(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158445
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物、それを用いた筆記具、およびインキ収容体
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20241031BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073654
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】大越 あや
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350GA03
2C350GA04
2C350KA03
4J039BC10
4J039BC27
4J039BC35
4J039BC50
4J039BC55
4J039BE03
4J039BE04
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE32
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA15
4J039EA16
4J039EA17
4J039EA19
4J039EA44
4J039GA27
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】本発明は、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物、それを用いた筆記具、およびインキ収容体を提供する。
【解決手段】着色剤、イソチアゾリン系防腐剤、ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群から選択されるキレート剤、および水を含んでなる筆記具用インキ組成物、それを用いた筆記具、ならびにインキ収容体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、
イソチアゾリン系防腐剤、
ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群から選択されるキレート剤、および
水
を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記着色剤が、染料である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記イソチアゾリン系防腐剤が、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、およびN-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記キレート剤が、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびグリコールエーテルジアミン四酢酸ナトリウム塩からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記キレート剤が、グリコールエーテルジアミン四酢酸、またはグリコールエーテルジアミン四酢酸ナトリウム塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記イソチアゾリン系防腐剤の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、0.0001~1質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記キレート剤の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、0.001~5質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記筆記具が、くし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具または繊維収束体を利用したインキ供給機構を備える筆記具である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8に記載の組成物をガラス製インキ収容部に収容してなるインキ収容体。
【請求項10】
請求項1~8に記載の組成物を収容してなる筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物、それを用いた筆記具、およびインキ収容体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、万年筆やマーカー類など繰り返しインキを充填して使用される筆記具に用いられる筆記具用水性インキ組成物は、補充用インキとしてガラス瓶などの容器に収容されている。ガラス瓶は、安価で成形が容易であり、所望の強度が得やすい為、広く利用されているが、水性インキを収容した状態で長期間経時することで、水性インキ中にアルカリ成分などのガラスの成分が溶出することが知られている。用いるインキによっては、経時保存後に溶出したガラス成分である金属イオンとインキ中の成分が反応して析出物が形成されることがあり、そのインキを使用した筆記具において、筆跡がかすれたり、筆記不能になるなど、筆記性能に影響を及ぼすことがある。
そこで、ガラス製の収容部にインキ組成物を収容した際に、析出物の生成を抑制するために、キレート剤を含むインキ組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、インキ組成物がイソチアゾリン系防腐剤を含む場合に、特定のキレート剤を配合することで析出物の生成を抑制できることを見出した。よって、本発明は、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物、それを用いた筆記具、およびインキ収容体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、
着色剤、
イソチアゾリン系防腐剤、
ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群から選択されるキレート剤、および
水
を含んでなる。
【0006】
本発明によるインキ収容体は、上記の筆記具用水性組成物をガラス製インキ収容部に収容してなる。
【0007】
本発明による筆記具は、上記の筆記具用水性インキ組成物を収容してなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、析出物の生成を抑制し、保存安定性に優れるインキ組成物、それを用いた筆記具、およびインキ収容体を提供できる。本発明によるインキ組成物は、アルカリ成分が溶出しやすいガラス製インキ収容体に収容された場合にでも、析出物の生成を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有率とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0010】
<筆記具用水性インキ組成物>
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、インキ組成物と称することがある)は、
着色剤、
イソチアゾリン系防腐剤、
ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群から選択されるキレート剤、および
水
を含んでなる。
以下、本発明のインキ組成物における構成成分について、詳細に説明する。
【0011】
[着色剤]
本発明に用いられる着色剤としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられ、好ましくは染料である。
【0012】
染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素など各種染料が挙げられる。特に、酸性染料は、長期的に溶出するガラス由来のアルカリ成分と反応して、水への溶解性が比較的小さい塩を形成し、析出物となり易い。
【0013】
酸性染料として具体的には、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、アシッドレッド52、アシッドレッド289、アシッドレッド388、アクリジンレッド(C.I.45000)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G(C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ、ローダミン116、ローダミンB(C.I.45170)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩、ローダミン3B、ローダミン19、スルホローダミン、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミンS(C.I.45050)、ローダミンG(C.I.45150)、エチルローダミンB(C.I.45175)、ローダミン4G(C.I.45166)、ローダミン3GO(C.I.45215)、スルホローダミンGなどが挙げられる。
塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)などが挙げられ、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)などが挙げられる。
【0014】
顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。その他、着色樹脂粒子として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いてもよい。顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子や、無色樹脂粒子を顔料もしくは染料で着色した着色樹脂粒子等を用いることもできる。
【0015】
着色剤は、1種または2種以上の組み合わせであってよい。着色剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、好ましくは0.05~30質量%であり、より好ましくは0.1~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
【0016】
[イソチアゾリン系防腐剤]
本発明によるインキ組成物は、イソチアゾリン系防腐剤を含んでなる。イソチアゾリン系防腐剤とは、イソチアゾリノン誘導体の防腐剤の総称であり、特に限定されない。
イソチアゾリン系防腐剤は、好ましくは、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(BIT)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、およびN-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンからなる群から選択され、より好ましくは、MIT、BIT、およびOITからなる群から選択される。
【0017】
イソチアゾリン系防腐剤は、1種または2種以上の組み合わせであってよく、MIT、BIT、およびOITの組み合わせからなる群から選ばれる2種以上の組み合わせがより好ましい。イソチアゾリン系防腐剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、好ましくは0.0001~1質量%であり、より好ましくは0.001~0.1質量%であり、さらに好ましくは0.01~0.1質量%である。
【0018】
[キレート剤]
本発明によるインキ組成物は、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、およびそれらの塩からなる群から選択されるキレート剤(以下、キレート剤と称することがある)を含んでなる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、およびアミン塩などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
本発明に用いられるキレート剤は、好ましくは、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、およびグリコールエーテルジアミン四酢酸ナトリウム塩からなる群から選択され、より好ましくは、グリコールエーテルジアミン四酢酸、またはグリコールエーテルジアミン四酢酸ナトリウム塩である。
【0019】
キレート剤は、1種または2種以上の組み合わせであってよい。キレート剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、好ましくは0.001~5質量%であり、より好ましくは0.005~3質量%であり、さらに好ましくは0.01~1質量%であり、特に好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0020】
本発明によるインキ組成物は、特定のキレート剤を含むことで、保存安定性を向上させることができる。理論に拘束されないが、この効果は以下の理由によるものと考えられる。
インキ組成物中の成分と、ガラス製インキ収容部から溶出するアルカリ成分などのガラスの成分との反応により、析出物が形成されると考えられるところ、特定のキレート剤は、ガラスの成分を補足することにより、インキ組成物中の成分との反応を抑制することができると考えられる。
【0021】
[水]
本発明によるインキ組成物は、水を含んでなる。水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
【0022】
<その他の添加剤>
本発明によるインキ組成物は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。用いることができる添加剤について説明すると以下の通りである。
【0023】
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。
水溶性有機溶剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは0.1~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
【0024】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性の塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。
pH調整剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0025】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンなどが挙げられる。
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0026】
本発明によるインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具用の水性インキとして用いることができる。特に、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具、マーカー類などに代表される繊維収束体を利用したインキ供給機構を備える筆記具など、毛細管現象を利用したインキ供給機構を備える筆記具は、そのインキ供給機構などから、インキ組成物中に析出物などの不溶物があると、インキ流路を塞ぎインキの供給が少なくなり、筆記する際にその筆跡がかすれたり、インキの供給が途切れた際には筆記不能になる場合があったが、本発明による筆記具用水性インキ組成物においては、インキ流路を析出物などの不溶物で塞がれることがないため、好適に用いられる。
【0027】
本発明によるインキ組成物の粘度は、使用される筆記具に適当な粘度に設定することが可能であり、好ましくは1~50mPa・sであり、より好ましくは1~10mPa・sであり、さらに好ましくは1~2mPa・sである。インキ組成物の粘度は、B型回転粘度計を用いて、20℃、回転数60rpmの条件下で測定し、測定器には例えば、BII型粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社)を適用できる。
【0028】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0029】
<インキ収容体>
本発明によるインキ収容体は、ガラス製容器のインキ収容部に本発明によるインキ組成物を収容してなるものである。インキ組成物を収容するガラス製のインキ収容部は、インキ組成物と接触する部分がガラスであり、ガラス瓶等、単一のガラス製品でできたものや、インキ収容部の外側に樹脂や木材、漆塗装等の外装(装飾)を施したものが使用できる。
【0030】
本発明に用いるガラス製のインキ収容部として、ガラスの中でも廉価で成形性が高いソーダ石灰ガラスを用いることが好ましい。ソーダ石灰ガラスは、アルカリ成分の含有量が高いため、アルカリ成分が溶出され易い(一般的なソーダ石灰ガラスの組成では、酸化アルカリ金属:13~16質量%、酸化アルカリ土類金属:10~13質量%で含有される)。この為、析出物など不溶物が生成しやすくなるが、本発明のインキ組成物を用いることで、析出物など不溶物の生成を抑制できることから、インキ組成物とソーダ石灰ガラスを使用したガラス製のインキ収容部との組合せの時に、特に高い効果が発揮される。
【0031】
<筆記具>
本発明の筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用できる。本発明による筆記具としては、例えば、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類などが挙げられるが、好ましくは、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具、またはマーカー類などに代表される繊維収束体を利用したインキ供給機構を備える筆記具であり、より好ましくはくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具である。
【実施例0032】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
下記成分および各配合量にて、プロペラ撹拌により撹拌混合を行い、インキ組成物を得た。
・C.Iアシッドレッド289 2質量%
・1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(BIT) 0.01質量%
・2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT) 0.01質量%
・ニトリロ三酢酸(NTA)・3H 0.05質量%
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー 0.05質量%
・ジエチレングリコール 2質量%
・トリエタノールアミン 1質量%
・水 残余
得られたインキ組成物の粘度をB型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社、サンプル量20ml)により測定したところ、20℃での回転速度60rpmにおける粘度は1.39mPa・sであった。
得られたインキ組成物のpHをpHメーター(HM-30R型、東亜ディーケーケー株式会社)を用いて、20℃にて測定したところ、pH値は8.97であった。
【0034】
<実施例2~実施例9、比較例1~4>
実施例2~9および比較例1~4は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表1および表2に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同じ方法でインキ組成物を得た。
各インキ組成物の粘度とpH値についても、実施例1と同じ方法で測定した。
【0035】
【表1】
【表2】
表中、
・BIT:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、
・MIT:2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、
・NTA・3H:「キレストNT」、キレスト株式会社、
・NTA・3Na・H
2O:「キレストNTA」、キレスト株式会社、
・GEDTA・H・3Na・3H
2O:「キレストGEA」、キレスト株式会社、
・EDTA・H・3Na・3H
2O:「キレストC」、キレスト株式会社、
・EDTA・4Na・3H
2O:「キレスト3D」、キレスト株式会社。
【0036】
<検鏡>
各インキ組成物をソーダ石灰ガラス製のガラス瓶に50ml投入し、樹脂製キャップを螺着した。50℃の環境下で放置し、4週後、8週後、12週後のインキ組成物を顕微鏡により観察し、以下の基準により評価した。
A:析出物が確認されなかった。
B:析出物が少量観察された。
C:析出物が中量観察された。
D:析出物が多量に確認された。
【0037】
<筆記試験>
50℃環境下に12週放置した実施例1~9のインキ組成物を万年筆に充填して筆記し、筆跡を目視で観察したところ、カスレや途切れのない鮮明な筆跡が得られた。試験用の万年筆には商品名:カクノ(株式会社パイロットコーポレーション)を使用し、筆記用紙A(旧JIS P3201に準拠)にアルファベット「V」(文字の大きさ:縦横約8mm)を連続筆記した。