(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158446
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20241031BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20241031BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M50/491
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073657
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021HH00
5H021HH02
5H021HH05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ00
5H029HJ08
5H029HJ09
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050HA00
5H050HA08
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池において、ハイレート劣化を抑制すること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池1は、正極合材層を有する正極板3と、負極合材層22を有する負極板2が、セパレータ4を介して積層された電極体12を備え、セパレータ4の空隙率より負極合材層22の空隙率を高く設定した。このため充電時にリチウムイオンLi
+が負極板2表面に偏ることを抑制できる。同様に、セパレータ4の空隙率より正極合材層の空隙率を高く設定した。このため放電時にもリチウムイオンLi
+が正極板3の表面に偏ることを抑制できる。そのため、リチウムイオンLi
+の偏りに起因するハイレート劣化を抑制することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合材層を有する正極板と、負極合材層を有する負極板が、セパレータを介して積層された電極体を備え、
前記セパレータの空隙率SPより前記正極合材層の空隙率PP及び前記負極合材層の空隙率NPを高く設定することを特徴としたリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極合材層の空隙率PPと前記セパレータの空隙率SPの差PPDと、前記負極合材層の空隙率NPと前記セパレータの空隙率SPの差NPDとの差分ΔPが4[%]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記差PPDが2.00~6.59[%]であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記差NPDが3.96~7.86[%]であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記セパレータの空隙率SPが42.15[%]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記セパレータの空隙率SPが39.54[%]以上であることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極合材層の空隙率PPが44.16[%]以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記正極合材層の空隙率PPが48.61[%]以下であることを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記負極合材層の空隙率NPが、45.38[%]以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記負極合材層の空隙率NPが、49.68[%]以下であることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記正極合材層の密度が2.9[g/cm3]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記正極合材層の密度が2.2[g/cm3]以上であることを特徴とする請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記負極合材層の密度が1.2[g/cm3]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
前記負極合材層の密度が0.9[g/cm3]以上であることを特徴とする請求項13に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項15】
前記リチウムイオン二次電池のセルを厚み方向にロードセルにより9.8[kN]の荷重で押圧し、その後前記ロードセルの荷重を4.5[kN]として、そのときの変位量をD[mm]とし、前記ロードセルの位置を固定し600[秒]放置したときの前記ロードセルの荷重をL[kN]とし、前記セルのばね定数C[kN/mm]を、C=(9.8-x)/Dとした場合、C≦95.38[kN/mm]であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
前記ばね定数Cが、C≧80.96[kN/mm]である請求項15に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に係り、詳しくはハイレート劣化を抑制するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られる。また、電圧が高く高出力であるので、ハイレートな充放電が行われる車両搭載用の高出力電源としても好ましく用いられている。このような非水電解液二次電池では、正極板と負極板とがセパレータで絶縁された構成の蓄電要素を備えた電極体を備えている。このようなセパレータでは、正負極間でリチウムイオンの移動が容易になるように構成されている。
【0003】
このような電極体の空隙率については、例えば特許文献1では、負極活物質の表面により好ましい態様の被膜を備えることにより、電荷担体に由来する物質の析出を抑制することを課題として、以下のような構成が提案された。すなわち、少なくとも正負いずれかの電極とセパレータ基材との間に該セパレータ基材の熱収縮による内部短絡を防止するための耐熱層を備える。そして、負極合材層の空孔率と、セパレータ基材の空孔率と、耐熱層の空孔率とが所定の関係を満たす非水電解液二次電池とした。
【0004】
このような空隙率に着目した発明で、電荷担体に由来する物質の析出を抑制するという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車やハイブリッド自動車などに搭載された駆動用のリチウムイオン二次電池では、急速充電や、急加速、急減速に伴いハイレートで充放電を行った場合、電解質の移動が激しくなる。セル電池内で非水電解液が十分に移動できないと非水電解液の濃度にムラが生じる。そして、これを起因とする電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じることがある。特許文献1に記載された発明では、空隙率に着目しているが、このようなハイレート劣化については認識がない。このため、特許文献1に記載された発明ではハイレート劣化を抑制することはできない。
【0007】
ハイレートで充放電を行った場合に電極体において、正極、負極、セパレータの空隙率に起因してリチウムイオン濃度の偏りが生じることがある。本発明者は、このようなリチウムイオン濃度の偏りによりハイレート劣化を生じやすいことを見出した。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池が解決しようとする課題は、ハイレート劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材層を有する正極板と、負極合材層を有する負極板が、セパレータを介して積層された電極体を備え、前記セパレータの空隙率SPより前記正極合材層の空隙率PP及び前記負極合材層の空隙率NPを高く設定することを特徴とした。
【0010】
前記正極合材層の空隙率PPと前記セパレータの空隙率SPの差PPDと、前記負極合材層の空隙率NPと前記セパレータの空隙率SPの差NPDとの差分ΔPが4[%]以下であることが望ましい。
【0011】
前記差PPDは、2.00~6.59[%]であることが望ましい。
また、前記差NPDは3.96~7.86[%]であることが望ましい。
前記セパレータの空隙率SPは、42.15[%]以下、39.54[%]以上であることが望ましい。
【0012】
前記正極合材層の空隙率PPは、44.16[%]以上、48.61[%]以下であることが望ましい。
前記負極合材層の空隙率NPは、45.38[%]以上、49.68[%]以下であることが望ましい。
【0013】
前記正極合材層の密度は、2.9[g/cm3]以下、2.2[g/cm3]以上であることが望ましい。
前記負極合材層の密度は1.2[g/cm3]以下、0.9[g/cm3]以上であることが望ましい。
【0014】
前記リチウムイオン二次電池のセルを厚み方向にロードセルにより9.8[kN]の荷重で押圧し、その後前記ロードセルの荷重を4.5[kN]として、そのときの変位量をD[mm]とし、前記ロードセルの位置を固定し600[秒]放置したときの前記ロードセルの荷重をL[kN]とし、前記セルのばね定数C[kN/mm]を、C=(9.8-x)/Dとした場合、C≦95.38[kN/mm]、C≧80.96[kN/mm]であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、ハイレート劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。
【
図2】捲回される電極体の構成を示す模式図である。
【
図3】本実施形態の無通電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【
図4】本実施形態の充電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【
図5】本実施形態の放電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【
図7】実験におけるばね定数Cとハイレート特性指標の関係を示すグラフである。
【
図8】従来の無通電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【
図9】従来の充電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【
図10】従来の放電時のリチウムイオン二次電池の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本実施形態の概略)
以下、本発明のリチウムイオン二次電池を、リチウムイオン二次電池1の一実施形態を例に
図1~10を参照して説明する。
【0018】
<空隙率P[%]>
説明に先立って、本実施形態における「空隙率P[%]」について定義する。「空隙率P[%]」とは、全体の体積に対して、粒子間空隙や細孔などの空間の体積(容積)の比を表す尺度である。空隙率P[%]は、一般に透水係数などと相関関係を有するため、本実施形態では、正極合材層32の空隙率PP[%]、負極合材層22の空隙率NP[%]、セパレータ4の空隙率SP[%]を、リチウムイオンLi+が流通する効率を示す指標として空隙率P[%]を用いている。なお、一般的にセパレータ4のような多孔質の材料については、「空孔率[%]」を用いる場合が多いが、いずれも定義上同意義であるため本実施形態では、「空隙率P[%]」で統一することとする。
【0019】
空隙率P[%]は、例えば、多孔質試料をぬれ性のいい液体に浸漬し、空隙部を液体で飽和させる液浸法で測定する。また、試料断面の顕微鏡観察を通じ、物質面積および視認可能な空隙の面積を決定する光学法を用いてもよい。さらに、表面張力が強い水銀を微細な小孔に侵入させる外部から圧力の大きさに対する圧入量を測定することで小孔径の分布と空孔容積を求める水銀圧入法などで測定してもよい。
【0020】
<従来の問題点>
従来技術で述べたように、従来の車載の駆動用のリチウムイオン二次電池101では、ハイレートで充放電を行った場合、リチウムイオンLi+を含む電解質の激しい移動が生じる。セル電池内で電解質が十分に移動できないと非水電解液13のリチウムイオンLi+の濃度にムラが生じる。リチウムイオンLi+の濃度にムラが生じると、全体として内部抵抗が大きくなる。また、電流密度[A/mm2]のムラは、金属Liの析出の原因ともなる。このようにハイレートで充放電を行った場合のリチウムイオンLi+の濃度のムラを起因とする電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じることが知られている。
【0021】
図8は、従来の無通電時のリチウムイオン二次電池101の状態を示す模式図である。
図2に示すリチウムイオン二次電池1と同様にリチウムイオン二次電池101の電極体12は、正極板3と負極板2とが、セパレータ104を介して対向している。正極板3と負極板2との間には、非水電解液13が充填されているため、リチウムイオンLi
+が移動可能になっている。無通電時には、リチウムイオンLi
+は、正極板3にも負極板2にも電気的に誘引されていないため、移動しない。
【0022】
図9は、従来の充電時のリチウムイオン二次電池101の状態を示す模式図である。リチウムイオン二次電池101は、充電されると、負極板2の負極接続部21aから負極集電体21に電子が流れる。負極集電体21から負極活物質23に電子が供給される。そうすると非水電解液13中のリチウムイオンLi
+が負極活物質23に引き寄せられる。
【0023】
このとき、従来のセパレータ104は、リチウムイオンLi+の円滑な移動を阻害しないように十分な空隙率SP[%]を有している。このため、リチウムイオンLi+は容易に正極板3側から負極板2側に移動することができる。
【0024】
一方、負極板2の負極合材層22は、電池容量を高めるように十分な量の負極活物質23が含有されているため、その空隙率PP[%]はセパレータ104と比べて低いものとなっていた。このため、充電時には、負極合材層22の表面においてリチウムイオンLi+の濃度が高まるため、リチウムイオンLi+の濃度のムラが生じやすくなる。そうすると、いわゆるハイレート劣化が生じやすくなるという問題があった。
【0025】
図10は、従来の放電時のリチウムイオン二次電池101の状態を示す模式図である。リチウムイオン二次電池101は、放電すると、正極板3の正極接続部31aから正極集電体31に電子が流れる。正極集電体31から正極活物質33に電子が供給される。そうすると非水電解液13中のリチウムイオンLi
+が正極活物質33に引き寄せられる。
【0026】
このとき、従来のセパレータ104は、リチウムイオンLi+の移動を阻害しないように十分な空隙率SP[%]を有している。このため、リチウムイオンLi+は容易に負極板2側から正極板3側に移動することができた。
【0027】
一方、正極板3の正極合材層32には、電池容量を高めるため、十分な量の正極活物質33が含有されるため、その空隙率PP[%]はセパレータ104と比べて低いものとなっていた。このため、放電時には、正極合材層32の表面においてリチウムイオンLi+の濃度が高まるため、リチウムイオンLi+の濃度のムラが生じやすくなる。そうすると、放電の場合も充電時と同じようにハイレート劣化が生じやすくなるという問題があった。
【0028】
<本実施形態の特徴>
そこで、本発明者らは、本実施形態のリチウムイオン二次電池1において、従来の当業者の技術常識に反し敢えてセパレータ4の空隙率SP[%]を正極合材層32の空隙率PP[%]や負極合材層22の空隙率NP[%]よりも低くする。すなわち、敢えてリチウムイオンLi+が、セパレータ4を通過しにくくしている。しかし、このため、リチウムイオンLi+の移動はセパレータ4による律速となる。そうすると、非水電解液13全体のリチウムイオンLi+の分布が平均化される。このため、非水電解液13中のリチウムイオンLi+の濃度のムラが生じにくくなっている。その結果、ハイレート劣化が生じにくくなっている。
【0029】
図3は、本実施形態の無通電時のリチウムイオン二次電池1の状態を示す模式図である。
図2に示すようにリチウムイオン二次電池1の電極体12は、正極板3と負極板2とが、セパレータ4を介して対向している。正極板3と負極板2との間には、非水電解液13が充填されているため、リチウムイオンLi
+が移動可能になっている。無通電時には、リチウムイオンLi
+は、正極板3にも負極板2にも電気的に誘引されていないため、移動しない。この状態では従来のリチウムイオン二次電池101と同じである。
【0030】
図4は、本実施形態の充電時のリチウムイオン二次電池1の状態を示す模式図である。リチウムイオン二次電池1は、充電されると、負極板2の負極接続部21aから負極集電体21に電子が流れる。負極集電体21から負極活物質23に電子が供給される。そうすると非水電解液13中のリチウムイオンLi
+が負極活物質23に引き寄せられる。
【0031】
このとき、本実施形態のセパレータ4は、敢えてリチウムイオンLi+の移動を阻害するように低い空隙率SP[%]となっている。このため、リチウムイオンLi+は容易に正極板3側から負極板2側に移動することができない。
【0032】
一方、負極板2の負極合材層22には、電池容量を高めるためには十分な量の負極活物質23が必要であるが、その空隙率PP[%]をセパレータ4と比べて高くなるように調整されている。このため、充電時には、セパレータ4により過度なリチウムイオンLi+の移動が抑制されるため、非水電解液13全体に負極合材層22の表面においてリチウムイオンLi+の濃度が過度に高まることがない。このため、リチウムイオンLi+の濃度のムラが生じにくくなる。よって、いわゆるハイレート劣化を抑制することができる。
【0033】
図5は、本実施形態の放電時のリチウムイオン二次電池1の状態を示す模式図である。リチウムイオン二次電池1は、放電すると、正極板3の正極接続部31aから正極集電体31に電子が流れる。正極集電体31から正極活物質33に電子が供給される。そうすると非水電解液13中のリチウムイオンLi
+が正極活物質33に引き寄せられる。
【0034】
このとき、本実施形態のセパレータ4は、敢えてリチウムイオンLi+の移動を阻害するように空隙率SP[%]を制限している。このため、リチウムイオンLi+は容易に負極板2側から正極板3側に移動することができない。
【0035】
一方、正極板3の正極合材層32には、電池容量を高めるため、十分な量の正極活物質33が含有されることが望ましい。しかしながら、その空隙率PP[%]はセパレータ4と比べて高くなるように調整されている。このため、放電時には、セパレータ4によりリチウムイオンLi+の移動が抑制されるため、正極合材層32の表面においてリチウムイオンLi+の濃度が過度に高まることがない。よって、非水電解液13全体においてリチウムイオンLi+の濃度のムラが生じにくくなる。そうすると、この場合もハイレート劣化を効果的に抑制することができる。
【0036】
<本実施形態の構成>
このような本実施形態のリチウムイオン二次電池1について、その構成を詳細に説明する。
【0037】
(リチウムイオン二次電池1の構成)
ここで、まず本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の全体の構成と、セパレータ4の構成の一例を簡単に説明する。
【0038】
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、
図1に示されるものに限定されない。
【0039】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部21aが設けられている。
【0040】
<電極体12の積層構造>
図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0041】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部21aとなっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部31aとなっている。
【0042】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0043】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSO
3CF
3等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート(F.PC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(TFH)、2‐メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液13として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0044】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0045】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0046】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質23は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0047】
負極板2は、例えば、負極活物質23と、溶媒と、結着材(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで負極合材層22が作製される。
【0048】
<正極板3>
図2に示すように、正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32とから構成される。
【0049】
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではアルミニウム箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0050】
なお、正極集電体31を構成する正極基材は、アルミニウム箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0051】
<正極合材層32>
正極合材層32は、正極合材ペーストを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質33のほか、導電材、結着材(バインダ)、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0052】
<正極活物質33の組成>
実施形態で例示したものに限定されず、正極活物質33の粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0053】
正極活物質33は、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。正極活物質33の付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を挙げることができる。
【0054】
<結着材(バインダ)>
結着材には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0055】
(本実施形態のリチウムイオン二次電池1の特徴的な構成)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の基本的な構成は正極合材層32を有する正極板3と、負極合材層22を有する負極板2が、セパレータ4を介して積層された電極体12を備えている。このセパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPをいずれもセパレータ4の空隙率SPよりも高く設定する。
【0056】
このように構成することで、リチウムイオン二次電池1においてリチウムイオンLi+の移動がセパレータ4による律速となる。すなわち、正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPをいずれもセパレータ4の空隙率SPよりも高く設定することで、リチウムイオンLi+の流れが、セパレータ4における流れの速さに支配される。このため、必要以上のリチウムイオンLi+の移動を抑制することができリチウムイオンLi+の濃度の偏りを抑制することができる。
【0057】
<セパレータ4の空隙率SP>
本実施形態のセパレータ4の空隙率SPは42.15[%]以下に調整している。これは、空隙率SPが42.15[%]以下であれば、効果的にリチウムイオンLi+の流れを抑制して非水電解液13におけるリチウムイオンLi+の偏りを抑制することができるからである。
【0058】
なお、セパレータ4の空隙率SPは39.54[%]以上であることが望ましい。これは、空隙率SPを39.54[%]以上とすることで、過度にリチウムイオンLi+の通過を妨げないためである。
【0059】
<正極合材層32の空隙率PP>
本実施形態の正極合材層32の空隙率PPは44.16[%]以上に調整されている。空隙率PPが44.16[%]以上であればリチウムイオンLi+の偏りを効果的に抑制することができる。
【0060】
なお、正極合材層32の空隙率PPが48.61[%]以下であることが望ましい。これは、空隙率PPを48.61[%]以下とすることで、電池容量を必要以上に低下させないためである。
【0061】
正極合材層32の密度は2.9[g/cm3]以下となっている。正極合材層32の密度が2.9[g/cm3]以下であれば、上記のような十分な空隙率を確保できる。
なお、正極合材層32の密度が2.2[g/cm3]以上に調整されている。正極合材層32の密度を2.2[g/cm3]以上とすることで、十分な電池容量を確保できる。
【0062】
<負極合材層22の空隙率NP>
本実施形態の負極合材層22の空隙率NPは、45.38[%]以上に調整されている。空隙率NPが、45.38[%]以上であればリチウムイオンLi+の偏りを効果的に抑制することができる。
【0063】
なお、負極合材層22の空隙率NPが、49.68[%]以下であることが望ましい。負極合材層22の空隙率NPが49.68[%]以下であれば、十分な電池容量とすることができる。
【0064】
負極合材層22の密度が1.2[g/cm3]以下となっている。負極合材層22の密度が1.2[g/cm3]以下であれば、十分な空隙率NPを確保することができる。
なお、負極合材層22の密度が0.9[g/cm3]以上に調整されている。負極合材層22の密度を0.9[g/cm3]以上とすることで十分な容量を確保することができる。
【0065】
<電池セルのばね定数C>
まず、本実施形態でいう電池セルの「ばね定数C[kN/mm]」について説明する。本実施形態でいう「ばね定数C[kN/mm]」とは、以下の手順で測定したものである。まず、ステージ上のリチウムイオン二次電池1のセルを厚み方向にロードセルにより9.8[kN]の荷重で押圧する。その後、ロードセルの荷重を4.5[kN]に下げる。そうすると、9.8[kN]の荷重で押圧して電極体12ともに押し潰されたセルが弾性力で再び厚くなる。そのときの変位量をD[mm]とする。そして、ロードセルの位置をこの位置で固定し600[秒]放置する。そうすると、主に電極体12の経時的なスプリングバックにより、セルがロードセルを押し戻し、位置を固定したロードセルの荷重が増加する。このときのロードセルの荷重をL[kN]とする。ここで、セルのばね定数Cは、C=(9.8-x)/Dにより求めることができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池1のセルでは、C≦95.38[kN/mm]となるように調整されている。
【0066】
セルのばね定数Cを、95.38[kN/mm]以下としたのは、次のような理由からである。ハイレートで充放電をした場合、リチウムイオン二次電池1では負極合材層22における厚みに変化が生じる。このとき、ばね定数Cが大きい、すなわち電極体12が固いと、電極体12の内部に非水電解液13を貯留できず、電極体12の外部との非水電解液13の流入、流出により電極体12内部でのリチウムイオンLi+のムラが生じやすい。一方、ばね定数Cが95.38[kN/mm]以下であれば、電極体12に柔軟性があり、電極体12内部に非水電解液13を貯留でき、外部との非水電解液13の急激な流入、流出を抑制することができる。このため、非水電解液13におけるリチウムイオンLi+濃度のムラを抑制することができる。このためハイレート劣化を抑制するという本実施形態の課題の解決に資するものとなる。
【0067】
なお、前記ばね定数Cが、C≧84.96[kN/mm]であることが望ましい。ばね定数C[kN/mm]が、84.96[kN/mm]以上であれば、セルを十分に硬いものとすることができる。その結果、セルを厚み方向にスタックする電池モジュールや、電池モジュールによる電池パックの安定度が高いものとすることができる。
【0068】
<差分ΔP>
本実施形態における「差分ΔP」(PPD-NPD空隙率差差ΔPともいう)について説明する。本実施形態における「差分ΔP」は、以下の手順で算出する。まず、正極合材層32の空隙率PPとセパレータ4の空隙率SPの差をPP-SP空隙率差PPDとする。また、負極合材層22の空隙率NPとセパレータ4の空隙率SPの差を負極空隙率差NPDとする。そして、PP-SP空隙率差PPDとNP-SP空隙率差NPDの差分を差分ΔPとする。ここで、差分ΔPは、
差分ΔP=(PP-SP空隙率差PPD)-(NP-SP空隙率差NPD)
=(空隙率PP-空隙率SP)-(空隙率NP-空隙率SP)
=空隙率PP-空隙率NP
すなわち、差分ΔPは、正極合材層32の空隙率PPと負極合材層22の空隙率NPとの差である。差分ΔPが0であれば、空隙率PPと空隙率NPが等しいことを意味する。本実施形態では、この差分ΔPが4[%]未満となるように調整されている。この差分ΔPが4[%]未満であれば、正極合材層32とセパレータ4の空隙率の差と、負極合材層22とセパレータ4の空隙率の差を同等付近にすることができる。このように構成することで充電時と放電時のいずれも場合でも、バランスよくリチウムイオンLi+の偏りを抑制するとともに円滑なリチウムイオンLi+の流れを担保することができる。このため、リチウムイオン二次電池1全体として、効果的にハイレート劣化を抑制することができる。
【0069】
<セパレータ4の製造方法>
以下、上述したような特性を有したセパレータ4の製造方法について、その一例を説明する。なお、本発明のリチウムイオン二次電池1の製造方法は、この実施形態に限定されるものではない。
【0070】
セパレータ4の原材料は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンの薄膜を用いる。本実施形態では、PE製のコアシートの両面にPP製の正極側シートと負極側シートを貼り合わせた3層の構造のものとなっている。
【0071】
それぞれのシートは多孔性で長尺状に形成され、ロールから長手方向に引き出されるとともに、長手方向に延伸される。また、長手方向と直交する方向にも延伸される。このような2軸延伸による延伸工程により、長手方向と直交する方向で空隙が拡大される。PE製のコアシートの両面にPP製の正極側シートと負極側シートは、それぞれ延伸工程で空隙を調整し、空隙率P[%]を調整することができる。もちろんセパレータ4を単層で構成することもできる。
【0072】
<正極板3の製造方法>
正極板3の正極合材層32は次のような方法で製造する。まず、正極合材層32を構成する正極合材ペーストに配合する正極活物質33、導電材34のほか、バインダ、有機溶剤、添加剤を混練する。このとき、導電材34の種類の選択によっても空隙率PP[%]が変化する。本実施形態では、導電材34として、比表面積が、BET150~300[m2/g]のカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーを用いている。これらは、少量でも有効な導電ネットワークを形成するため、空隙率PP[%]を向上させることができる。
【0073】
また、正極合材ペーストを塗工後のプレス圧/速度を調整し、正極合材層32の密度と厚みを制御することで、空隙率PP[%]を調整する。本実施形態では、プレス圧は、50~196[kN]、プレス速度は、6~60[m/min]としている。
【0074】
<負極板2の製造方法>
負極板2の負極合材層22は次のような方法で製造する。まず、負極合材層22を構成する負極合材ペーストに配合する負極活物質23、導電材34のほか、バインダ、有機溶剤、添加剤を混練する。このとき、負極板2の負極合材層22は、黒鉛と結着材(SBR、SAR等)と増粘剤(CMC等)を含むスラリーにせん断力を加え、一定の黒色度(微粉量を制御)をもつスラリーとする。負極合材ペーストの塗工後のプレス圧/速度を調整し、負極合材層22の厚みと密度を調整して空隙率NP[%]を調整する。本実施形態では、プレス圧は、50~196[kN]、プレス速度は、6~60[m/min]としている。
【0075】
(実験例)
<実験の条件>
実験は、まずそれぞれの試験片の正極合材層32の空隙率PP、負極合材層22の空隙率NP、セパレータ4の空隙率SPを測定した。
【0076】
「ハイレート特性」は、「ハイレート劣化抵抗増加率[%]」により評価した。「ハイレート劣化抵抗増加率[%]」は、大電流(数十アンペア以上)で一定時間の充放電を繰り返す充放電サイクル試験を実施した後の内部抵抗(CD-IR)の増加率[%]である。
【0077】
実験の結果、「ハイレート特性」が、1.124以下が合格の基準となる。この「ハイレート特性」を、このハイレート特性が1.124であるときを基準1.000として、「ハイレート特性指標HI」として表した。この「ハイレート特性指標HI」によりハイレート特性を比較容易な数値とした。
【0078】
「PP-SP空隙率差PPD」は、正極合材層32の空隙率PPとセパレータ4の空隙率SPの差を示す値である。「NP-SP空隙率差NPD」は、負極合材層22の空隙率NPとセパレータ4の空隙率SPの差を示す値である。
【0079】
「PPD-NPD空隙率差差ΔP」は、さらに、「PP-SP空隙率差PPD」と「NP-SP空隙率差NPD」との「差」を示す値である。
ばね定数C[kN/mm]は、高すぎると、電極体12が固く非水電解液13を貯留しにくくなるため、ハイレート劣化が生じやすい。一方、ばね定数C[kN/mm]が低すぎると、セルをスタックした場合の安定性が低下する。
【0080】
<実験の評価基準>
実験の評価基準は、「ハイレート特性指標HI」により評価した。
<実施例1~6と比較例1~6の条件と結果>
・実施例1は、正極合材層32の空隙率PPが、44.16[%]、負極合材層22の空隙率NPが47.41[%]、セパレータ4の空隙率SPが41.49[%]である。また、ハイレート特性が1.07で、ハイレート特性指標HIに換算すると1.05である。
【0081】
正極合材層32の空隙率PPとセパレータ4の空隙率SPとの差であるPP-SP空隙率差PPDが2.67[%]である。
負極合材層22の空隙率NPとセパレータ4の空隙率SPとの差であるNP-SP空隙率差NPDが5.92[%]である。
【0082】
PP-SP空隙率差PPDとNP-SP空隙率差NPDとの差であるPPD-NPD空隙率差差ΔPが3.24[%]である。
このときのばね定数Cは85.42[kN/mm]であった。
【0083】
・実施例2は、正極合材層32の空隙率PPが、44.16[%]、負極合材層22の空隙率NPが47.41[%]、セパレータ4の空隙率SPが42.15[%]である。また、ハイレート特性が1.08で、ハイレート特性指標HIは1.04である。PP-SP空隙率差PPDが2.01[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが5.26[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが3.24[%]である。このときのばね定数Cは84.96[kN/mm]であった。
【0084】
・実施例3は、正極合材層32の空隙率PPが、43.42[%]、負極合材層22の空隙率NPが45.38[%]、セパレータ4の空隙率SPが41.42[%]である。また、ハイレート特性が1.08で、ハイレート特性指標HIは1.04である。PP-SP空隙率差PPDが2.00[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが3.96[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが1.96[%]である。このときのばね定数Cは91.48[kN/mm]であった。
【0085】
・実施例4は、正極合材層32の空隙率PPが、44.16[%]、負極合材層22の空隙率NPが46.16[%]、セパレータ4の空隙率SPが39.88[%]である。また、ハイレート特性が1.10で、ハイレート特性指標HIは1.02である。PP-SP空隙率差PPDが4.29[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが6.28[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが2.00[%]である。このときのばね定数Cは92.38[kN/mm]であった。
【0086】
・実施例5は、正極合材層32の空隙率PPが、44.16[%]、負極合材層22の空隙率NPが46.16[%]、セパレータ4の空隙率SPが39.54[%]である。また、ハイレート特性が1.11で、ハイレート特性指標HIは1.01である。PP-SP空隙率差PPDが4.63[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが6.63[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが2.00[%]である。このときのばね定数Cは95.38[kN/mm]であった。
【0087】
・実施例6は、正極合材層32の空隙率PPが、48.61[%]、負極合材層22の空隙率NPが49.88[%]、セパレータ4の空隙率SPが42.02[%]である。また、ハイレート特性が1.11で、ハイレート特性指標HIは1.01である。PP-SP空隙率差PPDが6.59[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが7.86[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが1.26[%]である。このときのばね定数Cは86.41[kN/mm]であった。
【0088】
・比較例1は、正極合材層32の空隙率PPが、38.05[%]、負極合材層22の空隙率NPが48.04[%]、セパレータ4の空隙率SPが41.64[%]である。また、ハイレート特性が1.16で、ハイレート特性指標HIは0.97である。PP-SP空隙率差PPDが-3.59[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが6.41[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが9.99[%]である。このときのばね定数Cは94.00[kN/mm]であった。
【0089】
・比較例2は、正極合材層32の空隙率PPが、43.99[%]、負極合材層22の空隙率NPが39.58[%]、セパレータ4の空隙率SPが41.05[%]である。また、ハイレート特性が1.15で、ハイレート特性指標HIは0.98である。PP-SP空隙率差PPDが2.94[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが-1.47[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが4.41[%]である。このときのばね定数Cは92.83[kN/mm]であった。
【0090】
・比較例3は、正極合材層32の空隙率PPが、44.45[%]、負極合材層22の空隙率NPが47.39[%]、セパレータ4の空隙率SPが48.15[%]である。また、ハイレート特性が1.17で、ハイレート特性指標HIは0.96である。PP-SP空隙率差PPDが-3.70[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが-0.76[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが2.94[%]である。このときのばね定数Cは88.80[kN/mm]であった。
【0091】
・比較例4は、正極合材層32の空隙率PPが、45.04[%]、負極合材層22の空隙率NPが45.38[%]、セパレータ4の空隙率SPが46.41[%]である。また、ハイレート特性が1.17で、ハイレート特性指標HIは0.96である。PP-SP空隙率差PPDが-1.37[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが-1.02[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが0.34[%]である。このときのばね定数Cは87.93[kN/mm]であった。
【0092】
・比較例5は、正極合材層32の空隙率PPが、46.04[%]、負極合材層22の空隙率NPが46.12[%]、セパレータ4の空隙率SPが49.30[%]である。また、ハイレート特性が1.34で、ハイレート特性指標HIは0.84である。PP-SP空隙率差PPDが-3.26[%]であり、NP-SP空隙率差NPDが-3.18[%]である。PPD-NPD空隙率差差ΔPが0.08[%]である。このときのばね定数Cは98.48[kN/mm]であった。
【0093】
<実験のまとめ>
・ハイレート特性指標HI
以上の実験から次のことが導かれる。本発明の評価はまず、ハイレート特性指標HIで行われる。
図6に示す表において●で示した実施例1~3は、いずれもハイレート特性指標HIが1.05~1.04と特に良好な結果であった。また、〇で示した実施例4~6は、ハイレート特性指標HIが、1.02~1.01と次いで良好であった。
【0094】
一方、▲で示した比較例1~2は、ハイレート特性指標HIが0.97~0.98とやや低い値となった。さらに△で示した比較例3~5は、ハイレート特性指標0.84~0.96と、劣化が大きいことが分かった。
【0095】
・空隙率SPと空隙率PP、空隙率NPの大小
まず、実施例1~6で共通している条件は、セパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPが高く設定されている点にある。一方、比較例1~5では、セパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPが低く設定されている。このため、本発明者が解析したように、セパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPが高く設定されていることが、ハイレート劣化を抑制する条件であるということが導かれる。
【0096】
・正極合材層32の空隙率PP
実施例1~6の正極合材層32の空隙率PPは、44.16~48.61[%]の範囲で、ハイレート特性指標が良好であり、正極合材層32の空隙率PPは、44.16~48.61[%]が好ましい範囲であることが分かった。
【0097】
・負極合材層22の空隙率NP
実施例1~6の負極合材層22の空隙率PPは、45.38~49.68[%]の範囲で、ハイレート特性指標が良好であり、正極合材層32の空隙率PPは、45.38~49.68[%]が好ましい範囲であることが分かった。
【0098】
・セパレータ4の空隙率SP
実施例1~6のセパレータ4の空隙率SPは、39.54~42.15[%]の範囲で、ハイレート特性指標が良好であり、セパレータ4の空隙率SPは、39.54~42.15[%]の範囲が好ましい範囲であることが分かった。
【0099】
・差分ΔP
実施例1~6の差分ΔPは、1.26~3.24[%]の範囲で、ハイレート特性指標が良好であり、差分ΔPは、1.26~3.24[%]の範囲が好ましい範囲であることが分かった。
【0100】
・ばね定数C
実施例1~6のばね定数C[kN/mm]は、84.96~95.38[kN/mm]の範囲であった。ばね定数Cは、84.96~95.38[kN/mm]の範囲が好ましい範囲であることが分かった。
【0101】
(本実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、以下のような作用を奏する。
図4に示すように、リチウムイオン二次電池1は、充電されると、負極集電体21から負極活物質23に電子が供給される。そうすると非水電解液13中のリチウムイオンLi
+が負極活物質23に引き寄せられる。
【0102】
このとき、本実施形態のセパレータ4は、敢えてリチウムイオンLi+の移動を阻害するように低い空隙率SP[%]となっている。このため、リチウムイオンLi+は容易に正極板3側から負極板2側に移動することができない。このため、リチウムイオンLi+の移動はセパレータ4による律速となる。このため、過度なリチウムイオンLi+の移動が抑制されるため、非水電解液13全体に負極合材層22の表面においてリチウムイオンLi+の濃度が過度に高まることがない。このため、リチウムイオンLi+の濃度のムラが生じにくくなる。よって、いわゆるハイレート劣化を抑制することができる。
【0103】
また、
図5に示すように、放電時にも、同様にセパレータ4によりリチウムイオンLi
+の移動が抑制されるため、正極合材層32の表面においてリチウムイオンLi
+の濃度が過度に高まることがない。よって、非水電解液13全体においてリチウムイオンLi
+の濃度のムラが生じにくくなる。そうすると、この場合もハイレート劣化を効果的に抑制することができる。
【0104】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、このように充電時と放電時のいずれの場合にも、バランスよくリチウムイオンLi+の流れを妨げない範囲で、リチウムイオンLi+の濃度が偏らないようにするという作用がある。さらに、ばね定数Cを適正に調整することで、非水電解液13のリチウムイオンLi+の濃度ムラを抑制するという作用がある。その結果、ハイレートな充放電においてもリチウムイオン二次電池1のハイレート劣化を抑制するという作用がある。
【0105】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池であれば、ハイレート劣化を抑制することができるという効果がある。
【0106】
(2)セパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPを高く設定している。このため、正極板3及び負極板2の表面におけるリチウムイオンLi+の偏りを抑制することができるという効果がある。
【0107】
(3)正極合材層32の空隙率PPとセパレータ4の空隙率SPのPP-SP空隙率差PPDと、負極合材層22の空隙率NPとセパレータ4の空隙率SPのNP-SP空隙率差NPDとの差分ΔPを4[%]以下とした。このため、正極板3および負極板2においてバランス良くリチウムイオンLi+の偏りを抑制しつつ、円滑にリチウムイオンLi+を流通させることができるという効果がある。
【0108】
(4)PP-SP空隙率差PPDを2.00~6.59[%]とした。このため、正極板3においてバランス良くリチウムイオンLi+の偏りを抑制しつつ、円滑にリチウムイオンLi+を流通させることができるという効果がある。
【0109】
(5)NP-SP空隙率差NPDを3.96~7.86[%]とした。このため、負極板2においてバランス良くリチウムイオンLi+の偏りを抑制しつつ、円滑にリチウムイオンLi+を流通させることができるという効果がある。
【0110】
(6)セパレータ4の空隙率SPを42.15[%]以下とした。このため、負極板2においてリチウムイオンLi+の偏りを抑制することができるという効果がある。
(7)セパレータ4の空隙率SPを39.54[%]以上とした。このため、負極板2において円滑にリチウムイオンLi+を流通させることができるという効果がある。
【0111】
(8)空隙率PPを44.16[%]以上とした。このため、正極板3においてリチウムイオンLi+の偏りを抑制することができるという効果がある。
(9)空隙率PPを48.61[%]以下とした。このため、電池容量を十分なものとするという効果がある。
【0112】
(10)空隙率NPを、45.38[%]以上とした。このため、負極板2においてリチウムイオンLi+の偏りを抑制することができるという効果がある。
(11)空隙率NPを、49.68[%]以下とした。このため、電池容量を十分なものとするという効果がある。
【0113】
(12)正極合材層32の密度を2.9[g/cm3]以下とした。このため、正極合材層32において、十分な空隙率とすることができるという効果がある。
(13)正極合材層32の密度を2.2[g/cm3]以上とした。このため、電池容量を十分なものとするという効果がある。
【0114】
(14)負極合材層22の密度を1.2[g/cm3]以下とした。このため、負極合材層22において、十分な空隙率とすることができるという効果がある。
(15)負極合材層22の密度を0.9[g/cm3]以上とした。このため、電池容量を十分なものとするという効果がある。
【0115】
(16)リチウムイオン二次電池1のセルを厚み方向にロードセルにより9.8[kN]の荷重で押圧し、その後ロードセルの荷重を4.5[kN]とした。そのときの変位量をD[mm]とし、ロードセルの位置を固定し600[秒]放置したときのロードセルの荷重をL[kN]とした。セルのばね定数C[kN/mm]を、C=(9.8-x)/Dとした場合、C≦95.38[kN/mm]とした。このため、充放電時の非水電解液13の濃度ムラが生じにくいという効果がある。
【0116】
(17)ばね定数Cを、C≧80.96[kN/mm]とした。このため、リチウムイオン二次電池1のセルをスタックしたり、電池パックとしたりしたときの安定度が高まるという効果がある。
【0117】
(18)ばね定数Cの調整をしつつ、セパレータ4の空隙率SPより正極合材層32の空隙率PP及び負極合材層22の空隙率NPを高く設定している。このため、双方の数値設定の自由度が高まり生産性が向上するという効果がある。
【0118】
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0119】
○実施形態に記載した空隙率P[%]や、密度[g/cm3]の調整などの製造方法は説明のための一例であり、本発明の実施はこれらには限定されない。
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず円筒形など他の形状、定置用など他の用途でも実施できる。また、電極体12も扁平の捲回型に限定されず、長方形の板状の電極を積層したものでもよい。また、正極外部端子14や負極外部端子15の形状なども限定されるものではない。
【0120】
○図面は、本実施形態の説明に用いるための模式的なものであり、見やすくするために、数を省略したり、寸法バランスなどを誇張したりしている場合があるため、これらに限定されるものではない。
【0121】
○実施形態の各種の数値、範囲は一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○正極合材層32や負極合材層22の組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
【0122】
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0123】
P[%]…空隙率
PP[%]…(正極合材層の)空隙率
NP[%]…(負極合材層の)空隙率
SP[%]…(セパレータの)空隙率
HI…ハイレート特性指標
PPD[%]…(=PP-SP)正極空隙率差
NPD[%]…(=NP-SP)負極空隙率差
ΔP[%]…(=PPD-NPD空隙率差)差分
C[kN/mm]…ばね定数
1、101…リチウムイオン二次電池(セル)
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
21a…負極接続部
22…負極合材層
23…負極活物質
3…正極板
31…正極集電体
31a…正極接続部
32…正極合材層
33…正極活物質
34…導電材
4、104…セパレータ