(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158500
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】化合物、腫瘍崩壊剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 317/58 20060101AFI20241031BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20241031BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07D317/58 CSP
A61K31/36
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073745
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】袴田 航
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA13
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】腫瘍細胞同士の接着を抑制でき、細胞毒性が低減された化合物、その化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤、及び、その腫瘍崩壊剤を含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】一般式(a0)で表される化合物を選択する。式中、R
1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。R
2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a0)で表される化合物。
【化1】
[式中、R
1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。R
2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【請求項2】
下記一般式(a1)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式中、R
11は、炭素原子数1~3のアルコキシ基又は水素原子である。R
21は、ハロゲン原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、又はニトロ基である。n
2は、0~5の整数である。n
2が2以上の整数である場合、複数のR
21は、それぞれ同じでもよく異なってもよい。]
【請求項3】
前記一般式(a1)中、R11は、メトキシ基であり、
R21は、ハロゲン原子、メチル基、ハロゲン化メチル基、メトキシ基、又はニトロ基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤。
【請求項5】
請求項4に記載の腫瘍崩壊剤の有効量及び薬学的に許容される担体を含む、腫瘍を治療するための医薬組成物。
【請求項6】
前記腫瘍が固形悪性腫瘍であり、抗癌剤と組み合わせて用いられる、請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、腫瘍崩壊剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療では、抗癌剤を用いる化学療法が多く用いられる。癌の中でも、固形癌は細胞同士が密に接着し細胞塊を形成するため、抗癌剤はその細胞塊の内部へ送達されにくい。固形癌の治療では、抗癌剤の投与量、回数を高める必要があり、その結果、患者に対し副作用を引き起しやすいという問題がある。
【0003】
これに対し、発明者らは、細胞接着に関与する細胞表面糖鎖の構築を担うゴルジマンノシダーゼに着目した。発明者らは、ゴルジマンノシダーゼ阻害剤を固形癌に接触させることにより、未成熟型N結合型糖鎖が癌細胞表面に蓄積し、癌細胞同士の接着が阻害され、固形癌の形成が阻害されることを見出した(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Koyama R et al., A novel Golgi mannosidase inhibitor: Molecular design, synthesis, enzyme inhibition, and inhibition of spheroid formation, Bioorganic & Medicinal Chemistry, June 2020, Vol. 28, no. 11, 115492.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のゴルジマンノシダーゼ阻害剤は、細胞に対する毒性が高いという問題があった。そこで、本発明は、腫瘍細胞同士の接着を抑制でき、細胞毒性が低減された化合物、その化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤、及び、その腫瘍崩壊剤を含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]下記一般式(a0)で表される化合物。
【0007】
【化1】
[式中、R
1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。R
2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0008】
[2]下記一般式(a1)で表される化合物である、[1]に記載の化合物。
【0009】
【化2】
[式中、R
11は、炭素原子数1~3のアルコキシ基又は水素原子である。R
21は、ハロゲン原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、又はニトロ基である。n
2は、0~5の整数である。n
2が2以上の整数である場合、複数のR
21は、それぞれ同じでもよく異なってもよい。]
【0010】
[3]前記一般式(a1)中、R11は、メトキシ基であり、R21は、ハロゲン原子、メチル基、ハロゲン化メチル基、メトキシ基、又はニトロ基である、[2]に記載の化合物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤。
[5][4]に記載の腫瘍崩壊剤の有効量及び薬学的に許容される担体を含む、腫瘍を治療するための医薬組成物。
[6]前記腫瘍が固形悪性腫瘍であり、抗癌剤と組み合わせて用いられる、[5]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腫瘍細胞同士の接着を抑制でき、細胞毒性が低減された化合物、その化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤、及び、その腫瘍崩壊剤を含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実験例2において、OVCAR-3細胞に対してKIF又はDMJを作用させた後、Con-A及びSDLにより細胞の糖鎖を観察した結果を示す図である。
【
図2】実験例2において、OVCAR-3細胞に対して化合物(a1-1)~(a1-8)を作用させた後、Con-A及びSDLにより細胞の糖鎖を観察した結果を示す図である。
【
図3】実験例3において、OVCAR-3細胞スフェロイドに対して化合物(a1-1)~(a1-8)を作用させた後、スフェロイドの崩壊活性を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書及び本特許請求の範囲において、「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0014】
[化合物]
一実施形態において、本発明は、下記一般式(a0)で表される化合物(以下、化合物(a0)ともいう)を提供する。
【0015】
【化3】
[式中、R
1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。R
2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0016】
式(a0)中、R1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。
R1におけるアルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1~5のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数1~3のアルコキシ基が好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、又はtert-ブトキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましく、メトキシ基が更に好ましい。
R1におけるアルキル基としては、例えば、炭素原子数1~5のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1~3のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0017】
式(a0)中、R2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。
R2における炭化水素基としては、鎖状の炭化水素基、又は環状の炭化水素基が挙げられる。
【0018】
R2における、鎖状の炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状である。R2における、鎖状の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基でもよく、通常は飽和であることが好ましい。R2における直鎖状炭化水素基は、炭素原子数1~10が好ましく、炭素原子数1~6がより好ましい。R2における分岐鎖状炭化水素基は、炭素原子数3~10が好ましく、炭素原子数3~6がより好ましい。
鎖状の飽和脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数1~10の1価の鎖状飽和炭化水素基が挙げられる。炭素原子数1~10の1価の鎖状飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0019】
R2における、環状の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基でもよいし、芳香族炭化水素基でもよいし、また、多環式基でも単環式基でもよい。
単環式基である脂肪族炭化水素基としては、モノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましい。該モノシクロアルカンとしては、炭素原子数3~6のものが好ましく、具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
多環式基である脂肪族炭化水素基としては、ポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましく、該ポリシクロアルカンとしては、炭素原子数7~12のものが好ましく、具体的にはアダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等が挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6~15の芳香族炭化水素環から水素原子1個以上を除いた基が好ましく、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン又はフェナントレンから水素原子1個以上を除いた基がより好ましく、ベンゼン、ナフタレン又はアントラセンから水素原子1個以上を除いた基がさらに好ましく、ベンゼン又はナフタレンから水素原子1個以上を除いた基が特に好ましく、ベンゼンから水素原子1個以上を除いた基が最も好ましい。あるいは、芳香族炭化水素基としては、2以上の芳香環を含む芳香族化合物(例えばビフェニル、フルオレン等)から水素原子1個以上を除いた基;炭素原子数6~15の芳香族炭化水素環から水素原子1個以上を除いた基(アリール基)の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基等のアリールアルキル基)等が挙げられる。前記アリール基に結合するアルキレン基の炭素原子数は、1~4であることが好ましく、炭素原子数1~2であることがより好ましく、炭素原子数1であることが特に好ましい。
【0021】
R2が鎖状の炭化水素基である場合、その鎖状の炭化水素基の有する水素原子の一部又は全部は、ヘテロ原子を含む1価の基で置換されてもよい。前記1価の基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトリル基、チオール基等が挙げられる。R2が鎖状の炭化水素基である場合、その鎖状の炭化水素基の有するメチレン基は、ヘテロ原子を含む2価の基で置換されてもよい。前記2価の基としては、例えば、カルボニル基、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、アミド基、イミノ基等が挙げられる。
【0022】
R2が環状の脂肪族炭化水素基である場合、その環状の脂肪族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、1価の基で置換されてもよい。前記1価の基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、ニトリル基、チオール基が挙げられる。
【0023】
R2が環状の脂肪族炭化水素基である場合、その環骨格を構成する炭素原子は、ヘテロ原子を含む2価の基で置換されてもよい。前記2価の基としては、例えば、カルボニル基、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、アミド基、イミノ基、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
R2が芳香族炭化水素基である場合、その芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、1価の基で置換されてもよい。前記1価の基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、ニトリル基、チオール基が挙げられ、ハロゲン原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、又はニトロ基が好ましい。
【0025】
R2が芳香族炭化水素基である場合、その環骨格を構成する炭素原子は、ヘテロ原子を含む2価の基で置換されてもよい。前記2価の基としては、例えば、カルボニル基、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、アミド基、イミノ基、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(a0)で表される化合物は、下記一般式(a1)で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化4】
[式中、R
11は、炭素原子数1~3のアルコキシ基又は水素原子である。R
21は、ハロゲン原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、又はニトロ基である。n
2は、0~5の整数である。n
2が2以上の整数である場合、複数のR
21は、それぞれ同じでもよく異なってもよい。]
【0028】
R11は、炭素原子数1~3のアルコキシ基又は水素原子である。R11としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基が挙げられ、メトキシ基が好ましい。
【0029】
R21は、ハロゲン原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、又はニトロ基である。前記一般式(a1)で表される化合物の腫瘍細胞同士の接着の抑制能をより高められる観点から、R21としては、ハロゲン原子が好ましい。前記一般式(a1)で表される化合物の細胞毒性をより低減できる観点から、R21は、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基又はニトロ基が好ましい。
ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
炭素原子数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基は、炭素原子数1~3のアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基である。炭素原子数1~3のハロゲン化アルキル基としては、メチル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基が好ましく、-CH3の水素原子の全部がハロゲン原子で置換された基がより好ましく、トリフルオロメチル基が更に好ましい。前記ハロゲン化アルキル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
炭素原子数1~3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基が挙げられ、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
n2は、0~5の整数であり、0~2の整数が好ましい。
R21は、ベンゼン環に結合する硫黄原子に対して、オルト位又はパラ位であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(a1)で表される化合物は、下記式(a1-1)~(a1-8)のいずれかで表される化合物(以下、化合物(a1-1)~(a1-8)ともいう)であることが好ましい。
【0031】
【0032】
【0033】
本実施形態に係る化合物は、ゴルジ体マンノシダーゼの活性を阻害することが可能である。ゴルジ体マンノシダーゼは、GMI及びGMIIに大別される。ヒト細胞のゴルジ体に局在するGMIとしては、Mannosyl-oligosaccharide 1,2-α-mannosidase IA(GMIA),Mannosyl-oligosaccharide 1,2-α-mannosidase IB(GMIB),Mannosyloligosaccharide 1,2-α-mannosidase IC(GMIC)が挙げられる。ヒト細胞のゴルジ体に局在するGMIIとしては、α-Mannosidase II,Mannosidase alpha class 2A member 1(GMII1),α-Mannosidase II,Mannosidase alpha class 2A member 2(GMII2)の5種類のα-マンノシダーゼが存在する。これらの中でも、本実施形態に係る化合物は、GMIを阻害することが確認されている。GMIの阻害により、腫瘍細胞同士の接着を抑制し、腫瘍の固形状の形態を崩壊させることが可能である。
【0034】
以上説明した本実施形態に係る化合物は、腫瘍細胞同士の接着を抑制して、腫瘍の固形状の形態を崩壊させることが可能である。本実施形態に係る化合物がこのような効果を発揮する理由は定かではないが、以下のように推測される。本実施形態に係る化合物は、腫瘍細胞のGMIを阻害することにより、細胞表面に、未成熟なハイマンノース型糖鎖を蓄積させる。その結果、腫瘍細胞同士の接着が抑制され、腫瘍の固形状の形態が崩壊すると考えられる。
本実施形態に係る化合物を固形悪性腫瘍に作用させることにより、腫瘍細胞同士の接着が抑制されて、抗癌剤が腫瘍深部へ送達されやすくなるため、治療に必要な抗癌剤の投与量を低減することが可能である。その結果、投与対象において、抗癌剤による副作用を低減することが可能である
【0035】
従来報告されていたα-マンノシダーゼ阻害剤(Koyama R et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, June 2020, Vol. 28, no. 11, 115492.)では、腫瘍崩壊に有効な濃度域と、細胞毒性が発現する濃度域とが近接していることが課題であった。本実施形態に係る化合物は、前記従来のα-マンノシダーゼ阻害剤と比べて細胞毒性が低減されており、腫瘍を崩壊させる濃度域と、細胞毒性濃度域との差が大きい。そのため、本実施形態に係る化合物によれば、細胞毒性を発現しない濃度で、腫瘍を崩壊させることが可能である。したがって、投与対象において、本実施形態に係る化合物による副作用を低減することが可能である。
【0036】
[化合物(a0)の製造方法]
本実施形態の化合物は、公知の方法を組み合わせて製造することができ、例えば、下記の製造方法により製造することができる。まず、以下の手順により、原料としてピペロナールを用いて、化合物pre01~04を合成する。
【0037】
【0038】
窒素雰囲気で、ピペロナールと、シアノ酢酸エチルとを反応させて、化合物pre01を得る。反応温度条件は、例えば0~180℃程度である。反応時間は、例えば30分~24時間程度である。反応溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン等が挙げられる。この反応では触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、ピペリジン等が挙げられる。
【0039】
次いで、化合物pre01と、下記式(mPh-1)で表される化合物とを反応させて、化合物pre02を得る。反応温度条件は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば、5分~3時間程度である。反応溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン等が挙げられる。
【0040】
【化8】
[式中、R
1は、アルコキシ基、アルキル基又は水素原子である。]
【0041】
次いで、ナトリウムメトキシドを用いて、化合物pre02を加水分解反応させて、化合物pre03を得る。反応温度条件は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば、10分~24時間程度である。反応溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール等が挙げられる。
【0042】
次いで、化合物pre03をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解し、カルボキシ基の脱離反応により、化合物pre04を得る。反応温度条件は、例えば0~200℃程度である。反応時間は、例えば、10分~24時間程度である。
【0043】
次いで、化合物pre04と、下記式(SCl-1)で表される化合物とを反応させて前記式(a0)で表される化合物を得る。反応温度条件は、例えば0~200℃程度である。反応時間は、例えば、10分~24時間程度である。この反応では触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、N,N-diisopropylethylamine(DIEA)が挙げられる。
【0044】
【化9】
[式中、R
2は、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0045】
上述した化合物(a0)の製造方法においては、各反応が終了した後、反応液中の化合物を単離、精製してもよい。単離、精製には、従来公知の方法が利用でき、例えば、濃縮、溶媒抽出、蒸留、結晶化、再結晶、クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて用いることができる。
上記のようにして得られる化合物の構造は、1H-核磁気共鳴(NMR)スペクトル法、13C-NMRスペクトル法、19F-NMRスペクトル法、赤外線吸収(IR)スペクトル法、質量分析(MS)法、元素分析法、X線結晶回折法等の一般的な有機分析法により同定できる。
各工程で用いられる原料は、市販のものを用いてもよく、合成したものを用いてもよい。
【0046】
[腫瘍崩壊剤]
一実施形態において、本発明は、前記実施形態に係る化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤を提供する。本明細書において、腫瘍崩壊剤とは、対象となる固形状の腫瘍に作用して、腫瘍の固形状の形態を崩壊させる化合物又は組成物を意味する。
【0047】
本明細書において、腫瘍は、良性腫瘍及び悪性腫瘍を包含する。良性腫瘍とは、周囲の組織へ浸潤せず、離れた臓器へ転移しない腫瘍である。悪性腫瘍とは、周囲の組織への浸潤、及び/又は、離れた臓器へ転移が認められる腫瘍である。
本明細書において、腫瘍は、上皮性腫瘍及び非上皮性腫瘍を包含する。上皮性腫瘍とは、外界に面した細胞層を構成する上皮細胞が形成する腫瘍である。上皮細胞としては、例えば、皮膚の細胞、消化器、呼吸器、泌尿器、生殖器、乳房等の管腔臓器の表面を覆う細胞が挙げられる。非上皮性腫瘍は、上皮細胞以外の細胞が形成する腫瘍である。非上皮性細胞としては、例えば、筋肉、脂肪、血管、神経組織、骨、軟骨、血液等を構成する細胞が挙げられる。
【0048】
腫瘍崩壊剤が対象とする腫瘍は、良性腫瘍又は悪性腫瘍のいずれであってもよい。腫瘍崩壊剤が対象とする腫瘍は、上皮性腫瘍又は非上皮性腫瘍のいずれであってもよい。腫瘍崩壊剤が対象とする腫瘍は、固形腫瘍である。固形腫瘍とは、固形状の形態を有する腫瘍であり、血液腫瘍を除く腫瘍を意味する。対象となる固形腫瘍は、固形悪性腫瘍又は良性悪性腫瘍のいずれであってもよく、固形悪性腫瘍であることが好ましく、上皮性の固形悪性腫瘍であることがより好ましい。対象となる上皮性の固形悪性腫瘍としては、例えば、乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、前立腺癌、甲状腺癌、卵巣癌、子宮癌、膵臓癌、食道癌、悪性黒色腫等が挙げられるが、これらに限定されない。対象となる非上皮性の固形悪性腫瘍としては、例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤が含み得る前記実施形態に係る化合物の塩としては、腫瘍崩壊剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。
これらの中でも、前記実施形態に係る化合物の塩は、薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0050】
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤が含み得る前記実施形態に係る化合物又はその塩の溶媒和物としては、腫瘍崩壊剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
前記実施形態に係る化合物又はその塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であることが好ましい。
【0051】
<その他の成分>
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤は、前記実施形態に係る化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物のみからなるものであってもよいし、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、腫瘍崩壊剤が効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、角質軟化剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分、油性基剤、乳化剤、乳化安定剤、粉末成分、高分子成分、粘着性改良剤、被膜形成剤、保型剤、潤沢剤等が挙げられる。
【0052】
<用途>
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤の用途は、腫瘍の形態の一部又は全部を崩壊させることを目的としている限り特に限定されず、例えば、腫瘍を治療するための医薬組成物に配合して使用してもよい。
【0053】
<使用方法及び使用量>
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤の使用方法及び使用量は、腫瘍崩壊剤が腫瘍に対して効果を発揮する限り特に制限されず、当業者であれば、適宜設定可能である。
【0054】
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤によれば、対象となる腫瘍において、細胞同士の接着を抑制し、腫瘍の固形状の形態を崩壊させることが可能である。本実施形態に係る腫瘍崩壊剤は、化合物(a0)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴としている。化合物(a0)は、従来報告されていたα-マンノシダーゼ阻害剤(Koyama R et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, June 2020, Vol. 28, no. 11, 115492.)に比べて、細胞毒性が低減されており、細胞毒性発現濃度域よりも低い濃度で腫瘍崩壊を誘導することができる。そのため、腫瘍を有する対象個体に、腫瘍崩壊剤を投与しても、対象個体において、腫瘍崩壊剤による副作用を低減することが可能である。
【0055】
本実施形態に係る腫瘍崩壊剤は、抗癌剤と組み合わせて、固形悪性腫瘍の治療に用いてもよい。本実施形態に係る化合物を固形悪性腫瘍に作用させることにより、抗癌剤が腫瘍深部へ送達されやすくなるため、治療に必要な抗癌剤の投与量を低減することが可能である。その結果、投与対象において、抗癌剤による副作用を低減することが可能である。
【0056】
[医薬組成物]
一実施形態において、本発明は、腫瘍を治療するための医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、前記実施形態に係る腫瘍崩壊剤の有効量、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0057】
本実施形態に係る医薬組成物は、上述の腫瘍崩壊剤に加えて、薬学的に許容される担体を含んでもよい。「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。本実施形態に係る医薬組成物において、薬学的に許容される担体は、上記実施形態の腫瘍崩壊剤の腫瘍を崩壊させる活性を阻害せず、且つ投与対象に対して実質的な毒性を示さない成分であり得る。
【0058】
薬学的に許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム- グリコール- スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤;クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、緩衝液、生理食塩水等の希釈剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックス等が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、医薬組成物の製剤は経口剤のために通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等の添加剤を用いて、常法により製造することができる。
使用可能な添加剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、クエン酸、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等が挙げられる。
本実施形態に係る医薬組成物が経口投与されるものである場合、その医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ剤等の経口投与に適した剤形に調製されたものであってもよい。
【0060】
本実施形態に係る医薬組成物が、非経口投与されるものである場合、前記医薬組成物は、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等を含んでもよい。
本実施形態に係る医薬組成物が、非経口投与されるものである場合、前記医薬組成物は、アンプル、バイアル、注射器のカートリッジ等に、単位投与量又は複数回投与量ずつ容器に封入されてもよい。
【0061】
<対象の疾患>
本実施形態の医薬組成物は、腫瘍を治療するために用いられる。対象となる腫瘍としては、腫瘍崩壊剤に係る実施形態において上述したものが挙げられ、固形悪性腫瘍が好ましく、上皮性悪性腫瘍がより好ましい。
【0062】
<投与の対象>
本実施形態にかかる医薬組成物が投与される対象となる生物種としては、腫瘍を形成し得る対象であれば特に限定されないが、例えば、ヒト及びヒト以外の哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。
ヒト以外の哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目;サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等のヒト以外の霊長類等が挙げられる。
【0063】
<投与方法>
本実施形態に係る医薬組成物の投与方法としては、投与対象において、医薬組成物が治療効果を発揮する限り特に限定されず、非経口投与でもよく、経口投与でもよいが、非経口投与が好ましい。
【0064】
非経口投与としては、例えば、静脈内投与、動脈内投与等の全身投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔投与、脳室内投与、髄腔内投与、経皮投与、眼内投与、鼻腔内投与等の局所投与等、全身投与が挙げられる。本実施形態の医薬組成物は、対象の癌が存在する部位に対する局所投与が好ましい。
【0065】
<有効量>
本実施形態に係る医薬組成物に含まれる、腫瘍崩壊剤の有効量は、医薬組成物が治療効果を発揮する限り特に制限されず、当業者が、適宜設定することができる。
【0066】
<投与量>
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
本実施形態に係る医薬組成物が経口的に投与されるものである場合、投与量は適宜決定されるが、例えば、治療対象の患者当たり、約0.1~2000mgであってもよく、これを1日あたり1回又は数回に分けて投与してもよいし、数日置きに投与してもよい。
【0067】
以上説明した本実施形態に係る医薬組成物は、治療対象の腫瘍細胞同士の接着を抑制することにより、腫瘍の固形状の形態を崩壊させることが可能である。本実施形態に係る医薬組成物は、前述の腫瘍崩壊剤を含有することを特徴としている。前述の腫瘍崩壊剤は、化合物(a0)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。化合物(a0)は、従来報告されていたα-マンノシダーゼ阻害剤(Koyama R et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, June 2020, Vol. 28, no. 11, 115492.)よりも細胞毒性が低減されており、細胞毒性発現濃度域よりも低い濃度で腫瘍崩壊を誘導することができる。そのため、治療対象の個体に、この医薬組成物を投与しても、対象個体において、この医薬組成物による副作用を低減することが可能である。
【0068】
治療対象が固形悪性腫瘍である場合、本実施形態に係る医薬組成物は、抗癌剤と組み合わせて用いられることが好ましい。前記抗癌剤としては、癌の治療に有効である限り特に限定されないが、例えば、癌の治療に用いられる公知の抗癌剤が挙げられる。公知の抗癌剤は、低分子医薬でもよく、抗体医薬でもよく、キメラ抗原受容体T細胞等の細胞医薬であってもよい。抗癌剤は、治療対象の固形悪性腫瘍の種類に応じて、当該固形悪性腫瘍の治療に通常用いられる抗癌剤を適宜選択することができる。
抗癌剤の投与量は、癌の治療に有効である限り特に限定されず、当業者であれば、適宜設定可能である。
【0069】
本実施形態に係る医薬組成物が抗癌剤と組み合わせて用いられる場合、抗癌剤を投与する前に、その医薬組成物を治療対象に投与してもよいし、あるいは、抗癌剤と医薬組成物を同時に治療対象に投与してもよい。本実施形態に係る医薬組成物を投与対象が有する癌に作用させることにより、抗癌剤が癌の深部へ送達されやすくなるため、治療に必要な抗癌剤の投与量を低減することが可能である。その結果、投与対象において、抗癌剤による副作用を低減することが可能である。
【0070】
[その他の実施形態]
その他の実施形態としては、例えば、上記実施形態の腫瘍崩壊剤の有効量を、治療を必要とする腫瘍を有する対象に投与する工程を含む、腫瘍の治療方法が挙げられる。
本実施形態において、治療対象としては、ヒト及びヒト以外の哺乳動物が挙げられる。
腫瘍としては、[腫瘍崩壊剤]において上述したものが挙げられる。
本実施形態に係る腫瘍の治療方法は、上記実施形態の腫瘍崩壊剤及び抗癌剤の有効量を、治療を必要とする固形悪性腫瘍を有する対象に投与する工程を含む、固形悪性腫瘍の治療方法であってもよい。
本実施形態において、有効量は、[医薬組成物]において、上述した量であってもよく、当業者が適宜設定することができる。腫瘍崩壊剤の投与方法としては、[医薬組成物]において上述した投与方法であってもよい。
【0071】
また、その他の実施形態としては、例えば、腫瘍の治療用医薬組成物を製造するための前記実施形態の腫瘍崩壊剤の使用が挙げられる。
腫瘍としては、[腫瘍崩壊剤]において上述したものが挙げられる。
【実施例0072】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<化合物の製造例>
まず、以下の手順により、原料としてピペロナールを用いて、下記の化合物pre1~4を合成した。
化合物pre1: Ethyl 3-(1,3-benzodioxol-5-yl)-2-cyano-2-propenoate
化合物pre2: Ethyl α-cyano-β-(4-methoxyphenyl)-1,3-benzodioxole-5-propanoate
化合物pre3: α-Cyano-β-(4-methoxyphenyl)-1,3-benzodioxole-5-propanoicacid
化合物pre4: β-(4-Methoxyphenyl)-1,3-benzodioxole-5-propanenitrile
【0074】
【0075】
窒素雰囲気でピペロナール(Wako,165-02782,3.00g,19.99mmol)を脱水トルエン(Wako,202-17911,100mL)に溶解し、シアノ酢酸エチル(TCI,C0441,2.3mL,20.99mmol)、ピペリジン(TCI,P0453,200μL,1.99mmol)の順に加え、140℃の油浴で1時間30分間加熱還流を行った。その後溶媒を留去し、真空乾燥を行った。得られた反応生成物に99.5%エタノールを5mL加え、熱再結晶を行い、桐山ろ過により黄色の結晶である化合物pre1(4.55g,収率92.8%)を得た。
【0076】
窒素雰囲気下で化合物pre1(2.22g,9.04mmol)を脱水トルエン(45mL)に溶解し、0.5M 4-メトキシフェニルマグネシウムブロミドTHF溶液(Sigma-Aldrich,470260-100ML,28mL,13.56mmol)を加え、室温で15分間撹拌した。反応液に1.2M 塩酸16mLを加え、反応を停止した。反応停止後の溶液をジエチルエーテル70mLと1.2M 塩酸70mLが入った分液ロートに加え、生成物の抽出を行った。得られた有機層を飽和食塩水70mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、真空乾燥を行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=15/1)により精製し、化合物pre2(3.31g)を定量的に得た。
【0077】
化合物pre2(3.31g,9.37mmol)を特級メタノール(Wako,131-01826,164mL)に溶解し、純水33mL、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(Wako,197-02463,4mL)の順に加え、室温で1時間40分間撹拌した。その後、DOWEX50W-X8(Wako,328-97585、H+form)を加えて撹拌し、中和を行った。反応液のpHはpH試験紙によりpH7となったことを確認した。その後、綿栓ろ過によりDOWEX50W-X8を取り除き、溶媒を留去後、真空乾燥を行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/メタノール/トリフルオロ酢酸=8/1/0.1)により精製し、化合物pre3(2.83g,収率92.9%)を得た。
【0078】
化合物pre3(2.45g,7.52mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド(DMA,Wako,042-02541,20mL)に溶解し、140℃の油浴で2時間加熱還流を行った。反応液をジエチルエーテル400mLと純水400mLが入った分液ロートに加え、生成物の抽出を行った。得られた有機層を400mLの飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後に真空乾燥を行い、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)により精製し、化合物pre4(1.80g,収率80.2%)を得た。
【0079】
[製造例1:化合物(a1-1)の製造]
窒素雰囲気下で化合物pre4(146.3mg,0.518mmol)を脱水テトラヒドロフラン(THF,Wako,205-17901,10mL)に溶解し、水素化リチウムアルミニウム(Wako,120-01091,51.0mg,1.036mmol)を加え、室温で2時間撹拌した後、飽和無水硫酸ナトリウム水溶液をパスツールピペットで11滴加え、セライトろ過を行った。ろ液の溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し、真空乾燥を行った。得られた生成物全量を脱水ジクロロメタン(Wako,042-31231,10mL)に溶解し、N,N-diisopropylethylamine(DIEA,TCI,D1599,270μL,1.554mmol)とBenzenesulfonylchloride(Sigma-Aldrich,108138-5G,100μL,0.777mmol)を加え室温で1時間30分間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/3)により精製した。得られた生成物を再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=8/1)に供し、化合物(a1-1)(114.1mg,収率51.8%)を得た。
【0080】
【0081】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-1)についての測定結果を以下に示す。本明細書において、DUIS-MSはDual Ion Source Mass Spectrometryを意味し、HRMSはHigh Resolution Mass Spectrometryを意味する。
【0082】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.12(ddd,2H,J=2.0,8.3and14.8Hz,-CHCH2CH2N-),2.89(dd,2H,J=7.0and13.0Hz,-CHCH2CH2N-),3.76(s,3H,-OCH3),3.80(td,1H,J=7.5Hz,-CHCH2CH2N-),4.29(t,1H,J=6.3Hz,-CHCH2CH2NH-),5.89(dd,2H,J=1.5and2.0Hz,-OCH2O-),6.59(dd,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.59(dd,1H,J=1.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.68(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.79(dd,2H,J=2.5and8.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.03(ddd,2H,J=2.8and9.0Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),6.94(ddd,2H,J=1.8,3.0and9.5Hz,H3andH5inphenylgroup),7.58(td,1H,J=1.0and8.0Hz,H4inphenylgroup),7.72(ddd,2H,J=2.5and9.5Hz,H2andH6inphenylgroup).
【0083】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.60(-CHCH2CH2N-),41.65(-CHCH2CH2N-),47.02(-CHCH2CH2N-),55.24(-OCH3),100.92(-OCH2O-),107.96(C2inpiperonylgroup),108.19(C5inpiperonylgroup),114.00(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.49(C6inpiperonylgroup),114.21(C3andC5inphenylgroup),128.43(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),129.24(C2andC6inphenylgroup),132.65(C4inphenylgroup),135.76,137.96,139.78,146.01,147.81,158.12.
【0084】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=448[M+Na]+,(negativemode);424[MH]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC23H22NO5S[M-H]-:424.1224,found:424.1221(error0.71ppm).
【0085】
[製造例2:化合物(a1-2)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを4-Chlorobenzenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、化合物(a1-2)を合成した。
【0086】
【0087】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-2)についての測定結果を以下に示す。
【0088】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.13(ddd,2H,J=1.5,7.0and15.0Hz,-CHCH2CH2N-),2.92(dd,2H,J=6.8and13.3Hz,-CHCH2CH2N-),3.78(s,3H,-OCH3),3.79(td,1H,J=8.3Hz,-CHCH2CH2N-),4.40(t,1H,J=6.3Hz,-CHCH2CH2NH-),5.90(d,2H,J=3.3Hz,-OCH2O-),6.58(s,1H,H2inpiperonylgroup),6.59(dd,1H,J=1.5Hzand8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.69(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.80(d,2H,J=8.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.03(d,2H,J=8.5Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),7.46(d,2H,J=8.5Hz,H3andH5in4-chlorophenylgroup),7.71(d,2H,J=7.0Hz,H2andH6in4-chlorophenylgroup).
【0089】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.59(-CHCH2CH2NH-),41.75(-CHCH2CH2NH-),47.02(-CHCH2CH2NH-),55.26(-OCH3),100.96(-OCH2O-),107.90(C2-inpiperonylgroup),108.24(C5inpiperonylgroup),114.05(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.44(C6inpiperonylgroup),128.40(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),128.54(C2andC6in4-chlorophenylgroup),129.39(C3andC5in4-chlorophenylgroup),135.65,137.87,138.32,139.16,146.08,147.86,158.19.
【0090】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=482[M+Na]+,(negativemode);458[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC23H21ClNO5S[M-H]-:458.0834,found:458.0832(error0.44ppm).
【0091】
[製造例3:化合物(a1-3)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを4-Methoxybenzenesulfonylchlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、化合物(a1-3)を合成した。
【0092】
【0093】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-3)についての測定結果を以下に示す。
【0094】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.12(ddd,2H,J=2.0,8.3,and14.8Hz,-CHCH2CH2N-),2.89(dd,2H,J=7.0and13.0Hz,-CHCH2CH2N-),3.76(s,3H,>CH(C6H4)OCH3),3.80(td,1H,J=7.5Hz,-CHCH2CH2N-),3.87(s,3H,-SO2(C6H4)OCH3),4.29(t,1H,J=6.3Hz,-CHCH2CH2NH-),5.89(dd,2H,J=1.5and2.0Hz,-OCH2O-),6.57(d,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.59(d,1H,J=1.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.68(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.79(ddd,2H,J=2.5and8.5Hz,H3andH5of>CH(C6H4)OCH3),7.03(ddd,2H,J=2.8and9.0Hz,H2andH6of>CH(C6H4)OCH3),6.94(ddd,2H,J=1.8,3.0and9.5Hz,H3andH5-SO2(C6H4)OCH3),7.72(ddd,2H,J=2.5and9.0Hz,H2andH6-SO2(C6H4)OCH3).
【0095】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.60(-CHCH2CH2N-),41.65(-CHCH2CH2N-),47.02(-CHCH2CH2N-),55.24(>CH(C6H4)OCH3),55.60(-SO2(C6H4)OCH3),100.92(-OCH2O-),107.96(C2inpiperonylgroup),108.19(C5inpiperonylgroup),114.00(C3andC5of>CH(C6H4)OCH3),114.21,(C3andC5,-SO2(C6H4)OCH3),120.49(C6inpiperonylgroup),128.43(C2andC6of>CH(C6H4)OCH3),129.24(C2andC6,-SO2(C6H4)OCH3),131.37,135.84,138.04,146.00,147.82,158.14,162.87.
【0096】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=478[M+Na]+,(negativemode);454[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC24H24NO6S[M-H]-:454.1330,found:454.1328(error0.44ppm).
【0097】
[製造例4:化合物(a1-4)の製造]
Benzenesulfonylchlorideをp-Toluenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、化合物(a1-4)を合成した。
【0098】
【0099】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-4)についての測定結果を以下に示す。
【0100】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.12(dd,2H,J=6.8and14.3Hz,-CHCH2CH2N-),2.42(s,3H,CH3).2.90(dd,2H,J=6.5and13.5Hz,-CHCH2CH2N-),3.76(s,3H,-OCH3),3.80(td,1H,J=7.5Hz,-CHCH2CH2N-),4.35(t,1H,J=6.0Hz,-CHCH2CH2NH-),5.89(s,2H,-OCH2O-),6.56(d,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.59(dd,1H,J=1.0and9.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.68(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.79(d,2H,J=8.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.03(d,2H,J=8.5Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),7.28(d,2H,J=7.5Hz,H3andH5intolylgroup),7.67(d,2H,J=8.0Hz,H2andH6intolylgroup).
【0101】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ21.52(-CH3),35.65(-CHCH2CH2N-),41.70(-CHCH2CH2N-),47.01(-CHCH2CH2N-),55.24(-OCH3),100.92(-OCH2O-),107.96(C2inpiperonylgroup),108.19(C5inpiperonylgroup),114.00(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.49(C6inpiperonylgroup),127.12(C2andC6intolylgroup),128.44(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),129.69(C3andC5intolylgroup),135.83,136.87,138.05,143.43,146.00,147.82,158.15.
【0102】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=462[M+Na]+,(negativemode);438[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC24H24NO5S[M-H]-:438.13807,found:438.13785(error0.50ppm).
【0103】
[製造例5:化合物(a1-5)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを3,4-Dichlorobenzenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、(a1-5)を合成した。
【0104】
【0105】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-5)についての測定結果を以下に示す。
【0106】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.16(ddd,2H,J=1.3,7.3and14.8Hz,-CHCH2CH2N-),2.94(dd,2H,J=6.0and13.0Hz,-CHCH2CH2N-),3.77(s,3H,-OCH3),3.80(td,1H,J=8.0Hz,-CHCH2CH2N-),4.41(t,1H,J=6.0Hz,-CHCH2CH2NH-),5.91(d,2H,J=1.0Hz,-OCH2O-),6.59(d,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.60(dd,1H,J=1.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.70(d,1H,J=8.5Hz,H5inpiperonylgroup),6.81(ddd,2H,J=2.6and8.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.04(ddd,2H,J=2.6and9.0Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),7.56(d,1H,J=8.5Hz,H5in3,4-dichlorophenylgroup),7.60(dd,1H,J=1.8and8.3Hz,H6in3,4-dichlorophenylgroup),7.87(d,1H,J=1.5Hz,H2in3,4-dichlorophenylgroup).
【0107】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.56(-CHCH2CH2N-),41.85(-CHCH2CH2N-),47.04(-CHCH2CH2N-),55.26(-OCH3),100.99(-OCH2O-),107.86(C2inpiperonylgroup),108.27(C5inpiperonylgroup),114.09(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.40(C6inpiperonylgroup),126.13(C2in3,4-dichlorophenylgroup),128.37(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),129.06(C6in3,4-dichlorophenylgroup),131.14(C5in3,4-dichlorophenylgroup),133.75,135.53,137.50,137.78,139.62,146.13,147.90,158.24.
【0108】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=516[M+Na]+,(negativemode);492[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC23H20Cl2NO5S[M-H]-:492.04447,found:492.04425(error0.45ppm).
【0109】
[製造例6:化合物(a1-6)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを4-(Trifluoromethyl)benzenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、(a1-6)を合成した。
【0110】
【0111】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-6)についての測定結果を以下に示す。
【0112】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.15(dd,2H,J=2.0,7.3,and15.3Hz,-CHCH2CH2N-),2.96(dd,2H,J=7.0and13.0Hz,-CHCH2CH2N-),3.77(s,3H,-OCH3),3.79(dd,1H,J=8.5Hz,-CHCH2CH2N-),4.45(t,1H,J=6.3Hz,-CHCH2CH2NH-),5.90(dd,2H,J=1.3and2.8Hz,-OCH2O-),6.58(d,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.59(dd,1H,J=2.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.69(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.80(ddd,2H,J=2.5and8.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.03(dd,2H,J=2.0and8.5Hz,H2andH4in4-methoxyphenylgroup),7.91(d,2H,J=8.0Hz,H3andH5in4-trifluoromethylphenylgroup),7.76(d,2H,J=8.5Hz,H2andH6in4-trifluoromethylphenylgroup).
【0113】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.64(-CHCH2CH2N-),41.85(-CHCH2CH2N-),47.03(-CHCH2CH2N-),55.25(-OCH3),100.97(-OCH2O-),107.87(C2inpiperonylgroup),108.25(C5inpiperonylgroup),114.07(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.41(C6inpiperonylgroup),123.21(d,1C,J=270.6Hz),C4in4-trifluoromethylphenylgroup),126.28(d,J=3.6Hz,C3andC5in4-trifluoromethylphenylgroup),127.57(C6in4-trifluoromethylphenylgroup),128.37(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),134.37(q,1C,J=33.0Hz,-(C6H4)CF3),135.57,1317.78,143.47,146.13,147.89,158.23.
【0114】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=516[M+Na]+,(negativemode);492[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC24H21F3NO5S[M-H]-:492.1098,found:492.1095(error0.61ppm).
【0115】
[製造例7:化合物(a1-7)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを4-Nitrobenzenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、(a1-7)を合成した。
【0116】
【0117】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.16(ddd,2H,J=2.1,6.9,and14.5Hz,-CHCH2CH2N-),2.98(dd,2H,J=6.8and13.3Hz,-CHCH2CH2N-),3.77(s,3H,-OCH3),3.79(td,1H,J=8.3and16.3Hz,-CHCH2CH2N-),4.56(t,1H,J=6.0Hz,-CHCH2CH2NH-),5.90(dd,2H,J=1.8and3.3Hz,-OCH2O-),6.54(d,1H,J=1.5Hz,H2inpiperonylgroup),6.60(dd,1H,J=1.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.69(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.80(dd,2H,J=2.0and9.0Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.03(ddd,2H,J=3.3and8.5Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),7.32(ddd,2H,J=2.2and9.3Hz,H3andH5in4-nitrophenylgroup),7.96(ddd,2H,J=2.0and9.0Hz,H2andH6in4-nitrophenylgroup).
【0118】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.53(-CHCH2CH2N-),41.85(-CHCH2CH2N-),46.94(-CHCH2CH2N-),55.25(-OCH3),101.01(-OCH2O-),107.79(C2inpiperonylgroup),108.27(C5inpiperonylgroup),114.03(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.35(C6inpiperonylgroup),124.37(C3andC5in4-nitrophenylgroup),128.27(C2andC6in4-nitrophenylgroup),128.32(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),135.44,137.60,145.56,146.11,147.85,149.96,158.20.
【0119】
DUIS-MS:(negativemode);m/z=469[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC23H21N2O7S[M-H]-:469.1075,found:469.1072(error0.64ppm).
【0120】
[製造例8:化合物(a1-8)の製造]
Benzenesulfonylchlorideを4-Chloro-3-(trifluoromethyl)benzenesulfonyl chlorideに変更した以外は、製造例1と同様にして、化合物(a1-8)を合成した。
【0121】
【0122】
1H-NMR、13C-NMR、DUIS-MS、HRMSによる、化合物(a1-8)についての測定結果を以下に示す。
【0123】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ2.17(dd,2H,J=7.0and13.5Hz,-CHCH2CH2N-),2.94(dd,2H,J=6.3and13.8Hz,-CHCH2CH2N-),3.77(s,3H,-OCH3),3.80(dd,1H,J=8.0Hz,-CHCH2CH2N-),4.55(t,1H,J=6.0Hz,-CHCH2CH2NH-),5.91(d,2H,J=1.0Hz,-OCH2O-),6.59(s,1H),6.61(dd,1H,J=1.5and8.0Hz,H6inpiperonylgroup),6.70(d,1H,J=8.0Hz,H5inpiperonylgroup),6.80(ddd,2H,J=2.5and9.5Hz,H3andH5in4-methoxyphenylgroup),7.04(ddd,2H,J=2.8and8.8Hz,H2andH6in4-methoxyphenylgroup),7.63(d,1H,J=8.0Hz,H5in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),7.87(dd,1H,J=2.0and8.0Hz,H6in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),8.11(d,1H,J=1.5Hz,H2in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup).
【0124】
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ35.52(-CHCH2CH2N-),41.86(-CHCH2CH2N-),46.97(-CHCH2CH2N-),55.23(-OCH3),100.99(-OCH2O-),107.80(C2inpiperonylgroup),108.25(C5inpiperonylgroup),114.03(C3andC5in4-methoxyphenylgroup),120.35(C6inpiperonylgroup),121.94(d,1C,J=271.8Hz,-CF3),126.39(d,J=5.9Hz,C2in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup)126.47(d,J=4.8Hz,C3in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),128.33(C2andC6in4-methoxyphenylgroup),129.31(q,J=32.3Hz,C4in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),131.26(C6in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),132.41(C5in3-Chloro-4-trifluoromethylphenylgroup),131.26,135.44,137.70,139.05,158.19.
【0125】
DUIS-MS:(positivemode);m/z=550[M+Na]+,(negativemode);526[M-H]-.
HRMS:(ESInegative);m/zcalc’dforC24H20ClF3NO5S[M-H]-:526.0708,found:526.0706(error0.38ppm).
【0126】
[比較例の化合物]
比較例の化合物として、化合物(b-1)を用意した。化合物(b-1)は、Koyama R et al.(Bioorganic & Medicinal Chemistry, June 2020, Vol. 28, no. 11, 115492)において、α-マンノシダーゼ阻害剤として報告されたAR525である。AR525は、Koyama R et al.において、α-マンノシダーゼ阻害剤として報告された化合物の中で、高いα-マンノシダーゼ阻害活性を示した化合物である。
【0127】
【0128】
<材料と方法>
実験例では、以下の細胞及び試薬を用いた。
ヒト卵巣癌由来細胞として、OVCAR-3(RIKEN Cell Bank Cell No.RCB2135)を用いた。
細胞培養用ウシ胎児血清として、Fetal Bovine Serum South(FBS,BioWest,S1810-500)を用いた。
抗生物質として、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(×100)(富士フィルム和光純薬株式会社(以下、Wako),168-23191)を用いた。
抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地は、RPMI1640培地(Sigma-Aldrich,500mL,R8758)にFBSを加えて作製した。
抗生物質含有10%FBS RPMI1640培地は、RPMI1640培地(Sigma-Aldrich,500mL,R8758)に、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(×100)を加えて作製した。得られた培地中の抗生物質の最終濃度は、ペニシリンGが100units/mL、ストレプトマイシン硫酸塩が100μg/mLであった。
細胞剥離液(PET)は、1×PBSに0.5w/v%Trypsin-5.3mmol/lEDTA・4NaSolutionwithoutPhenolRed(×10)(Wako,208-17251)を添加して作製した。
【0129】
細胞密度は、以下に示す方法により測定した。
細胞懸濁液10μLを分取し、パラフィルム上でトリパンブルー細胞染色液(TrypanBlueStain(0.4%)for use with the CountessTM Automated Cell Counter,Thermo Fisher Scientific,T10282)10μLと混和させた後、10μL分取し細胞数カウント用スライド(CountessTM cell counting chamber slides,Thermo Fisher Scientific,C10283)へ供し、カウンテス(CountessTMII自動セルカウンター,Thermo Fisher Scientific,AMQAX1000)により、細胞数と細胞生存率を確認した。
【0130】
[実験例1]
(細胞毒性評価)
以下に示す手順により、単層培養ヒト卵巣がん由来細胞(OVCAR-3細胞)を用いて、化合物(a1-1)~(a1-8)及び化合物(b-1)の細胞毒性を評価した。
【0131】
DMSOを用いて、化合物(a1-1)~(a1-8)(それぞれ5mM)、化合物(b-1)(5mM)を準備した。次いで、以下の手順により、OVCAR-3細胞を96ウェルプレートに播種した。
【0132】
OVCAR-3細胞を25cm2フラスコで7日間培養した。25cm2フラスコから抗生物質含有10%FBS RPMI1640培地をアスピレーターで除去した後、37℃に温めたPBS(-)2mLで3回洗浄した。そこへ、37℃に温めたPET2mLを加え、5分静置し、軽く振盪し細胞を剥離した。得られた液体に抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地2mLを加え、PET中のトリプシンを失活させた。得られた液体4mLを15mL容チューブに全量移し、3,000rpm、25℃で5分間遠心分離した(softbrakeを使用)。その後、上清を除去し、抗生物質不含RPMI1640培地1mLを加えて懸濁し、細胞懸濁液とした。
得られた細胞懸濁液の細胞密度(cells/mL)をカウンテスにより測定し、細胞密度を調整した。96ウェルプレート(CORNING,353072)の各ウェルへ、1ウェルあたりOVCAR-3細胞が1.0×104個となるように、細胞懸濁液100μLを加えた。次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。
【0133】
準備した化合物(a1-1)~(a1-8)(それぞれ5mM)、化合物(b-1)(5mM)を、抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地を用いて希釈した。この時、KIFの最終濃度は10μMであり、化合物(a1-1)~(a1-8)及び化合物(b-1)の最終濃度はそれぞれ50μMであった。
次いで、96ウェルプレートの各ウェル内の培地をアスピレーターで除去した後、各ウェルに、希釈した化合物(a1-1)~(a1-8)及び化合物(b-1)の溶液を100μLずつ加えた。
【0134】
次いで、細胞の呼吸量を測定するWST-8法に基づき、以下に示す手順により、細胞毒性の評価を行った。細胞毒性評価にはCellCountingKit-8(CCK-8,Wako,343-07623)を用いた。
96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した後、CCK-8溶液を各ウェルに10μLずつ加えた。CO2インキュベーター内に移して37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。そしてマイクロプレートリーダー(iMark,2009-231-0000496)で650nmの吸光度をリファレンス波長とし、450nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定値に基づき、細胞生存率を算出することにより、細胞毒性を評価した。結果を表1に示す。
【0135】
【0136】
化合物(b-1)を細胞に曝露した後の細胞生存率は1.2%であった。化合物(a1-1)~(a1-8)を細胞に24時間曝露した後の細胞生存率は52~100%であった。化合物(a1-1)~(a1-8)は、化合物(b-1)よりも、細胞毒性が顕著に低いことが確認された。
【0137】
[実験例2]
(GM阻害活性評価)
以下の手順により、GMI阻害剤であるキフネンシン(KIF)及びデオキシマンノジリマイシン(DMJ)、GMII阻害剤であるスワインソニン(SWA)及びマンノスタチン(ManA)、化合物(a1-1)~(a1-8)を接触させた細胞について、蛍光標識コンカナバリン(Con-A)及び蛍光標識スノードロップレクチン(SDL)を用いて、細胞におけるHM型糖鎖の局在を観察した。
【0138】
Concanavalin A Alexa Fluor 488 C onjugate(Con-A、Life Technologies、C11252)をPBSに溶解させて、Con-A Alexa Fluor 488 溶液(25μg/mL)を得た。5mg/mL SDL FITC溶液( Vector La boratories、FL-1181)をPBSで希釈して、SDL FITC溶液(25μg/mL)を得た。
【0139】
OVCAR-3細胞を75cm2のフラスコで3-4日間培養した。フラスコ内の培地を抜き、37度に温めた1×PBS(-)6mLで3回洗浄した。37度に温めたPET6mLで細胞を速やかにはがした。37度に温めた抗生物質不含RPMI培地を6mL加えた。細胞懸濁液を15mL容チューブに移し、遠心(室温、3000rpm、5min)した。上清を除き、37度に温めた抗生物質不含RPMI培地を1mL入れて懸濁し、カウンテスで懸濁液中の生細胞数を測定し、細胞密度を調整した。
6ウェルプレート(SigmaAldrich製、SIAL0516)にポリリジンコートカバーガラス(松浪硝子工業株式会社、C1210)を1枚ずつ各ウェル入れた。次いで、6ウェルプレートへ、1ウェルあたりOVCAR-3細胞が9.0×104個(cells/ウェル)となるように細胞懸濁液を1mLずつ加えた。次いで、6ウェルプレートをCO2インキュベーター内で72時間培養した。
【0140】
72時間培養後、6ウェルプレートのウェル内の培地をアスピレーターで除去し、各ウェルに37度に温めた抗生物質不含培地を1mLずつ加えた。終濃度が100μMとなるように、KIF,DMJ,SWA又はManA溶液をそれぞれ各ウェルに添加した。また、終濃度が25μMとなるように、化合物(a1-1)~(a1-8)をそれぞれ各ウェルに添加した。
【0141】
次いで、CO2インキュベーター内で72時間培養した後、ウェルの培地をアスピレーターで除去し、PBSで洗浄した。すべてのウェルのカバーガラスの細胞を培養した面を上にして、PBS1mLが入ったフラットシャーレ(ASONE、1-4564-01、FS-30、φ32×15mm)6枚に移した。シャーレに-20℃に冷却したメタノール(Wako、131-01826)-アセトン(Wako、016-00346)(1:1)混液1mLを加え-20℃で20分間静置した。シャーレのメタノール-アセトン混液をパスツールピペットで除去し後、PBSで洗浄した。
【0142】
シャーレに25μg/mL ConA AlexaFluor488溶液、又は、25μg/mL SDL FITCを1mLずつ加え、室温で15分間静置した。次いで、シャーレ内の各溶液をアスピレーターで除去した後、PBSで洗浄した。
【0143】
封入剤(ibidiMountingMedium,No.50001)を1滴滴下したスライドガラス(松浪硝子工業株式会社、S0317)上に、カバーグラスの細胞播種面を下にして載せ、硬質トップコート(コージー本舗、ネイリスト、JAN:4972915068290)を用いて、カバーガラスをスライドガラス上に固定し、5分間風乾した。
【0144】
共焦点レーザー顕微鏡(TCS SP8 LIGHTNING、Leica社)を用いて、得られた蛍光染色細胞の蛍光観察を行った。結果を
図1、2に示す。
【0145】
ネガティブコントロールであるDMSO処理細胞のCon-A染色では、ゴルジ体が染色された。DMSO処理細胞のSDL染色では、ゴルジ体がわずかに染色された。
【0146】
GMI阻害剤であるKIF及びDMJ処理細胞のCon-A染色では、ゴルジ体に加えて、細胞質及び細胞表面の細胞全体が染色された。KIF及びDMJ処理細胞のSDL染色では、ゴルジ体に粒状感を伴った染色が確認された。
【0147】
GMII阻害剤であるSWA及びManA処理細胞のCon-A染色では、核周辺に粒状感のある染色が確認され、細胞質及び細胞表面の細胞全体が染色された。
SWA及びManA処理細胞のSDL染色では、ゴルジ体に加えて、細胞質を含め細胞全体に粒状感を伴う染色が確認された。
【0148】
化合物(a1-1)~(a1-8)のいずれかを接触させた細胞のCon-A染色では、既知のGMI阻害剤と同様に、ゴルジ体に加えて、細胞質及び細胞表面の細胞全体が染色された。この結果は、化合物(a1-1)~(a1-8)がGMIを阻害することを示唆している。
化合物(a1-1)~(a1-8)のいずれかを接触させた細胞のSDL染色では、既知のGMI阻害剤を用いた場合よりも広範囲で染色が認められるか、あるいは、GMII阻害剤を用いた場合と同様の染色が認められた。この結果は、化合物(a1-1)~(a1-8)がGMIIを阻害することを示唆している。
【0149】
[実験例3]
(スフェロイド崩壊活性評価)
以下に示す手順により、GMI阻害剤であるKIF及びDMJ、GMII阻害剤であるSWA及びManA、並びに、化合物(a1-1)~(a1-8)について、スフェロイド(SPH)の崩壊活性を評価した。
【0150】
まず、DMSOを用いて、KIF(2mM)、DMJ(20mM)、SWA(20mM)、ManA(20mM)、化合物(a1-1)~(a1-8)(それぞれ5mM)を準備した。
次いで、次の手順により、アガロース添加プレートを作製した。アガロース(ロンザ株式会社,50071)60mgを薬包紙に量り取り、安全キャビネット内で50mL容チューブに加え、PBS(-)8mLを加えた。この50mL容チューブを水の入った250mL容ビーカーに入れ、電子レンジで10秒間加熱し、取り出して攪拌する操作をアガロースがPBSに溶解し透明になるまで繰り返し、0.75%(w/v)アガロース溶液を作製した。その溶液を安全キャビネット内にてリザーバーに分注し、8chピペットで96ウェルプレートへ50μLずつ加え、アガロースが固まるまで静置した。
【0151】
OVCAR-3細胞を25cm2または75cm2フラスコで7日間培養した。25cm2または75cm2フラスコから抗生物質含有10%FBS RPMI1640培地をアスピレーターで除去した後、37℃に温めたPBS(-)2mLまたは6mLで3回洗浄した。そこへ、37℃に温めたPET2mLまたは6mLを加え、5分静置し、軽く振盪し細胞を剥離した。得られた液体に抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地2mLまたは6mLを加え、PET中のトリプシンを失活させた。得られた液体4mLまたは12mLを15mL容チューブに全量移し、3,000rpm、25℃で5分間遠心分離した。その後、上清を除去し、抗生物質不含RPMI1640培地1mLを加えて懸濁し、細胞懸濁液とした。得られた細胞懸濁液の細胞密度(cells/mL)をカウンテスにより測定し、細胞密度を調整した。96ウェルプレート(CORNING,353072)の各ウェルへ、1ウェルあたりOVCAR-3細胞が5.0×103個となるように、細胞懸濁液を15mL容チューブへ調製した。
【0152】
準備したKIF(2mM)、DMJ(20mM)、SWA(20mM)、ManA(20mM)、化合物(a1-1)~(a1-8)(それぞれ5mM)、ネガティブコントロールのDMSOを4.5μLずつ分取し、細胞懸濁液900μLに加え、転倒撹拌した。このとき、最終濃度はそれぞれ、KIFは10μM、DMJ、SWA及びManAは100μM、化合物(a1-1)~(a1-8)は25μMであった。
化合物を添加した細胞懸濁液をアガロース添加プレートへ150μLずつ加えた。
その後CO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で培養し、1、3日間培養後の細胞の形態を倒立顕微鏡により観察し、その写真を撮影した。さらに、培養3日目のスフェロイドの倒立顕微鏡による観察および写真撮影後、各ウェルの培地をマイクロピペット(NICHIRYO,NichipetPremiumLT,00-NLT-200)のメモリを100μLにあわせ、3秒に1回程度の頻度で優しく10回ピペッティングを行い、5分間静置した。その後、倒立顕微鏡により細胞の形態を観察し、その写真を撮影した。
【0153】
結果を
図3に示す。
図3中、SPHの崩壊活性は、KIFを基準として崩壊度の度合いを+で表した。崩壊が確認できなかった阻害剤は「none」、KIFと同程度の崩壊を示した阻害剤は「+」、KIFよりも崩壊し、SPHの周囲に細胞が散らばっているのを確認できた阻害剤は「++」、細胞接着が弱まっており、SPHの原型をとどめていなかった阻害剤は「+++」で表した。
図3中、「PT後」は、培養3日目のスフェロイドをピペッティングした後の観察結果を意味する。
【0154】
その結果、GMI阻害剤であるKIF及びDMJではSPH崩壊活性が認められたが、GMII阻害剤であるSWA及びManAではSPH崩壊活性が認められなかった。化合物(a1-1)~(a1-7)はKIFよりも強いSPH崩壊活性を示すことが確認され、化合物(a1-8)はKIFと同程度のSPH崩壊活性を示すことが確認された。化合物(a1-1)~(a1-8)は、GMIを阻害することにより、SPHを崩壊させることが示唆された。
【0155】
[実験例4]
(薬剤耐性の回避の評価)
以下に示す手順により、単層培養OVCAR-3細胞とOVCAR-3細胞オルガノイドについて、抗癌剤であるドキソルビシン(DOX)の効果を比較した。さらに、化合物(a1-1)~(a1-7)について、細胞オルガノイドにおける薬剤耐性の回避を評価した。
【0156】
単層培養OVCAR-3細胞に対する、DOXの効果は、次のように評価した。
OVCAR-3細胞を25cm2フラスコで7日間培養した。25cm2フラスコから抗生物質含有10%FBS RPMI1640培地をアスピレーターで除去した後、37℃に温めたPBS(-)2mLで3回洗浄した。そこへ、37℃に温めたPET2mLを加え、5分静置し、軽く振盪し細胞を剥離した。得られた液体に抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地2mLを加え、PET中のトリプシンを失活させた。得られた液体4mLを15mL容チューブに全量移し、3,000rpm、25℃で5分間遠心分離した。その後、上清を除去し、抗生物質不含RPMI1640培地1mLを加えて懸濁し、細胞懸濁液とした。
得られた細胞懸濁液の細胞密度(cells/mL)をカウンテスにより測定し、細胞密度を調整した。96ウェルプレート(CORNING,353072)の各ウェルへ、1ウェルあたりOVCAR-3細胞が1.0×104個となるように、細胞懸濁液100μLを加えた。次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。
【0157】
DMSOを用いて、DOX溶液(0.02,0.1,0.2,1,2mM)を準備した。準備した各濃度のDOX溶液を抗生物質不含10%FBS RPMI1640で希釈した。DOXの最終濃度は、0.1,0.5,1,5,10μMであった。
次いで、96ウェルプレートの各ウェル内の培地をアスピレーターで除去した後、各ウェルに、希釈した各DOX溶液を100μLずつ加えた。
【0158】
96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で72時間培養した後、CCK-8溶液を各ウェルに10μLずつ加えた。次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。そしてマイクロプレートリーダー(iMark,2009-231-0000496)で650nmの吸光度をリファレンス波長とし、450nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定値に基づき、細胞生存率を算出した。
【0159】
算出した細胞生存率から、単層培養OVCAR-3細胞におけるDOXの50% cytotoxic concentration(CC50)は0.33μMであることが確認された。
【0160】
以下に示す手順により、OVCAR-3細胞オルガノイドを作製した。
OVCAR-3細胞を2個の75cm2フラスコで7日間培養した。75cm2フラスコから抗生物質含有10%FBS RPMI1640培地をアスピレーターで除去した後、37℃に温めたPBS(-)6mLで3回洗浄した。そこへ、37℃に温めたPETを6mL加え、5分静置し、軽く振盪し細胞を剥離した。得られた液体に抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地6mLを加え、PET中のトリプシンを失活させた。得られた液体24mLを50mL容チューブに全量移し、3,000rpm、25℃で5分間遠心分離した。その後、上清を除去し、抗生物質不含RPMI1640培地1mLを加えて懸濁し、細胞懸濁液とした。
得られた細胞懸濁液の細胞密度(cells/mL)をカウンテスにより測定し、細胞密度を調整した。Cellbed96ウェルプレート(日本バイリーン株式会社,CB-96WT1)へ、1ウェルあたりOVCAR-3細胞が1.0×105個(cells/ウェル)となるように細胞懸濁液を200μLずつ加えた。
【0161】
次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で2日おき(培養2・4日目)に培地交換をしつつ6日間培養し、OVCAR-3細胞オルガノイドを作製した。なお、培地交換の際は、ウェルの底面に接着されているCellbedをアスピレーターまたはピペットのチップの先で傷つけないようにチップの先をウェルの壁面に沿わせ、底面のCellbed内の溶液を吸い過ぎ乾燥しないようにしながら、吸引力の弱い卓上アスピレーター(BIOSANLTD.,BS-040108-AAK)にて培地を除去した後に培地を添加した。
【0162】
DMSOを用いて、DOX溶液(0.02,0.1,0.2,1,2mM)を準備した。準備した各濃度のDOX溶液を抗生物質不含10%FBSで希釈した。DOXの最終濃度は、0.1,0.5,1,5,10μMであった。
培養開始から6日目に、96ウェルプレートの各ウェル内の培地をアスピレーターで除去した後、各ウェルに、希釈した各DOX溶液を200μLずつ加えた。37℃、5%CO2の条件下で72時間、培養した。
【0163】
CCK-8溶液と抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地を混合し、WST-8溶液(CCK-8溶液:抗生物質不含10%FBS RPMI1640培地=1:9)を調製した。DOX投与から72時間後に、アスピレーターで96ウェルプレートの各ウェル内の培地を除去し、WST-8溶液を各ウェルに200μLずつ加えた。次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。
培養上清を96ウェルプレート(ThermoScientific,260860)へ100μLずつ分取し、マイクロプレートリーダー(iMark,2009-231-0000496)で650nmの吸光度をリファレンス波長とし、450nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定値に基づき、細胞生存率を算出した。
【0164】
算出した細胞生存率から、OVCAR-3細胞オルガノイドにおける、DOXのCC50は4.53μMであることが確認された。
【0165】
DMSOを用いて、DOX溶液(0.04,0.2,0.4,2,4mM)、KIF(4mM)、化合物(a1-1)~(a1-7)(10mM)を準備し、これらを抗生物質不含10%FBS RPMI1640で希釈した。
各溶液中、DOXの最終濃度は、0.1,0.5,1,5,10μMであった。各溶液は、KIF(最終濃度10μM)、あるいは、化合物(a1-1)~(a1-7)(最終濃度25μM)のいずれかを含有するように調製した。
培養開始から6日目に、96ウェルプレートの各ウェル内の培地をアスピレーターで除去した後、各ウェルに、希釈した各DOX溶液を200μLずつ加えた。37°C、5%CO2の条件下で72時間、培養した。
【0166】
DOX並びにKIF又は化合物(a1-1)~(a1-7)の投与から72時間後に、アスピレーターで96ウェルプレートの各ウェル内の培地を除去し、WST-8溶液を各ウェルに200μLずつ加えた。次いで、96ウェルプレートをCO2インキュベーター内に移し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。
培養上清を96ウェルプレートへ100μLずつ分取し、マイクロプレートリーダーで650nmの吸光度をリファレンス波長とし、450nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定値に基づき、細胞生存率を算出した。さらに、抗癌剤DOXの削減率を以下の式により算出した。結果を表2に示す。
(抗癌剤DOXの削減率)=100-(KIF又は化合物(a1-1)~(a1-7)を投与した場合のCC50)/(KIF又は化合物(a1-1)~(a1-7)を投与しない場合のCC50)
KIF又は化合物(a1-1)~(a1-7)を投与しない場合のCC50は、4.53μMである。
【0167】
【0168】
化合物(a1-1)~(a1-7)を用いた場合、化合物(a1-1)~(a1-7)を用いない場合に比べて、CC50が低減できることが明らかになった。また、化合物(a1-1)~(a1-7)を用いた場合、DOXの使用量を23~57%削減しても、同等の効果が得られることが明らかになった。
本発明によれば、腫瘍細胞同士の接着を抑制でき、細胞毒性が低減された化合物、その化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、腫瘍崩壊剤、及び、その腫瘍崩壊剤を含む医薬組成物を提供することができる。
本発明は、癌の治療に好適に利用可能である。