz1については任意であるが、0.5nm以下とすると、上層に形成されるScAlN中のSc濃度が高くても良好な圧電性が得られるため好ましい。
【0016】
絶縁性材料で構成されるアモルファス膜としては、例えば、SiN(シリコン窒化)膜、TEOS膜、シリコン酸化膜、HfOx(酸化ハフニウム)膜、Mo(モリブデン)酸化膜、Al膜などが挙げられる。本実施形態の第1中間層12は、ここで挙げたアモルファス膜のうちのいずれか1つもしくは複数によって構成されている。
【0017】
なお、アモルファスとは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。膜を構成する材料がアモルファスであることは、膜に対して電子線回折測定を行うことで確認される。その測定結果がハローパターンのとき、膜を構成する材料はアモルファスである。また、本明細書において、絶縁性とは、電気抵抗率、すなわち体積抵抗率が10Ω・m以上であることを意味する。
【0018】
また、最大高さRzは、表面の凹凸の最も突き出たところと最も窪んだところ差である。最大高さRzは、JIS B 0601に定められたものである。原子間力顕微鏡、触針式表面粗さ計などにより、表面を走査して、最大高さRzを測定することができる。また、測定したい表面上に別の膜が形成されている場合、透過電子顕微鏡による断面観察を行い、測定したい界面の形状を求めることによって、最大高さRzを測定することができる。
【0019】
下層ScAlN膜13は、ScAlN、つまりスカンジウム含有窒化アルミニウムで主に構成された圧電膜である。下層ScAlN膜13は、第1中間層12の一面12a上、つまり第1中間層12を介してSi基板11の一面11a上に形成されている。下層ScAlN膜13のうち第1中間層12と反対側の一面13aは、図1Bに示される表面が平坦化処理されることで最大高さRz2が下層ScAlN膜13の上に形成される第2中間層14の膜厚よりも小さくされている。
【0020】
また、下層ScAlN膜13のSc濃度は、0原子%よりも大きく、43原子%以下のいずれの濃度でもよい。Sc濃度が高いほど圧電性を高められるため、Sc濃度を24原子%以上とすると好ましい。ただし、Sc濃度が高すぎると異常粒が発生し易くなるため、異常粒の発生量を考慮すると、Sc濃度が43原子%以下であると好ましい。
【0021】
下層ScAlN膜13は、図2に示す六方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する。複数の結晶粒に、下層ScAlN膜13の一面13aに対して垂直な向きに六方晶のc軸が配向するc軸配向結晶粒が多く含まれるときに、下層ScAlN膜13の圧電性が高くなる。一方、複数の結晶粒に、六方晶のc軸の向きがランダムである異常粒が多く含まれるときに、下層ScAlN膜13の圧電性が低くなる。下層ScAlN膜13に存在する異常粒が少ないほど、下層ScAlN膜13に存在するc軸配向結晶粒が多くなる関係がある。このため、ScAlN膜15中の異常粒の発生が抑制されることが望まれる。したがって、Scを含有させ、好ましくは高いSc濃度とすることで圧電性を向上させつつ、圧電性を低下させない程度のSc濃度に押えるようにすると、Sc濃度を24原子%以上かつ43原子%以下とするのが好ましい。
【0022】
なお、Sc濃度とは、Scの原子数とAlの原子数との総量100原子%に対してのScの原子数が占める割合である。原子%は、原子数百分率を指している。Sc濃度は、RBSによって測定される。RBSは、Rutherford Backscattering Spectrometry(すなわち、ラザフォード後方散乱分光)の略称である。本明細書に示すSc濃度は、下記の装置を用いて、下記の測定条件で測定された値である。
【0023】
装置名:National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH
測定条件
RBS測定
入射イオン: 4He++
入射エネルギー: 2300keV
入射角: 0deg
散乱角: 160deg
試料電流: 13nA
ビーム径: 2mmφ
面内回転: 無
照射量: 70μC
第2中間層14は、下層ScAlN膜13の一面13a上に形成されており、ScAlNの下地となる層を含んで構成されている。第2中間層14の膜厚は10~20nmとされている。第2中間層14は、複数層の積層構造でも良いし、単層構造でも良い。第2中間層14は、アモルファス膜で構成されていると、その上に形成されるScAlNの結晶性を良好にすることが可能となる。第2中間層14が積層構造とされる場合には、ScAlNと接する最表面の層がアモルファス膜で構成されていると好ましい。また、本実施形態では、第2中間層14は、絶縁性材料で構成されており、複数層の積層構造とされている場合には少なくともScAlNと接する最表面の層が絶縁性材料で構成されている。図1Bに示される第2中間層14のうち下層ScAlN膜13と反対側の一面14aの最大高さRz3については、下層ScAlN膜13の一面13aの最大高さRz2と同程度、つまり第2中間層14の膜厚よりも小さくなっている。
【0024】
第2中間層14の一面14aの形状は、下層ScAlN膜13の一面13aの形状を引き継ぐ。このため、最大高さRz3は、最大高さRz2と同等になる。そして、最大高さRz2が第2中間層14の膜厚よりも小さくなっているため、下層ScAlN膜13の一面13aに形成される異常粒に起因する凹凸がすべて第2中間層14の膜厚内で収まった状態となる。
【0025】
上層ScAlN膜15は、第2中間層14の一面14a上に形成されている。上層ScAlN膜15は、下層ScAlN膜13と同様の構成とされている。ただし、上層ScAlN膜15については、図1Bに示される第2中間層14と反対側の一面15aの最大高さRz4が下層ScAlN膜13の一面13aの最大高さRz2と同等である必要はなく、最大高さRz4が最大高さRz2より大きくなっていても良い。
【0026】
このように構成される圧電膜積層体10は、例えば圧電フィルタとして用いられる。例えば、下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15における図1の紙面横方向の側面に図示しない電極を接合し、回路に組み込むことで圧電フィルタを構成できる。
【0027】
そして、本実施形態では、下層ScAlN膜13の一面13aを平坦化することで最大高さRz2が第2中間層14の膜厚よりも小さくされている。このため、第2中間層14の膜厚が厚くなくても下層ScAlN膜13に発生した異常粒に起因する凹凸がすべて第2中間層14の膜厚内で収まった状態にできる。つまり、第2中間層14から異常粒が突出さないようにできる。したがって、異常粒に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制できる圧電膜積層体10とすることが可能となる。
【0028】
続いて、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法について、図3A図3Dおよび図4図7を参照して説明する。なお、図中A1は、成膜方向を示している。
【0029】
まず、図3Aに示すように、Si基板11を用意し、Si基板11の一面11a上に第1中間層12を形成する。Si基板11としては、一面11aにTEOS膜が形成されたものであっても良い。例えば、第1中間層12をSiN膜とする場合、プラズマCVD法などによって第1中間層12を成膜することができる。また、必要に応じて第1中間層12の一面12a側に対して平坦化工程を行うことで、一面12aの最大高さRz1を低下させる。例えば、Arプラズマを用いたエッチングによって、第1中間層12の一面12aを平坦化できる。
【0030】
次に、図3Bに示すように、第1中間層12の一面12a上に下層ScAlN膜13を成膜する。例えば、反応性DCスパッタリング法にて、第1中間層12の一面12a上に下層ScAlN膜13を成膜できる。このとき、下層ScAlN膜13にScが含まれているため、異常粒が突き出すことで下層ScAlN膜13の一面13aが凹凸面となる。そして、このときの一面13aの最大高さRz2は、図4に示すように、まだこの後に形成する第2中間層14の膜厚T以上となる。実験によれば、ScAlN膜の厚みと最大高さRzとの間には相関があり、最大高さRzはScAlN膜の厚みの14%程度になることを確認している。ここでは、下層ScAlN膜13の厚みを数百nm、例えば500nmとしており、厚みを500nmとした場合には最大高さRz2が70nmになる。このため、最大高さRz2は、第2中間層14の膜厚となる10~20nmと比較しても大きく、第2中間層14の膜厚以上になる。また、下層ScAlN膜13の厚みを100nmとする場合であっても、最大高さRz2が14nmになり、第2中間層14の膜厚を10nm程度にしようとすると、それより大きくなる。第2中間層14の膜厚については薄い方が容量値を高められるため薄くしたいが、最大高さRz2が大きいと薄くすることが困難となる。
【0031】
具体的には、下層ScAlN膜13の一面13aについて、表面AFM像を撮影すると図5Aに示すように異常粒20が無数に存在した状態になっている。この表面AFM像中に示したVB-VB線上の断面において、一面13aの凹凸を観測すると、図5Bのように異常粒20が存在している場所で凹凸の高さが高くなる。この状態で一面13a上に第2中間層14を成膜すると、第2中間層14から異常粒20の先端が突き出してしまうため、第2中間層14を厚くする必要があるが、第2中間層14が絶縁材料で構成されていて容量値を持つため、下層ScAlN膜13と上層ScAlN膜15の間に容量値が低い絶縁材料が存在することになる。これにより、ScAlNの実効的な圧電性が下がるので、第2中間層14を厚くし過ぎるのは好ましくなく、20nm以下であると好ましい。
【0032】
アモルファス膜の厚さを変えてその上にScAlN膜を形成した場合の圧電定数d33の変化について、Sc濃度を24原子%、30原子%、40原子%の3種類としたScAlN膜を成膜して解析したところ、図6に示す結果となった。この図に示されるように、Sc濃度が高いほど圧電定数d33が大きくなるが、アモルファス膜が厚くなるほど圧電定数d33が小さくなる。図5Bに示す結果から、この状態での一面13aの最大高さRz2は51.14nm程度であるため、第2中間層14を70nm程度の厚みにすることが考えられる。しかしながら、アモルファス膜が70nmの場合、図中矢印で示したようにSc濃度が40原子%の際の圧電定数d33が18pC/N程度となり、厚さが20nmの場合にSc濃度が30原子%の際の圧電定数d33と同値となる。このように、Sc濃度を高くする効果が薄れるため、アモルファス膜を厚く形成することは好ましくない。
【0033】
一方、一面13aの凹凸を残したままアモルファス膜で構成される第2中間層14を成膜し、第2中間層14の表面を平坦化して第2中間層14を薄くし、圧電性の低下を抑制することも考えられる。しかしながら、この場合には、図7に示すように、第2中間層14の膜厚にばらつきが生じるし、部分的に消失して異常粒20が露出することもある。第2中間層14の膜厚ばらつきは圧電性ばらつきを発生させるし、部分的な消失により圧電性の低下も発生させる。さらに、露出した異常粒20上に上層ScAlN膜15が形成されると、上層ScAlN膜15にも異常粒20が引き継がれることになる。したがって、厚く形成した第2中間層14を平坦化して薄くする場合も圧電性の低下が避けられない。
【0034】
このため、本実施形態では、図3Cに示すように、下層ScAlN膜13の一面13aに対して平坦化処理を行うことで一面13aを平坦面とする。平坦化処理としては、ミリング、CMP(chemical mechanical polishing)、エッチバック、ウェットエッチングなどが挙げられる。ミリングを行うと最大高さRz3を最も小さくできる。エッチバックの場合、突出している部分が窪んだ部分よりもエッチレートが大きくなる条件で行えば良い。ウェットエッチングの場合、等方的にエッチングされることで一面13aが平坦化される。この平坦化処理により、一面13aの最大高さRz3が低減され、下層ScAlN膜13の膜厚の14%未満になって、この後に形成する第2中間層14の膜厚Tより小さくなる。実験によれば、最大高さRz2を10nm未満、例えば8nm以下にできた。
【0035】
この後、図3Dに示すように、第2中間層14を例えば10~20nmの膜厚で成膜したのち、さらに一面14a上に上層ScAlN膜15を成膜する。第2中間層14については、第1中間層12と同様の手法で成膜できる。また、上層ScAlN膜15については、下層ScAlN膜13と同様の手法で成膜できる。このようにして上層ScAlN膜15を形成することで、本実施形態の圧電膜積層体10が完成する。
【0036】
以上説明したように、本実施形態にかかる圧電膜積層体10は、下層ScAlN膜13の一面13aが平坦化されることで、最大高さRz2が第2中間層14の膜厚Tよりも小さくされている。このため、圧電定数d33を確保することができ、異常粒20に起因する圧電性の低下およびばらつきを抑制することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態の圧電膜積層体10では、第1中間層12や第2中間層14をアモルファス膜で構成しているため、その上に形成する下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15の結晶性を良好にできる。特に、アモルファス膜としては、アモルファス性が高く、容量値を高くできるため、HfOx膜を用いると好ましい。
【0038】
(第2実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してScAlN膜の両面に電極材料を配置するものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0039】
図8に示すように、本実施形態にかかる圧電膜積層体10は、基板11の上に第1電極膜31が形成され、その一面31a上に第1中間層12を介して下層ScAlN膜13が形成されている。また、下層ScAlN膜13の一面13a上に第2電極膜32が形成され、その一面32aの上に第2中間層14を介して上層ScAlN膜15が形成されている。そして、上層ScAlN膜15の一面15a上に第3電極膜33が形成されている。つまり、下層ScAlN膜13を第1電極膜31と第2電極膜32とで挟み、上層ScAlN膜15を第2電極膜32と第3電極膜33とで挟んだ構成とされている。
【0040】
第1電極膜31、第2電極膜32および第3電極膜33は、電極材料であるPt(白金)、Mo、Ti(チタン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)のいずれか1層もしくは複数層の積層膜によって構成されている。第1電極膜31、第2電極膜32および第3電極膜33は、すべて同じ電極材料で構成されていても良いし、異なる電極材料で構成されていても良い。
【0041】
このように、ScAlN膜の両面に電極材料を配置する構造においても、下層ScAlN膜13の一面13aを平坦化してから行っている。下層ScAlN膜13の上に形成される第2電極膜32の一面32aの形状については、下地となる下層ScAlN膜13の一面13aの形状が引き継がれる。この第2電極膜32の一面32aの凹凸を抑制できれば、第2中間層14が薄くできて圧電定数d33を確保しつつ圧電性の低下およびばらつきを抑制できる。したがって、下層ScAlN膜13の一面13aを平坦化処理することで、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0042】
このように構成される圧電膜積層体10は、例えばマイクロフォンなどに適用される。マイクロフォンに使用する場合、Si基板11に対して開口部を形成することで第1電極膜31、第1中間層12、下層ScAlN膜13、第2電極膜32、第2中間層14、上層ScAlN膜15および第3電極膜33の積層構造によるメンブレンを構成する。そして、メンブレンに圧力が印加されると、その変位に基づいて下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15に印加された圧力に比例した分極が生じる。逆に、下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15に電圧を印加すると、印加した電圧に基づいてメンブレンが変位することで、メンブレンを超音波振動させることができる。これにより、マイクロフォンが超音波振動させられることで超音波を出力し、超音波が入力された際にはそれを検出することが可能となっている。
【0043】
また、このように構成される圧電膜積層体10は、例えば圧電センサなどにも適用可能である。例えば、第2中間層14を挟んで配置される下層ScAlN膜13と上層ScAlN膜15がペアの圧電膜として並列回路を組む構成とされる。すなわち、下層ScAlN膜13の変位に基づく電圧変化を第1電極膜31および第2電極膜32より取り出し、上層ScAlN膜15の変位に基づく電圧変化を第2電極膜32および第3電極膜33より取り出す。そして、これらの電位を差動増幅することでセンサ出力を得ることができる。このように、ペアの圧電膜として並列回路を組むことで、センサ感度の高い圧電センサにできる。
【0044】
続いて、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法について、図9A図9Cを参照して説明する。なお、図中A1は、成膜方向を示している。
【0045】
まず、図9Aに示すように、Si基板11を用意し、その上に第1電極膜31を成膜する。例えば、反応性DCスパッタリング法にて、第1電極膜31を成膜している。この後、第1実施形態における図3A図3Cと同様の手法で、第1中間層12や下層ScAlN膜13を成膜したのち、下層ScAlN膜13の一面13aを平坦化処理する。
【0046】
その後、図9Bに示すように一面13aの上に第2電極膜32を成膜する。例えば、反応性DCスパッタリング法にて、第2電極膜32を成膜している。このとき、一面13aが平坦化されているため、第2電極膜32も一面13aの形状を引き継ぎ、第2電極膜32の一面32aの凹凸が抑制された状態になる。つまり、図10に示した第2電極膜32の一面32aの最大高さRz5は、一面13aの最大高さRz2と同等になり、第2中間層14の膜厚Tよりも小さくなる。
【0047】
この後、図9Cに示すように、第1実施形態の図3Dと同様の手法で第2中間層14や上層ScAlN膜15を成膜する。また、必要に応じて、上層ScAlN膜15の一面15aに対して平坦化処理を行う。このときの平坦化処理については、下層ScAlN膜13の一面13aに対する平坦化処理と同様の手法で行えば良い。そして、上層ScAlN膜15の一面15a上に第3電極膜33を形成する。第3電極膜33の一面33aについては、平坦化処理を行う必要はないが、平坦化処理を行っても良い。このようにして、本実施形態の圧電膜積層体10が完成する。
【0048】
(第2実施形態の変形例)
上記第2実施形態では、第1電極膜31や第2電極膜32を形成しつつ、下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15の結晶性を良好にするために、下地として第1中間層12や第2中間層14を形成した。これに代えて、第1中間層12や第2中間層14を導電性のアモルファス膜で構成すれば、下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15の結晶性を確保しつつ、第1中間層12や第2中間層14で第1電極膜31や第2電極膜32の役割も果たせる。これにより、各層を別々に形成する場合と比較して、圧電膜積層体10の簡素化が図れ、製造工程も簡略化できて、製造コストを削減できる。
【0049】
このような導電性のアモルファス膜としては、金属ガラスを用いることができる。金属ガラスは、例えばZr-55%、Cu-30%、Al-10%、Ni-5%で構成される合金や、Pd-55%、Ni-30%、P-10%で構成される合金などがある。
【0050】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0051】
例えば、上記各実施形態で挙げた各膜の成膜方法や下層ScAlN膜13の一面13aの平坦化処理の方法などは一例を挙げたに過ぎず、他の方法であっても構わない。また、第1中間層12や第2中間層14の構成材料や厚みについても、一例を示したに過ぎない。
【0052】
また、上記各実施形態では、Si基板11の上に各膜を形成することで圧電膜積層体10を構成したが、圧電膜積層体10を構成するための基材は、必ずしも基板でなくても良い。
【0053】
また、上記各実施形態では、下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15を備えた構造、つまりScAlN膜を2層備えた構造を例に挙げた。しかしながら、少なくとも下層ScAlN膜13や上層ScAlN膜15を備えていれば良く、3層以上のScAlN膜を備えた構造としても良い。その場合にも、下層側のScAlN膜の上に中間層を配置して上層側のScAlN膜が配置される構造において、下層側のScAlN膜の一面を平坦化処理することで、上記各実施形態の効果を得ることができる。
【0054】
さらに、上記各実施形態では、基材としてSi基板11を用いる場合に、第1中間層12を介してSi基板11の上に下層ScAlN膜13を形成したが、基材の材料によっては第1中間層12をなくして基材の一面上に下層ScAlN膜13を直接形成しても良い。
【0055】
(本開示の観点)
上記した本開示については、例えば以下に示す観点として把握することができる。
【0056】
[第1の観点]
圧電膜積層体であって、
基材(11)と、
前記基材の一面(11a)上に形成された下層ScAlN膜(13)と、
前記下層ScAlN膜における前記基材と反対側の一面(13a)の上に形成された中間層(14)と、
前記中間層における前記下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に形成された上層ScAlN膜(15)と、を有し、
前記下層ScAlN膜の前記一面における最大高さ(Rz2)は、前記中間層の膜厚より小さく、前記下層ScAlN膜の膜厚の14%未満になっている、圧電膜積層体。
[第2の観点]
前記中間層は、アモルファス膜である、第1の観点に記載の圧電膜積層体。
[第3の観点]
前記アモルファス膜は、SiN膜、TEOS膜、シリコン酸化膜、HfOx膜、Mo酸化膜、Al膜のいずれか1つもしくは複数によって構成されている、第2の観点に記載の圧電膜積層体。
[第4の観点]
前記アモルファス膜は、導電性である、第2の観点に記載の圧電膜積層体。
[第5の観点]
前記基材と前記下層ScAlN膜との間に形成された第1電極膜(31)と、
前記下層ScAlN膜と前記上層ScAlN膜との間に形成された第2電極膜(32)と、
前記上層ScAlN膜における前記中間層と反対側の一面(15a)の上に形成された第3電極膜(33)と、を備えている、第1ないし第3の観点のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
[第6の観点]
前記第1電極膜、前記第2電極膜、前記第3電極膜は、Pt、Mo、Ti、W、Ruのいずれか1層もしくは複数層によって構成されている、請求項5に記載の圧電膜積層体。
[第7の観点]
前記下層ScAlN膜に含まれるScの濃度は、24原子%~43原子%である、第1ないし第6の観点のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
[第8の観点]
圧電膜積層体の製造方法であって、
基材(11)を用意することと、
前記基材の一面(11a)上に下層ScAlN膜(13)を形成することと、
前記下層ScAlN膜における前記基材と反対側の一面(13a)を平坦化することと、
前記下層ScAlN膜の前記一面の上に中間層(14)を形成することと、
前記中間層における前記下層ScAlN膜と反対側の一面(14a)の上に上層ScAlN膜(15)を形成することと、を有し、
前記中間層を形成することでは、該中間層の膜厚を、前記平坦化することの前における前記下層ScAlN膜の前記一面の最大高さ(Rz2)より小さく、前記平坦化することの後における前記下層ScAlN膜の前記一面の最大高さより大きくする、圧電膜積層体の製造方法。
[第9の観点]
前記平坦化することでは、ミリング、CMP、エッチバック、ウェットエッチングのいずれか1つを行う、第8の観点に記載の圧電膜積層体の製造方法。
【符号の説明】
【0057】
10 圧電膜積層体
11 Si基板
12 第1中間層
13 下層ScAlN膜
14 第2中間層
15 上層ScAlN膜
31~33 第1~第3電極膜
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10