(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015850
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】電磁式ガス燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20240130BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240130BHJP
F02M 61/04 20060101ALI20240130BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F02M51/06 S
F02M51/06 K
F02M21/02 S
F02M61/04 G
F02M51/06 U
F02M61/04 D
F16K31/06 385A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118185
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 稔
【テーマコード(参考)】
3G066
3H106
【Fターム(参考)】
3G066AA01
3G066AB05
3G066BA49
3G066BA61
3G066CC06U
3G066CC16
3G066CD17
3G066CE22
3H106DA07
3H106DA13
3H106DC02
3H106DD03
3H106EE24
3H106GB23
3H106KK18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電磁式ガス燃料噴射弁において、弁体外周と弁ハウジング内周との摺動面をコーティングした場合の不具合を回避可能とした上で、その摺動面に発生するサイドフォースを低減して、摺動面の摩耗を効果的に抑制可能とする。
【解決手段】弁ハウジング2の内周部に設けた摺動案内面Biに摺動可能に嵌合される弁体7と、弁体7の、ノズル部材5と対向する一端面に固定されてノズル孔5nを開閉可能な弁部6と、弁ハウジング2の他端部及び固定コア8を囲繞するよう配置されて固定コア8に固定されるコイル10cと、コイル10cの励磁時には固定コア8が弁体7を磁気吸引することで弁部6を戻しばね14に抗して弁座5sから離間させるガス燃料噴射弁において、弁ハウジング2の内周部に固定されて内周面が前記摺動案内面Biとなる円筒状のガイド筒Bが、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材の射出成形により形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体よりなる筒状の弁ハウジング(2)と、弁座(5s)及び該弁座(5s)の中心部を貫通するノズル孔(5n)を有して前記弁ハウジング(2)の一端部に固設されるノズル部材(5)と、前記弁ハウジング(2)の内周部に設けた摺動案内面(Bi)に摺動可能に嵌合される弁体(7)と、前記弁体(7)の、前記ノズル部材(5)と対向する一端面に固定され且つ前記弁座(5s)と協働して前記ノズル孔(5n)を開閉可能なゴム製弁部(6)と、前記弁ハウジング(2)に連結されると共に前記弁体(7)の他端面に対向する固定コア(8)と、前記弁ハウジング(2)の他端部及び前記固定コア(8)を囲繞するよう配置されて該固定コア(8)に固定されるコイル(10c)と、前記弁体(7)を前記弁座(5s)側に付勢して前記コイル(10c)の非励磁時には前記弁部(8)を該弁座(5s)に対する着座位置に保持する戻しばね(14)とを備え、前記コイル(10c)の励磁時には前記固定コア(8)が前記弁体(7)を磁気吸引することで前記弁部(6)を前記戻しばね(14)に抗して前記弁座(5s)から離間させるようにした電磁式ガス燃料噴射弁において、
前記弁ハウジング(2)の内周部に固定されて内周面が前記摺動案内面(Bi)となる円筒状のガイド筒(B)が、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材の射出成形により形成されていることを特徴とする電磁式ガス燃料噴射弁。
【請求項2】
前記ガイド筒(B)は、これの全体が前記合成樹脂材で型成形され、且つ前記弁ハウジング(2)の内周面に挿着されていることを特徴とする、請求項1に記載の電磁式ガス燃料噴射弁。
【請求項3】
前記コイル(10c)と該コイル(10c)を巻装させるボビン(10b)とを有して前記固定コア(8)に固定されるコイル組立体(10)が、前記弁ハウジング(2)の他端部に係合、固定されており、
前記ガイド筒(B)の前記弁ハウジング(2)からの離脱が阻止されるように、該ガイド筒(B)の前記固定コア(8)側の端部が前記コイル組立体(10)に係合していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電磁式ガス燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式ガス燃料噴射弁、特に磁性体よりなる筒状の弁ハウジングと、弁座及び弁座の中心部を貫通するノズル孔を有して弁ハウジングの一端部に固設されるノズル部材と、弁ハウジングの内周部に設けた摺動案内面に摺動可能に嵌合される弁体と、弁体の、ノズル部材と対向する一端面に固定され且つ弁座と協働してノズル孔を開閉可能なゴム製弁部と、弁ハウジングに連結されると共に弁体の他端面に対向する固定コアと、弁ハウジングの他端部及び固定コアを囲繞するよう配置されて固定コアに固定されるコイルと、弁体を弁座側に付勢してコイルの非励磁時には弁部を弁座に対する着座位置に保持する戻しばねとを備え、コイルの励磁時には固定コアが弁体を磁気吸引することで弁部を戻しばねに抗して弁座から離間させるようにしたガス燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電磁式ガス燃料噴射弁は、特許文献1に記載されるように従来公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来の電磁式ガス燃料噴射弁では、ドライガス環境下での弁体の作動耐久性を向上させるために、固体潤滑材を使用した摩耗対策がなされており、より具体的に言えば、例えば、弁ハウジング内周の上記摺動案内面に対しては、DLC(即ちダイヤモンドライクカーボン)、フッ素樹脂等のコーティング処理がなされるが、この場合には、次のような不利点がある。
【0005】
即ち、上記コーティング処理は、コーティング膜が微小厚さである関係で、コーティング後の面粗度を確保するためにコーティング前に被コーティング面を荒研磨する工程が特別に必要となり、またコーティングのための塗布サイクルタイムが多くなる等して、製造コストが嵩む問題ある。その上、コーティング膜が微小厚さである関係で弁体外周と弁ハウジング内周との間のエアギャップが小さく(例えば約0.050ミリ程度と)なるが、そのエアギャップは小さくなる程に、弁体外周と弁ハウジング内周との摺動面に発生するサイドフォース(側圧)が大きくなって、摺動面の摩耗促進の要因となる。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、簡単な構造で従来装置の上記課題を解決可能な電磁式ガス燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、磁性体よりなる筒状の弁ハウジングと、弁座及び該弁座の中心部を貫通するノズル孔を有して前記弁ハウジングの一端部に固設されるノズル部材と、前記弁ハウジングの内周部に設けた摺動案内面に摺動可能に嵌合される弁体と、前記弁体の、前記ノズル部材と対向する一端面に固定され且つ前記弁座と協働して前記ノズル孔を開閉可能なゴム製弁部と、前記弁ハウジングに連結されると共に前記弁体の他端面に対向する固定コアと、前記弁ハウジングの他端部及び前記固定コアを囲繞するよう配置されて該固定コアに固定されるコイルと、前記弁体を前記弁座側に付勢して前記コイルの非励磁時には前記弁部を該弁座に対する着座位置に保持する戻しばねとを備え、前記コイルの励磁時には前記固定コアが前記弁体を磁気吸引することで前記弁部を前記戻しばねに抗して前記弁座から離間させるようにした電磁式ガス燃料噴射弁において、前記弁ハウジングの内周面に、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材よりなる円筒状のガイド筒が固定されていて、そのガイド筒の内周面が前記摺動案内面を構成することを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記ガイド筒は、前記合成樹脂材で型成形されて前記弁ハウジングの内周面に挿着されていることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記コイルと該コイルを被覆するボビンとを有して前記固定コアに固定されるコイル組立体が、前記弁ハウジングの他端部に係合、固定されており、前記ガイド筒の前記弁ハウジングからの離脱が阻止されるように、該ガイド筒の前記固定コア側の端部が前記コイル組立体に係合していることを第3の特徴とする。
【0010】
本発明において、「自己潤滑性を有し」とは、ガイド筒の構成材自体の摩擦係数が極めて小さいため、摺動面において潤滑油を補給せずとも必要な潤滑性を確保可能な材質をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば、弁ハウジングの内周部に固定されて内周面が弁体に対する摺動案内面となる円筒状のガイド筒が、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材の射出成形により形成されるので、弁体及び弁ハウジング相互の摺動面をコーティングする必要はなくなり、従って、コーティングに伴う従来技術の不都合(例えば、コーティング後の面粗度確保のためにコーティング前に行われる荒研磨工程が必要となり、またコーティング塗布サイクルタイムが多く必要となる等)を回避できるから、製造コストの低減に大いに寄与することができる。しかも円筒状ガイド筒は非磁性の合成樹脂材の射出成形で形成されていて、このガイド筒の肉厚(非磁性部)にて、弁体外周と弁ハウジング内周との摺動部のエアギャップを大きく確保できるため、摺動面に発生するサイドフォースを低減できて、摺動面の摩耗を効果的に抑制可能となる。
【0012】
また特に第2の特徴によれば、ガイド筒は、前記合成樹脂材で型成形されて弁ハウジングの内周面に挿着されるので、円筒状をなすガイド筒単体を弁ハウジングから独立して効率よく射出成形でき、その射出成形後のガイド筒を弁ハウジングの内周に単に嵌挿するだけで、弁ハウジングに後付けで組み付け可能であり、従って、量産性が頗る良好であって更なるコスト節減に寄与することができる。
【0013】
また特に第3の特徴によれば、固定コアに固定されるコイル組立体が、弁ハウジングの他端部に係合、固定され、ガイド筒の弁ハウジングからの離脱が阻止されるように、ガイド筒の固定コア側の端部がコイル組立体に係合するので、弁ハウジングの内周部に固定されるガイド筒に対する抜け止め手段としてコイル組立体を兼用可能となり、更なるコスト節減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るガス燃料噴射弁の実施形態(閉弁状態)を示す全体縦断面図
【
図2】前記ガス燃料噴射弁の実施形態(開弁状態)を示す要部縦断面図
【
図3】弁体及び弁ハウジング間の摺動部に働くサイドフォースと、ブッシュの肉厚との関係の一例を示すグラフ
【
図4】開弁時に弁体に働く軸方向推力と、ブッシュの肉厚との関係の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、添付図面により以下に具体的に説明する。
【0016】
図1において、本発明に係る電磁式ガス燃料噴射弁Iは、これの前端部が、ガス燃料を燃焼させて動力を発生するエンジンの吸気管Eに設けた取付孔Eaに装着され、エンジンの吸気行程で開弁してガス燃料(例えば水素ガス、ブタンガス、メタンガス等)を吸気管E内に噴射する。尚、実施形態では、ガス燃料噴射弁Iが複数の吸気管E毎に設けられ、それらガス燃料噴射弁Iの後述する燃料導入筒12に燃料分配管Dが接続される。
【0017】
各々のガス燃料噴射弁Iの弁ボディ1は、磁性体より段付き円筒状に形成される弁ハウジング2と、弁ハウジング2の後端部に連設、固定されるボディ基部3と、弁ハウジング2の前端開口部を閉じるノズル部材5とを備える。尚、本明細書において、ガス燃料噴射弁Iは、これの縦軸線Lに沿う方向で吸気管E内に向かう側(即ち燃料噴射側)を前側、その反対側を後側という。
【0018】
ノズル部材5は、円盤状に形成されていて、弁ハウジング2の小径前部2fの前端寄り内周面にシールリング13を挟んで気密に嵌合、固定(例えば圧入、溶接等)される。このノズル部材5は、前記縦軸線Lと直交する平面よりなる後向きの弁座5sと、弁座5sの中心部に開口し且つノズル部材5を前後に貫通するノズル孔5nとを有する。
【0019】
また弁ハウジング2の小径前部2fの外周面には、相互間に環状シール溝30を画成する前後一対の合成樹脂製リング部材31,32が嵌着(例えば圧入)される。このシール溝30に装着したシールリング33は、弁ハウジング2の小径前部2fを吸気管Eの前記取付孔Eaに嵌装した時にその取付孔Eaの内周面に密接して弁ハウジング2と取付孔Eaとの間を気密にシールする。
【0020】
また弁ハウジング2内には、弁ハウジング2の内周部に挿着したブッシュBを介して前後摺動可能に嵌合されるプランジャ状の弁体7がノズル部材5の後方側に収容される。この弁体7の、ノズル部材5と対向する前端面には、弁座5sと協働してノズル孔5nを開閉可能な弁部6が接合、固定(例えば焼付け、接着等)される。その弁部6は、耐熱性及び耐圧性を有するゴム材で構成される。
【0021】
またブッシュBは、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材(例えばポリアミド系合成樹脂、例えば6ナイロン)で全体が型成形(より具体的には射出成形)される。尚、ナイロンの中でも、特に摺動性に優れ高品質のMCナイロン(登録商標)が望ましい。
【0022】
また実施形態の弁ハウジング2の内周面には、これのノズル部材5との嵌合面よりも径方向外方側に一段凹んだ環状凹面2iが形成されており、この環状凹面2iの径方向深さは、ブッシュBの肉厚に略相当する。而して、ブッシュBが環状凹面2iに該凹面2i前端の段差に突き当たるまで嵌挿(実施形態では軽圧入)され、その嵌挿状態ではブッシュBの内周面が弁ハウジング2の上記嵌合面と略面一に連続する。
【0023】
而して、ブッシュBは、本発明の円筒状のガイド筒の一例であり、またブッシュBの内周面が、弁体7の外周を摺動可能に嵌合、支持する摺動案内面Biを構成している。
【0024】
上記弁体7は、前端部が閉塞した有底円筒状に形成され、その弁体7内には、弁体7の中心部を縦通する縦孔7aと、その縦孔7aの前端部より放射方向に延びて弁体7の小径前端部70の外周面に開口する複数の横孔7bとを有する。縦孔7aの後端開口は、後述する固定コア8の中心部を縦通する燃料供給路8aの下流端に近接、対向する。
【0025】
ところで弁体7の、上記小径前端部70より後側の外周面には、軸方向幅が比較的狭い前側の第1大径部71と、第1大径部71の後端に環状溝部73を介して隣接し且つ軸方向幅が広い後側の第2大径部72とが設けられ、それら第1,第2大径部71,72の外周面がブッシュBの内周面(即ち前記摺動案内面Bi)に摺接する。
【0026】
次に前記したボディ基部3の具体例を説明する。ボディ基部3は、弁体7の後端部に作動間隙s(弁体7の開閉ストロークに相当)を挟んで前端面が対向配置される円筒状の固定コア8と、固定コア8の外周部及び弁体7の後端部外周を囲繞するコイル組立体10と、コイル組立体10の外周部及び後端部を被覆するようにして固定コア8の外周に一体に連設される有底円筒状のコイルカバー筒9と、固定コア8の後端部に一体に連設されて後方に同軸状に延びる燃料導入筒12とを備えており、コイル組立体10を除くボディ基部3の全体が磁性体で構成される。
【0027】
コイル組立体10は、コイル10cとコイル10cを巻装させ且つ被覆する絶縁性合成樹脂製のボビン10bとを有して全体として円筒状に形成される。コイル組立体10(より具体的にはボビン10b)の前端面は、弁ハウジング2の後端フランジ部2rの後端面にシールリング15を挟んで当接しており、その当接状態は、コイルカバー筒9の前端部が弁ハウジング2の後端フランジ部2r外周を一体的に結合(例えばカシメ加工9k)されることで、強固に保持される。
【0028】
しかもコイル組立体10(より具体的にはボビン10b)の前端面の内周端寄り部分は、ブッシュBの後端に係合しており、その係合により、ブッシュBの弁ハウジング2内周部からの離脱が阻止される。
【0029】
また弁ボディ1のボディ基部3の後部には、コイルカバー筒9の後端部及び燃料導入筒12の前部外周を連続的に被覆する樹脂モールド層20が結合一体化される。この樹脂モールド層20には、コイル10sに連なる通電用端子21を保持するカプラ部22が、樹脂モールド層20の一側方に張り出すようにして一体成形される。このカプラ部22内で通電用端子21が不図示の外部配線を介して電子制御装置に接続され、この電子制御装置によりエンジンの運転状態に応じてコイル10cへの通電制御がなされ、これにより弁体7が開閉制御される。
【0030】
ところで固定コア8の中空部内周面、即ち燃料供給路8aの周面には、中空円筒状のリテーナ16が固定(例えば圧入)され、このリテーナ16と弁体7との間には、弁体7を前方即ち弁座5s側に弾発付勢する戻しばね14が縮設される。そして、この戻しばね14の付勢力は、コイル10sが非通電即ち非励磁状態(
図1参照)にある場合に弁部6を弁座5sに対する着座位置に保持し、これにより、ガス燃料噴射弁Iは閉弁状態を維持される。
【0031】
一方、コイル10sが通電により励磁状態(
図2参照)にある場合には、可動コアとして機能する弁体7を固定コア8が磁気吸引することで、弁部6を戻しばね14の付勢力に抗して弁座5sから離間させる。これにより、ガス燃料噴射弁Iは開弁状態となる。
【0032】
また前記した燃料導入筒12の中空部12iは、固定コア8を縦通する燃料供給路8a(従ってリテーナ16内部)に連通しており、また燃料導入筒12の後端開口、即ち入口に燃料フィルタ17が装着される。更に燃料導入筒12の後端部外周には環状シール溝12gが凹設され、このシール溝12gに装着した後部シールリング18は、燃料導入筒12の外周に燃料分配管Dを嵌装した時にその燃料分配管Dの内周面に密接して燃料導入筒12及び燃料分配管D間を気密にシールする。
【0033】
尚、燃料分配管Dの上流側は、図示はしないがガス燃料タンク内に減圧装置(例えば減圧弁等)を介して接続され、その減圧装置で圧力調整された高圧ガス燃料が燃料分配管Dから複数のガス燃料噴射弁Iに分配供給されるようになっている。
【0034】
次に前記実施形態の作用を説明する。
図1に示すコイル10cの非励磁状態では、弁体7が戻しばね14により前方に付勢されて弁部6を弁座5sに着座させ、これにより、ガス燃料噴射弁Iを閉弁状態に保つ。この状態では、図示しないガス燃料タンクから燃料分配管Dに送られたガス燃料は、燃料導入筒12内に流入した後、中空のリテーナ16、固定コア8内の燃料供給路8a、弁体7の縦孔7a,横孔7bを経由して弁ハウジング2の内部(具体的にはノズル部材5手前側の空間)で待機するが、このとき弁体7には、戻しばね14の付勢力とガス燃料の圧力とが閉弁力として作用して、弁部6を弁座5sとの着座位置に押圧、保持する。
【0035】
斯かる状態より、コイル10cが通電により励磁状態となると、磁束がコイル10c周囲のコイルカバー筒9、弁ハウジング2、弁体7及び固定コア8を順次走り、これにより、弁体7が戻しばね14及び待機ガス燃料の圧力に抗して固定コア8に磁気吸引され、即ち、弁体7には後述する開弁方向推力が作用する。
【0036】
かくして、弁体7と一体の弁部6が弁座5cから離れることでガス燃料噴射弁Iが開弁し、これに伴い、弁ハウジング2内で待機状態にあったガス燃料がノズル孔5nから吸気管E内に噴射される。
【0037】
以上説明した実施形態において、弁ハウジング2の内周部に固定されて内周面が弁体7に対する摺動案内面Biとなるガイド筒としてのブッシュBは、自己潤滑性を有する合成樹脂材(ナイロン)の射出成形により形成されている。これにより、弁体7及び弁ハウジング2相互の摺動面を従来技術の如く固体潤滑剤(DLC、フッ素樹脂等)でコーティングする必要はなくなり、従って、コーティングに伴う従来技術の不都合(例えば、コーティング後の面粗度確保のためにコーティング前に行われる荒研磨工程が必要となり、またコーティング塗布サイクルタイムが多く必要となる等)を回避できるから、製造コストの大幅低減が達成可能となる。
【0038】
しかもブッシュBは、非磁性の上記合成樹脂材の射出成形で形成されていて、このブッシュBの肉厚(非磁性部)にて、弁体7外周と弁ハウジング2内周との摺動部のエアギャップを大きく確保できるため、摺動面に発生するサイドフォースを低減できて、摺動面の摩耗を効果的に抑制可能となる。より具体的に説明すると、ブッシュBの摺動面(即ち摺動案内面Bi)の摩耗量は、弁体7の開閉作動回数と、摺動面の面圧と、弁体7の摺動速度との積に比例すると考えられ、特に摺動面の面圧は上記サイドフォースに依存する相関関係がある。このことから、サイドフォースが大きくなるにつれて摩耗量が大きくなるこ
とは明らかである。
【0039】
ところで
図3のグラフは、弁体7及び弁ハウジング2間の摺動部に働くサイドフォースと、ガイド筒としてのブッシュBの肉厚との関係の一例を示すグラフであり、また
図4は、ガス燃料噴射弁Iの開弁時に弁体7に働く軸方向推力と、ブッシュBの肉厚との関係の一例を示すグラフである。
【0040】
その
図3で明らかなように、弁体7外周と弁ハウジング2内周との摺動面に発生するサイドフォースは、ブッシュBの肉厚が大きくなるにつれて減少しており、例えば肉厚が0.5mmの実施例のサイドフォースは、コーティング膜が約0.050mmの樹脂コーティングを施した従来例のサイドフォースと比べ大幅に低減されることが判る。そして、このサイドフォースの低減により摺動面の摩耗量を低減可能となることは、前記したサイドフォースと摩耗量との相関関係も明らかである。
【0041】
一方、
図4でも明らかなように、前記エアギャップが大きくなるにつれて、弁体7の開弁方向推力(磁気吸引力)が減少する傾向があるが、例えば、ブッシュBの肉厚が0.5mmの実施例の開弁方向推力でも、弁体7の迅速且つ的確な開弁動作に必要な開弁方向推力の許容下限値を十分に上回っていて、十分な開弁方向推力を確保し得ることは明らかである。
【0042】
而して、本発明においては、開弁方向推力を十分に確保し得る範囲(即ち
図4の推力OK領域)で、ブッシュBの肉厚を、従来例よりも摺動面のサイドフォースが十分低減される肉厚範囲で適宜に設定可能である。即ち、その設定値は、実施例の0.5mmだけに限定されることはない。
【0043】
また特に実施形態のブッシュBは、前記合成樹脂材で型成形(より具体的には射出成形)されていて後付けで弁ハウジング2の内周面に挿着されるので、ブッシュB単体を弁ハウジング2から独立して効率よく射出成形でき、その射出成形後のブッシュBを弁ハウジング2の内周に単に嵌挿するだけで、弁ハウジング2に後付けで組み付け可能である。従って、量産性が頗る良好であって更なるコスト節減が達成される。
【0044】
さらに実施形態では、固定コア8に固定されるコイル組立体10が、弁ハウジング2の他端部に係合、固定され、ブッシュBの弁ハウジング2からの離脱が阻止されるように、ブッシュBの固定コア8側の後端部がコイル組立体10に係合するので、弁ハウジング2の内周部に固定されるブッシュBに対する抜け止め手段としてコイル組立体10を兼用可能となり、更なるコスト節減が達成される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施形態を実施可能である。
【0046】
例えば、前記実施形態では、ガイド筒としてのブッシュの構成材としてポリアミド系合成樹脂(ナイロン)を用いたものが示されるが、ガイド筒の構成材は実施形態に限定されず、少なくとも自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂であればよく、例えば結晶性の高いポリアセタール樹脂を用いてもよい。
【0047】
また前記実施形態では、ガイド筒としてのブッシュB単体を弁ハウジング2から独立して射出成形し、その射出成形後のブッシュBを弁ハウジング2の内周に後付けで挿着するものを示したが、本発明の第1の特徴においては、予め製作した弁ハウジング2をインサート部品としてブッシュBをインサート成形することで、ブッシュBを弁ハウジング2内周に結合一体化するようにしてもよい。
【0048】
また前記実施形態では、電磁式ガス燃料噴射弁Iを、ガス燃料を燃焼させて動力を発生する内燃式エンジンの吸気管Eに設けた取付孔Eaに装着して、その吸気管E内にガス燃料を噴射可能としたものを例示したが、本発明の電磁式ガス燃料噴射弁の設置対象は実施形態に限定されず、例えば水素ガスと空気(酸素ガス)とを化学反応させて生じる電気で走行用モータを駆動する燃料電池車に搭載の燃料電池に本発明のガス燃料噴射弁を設置してもよい。この場合、ガス燃料噴射弁は、例えば燃料電池本体に設けられて水素ガス導入口となる取付孔に装着されて、水素ガス源(例えば水素ガスタンク)から燃料電池へ向かう水素ガスの供給制御に使用される。
【符号の説明】
【0049】
B・・・・・ガイド筒としてのブッシュ
Bi・・・・摺動案内面
I・・・・・ガス燃料噴射弁
2・・・・・弁ハウジング
5・・・・・ノズル部材
5n・・・・ノズル孔
5s・・・・弁座
6・・・・・弁部
7・・・・・弁体
8・・・・・固定コア
10・・・・コイル組立体
10b・・・ボビン
10c・・・コイル
14・・・・戻しばね