(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158476
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】放射線モニタ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01T1/20 J
G01T1/20 H
G01T1/20 C
G01T1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073707
(22)【出願日】2023-04-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 修一
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小泉 湧希
(72)【発明者】
【氏名】山下 純貴
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC12
2G188CC13
2G188CC21
2G188CC23
2G188DD09
2G188DD30
2G188EE14
2G188FF04
2G188FF18
(57)【要約】
【課題】入射した放射線に対して光子を放出する複数の蛍光体を備えた放射線モニタにおいて、感度のエネルギー特性を平坦化する。
【解決手段】本発明に係る放射線モニタ11は、入射した放射線29に対して光子59を放出する複数の蛍光体16が備わる放射線検知部13を備えて構成されている。蛍光体16は、入射する放射線29に対して第1の感度を有する第1の蛍光体15、及び第1の蛍光体15と比べて高い第2の感度を有する第2の蛍光体17を備える。第2の蛍光体17には、入射する放射線29のうち、第1の蛍光体15が検知対象とする低エネルギー放射線45を選択的に遮蔽するための放射線遮蔽部19が備わっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線に対して光子を放出するシンチレータとしての蛍光体が備わる放射線検知部と、前記蛍光体から放出された光子を伝送する光子伝送部と、前記伝送されてきた光子を計測する光学計測部と、を備える放射線モニタであって、
前記蛍光体は、入射する放射線に対して第1の感度を有する第1の蛍光体、及び当該第1の蛍光体と比べて高い第2の感度を有する第2の蛍光体を備え、
前記第2の蛍光体には、入射する放射線のうち、前記第1の蛍光体が検知対象とする所定のエネルギーを有する対象放射線を選択的に遮蔽するための放射線遮蔽部が備わっている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線モニタであって、
前記第1の蛍光体の発光量は30,000 ph/MeV以下である
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線モニタであって、
前記第1の蛍光体の蛍光寿命は100 μs以下である
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線モニタであって、
前記第1の蛍光体の密度は5 g/cm3以下である
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線モニタであって、
前記第2の蛍光体に備わる前記放射線遮蔽部は200 keV以下の放射線を遮蔽する機能を有するように設定されている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線モニタであって、
前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体は、相互に異なる発光波長を有し、
前記光学計測部は、前記第1の蛍光体より放出された前記光子を減衰させる光学制御部が備わっている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項7】
請求項6に記載の放射線モニタであって、
前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体は、入射する放射線の照射方向に対して積層状態で設けられ、
前記第2の蛍光体は、入射する放射線の照射方向に対して前記第1の蛍光体の背面側に配設され、
前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体は前記光子伝送部に接続されている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項8】
請求項7に記載の放射線モニタであって、
入射する放射線の照射方向に沿う前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体の間には前記放射線遮蔽部が設けられている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載の放射線モニタであって、
前記光学制御部には前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体より放出された前記光子の波長を選択的に透過させる波長切替機構が備わっている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか一項に記載の放射線モニタであって、
前記光子伝送部及び前記光学制御部の間には前記光子伝送部より伝送されてきた前記光子を分岐する光分岐部が備わっている
ことを特徴とする放射線モニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した放射線に対して光子を放出するシンチレータとしての蛍光体が備わる放射線モニタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線の線量率を測定する放射線モニタとして、電離箱、GM計数管(ガイガー・ミュラーカウンタ)、シンチレーション検出器、半導体検出器が用いられている。特に低線量率環境下を測定可能な放射線モニタとしては半導体検出器が汎用される。半導体検出器を用いた放射線モニタは、例えば原子力発電プラントや核燃料再処理施設、放射性同位元素を使用する医療施設、産業施設、研究用加速器施設、一般環境モニタリング装置等で利用されている。半導体検出器を用いた放射線モニタは、放射線入射により生成される電子正孔対を利用し、半導体への印加電圧により生じた電気パルスの計数率から線量率を導出する。
【0003】
一方、半導体検出器による放射線測定では高電圧を印加するため、空気中の水素濃度が高い場合に爆発の危険性を伴う。また、半導体から生成される電気パルス信号を利用するため、近隣の計測機器等へ電気ノイズに係る影響を及ぼすおそれがある。
防爆及び電気ノイズを抑制可能な検出器として、本願出願人は、光ファイバ型放射線検出器を提案している(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に係る光ファイバ型放射線検出器では、入射した放射線の線量率に対応する強度の光を発するシンチレータとしての発光部を、例えば、母材としての透明イットリウム・アルミ・ガーネット等の光透過性材料と、この光透過性材料中に含有されたイッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)等の希土類元素と、により形成する。
【0004】
特許文献1に係る光ファイバ型放射線検出器によれば、入射放射線に対して生成された複数の光子を光ファイバで伝送し、単一光子計数率から線量率を計測するため、放射線検知部への給電が不要であると共に電気ノイズに係る影響を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、放射線モニタの線量率測定は、多彩なエネルギーをもった放射線が混在する環境下での適用が想定される。こうした環境下で適用される放射線モニタには、入射する放射線のエネルギーの高低に応じた異なる複数の感度を平坦化することが求められる。放射線モニタが指示する放射線のエネルギーに係る感度は、一般に、低エネルギー放射線の方が高エネルギー放射線と比べて高い感度を有するからである。
【0007】
本発明の目的は、入射した放射線に対して光子を放出する複数の蛍光体を備えた放射線モニタにおいて、相互に異なるエネルギーをもった複数の放射線に対する感度を平坦化可能な放射線モニタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る放射線モニタは、入射した放射線に対して光子を放出するシンチレータとしての蛍光体が備わる放射線検知部と、前記蛍光体から放出された光子を伝送する光子伝送部と、前記伝送されてきた光子を計測する光学計測部と、を備える放射線モニタであって、前記蛍光体は、入射する放射線に対して第1の感度を有する第1の蛍光体、及び当該第1の蛍光体と比べて高い第2の感度を有する第2の蛍光体を備え、前記第2の蛍光体には、入射する放射線のうち、前記第1の蛍光体が検知対象とする所定のエネルギーを有する対象放射線を選択的に遮蔽するための放射線遮蔽部が備わっていることを最も主要な特徴とする。
【0009】
本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
なお、本明細書において「電気パルス信号の計数率」とは、単位時間あたりに測定された電気パルス信号の数を意味している。また、本明細書において、「所定の規格範囲」とは、光子の計数率範囲を示し、各規格において定められた範囲を表す。また、本明細書において「単一光子」とは、放射線の入射によって蛍光体内部で生成された一つ一つの光子を指す。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る放射線モニタによれば、入射した放射線に対して光子を放出する複数の蛍光体を備えた放射線モニタにおいて、相互に異なるエネルギーをもった複数の放射線に対する感度を平坦化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る第1放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る第1放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図3】放射線の線量率と単一光子の計数率の関係について、その一例を示す概略図である。
【
図4】放射線が蛍光体に入射した際の光の生成について、その一例を示す概略図である。
【
図5】光学計測部の出力を計測したと仮定した場合の、電気パルス信号の一例を示す概略図である。
【
図6】光子の計数率のエネルギー依存性について、その一例を示す概略図である。
【
図7】付与エネルギー割合の蛍光体厚さ依存性について、その一例を示す概略図である。
【
図8】放射線が第1の蛍光体及び第2の蛍光体に入射した際の光の生成について、その一例を示す概略図である。
【
図9】第2実施形態に係る第2放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図10】第2実施形態の変形例に係る第2放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図11】第3実施形態に係る第3放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図12】第3実施形態に係る第3放射線モニタにおいて、放射線が第1の蛍光体及び第2の蛍光体に入射した際の光の生成の一例を示す概略図である。
【
図13】第4実施形態に係る第4放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図14】第5実施形態に係る第5放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図15】第5実施形態の変形例に係る放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【
図16】第6実施形態に係る第6放射線モニタの概略構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための複数の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の複数の実施形態(第1~第6実施形態)において、共通の機能を有する構成要素には共通の符号を付し、その重複した説明を省略する。
なお、本発明の実施形態に係る説明において、複数の実施形態(第1~第6実施形態)に係る第1~第6放射線モニタ(変形例を含む)を総称するのが適当な場合において、『本発明に係る放射線モニタ11』と呼ぶ場合がある。
【実施例0013】
はじめに、本発明の第1実施形態(実施例1)に係る第1放射線モニタ11Aについて、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1及び
図2は、実施例1に係る第1放射線モニタ11Aの概略構成を表すブロック図である。実施例1に係る第1放射線モニタ11Aは、本発明の基本的な概念を表す実施形態である。
実施例1に係る第1放射線モニタ11Aは、
図1及び
図2に示すように、放射線検知部13(第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17、並びに、放射線遮蔽部19を含む;詳しくは後記する。)と、光子伝送部21と、光学計測部23と、カウンタ25と、解析・表示装置27を備えて構成されている。
【0014】
第1放射線モニタ11Aが計測対象とする放射線29としては、例えば、X線、γ線等の電磁波と、α線、β線、中性子線等の粒子線を想定している。
放射線検知部13は、入射した放射線29の線量率に対応する強度の光を発するシンチレータとしての第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17と、第1の蛍光体が検知対象とする低エネルギー放射線45(
図8参照)を選択的に遮蔽可能な放射線遮蔽部19と、を備えて構成されている。放射線遮蔽部19について、詳しくは後記する。
【0015】
第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17のそれぞれは、放射線29の照射方向に対して入射面15a、17aが略正対するように配設され、照射方向から視て相互に重ならないように近接して並設されている。第2の蛍光体17の入射面17aに対して放射線29の照射方向の手前側には、放射線遮蔽部19が設けられている。ただし、第1の蛍光体15の入射面15aに対して放射線の照射方向の手前側には、放射線遮蔽部19は設けられていない。
なお、以降の説明において、第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17を総称するのが相応しいケースでは、第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17を単に『蛍光体16』と呼ぶ場合がある。
【0016】
放射線検知部13は、外来光と蛍光体16(第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17を含む;以下同様)からの光を分別するため、例えばハウジング(不図示)に収容することにより、遮光状態に保持するのが好ましい。ハウジングは、放射線検知部13を収容するための遮光性を有する容器である。ハウジングを構成する材料としては、外来光を遮光可能であれば特に限定されず、例えば、テフロンテープ、硫酸バリウム、アルミニウムやステンレス鋼等を適宜採用すればよい。
【0017】
また、外来光及び蛍光体16からの光を分別する目的で、放射線遮蔽部19(詳しくは後記)を使用することもできる。
蛍光体16は、ルミネッセンスを示す組成物であれば特に限定されず、紫外線などの光による光ルミネッセンス、放射線29によるラジオルミネッセンス、電子ビームによるカソードルミネッセンス、電場によるエレクトロルミネッセンス、化学反応による化学ルミネッセンスなどが挙げられる。
【0018】
具体的には、蛍光体16としては、例えば、母材としてNaI、CsI、LiI、SrI2、Bi4Ge3O12、Bi4Si3O12、CdWO4、PbWO4、ZnS、CaF2、LuAG、LuAP、Lu2O3、Y3Al5O12、YAlO3、Lu2SiO5、LYSO、Y2SiO5、Gd2SiO5、BaF2、CeF3、CeBr3、CsF、LiF、Gd2O2S、LaBr3、CeBr3、Gd3Al2Ga3O12、Cs2LiYCl6、Cs2HfI6、ScTaO4、LaTaO4、LuTaO4、GdTaO4、YTaO4、サイアロン蛍光体などの光透過性材料、あるいは、この光透過性材料中にLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yなどの希土類元素またはTl、Na、Ag、W、CO3などの元素や、粉末状の蛍光材料が含有された光透過性材料が挙げられる。
【0019】
また、蛍光体16に含有される元素イオンの価数は、発光に利用可能なものであれば特に限定されず、例えば、1価、2価、3価、4価等を利用することができる。
蛍光体16の製造方法としては、ルミネッセンスを示す組成物を育成可能であれば特に限定されず、例えば、フローティングゾーン法、チョクラルスキー法(引き上げ法)、マイクロ引下げ法、ブリッジマン法、ベルヌーイ法等を採用することができる。
放射線遮蔽部19は、第1の蛍光体15が検知対象とする所定のエネルギーを有する対象放射線(所定の閾値未満のエネルギーを有する低エネルギー放射線45;
図8参照))を選択的に遮蔽する機能を有する。かかる機能を実現するために、放射線遮蔽部19としては、適宜の材質を採用すると共に、適宜の厚さが設定される。これにより、エネルギー特性の平坦化を効果的に実現することができる。なお、本発明でいう『遮蔽』とは、本発明の目的であるエネルギー特性の平坦化を達成することを考慮した(必要かつ十分な)遮蔽を意味する。
【0020】
放射線遮蔽部19は、前記対象放射線(低エネルギー放射線45)を遮蔽可能なものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス、鉛やタングステンなどの金属や、プラスチック、セラミックス、ゴムやガラスなどの非金属材料を適宜採用すればよい。また、放射線遮蔽部19として第1の蛍光体15を適用(詳しくは後記)しても構わない。
蛍光体16、及び放射線遮蔽部19の形状は、蛍光体16で生成された光を光子伝送部21へ伝送可能な構造であれば特に限定されず、例えば、立方体、直方体、角柱、円柱、半球体形状等を適宜利用することができる。
【0021】
光子伝送部21は、第1の蛍光体15、第2の蛍光体17、及び光学計測部23にそれぞれ接続され、放射線検知部13から放出された光を伝送する機能を有する。この光子伝送部21は、光学計測部23に接続されている。
光子伝送部21は、光子59を伝送可能であれば特に限定されず、例えば、光ファイバ、光ガイド、光パイプ、光導波路等を採用できる。また、光子伝送部21を構成する材料としては、例えば、石英、プラスチック等が挙げられる。
【0022】
光学計測部23は、光子伝送部21と後述するカウンタ25と接続され、光子伝送部21から伝送されてきた光子59を電気パルス信号に変換する検出器である。光学計測部23としては、例えば、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード等を採用することができる。これら光電子増倍管等を用いることで、単一光子を電流増幅された一つの電流パルス信号として検出できる。
カウンタ25は、光学計測部23と後述する解析・表示装置27と接続され、光学計測部23から入力された電気パルス信号を計数する装置である。カウンタ25としては、例えば、デジタルシグナルプロセッサ等の信号処理装置を適宜採用することができる。
【0023】
解析・表示装置27は、カウンタ25に接続され、カウンタ25で計数された電気パルス信号の計数率を放射線の線量率に換算し、その値を表示する装置である。解析・表示装置27は、電気パルス信号の計数率と放射線の線量率とを対応付けて記憶したデータベースを有する記憶装置(不図示)と、該データベースを用いて電気パルス信号の計数率から放射線29の線量率を換算する演算装置(不図示)と、換算した放射線29の線量率を表示する表示装置(不図示)と、を備えて構成されている。
【0024】
解析・表示装置27としては、例えば、上述した機能を有するパーソナルコンピュータ等を好適に採用することができる。
本発明では、従来のγ線の計数率から放射線29の線量率を換算する手法と異なり、γ線の入射によって第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17で生成された複数の光子59に含まれる単一光子の計数率から放射線の線量率を換算する。
【0025】
図3は、放射線29の線量率と単一光子の計数率の関係について、その一例を示す概略図である。
図3に示すように、この単一光子の計数率を計測できれば放射線29の線量率を取得することができる。したがって、この関係を用いることで算出した単一光子計数率から放射線29の線量率を換算することができる。
【0026】
次に、第1放射線モニタ11Aの動作について、
図4~
図8を適宜参照しつつ説明する。
【0027】
図4は、放射線29が蛍光体16に入射した際の光の生成について、その一例を示す概略図である。
図4に示すように、放射線29が蛍光体16に入射すると、相互作用31が生じる。この相互作用31に伴い、複数の単一光子33が発生する。
【0028】
図5は、光学計測部23の出力を計測したと仮定した場合の、電気パルス信号37の一例を示す概略図である。通常、放射線検知部13に一つの放射線29が入射すると複数の単一光子33が生成され、光学計測部23を用いて一つの電気パルス信号35として測定される。一方、本実施形態では、光子伝送部21から伝送された一つ一つの単一光子33を光学計測部23で測定する。
図5に示すように、単一光子33は光学計測部23で約2nsの時間幅をもった電気パルス信号37として測定する。
【0029】
図6は、光子59の計数率のエネルギー依存性について、その一例を示す概略図である。
図6に示すように、光学計測部23で検出される光子59の計数率は、入射する放射線29のエネルギーに依存して変化する。一般に、光子59の計数率は、放射線29のエネルギーが低下するにつれて増加する一方、放射線29のエネルギーが増加するにつれて低下する傾向を示す。こうした現象をエネルギー特性と呼ぶ。符号41は光子59の基準計数率を表し、符号43は格子の計数率のうち『所定の規格範囲』を表す。
【0030】
すなわち、エネルギー特性とは、相互にエネルギーの異なる所定量の放射線29が放射線検知部13に入射するとき、光学計測部23で検出される光子59の計数率は、入射する放射線29のエネルギーの高低に応じて固有の特性値を有する現象をいう。エネルギー特性は、入射する放射線29のエネルギーの高低に応じて放射線検知部13に備わる第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17が相互に異なる測定感度を有するために生じる。特に密度の高い蛍光体16を放射線検知部13に適用した場合、この影響は顕著となる。
【0031】
ここで、放射線モニタ11の線量率測定は、多彩なエネルギーをもった放射線29が混在する環境下での適用が想定される。こうした環境下では、線量率の測定精度に係る信頼性を確保すると共に、測定される光子59の計数率を所定の規格範囲43(
図6参照)に収束させるために、多彩なエネルギーをもった放射線29に対して、放射線検知部13に備わる第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17が有するそれぞれの感度を平坦化、つまり、エネルギー特性を平坦化する必要がある。放射線モニタ11が指示する放射線29のエネルギーに係る感度は、一般に、低エネルギー放射線45の方が高エネルギー放射線47と比べて高い感度を有するからである。
【0032】
図7は、付与エネルギー割合の蛍光体厚さ依存性について、その一例を示す概略図である。
図7に示すように、低エネルギー放射線45は放射線29の透過力が弱い。そのため、低エネルギー放射線45では、放射線検知部13に備わる蛍光体16に低エネルギー放射線45が入射したとき、蛍光体16の入射面のうち表面で主なエネルギーが付与される。
一方、高エネルギー放射線47は放射線29の透過力が強い。そのため、高エネルギー放射線47では、放射線検知部13に備わる蛍光体16に高エネルギー放射線47が入射したとき、低エネルギー放射線45と比較して蛍光体16の厚さ方向(照射方向)の深部までエネルギーが付与される。
【0033】
図8は、放射線が第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17にそれぞれ入射した際の光の生成について、その一例を示す概略図である。
図8に示すように、低エネルギー放射線45が第1の蛍光体15に入射すると、第1の蛍光体15において相互作用31が生じ、この相互作用31に伴って光子59が生成される。こうして生成された光子59は光子伝送部21へと伝送される。
また、高エネルギー放射線47が第1の蛍光体15に入射すると、高エネルギー放射線47は透過力が強くその一部が第1の蛍光体15を透過するため、低エネルギー放射線45と比べて少ないエネルギーが第1の蛍光体15に付与される。
【0034】
一方、第2の蛍光体17においては、低エネルギー放射線45は放射線遮蔽部19において相互作用31が生じることで第2の蛍光体17への入射が遮蔽されるのに対して、高エネルギー放射線47は第2の蛍光体17に係る入射面17a付近等で相互作用31が生じ、この相互作用31に伴って光子59が生成される。こうして生成された光子59は光子伝送部21へと伝送される。
【0035】
このように、第2の蛍光体17には、その入射面17aに入射する放射線のうち、第1の蛍光体15に係る検知対象である所定のエネルギーを有する対象放射線(低エネルギー放射線45)を選択的に遮蔽するための放射線遮蔽部19が備わっているため、第1の蛍光体15では低エネルギー放射線45を検知する一方、第2の蛍光体17では高エネルギー放射線47を選択的に検知可能な放射線検知部13を実現することができる。
【0036】
また、蛍光体16は、入射する放射線29に対して第1の感度を有する第1の蛍光体15、及び第1の蛍光体15と比べて高い第2の感度を有する第2の蛍光体17を備える構成を採用したため、低エネルギー放射線45に対する計数率を低減可能となる結果、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性を平坦化することができる。
【0037】
すなわち、第1の蛍光体15が有する放射線29に対する第1の感度は、第2の蛍光体17が有する放射線29に対する第2の感度と比べて低い。第1の蛍光体15としては、例えば、30x103 ph/MeV以下の発光量、100 us以下の蛍光寿命、5 g/cm3以下の密度の蛍光体16を採用することにより、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性を効果的に平坦化することができる。また、放射線遮蔽部19は、200 keV以下のエネルギーの放射線29を遮蔽可能とする構成を採用することにより、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性を効果的に平坦化することができる。
【0038】
要するに、当該放射線モニタ11は、第1の蛍光体15が放射線29に対して第1の感度を有し、第2の蛍光体17が第1の感度と比べて高い第2の感度を有すると共に、第2の蛍光体17には、入射する放射線29のうち、第1の蛍光体15が検知対象とする所定のエネルギーを有する対象放射線(低エネルギー放射線45)を選択的に遮蔽するための放射線遮蔽部19が備わっているため、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性を平坦化することができる。
第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17としては、相互に異なる発光波長を有していれば特に限定されず、例えば、紫外線、可視光、近赤外光、赤外線などの発光波長を有する蛍光体16を適宜採用すればよい。
光学計測部23に備わる光学制御部49は、光子伝送部21と光学計測部23と接続され、光子伝送部21より伝送された光子59を制御し、光学計測部23へ伝送する。光学制御部49は、光学レンズ等を用いて集光又は平行化した光子59を光学計測部23へと伝送する。
光学計測部23に備わる光子減衰部51は、光学制御部49の内部に設けられ、光子伝送部21より伝送されてきた光子59を減衰する。光子減衰部51は、光子59を減衰可能であればその構成は特に限定されず、例えば、波長選択フィルタ、減衰フィルタ、ローパスフィルタ、ロングパスフィルタ等を適宜採用すればよい。また、2つ以上の光学フィルタを組み合わせて用いることにより、光子減衰部51を構成しても構わない。
実施例2に係る第2放射線モニタ11Bによれば、第1の蛍光体15及び第2の蛍光体17が異なる発光波長を有する構成を採用したため、光子減衰部51を用いて第1の蛍光体15の波長の光を選択的に減衰することができる。その結果、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性をより効果的に平坦化することができる。
実施例2の変形例に係る第2x放射線モニタ11Bxによれば、前記第1系統に属する光学計測部23aには光学制御部49及び光子減衰部51が備わっているため、第1の蛍光体15に係る波長の光を選択的に減衰することが可能となる結果、放射線検知部13に係る感度のエネルギー特性を適正かつ効果的に平坦化する効果を期待することができる。