(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158418
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】酸化錫粒子含有ゲル、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 19/02 20060101AFI20241031BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20241031BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20241031BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241031BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C01G19/02 B
B01J13/00 E
C09C1/00
C09D17/00
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073606
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】野原 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
【テーマコード(参考)】
4G065
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4G065AA01
4G065AA04
4G065AB17X
4G065BB08
4G065CA15
4G065DA09
4G065EA01
4G065EA03
4J037AA08
4J037CA05
4J037CA21
4J037CA30
4J037CB16
4J037DD05
4J037EE08
4J037EE23
4J037FF15
4J038AA011
4J038HA211
4J038JB01
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA20
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】溶媒を添加することで分散処理を介さずに酸化錫粒子分散液とすることが可能な酸化錫粒子含有ゲル、この酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子分散液の製造方法、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化錫粒子を含み、溶媒を添加することで、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散し、酸化錫分散液となることを特徴とする。一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含むことが好ましい。前記酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化錫粒子を含み、溶媒を添加することで、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散し、酸化錫分散液となることを特徴とする酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項2】
一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含むことを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項3】
前記酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項4】
前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項5】
前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項6】
前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項5に記載の酸化錫粒子含有ゲル。
【請求項7】
酸化錫粒子分散液の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加する溶媒添加工程を有することを特徴とする酸化錫粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
酸化錫粒子積層膜の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加して酸化錫粒子分散液を作製する溶媒添加工程と、得られた前記酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程と、を備えていることを特徴とする酸化錫粒子積層膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば導電膜等を成膜する際に用いられる酸化錫粒子分散液を作製可能な酸化錫粒子含有ゲル、この酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化錫は比較的良好な導電性を有することから、各種デバイスにおける導電層等の導電性材料として、酸化錫粒子が積層された構造の酸化錫粒子積層膜が用いられている。なお、酸化錫粒子積層膜に対して特定の特性を向上させるために、各種元素を酸化錫にドープした材料も提案されている。
上述の酸化錫粒子積層膜は、例えば特許文献1に開示されているように、酸化錫粒子が分散された酸化錫粒子分散液を塗工して乾燥することよって形成される。
【0003】
上述の酸化錫粒子分散液を製造する方法として、酸化錫粉体をビーズミル等で分散処理して分散液とする方法、ソルボサーマル法等の手法で粉体を介さずに酸化錫粒子分散液を作製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化錫粉体をビーズミル等で分散処理して分散液とする方法においては、不揮発性の有機化合物を分散剤として利用する必要があるため、塗工・乾燥後に残存する分散剤が酸化錫粒子積層膜の導電性低下の原因となる。また、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として利用されるようなシングルナノサイズの酸化錫粒子を分散することが困難であるといった課題も有する。
【0006】
一方、ソルボサーマル法等の手法で粉体を介さずに酸化錫粒子分散液を作製する方法においては、酸化錫粒子の高濃度化が困難であり、溶媒の割合が多くなり、輸送コスト等がかかるといった課題を有する。特に、粒径が10nm以下のシングルナノの粒子では、分散液の高濃度化に伴う粒子間隔の減少が顕著であるため、分散液の高濃度化は非常に困難である。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、溶媒を添加することで分散処理を介さずに酸化錫粒子分散液とすることが可能な酸化錫粒子含有ゲル、この酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子分散液の製造方法、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の酸化錫粒子含有ゲルは、酸化錫粒子を含み、溶媒を添加することで、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散し、酸化錫分散液となることを特徴としている。
本発明の態様1の酸化錫粒子含有ゲルによれば、溶媒を添加すると、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散することから、酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加することで酸化錫粒子分散液を得ることができる。
よって、酸化錫粒子を酸化錫含有ゲルの状態で輸送することができ、輸送コストの削減を図ることができる。また、不揮発性の有機化合物からなる分散剤を用いる必要が無く、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することができる。
【0009】
本発明の態様2の酸化錫粒子含有ゲルは、態様1の酸化錫粒子含有ゲルにおいて、一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含むことを特徴としている。
本発明の態様2の酸化錫粒子含有ゲルによれば、酸化錫粒子の他に、一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含んでいることから、水や低級アルコール等の溶媒を添加することで、酸化錫粒子含有ゲルに含まれる酸化錫粒子を溶媒中に効率良く分散させることが可能となる。
【0010】
本発明の態様3の酸化錫粒子含有ゲルは、態様1または態様2の酸化錫粒子含有ゲルにおいて、前記酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内であることを特徴としている。
本発明の態様3の酸化錫粒子含有ゲルによれば、前記酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内とされているので、酸化錫粒子を高濃度で含有しており、輸送コストを大きく削減することができる。
【0011】
本発明の態様4の酸化錫粒子含有ゲルは、態様1から態様3のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルにおいて、前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様4の酸化錫粒子含有ゲルによれば、前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされているので、ナノオーダーの膜厚の酸化錫粒子積層膜を安定して成膜することができる。
【0012】
本発明の態様5の酸化錫粒子含有ゲルは、態様1から態様4のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルにおいて、前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることを特徴としている。
本発明の態様5の酸化錫粒子含有ゲルによれば、前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることから、酸化錫粒子の特性を調整することができ、要求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0013】
本発明の態様6の酸化錫粒子含有ゲルは、態様5の酸化錫粒子含有ゲルにおいて、前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上であることを特徴としている。
本発明の態様6の酸化錫粒子含有ゲルによれば、前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上とされているので、酸化錫粒子の特性を調整することができ、要求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0014】
本発明の態様7の酸化錫粒子分散液の製造方法は、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加する溶媒添加工程を有することを特徴としている。
本発明の態様7の酸化錫粒子分散液の製造方法によれば、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加する溶媒添加工程を有していることから、溶媒添加工程によって、酸化錫粒子が溶媒中に十分に分散した酸化錫粒子分散液を作製することが可能となる。
【0015】
本発明の態様8の酸化錫粒子積層膜の製造方法は、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加して酸化錫粒子分散液を作製する溶媒添加工程と、得られた前記酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程と、を備えていること特徴としている。
本発明の態様8の酸化錫粒子積層膜の製造方法によれば、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加して酸化錫粒子分散液を作製する溶媒添加工程と、得られた前記酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程と、を備えているので、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶媒を添加することで分散処理を介さずに酸化錫粒子分散液とすることが可能な酸化錫粒子含有ゲル、この酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子分散液の製造方法、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態である酸化錫粒子積層膜を備えたペロブスカイト太陽電池の概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態である酸化錫粒子含有ゲルの製造方法、および、酸化錫粒子分散液の製造方法の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態である酸化錫粒子積層膜の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である酸化錫粒子含有ゲル、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明の実施形態である酸化錫粒子含有ゲルは、例えば導電層として使用される酸化錫粒子積層膜を構成する酸化錫粒子を高濃度に含有するものである。この酸化錫粒子含有ゲルに、溶媒を添加することにより、酸化錫粒子分散液が作製される。この酸化錫粒子分散液を塗工・乾燥することによって、上述の酸化錫粒子積層膜が成膜されることになる。
【0020】
ここで、本実施形態における酸化錫粒子積層膜は、例えば、
図1に示すペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として使用される。ペロブスカイト太陽電池10は、例えば
図1に示すように、ガラス基板11の表面に、ITO膜12,電子輸送層13,ペロブスカイト層14,正孔輸送層15,裏面電極16が積層された構造とされている。
【0021】
電子輸送層13を構成する酸化錫粒子積層膜においては、その膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。
このため、酸化錫粒子分散液においては、酸化錫粒子積層膜を薄くかつ精密に成膜することが求められている。また、酸化錫粒子積層膜には、導電性材料として、導電性に優れていることが求められている。
【0022】
本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルは、酸化錫粒子を含み、溶媒を添加することで、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散する。すなわち、溶媒を添加することで、酸化錫粒子含有ゲルに含まれる酸化錫粒子が溶媒中に拡散され、酸化錫粒子分散液が作製されることになる。
ここで、添加する溶媒としては、水、エタノール等の低級アルコール(炭素数:3以下)およびそれらの混合液を用いることができる。
また、溶媒を添加した際に酸化錫粒子含有ゲルに含まれる酸化錫粒子が溶媒中に分散したか否かは、粒度分布測定および透過型電子顕微鏡観察で判断することができる。
すなわち、透過型電子顕微鏡観察で測定した粒子径を幾何学的粒子径と、粒度分布測定装置を用いて動的光散乱法にて測定した粒子径を流体力学的粒子径とし、流体力学的粒子径を幾何学的粒子径で除した値で、分散の有無を判断することが可能となる。
【0023】
なお、酸化錫粒子含有ゲルにおいては、溶媒を添加してから経時的に酸化錫粒子の分散状態が変化することから、一定期間経過後に酸化錫粒子の分散状態を評価することが好ましい。溶媒の添加から酸化錫粒子の分散状態の評価までの時間は、特に制限はないが、30分以上1440分以下の範囲内とすることが好ましい。本実施形態では、溶媒の添加から酸化錫粒子の分散状態の評価までの時間を120分に設定している。
【0024】
本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいては、一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含むことが好ましい。
ここで、一級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、2-アミノエタノールを用いることができる。また、二級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンを用いることができる。
【0025】
また、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいては、酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
なお、酸化錫粒子の1次粒子径は、1.8nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがさらに好ましい。また、酸化錫粒子の1次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
さらに、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいては、酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内であることが好ましい。
なお、酸化錫粒子含有ゲルにおける酸化錫粒子の含有量は28mass%以上であることがさらの好ましく、30mass%以上であることがより好ましい。また、酸化錫粒子含有ゲルにおける酸化錫粒子の含有量は52mass%以下であることがさらの好ましく、45mass%以下であることがより好ましい。
【0027】
また、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいては、酸化錫粒子は、Sn、O以外の異種元素がドープされたものであってもよい。なお、異種元素の含有量は、10000massppm上100000massppm以下の範囲内とすることが好ましい。
また、ドープされる異種元素として、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0028】
次に、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルの製造方法、および、酸化錫粒子分散液の製造方法の一例について、
図2のフロー図を用いて説明する。
【0029】
(原料懸濁液生成工程S01)
塩化錫水溶液に、重炭酸アンモニウム水溶液を滴下し、発泡が収まるまで静置し、原料懸濁液を生成する。
この原料懸濁液生成工程S01においては、滴下速度を0.2mL/min以上1.6mL/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
(酸化錫粒子含有ゲル生成工程S02)
次に、原料懸濁液からデカンテーションにより固形分を取り出し、この固形物にアミン水溶液を添加し、所定時間静置する。これにより、酸化錫粒子を含有するゲル状物(本実施形態である酸化錫粒子含有ゲル)が作製される。
この酸化錫粒子含有ゲル生成工程S02においては、加えるアミンまたはアミン溶液におけるアミン濃度を20mass%以上70mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
(溶媒添加工程S03)
次に、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルに、溶媒を添加して所定時間放置することにより、ゲル中の酸化錫粒子が溶媒中に拡散し、酸化錫粒子分散液が生成する。
【0032】
次に、酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子積層膜の製造方法の一例について、
図3のフロー図を用いて説明する。
【0033】
(溶媒添加工程S11)
まず、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルに、溶媒を添加して所定時間放置することにより、酸化錫粒子分散液を得る。
【0034】
(固形分濃度調整工程S12)
次に、得られた酸化錫粒子分散液を準備し、イオン交換水を用いて、酸化錫粒子分散液における固形分濃度が2mass%以上20mass%以下の範囲内になるように調整する。
なお、酸化錫粒子分散液における固形分濃度は5mass%以上であることが好ましく、8mass%以上とすることがより好ましい。また、酸化錫粒子分散液における固形分濃度はが18mass%以下であることが好ましく、15mass%以下とすることがより好ましい。
【0035】
(塗工工程S13)
次に、固形分濃度を調整した酸化錫粒子分散液を、スピンコート装置によって基板上に塗工する。
この塗工工程S12におけるスピンコートの条件は、回転数500rpm以上3000rpm以下の範囲内、塗工時間を5秒以上60秒以下の範囲内とすることが好ましい。また、塗工膜の厚さは、20nm以上100nm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
(加熱工程S14)
次に、塗工膜(塗工した酸化錫粒子分散液)を加熱することにより、溶媒を除去し、酸化錫粒子積層膜を形成する。
この加熱工程S13における加熱条件は、加熱温度を100℃以上400℃以下の範囲内、加熱時間を1分以上10分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0037】
上述の各工程により、本実施形態である酸化錫粒子積層膜が成膜される。
ここで、本実施形態である酸化錫粒子積層膜においては、膜厚の平均値が10nm以上100nm以下の範囲内、膜厚の標準偏差が3nm以上40nm以下の範囲内、膜厚の変動係数CVが50%以下とされている。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルによれば、溶媒を添加することで、前記酸化錫粒子が前記溶媒中に拡散し、酸化錫粒子分散液を得ることが可能となる。
よって、酸化錫粒子を酸化錫含有ゲルの状態で輸送することができ、輸送コストの削減を図ることができる。また、不揮発性の有機化合物からなる分散剤を用いる必要が無く、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することができる。
【0039】
ここで、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいて、一級アミンまたは二級アミンのいずれか一種又は二種を含む場合には、水や低級アルコール等の溶媒を添加することで、酸化錫粒子含有ゲルに含まれる酸化錫粒子を溶媒中に効率良く分散させることが可能となる。
【0040】
また、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいて、酸化錫粒子の含有量が25mass%以上65mass%以下の範囲内である場合には、酸化錫粒子を高濃度で含有しており、輸送コストを大きく削減することができる。
【0041】
さらに、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいて、酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされている場合には、ナノオーダーの膜厚の酸化錫粒子積層膜を安定して成膜することができる。
【0042】
また、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルにおいて、酸化錫粒子に異種元素がドープされている場合には、ドープする異種元素の種類および含有量により、求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
ここで、異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上である場合には、特に導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0043】
本実施形態である酸化錫粒子分散液の製造方法によれば、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加する溶媒添加工程S03を有することから、この溶媒添加工程S03によって、酸化錫粒子が溶媒中に十分に分散した酸化錫粒子分散液を作製することが可能となる。
【0044】
本実施形態である酸化錫粒子積層膜の製造方法によれば、本実施形態である酸化錫粒子含有ゲルに溶媒を添加して酸化錫粒子分散液を作製する溶媒添加工程S11と、得られた酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程S13と、を備えているので、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、酸化錫粒子積層膜が、
図1に示すペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を構成するものとして説明したが、これに限定される他の用途で使用されるものであってもよい。
【実施例0046】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0047】
塩化錫五水和物をイオン交換水に溶解してA液を得た。また、重炭酸アンモニウムをイオン交換水に溶解してB液を得た。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、発泡がおさまるまで静置して原料懸濁液とした。
原料懸濁液をデカンテーションして固形分を取り出し、この固形分1gに、表1に示すアミンまたはアミン溶液を添加し、1時間静置することにより、酸化錫粒子含有ゲルを得た。
【0048】
なお、本発明例6~17については、以下に示す手順によって表1に示すように、酸化錫粒子に異種元素をドープした。
Sbドープ:A液に塩化アンチモン(III)を添加し、その後、B液をA液に滴下した。
Pドープ:A液に三塩化リンを添加し、その後、B液をA液に滴下した。
Fドープ:A液にフッ化錫(IV)を添加し、その後、B液をA液に滴下した。
Sb,P共ドープ:A液に塩化アンチモン(III)を添加した後に、三塩化リンを添加し、その後、B液をA液に滴下した。
【0049】
得られた酸化錫粒子含有ゲルについて、以下のように評価した。
【0050】
(溶媒添加後の酸化錫粒子の分散状態)
得られた酸化錫粒子含有ゲル0.5gに対して、溶媒としてイオン交換水を添加後の酸化錫濃度が8mass%になる分量添加した。
そして、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 型式名:JEM-2010F)を用いて、倍率200,000倍で撮影した。撮影した像を、ソフトウェア(品名:Image J)により、100個の粒子の粒子径を測定し、その平均を算出することで求めた。このように測定した粒子径を、幾何学的粒子径とした。
また、溶媒を添加した酸化錫粒子含有ゲルを0.5mass%まで分散媒と同じ溶媒で希釈した後に、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液または1mol/L塩酸でpH=8.0に調整した。粒度分布測定装置(Malvern社製Zetasizer nano)を用いて、動的光散乱法にて粒子直径の個数分布を測定した。個数分布から平均値を算出し、流体力学的粒子径の値を得た。
上記流体力学的粒子径を上記幾何学的粒子径で除した値が2.5以下のものを分散していると判断した。
【0051】
(酸化錫粒子の1次粒子径)
酸化錫粒子含有ゲルに含まれる酸化錫粒子について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 型式名:JEM-2010F)を用いて、倍率200,000倍で撮影した。
撮影した像を、ソフトウェア(品名:Image J)により、100個の粒子の粒子径を測定し、その平均を算出することで求めた。
【0052】
(酸化錫粒子の含有量)
酸化錫粒子含有ゲル1gをアルミ皿にのせ、200℃の送風乾燥機にて2時間加熱した。加熱前後の重量変化を酸化錫粒子含有ゲルの重量で除し、酸化錫粒子含有ゲルに含まれる揮発分率(%)を算出した。そして、以下の式によって、酸化錫粒子の含有量を算出した。
酸化錫粒子の含有量(%)=100-揮発分率(%)
【0053】
(酸化錫粒子積層膜の導電性)
上述の酸化錫粒子分散液に対して、イオン交換水を添加して固形分濃度8mass%に希釈した。
希釈した酸化錫粒子分散液をスピンコーター(三笠株式会社 型式名:MS-A150)にて、500rpm、60秒の条件で、50mm×50mmのガラス基板上にスピンコートし、塗工膜を形成した。
塗工膜を形成したガラス基板を、ホットプレート上で、100℃、3分加熱することにより、酸化錫粒子積層膜を成膜した。
上述のようにして得られた酸化錫粒子積層膜について、表面抵抗測定器(品番:ロレスタAP MCP-T400 プローブ:ASPプローブ(四針)、三菱化学社製)にて抵抗測定した。
【0054】
【0055】
比較例1,2においては、溶媒を添加してもゲル中の酸化錫粒子が溶媒中に拡散せず、酸化錫粒子分散液を構成することができなかった。このため、塗工ができず、酸化錫粒子積層膜を成膜することができなかった。
これに対して、本発明例1~10においては、溶媒を添加することでゲル中の酸化錫粒子が溶媒中に拡散し、酸化錫粒子分散液を構成することができた。この酸化錫粒子分散液を塗工し、酸化錫粒子積層膜を成膜することができた。
【0056】
以上のように、本発明によれば、溶媒を添加することで分散処理を介さずに酸化錫粒子分散液とすることが可能な酸化錫粒子含有ゲル、この酸化錫粒子含有ゲルを用いた酸化錫粒子分散液の製造方法、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供可能であることが確認された。