(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158482
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B23K20/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073714
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】真崎 邦崇
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA13
4E167BF02
4E167BF05
4E167BF10
4E167BF11
(57)【要約】
【課題】摩擦接合における好適な接合条件を容易に見出す。
【解決手段】接合方法は、それぞれ異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含む熱処理材群を準備する工程S100と、熱処理材群のそれぞれの熱処理材の物性を評価する工程S102と、物性の評価結果に基づいて、熱処理材群から1または複数の熱処理材を選出する工程S104と、選出された熱処理材の温度履歴に基づいて、目標温度履歴を決定する工程S106と、接合部の温度が目標温度履歴を辿るように、摩擦接合を実施する工程S108と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含む熱処理材群を準備する工程と、
前記熱処理材群のそれぞれの前記熱処理材の物性を評価する工程と、
前記物性の評価結果に基づいて、前記熱処理材群から1または複数の前記熱処理材を選出する工程と、
選出された前記熱処理材の前記温度履歴に基づいて、目標温度履歴を決定する工程と、
接合部の温度が前記目標温度履歴を辿るように、摩擦接合を実施する工程と、
を含む接合方法。
【請求項2】
前記熱処理材群は、冷却速度が互いに異なる前記温度履歴で熱処理された複数の前記熱処理材を含む請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記熱処理材群は、最高到達温度が互いに異なる前記温度履歴で熱処理された複数の前記熱処理材を含む請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記熱処理材群は、温度が最高到達温度から変態点に達するまでの時間が互いに異なる前記温度履歴で熱処理された複数の前記熱処理材を含む請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項5】
前記熱処理材群は、温度が最高到達温度から変態点に達するまでの時間が互いに異なる前記温度履歴で熱処理された複数の前記熱処理材を含む請求項3に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部材同士を接合する技術として、所謂、摩擦接合が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦接合では、接合部に摩擦による熱が加えられるため、接合部の物性が摩擦接合の前後で変化することがある。例えば、接合部の強度または延性等の機械特性が、摩擦接合によって低下する場合がある。さらに、摩擦接合では、接合部に残留応力やひずみが生じる。機械特性が低下した接合部に残留応力やひずみが生じることによって、接合部の割れが発生する場合がある。
【0005】
接合部の割れの発生を抑制するためには、摩擦接合における接合条件を最適化する必要がある。しかしながら、好適な接合条件を見出すためには、実際に様々な接合条件で摩擦接合を行う必要があり、手間が大きくかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本開示は、このような課題に鑑み、摩擦接合における好適な接合条件を容易に見出すことが可能な接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る接合方法は、それぞれ異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含む熱処理材群を準備する工程と、熱処理材群のそれぞれの熱処理材の物性を評価する工程と、物性の評価結果に基づいて、熱処理材群から1または複数の熱処理材を選出する工程と、選出された熱処理材の温度履歴に基づいて、目標温度履歴を決定する工程と、接合部の温度が目標温度履歴を辿るように、摩擦接合を実施する工程と、を含む。
【0008】
また、熱処理材群は、冷却速度が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含んでもよい。
【0009】
また、熱処理材群は、最高到達温度が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含んでもよい。
【0010】
また、熱処理材群は、温度が最高到達温度から変態点に達するまでの時間が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、摩擦接合における好適な接合条件を容易に見出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る接合方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る熱処理装置の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る熱処理条件の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る温度履歴の一例を示す第1の図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る温度履歴の一例を示す第2の図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る摩擦接合装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る接合方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る接合方法は、熱処理材群を準備する工程(S100)を含む。また、本実施形態に係る接合方法は、熱処理材の物性を評価する工程(S102)を含む。また、本実施形態に係る接合方法は、熱処理材を選出する工程(S104)を含む。また、本実施形態に係る接合方法は、目標温度履歴を決定する工程(S106)を含む。また、本実施形態に係る接合方法は、摩擦接合を実施する工程(S108)を含む。以下、各処理について説明する。
【0015】
なお、本実施形態では、詳しくは後述するステップS108において、摩擦接合を実施する一方の部材310a(
図6参照)と他方の部材310b(
図6参照)が同じ材質である場合について示す。本実施形態では、部材310aと部材310bを、チタン合金とする場合について示す。ただし、部材310aと部材310bを異なる材質としてもよい。また、部材310aと部材310bはチタン合金に限られない。部材310aと部材310bの材質は、単体としての金属や各種合金等とすることができる。
【0016】
[熱処理材群を準備する工程(S100)]
熱処理材群を準備する工程(S100)では、まず、熱処理を施す対象とする複数の熱処理材を準備する。すなわち、本実施形態では、熱処理材群は、複数の熱処理材を含む。ここでは、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bと同じ材質、かつ、質量が小さい複数の熱処理材を準備する。
【0017】
なお、熱処理材の形状や質量は、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bと同じである必要はない。例えば、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bよりも質量が小さい熱処理材を準備してもよい。また、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bと異なる形状、例えば、単純な棒状や板状の熱処理材を準備してもよい。これにより、熱処理材を準備する手間やコストを低減することができる。本実施形態では、チタン合金からなる棒状の6つの熱処理材A~Fを準備する。
【0018】
次に、複数の熱処理材A~Fに対して、それぞれ異なる温度履歴による熱処理を実施する。
図2は、本実施形態に係る熱処理装置100の一例を示す図である。本実施形態では、熱処理装置100を用いて、熱処理材A~Fに対して、それぞれ異なる温度履歴で熱処理を実施する。
【0019】
以下に、熱処理装置100を用いた熱処理方法の一例を示す。なお、
図2では、熱処理材群200に含まれる熱処理材の一例としての熱処理材Aに熱処理を施す場合について示している。
図2に示すように、熱処理装置100は、熱処理制御装置102と熱処理炉104とを含む。また、
図2に示すように、熱処理炉104内には、温度計測部106、加熱部108、および、冷却部110が設けられている。なお、熱処理装置100は、他の構成要素をさらに含んでもよい。熱処理炉104は、例えば、所謂、電気炉としてもよい。また、熱処理炉104は、例えば、所謂、燃焼炉としてもよい。
【0020】
温度計測部106は、熱処理炉104内に配置された熱処理材Aの温度を測定する。温度計測部106は、例えば熱電対等の温度センサとすることができる。温度計測部106は、熱処理制御装置102と有線または無線で通信可能に接続され、測定データを熱処理制御装置102に送信してもよい。なお、温度計測部106は、熱処理炉104内に配置された熱処理材Aの表面温度に加えて、内部温度を測定してもよい。
【0021】
加熱部108は、熱処理炉104内に配置された熱処理材Aの加熱を行う。加熱部108は、例えば、直接抵抗加熱式、間接抵抗加熱式、直接誘導加熱式、間接誘導加熱式、レーザー加熱式、および、赤外線加熱式から少なくとも1以上が選択された加熱方式による加熱装置であってよい。加熱部108は、熱処理制御装置102と有線または無線で通信可能に接続されてもよく、熱処理制御装置102によって制御されてもよい。
【0022】
冷却部110は、熱処理炉104内に配置された加熱後の熱処理材Aの冷却を行う。冷却部110は、例えば、水冷、油冷、ガス冷却、空冷、または、炉冷のいずれか1以上の冷却方法によって、加熱後の熱処理材Aの冷却を行う。
【0023】
なお、水冷として、例えば、冷却媒体である水を入れた容器に、加熱後の熱処理材を浸漬させることで、熱処理材を冷却してもよい。あるいは、冷却媒体である水を加熱後の熱処理材に噴出させることで、熱処理材を冷却してもよい。
【0024】
また、油冷として、例えば、冷却媒体である油を入れた容器に、加熱後の熱処理材を浸漬させることで、熱処理材を冷却してもよい。あるいは、冷却媒体である油を加熱後の熱処理材に噴出させることで、熱処理材を冷却してもよい。
【0025】
また、ガス冷却としては、例えば、冷却媒体であるアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを加熱後の熱処理材に噴出させることで、熱処理材を冷却してもよい。
【0026】
また、空冷としては、例えば、加熱後の熱処理材を大気中に放置するで、熱処理材を冷却してもよい。
【0027】
また、炉冷としては、例えば、加熱後の熱処理材を熱処理炉104内に放置するで、熱処理材を冷却してもよい。
【0028】
また、冷却速度は、水冷>油冷>ガス冷却>空冷>炉冷の順の大小関係となる。冷却部110は、熱処理制御装置102と有線または無線で通信可能に接続されてもよく、熱処理制御装置102によって制御されてもよい。なお、真空下における冷却を行った場合にはガス冷却と空冷との冷却速度の順位が入れ替わることもある。
【0029】
図3は、本実施形態に係る熱処理条件の一例を示す図である。また、
図4は、本実施形態に係る温度履歴の一例を示す第1の図である。また、
図5は、本実施形態に係る温度履歴の一例を示す第2の図である。
【0030】
熱処理制御装置102は、
図3に示す熱処理条件にしたがって、熱処理材A~Fについて、それぞれ熱処理を実施する。
【0031】
具体的には、まず、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Aを温度T1まで加熱する。ここでは、温度T1は、変態点T0未満の温度とする。なお、変態点とは、結晶構造が変化する変態が生じる温度である。例えば、チタン合金の場合には、結晶構造が最密六方格子のα層から体心立方格子のβ相へ変態する温度であるβ変態点が知られている。
【0032】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Aを比較的早い冷却速度により冷却する。例えば、水冷によって、熱処理材Aの冷却を実施する。
【0033】
熱処理材Aの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図4に示される温度履歴aとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0034】
また、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Bを温度T1まで加熱する。
【0035】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Bを中程度の冷却速度により冷却する。例えば、空冷によって、熱処理材Bの冷却を実施する。
【0036】
熱処理材Bの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図4に示される温度履歴bとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0037】
また、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Cを温度T1まで加熱する。
【0038】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Cを比較的遅い冷却速度により冷却する。例えば、炉冷によって、熱処理材Cの冷却を実施する。
【0039】
熱処理材Cの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図4に示される温度履歴cとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0040】
また、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Dを温度T2まで加熱する。ここでは、温度T2は、変態点T0よりも高い温度とする。
【0041】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Dを比較的早い冷却速度により冷却する。例えば、水冷によって、熱処理材Dの冷却を実施する。このとき、熱処理制御装置102は、熱処理材Dの温度が最高到達温度である温度T2から変態点T0へ到達するまでの時間が時間t1となるように冷却部110を制御する。
【0042】
熱処理材Dの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図5に示される温度履歴dとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0043】
また、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Eを温度T2まで加熱する。
【0044】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Eを中程度の冷却速度により冷却する。例えば、空冷によって、熱処理材Eの冷却を実施する。このとき、熱処理制御装置102は、熱処理材Eの温度が最高到達温度である温度T2から変態点T0へ到達するまでの時間が時間t2となるように冷却部110を制御する。
【0045】
熱処理材Eの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図5に示される温度履歴eとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0046】
また、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、加熱部108を制御して、熱処理材Fを温度T2まで加熱する。
【0047】
次に、熱処理制御装置102は、温度計測部106によって測定された測定データを参照しながら、冷却部110を制御して、熱処理材Fを比較的遅い冷却速度により冷却する。例えば、炉冷によって、熱処理材Fの冷却を実施する。このとき、熱処理制御装置102は、熱処理材Fの温度が最高到達温度である温度T2から変態点T0へ到達するまでの時間が時間t3となるように冷却部110を制御する。なお、
図5に示すように、時間t1~時間t3は、時間t1<時間t2<時間t3の順の大小関係となる。換言すれば、熱処理材群200は、温度が最高到達温度から変態点に達するまでの時間が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含むといえる。これにより、摩擦接合における温度が最高到達温度から変態点に達するまでの時間についての好適な条件を見出すことが可能となる。
【0048】
熱処理材Fの加熱中および冷却中において、温度計測部106によって測定された測定データは、
図5に示される温度履歴fとなる。熱処理制御装置102は、その測定データを不図示の記憶部に記憶する。
【0049】
本実施形態では、
図4に示すように、熱処理材A~Cの各温度履歴a~cは、最高到達温度である温度T1に到達するまでの間では、共通の曲線を辿るように推移する。また、本実施形態では、
図5に示すように、熱処理材D~Fの各温度履歴d~fは、最高到達温度である温度T2に到達するまでの間では、共通の曲線を辿るように推移する。換言すれば、熱処理材群200は、最高到達温度が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含むといえる。これにより、摩擦接合における最高到達温度についての好適な条件を見出すことが可能となる。
【0050】
また、冷却中において熱処理材A~Cの各温度履歴a~cは、それぞれの冷却速度に応じて異なる曲線を辿るように推移する。同様に、冷却中において熱処理材D~Fの各温度履歴d~fは、それぞれの冷却速度に応じて異なる曲線を辿るように推移する。換言すれば、熱処理材群200は、冷却速度が互いに異なる温度履歴で熱処理された複数の熱処理材を含むといえる。これにより、摩擦接合における冷却速度についての好適な条件を見出すことが可能となる。
【0051】
すなわち、熱処理材A~Fの中から任意に2つの熱処理材を選択した場合、その2つの熱処理材は、温度履歴に影響を与える条件のうち、少なくとも1以上の条件が互いに異なるものであるといえる。上記のように、本実施形態では、温度履歴に影響を与える条件として、最高到達温度、最高到達温度から変態点への到達時間、冷却速度の3つの条件を例示した。ただし、温度履歴に影響を与える条件は、これらに限定されるものではない。例えば、温度履歴に影響を与える条件として、最高到達温度に到達するまでの間の加熱速度や、変態点から最高到達温度への到達時間を含めてもよい。
【0052】
[熱処理材の物性を評価する工程(S102)]
熱処理材の物性を評価する工程(S102)では、上記のようにして準備した熱処理後の熱処理材A~Fのそれぞれについて、その性質、すなわち、物性を評価する。物性の評価では、それぞれの熱処理材の物性を所定の方法により評価することができればよい。例えば、物性として、強度、延性、硬度、弾性、可撓性、曲げ弾性率、曲げ強度、可塑性、剛性、他の任意の様々な特性の少なくともいずれかを評価してもよい。
【0053】
例えば、それぞれの熱処理材に対して所定の機械試験を実施することで、強度や延性の測定を行ってもよい。そして、強度や延性の測定結果を、各熱処理材の物性を示す情報として取得してもよい。
【0054】
また、顕微鏡等を用いて、それぞれの熱処理材の表面や断面における組織の観察を行ってもよい。そして、観察結果と温度履歴に基づいて、機械試験を省略して各熱処理材の物性を推定してもよい。あるいは、材料物性表等のデータがあれば、機械試験や顕微鏡による観察を行わずに材料物性表等のデータを参照して物性を評価しても良い。
【0055】
[熱処理材を選出する工程(S104)]
熱処理材を選出する工程(S104)では、上記ステップS102における物性の評価結果に基づいて、熱処理材群200から1または複数の熱処理材の選出を行う。
【0056】
例えば、上記ステップS102において得られた強度や延性の評価結果を参照し、所望の基準範囲内の強度や延性を有する1または複数の熱処理材を選出する。
【0057】
摩擦接合では、接合部に摩擦による熱が加えられるため、接合部の物性が摩擦接合の前後で変化することがある。例えば、接合部の強度または延性等の機械特性が、摩擦接合によって低下する場合がある。例えば、一部のチタン合金は、温度履歴に起因して、接合部の組織の変性が生じることによって、強度や延性の特性が低下する場合がある。さらに、摩擦接合では、接合部に残留応力やひずみが生じる。機械特性が低下した接合部に残留応力やひずみが生じることによって、接合部の割れが発生する場合がある。本実施形態では、上記のような接合部の割れを回避可能な温度履歴を有する熱処理材を選出する。
【0058】
以下では、一例として、熱処理材Aまたは熱処理材Dが選出された場合について説明する。ただし、選出される熱処理材の数は1または複数であればよく、例えば、熱処理材Aおよび熱処理材D以外の熱処理材が選出されてもよい。
【0059】
[目標温度履歴を決定する工程(S106)]
目標温度履歴を決定する工程(S106)では、上記ステップS104において選出された熱処理材の温度履歴に基づいて、目標温度履歴を決定する。例えば、上記ステップS104において熱処理材Aが選出された場合、熱処理材Aの温度履歴aにおける、最高到達温度が温度T1であるとの条件と、冷却速度が大きいとの条件との2つの条件を、目標温度履歴の条件として設定してもよい。例えば、
図4に示す温度履歴aの曲線が描く軌跡を、目標温度履歴として決定してもよい。つまり、温度履歴aと完全に一致する温度履歴を目標温度履歴として決定してもよい。
【0060】
また、例えば、上記ステップS104において熱処理材Dが選出された場合、熱処理材Dの温度履歴dにおける、最高到達温度が温度T2であるとの条件と、最高到達温度から変態点への到達時間が時間t1であるとの条件と、冷却速度が大きいとの条件との3つの条件を、目標温度履歴の条件として設定してもよい。例えば、
図5に示す温度履歴dの曲線が描く軌跡を、目標温度履歴として決定してもよい。つまり、温度履歴aと完全に一致する温度履歴を目標温度履歴として決定してもよい。
【0061】
ただし、目標温度履歴の決定方法は上記の例に限定されない。例えば、上記ステップS104において1つの熱処理材が選出された場合、選出された熱処理材の温度履歴と完全には一致しないものの当該温度履歴の曲線に沿った曲線により示される温度履歴を目標温度履歴として決定してもよい。例えば、選出された熱処理材の温度履歴が描く軌跡を基準とした所定の範囲内を目標温度履歴としてもよい。また、例えば、上記ステップS104において複数の熱処理材が選出された場合、選出された各熱処理材の温度履歴を平均化した温度履歴を目標温度履歴として決定してもよい。
【0062】
[摩擦接合を実施する工程(S108)]
摩擦接合を実施する工程(S108)では、チタン合金からなる部材310aと部材310bとの摩擦接合を実施する。
図6は、本実施形態に係る摩擦接合装置300の一例を示す図である。本実施形態では、摩擦接合装置300を用いて、部材310aと部材310bとの摩擦接合を実施する。
【0063】
以下に、摩擦接合装置300を用いた摩擦接合方法の一例を示す。なお、
図6では、摩擦接合の一種である線形摩擦接合(LFW)により部材310aと部材310bとを接合する場合について示す。
【0064】
ただし、摩擦接合は、摩擦により生じる熱を利用した接合であればよく、線形摩擦接合以外であってもよい。例えば、部材310aと部材310bとを突き合わせて回転接触させることで接合する方法である回転摩擦接合(RFW)を摩擦接合として用いてもよい。また、回転ツール(不図示)を回転させつつ、部材310aと部材310bとを突き合わせた部分に沿って移動させ、回転ツールと部材310a、310bとの摩擦熱により突合せ部を塑性流動させることで接合する方法である摩擦攪拌接合(FSW)を摩擦接合として用いてもよい。
【0065】
図6に示すように、摩擦接合装置300は、摩擦接合制御装置302、温度計測部304、保持部306a、306b、および、冷却部308を含む。なお、摩擦接合装置300は、他の構成要素をさらに含んでもよい。
【0066】
温度計測部304は、部材310aと部材310bとの接合部310cの温度を測定する。接合部310cは、部材310aと部材310bとの接触面の近傍の部分である。例えば、接合部310cは、部材310aと部材310bとの接触面から所定範囲内の部分である。温度計測部304は、例えば熱電対等の温度センサとすることができる。温度計測部304は、摩擦接合制御装置302と有線または無線で通信可能に接続され、測定データを摩擦接合制御装置302に送信してもよい。
【0067】
図6に示すように、部材310aは、保持部306aによって保持される。また、部材310bは、保持部306bによって保持される。摩擦接合制御装置302は、保持部306aを介して部材310aを図中右方向に押圧する。また、摩擦接合制御装置302は、保持部306bを介して部材310bを図中左方向に押圧する。そして、摩擦接合制御装置302は、保持部306aおよび保持部306bを介して部材310aおよび部材310bを相対的に図中上下方向に往復摺動させる。これによって、接合部310cに摩擦熱が生じ、接合部310cおよび接合部310c近傍が塑性流動状態となるとともに、部材310aと部材310bとが押圧されて接合される。
【0068】
冷却部308は、接合部310cの冷却を行う。冷却部308は、例えば、水冷、油冷、ガス冷却、空冷、または、炉冷のいずれか1以上の冷却方法によって、接合部310cの冷却を行う。冷却部308は、摩擦接合制御装置302と有線または無線で通信可能に接続されてもよく、摩擦接合制御装置302によって制御されてもよい。
【0069】
摩擦接合制御装置302は、接合部310cの温度が、上記ステップS106で決定した目標温度履歴を辿るように、部材310aと部材310bとの摩擦接合を実施する。
【0070】
例えば、上記ステップS104において熱処理材Aが選出され、温度履歴aが目標温度履歴として決定された場合、摩擦接合制御装置302は、温度計測部304によって測定された測定データを参照しながら、接合部310cが温度T1となるまで、部材310aおよび部材310bを相対的に図中上下方向に往復摺動させる。
【0071】
次に、摩擦接合制御装置302は、温度計測部304によって測定された測定データを参照しながら、冷却部308を制御して、接合部310cを比較的早い冷却速度により冷却する。例えば、水冷によって、接合部310cの冷却を実施する。
【0072】
なお、上記したように、熱処理材A~Fの形状や質量は、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bと同じである必要はない。本実施形態のように、熱処理材Aと部材310a、310bとの形状や質量が異なる場合、接合部310cを水冷によって冷却したとしても、実際の冷却速度が温度履歴aの冷却速度と一致しない場合がある。
【0073】
ゆえに、例えば、実際の冷却速度が温度履歴aの冷却速度と一致するように、事前に部材310aや部材310bを外部熱源によって余熱してもよい。なお、外部熱源としては、例えば、直接抵抗加熱式、間接抵抗加熱式、直接誘導加熱式、間接誘導加熱式、レーザー加熱式、および、赤外線加熱式から少なくとも1以上が選択された加熱方式による加熱装置を用いてもよい。また、例えば、実際の冷却速度が温度履歴aの冷却速度と一致するように、接合部310cを局所的に保温または加熱する機構を保持部306a、306b等に取り付けてもよい。また、例えば、部材310aの全体や部材310bの全体を保温または加熱する機構を保持部306a、306b等に取り付けてもよい。
【0074】
また、例えば、実際の冷却速度が温度履歴aの冷却速度と一致するように、接合部310cに供給する冷却媒体の流量または温度を調整してもよい。また、例えば、実際の冷却速度が温度履歴aの冷却速度と一致するように、保持部306a、306bの形状を薄くする等、形状的な工夫を施してもよい。
【0075】
本実施形態では、上述したように、上記ステップS104において選出した熱処理材の温度履歴に基づいて、目標温度履歴を決定し、決定した目標温度履歴を辿るように、部材310aと部材310bとの摩擦接合を実施する。なお、目標温度履歴を辿るように摩擦接合を実施する際には、目標温度履歴を辿ればよく、目標温度履歴と完全に一致する必要はない。例えば、目標温度履歴を基準とした所定の範囲内の温度となるように、部材310aと部材310bとの摩擦接合を実施してもよい。これにより、部材310aと部材310bとの摩擦接合において、接合部310cの強度または延性等の機械特性の低下を抑制でき、残留応力やひずみに起因する接合部310cの割れを回避することが可能となる。すなわち、摩擦接合における好適な接合条件を見出すことが可能となる。
【0076】
また、上記ステップS100においては、実際に摩擦接合を実施せずに熱処理材A~Fを準備することによって、熱処理材を準備する手間やコストを低減することができる。また、実際に摩擦接合を実施する部材310a、310bと異なる形状、例えば、単純な棒状や板状の熱処理材A~Fを準備することにより、熱処理材を準備する手間やコストを低減することができる。上記のように、本実施形態では、実際に様々な接合条件で摩擦接合を行うことなく、摩擦接合における好適な接合条件を見出すことができる。ゆえに、摩擦接合における好適な接合条件を容易に見出すことが可能となる。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0078】
S100 熱処理材群を準備する工程
S102 熱処理材の物性を評価する工程
S104 熱処理材を選出する工程
S106 目標温度履歴を決定する工程
S108 摩擦接合を実施する工程
A、B、C、D、E、F 熱処理材
a、b、c、d、e、f 温度履歴
200 熱処理材群