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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158424
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水電解用電極材料
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20241031BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/073 20210101ALI20241031BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20241031BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B11/052
C25B11/073
C01B3/02 H
B01J23/78 M
B01J23/755 M
C01B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073613
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】岸 美保
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃代
(72)【発明者】
【氏名】長尾 誠也
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
4K011
【Fターム(参考)】
4G042BA10
4G042BB04
4G169AA03
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC09B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169ED10
4K011AA02
4K011AA21
4K011AA22
4K011AA48
4K011BA08
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】従来の水電解用電極材料よりも、水電解における過電圧が小さい水電解用電極材料を提供する。
【解決手段】 鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)とを含む、水電解用電極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)とを含む、水電解用電極材料。
【請求項2】
前記金属含有成分(B)の含有割合が、化合物(A)と金属含有成分(B)の合計100質量%に対して、0.5~95質量%である、請求項1に記載の水電解用電極材料。
【請求項3】
前記水電解用電極材料が、アルカリ水電解用電極材料である、請求項1又は2に記載の水電解用電極材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水電解用電極材料を含んで構成される、電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を備える、水電解セル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解用電極材料に関する。より詳しくは、水素及び酸素の製造等に有用な水電解用電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、化石燃料に代わる環境に優しいエネルギーとして、近年注目されている。水素を製造する方法には、化石燃料の改質、工業プロセスから発生する副生ガス、バイオマスガス化等様々な方法が挙げられるが、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解する方法は、二酸化炭素を排出せず、クリーンな方法として開発が進められている。
【0003】
水の電気分解では、水に電流を流すことにより陽極において酸素が発生し、陰極において水素が発生する。電極反応を進行するためには、反応物質である水を活性化させるために理論電圧に対して過剰な電圧(過電圧)をかける必要がある。しかし、過電圧は、電気分解におけるエネルギー損失の要因であるため、過電圧を低減する技術が求められている。
【0004】
陽極の過電圧を低減する技術に関して、非特許文献1には、CaFe等の鉄及びカルシウムをベースとする複合酸化物触媒が開示されている。しかし、CaFeには導電性がないため、非特許文献1では酸素発生能を測定するために導電助剤としてカーボンを加えているが、水電解の陽極環境下ではカーボンは容易に分解するため使用できない。CaFe単独では、電子伝導性がほとんどないため電気化学的に有効な表面積が低くなり、実用条件下でCaFeを陽極触媒に使用することは困難である。
【0005】
特許文献1には、ニッケル多孔基材と、該基材の表面上の少なくとも一部に形成された、所定の式で表される組成を有するペロブスカイト型構造の金属酸化物を含む薄膜を有する水電解用陽極が開示されている。また、特許文献2にも、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物触媒を用いた水電解用の陽極が開示されている。また、特許文献3には、水の電気分解により酸素を発生させるための陽極に含まれる触媒であって、コバルトの含有量が鉄に対して5mol%以上45mol%以下のゲータイトの粒子であり、 ターフェル勾配が26mV/dec以上55mV/dec以下である触媒が開示されている。特許文献4には、銅を含む電極基材上に銅の酸化物と、ニッケル、鉄及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種と、マンガン、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/047792号
【特許文献2】国際公開第2018/155503号
【特許文献3】特開2019-112697号公報
【特許文献4】特開2021-070864号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y スガワラ(Y Sugawara) 他3名、アプライド エナジー マテリアルズ(Applied Energy Materials),2021年,第4巻,p3057-3066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、従来種々の水電解用電極が開発されており、過電圧を低減する技術が検討されている。しかし、従来の水電解用電極は、過電圧の低減において充分ではなく、従来の水電解用電極材料よりも水電解における過電圧が小さい水電解用電極材料が求められていた。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来の水電解用電極材料よりも、水電解における過電圧が小さい水電解用電極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、水電解用電極材料について種々検討したところ、鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分とを含むものとすることにより、水電解における過電圧を低下させることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
本発明は、以下の水電解用電極材料等を包含する。
〔1〕鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)とを含む、水電解用電極材料。
〔2〕上記金属含有成分(B)の含有割合が、化合物(A)と金属含有成分(B)の合計100質量%に対して、0.5~95質量%である、上記〔1〕に記載の水電解用電極材料。
〔3〕上記水電解用電極材料が、アルカリ水電解用電極材料である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の水電解用電極材料。
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の水電解用電極材料を含んで構成される、電極。
〔5〕上記〔4〕に記載の電極を備える、水電解セル。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水電解用電極材料は、上述の構成よりなり、従来の水電解用電極材料よりも、水電解における過電圧が小さいため、水の電気分解による水素の製造等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0014】
1.水電解用電極材料
本発明の水電解用電極材料は、鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)とを含む。
上記水電解用電極材料は、上記化合物(A)と金属含有成分(B)とを含むものであればよいが、化合物(A)と金属含有成分(B)とが少なくとも一部において接着していることが好ましい。上記化合物(A)と金属含有成分(B)とが接着している場合、化合物(A)と金属含有成分(B)が界面を形成することとなる。上記水電解用電極材料としてより好ましくは、上記化合物(A)に金属含有成分(B)が担持されている形態である。
上記水電解用電極材料は、上記化合物(A)と金属含有成分(B)とを組み合わせることにより、電子伝導性の低い鉄を含む化合物(A)の導電性を高め、触媒表面から電極への電子伝導を円滑にすることができる。これにより、水電解用電極において電気化学的有効面積を増加させ、電解電流値を増加させることで質量活性が向上する。
【0015】
上記水電解用電極材料における金属含有成分(B)の割合は特に制限されないが、化合物(A)と金属含有成分(B)の合計100質量%に対して、0.5~95質量%であることが好ましい。これにより、水電解における過電圧をより充分に低下させることができる。
上記金属含有成分(B)の割合としてより好ましくは1~95質量%であり、更に好ましく5~90質量%であり、一層好ましくは10~85質量%であり、より一層好ましくは20~80質量%であり、更に一層好ましくは30~75質量%であり、特に好ましくは35~70質量%である。
【0016】
上記水電解用電極材料は、金属含有成分(B)中にニッケル元素及び/又はコバルト元素を含むものであり、その割合は特に制限されないが、金属含有成分(B)中のニッケル元素及び/又はコバルト元素と化合物(A)中の鉄元素の合計100モル%に対して、ニッケル元素及び/又はコバルト元素の割合は、1~99モル%であることが好ましい。より好ましくは50~90モル%である。
【0017】
上記水電解用電極材料における化合物(A)は、鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
鉄を含む酸化物は、鉄と酸素とを含むものであれば、鉄以外の金属元素を含む複合酸化物であってもよい。
上記鉄を含む酸化物としては、下記式(1);
Fe(III)x1Fe(II)x2α1 (1)
(式中、Mは、鉄以外の金属元素を表す。α1は、酸素元素の個数を表し、0より大きい数である。x1、x2、yは、同一又は異なって、0以上の数を表す。但し、x1、x2の少なくとも一方は、0より大きい数である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
Mは、鉄以外の金属元素であれば特に制限されず、上記式(1)で表される化合物中に1種又は2種以上含んでいてもよい。鉄以外の金属としては、例えば1~7価の金属が挙げられる。
【0019】
1価の金属としては、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、銀、銅(I)等が挙げられる。
【0020】
2価の金属としては、鉄以外であれば特に制限されないが、ニッケル(II)、コバルト(II)、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、銅(II)、マンガン(II)、クロム(II)等が挙げられる。中でも好ましくはカルシウムである。
【0021】
3価の金属としては、鉄以外であれば特に制限されないが、ニッケル(III)、コバルト(III)、アルミニウム、ガリウム、クロム(III)、ジルコニウム(III)、マンガン(III)、イットリウム、ランタン、セリウム(III)、ガドリニウム等が挙げられる。
4価の金属としては、特に制限されないが、ニッケル(IV)、コバルト(IV)、チタニウム、ジルコニウム(IV)、マンガン(IV)等が挙げられる。
【0022】
5価の金属としては、ニオブ、タンタル、アンチモン等が挙げられる。
6価の金属としては、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
7価の金属としては、マンガン(VII)、テクネチウム等が挙げられる。
【0023】
上記式(1)において、x1、x2は、少なくとも一方が0より大きい数であればよいが、x2が0のとき、x1は1以上であることが好ましい。
x1が0のとき、x2は1以上であることが好ましい。
また、x1、x2がそれぞれ1以上である形態も好ましい実施形態の1つである。
x1、x2は、同一又は異なって、5以下の数であることが好ましい。より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
【0024】
上記式(1)において、yは、鉄以外の金属元素の個数を表し、0以上の数である。上記式(1)で表される化合物中に鉄以外の金属を複数種類含む場合、yは鉄以外の金属の合計の数を表す。
yとして好ましくは5以下の数であり、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下であり、特に好ましくは2以下である。
【0025】
上記式(1)において、α1は、酸素元素の個数を表し、0より大きい数である。
α1は、式(1)におけるx1、x2及びyとMの金属の価数mにより定まり、α1=3/2x1+x2+1/2Σ(m×y)を満たす。
上記式においてΣは、式(1)で表される化合物中に含まれる鉄以外の金属の価数mとその個数yの積の和を示す。
【0026】
上記式(1)におけるMとして好ましくは鉄、コバルト以外の金属であり、より好ましくは鉄、ニッケル、コバルト以外の金属である。
上記鉄を含む酸化物として好ましくは、FeO、Fe、Fe、CaFe等であり、より好ましくはFe、CaFeである。
【0027】
上記鉄を含む水酸化物は、鉄とOHとを含むものであれば、鉄以外の金属やOH以外に更にOを含む複合水酸化物であってもよい。
上記鉄を含む水酸化物としては、下記式(2);
Fe(III)p1Fe(II)p2(OH)βα2 (2)
(式中、Mは、鉄以外の金属元素を表す。p1、p2、q、α2は、同一又は異なって、0以上の数を表す。但し、p1、p2の少なくとも一方は、0より大きい数である。βはOHの個数を表し、0より大きい数である。)で表される化合物であることが好ましい。
上記式(2)におけるMの具体例は、式(1)におけるMと同様である。
【0028】
上記式(2)において、p1、p2は、少なくとも一方が0より大きい数であればよいが、p2が0のとき、p1は1以上であることが好ましい。
p1が0のとき、p2は1以上であることが好ましい。
また、p1、p2がそれぞれ1以上であってもよい。
p1、p2は、同一又は異なって、5以下の数であることが好ましい。より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
【0029】
上記式(2)において、qは、0以上の数である。上記式(2)で表される化合物中に鉄以外の金属を複数種類含む場合、qは鉄以外の金属の合計の数を表す。qとして好ましくは5以下の数であり、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下であり、特に好ましくは2以下である。qが0である形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0030】
上記式(2)において、α2は、酸素の個数を表す。好ましくは5以下の数であり、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、特に好ましくは1以下である。α2が0である形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記式(2)において、βは、OHの個数を表し、0より大きい数である。好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上である。また、βは、好ましくは5以下の数であり、より好ましくは4以下である。
【0031】
上記鉄を含む水酸化物としては特に限定されないが、Fe(OH)、Fe(OH)、FeO(OH)、鉄を含むハイドロタルサイト等が挙げられる。好ましくはFe(OH)である。
【0032】
上記水電解用電極材料における金属含有成分(B)は、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である。
上記酸化物としては、ニッケル及び/又はコバルトの酸化物であればよく、ニッケル及びコバルトの複合酸化物であってもよい。
ニッケル酸化物としては、NiO、 Niが挙げられる。
コバルト酸化物としては、CoO、 Co、Coが挙げられる。
金属含有成分(B)として好ましくは金属ニッケル、金属コバルト、NiO、Coであり、より好ましくは金属ニッケル、NiOである。
【0033】
上記水電解用電極材料は、比表面積が5~250m/gであるものが好ましい。このような比表面積であれば、水電解用電極材料をペーストとして電極に塗布する際の吸油量が好適な範囲となる。上記比表面積としてより好ましくは10~40m/gであり、更に好ましくは10~30m/gである。
上記比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
上記水電解用電極材料は、体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、触媒の導電性は高くなり、触媒表面から電極への電子伝導および触媒粒子間の電気伝導を円滑にすることができる。上記体積抵抗率としてより好ましくは5.0×10Ω・cm以下であり、更に好ましくは1.0×10Ω・cm以下である。
上記体積抵抗率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
上記水電解用電極材料は、上記化合物(A)と金属含有成分(B)とを含むものであればよいが、化合物(A)、金属含有成分(B)以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては特に制限されないが、鉄、ニッケル及びコバルト以外の金属元素の水酸化物又は酸化物、金属、高分子等が挙げられる。
上記鉄、ニッケル及びコバルト以外の金属としては、上述のMにおける金属が挙げられる。
上記その他の成分の含有割合としては特に制限されないが、化合物(A)と金属含有成分(B)の合計100質量%に対して、0~20質量%であることが好ましい。より好ましくは0~10質量%であり、更に好ましくは0~5質量%であり、最も好ましくは0質量%である。
【0036】
2.水電解用電極材料の製造方法
本発明の水電解用電極材料の製造方法は、特に制限されないが、化合物(A)と、金属含有成分(B)とを混合することにより、又は、化合物(A)及び/又は化合物(A)の原料と、金属含有成分(B)及び/又は金属含有成分(B)の原料とを混合し、該混合物を焼成することにより製造することができる。
本発明の水電解用電極材料の製造方法は、化合物(A)及び/又は化合物(A)の原料と、金属含有成分(B)及び/又は金属含有成分(B)の原料とを混合する工程を含むことが好ましい。
上記水電解用電極材料の製造方法は、上記混合工程で得られた混合物を焼成する工程を含んでいてもよい。
上記混合工程において、化合物(A)の原料及び/又は金属含有成分(B)の原料を用いる場合、上記混合工程で得られた混合物を焼成する工程を含むことが好ましい。
【0037】
本発明の水電解用電極材料の製造方法は、鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)及び/又は鉄元素を含む原料と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)及び/又はニッケル元素若しくはコバルト元素を含む原料とを混合する工程を含むことが好ましい。
【0038】
上記混合工程で用いることができる化合物(A)の原料としては、鉄元素を含む化合物が挙げられる。
鉄元素を含む化合物としては、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、塩基性酢酸鉄(III)、炭酸鉄(II)等の化合物及びこれらの水和物や、金属鉄等が挙げられる。
【0039】
上記混合工程で用いることができる化合物(A)の原料として、鉄元素を含む化合物とともに鉄以外の金属を含む化合物を用いてもよい。
上記鉄以外の金属を含む化合物としては、上述のMにおける金属を含む硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、塩化物、水酸化物、酢酸塩等が挙げられる。
化合物(A)の原料において、鉄以外の金属がカルシウムである場合、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0040】
本発明の水電解用電極材料が、化合物(A)として鉄以外の金属を含む複合酸化物を含む場合、酸化鉄、水酸化鉄及び上記鉄元素を含む化合物からなる群より選択される少なくとも1種と上記鉄、ニッケル、コバルト以外の金属を含む化合物との混合物を焼成して得た化合物(A)を上記混合工程で用いることが好ましい。
上記焼成における焼成温度は、300~1400℃であることが好ましい。
上記焼成の焼成時間は、0.5~24時間であることが好ましい。
【0041】
上記混合工程で用いることができる金属含有成分(B)の原料としては、ニッケル元素及び/又はコバルト元素を含む化合物であればよい。具体的には、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)、塩基性炭酸ニッケル(II)等の化合物及びこれらの水和物や、金属ニッケル等;酢酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、水酸化コバルト(II)、炭酸コバルト(II)、塩基性炭酸コバルト(II)等の化合物及びこれらの水和物や、金属コバルト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硝酸ニッケル、酢酸コバルトが好ましい。
【0042】
上記化合物(A)及び/又は化合物(A)の原料と、金属含有成分(B)及び/又は金属含有成分(B)の原料とを混合する工程は、乾式混合でも湿式混合でもよい。
化合物(A)と金属含有成分(B)とを混合する場合、乾式混合が好ましい。
上記混合工程において、化合物(A)の原料及び/又は金属含有成分(B)の原料を用いる場合、上記混合工程は、湿式混合が好ましい。
湿式混合に用いる溶媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル化合物等を使用することができ、水が好ましい。
【0043】
上記混合工程において、溶媒を使用する場合、焼成工程の前に溶媒を除去することが好ましい。これにより焼成工程を効率的に行うことができる。
溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、混合物を加熱する方法が好ましい。加熱温度は、60~150℃が好ましく、より好ましくは80~120℃である。
また加熱時間は5~30時間であることが好ましい。より好ましくは、10~20時間である。
【0044】
上記混合工程で得られた混合物を焼成する工程において、焼成する温度は、100~600℃であることが好ましい。より好ましくは、200~600℃である。更に好ましくは、300~500℃である。
また焼成する時間は、10~480分であることが好ましい。より好ましくは、30~240分である
【0045】
上記焼成は、大気雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気、又は真空雰囲気下で行うことができる。還元雰囲気としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス中に水素等の還元性ガスを、0を超え100vol%以下含む雰囲気を用いることができる。
本発明の水電解用電極材料における上記金属含有成分(B)として、金属ニッケル及び/又は金属コバルトを用いる場合、還元雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0046】
3.水電解用電極
本発明の水電解用電極材料は、水電解用電極に好適に用いることができる。 本発明の水電解用電極材料を含んで構成される電極もまた本発明の1つである。
本発明の水電解用電極は、水電解用の陽極として用いることが好ましい。
【0047】
上記電極は、本発明の水電解用電極材料を含むものであれば特に制限されないが、導電性基材を含むことが好ましい。上記電極は、導電性基材上に上記水電解用電極材料を有する形態が好ましい。
上記導電性基材の材質としては、例えば、ニッケル、ニッケルを主成分とした材料、チタン、GC(Glassy Carbon)、タンタル、ジルコニウム、金、銀、銅、パラジウム、白金、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。
【0048】
4.水電解セル
本発明の水電解用電極は、水電解セルに好適に用いることができる。本発明の水電解用電極を備える水電解セルもまた本発明の1つである。
上記水電解セルは、少なくとも、陽極としての本発明の水電解用電極と、これと電気的に接続された陰極とを含むことが好ましい。
【0049】
5.水素の製造方法
本発明の水電解用電極材料は、水を分解して水素を製造する反応に好適に用いることができる。このような本発明の水電解用電極材料を用いて水を分解する工程を含む水素の製造方法もまた、本発明の1つである。
【実施例0050】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」とは「重量%」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0051】
<触媒の体積抵抗測定>
粉末の体積抵抗の測定には、粉体抵抗測定システムMCP-PD51型(三菱化学アナリテック社製)を用いた。粉体抵抗測定システムは、油圧による粉体プレス部と四探針プローブ、高抵抗測定装置(同社製 ロレスターGX MCP-T700)から構成される。
以下の手順に従い、体積抵抗率(Ω・cm)の値を求めた。
1)四探針プローブを底面に備えたプレス冶具(直径20mm)にサンプル粉末を投入し、粉体抵抗測定システムの加圧部にセットした。
2)粉体プレス部を20kNまで加圧した後、粉体厚みをデジタルノギスで測定、抵抗値を高抵抗測定装置で測定した。
3)粉体の厚み、抵抗値から下記数式に基づき体積抵抗率(Ω・cm)の値を求めた。
(体積抵抗率)=(抵抗値)×(抵抗率補正係数)×(厚み)
【0052】
<比表面積(BET-SSA) >
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、200℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、比表面積(BET-SSA)を測定した。
【0053】
<酸素発生過電圧及び質量活性>
酸素発生過電圧は、室温下で1Mの水酸化カリウム溶液を酸素飽和させた状態で1600rpmの電極回転速度で電位を1.2Vから1.8Vまで10mVs-1の速度で掃引することで測定した。電解液の水酸化カリム溶液は、測定前に酸素バブリングによって1時間飽和させた。測定は三電極法で行い、対極には白金ワイヤーを、参照極には水銀-酸化水銀電極(Hg/HgO)を使用した。酸素発生過電圧は、得られた10mA時の電圧から水から酸素発生の酸化還元電位である1.23Vを引くことで算出した。
質量活性は上記測定時の1.6Vの電流値を触媒使用量で除して、触媒量1mgあたりの電流値として算出した。
【0054】
<実施例1>
酸化鉄(III)37.04gと炭酸カルシウム(堺化学工業社製 製品名『CWS』)23.33g、3mmΦビーズ272.00g、イオン交換水120.75gを、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)により250rpmで30分間湿式混合した。次いで、ビーズを除去し130℃に設定した乾燥機内で加熱し乾燥し、前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を大気雰囲気下で900℃まで昇温し4時間保持した後、室温まで自然冷却して焼成物を得た。
焼成物54.00gを遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)により250rpmで120分間湿式粉砕し、130℃で加熱乾燥しCaFe粉末を得た。
市販の和光純薬工業株式会社製の酸化ニッケル(II,III) 2.00gと上記CaFe粉末2.00gを秤量してメノー乳鉢で10分間混合し、実施例1粉末を得た。
【0055】
<実施例2>
硝酸ニッケル六水和物28.82gとイオン交換水14mLを秤量して蒸発皿に入れ撹拌した後、実施例1で得たCaFe粉末を0.30g秤量して前記蒸発皿に入れ、撹拌した。100-150℃に設定したホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末をアルミナ製ボートに入れ、窒素中に5vol%の水素を含む混合ガスを800mL/分で流通しながら400℃まで昇温し、400℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例2粉末を得た。
【0056】
<実施例3>
CaFe粉末の添加量を1.20g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を24.27g、イオン交換水の添加量を12mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例3粉末を得た。
【0057】
<実施例4>
CaFe粉末の添加量を3.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を22.14g、イオン交換水の添加量を9mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例4粉末を得た。
【0058】
<実施例5>
CaFe粉末の添加量を3.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を11.49g、イオン交換水の添加量を9mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例5粉末を得た。
【0059】
<実施例6>
CaFe粉末の添加量を5.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を7.98g、イオン交換水の添加量を15mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例6粉末を得た。
【0060】
<実施例7>
CaFe粉末の添加量を5.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を2.79g、イオン交換水の添加量を15mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例7粉末を得た。
【0061】
<実施例8>
CaFe粉末の添加量を5.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を1.33g、イオン交換水の添加量を15mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例8粉末を得た。
【0062】
<実施例9>
CaFe粉末の添加量を5.00g、硝酸ニッケル六水和物の添加量を0.26g、イオン交換水の添加量を15mLとした以外は実施例2と同様の方法で、実施例9粉末を得た。
【0063】
<実施例10>
硝酸ニッケル六水和物22.14gを酢酸コバルト四水和物9.71g、イオン交換水の添加量を30mLとした以外は実施例4と同様の方法で、実施例10粉末を得た。
【0064】
<実施例11>
酢酸コバルト(II)四水和物9.71gとイオン交換水30mLを秤量して蒸発皿に入れ撹拌した後、実施例1で得たCaFe粉末を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、撹拌した。100-150℃に設定したホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末をアルミナ製ボートに入れ、大気雰囲気下で400℃まで昇温し、400℃で4時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例11粉末を得た。
【0065】
<実施例12>
硝酸ニッケル六水和物の添加量を11.49g、CaFe粉末3.00gを酸化鉄(III)3.00gとした以外は実施例4と同様の方法で、実施例12粉末を得た。
【0066】
<実施例13>
塩化カルシウム11.10gを400mLのイオン交換水に溶解させ溶液Aとした。塩化鉄六水和物54.06gを800mLのイオン交換水に溶解させ溶液Bとした。溶液Aと溶液Bを混合し、pH13になるまで1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を添加した。得られた沈殿物をろ過し、イオン交換水で洗浄した。次いで、130℃に設定した乾燥機内で加熱乾燥し、水酸化カルシウムと水酸化鉄の混合物を得た。得られた上記混合物2.00gと市販の和光純薬工業株式会社製の酸化ニッケル(II,III)粉末2.00gを秤量してメノー乳鉢で10分間混合し、実施例13粉末を得た。
【0067】
<比較例1>
硝酸ニッケル六水和物5.00gをアルミナボートにいれ、大気雰囲気下で400℃まで昇温し4時間保持した後、室温まで自然冷却して焼成粉末を得た。次いで、窒素中に5vol%の水素を含む混合ガスを800mL/分で流通しながら400℃まで昇温し、400℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例1粉末を得た。
【0068】
<比較例2>
市販の和光純薬工業株式会社製の酸化コバルト(II,III)を比較例2粉末として使用した。
【0069】
<比較例3>
実施例1で得たCaFe粉末を比較例3粉末として使用した。
【0070】
<比較例4>
硝酸ニッケル六水和物22.14gを硝酸銅三水和物8.73gとした以外は実施例4と同様の方法で、比較例4粉末を得た。
【0071】
<比較例5>
市販の和光純薬工業株式会社製のチタン粉末2.00gと実施例1で得たCaFe粉末2.00gを秤量してメノー乳鉢で10分間混合し、比較例5粉末を得た。
【0072】
実施例、比較例で得た実施例1~13粉末又は比較例1~5粉末について体積抵抗及び比表面積を測定し、結果を表1に示した。
【0073】
<電極の作製>
実施例、比較例で得た実施例1~13粉末又は比較例1~5粉末5mg、5.0wt%Nafion(登録商標)溶液7μL、イソプロピルアルコール900μL、超純水2100μLを秤量し、30分間超音波分散処理した。得られたスラリーを回転ディスク電極に7μL滴下し、各種電極を得た。得られた電極を用いて酸素発生過電圧及び質量活性を測定し結果を表1に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
上記結果より、金属含有成分(B)としてNiのみの比較例1及び化合物(A)としてCaFeのみの比較例3に対して、CaFeとNiとを含む実施例2~9は、過電圧が低く、質量活性が高いことが示された。
また、金属含有成分(B)としてCoのみの比較例2に対して、CaFeとCoとを含む実施例11も過電圧が低く、質量活性が高いことが示された。
また、実施例1において金属含有成分(B)としてNiOを用いた場合にも、Niを用いた実施例と同様の効果を発揮することが示された。
実施例10において金属含有成分(B)としてCoを用いた場合にも、Coを用いた実施例11と同様の効果を発揮することが示された。
更に、実施例12、13において化合物(A)として酸化鉄又は水酸化鉄を用いた場合にも、過電圧を低減し、質量活性を向上させることが示された。
一方、比較例4、5において、化合物(A)に銅又はチタンを組み合わせた場合には、過電圧を低減することができず、質量活性も向上しなかった。
以上より、鉄を含む酸化物、及び、鉄を含む水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(A)と、ニッケル、コバルト、及び、これらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属含有成分(B)とを組み合わせることにより、過電圧の低減と触媒活性の向上とを両立し、質量活性を高めることができることが明らかとなった。