(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158456
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】バルク音響共振器、フィルタ、及びバルク音響共振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20241031BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20241031BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073675
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 司
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC09
5J108DD01
5J108EE03
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】コストの高騰を招かず、バルク音響共振器の性能を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るバルク音響共振器は、基板と、前記基板上に配置される共振部と、を備え、前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置される共振部と、
を備え、
前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、
前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている、
バルク音響共振器。
【請求項2】
前記共振部は、第1電極膜と、前記第1電極膜上に配置された圧電膜と、前記圧電膜上に配置された第2電極膜と、を備え、
前記第1電極膜、前記圧電膜、及び前記第2電極膜の少なくとも1つが、前記第2キャビティ上へ延びている、請求項1に記載のバルク音響共振器。
【請求項3】
前記共振部は、シード膜と、前記シード膜上に配置された第1電極膜と、前記第1電極膜上に配置された圧電膜と、前記圧電膜上に配置された第2電極膜と、を備え、
前記シード膜、前記第1電極膜、前記圧電膜、及び前記第2電極膜の少なくとも1つが、前記第2キャビティ上へ延びている、請求項1に記載のバルク音響共振器。
【請求項4】
前記共振部は、前記第2電極膜と膜面方向に並ぶ、少なくとも1つの導体膜を備える、請求項2又は請求項3に記載のバルク音響共振器。
【請求項5】
前記共振部の、互いに向き合う2つの端辺は、非平行である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバルク音響共振器。
【請求項6】
バルク音響共振器を備え、
前記バルク音響共振器は、
基板と、
前記基板上に配置される共振部と、
を備え、
前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、
前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている、
フィルタ。
【請求項7】
共振部を備えるバルク音響共振器の製造方法であって、
基板の表面の所定領域と、前記表面の、前記所定領域とは異なる残余の領域に、第1キャビティと第2キャビティとをそれぞれ形成し、
前記共振部を前記表面上に形成し、
前記共振部が、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上に延びている、
バルク音響共振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク音響共振器、フィルタ、及びバルク音響共振器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に配置され、第1電極、圧電層、及び第2電極が順に積層された共振部を備えるバルク音響共振器が知られている。また、バルク音響共振器は、例えば、無線通信機器のフィルタとして用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
バルク音響共振器において、共振部の膜厚方向に伝搬する厚み振動波のほかに、膜面方向に伝搬する音響波が生じる場合がある。膜面方向に伝搬する音響波は、横モードスプリアスと称され、厚み振動波のノイズとなる。特許文献1に開示されるバルク音響共振器では、圧電層の下部に挿入層を設け、横モードスプリアスが、共振部の外部に出ることを防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のバルク音響共振器を製造する際、挿入層を設ける工程を行うため、バルク音響共振器のコストが高まる。
【0006】
本発明は、コストの高騰を招かず、バルク音響共振器の性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバルク音響共振器は、基板と、前記基板上に配置される共振部と、を備え、前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストの高騰を招かず、バルク音響共振器の性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の平面図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿って切断した、本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の部分拡大図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の共振部における端部の他の構成を示す部分断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の共振部における他の形状の例を示す平面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の動作を説明するための断面模式図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の製造工程を説明するための断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器の製造工程を説明するための断面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器の平面図である。
【
図10】
図9のC-C線に沿って切断した、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器の部分断面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器の動作を説明するための断面模式図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器の製造工程を説明するための断面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器の平面図である。
【
図14】
図13のD-D線に沿って切断した、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器の部分断面図である。
【
図15】本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器の動作を説明するための断面模式図である。
【
図16】本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器の製造工程を説明するための断面図である。
【
図17】本発明の第4実施形態に係るバルク音響共振器の平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明の実施形態について説明する。各図面において、同一の部材には同一の符号を付す場合がある。また、各図面の説明において、既に説明した部材と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0011】
[第1実施形態]
<構成>
図1~
図5を参照して、本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器1の全体構成の一例を説明する。
図1は、第1実施形態に係るバルク音響共振器1の平面図である。
図2は、
図1のA-A線で切断したバルク音響共振器1の断面図である。
図3は、
図2の領域Bを示す、バルク音響共振器1の部分拡大図である。
図4は、第1実施形態に係るバルク音響共振器1の共振部における端部の他の構成を示す部分断面図である。
図5は、第1実施形態に係るバルク音響共振器1の共振部における他の形状の例を示す平面図である。
【0012】
図示されるX方向は、バルク音響共振器1の幅方向に対応する。Y方向は、バルク音響共振器1の奥行き方向に対応する。Z方向は、バルク音響共振器1の厚み方向に対応する。X方向、Y方向、及びZ方向は、相互に直交する。X方向及びY方向を、バルク音響共振器1の「膜面方向」という。Z方向を、バルク音響共振器1の「膜厚方向」という。各方向において、矢印が向く側を「+側」とし、その反対側を「-側」とする。
【0013】
バルク音響共振器1は、基板100と、基板100上に配置される共振部200と、を備える。共振部200に交流の電気信号(以下、「交流信号」)が入力されることで、共振部200が、膜厚方向に共振振動する。また、共振部200は、共振振動の周波数(共振周波数)を有する交流信号を出力する。バルク音響共振器1は、例えば、無線通信機器に備わる周波数フィルタとして機能する。
【0014】
基板100は、共振部200を支持する。
図1及び
図2に示すように、第1実施形態の基板100は、矩形の平面形状を有する。ただし、基板100の平面形状は、矩形に限定されない。例えば、基板100の平面形状は、円形状、楕円形状、三角形状、五角形以上の多角形状であってもよい。
【0015】
基板100として、例えば、Si(シリコン)基板、SOI(Silicon On Insulator)基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板が挙げられる。この中で、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の半導体微細加工技術を用いて加工可能な点で、Si基板やSOI基板が好ましい。ただし、基板100の種類は、これに限定されない。
【0016】
基板100は、共振部200と向き合う第1主面101を有する。また、基板100は、第1キャビティ110と、第2キャビティ120と、第1キャビティ110と第2キャビティ120とを隔てる隔壁130と、を備える。なお、第1主面101は、基板100の「表面」の一例である。
【0017】
第1キャビティ110及び第2キャビティ120のそれぞれは、第1主面101の互いに異なる位置から窪む凹部である。第1キャビティ110は、第1主面101の所定の領域に設けられる。第2キャビティ120は、第1主面101において、第1キャビティ110が設けられる領域とは異なる残余の領域に設けられる。
【0018】
第1キャビティ110及び第2キャビティ120は、第1主面101上に載置される共振部200と接触しない。これに対して、隔壁130は、共振部200と接触する。なお、第1キャビティ110の深さと、第2キャビティ120の深さとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
第1キャビティ110は、例えば、基板100の中央部に配置される。
図2に示すように、第1キャビティ110は、共振部200の中央部211に対して、膜厚方向の下方側に位置する。第1キャビティ110が設けられることで、共振部200の中央部211は、膜厚方向に自由振動することができる。
【0020】
第2キャビティ120は、第1キャビティ110に対して、例えば、膜面方向の外側に配置される。
図2に示すように、第2キャビティ120は、共振部200の端部213に対して、膜厚方向の下方側に位置する。第2キャビティ120が設けられることで、共振部200の端部213が、膜厚方向に自由振動することができる。
【0021】
第2キャビティ120は、第1キャビティ110より外側を1周する環状の形状を有することが好ましい。ただし、第2キャビティ120は、完全な「環」を呈さず、任意の箇所で途切れていてもよい。また、第2キャビティ120の形状は、環状に限られず、直線状や円弧状であってもよい。
【0022】
共振部200は、
図2に示すように、中央部211と、固定部212と、端部213と、を備える。
【0023】
中央部211は、膜面方向の中央に位置する。中央部211は、第1キャビティ110の上方に位置し、第1キャビティ110を覆う。
【0024】
固定部212は、中央部211に対して、膜面方向の外側に位置する。固定部212は、中央部211に連なる。固定部212は、隔壁130の上方に位置する。固定部212は、隔壁130に固定される。
【0025】
端部213は、固定部212に対して、膜面方向の外側に位置し、共振部200の最外部に位置する。端部213は、固定部212に連なる。端部213は、第2キャビティ120上へ延びている。なお、「第2キャビティ120上に延びている」状態とは、端部213が、基板100の隔壁130と第2キャビティ120との境界から、第2キャビティ120上方へ達し、第2キャビティ120の少なくとも一部を覆った状態をいう。
【0026】
共振部200は、シード膜220と、下部電極膜230と、圧電膜240と、上部電極膜250と、保護膜260と、を備える。シード膜220と、下部電極膜230と、圧電膜240と、上部電極膜250と、保護膜260とは、膜厚方向の下側からこの順に積層される。
【0027】
下部電極膜230は、「第1電極膜」の一例である。上部電極膜250は、「第2電極膜」の一例である。なお、シード膜220、下部電極膜230、圧電膜240、上部電極膜250、及び保護膜260のそれぞれを、「共振部を構成する各膜」という。
【0028】
図2に示すように、共振部200において中央部211は、共振部200を構成する各膜の、第1キャビティ110の上方に位置する部分を含む。
図2に示される例の場合、中央部211は、シード膜220の中央部221、下部電極膜230の中央部231、圧電膜240の中央部241、上部電極膜250の全域、保護膜260の全域を含む。ただし、中央部211の構成は、これに限定されない。
【0029】
固定部212は、共振部200を構成する各膜の、隔壁130の上方に位置する部分を含む。
図2に示される例の場合、固定部212は、シード膜220の固定部222、下部電極膜230の固定部232、及び圧電膜240の固定部242を含む。ただし、固定部212の構成は、これに限定されない。
【0030】
端部213は、共振部200を構成する各膜の、第2キャビティ120上へ延びている部分を含む。
図2に示される例の場合、端部213は、シード膜220の端部223、下部電極膜230の端部233、及び圧電膜240の端部243を含む。ただし、端部213の構成は、これに限定されない。
【0031】
シード膜220は、下部電極膜230及び圧電膜240の結晶性を促進するための下地膜である。シード膜220は、圧電膜240と同様の材料で構成されてよい。例えば、圧電膜240がAlN(窒化アルミニウム)から構成される場合、シード膜220も、AlNから構成される。ただし、下部電極膜230や圧電膜240の成膜条件によっては、シード膜220を設けなくてもよい場合がある。
【0032】
下部電極膜230は、例えば、圧電膜240の共振周波数に対応する交流信号を出力するための電極である。下部電極膜230は、シード膜220を覆う。下部電極膜230は、膜面方向の外側に引き出された引出端部235を備える(
図1参照)。引出端部235は、外部配線を接続するための端子として機能する。
【0033】
下部電極膜230の例として、Au(金)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Al(アルミニウム)、Pt(白金)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Pd(パラジウム)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Nb(ニオブ)、または、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。
【0034】
圧電膜240は、印加された電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電材料を含む膜である。圧電膜240は、共振部200の振動源として機能する。圧電膜240は、下部電極膜230を覆う。圧電膜240は、下部電極膜230及び上部電極膜250に挟まれる。圧電膜240は、交流信号の入力に応じて、膜厚方向に共振振動する。
【0035】
圧電膜240として、ZnO(酸化亜鉛)、AlN、及びPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等を含む圧電薄膜が挙げられる。圧電膜240がAlN膜の場合、AlN膜は、不純物を含んでもよいし、含まなくてもよい。AlN膜に含まれる不純物の例として、Sc(スカンジウム)、Er(エルビウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)等の希土類金属元素、Hf(ハフニウム)、Ti、Ta、及びNb等の遷移金属元素、及びMg(マグネシウム)等のアルカリ土類金属元素が挙げられる。
【0036】
上部電極膜250は、例えば、圧電膜240に交流信号を入力するための電極である。上部電極膜250は、膜面方向の外側に引き出される引出端部255を備える(
図1参照)。引出端部255は、外部配線を接続するための端子として機能する。
【0037】
上部電極膜250の例として、Au、Mo、Ru、Ir、Al、Pt、Ti、W、Pd、Ta、Cr、Ni、Nbまたは、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。
【0038】
上部電極膜250は、第1キャビティ110の上方で終端し、第2キャビティ120上へ延びていない。ただし、上部電極膜250の端部253も、第2キャビティ120上へ延びていてもよい。
【0039】
上部電極膜250上には、保護膜260が配置されることが好ましい。保護膜260は、上部電極膜250の劣化を防ぐ。保護膜260の例として、アルミナ膜、シリコン酸化膜、各種圧電膜が挙げられる。ただし、保護膜260は、これらに限定されない。
【0040】
第1実施形態において、共振部200の端部213は、シード膜220の端部223、下部電極膜230の端部233、圧電膜240の端部243から構成される。ただし、共振部200の端部213は、シード膜220の端部223、下部電極膜230の端部233、圧電膜240の端部243、上部電極膜250の端部のうちの少なくとも1つを含んでいればよい。
【0041】
例えば、
図4(a)に示すように、共振部200の端部213は、シード膜220の端部223及び下部電極膜230の端部233から構成されていてもよい。また、
図4(b)に示すように、共振部200の端部213は、シード膜220の端部223、下部電極膜230の端部233、圧電膜240の端部243、上部電極膜250の端部253、及び保護膜260の端部263から構成されていてもよい。
【0042】
共振部200を構成する各膜の端部は、膜面方向の同じ位置で終端していてもよいし、膜面方向の異なる位置で終端していてもよい。
図4(b)に示される例では、シード膜220の端部223及び下部電極膜230の端部233は、同じ位置で終端している。これに対して、圧電膜240の端部243、上部電極膜250の端部253、及び保護膜260の端部263は、シード膜220の端部223及び下部電極膜230の端部233より、膜面方向の内側の位置で終端している。
【0043】
共振部200を構成する各膜の端部の先端は、傾斜していてもよい。
図4(c)に示される例では、シード膜220の端部223及び下部電極膜230の端部233が、傾斜している。
【0044】
共振部200の平面形状は、矩形以外の多角形であってもよい。
図5に示される例では、共振部200の平面形状は、五角形である。ただし、共振部200の平面形状は、五角形に限定されず、三角形、六角形以上の多角形、円形、楕円形であってもよい。
【0045】
ここで、共振部200の平面形状とは、引出端部235,255を除いた平面形状である。共振部200の平面形状が、矩形以外の多角形であることで、共振部200の互いに向き合う2つの端辺は、非平行となる。
【0046】
例えば、
図5に示すように、共振部200の第1の端辺215Aと第2の端辺215Bとは、非平行である。また、共振部200の第3の端辺215Cと第4の端辺215Dとは、非平行である。さらに、第4の端辺215Dと第5の端辺215Eとは、非平行である。なお、共振部200の各端辺は、直線に限られず、曲線であってもよい。さらに、共振部200における各端辺の交点は、角張っていてもよいし、角張っていなくてもよい。
【0047】
共振部200において、互いに向き合う2つの端辺を非平行とすることで、向き合う2つの端辺のそれぞれで反射した音響波同士が干渉し、共振部200内の共振振動の発生が妨げられる事態を防止できる。
【0048】
<動作>
次に、
図6を参照して、本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器1の動作を説明する。
図6は、本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器1の動作を説明するための断面模式図である。
【0049】
上部電極膜250から、圧電膜240に交流信号が入力されると、圧電膜240が、膜厚方向に共振振動する。これにより、例えば、共振部200の中央部211に、膜厚方向に伝搬する音響波P1が生じる。音響波P1は、厚み振動波と称される音響波である。バルク音響共振器1は、音響波P1の周波数に対応する周波数の交流信号を出力する。以下、音響波P1を「厚み振動波P1」という。
【0050】
また、共振部200の端部213は、第2キャビティ120上へ延びている。すなわち、端部213の下方側は、空洞である。そのため、圧電膜240に入力された交流信号によって、共振部200の端部213も、膜厚方向に共振振動する。これにより、共振部200の端部213に、膜厚方向に伝搬する音響波P2が生じる。音響波P2は、厚み振動波P1の共振周波数と異なる共振周波数を有する音響波である。以下、音響波P2を「厚み振動波P2」という。
【0051】
これに対して、共振部200には、膜面方向に伝搬する音響波Qが生じ得る。音響波Qは、横モードスプリアスと称される音響波であり、厚み振動波P1に対してノイズとなる。そのため、音響波Qに起因するノイズが、バルク音響共振器1から出力されないよう、音響波Qを共振部200内に閉じ込める必要がある。以下、音響波Qを「横モードスプリアスQ」という。
【0052】
厚み振動波P1と厚み振動波P2とは、互いに異なる共振周波数で独立に振動する音響波である。すなわち、共振部200における中央部211の音響インピーダンスと、端部213の音響インピーダンスとは、互いに異なる。その結果、中央部211内を膜面方向に伝搬する横モードスプリアスQは、端部213で反射され、再び中央部211内を伝搬する。これにより、共振部200内に横モードスプリアスQを閉じ込めることができる。
【0053】
<製造方法>
次に、
図7及び
図8を参照して、本発明の第1実施形態に係るバルク音響共振器1の製造方法を説明する。
図7及び
図8は、第1実施形態に係るバルク音響共振器1の製造工程を説明するための断面図である。
【0054】
まず、
図7(a)に示すように、平坦な第1主面101を有する基板100を準備する。続いて、
図7(b)に示すように、第1主面101の所定の領域と、所定の領域とは異なる残余の領域のそれぞれに、凹部を形成する。第1実施形態では、第1主面101の中央部に凹部を形成するとともに、中央部に対して膜面方向の外側に位置する側部に別の凹部を形成する。各凹部の形成には、例えば、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチング法を用いる。第1主面101の中央部に形成された凹部は、第1キャビティ110に対応する。また、第1主面101の側部に形成された凹部は、第2キャビティ120に対応する。
【0055】
続いて、
図7(c)に示すように、第1キャビティ110内及び第2キャビティ120内のそれぞれに、犠牲層100Gを形成する。犠牲層100Gの材料の例として、例えば、SiO
2、リンケイ酸ガラス(Phosphorous Silicate Glass:PSG)、ホウリンケイ酸ガラス(Boron Phosphorus Silicon Glass:BPSG)が挙げられる。犠牲層100Gの形成には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、化学気相堆積(Chemical Vapor Deposition:CVD)法を用いる。犠牲層100Gの形成後、犠牲層100Gの上面の位置を基板100の上面の位置に合わせるため、犠牲層100Gの上面を研磨することが好ましい。
【0056】
続いて、
図8(a)に示すように、第1キャビティ110内の犠牲層100Gに積み重なるように、シード膜220を形成する。続いて、
図8(b)に示すように、シード膜220上に下部電極膜230を形成する。続いて、
図8(c)に示すように、下部電極膜230上に圧電膜240を形成する。続いて、
図8(d)に示すように、圧電膜240上に上部電極膜250を形成する。続いて、
図8(e)に示すように、上部電極膜250上に保護膜260を形成する。これにより、共振部200が形成される。このとき、共振部200を構成する各膜のうち、少なくとも1つの膜の端部が、第2キャビティ120内の犠牲層100G上まで延び、第2キャビティ120内の犠牲層100Gに積み重なる。
【0057】
シード膜220、下部電極膜230、圧電膜240、上部電極膜250、及び保護膜260の形成には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法を用いる。
【0058】
続いて、
図8(f)に示すように、第1キャビティ110内及び第2キャビティ120内の犠牲層100Gをそれぞれ除去する。犠牲層100Gの除去には、例えば、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチング法を用いる。なお、図示を省略しているが、基板100に、第1キャビティ110と第2キャビティ120とをつなぐスルーホールが設けられている。そのため、犠牲層100Gを除去するためのエッチャントを、第2キャビティ120から導入し、スルーホールを通じて、第1キャビティ110に供給する。これにより、第1キャビティ110及び第2キャビティ120のそれぞれに形成された犠牲層100Gを、一度に除去することができる。
【0059】
これらの各工程を経て、バルク音響共振器1を製造する。ただし、バルク音響共振器1の製造において、他の工程を適宜含ませてもよい。
【0060】
<作用効果>
第1実施形態において、共振部200の中央部211が、第1キャビティ110上を覆うとともに、共振部200の端部213が、第2キャビティ120上へ延びている。この構造によって、中央部211と端部213のそれぞれに、独立の厚み振動波P1,P2を励起することができる。これにより、中央部211の音響インピーダンスと、端部213の音響インピーダンスとを異ならせ、中央部211に伝搬する横モードスプリアスQを端部213で反射させることができる。その結果、横モードスプリアスQを共振部200に閉じ込めることができ、バルク音響共振器1のフィルタ特性を向上させることができる。また、第1キャビティ110と第2キャビティ120とを、同タイミングで実行可能な同一の加工プロセスによって、それぞれ形成することができる。これにより、フィルタ特性を向上させる構造を、コストを上昇させずに作製することができる。
【0061】
[第2実施形態]
<構成>
次に、
図9及び
図10を参照して、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの構成例を説明する。
図9は、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの平面図である。
図10は、
図9のC-C線で切断したバルク音響共振器1Aの部分断面図である。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成部についての説明を適宜省略する。
【0062】
第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aと、第1実施形態に係るバルク音響共振器1とは、圧電膜240上に配置される導体膜の構造が異なる。
図9及び
図10に示すように、バルク音響共振器1Aは、圧電膜240上にそれぞれ配置される、上部電極膜250A1と、導体膜250A2と、を備える。
【0063】
上部電極膜250A1は、膜面方向の中央に配置される。上部電極膜250A1は、第1キャビティ110の上方に配置される。上部電極膜250A1は、矩形の平面形状を有するが、これに限られない。例えば、上部電極膜250A1の平面形状は、楕円形状、三角形状、五角形以上の多角形状であってもよい。上部電極膜250A1の平面形状が、四角形以上の多角形状の場合、各辺が非平行であることが好ましい。
【0064】
導体膜250A2は、上部電極膜250A1と膜面方向に並ぶ。
図9及び
図10に示される例では、導体膜250A2は、上部電極膜250A1に対して、膜面方向の外側に配置される。ただし、導体膜250A2は、上部電極膜250A1に対して、膜面方向の内側に配置されてもよい。第2実施形態の導体膜250A2は、第1キャビティ110と隔壁130との境界部の上方に配置される。ただし、導体膜250A2の位置は、これに限定されない。
【0065】
上部電極膜250A1と導体膜250A2とは、離れていることが好ましいが、接触していてもよい。また、上部電極膜250A1と導体膜250A2との境界は、上部電極膜250A1と導体膜250A2が離れている領域と、上部電極膜250A1と導体膜250A2が接触している領域の双方を含んでいてもよい。上部電極膜250A1の厚さと導体膜250A2の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0066】
第2実施形態の導体膜250A2は、上部電極膜250A1より外側を1周する環状の形状を有することが好ましい。ただし、導体膜250A2は、完全な「環」を呈さず、上部電極膜250A1より外側の任意の箇所で途切れていてもよい。また、導体膜250A2の形状は、環状に限られず、直線状や円弧状であってもよい。
【0067】
上部電極膜250A1及び導体膜250A2の例として、Au、Mo、Ru、Ir、Al、Pt、Ti、W、Pd、Ta、Cr、Ni、Nbまたは、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。
【0068】
上部電極膜250A1及び導体膜250A2の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、同一工程によって上部電極膜250A1及び導体膜250A2を成膜できる等の観点から、上部電極膜250A1及び導体膜250A2の材料は同じであることが好ましい。
【0069】
上部電極膜250A1と導体膜250A2とは、電気的に接続されていてもよいし、電気的に接続されていなくてもよい。
【0070】
上部電極膜250A1の劣化を防止するため、上部電極膜250A1上に保護膜260A1が配置されることが好ましい。同様に、導体膜250A2の劣化を防止するため、導体膜250A2上に保護膜260A2が配置されることが好ましい。
【0071】
<動作>
次に、
図11を参照して、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの動作を説明する。
図11(a)は、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの動作を説明するための断面模式図である。
図11(b)は、バルク音響共振器1Aの共振部200Aにおいて、膜面方向に隣り合う厚み振動波P11,P12の節同士の間隔「λ」を示す断面模式図である。
【0072】
説明の便宜上、圧電膜240には、上部電極膜250A1から交流信号が入力されるものとし、導体膜250A2から交流信号が入力されないものとする。ただし、導体膜250A2からも交流信号が入力されてもよい。
【0073】
上部電極膜250A1から、圧電膜240に交流信号が入力されると、圧電膜240が、膜厚方向に共振振動する。これにより、共振部200Aの中央部211に、膜厚方向に伝搬する厚み振動波P1が生じる。また、共振部200Aの端部213に、厚み振動波P1とは異なる共振振動数を有する厚み振動波P2が生じる。
【0074】
ところで、共振部200Aにおいて、上部電極膜250A1を含む領域281の厚さ、導体膜250A2を含む領域282の厚さ、及び上部電極膜250A1と導体膜250A2の間の領域283の厚さは、それぞれ異なる。そのため、各領域281,282,283の音響インピーダンスは、互いに異なる。これにより、中央部211内を膜面方向に伝搬する横モードスプリアスQは、端部213に加えて、領域281と領域283の境界、及び領域283と領域282の境界においても反射する。
【0075】
共振部200Aは、横モードスプリアスQを反射する複数の部分を含む。これにより、共振部200A内に、より効果的に横モードスプリアスQを閉じ込めることができる。
【0076】
また、
図11(a)に示すように、上部電極膜250A1と導体膜250A2との間の距離をW1とし、導体膜250A2の幅をW2とする場合、W1及びW2を、式(1)及び式(2)の関係を満たすように調整することで、横モードスプリアスQをさらに効果的に閉じ込めることができる。
【0077】
W1=0.25nλ ・・・ (1)
W2=0.25nλ ・・・ (2)
【0078】
ここで、「n」は、1以上の自然数である。また、「λ」は、
図11(b)に示すように、共振部200A内の膜面方向に隣り合う厚み振動波P11,P12それぞれの節同士の間隔である。
【0079】
<製造方法>
次に、
図12を参照して、本発明の第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの製造方法を説明する。
図12は、第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aの製造工程を説明するための断面図である。ここで、基板100の準備から圧電膜240の形成までの各工程は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0080】
圧電膜240を形成した後、
図12(a)に示すように、圧電膜240上に、膜面方向に一連に延びる加工前の導体膜250Mを形成する。続いて、加工前の導体膜250M上に保護膜260Mを形成する。加工前の導体膜250M及び保護膜260Mの形成には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法を用いる。
【0081】
続いて、
図12(b)に示すように、加工前の導体膜250M及び保護膜260Mを膜厚方向に貫通する溝250Tを形成する。これにより、溝250Tを境に、上部電極膜250A1と導体膜250A2とが形成される。溝250Tに対して、膜面方向の中央が、上部電極膜250A1に対応する。また、膜面方向の外側が、導体膜250A2に対応する。溝250Tの形成には、例えば、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチング法を用いる。
【0082】
その後の各工程は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。これらの各工程を経て、バルク音響共振器1Aを製造する。ただし、バルク音響共振器1Aの製造において、他の工程を適宜含ませてもよい。
【0083】
<作用効果>
第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aにおいて、導体膜250A2が、上部電極膜250A1に対して、膜面方向に並ぶ。これにより、共振部200Aに、厚さの異なる複数の領域281,282,283が形成される。それぞれの領域281,282,283の音響インピーダンスは、互いに異なることから、各領域の境界で横モードスプリアスQを反射させることができる。すなわち、共振部200Aは、横モードスプリアスQを反射する複数の部分を有する。そのため、横モードスプリアスQをより効果的に閉じ込めることができ、フィルタ特性を向上させることができる。また、上部電極膜250A1及び導体膜250A2を、同タイミングで実行可能な同一の加工プロセスによって、それぞれ形成することができる。これにより、フィルタ特性を向上させる構造を、コストを上昇させずに作製することができる。その他、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0084】
[第3実施形態]
<構成>
次に、
図13及び
図14を参照して、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの構成例を説明する。
図13は、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの平面図である。
図14は、
図13のD-D線で切断したバルク音響共振器1Bの部分断面図である。なお、第3実施形態において、前述の実施形態と同一の構成部についての説明を適宜省略する。
【0085】
第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bと、第1実施形態に係るバルク音響共振器1及び第2実施形態に係るバルク音響共振器1Aとは、圧電膜240上に配置される導体膜の構造が異なる。
図13及び
図14に示すように、バルク音響共振器1Bは、圧電膜240上にそれぞれ配置される、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3を備える。上部電極膜250B1は、第1キャビティ110の上方に配置される。
【0086】
第1導体膜250B2は、上部電極膜250B1と膜面方向に並ぶ。
図13及び
図14に示される例では、第1導体膜250B2は、上部電極膜250B1に対して、膜面方向の外側に配置される。ただし、第1導体膜250B2は、上部電極膜250B1に対して、膜面方向の内側に配置されてもよい。
【0087】
上部電極膜250B1と第1導体膜250B2とは、離れていることが好ましいが、接触していてもよい。また、上部電極膜250B1と第1導体膜250B2との境界は、上部電極膜250B1と第1導体膜250B2が離れている領域と、上部電極膜250B1と第1導体膜250B2が接触している領域の双方を含んでいてもよい。上部電極膜250B1の厚さと第1導体膜250B2の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0088】
第3実施形態の第1導体膜250B2は、上部電極膜250B1より外側を1周する環状の形状を有することが好ましい。ただし、第1導体膜250B2は、完全な「環」を呈さず、上部電極膜250B1より外側の任意の箇所で途切れていてもよい。また、第1導体膜250B2の形状は、環状に限られず、直線状や円弧状であってもよい。
【0089】
第2導体膜250B3は、上部電極膜250B1及び第1導体膜250B2と膜面方向に並ぶ。
図13及び
図14に示される例では、第2導体膜250B3は、第1導体膜250B2に対して、膜面方向の外側に配置される。ただし、第2導体膜250B3は、第1導体膜250B2に対して、膜面方向の内側に配置されてもよい。また、第2導体膜250B3は、上部電極膜250B1に対して、膜面方向の内側に配置されてもよい。
【0090】
第1導体膜250B2と第2導体膜250B3とは、離れていることが好ましいが、接触していてもよい。また、第1導体膜250B2と第2導体膜250B3との境界は、第1導体膜250B2と第2導体膜250B3とが離れている領域と、第1導体膜250B2と第2導体膜250B3とが接触している領域の双方を含んでいてもよい。第1導体膜250B2の厚さと第2導体膜250B3の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0091】
第3実施形態の第2導体膜250B3は、第1導体膜250B2より外側を1周する環状の形状を有していてもよい。ただし、第2導体膜250B3は、完全な「環」を呈さず、任意の箇所で途切れていてもよい。また、第2導体膜250B3の形状は、環状に限られず、直線状や円弧状であってもよい。
【0092】
上部電極膜250B1と膜面方向に並ぶ導体膜の数は、2つに限定されない。さらに別の導体膜が、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、第2導体膜250B3と、膜面方向に並んでいてもよい。
【0093】
上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3の例として、Au、Mo、Ru、Ir、Al、Pt、Ti、W、Pd、Ta、Cr、Ni、Nb、または、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。
【0094】
上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3の材料は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、同一工程によって、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3を成膜できる等の観点から、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3の材料は、すべて同じであることが好ましい。
【0095】
上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3は、それぞれ電気的に接続されていてもよいし、接続されていなくてもよい。
【0096】
上部電極膜250B1上には、保護膜260B1が配置されることが好ましい。第1導体膜250B2上には、保護膜260B2が配置されることが好ましい。第2導体膜250B3上には、保護膜260B3が配置されることが好ましい。
【0097】
<動作>
次に、
図15を参照して、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの動作を説明する。
図15(a)は、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの動作を説明するための断面模式図である。
図15(b)は、バルク音響共振器1B内に生じる音響波のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15(b)は、
図15(a)に示される領域Eのシミュレーション結果である。
【0098】
説明の便宜上、圧電膜240には、上部電極膜250B1から交流信号が入力されるものとし、第1導体膜250B2及び第2導体膜250B3から交流信号が入力されないものとする。ただし、第1導体膜250B2及び第2導体膜250B3の少なくとも一方からも、交流信号が入力されてもよい。
【0099】
上部電極膜250B1から、圧電膜240に交流信号が入力されると、圧電膜240が、膜厚方向に共振振動する。これにより、共振部200Bの中央部211に、膜厚方向に伝搬する厚み振動波P1が生じる。また、共振部200Bの端部213に、厚み振動波P1とは異なる共振振動数を有する厚み振動波P2が生じる。
【0100】
ところで、共振部200Bにおいて、上部電極膜250B1を含む領域291の厚さ及び第1導体膜250B2を含む領域292の厚さは、上部電極膜250B1と第1導体膜250B2の間の領域293の厚さと異なる。また、第1導体膜250B2を含む領域294の厚さは、第1導体膜250B2と第2導体膜250B3の間の領域295の厚さと異なる。そのため、各領域291,292,293,294,295の音響インピーダンスは、互いに異なる。
【0101】
これにより、中央部211内を膜面方向に伝搬する横モードスプリアスQは、端部213に加えて、領域291と領域293の境界、領域293と領域292の境界、領域292と領域295の境界、及び領域295と領域294の境界においても反射する。
【0102】
共振部200Bは、横モードスプリアスQを反射する複数の部分を含む。これにより、共振部200B内に、より効果的に横モードスプリアスQを閉じ込めることができる。
【0103】
また、
図15(a)に示すように、第1導体膜250B2と第2導体膜250B3との間の距離をW3とする場合、式(3)の関係を満たすようにW3を調整することで、横モードスプリアスQを共振部200B内にさらに効果的に閉じ込めることができる。このとき、W1は、式(1)を満たすことが好ましい。また、W2は、式(2)を満たすことが好ましい。
【0104】
W3=0.25nλ ・・・ (3)
【0105】
ここで、「n」は、1以上の自然数である。また、「λ」は、第2実施形態の場合と同様、共振部200B内で膜面方向に隣り合う厚み振動波それぞれの節同士の間隔である。
【0106】
例えば、λ=1μm、W1=W3=0.5μm、W2=1.5μmとする場合、
図15(b)に示すように、共振部200Bにおける領域295が振動していない。換言すれば、中央部211を伝搬する横モードスプリアスQは、領域295を通過していない。その結果、横モードスプリアスQを極めて効果的に共振部200Bに閉じ込めることができる。
【0107】
さらに、W1,W2,W3の関係が、式(4)を満たすことで、横モードスプリアスQを共振部200B内に効果的に閉じ込めることができる。
【0108】
W1=W2=W3 ・・・ (4)
【0109】
<製造方法>
次に、
図16を参照して、本発明の第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの製造方法を説明する。
図16は、第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bの製造工程を説明するための断面図である。ここで、基板100の準備から、圧電膜240上の1つの導体膜に保護膜を形成するまでの各工程は、第2実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0110】
図16(a)に示すように、圧電膜240上に、加工前の導体膜250M及び保護膜260Mをそれぞれ形成した後、
図16(b)に示すように、膜面方向に溝250T1,250T2を形成する。溝250T1,250T2のそれぞれは、導体膜250M及び保護膜260Mを膜厚方向に貫通する。これにより、溝250T1を境に、上部電極膜250B1と第1導体膜250B2とが形成される。また、溝250T2を境に、第1導体膜250B2の反対側に第2導体膜250B3が形成される。すなわち、圧電膜240上の膜面方向に、上部電極膜250B1と、第1導体膜250B2と、第2導体膜250B3とが並ぶ。溝250T1,250T2の形成には、例えば、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチング法を用いる。
【0111】
その後の各工程は、第1実施形態及び第2実施形態と同様のため、説明を省略する。これらの各工程を経て、バルク音響共振器1Bを製造する。ただし、バルク音響共振器1Bの製造において、他の工程を適宜含ませてもよい。
【0112】
<作用効果>
第3実施形態に係るバルク音響共振器1Bにおいて、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3のそれぞれが、膜面方向に並ぶ。これにより、共振部200Bに、厚さの異なる複数の領域291,292,293,294,295が形成される。それぞれの領域291,292,293,294,295の音響インピーダンスは、互いに異なることから、各領域の境界で横モードスプリアスQを反射させることができる。すなわち、共振部200Bは、横モードスプリアスQを反射する複数の部分を有する。そのため、横モードスプリアスQをより効果的に閉じ込めることができ、フィルタ特性をさらに向上させることができる。また、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2、及び第2導体膜250B3を、同タイミングで実行可能な同一の加工プロセスによって、それぞれ形成することができる。これにより、フィルタ特性を向上させる構造を、コストを上昇させずに作製することができる。その他、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0113】
[第4実施形態]
次に、
図17を参照して、本発明の第4実施形態に係るバルク音響共振器1Cの構成例を説明する。
図17(a)は、本発明の第4実施形態に係るバルク音響共振器1Cの平面図である。
図17(b)は、
図17(a)のE-E線で切断したバルク音響共振器1Cの部分断面図である。なお、第4実施形態において、前述の実施形態と同一の構成部についての説明を適宜省略する。
【0114】
図17(b)に示すように、第4実施形態に係るバルク音響共振器1Cにおいて、圧電膜240は、下部電極膜230の引出端部235上にも配置されている。引出端部235上に配置される圧電膜240によって、引出端部235の劣化を防止できる。これに対して、共振部200Cにおける、引出端部235を含む領域の下方側には、第2キャビティ120は設けられていない。
【0115】
圧電膜240の端部243は、圧電膜240の他の領域に比べて薄い。圧電膜240において、他の領域に比べて薄い端部243を形成する方法として、例えば、他の領域の厚さと同じであった端部243の一部を、エッチングによって除去する方法が挙げられる。ただし、これに限定されない。
【0116】
圧電膜240の端部243の厚さと、圧電膜240の他の領域の厚さとが異なるため、双方の領域の音響インピーダンスは、互いに異なる。これにより、共振部200Cを伝搬する横モードスプリアスQを、圧電膜240の端部243で反射させ、共振部200C内に閉じ込めることができる。
【0117】
圧電膜240の端部243の厚さと、圧電膜240の他の領域の厚さ(例えば、端部243に隣接する圧電膜240の厚さ)との差tbは、共振部200Cの厚さtaを1とした場合、0.05~0.25、又は0.75~0.95の範囲内であることが好ましい。差tbをこの範囲内にすることで、共振部200C内に横モードスプリアスQをより効果的に閉じ込めることができる。
【0118】
図17に示される例では、第3実施形態と同様、圧電膜240上に、上部電極膜250B1、第1導体膜250B2及び第2導体膜250B3が、それぞれ配置されている。また、上部電極膜250B1上に、保護膜260B1が配置されている。第1導体膜250B2上に、保護膜260B2が配置されている。第2導体膜250B3上に、保護膜260B3が配置されている。ただし、圧電膜240上の構造は、これらに限定されない。例えば、第1実施形態と同様、圧電膜240上に、上部電極膜250が配置されていてもよい。また、上部電極膜250上に、保護膜260が配置されていてもよい。さらに、第2実施形態と同様、圧電膜240上に、上部電極膜250A1及び導体膜250A2のそれぞれが配置されていてもよい。また、上部電極膜250A1上及び導体膜250A2上のそれぞれに、保護膜260B1,260B2が配置されていてもよい。
【0119】
図17(b)に示される端部243のように、圧電膜240の他の領域に比べて厚さの薄い領域の位置は、引出端部235上に限られない。
【0120】
以上、好ましい実施形態等について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態について、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、種々の変形及び置換を加えることができる。
【0121】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 基板と、
前記基板上に配置される共振部と、
を備え、
前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、
前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている、
バルク音響共振器。
<2> 前記共振部は、第1電極膜と、前記第1電極膜上に配置された圧電膜と、前記圧電膜上に配置された第2電極膜と、を備え、
前記第1電極膜、前記圧電膜、及び前記第2電極膜の少なくとも1つが、前記第2キャビティ上へ延びている、前記<1>に記載のバルク音響共振器。
<3> 前記共振部は、シード膜と、前記シード膜上に配置された第1電極膜と、前記第1電極膜上に配置された圧電膜と、前記圧電膜上に配置された第2電極膜と、を備え、
前記シード膜、前記第1電極膜、前記圧電膜、及び前記第2電極膜の少なくとも1つが、前記第2キャビティ上へ延びている、前記<1>に記載のバルク音響共振器。
<4> 前記共振部は、前記第2電極膜と膜面方向に並ぶ、少なくとも1つの導体膜を備える、前記<2>又は前記<3>に記載のバルク音響共振器。
<5> 前記共振部の、互いに向き合う2つの端辺は、非平行である、前記<1>から前記<4>のいずれか1つに記載のバルク音響共振器。
<6> バルク音響共振器を備え、
前記バルク音響共振器は、
基板と、
前記基板上に配置される共振部と、
を備え、
前記基板は、第1キャビティと、前記第1キャビティの外側に配置される第2キャビティと、を備え、
前記共振部は、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている、
フィルタ。
<7> 共振部を備えるバルク音響共振器の製造方法であって、
基板の表面の所定領域と、前記表面の、前記所定領域とは異なる残余の領域に、第1キャビティと第2キャビティとをそれぞれ形成し、
前記共振部を前記表面上に形成し、
前記共振部が、前記第1キャビティを覆うとともに、前記第2キャビティ上へ延びている、
バルク音響共振器の製造方法。
【符号の説明】
【0122】
1,1A,1B,1C バルク音響共振器、100 基板、110 第1キャビティ、120 第2キャビティ、130 隔壁、200,200A,200B 共振部、220 シード膜、230 下部電極膜、240 圧電膜、250,250A1,250B1 上部電極膜、250A2 導体膜、250B2 第1導体膜、250B3 第2導体膜、260 保護膜、P1,P2 厚み振動波、Q 横モードスプリアス