(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158504
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】採血装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/15 20060101AFI20241031BHJP
A61B 5/151 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61B5/15 200
A61B5/151 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073751
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】関口 敏
(72)【発明者】
【氏名】廣川 万莉
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038UE03
4C038UE05
4C038UE07
4C038UE09
4C038UJ06
(57)【要約】
【課題】被検体から少量の血液を迅速に採取することができる採血装置を提供する。
【解決手段】中空の本体部2と本体部2の開口部5b近傍に配された吸着部4と、本体部2に内蔵された穿刺部9とを備え、穿刺部9は所定の操作によって吸着部4を刺通して開口部5bより外方に突出される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の本体部と、該本体部の開口部近傍に配された吸着部と、前記本体部に内蔵された穿刺部とを備え、
前記穿刺部は、所定の操作によって前記吸着部を刺通して前記開口部より外方に突出されることを特徴とする採血装置。
【請求項2】
前記穿刺部を前記開口部から退避させる方向に付勢する付勢手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の採血装置。
【請求項3】
前記吸着部は、前記本体部に内蔵されていることを特徴とする請求項1に記載の採血装置。
【請求項4】
前記吸着部は、前記開口部を閉塞するように固定されていることを特徴とする請求項3に記載の採血装置。
【請求項5】
前記本体部は、中空筒状の胴部と、該胴部に着脱自在に装着され前記開口部と前記吸着部とを備える先端部材と、から構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の採血装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から少量の血液を採取するのに用いられる採血装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、感染症診断や新生児の遺伝性疾患のスクリーニング検査として、獣医療分野においても、動物の健康観察等を目的として、生体から少量の血液を採取することが行われている。生体である被検体から少量の血液を採取する場合には、乾燥血液スポット法が主に採用されている。この乾燥血液スポット法は、まず被検体の穿刺部を消毒後、専用の穿刺針で創傷を形成し、次に穿刺部を圧迫して血液を絞り出し、絞り出した血液を濾紙等の吸着材に含浸させることで採取する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-29112号公報(第9頁、第1A図,第1B図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に示すような乾燥血液スポット法にあっては、手指等から少量の血液を吸着材に含浸させるという低侵襲な採血方法であり、かつ採血管を使わずに採血量が少量で済むという点から、検体の収集や搬送及び保存が簡便である。しかしながら、従来の乾燥血液スポット法にあっては、穿刺針による穿刺と吸着材による血液の採取の2つの工程を要し、更にこれら穿刺と血液の採取には別々の器具が必要になり、採血作業に時間と手間がかかるという問題があった。特に獣医療分野では、採血中に動物が動かないように動物を一定時間保定しなければならず、採血作業には迅速性が求められるが、このような従来の乾燥血液スポット法では、十分な迅速性を達成することができなかった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、被検体から少量の血液を迅速に採取することができる採血装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の採血装置は、
中空の本体部と、該本体部の開口部近傍に配された吸着部と、前記本体部に内蔵された穿刺部とを備え、
前記穿刺部は、所定の操作によって前記吸着部を刺通して前記開口部より外方に突出されることを特徴としている。
この特徴によれば、開口部から外方に突出される穿刺部を被検体の体表に穿刺させ、本体部の開口部近傍にて穿刺部の動作軌道上に配された吸着部により、被検体から出血した血液を直ちに採取することができる。そのため、採血作業を迅速に完了することができ、採血作業の煩雑さと労力を軽減することができる。
【0007】
前記穿刺部を前記開口部から退避させる方向に付勢する付勢手段を更に備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、被検体の体表に穿刺させた穿刺部が付勢手段により本体部内に退避され、安全性に優れる。
【0008】
前記吸着部は、前記本体部に内蔵されていることを特徴としている。
この特徴によれば、吸着部を清潔に保つことができる。
【0009】
前記吸着部は、前記開口部を閉塞するように固定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、吸着部を突き破って本体部の外方に突出した穿刺部は、退避時に被検体の血液を吸着部まで移動させることができ、採血作業を迅速に完了させることができる。
【0010】
前記本体部は、中空筒状の胴部と、該胴部に着脱自在に装着され前記開口部と前記吸着部とを備える先端部材と、から構成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、胴部から吸着部を備える先端部材を分離することで、胴部側を使い回すことができるとともに、吸着部は先端部材ごと取り扱うことができ、清潔を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1における採血装置を示す断面図である。
【
図2】胴部とチップとを分離した状態を示す図である。
【
図4】(a)は、穿刺部が吸着部を刺通した状態を示す図であり、(b)は、吸着部に形成された穿孔を示す図である。
【
図5】生体の体表に形成された創傷から滲み出た血液を吸着部によって採取する様子を示す図である。
【
図6】(a)~(c)は、穿刺部に血液が一部保持されて吸着部まで運ばれる様子を示す図である。
【
図7】胴部から分離したチップを容器に入れる様子を示す図である。
【
図8】本発明の実施例2における採血装置を示す断面図である。
【
図9】チップを胴部から取り外す取外器具を示す図であり、(a)は、側面図であり(b)は、平面図である。
【
図10】(a),(b)は、取外器具を用いてチップを胴部から取り外す手順を示す図である。
【
図11】(a)は、台に保持された穿刺部を杆部材に装着する様子を示す図であり、(b)は、台に保持されたチップを胴部に装着する様子を示す図である。
【
図12】本発明の実施例3における採血装置を示す断面図である。
【
図13】エジェクタを操作してチップを胴部から取り外した様子を示す図である。
【
図14】本発明の実施例4における採血装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る採血装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0013】
実施例1に係る採血装置につき、
図1から
図7を参照して説明する。
【0014】
本実施例において採血装置は、例えば生育される家畜の健康状態の管理を目的とした採血に利用され、生体から少量の血液を採取することができる採血装置として説明する。尚、この採血装置は家畜に限らず、野生動物や人間の血液を採取することに用いることができる。
【0015】
図1に示されるように、採血装置1は、中空の本体部2と、本体部2の中空空間に挿通されて配置される杆状の作動部3と、血液を吸着できる吸着部4とを備えている。
【0016】
本体部2は、長手方向の両端に開口を有する中空円筒状の胴部5と、長手方向に貫通する中空空間を有しており、一方の開口部6aが他方の開口部6bに比べて大径である略砲弾形状の先端部であるチップ6とから構成されている。胴部5は長手方向の後端側に小径部5aを有し、長手方向の先端側にテーパ状の案内部5bを有している。
【0017】
作動部3は、長手方向の後端側に操作部7を有する棒状の杆部材8と、杆部材8の長手方向の先端側に取り付けられた穿刺部9とを有している。杆部材8は操作部7側に段部8aを備え、段部8aと胴部5の小径部5aとの間に付勢手段であるバネ10が配置されている。杆部材8はバネ10の付勢力により後方に向けて付勢されている。
【0018】
段部8aは胴部5の小径部5aよりも大径であるため、段部8aが小径部5aを越えることがない。操作時に、作動部3は、バネ10の付勢力に抗して移動するが、後述する作動部3の突出方向への移動範囲が規定されている(
図3参照)。尚、ここでは図示しない規制手段により作動部3の後方側の移動範囲が規定されており、作動部3と本体部2との分離が防止されている。
【0019】
穿刺部9は、杆部材8の移動方向つまり軸方向に平行に延設されている。本実施例の図では機能を理解しやすくするために、円錐形に示しているが、実際には最も大径の部分の直径が1mm以下の針状である。穿刺部9は、バネ10の付勢力によって作動部3が最も後方まで移動された初期位置において、胴部5の案内部5bの内側まで後退するようになっている。
【0020】
チップ6は、大径である一方の開口部6aが胴部5の案内部5b側の端部に外嵌して胴部5に取り付けられる。吸着部4は、チップ6の小径である他方の開口部6bの近傍にて、チップ6の内側に取り付けられている。
【0021】
吸着部4は、綿を押し固めて形成されたディスク形状であり、チップ6の小径の開口部6bよりわずかに大径に形成されており、チップ6の内側のテーパ面6cに圧入されて保持されている。吸着部4は、胴部5の案内部5b及び初期位置にある穿刺部9よりも先端側に位置している。
【0022】
続いて、採血装置1を使った採血手順について説明する。利用者は、主に片手で採血装置1の胴部5を把持して利用する。このとき、親指側に操作部7が位置するように把持し、親指を上方から操作部7にかける。操作部7がバネ10の付勢力に抗して押し下げられると、杆部材8の移動に伴い穿刺部9が先端方向に押し出され、吸着部4を刺通してチップ6の先端側の開口部6bから突出する(
図3参照)。
【0023】
このとき、穿刺部9は、胴部5のテーパ状の案内部5bの内面に案内されて正確に同軸方向に位置する吸着部4の中央に向けて移動する。
【0024】
図4(a)は、穿刺部9が先端方向に押し出され、吸着部4を刺通した状態を示し、
図4(b)は、バネ10の付勢力により作動部3が初期位置に復帰した状態を示す。利用者は、チップ6を生体の体表BS(
図5参照)に押し当て、操作部7を押し下げて穿刺部9を刺した後に、操作部7から親指を離す。
【0025】
チップ6の開口部6bの円形の縁部により体表BSが圧迫されることで、この開口部6bの内側において血液の圧力が高められ、穿刺部9を刺した際に、創傷から一時的に迅速に出血されやすくなる。尚、体表の状況に応じてチップ6を体表に押し当てず、近接させた状態で操作部7を押し下げてもよい。
【0026】
利用者が操作部7から親指を離すなどして操作部7にかけられた力にバネ10の付勢力が勝ると、穿刺部9が初期位置方向に戻り、
図4(b)に示されるように吸着部4には穿孔Hが残る。この穿孔Hは、穿刺部9が吸着部4を構成する綿の繊維をかき分けて形成した微細な孔であり、綿の繊維が元の形状に一部戻ることで、穿刺部9の直径よりも小さい孔径となる。
【0027】
図5に示されるように、穿刺部9が刺さった場所には創傷Woが形成され、体表に血液が滲み出て液滴が形成される。生体の体表BSに近接または押し当てられたチップ6の開口部6bの後方近傍には吸着部4が存在するため、この吸着部4に血液の液滴が接触することで、血液が吸着部4に含浸・吸着される。
【0028】
また、
図6(a)~(c)に示されるように、創傷Woから滲み出た血液は、表面張力によって穿刺部9に微量に保持される。そして、バネ10の付勢力による初期位置方向への移動中、穿刺部9が吸着部4の穿孔Hを通過する際に、穿刺部9に保持された血液は吸着部4に吸着される。
【0029】
チップ6は胴部5と分離可能であるため、
図7に示されるように、血液の採取が完了したチップ6は、そのままマイクロチューブCなどの容器に格納することができる。また、チップ6は、先端が先細る形状となっているマイクロチューブCと同様に、先端が先細る形状であり、マイクロチューブCのテーパ状の内面に案内されて移動が規制される。尚、吸着部4はチップ6の内側に位置するため、マイクロチューブCとの内面に接触しない。
【0030】
以上説明したように、本実施例の採血装置1は、中空の本体部2と、本体部2の開口部6b近傍に配された吸着部4と、本体部2に内蔵された穿刺部9とを備え、穿刺部9は所定の操作によって吸着部4を刺通して開口部6bより外方に突出されるようになっている。これによれば、開口部6bから外方に突出される穿刺部9を被検体の体表BSに穿刺させ、本体部2の開口部6b近傍にて穿刺部9の動作軌道上に配された吸着部4により、被検体から出血した血液を直ちに採取することができる。そのため、採血作業を迅速に完了することができ、採血作業の煩雑さと労力の軽減、並びにアニマルウェルフェアの観点でも大いに有用となる。
【0031】
また、穿刺部9を開口部6bから退避させる方向に付勢するバネ10(付勢手段)を更に備えてため、被検体の体表BSに穿刺させた穿刺部9がバネ10により本体部2内に退避され、安全性に優れる。
【0032】
また、吸着部4は本体部2に内蔵されて外部に露出していないため清潔に保つことができ、夾雑物などが、その後の検査精度に影響しにくい。
【0033】
また、吸着部4は、開口部6bを閉塞するように固定されているため、吸着部4を突き破って本体部2の外方に突出した穿刺部9は、退避時に被検体の血液を吸着部4まで移動させることができ、採血作業を迅速に完了させることができる。
【0034】
また、チップ6を胴部5と分離することで、吸着部4がチップ6に保護された状態で検査に回すことができ、清潔を保つことができる。
【0035】
また、穿刺部9はバネ10により吸着部4より後方まで復帰されるようになっており、吸着部4による血液の採取時に穿刺部9が突出せず、安全性に優れる。加えて穿刺部9の初期位置が吸着部4より後方であるため、採血作業を開始する以前に穿刺部9が吸着部4に損傷を与えることがなく、吸着部4の吸着性能を維持することができる。
このように、本体部2を構成する胴部25と吸着部4が固定されたチップ6とは、互いに着脱自在に連結されるようにすることで、胴部25側の部材を使い回すことができる。