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特開2024-158455モータ制御装置およびモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158455
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/12 20160101AFI20241031BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H02P21/12
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073674
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敦実
(72)【発明者】
【氏名】山本 良祐
(72)【発明者】
【氏名】中田 広之
(72)【発明者】
【氏名】上田 紘義
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 正義
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505BB06
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505JJ03
5H505JJ16
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】アンプまたはモータへの過大電流を防止する。
【解決手段】モータ制御装置は、モータに駆動電流を供給する電流制御部と、モータに供給される駆動電流の電流値を検出する電流検出部と、モータの回転位置を検出する位置検出部と、位置検出部が検出したモータの回転位置によりモータの回転速度を算出する速度算出部と、を備え、電流制御部は、モータの電流指令値および電流検出部で検出された電流値に基づいて、モータを駆動するための電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、速度算出部で算出されたモータの回転速度およびモータの電流指令値の変動周波数から、電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、算出した電圧指令制限値に基づいて電圧指令値を制限する電圧指令制限部と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに駆動電流を供給する電流制御部と、
前記モータに供給される前記駆動電流の電流値を検出する電流検出部と、
前記モータの回転位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が検出した前記モータの前記回転位置により前記モータの回転速度を算出する速度算出部と、を備え、
前記電流制御部は、
前記モータの電流指令値および前記電流検出部で検出された前記電流値に基づいて、前記モータを駆動するための電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記速度算出部で算出された前記モータの前記回転速度および前記モータの前記電流指令値の変動周波数から、前記電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、算出した前記電圧指令制限値に基づいて前記電圧指令値を制限する電圧指令制限部と、を有する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、d軸およびq軸の前記電圧指令制限値をそれぞれ算出する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流制御部は、前記d軸の電流を電流最大値の範囲内で維持し前記変動周波数の速さで変化させるために必要な電圧の最大値と、前記モータの前記回転速度と前記電流最大値との積である干渉電圧を相殺するのに必要な電圧値と、の和を前記d軸の電圧指令制限値として算出する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記電流制御部は、前記q軸の電流を電流最大値の範囲内で維持し前記変動周波数の速さで変化させるために必要な電圧の最大値と、前記モータの前記回転速度と前記電流最大値との積である干渉電圧を相殺するのに必要な電圧値と、誘起電圧の定数と前記モータの前記回転速度との積である誘起電圧を相殺するのに必要な電圧と、の和を前記q軸の電圧指令制御値として算出する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
モータに供給される駆動電流の電流値を検出し、
前記モータの回転位置を検出し、
検出した前記モータの前記回転位置により前記モータの回転速度を算出し、
前記モータの電流指令値および検出された前記電流値に基づいて、前記モータを駆動するための電圧指令値を算出し、
算出された前記モータの前記回転速度および前記モータの前記電流指令値の変動周波数から、前記電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、
算出した前記電圧指令制限値に基づいて前記電圧指令値を制限する、
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置およびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、速度制御手段と、トルク制御手段と、電力変換手段と、速度フィードバック信号生成手段からなるモータ制御装置が開示されている。当該モータ制御装置は、速度指令から所定の加速度の第1の速度指令を生成して速度制御手段へ出力するソフトスタート手段と、第1の速度指令とモータの誘起電圧定数の積からなる誘起電圧予測値と、モータのインピーダンスと最大電流指令の積からなるインピーダンス電圧降下予測値との和を制限電圧とし、電圧指令が前記制限電圧以下になるように第1の電圧指令を生成して電力変換手段へ出力する電圧制限手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-230119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、アンプまたはモータへの過大電流を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、モータに駆動電流を供給する電流制御部と、前記モータに供給される前記駆動電流の電流値を検出する電流検出部と、前記モータの回転位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出した前記モータの前記回転位置により前記モータの回転速度を算出する速度算出部と、を備え、前記電流制御部は、前記モータの電流指令値および前記電流検出部で検出された前記電流値に基づいて、前記モータを駆動するための電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、前記速度算出部で算出された前記モータの前記回転速度および前記モータの前記電流指令値の変動周波数から、前記電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、算出した前記電圧指令制限値に基づいて前記電圧指令値を制限する電圧指令制限部と、を有する、モータ制御装置を提供する。
【0006】
また、本開示は、モータに供給される駆動電流の電流値を検出し、前記モータの回転位置を検出し、検出した前記モータの前記回転位置により前記モータの回転速度を算出し、前記モータの電流指令値および検出された前記電流値に基づいて、前記モータを駆動するための電圧指令値を算出し、算出された前記モータの前記回転速度および前記モータの前記電流指令値の変動周波数から、前記電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、算出した前記電圧指令制限値に基づいて前記電圧指令値を制限する、モータ制御方法を提供する。
【0007】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、アンプまたはモータへの過大電流を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来例のモータ制御システムのブロック図
図2】本実施の形態に係るモータ制御システムのブロック図
図3】モータMTを加速する際に必要な電圧値を示す図
図4】モータMTによって駆動されるロボットの動作の一例を示す図
図5】ロボットが円弧動作をする際の電流変化に必要な電圧を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施の形態に至る経緯)
モータを駆動する方法として、モータに取付けられるエンコーダにより検出されたモータの位置、モータの速度およびモータに流れる電流の実測値のデータをフィードバックすることにより、モータを駆動するための3相電圧指令を用いた制御が知られている。3相電圧指令を用いた制御として、例えば、Pulse Width Modulation(以下、「PWM」と称する)指令を用いた制御方法が知られている。3相電圧指令を用いた制御方法では、上述した各種フィードバック信号に基づきモータの駆動を制御する。
【0011】
従来、モータの電流制御を行う際、モータに電流を供給するアンプへの電圧指令値の制限値は、実現可能な許容最大電圧とされている。しかしながら、電流を検出する機器(例えば、電流検出器またはA/D変換器等)に故障が生じ、電流を検出する機器がモータに流れている電流を検出できなくなった場合、電圧を制御するモータ制御装置は、正しいフィードバック信号を得られなくなる。これにより、モータ制御装置は、誤ったフィードバック信号を用いて制御電圧値を算出することにより電圧指令値が許容最大値に達してアンプに過大な電流を流し、アンプを破壊する恐れがある。アンプに過大な電流が流れると、アンプの主回路のトランジスタが破損することでアンプが破壊される。
【0012】
特許文献1は、所定の加速度の速度指令値とモータの誘起電圧定数の積からなる誘起電圧予測値と、モータのインピーダンスと最大電流指令の積からなるインピーダンス電圧降下予測値との和を制限電圧としている。
【0013】
しかしながら、制限電圧をモータの回転を維持するのに必要な値にすると、モータ制御装置は、モータへの電流を変化(つまり、増加)させるのに必要な電圧指令を出力することができなくなる。モータを用いて駆動するロボットは、動きに応じて必要な電流値が変化するため、電流値を変化するのに必要な電圧が得られないと所望の動作ができないという課題がある。
【0014】
以下、図面を適宜参照して、本開示に係るモータ制御装置およびモータ制御方法を具体的に開示した実施の形態について、詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、すでによく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の記載の主題を限定することは意図されていない。
【0015】
まず、図1を参照して、従来例のモータ制御システム1のブロック図について説明する。図1は、従来例のモータ制御システム1のブロック図である。
【0016】
モータ制御システム1は、電源5、モータ制御装置10、アンプ20、A/D変換器30、電流検出器31,32、モータMTおよびエンコーダENを含む。なお、図示を省略しているがメモリおよび通信インターフェースをさらに含んでもよい。
【0017】
モータMTは、例えば永久磁石型同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)等のブラシレスモータであり、シャフトを中心とした回転可能であって永久磁石(図示略)を保持した回転子(ロータ)と、3相分の巻線をステータコアに巻回した3相のコイルを含む固定子(ステータ)とを有する。回転子が固定子に対向するように回転自在に配置されている。モータMTでは、U相、V相、W相のそれぞれの巻線(コイル)にアンプ20から互いに120度位相が異なる交流電力が供給されることで、モータMTの回転子がシャフトを中心に回転動作する。モータMTは、例えば、ロボット等の産業用機械を駆動するために使用される。
【0018】
エンコーダENは、モータMTに取り付けられている。エンコーダENは、モータMTの回転子(図示略)の回転位置に応じた信号をモータ制御装置10に出力する。このように、エンコーダENは、モータMTの回転子の回転位置を電気角として検出する。なお、回転子の回転位置または回転速度を推定によって検出できる場合には、エンコーダENの構成は省略してもよい。また、エンコーダENの代わりに、モータMTの回転位置を検出可能なホール素子が回転子の近辺に配置されても構わない。この場合、ホール素子により検出された位置情報を示す信号がフィードバック信号としてモータ制御装置10のそれぞれに入力される。
【0019】
モータ制御装置10は、モータMTの位置の指令およびモータMTの位置のフィードバックに従ってモータMTの駆動を制御する。モータ制御装置10は、モータMTの回転制御をするためにモータMTに流す電流に関して、モータMTの保持する回転子(ロータ)が保持する永久磁石の磁束方向であるd軸とこのd軸に直交するq軸とからなるdq軸座標系に基づくベクトル制御を行う。より具体的には、例えば、モータ制御装置10は、d軸において入力をd軸電流値としてd軸に対する電圧指令(以下、d軸電圧指令と称する)を生成し、q軸において入力をq軸電流値としてq軸に対する電圧指令(以下、q軸電圧指令と称する)を生成するベクトル制御に基づく電流制御を行う。なお、モータ制御装置10の実行するモータMTの回転制御は、上述した例に限られず、d軸においては、入力をd軸電流値としてd軸電圧指令を生成するベクトル制御に基づく電流制御を行い、q軸においては、入力を回転速度としてq軸電圧指令を生成する速度制御に基づく電圧制御を行う制御でもよい。モータ制御装置10は、アンプ20、A/D変換器30およびエンコーダENに通信可能に接続される。モータ制御装置10は、上述したベクトル制御を用いてモータMTに供給する電流を流すため指令をアンプ20に出力する。
【0020】
モータ制御装置10は、移動指令制御部11、位置制御部12、速度制御部13、移動量算出部14、速度算出部15、電流制御部16および磁極位置算出部17を有する。
【0021】
移動指令制御部11は、ユーザ(例えば、モータ制御システム1を構築する人物等)が作成するモータMTの被駆動体の動作プログラムに基づいてモータ軸の回転角の変化量を生成する。移動指令制御部11は、当該変化量のモータMT位置の制御周期Tpごとの変化量である位置に関する位置指令値Δθm*を生成する。移動指令制御部11は、位置指令値Δθm*を位置制御部12に出力する。以下、位置に関する指令値を位置指令値と称する。添字のmは、モータMTの駆動するロボットの軸を表す。例えば、6軸のロボットをモータMTが駆動する場合、それぞれの軸に対応してmは1~6の整数となる。
【0022】
位置制御部12は、移動指令制御部11から位置指令値Δθm*と移動量算出部14からのモータMTの位置のフィードバック信号(以下、位置FBと称する)Δθmとに基づいて速度に関する指令値(以下、速度指令値と称する)W*を算出する。位置制御部12は、算出した速度指令値W*を速度制御部13に出力する。なお、FBはFeedbackの略である。位置制御部12は、速度指令値を位置偏差量に位置のゲインに関する係数を乗じて算出する。位置偏差量は、下記(式1)で示される値である。
【0023】
【数1】
【0024】
速度制御部13は、位置制御部12から受信した速度指令値W*と速度算出部15からのモータMTの速度のフィードバック信号(以下、速度FBと称する)Wとに基づいて、q軸に対する電流の目標値である電流指令値(以下、q軸電流指令値と称する)Iq*を算出する。速度制御部13は、算出したq軸電流指令値Iq*をPI制御部162に出力する。なお、d軸に対する電流の目標値である電流指令値(以下、d軸電流指令値と称する)は、0値に設定される。
【0025】
移動量算出部14は、エンコーダENにより検出されたロータの回転角θmの単位時間当たりの変化量(つまり、位置FBΔθm)を位置制御部12に出力する。
【0026】
速度算出部15は、エンコーダにより検出されたロータの回転角θmの単位時間当たりの変化量である位置FBΔθmを所定の周期に相当する時間で除すことでモータMTの回転子の回転速度である速度FBWを算出する。
【0027】
電流制御部16は、モータMTの界磁方向であるd軸とこのd軸に直交する方向であるq軸とのそれぞれへの電圧指令(後述するd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*)を、モータMTのU相、V相、W相に与える3相電圧指令(PWM指令)に変換する2相3相変換の処理を行う。電流制御部16は、PI制御部161、PI制御部162、2相3相変換部165,dq変換部166およびPWM処理部169を有する。
【0028】
PI制御部161は、d軸電流指令値Id*の値とdq変換部166からのd軸電流Idとの差分である誤差がゼロとなるようにd軸電圧指令値Vd*を生成する。d軸電圧指令値Vd*は、d軸に対する電圧の目標値である。d軸電流Idに関しては後述する。例えば、PI制御部161は、d軸電流指令値Id*の値とd軸電流Idとの値との差分に対して比例積分処理を行い、その比例積分の結果をd軸電圧指令値Vd*とする。
【0029】
PI制御部162は、速度制御部13からのq軸電流指令値Iq*の値とdq変換部166からのq軸電流Iqとの差分である誤差がゼロとなるようにq軸電圧指令値Vq*を生成する。q軸電圧指令値Vq*は、q軸に対する電圧の目標値である。q軸電流Iqに関しては後述する。例えば、PI制御部162は、q軸電流指令値Iq*の値とq軸電流Iqとの値との差分に対して比例積分処理を行い、その比例積分の結果をq軸電圧指令値Vq*とする。
【0030】
PI制御部161およびPI制御部162は、固定のリミット処理である処理163,164を行う。固定のリミット処理とは、生成された電圧指令値が実現可能な最大電圧値を上回った場合、電圧指令値を最大電圧値とする処理のことである。
【0031】
2相3相変換部165は、エンコーダENにより検出され磁極位置算出部17から入力される回転子(図示略)の回転角に応じて決まる電気角を使って、PI制御部161からのd軸電圧指令値Vd*と、PI制御部162からのq軸電圧指令値V1*とを、2相3相変換して、モータMTの各相に印加する電圧を得るための3相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を算出する。
【0032】
PWM処理部169は、2相3相変換部165からの3相電圧指令値から、例えば、三角波比較法によって、パルス幅変調(PWM)して、PWM信号U1、U2、V1、V2、W1、W2を生成し、アンプ20に出力する。ここで、PWM信号U1,U2は、一定時間Ti(例えば、100μs)内で、2相3相変換部165からの3相電圧指令値の大きさに従った比率でON/OFFする信号である。PWM信号U1がONのとき、モータMTのU相に電源5から正電圧Vpが印加され、PWM信号U2がONのとき、モータMTのU相に電源5からの負電圧Vnが印加される。なお、PWM信号U1,U2のいずれかがONのとき、もう一方はOFFである。時間Ti内での、PWM信号U1,U2それぞれのON時間の比率に応じて、電圧Vp~Vnの範囲内の電圧が等価的に実現される。PWM信号V1,V2およびPWM信号W1,W2も同様であり、それぞれV相,W相に対応する。
【0033】
dq変換部166は、電流検出器31によって検出されたU相電流Iuと、電流検出器32によって検出されたV相電流Ivと、エンコーダENにより検出され磁極位置算出部17から入力される電気角とから、d軸およびq軸の検出電流であるd軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。U相電流Iuは、U相に流す電流値のフィードバックである。V相電流Ivは、V相に流す電流値のフィードバックである。d軸電流Idは、d軸電流のフィードバックとしてPI制御部161に入力される。q軸電流Iqは、q軸電流のフィードバックとしてPI制御部162に入力される。
【0034】
磁極位置算出部17は、エンコーダENにより検出されたロータの回転角θmから電気角θeを算出する。例えば、2極1対のロータの場合、θe=θmとなる。8極4対のロータの場合、θe=4θmとなる。磁極位置算出部17は、電気角θeをPWM処理部169とdq変換部166とに出力する。
【0035】
電源5は、アンプ20に直流の電源電圧を供給する。電源5は、交流電源51、ダイオード52およびコンデンサ53が並列に接続され、アンプ20に対し直流電圧である正電圧Vpおよび負電圧Vnを供給する。
【0036】
アンプ20は、モータ制御装置10からのPWM信号に基づきモータMTに電圧を印加し、それによって発生する電流を供給する。アンプ20は、モータ制御装置10からのPWM信号を受けて電源5からの直流電圧および直流電流を、交流電圧および交流電流に変換してモータMTに供給する。アンプ20は、電源5、モータ制御装置10およびモータMTに接続される。
【0037】
A/D変換器30は、電流検出器31,32で検出されたモータに供給される電流の実測値をアナログ信号から公知の技術を用いてデジタル信号に変換する。電流検出器31は、U相に供給されているU相電流Iuを検出しA/D変換器30に出力する。電流検出器32は、V相に供給されているV相電流Ivを検出しA/D変換器30に出力する。また、W相の電流であるW相電流Iwは、Iu+Iv+Iw=0の関係式からU相電流IuとV相電流Ivとから算出される。A/D変換器30、電流検出器31および電流検出器32を合わせて電流検出系と称する。
【0038】
電流検出系が故障すると、A/D変換器30から出力されるU相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwが誤った値となる。電流検出系が故障すると、例えば、A/D変換器30から出力される電流の実測値がある値に固定される。A/D変換器30から出力される電流の実測値がある値に固定されると、dq変換部166から出力されるd軸電流Idおよびq軸電流Iqの値もある値に固定される。PI制御部161およびPI制御部162は、速度制御部13からの電流指令値の値とdq変換部166からの値との差分である。その結果、電流指令値(Iq*,Id*)との差分がゼロにならず、それがPI制御部161,162の積分項に蓄積されて、PI制御部161,162の出力(Vq*,Vd*)が発散する。
【0039】
従来のモータ制御システム1では、PI制御部161は、d軸電圧指令値Vd*の値が実現可能な最大電圧値を超える値の場合、処理163に基づきd軸電圧指令値Vd*を実現可能な最大電圧値とする。また、PI制御部162は、同様に、q軸電圧指令値Vq*の値が実現可能な最大電圧値を超える値の場合、処理164に基づきq軸電圧指令値Vq*を実現可能な最大電圧値とする。モータMTが低速で回転している場合には、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*が実現可能な最大電圧値であると、許容最大電流値を超えた電流をモータMTに流すことになり、アンプ20またはモータMTを破損する可能性がある。また、誤った電圧指令値でモータMTを駆動する場合、モータMTによって駆動されるロボット等の産業用機械が誤作動し事故または故障の原因となる可能性がある。
【0040】
次に、図2を参照して、本実施の形態に係るモータ制御システム2のブロック図について説明する。図2は、本実施の形態に係るモータ制御システム2のブロック図である。図1と同一の構成要素に関しては同一符合を付記し説明を省略する。
【0041】
モータ制御装置10Aは、電流制御部16Aに電圧指令制限部167,168を有する。
【0042】
速度算出部15は、算出した速度FBWを電圧指令制限部167および電圧指令制限部168へ出力する。
【0043】
電圧指令制限部167は、PI制御部161から出力されたd軸電圧指令値Vd*の値を制限して2相3相変換部165に出力する。電圧指令制限部167は、d軸電圧指令値Vd*をモータMTの回転速度とモータMTの電流指令値の変化の速さを指定するパラメタとから算出した値をd軸電圧指令値Vd*の制限値(以下、「d軸電圧制限値」と称する)とする。d軸電圧制限値Vdlimは下記の式(2)で表される。なお、モータMTの電流指令値の変化の速さを指定するパラメタを変動周波数と定義する。当該パラメタは、周波数値で与えられる。以下、fおよびfは変動周波数である。
【0044】
【数2】
【0045】
ここで、Idmaxはd軸電流の最大値、Iqmaxはq軸電流の最大値、fはd軸電流の変化の速さを指定するパラメタ、LはモータMTの巻線インダクタンス、RはモータMTの巻線抵抗、pはモータの極対数およびWはモータMTの回転速度である。
【0046】
式(2)の右辺1項目は、モータMTのd軸電流を、その最大値Idmaxの範囲内で維持しながら、さらにその大きさをf2で指定する速さで変化させるのに必要な電圧の最大値を表す。式(2)の右辺2項目は、q軸電流による干渉電圧を相殺するのに必要な電圧である。当該干渉電圧は、q軸電流による回転磁界がモータMTの巻線に3相交流電圧を誘起され、この3相交流電圧をdq変換した際にd軸に現れる電圧である。干渉電圧は、3相交流の角速度であるモータの極対数pとモータMTの回転速度Wとの積に比例する。
【0047】
電圧指令制限部168は、PI制御部162から出力されたq軸電圧指令値Vq*の値を制限して2相3相変換部165に出力する。電圧指令制限部168は、q軸電圧指令値Vq*をモータMTの回転速度とモータMTの電流指令値の変化の速さを指定するパラメタとから算出した値をq軸電圧指令値Vq*の制限値(以下、「q軸電圧制限値」と称する)とする。q軸電圧制限値Vqlimは下記の式(3)で表される。
【0048】
【数3】
【0049】
ここで、Idmaxはd軸電流の最大値、Iqmaxはq軸電流の最大値、fはq軸電流の変化の速さを指定するパラメタ、LはモータMTの巻線インダクタンス、RはモータMTの巻線抵抗、pはモータの極対数、WはモータMTの回転速度およびKvは誘起電圧定数である。
である。
【0050】
式(3)の右辺1項目は、モータMTのq軸電流を、その最大値Iqmaxの範囲内で維持しながら、さらにその大きさをf1で指定する速さで変化させるのに必要な電圧の最大値を表す。式(3)の右辺2項目は、d軸電流による干渉電圧を相殺するのに必要な電圧である。当該干渉電圧は、d軸電流による回転磁界がモータMTの巻線に3相交流電圧を誘起され、この3相交流電圧をdq変換した際にq軸に現れる電圧である。干渉電圧は、3相交流の角速度であるモータの極対数pとモータMTの回転速度Wとの積に比例する。式(3)の右辺3項目は、回転磁石によって発生する誘起電圧を相殺するのに必要な電圧である。
【0051】
パラメタfは、モータMTの回転速度を変化させるのに必要なq軸電流の単位時間当たりの変化量(つまり、図3のグラフC2の傾き)に対応する。変動周波数であるfは、モータMTの回転速度を変化させるのに必要なd軸電流の単位時間当たりの変化量(つまり、図3のグラフC3の傾き)に対応する。fおよびfは、ユーザによって予め定められた値である。fおよびfは周波数値として与える。この場合の、q軸電流、d軸電流の変化の速さの最大値はそれぞれ、2πf[s-1]、2πf[s-1]である。例えば、fとして10[Hz]、fとして1[Hz]とすれば、q軸電流、d軸電流の変化の速さ(時間に対する傾き)の最大値はそれぞれ、約62.8[s-1]、約6.3[s-1]となる。なお、fおよびfの値は一例でありこれらに限られない。
【0052】
また、干渉電圧および誘起電圧は、速度に比例するため速度が大きくなれば値は大きくなり、速度が小さくなれば値が小さくなる。
【0053】
以上により、式(2)および式(3)より、d軸電圧制限値Vdlimおよびq軸電圧制限値Vqlimはパラメタf、fで決めるそれぞれの値をベースとしてモータMTの回転速度に応じて値が変動する。これにより、電圧指令制限部167は、式(2)のd軸電圧制限値Vdlimを用いてd軸電圧指令値Vd*を制限することで、電流検出系に故障が生じてもd軸電圧指令値が実現可能な最大電圧値となることを防ぐことができる。また、電圧指令制限部168は、式(3)のq軸電圧制限値Vqlimを用いてq軸電圧指令値Vq*を制限することで、電流検出系に故障が生じてもq軸電圧指令値が実現可能な最大電圧値となることを防ぐことができる。さらに、電圧指令制限部167および電圧指令制限部168は、変動周波数およびモータMTの回転速度に応じてd軸電圧制限値Vdlimおよびq軸電圧制限値Vqlimを算出するため、モータMTの駆動するロボット等の動きに応じて適切な制限値を算出することができる。つまり、電圧指令制限部167および電圧指令制限部168は、モータMTが低速で駆動する場合はd軸電圧制限値Vdlimおよびq軸電圧制限値Vqlimを低い値とし、モータMTが高速で駆動する場合はd軸電圧制限値Vdlimおよびq軸電圧制限値Vqlimを高い値とすることができる。これにより、電圧指令制限部167および電圧指令制限部168は、電流検出系が故障した時の過剰な電流の発生を防止しつつ、モータMTを駆動するのに十分な電流値を流すことができる電圧指令値をPWM処理部169に出力することができる。
【0054】
次に、図3を参照して、モータMTを加速する際に必要な電圧値について説明する。図3は、モータMTを加速する際に必要な電圧値を示す図である。
【0055】
グラフC1,C2,C3,C4,C5,C6は、横軸が時間であり全て同じ時間軸を示す。グラフC1,C2,C3,C4,C5,C6の横軸は、点線で表される時刻がそれぞれ時刻t1および時刻t2を示す。
【0056】
グラフC1は、モータMTの回転速度の時間変化を表す。縦軸はモータMTの回転速度であるW[rad/s]である。時刻t1から時刻t2の間に、モータMTの回転速度が速度Wsから速度Wkに上がる。この場合、モータMTの加速度は(Wk-Ws)/(t2-t1)[rad/s]で表される。
【0057】
グラフC2は、モータMTの回転速度をグラフC1に示すように変化させる場合に必要なq軸電流を示すグラフである。グラフC3は、d軸電流を示すグラフである。縦軸はq軸電流Iq[A]およびd軸電流Id[A]の値を表す。時刻t1からモータMTの回転速度を上げるためにq軸電流Iqは増加する。モータMTの回転速度が速度Wkに近づくと徐々にq軸電流Iqは減少し、時刻t2でq軸電流Iqは速度Wkを維持するための電流値となる。このq軸電流IqによってモータMTにトルクが発生する。モータMTのトルクはKtとq軸電流Iqとの積で表される。Ktはトルク定数である。グラフC2のq軸電流の単位時間当たりの変化量dIq/dtの値の最大値がパラメタfに相当する。
【0058】
d軸電流Idは、モータMTのトルクの発生に寄与しないため通常は0(ゼロ)となる。モータMTが高速で回転する場合、グラフC3のように負のd軸電流Idに制御されることがある。d軸電流Idを負とすることで、モータMTの磁石の界磁を弱めて、磁石による誘起電圧を低減でき、モータMTの高速回転が実現される。グラフC3のd軸電流の単位時間当たりの変化量dId/dtの値の最大値がパラメタfに相当する。
【0059】
グラフC4は、U相の相電流を示すグラフである。相電流の振幅は下記式(4)に比例する。
【0060】
【数4】
【0061】
V相およびW相の相電流は、U相の相電流と振幅が同じで2π/3の位相差の正弦波となる。
【0062】
グラフC5は、モータMTの回転速度をグラフC1のように変化させる際に必要なq軸電圧の各成分を表す。グラフC51は、回転する磁石による誘起電圧を表す。グラフC51は、誘起電圧定数KvとモータMTの回転速度Wとの積で表される。グラフC51は、式(3)の右辺3項目に対応する。
【0063】
グラフC52は、q軸電流を維持するための電圧とq軸電流を変更するのに必要な電圧との和である。グラフC52は、下記式(5)で表される。
【0064】
【数5】
【0065】
式(5)の1項目はq軸電流の維持に必要な電圧を表し、2項目はq軸電流を変更するのに必要な電圧を表す。Iq’はq軸電流Iqの時間の一回微分である。グラフC52の最大値は、式(3)の右辺1項目に対応する。
【0066】
グラフC53は、d軸電流による干渉電圧を表す。グラフC53は、モータMTの極対数p、モータMTの回転速度W、モータMTの巻線インダクタンスLおよびd軸電流Idの積で表される。グラフC53は、式(3)の右辺2項目に対応する。
【0067】
q軸電圧制限値Vqlimは、q軸電流およびd軸電流が最大値(つまり、Iqmax,Idmax)である場合のグラフC51、グラフC52の最大値およびグラフC53の和で表される。つまり、q軸電圧制限値Vqlimは、モータMTの回転速度の変化に応じて時間変化する値となる。これにより、モータ制御装置10Aは、モータMTの回転速度の変化に応じて電圧制限値を適切に制御することができる。
【0068】
グラフC6は、モータMTの回転速度をグラフC1のように変化させる際に必要なd軸電圧を表す。
【0069】
グラフC61は、q軸電流による干渉電圧を表す。グラフC61は、モータMTの極対数p、モータMTの回転速度W、モータMTの巻線インダクタンスLおよびq軸電流Iqの積で表される。グラフC61は、式(2)の右辺2項目に対応する。
【0070】
グラフC62は、d軸電流を維持するための電圧とd軸電流を変更するのに必要な電圧との和である。グラフC62は、下記式(6)で表される。
【0071】
【数6】
【0072】
式(6)の1項目はd軸電流の維持に必要な電圧を表し、2項目は、q軸電流を変更するのに必要な電圧を表す。Id’は、d軸電流Idを時刻tで微分した値である。グラフC62は、式(2)の右辺1項目に対応する。
【0073】
d軸電圧制限値Vdlimは、q軸電流およびd軸電流が最大値である場合のグラフC61およびグラフC62の和で表される。つまり、d軸電圧制限値Vdlimは、モータMTの回転速度の変化に応じて時間変化する値となる。これにより、モータ制御装置10Aは、モータMTの回転速度の変化に応じて電圧制限値を適切に制御することができる。
【0074】
以下、図4および図5を参照して、モータMTによって駆動されるロボットの動作の例を用いて、そのときの電流の大きさの変化とそれに必要な電圧について説明する。
【0075】
次に、図4を参照して、モータMTによって駆動されるロボットの動作の一例を説明する。図4は、モータMTによって駆動されるロボットの動作の一例を示す図である。
【0076】
ロボットROは、モータMTによって駆動される6つの関節を有する6軸のロボットアームである。
【0077】
以下、図5では、ロボットROの先端Amを1周期T[s]で円弧動作をする際の電流変化の大きさと電流変化に必要な電圧について説明する。円の中心位置のxyz座標をPc(xc,0,zc)とし、半径をr[m]とする。
【0078】
次に、図5を参照して、ロボットが円弧動作をする際の電流変化に必要な電圧について説明する。図5は、ロボットが円弧動作をする際の電流変化に必要な電圧を示す図である。
【0079】
グラフC7は、y方向の位置変化を表すグラフである。y方向の位置変化は下記式(7)で表される。
【0080】
【数7】
【0081】
ここでωは先端Amの動作の角速度であり、下記式(8)で表される。
【0082】
【数8】
【0083】
ここで、T[s]はロボットROの円弧動作の1周期、fは1/T[Hz]である。
【0084】
グラフC8は、y方向の速度y’(y’=dy/dt)を表すグラフであり、下記式(9)で表される。
【0085】
【数9】
【0086】
速度y’の際の第1軸のモータMTの回転速度Wは、下記式(10)で近似して表される。
【0087】
【数10】
【0088】
以下、モータMTは第1軸のモータを指すものとする。
【0089】
ここで、Rgは減速比であり、C=r・Rg/xcである。
【0090】
グラフC9は、モータMTの加速度W’(W’=dW/dt)を表すグラフである。加速度W’は、下記式(11)で表される。
【0091】
【数11】
【0092】
グラフC10は、モータMTの加速度W’を得るために必要なq軸電流Iqを示すグラフである。q軸電流Iqは、下記式(12)で表される。
【0093】
【数12】
【0094】
ここで、Mはモータ軸換算のイナーシャを表し、Ktはモータのトルク定数を表す。また、電流Iaは、グラフC10の最大振幅の値を表し、C・M/Kt・ωで表される。CおよびMはロボットROの姿勢および先端Amの位置によって変わる。つまり、モータMTの加速度W’を得るために必要なq軸電流Iqの最大値である電流Iaの値はロボットROの姿勢および位置によって変わる。
【0095】
q軸電流Iqを得るためのq軸電圧vqは、式(13)で表される。
【0096】
【数13】
【0097】
ここでvrは、q軸電流の維持に必要な電圧であり、vlはq軸電流を変更するのに必要な電圧である。vrは式(14)で、vlは式(15)で表される。
【0098】
【数14】
【0099】
【数15】
【0100】
式(13),(14),(15)より、vqは式(16)で表される。
【0101】
【数16】
【0102】
ここで、
【数17】

【数18】
【0103】
である。
【0104】
このように、ロボットROを円弧運動する際に必要なq軸電圧vqが算出される。電流Iaの値は、ロボットROが図4に示す円弧運動する際に必要な電流の最大値である。なお、図3のグラフC62に示すように、ロボットROの動作にd軸電圧はほとんど寄与しないため説明を省略する。
【0105】
このように、モータMTで駆動されるロボット等の産業用機械の動作に応じて必要なq軸電圧が算出される。電圧指令制限部168は、q軸電流の最大値Iqmaxを用いてモータMTで駆動されるロボット等の産業用機械の動作に必要なq軸電圧の制限値を求めることで、動作の種類に応じて最適なq軸電圧の制限値を設定することができる。これにより、モータ制御装置10Aは、所望の動作に必要な電流変化を実現しつつ、アンプ20およびモータMTに過大な電流を供給することを防ぐことができる。
【0106】
なお、q軸電圧制限値Vqlimは、式(3)の右辺1項目を式(16)としてもよい。この場合、電流Iaの値は、q軸電流の最大値Iqmaxもしくは、電流Iaに所定の定数を乗じた値とする。これにより、モータ制御装置10Aは、モータMTで駆動されるロボット等の産業用機械の動作に応じてq軸電圧制限値Vqlim算出し、電圧指令値を過剰に制限することを防ぐことができる。
【0107】
(本実施の形態のまとめ)
以上の本実施の形態の記載により、下記技術が開示される。
【0108】
<技術1>
本実施の形態に係るモータ制御装置は、モータに駆動電流を供給する電流制御部と、モータに供給される駆動電流の電流値を検出する電流検出部と、モータの回転位置を検出する位置検出部と、位置検出部が検出したモータの回転位置によりモータの回転速度を算出する速度算出部と、を備え、電流制御部は、モータの電流指令値および電流検出部で検出された電流値に基づいて、モータを駆動するための電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、速度算出部で算出されたモータの回転速度およびモータの電流指令値の変動周波数から、電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出し、算出した電圧指令制限値に基づいて電圧指令値を制限する電圧指令制限部と、を有する。
【0109】
これにより、本実施の形態に係るモータ制御装置は、モータの変動周波数と回転速度とから電圧指令値を制限する電圧指令制限値を算出することで、電流検出系が壊れ電圧指令値が発散した場合でも、アンプまたはモータへ過大な電流を供給することを防ぐことができる。また、モータ制御装置は、モータの所望の動作に応じた電圧指令制限値を都度算出するため、過剰に電圧指令値を制限し、モータの回転速度を変化させるのに必要な電圧が確保できなくなることを防ぐことができる。
【0110】
<技術2>
技術1に記載のモータ制御装置において、電流制御部は、d軸およびq軸の電圧指令制限値をそれぞれ算出する。
【0111】
これにより、本実施の形態に係るモータ制御装置は、d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値にそれぞれ適した制限値を算出することができる。これにより、モータ制御装置は、過剰に電圧指令値を制限することを防ぐことができる。
【0112】
<技術3>
技術1または技術2に記載のモータ制御装置において、電流制御部は、変動周波数を用いて電流最大値とインピーダンスとの積であるインピーダンス電圧値と、モータの回転速度と電流最大値との積である干渉電圧値と、の和をd軸の電圧指令制限値として算出する。
【0113】
これにより、本実施の形態に係るモータ制御装置は、モータの回転速度の変化させる際に必要なd軸電圧値に基づき電圧指令制限値を算出することができる。
【0114】
<技術4>
技術1から技術3のいずれか1つに記載のモータ制御装置において、電流制御部は、変動周波数を用いて電流最大値とインピーダンスとの積であるインピーダンス電圧値と、モータの回転速度と電流最大値との積である干渉電圧値と、誘起電圧の定数とモータの回転速度との積である誘起電圧と、の和をq軸の電圧指令制御値として算出する。
【0115】
これにより、本実施の形態に係るモータ制御装置は、モータの回転速度の変化させる際に必要なq軸電圧値に基づき電圧指令制限値を算出することができる。
【0116】
以上、添付図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示の技術は、アンプまたはモータへの過大電流を防止するモータ制御装置およびモータ制御方法として有用である。
【符号の説明】
【0118】
1,2 モータ制御システム
5 電源
10 モータ制御装置
11 移動指令制御部
12 位置制御部
13 速度制御部
14 移動量算出部
15 速度算出部
16 電流制御部
17 磁極位置算出部
20 アンプ
30 A/D変換器
31,32 電流検出器
51 交流電源
52 ダイオード
53 コンデンサ
161 PI制御部
162 PI制御部
163,164 処理
165 2相3相変換部
166 dq変換部
167,168 電圧指令制限部
169 PWM処理部
MT モータ
EN エンコーダ
RO ロボット
Am 先端
図1
図2
図3
図4
図5