(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158487
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20241031BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241031BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241031BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20241031BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241031BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/00
B60L50/61
F02D29/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073721
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 貢熙
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】下瀬 文允
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博康
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB00
3D202BB05
3D202BB06
3D202CC35
3D202CC42
3D202CC48
3D202DD18
3D202DD45
3D202EE24
3G093AA07
3G093BA04
3G093BA22
3G093CA04
3G093DA01
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BD17
5H125CA09
5H125CD02
5H125CD04
5H125EE27
5H125EE31
5H125EE41
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド車両におけるISCの実行中に、何らかの理由によりエンジンが始動不能になった場合に、運転者が適切な処置を行うことができるようにする。
【解決手段】内燃エンジン2と、内燃エンジン2の駆動力により駆動されて発電する発電機3と、インバータ5を介して発電機3の発電電力で充電されるバッテリ4と、発電機3の発電電力又はバッテリ4から供給される電力の少なくとも一方によりインバータ5を介して駆動される走行用モータ6と、を備えるハイブリッド車両1を制御する車両制御方法において、コントローラ10が、実エンジン回転数を目標アイドル回転数に維持するアイドルスピードコントロールの実行中に、実エンジン回転数が自立復帰可能な最低回転数より低い状態が予め設定した始動不能判定時間継続したら、エンジン始動不能であると判定して内燃エンジン2を停止させ、停止させたことを運転者に告知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンの駆動力により駆動されて発電する発電機と、
インバータを介して前記発電機の発電電力で充電されるバッテリと、
前記発電機の発電電力又は前記バッテリから供給される電力の少なくとも一方により前記インバータを介して駆動される走行用モータと、
を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法において、
コントローラが、
実エンジン回転数を目標アイドル回転数に維持するアイドルスピードコントロールの実行中に、前記実エンジン回転数が自立復帰可能な最低回転数より低い状態が予め設定した始動不能判定時間継続したら、エンジン始動不能であると判定して前記内燃エンジンを停止させ、停止させたことを運転者に告知することを特徴とする車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記コントローラは、
エンジン始動不能であると判定したときの前記内燃エンジンの燃料残量を取得し、
前記燃料残量が予め設定した閾値より多いときはエンジン始動不能の原因を前記内燃エンジンの故障と特定し、前記燃料残量が前記閾値以下のときはエンジン始動不能の原因をガス欠と特定し、
特定した原因を乗員に告知する、車両制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御方法において、
前回のトリップ中にエンジン始動不能であると判定された状態のまま、前記運転者がハイブリッドシステムを再起動させた場合には、
前記コントローラは、
再起動後にエンジン始動不能であるか否かの判定を再度行い、
エンジン始動不能であると判定した場合には、前記バッテリの充電率が走行許可充電率より低いか否かの判定を行い、
前記バッテリの充電率が前記走行許可充電率より低いときは、前記バッテリと前記インバータとの間のリレーが開放されるリレーカット状態にする、車両制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御方法おいて、
前記コントローラは、
前記バッテリの充電率が前記走行許可充電率以上であると判定した場合は、前記走行許可充電率未満になるまで、EV走行を行う、車両制御方法。
【請求項5】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンの駆動力により駆動されて発電する発電機と、
インバータを介して前記発電機の発電電力で充電されるバッテリと、
前記発電機の発電電力又は前記バッテリから供給される電力の少なくとも一方により前記インバータを介して駆動される走行用モータと、
を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御システムにおいて、
コントローラが、
実エンジン回転数を目標アイドル回転数に維持するアイドルスピードコントロールの実行中に、前記実エンジン回転数が自立復帰可能な最低回転数より低い状態が予め設定した始動不能判定時間継続したら、エンジン始動不能であると判定し、前記内燃エンジンを停止させることを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのアイドル回転数を目標とするアイドル回転数に収束させるための、いわゆるアイドルスピードコントロールが知られている。特許文献1には、ハイブリッド電気自動車のエンジンのアイドル回転数をコントロールする方法として、負荷等の発生によりエンジン回転数が変動した場合でも、エンジン回転数を目標アイドル回転数に高い精度で保持するための制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献ではエンジンが正常に作動できることが前提となっており、例えば、いわゆるガス欠によりエンジンが始動不能になった場合については何ら開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、ハイブリッド車両に搭載されたエンジンのアイドルスピードコントロールの実行中に何らかの理由によりエンジンが始動不能になった場合に、運転者が適切な処置を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、内燃エンジンと、内燃エンジンの駆動力により駆動されて発電する発電機と、インバータを介して発電機の発電電力で充電されるバッテリと、発電機の発電電力又はバッテリから供給される電力の少なくとも一方によりインバータを介して駆動される走行用モータと、を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法が提供される。この方法においてコントローラは、実エンジン回転数を目標アイドル回転数に維持するアイドルスピードコントロールの実行中に、実エンジン回転数が自立復帰可能な最低回転数より低い状態が予め設定した始動不能判定時間継続したら、エンジン始動不能であると判定して内燃エンジンを停止させ、停止させたことを運転者に告知する。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、運転者は告知により内燃エンジンが停止したことを認知できるので、適切な処置を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、始動不能判定及び判定に応じた処理を行うためのシステム構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、エンジン始動不能判定のための制御ルーチンを示すフローチャートの前半部分である。
【
図4】
図4は、エンジン始動不能判定のための制御ルーチンを示すフローチャートの後半部分である。
【
図5】
図5は、前トリップで始動不能と判定された状態で運転者がハイブリッドシステムを起動させた場合に行う制御ルーチンを示すフローチャートの前半部分である。
【
図6】
図6は、前トリップで始動不能と判定された状態で運転者がハイブリッドシステムを起動させた場合に行う制御ルーチンを示すフローチャートの後半部分である。
【
図7】
図7は、
図3~
図6の制御ルーチンを実行した場合のタイムチャートの一例である。
【
図8】
図8は、
図3~
図6の制御ルーチンを実行した場合のタイムチャートの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両(以下、単に「車両」ともいう。)1の概略構成図である。
【0011】
車両1は、内燃エンジン2と、内燃エンジン2の駆動力により駆動されて発電する発電機3と、発電機3の発電電力で充電されるバッテリ4と、発電機3の発電電力又はバッテリ4から供給される電力の少なくとも一方により駆動される走行用モータ6と、を備える。
【0012】
車両1のハイブリッドシステムはシリーズ式であり、走行用モータ6の駆動力はディファレンシャル装置7を介して車輪8に伝達される。
【0013】
車両1はさらに、コントローラ10と、発電機3からバッテリ4又は走行用モータ6へ供給する電力及びバッテリ4から走行用モータ6へ供給する電力を制御するインバータ5と、を備える。
【0014】
コントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ10を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。例えば、後述するように、統合コントローラ(VCM)10Aと、エンジンコントローラ(ECM)10Bと、ボディコントロールモジュール(BCM)10Cと、バッテリコントローラ(図示せず)と、を含む構成としてもよい。
【0015】
上記のように構成される車両1において、内燃エンジン2は基本的には発電要求がある場合、例えば、バッテリ4の充電率が閾値以下になった場合や、加速のためにより大きな電力が必要となる場合等、に作動する。なお、以下の説明において、充電率をSOC(State Of Charge)ともいう。そして、作動中は基本的には熱効率が高い運転点で作動する。
【0016】
ただし、発電の必要がなくても内燃エンジン2を作動させる場合がある。例えば、内燃エンジン2の排気通路に配置された排気浄化触媒(図示せず)の温度低下を抑制する目的や、同排気通路に配置されたパティキュレートフィルタ(図示せず)の再生処理を行う目的等で作動させることがある。これらの場合、内燃エンジン2の実エンジン回転数を目標アイドル回転数に収束させるアイドルスピードコントロール(以下、ISCということもある。)が行われることがある。
【0017】
ISCは、例えば実エンジン回転数と目標アイドル回転数との差に基づくフィードバック制御であるが、これは実エンジン回転数の増減を制御できることが前提となっている。つまり、何らかの理由で内燃エンジン2が始動不能になった場合には、当然、ISCを行うことはできない。そして、内燃エンジン2が始動不能であるにもかかわらず、正常時と同様にハイブリッドシステムを制御すると、発電量不足によって、いわゆる電欠状態になったり、加速性能の低下を招いたりすることになる。その点本実施形態では、ISCの実行中に、コントローラ10は内燃エンジン2が始動不能になっていないかを判定し、始動不能になった場合には後述する処理を行う。以下、コントローラ10が行う制御について説明する。
【0018】
図2は、始動不能判定及び判定に応じた処理を行うためのシステム構成を示すブロック図である。なお、コントローラ10及びメータ11の内部の各部は、機能をブロックで表したものであって、物理的な構成を意味するものではない。
【0019】
コントローラ10は、エンジン回転数とSOCと燃料残量とを取得する。詳細には、エンジン回転数と燃料残量が入力処理部B9を介してエンジン始動不能判定部(以下、「始動不能判定部」ともいう。)B1に読み込まれる。エンジン回転数及びSOCは図示しないセンサにより検出する。燃料残量については、図示しないセンサで検出したデータをECM10Bが保有しているので、コントローラ10は当該データをECM10Bから受信する。なお、燃料残量は、タンク内に設けたフロートセンサの検出値を換算することにより取得するので、車両1が加減速や旋回等することで液面が傾いたり揺れたりすると、これに合わせて燃料残量も変動してしまう。そこで、フロートセンサの検出値から燃料残量に換算する際に、液面の傾きや揺れによる変動をカットするフィルタ処理を行ってもよい。
【0020】
始動不能判定部B1は、読み込んだデータに基づいて内燃エンジン2が始動不能か否かを判定する。判定の詳細については後述する。正常と判定した場合には、正常判定結果を、故障と判定した場合は故障判定結果を、それぞれ始動不能診断部B2に送る。故障判定結果は、駆動用バッテリ出力演算部B8にも送られる。
【0021】
始動不能診断部B2は、正常判定の場合はエンジン始動正常診断結果を、故障判定の場合はエンジン始動故障診断結果を、自己診断規定部B10へ送る。自己診断規定部B10は、受け取った診断結果に応じてDTC(Diagnostic Trouble Code)を生成する。このDTCは、車両1の外部から接続された故障診断ツール12により読み取ることができる。
【0022】
また、始動不能判定部B1は、判定結果に応じて、リレーカット要求、READY OFF要求、又はREADY遷移停止要求を車両シーケンス部B3へ送り、車両シーケンス部B3は受け取った要求に応じて所定のシーケンスを行い、出力処理部B11を介してBCM(Body Control Module)10Cへ内燃エンジン2のクランキングの禁止を要求する。リレーカット要求とは、バッテリ4とインバータ5の間のリレー(図示せず)を開放状態にする要求である。なお、リレーカットすることにより、ハイブリッドシステムの電源が落とされた状態である。また、READY OFF要求とは、内燃エンジン2の始動及び走行用モータ6の駆動を禁止する要求である。READY OFFの状態では、リレーカットの状態とは異なりハイブリッドシステムは起動しているので、空調装置等の補機類は作動可能である。READY遷移停止要求とは、READY OFFの状態から内燃エンジン2の始動及び走行用モータ6の駆動が可能なREADY状態への遷移を停止する要求である。
【0023】
また、始動不能判定部B1は始動不能判定結果保持フラグを出力制限表示点灯要求部B4へ送る。出力制限表示点灯要求部B4は当該フラグに応じて、出力制限表示点灯要求を後述するメータ11の出力制限メッセージ処理部B15へ送る。これにより、メータ11に出力制限中である旨のメッセージが表示される。当該メッセージの表示形態は、出力制限であることを運転者が認識できるものであればよく、例えば、出力制限中である旨を文字で表示してもよいし、出力制限中であることを示すマークを点灯させてもよい。
【0024】
自己診断規定部B10は、エンジン始動故障診断結果をコーションランプ点灯要求判定部B6及び警告メッセージ表示要求判定部B7へ送る。コーションランプはバッテリ4、インバータ5及びハイブリッドシステムに故障があったときに点灯するものである。また、自己診断規定部B10は、エンジン始動故障診断結果を受け取った場合には、コーションランプ点灯要求をコーションランプ点灯要求判定部B6へ送り、エンジンチェックランプ点灯要求をエンジンチェックランプ点灯要求判定部B5へ送る。
【0025】
エンジンチェックランプ点灯要求判定部B5は、エンジンチェックランプ点灯要求を受け取った場合は、出力処理部B11を介して当該要求をECM10Bへ送る。当該要求を受け取ったECM10Bは、MIL点灯要求処理を行い、MIL点灯要求をメータ11のMIL点灯処理部B12へ送る。これによりMIL点灯が行われ、運転者に内燃エンジン2が故障している旨が告知される。
【0026】
コーションランプ点灯要求判定部B6は、コーションランプ点灯要求及びエンジン始動故障診断結果を受け取った場合は、出力処理部B11を介してコーションランプ点灯要求をメータ11のハイブリッドコーション点灯処理部B13へ送る。これによりコーションランプが点灯し、運転者にハイブリッドシステムが故障している旨が告知される。
【0027】
警告メッセージ表示要求判定部B7は、エンジン始動故障診断結果を受け取ったら、出力処理部B11を介してメータ11の故障メッセージ処理部B14へ警告メッセージ表示要求を送る。これによりメータ11に故障メッセージが表示される。
【0028】
次に、エンジン始動不能判定の詳細について
図3~
図6を参照して説明する。
【0029】
【0030】
ステップS100で、始動不能判定部B1がISC要求の有無を判定し、有る場合はステップS101の処理に進み、無い場合はISC要求があるまで当該判定を繰り返す。
【0031】
ステップS101で、始動不能判定部B1が、実エンジン回転数Neが自立復帰可能回転数Ne_resより低いか否かを判定し、低い場合はステップS102の処理に進み、そうでない場合はステップS103でISCを継続することを決定して本ルーチンを終了する。自立復帰可能回転数は、内燃エンジン2が正常な状態であることを前提として、燃料噴射及び火花点火をすれば自立回転することが可能な回転数の下限である。
【0032】
ステップS102で、始動不能判定部B1はタイマによるカウントを開始する。
【0033】
ステップS104で、始動不能判定部B1はタイマのカウントが規定値以上になったか否かを判定し、規定値以上の場合はステップS105の処理に進み、そうでない場合はステップS101の処理に戻る。本ステップの判定は、瞬間的なエンジン回転数の落ち込みやセンサ信号のノイズによる誤判定を防止するためのものである。したがって規定値は任に設定することができ、例えば数秒間に設定する。
【0034】
ステップS105で、始動不能判定部B1は内燃エンジン2の始動が不能であると判定する。
【0035】
ステップS106で、始動不能判定部B1はECM10Bにエンジン停止要求を送る。
【0036】
ステップS107で、ECM10Bは内燃エンジン2を停止させる。
【0037】
ステップS108で、始動不能判定部B1は燃料残量が燃料閾値より多いか否かを判定し、燃料閾値より多い場合はステップS109の処理に進み、そうでない場合はステップS115の処理に進む。本ステップの判定は、内燃エンジン2の始動不能の原因がガス欠なのか、それ以外なのかを判別するためのものである。燃料閾値はガス欠と見做せる程度の量であればよく、例えば燃料タンク(図示せず)の容量の15%程度の量とする。
【0038】
燃料残量が燃料閾値より多い場合は、始動不能判定部B1はステップS109で内燃エンジン2が故障していると判定し、ステップS110で
図2に示したシステムに基づいて内燃エンジン2の故障を運転者に告知してステップS111の処理に進む。なお、ここでいう内燃エンジン2の故障とは、燃料噴射用のインジェクタや点火プラグ等といった内燃エンジン2本体の故障だけでなく、燃料ポンプ等の補機類の故障も含む。
【0039】
ステップS111で、始動不能判定部B1はEV走行を行うことを決定し、インバータ5等を制御する。EV走行とは、内燃エンジン2を作動させずにバッテリ4からの供給電力によって走行用モータ6を作動させる走行モードのことである。
【0040】
ステップS112で、始動不能判定部B1はバッテリ4のSOCが低下診断閾値以下であるか否かを判定し、低下診断閾値以下の場合はステップS113の処理に進み、そうでない場合は低下診断閾値以下になるまで当該判定を繰り返す。低下診断閾値は、発電機3による内燃エンジン2のクランキングが可能な程度のSOCが残る値に設定されている。なお、ハイブリッドシステムが正常な状態であれば、SOCが低下し過ぎないように発電制御が行われるので、故障発生時のSOCは低下診断閾値より高くなっていると考えてよい。
【0041】
ステップS113で、始動不能判定部B1は、バッテリ放電電流の積算演算を開始する。
【0042】
ステップS114で、始動不能判定部B1はステップS113で算出した電流積算量が積算閾値以上か否かを判定し、積算閾値以上の場合はステップS115でリレーカット要求を生成し、そうでない場合は積算閾値以上になるまで本判定を繰り返す。本ステップの判定は、EV走行後の再始動時に始動可能な電力を確保するためのものである。このため、積算閾値は、内燃エンジン2を1回始動するのに要する電流積算値に設定されている。
【0043】
上記のステップS112~S115の処理は、EV走行後に内燃エンジン2の再始動が可能な電力を残すための処理である。ここで、リレーカットをするか否かの判断に、バッテリ4のSOCだけでなく電流積算量も用いる理由は次の通りである。例えば、SOCが低下診断閾値を下回った状態で診断結果を消去して内燃エンジン2の再始動を試みる状況において、SOCだけを見て判断すると、再始動しようとすると即座にSOC不足によりリレーカットされることとなり、再始動を試みることができない。その点、本実施形態によれば電流積算量が積算閾値以上になるまでは再始動を試みることができ、仮に内燃エンジン2の再始動に成功すれば発電が行われてSOCが上昇するので、リレーカットされることがなくなる。
【0044】
一方、燃料残量が閾値より少ない場合は、始動不能判定部B1はステップS116でガス欠であると判定し、ステップS117で
図2に示したシステムに基づいてガス欠であることを運転者に告知してステップS118の処理に進む。
【0045】
ステップS118で、始動不能判定部B1はSOCが走行許可SOC以上であるか否かを判定し、走行許可SOC以上の場合はステップS119でEV走行を行うことを決定して今回のルーチンを終了し、そうでない場合はステップS120の処理に進む。走行許可SOCはEV走行が可能なSOC範囲の値であり、新品状態のバッテリ4の容量を基準として設定する。なお、上記の低下診断閾値として走行許可SOCを用いてもよい。本実施要形態では低下診断閾値と走行許可SOCのいずれも、例えば45%程度に設定する。
【0046】
ステップS120で、始動不能判定部B1はREADY OFF要求を生成する。そして、ステップS121で、上述したシーケンスに従って出力処理され、READY OFF状態となり、今回のルーチンを終了する。
【0047】
上記の通り、トリップの途中におけるISC実行中に実エンジン回転数が自立復帰可能回転数より低い状態が続くと、内燃エンジン2を停止させる。そして、実エンジン回転数が低下した原因が内燃エンジン2の故障なのかガス欠なのかを判定し、判定結果を運転者に告知する。これにより、運転者は修理が必要なのか燃料を補充すればよいのかを容易に判断できる。
【0048】
また、内燃エンジン2の故障及びガス欠のいずれの場合も、バッテリ4のSOCに余裕があるときはEV走行を行うので、安全な場所まで退避走行することができる。そして、EV走行開始からのバッテリ4の電流積算値が積算閾値未満になるまでリレーカットを行わない(ステップS113~S115)、又はREADY OFF状態にする(ステップS120、S121)という処理を行うので、救援が来るまでの間、できるだけ長い時間、空調装置等を使用することができる。
【0049】
次に、
図5~
図6について説明する。
図5~
図6は、前回のトリップ(以下、前トリップともいう)中にエンジン始動不能と判定されてハイブリッドシステムを停止させた後、再びREADY状態にする操作が行われた場合に行う制御ルーチンである。
【0050】
ステップS200で、始動不能判定部B1は、前トリップでエンジン始動不能と判定されているか否かを判定し、されている場合はステップS201の処理に進む。判定されていない場合は、ステップS202に進んで通常の始動制御を開始して本ルーチンを終了する。エンジン始動不能と判定されているか否かは、上述した始動不能判定結果保持フラグに基づいて判定する。
【0051】
ステップS201で、始動不能判定部B1は内燃エンジン2を始動しかつISCを行う旨の要求を生成し、ステップS203の処理へ進む。
【0052】
ステップS203~S221の処理は、
図3~
図4のS101~S119と同じなので説明を省略する。
【0053】
ガス欠状態かつSOCが走行許可SOCより低い場合に実行するステップS222では、始動不能判定部B1はリレーカット要求を生成する。そして、ステップS223で、上述したシーケンスに従って出力処理され、リレーカット状態となり、今回のルーチンを終了する。
【0054】
上記の通り、前トリップで始動不能と判定されている場合は、ハイブリッドシステムを起動した後に内燃エンジン2の始動不能判定を実行する。そして、当該判定時にSOCが走行許可SOCより低い場合は、リレーカット状態にする。これにより、バッテリ4の電力の消費を抑制できる。
【0055】
図7は、
図3~
図6の制御を実行した場合のタイムチャートの一例である。タイミングT0においてISC実行中であり、始動不能の原因はガス欠であり、始動不能と判定されたタイミングにおいてSOCは走行許可SOCより低いものとする。
【0056】
タイミングT1で実エンジン回転数Neが自立復帰可能回転数Ne_resを下回ると、タイマによるカウントが開始される。カウントが規定値に達するタイミングT2において、始動不能と判定され、これに伴い内燃エンジン2の停止要求が生成される。その後、実エンジン回転数Neは低下し、タイミングT3において停止回転数を下回るとタイマによるカウントが開始され、カウントが所定値になるタイミングT4において、内燃エンジン2は停止したと判定されると、エンジン始動不能判定及びエンジン停止要求はクリアされる。上記停止回転数は、内燃エンジン2が停止しているのと同視し得る程度の回転数であり、例えば50rpm程度とする。上記所定値は内燃エンジン2が確実に停止していることがわかる値であればよく、例えば1~2秒程度とする。タイミングT5においてハイブリッドシステムが停止し、これによりトリップが終了する。
【0057】
その後、タイミングT6でREADY状態にする操作が行われると、エンジン始動及びISC実行の要求に応じて内燃エンジン2のクランキングが行われ、実エンジン回転数Neが上昇する。そして、タイミングT7において実エンジン回転数Neが自立復帰可能回転数Ne_resを下回ると、タイミングT1~タイミングT2と同様の処理によりタイミングT8において始動不能と判定され、内燃エンジン2の停止要求も生成され、さらに、リレーカット要求も生成される。
【0058】
図8は、
図3~
図6の制御を実行した場合のタイムチャートの他の一例である。タイミングT0においてISC実行中であり、始動不能の原因はガス欠である点は
図7と同様であるが、始動不能と判定されたタイミングにおけるSOCは走行許可SOC以上である。また、図中の一点鎖線は走行許可SOCを示している。
【0059】
走行中のタイミングT1において始動不能と判定されると、内燃エンジン2が停止する。このとき、SOCは走行許可SOCより高いので、EV走行により車速は維持される。
【0060】
タイミングT2においてSOCが走行許可SOCを下回ると、READY OFF要求が出されてEV走行から惰性走行に切り替わり、車速が低下し始める。そして、タイミングT3において停車し、タイミングT4においてハイブリッドシステムが停止されてトリップが終了する。
【0061】
その後のタイミングT5において運転者の操作によりREADY状態になり、タイミングT6において始動不能と判定されると、リレーカット要求が生成される。
【0062】
上記の通り、内燃エンジン2が始動不能であると判定された場合でも、SOCが走行許可SOCを下回るまで走行可能である。
【0063】
以上の通り本実施形態では、内燃エンジン2と、内燃エンジン2の駆動力により駆動されて発電する発電機3と、インバータ5を介して発電機3の発電電力で充電されるバッテリ4と、発電機3の発電電力又はバッテリ4から供給される電力の少なくとも一方によりインバータ5を介して駆動される走行用モータ6と、を備えるハイブリッド車両1を制御する車両制御方法が提供される。この方法において、コントローラ10は、実エンジン回転数を目標アイドル回転数に維持するアイドルスピードコントロールの実行中に、実エンジン回転数Neが自立復帰可能な最低回転数(自立復帰可能回転数Ne_res)より低い状態が予め設定した始動不能判定時間継続したら、エンジン始動不能であると判定して内燃エンジン2を停止させ、停止させたことを運転者に告知する。これにより、運転者は何らかの不具合により内燃エンジン2が停止したことを認知できる。
【0064】
本実施形態では、コントローラ10は、エンジン始動不能であると判定したときの内燃エンジン2の燃料残量を取得し、燃料残量が予め設定した閾値より多いときはエンジン始動不能の原因を内燃エンジン2の故障と特定し、燃料残量が閾値以下のときはエンジン始動不能の原因をガス欠と特定し、特定した原因を乗員に告知する。これにより、運転者は内燃エンジン2が停止した原因を認知でき、適切な処置を行うことができる。
【0065】
本実施形態では、前回のトリップ中にエンジン始動不能であると判定された状態のまま、運転者がハイブリッドシステムを再起動させた場合には、コントローラ10が、再起動後にエンジン始動不能であるか否かの判定を再度行い、エンジン始動不能であると判定した場合には、バッテリの充電率(SOC)が走行許可充電率(走行許可SOC)より低いか否かの判定を行い、バッテリ4のSOCが走行許可SOCより低いときは、バッテリ4とインバータ5との間のリレーが開放されるリレーカット状態にする。これにより、バッテリ4の電力の消費を抑制できる。
【0066】
本実施形態では、コントローラ10は、バッテリ4のSOCが走行許可SOC以上であると判定した場合は、走行許可SOC未満になるまで、EV走行を行う。これにより、内燃エンジン2が始動不能な状況でも、SOCに余裕がある場合には安全な場所まで退避走行できる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0068】
1 ハイブリッド車両、 2 内燃エンジン、 3 発電機、 4 バッテリ、 5 インバータ、 6 走行用モータ、 7 ディファレンシャル装置、 8 駆動輪、 10 コントローラ