(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158513
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム及びその生産方法
(51)【国際特許分類】
B01D 9/02 20060101AFI20241031BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01D9/02 601C
B01D9/02 602E
B01D9/02 603D
B01D9/02 605
B01D9/02 604
B01D9/02 608B
B01D9/02 609A
B01D9/02 613
B01D9/02 615Z
B01D9/02 625C
B01D9/02 625E
B01D9/02 625Z
C01B25/45 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073769
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金澤 推
(72)【発明者】
【氏名】山田 武彦
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
(72)【発明者】
【氏名】ギッチャーヌギット サンティサック
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 智弘
(57)【要約】
【課題】晶析反応槽の運転条件を、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に適合させることが可能で、これによりリンの生産効率を安定的に向上させることが可能なリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム及びリン酸マグネシウムアンモニウムの生産方法を提供する。
【解決手段】リンを含む投入汚泥を、リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液中で混合することにより、晶析反応液中にMAP粒子を晶析させる反応槽と、反応槽内へマグネシウムを含む薬剤を供給する薬剤供給装置と、MAP粒子を含む晶析反応液を反応槽内から引き抜く引抜装置と、晶析反応液からMAP粒子を分離する分離装置と、分離装置で分離されたMAP粒子を貯留し、洗浄する洗浄装置と、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定可能な測定装置とを備えるリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含む投入汚泥を、リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液中で混合することにより、前記晶析反応液中にMAP粒子を晶析させる反応槽と、
前記反応槽内へマグネシウムを含む薬剤を供給する薬剤供給装置と、
前記MAP粒子を含む前記晶析反応液を前記反応槽内から引き抜く引抜装置と、
前記晶析反応液から前記MAP粒子を分離する分離装置と、
前記分離装置で分離された前記MAP粒子を貯留し、洗浄する洗浄装置と、
前記投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定可能な測定装置と
を備えるリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項2】
前記測定装置が、前記投入汚泥のリン酸濃度を自動測定するリン酸濃度測定装置を含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項3】
前記測定装置が、前記洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定することにより前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量を測定する画像判定装置を含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項4】
前記測定装置が、前記洗浄装置の重量を測定することにより、前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量を測定する重量測定装置を含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項5】
前記測定装置が、前記洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを超音波を用いて測定することにより、前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量を測定する超音波測定装置を含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項6】
前記測定装置が、前記洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定する画像判定装置と、前記洗浄装置の重量を測定する重量測定装置とにより、前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量を測定することを含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項7】
前記測定装置が、前記反応槽内の所定時間におけるpHの変化を測定するpH変化測定装置を含む請求項1に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項8】
前記測定装置の測定結果に基づいて、前記反応槽内の前記晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように、前記薬剤供給装置から供給される前記薬剤の供給量を制御する薬剤供給制御部を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項9】
前記測定装置の測定結果に基づいて、前記引抜装置による前記晶析反応液の引抜量又は引抜頻度の少なくとも何れかを制御する引抜制御部を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項10】
前記洗浄装置内に貯留されるMAP粒子層上に堆積する不純物層の貯留量に基づいて、前記洗浄装置内に供給する洗浄液の流量又は時間の少なくともいずれかを制御する洗浄制御部を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項11】
前記洗浄装置内の前記MAP粒子を前記洗浄装置外へ移送する移送装置と、
前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量を測定する前記測定装置の測定結果に基づいて、前記移送装置による前記MAP粒子の移送量又は移送頻度の少なくともいずれかを制御する移送制御部を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項12】
前記反応槽内のpHと、前記洗浄装置内の前記MAP粒子の貯留量の測定結果とに基づいて、将来の前記反応槽内の前記晶析反応液中の種結晶濃度を予測する種結晶濃度予測部と、
前記種結晶濃度予測部の予測結果に基づいて、将来の前記反応槽内の前記晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように前記薬剤の供給量を予測するMg/P比予測部と
を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項13】
前記MAP粒子の生産量の情報を含むMAP粒子生産計画情報を取得する情報取得部と、
前記MAP粒子生産計画情報に基づいて、前記晶析反応液中のMg/P比、前記晶析反応液の前記反応槽からの引抜量又は引抜頻度又は投入汚泥流量の少なくともいずれかの運転条件を決定する運転条件決定部と
を更に備える請求項1~7のいずれか1項に記載のリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム。
【請求項14】
リンを含む投入汚泥を、リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液を収容した反応槽中で混合することにより前記晶析反応液中にMAP粒子を晶析させ、
前記MAP粒子を含む前記晶析反応液を前記反応槽内から抜き出して前記晶析反応液から前記MAP粒子を分離し、分離した前記MAP粒子を洗浄装置へ導入して洗浄処理し、洗浄処理後の前記MAP粒子を移送して回収することを含み、
前記投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定し、測定結果に基づいて、前記反応槽内へ供給するマグネシウムを含む薬剤の供給量、前記晶析反応液の前記反応槽からの引抜量又は引抜頻度の少なくともいずれかを制御することと
を含むことを特徴とするリン酸マグネシウムアンモニウムの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の生成システム及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的なリン資源の枯渇に伴い、下水、排水、し尿等からのリン回収に再注目が集まっている。例えば、下水処理では生物学的リン除去法が広く用いられている。生物学的リン除去法は、ポリリン酸蓄積細菌(PAOs)と呼ばれる微生物の働きを活用し、反応タンク内において下水中からPAOsの体内にリンを取り込ませ、余剰汚泥として水処理系から引き抜くことで、下水中からリンを除去する。しかしながら、PAOsは、その後の消化槽等で体内に取り込んだリンを放出してしまう。また、汚泥中のタンパク質等の分解に伴い、アンモニアが多く発生することから、消化汚泥中にはリンとアンモニアが豊富に含まれる。そのため、多くの処理場では、リン、アンモニア、マグネシウムとから生成されるMAP結晶による機器や配管のスケールトラブルが課題となっている。
【0003】
リンやアンモニアを含む汚泥に対してマグネシウムを含む薬品を添加し適切なpHに調整することで、汚泥中に含まれるリンをMAP結晶として除去及び回収する技術が開発されている。例えば、特開2004-941号公報には、し尿や浄化槽汚泥の脱水脱離液、汚泥の消化液、化学工業排水などの高濃度の有機物、リン及び窒素を含有する廃水から、リンをMAP結晶として回収する方法が記載されている。特開2013-718号公報には、リン分離工程と汚泥減量化工程とを組み合わせて嫌気性消化タンクから排出された消化汚泥中のリン成分の分離又は回収の高効率化を図るための方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-941号公報
【特許文献2】特開2013-718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に示される方法はいずれも汚泥中に溶存態イオンとして存在しているリンだけではなく、消化槽等で自然発生したMAP等も回収することができる点で有用である。消化汚泥等から直接、MAP結晶を回収することから、後段の脱水設備におけるMAPスケールトラブルも低減できるという大きなメリットもある。
【0006】
しかしながら、特許文献1は、いわば消化槽そのものをMAP晶析反応槽に見立ててMg供給量やMAP種晶量の管理を行う方式である。そのため、通常30日程度の滞留時間を有する数千m3の大容量となる消化槽内で、投入Mg源を迅速に分散させ、MAP種晶を均一に流動させるための攪拌動力が大きくなる。
【0007】
特許文献2では、液体サイクロンのような物理的分級装置において下水汚泥中のMAP粒子の分離を行っているが、粒径1μm以下の微細MAP粒子は、簡単に分離することが難しい。そのため、特許文献2では、汚泥減量化工程/pH調整工程において、希硫酸等の酸を添加して汚泥中に混在する微細MAP粒子を溶解させ、その溶解液を含む脱水ろ液を再びMAP反応槽でMAP晶析させている。しかしながら、現時点において日本では、下水汚泥に薬剤を添加して酸性に調整した後にMAP生成処理を行って、生成したMAP粒子をMAP肥料として使用することは肥料取締法では認められていない。よって、MAP粒子を肥料等の用途に利用する場合、現状ではこの方式を採用することは困難である。
【0008】
特許文献1及び2に記載されるようなリン回収技術と現行の肥料取締法とから鑑みると、有機性廃水又は汚泥からMAPを効率良く回収する方法としては、MAPを回収するための小型の晶析反応槽を別途設ける方法が有効な方法と考えられる。しかしながら、種々の要因により晶析反応槽内に投入される有機性廃水又汚泥は性状変動が生じ、投入汚泥の性状変化に応じた晶析反応の反応条件の追従が難しい。
【0009】
晶析反応槽における晶析反応を最適化するため、晶析反応槽内の晶析反応液を定期的に採取し、晶析反応液中のリン又はマグネシウムの濃度を測定する方法がある。しかしながら、リンを含む有機性廃水又は汚泥は、比較的粘度が高く泥状であることが多く、濃度測定のための手間と時間がかかる。また、濃度測定結果が得られる頃には、有機性廃水又は汚泥に更なる性状変化が生じている場合もある。また、消化汚泥からのリン回収処理、及びその後段処理としての汚泥脱水処理は一般的に24時間連続処理として行われている場合が多いが、特に夜間における手分析による汚泥成分分析の手間と汚泥性状変化の追随操作を行うことは特に困難であった。したがって、このような方法では、晶析反応槽の運転条件を、投入汚泥の性状変化に迅速に対応させることは難しく、リンの生産効率を十分に向上できない場合がある。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、晶析反応槽の運転条件を、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に適合させることが可能で、これによりリンの生産効率を安定的に向上させることが可能なリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム及びリン酸マグネシウムアンモニウムの生産方法を提供する。
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、投入汚泥のリンの投入負荷量の変動を測定することが可能な測定装置を設けることが有効であるとの知見を得た。
【0012】
上記課題を解決するために、本開示は一側面において、リンを含む投入汚泥を、リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液中で混合することにより、晶析反応液中にMAP粒子を晶析させる反応槽と、反応槽内へマグネシウムを含む薬剤を供給する薬剤供給装置と、MAP粒子を含む晶析反応液を反応槽内から引き抜く引抜装置と、晶析反応液からMAP粒子を分離する分離装置と、分離装置で分離されたMAP粒子を貯留し、洗浄する洗浄装置と、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定可能な測定装置とを備えるリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムである。
【0013】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは一実施態様において、測定装置が、投入汚泥のリン酸濃度を自動測定するリン酸濃度測定装置を含む。
【0014】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは別の一実施態様において、測定装置が、洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定することにより洗浄装置内のMAP粒子の貯留量を測定する画像判定装置を含む。
【0015】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置が、洗浄装置の重量を測定することにより、洗浄装置内のMAP粒子の貯留量を測定する重量測定装置を含む。
【0016】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置が、洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを超音波を用いて測定することにより、洗浄装置内のMAP粒子の貯留量を測定する超音波測定装置を含む。
【0017】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置が、洗浄装置内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定する画像判定装置と、洗浄装置の重量を測定する重量測定装置とにより、洗浄装置内のMAP粒子の貯留量を測定することを含む。
【0018】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置が、反応槽内の所定時間におけるpHの変化を測定するpH変化測定装置を含む。
【0019】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置の測定結果に基づいて、反応槽内の晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように、薬剤供給装置から供給される薬剤の供給量を制御する薬剤供給制御部を更に備える。
【0020】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、測定装置の測定結果に基づいて、引抜装置による晶析反応液の引抜量又は引抜頻度の少なくとも何れかを制御する引抜制御部を更に備える。
【0021】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、洗浄装置内に貯留されるMAP粒子層上に堆積する不純物層の貯留量に基づいて、洗浄装置内に供給する洗浄液の流量又は時間の少なくともいずれかを調整する洗浄制御部を更に備える。
【0022】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、洗浄装置内のMAP粒子を洗浄装置外へ移送する移送装置と、洗浄装置内のMAP粒子の貯留量を測定する測定装置の測定結果に基づいて、移送装置によるMAP粒子の移送量又は移送頻度の少なくともいずれかを制御する移送制御部を更に備える。
【0023】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、反応槽内のpHと、洗浄装置内のMAP粒子の貯留量の測定結果とに基づいて、将来の反応槽内の晶析反応液中の種結晶濃度を予測する種結晶濃度予測部と、種結晶濃度予測部の予測結果に基づいて、将来の反応槽内の晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように薬剤の供給量を予測するMg/P比予測部とを更に備える。
【0024】
本発明に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは更に別の一実施態様において、MAP粒子の生産量の情報を含むMAP粒子生産計画情報を取得する情報取得部と、MAP粒子生産計画情報に基づいて、晶析反応液中のMg/P比、晶析反応液の反応槽からの引抜量又は引抜頻度又は投入汚泥流量の少なくともいずれかの運転条件を決定する運転条件決定部とを備える。
【0025】
本発明は別の一側面において、リンを含む投入汚泥を、リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液を収容した反応槽中で混合することにより晶析反応液中にMAP粒子を晶析させ、MAP粒子を含む晶析反応液を反応槽内から抜き出して晶析反応液からMAP粒子を分離し、分離したMAP粒子を洗浄装置へ導入して洗浄処理し、洗浄処理後のMAP粒子を移送して回収することを含み、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定し、測定結果に基づいて、反応槽内へ供給するマグネシウムを含む薬剤の供給量、晶析反応液の反応槽からの引抜量又は引抜頻度の少なくともいずれかを制御することを含むことを特徴とするリン酸マグネシウムアンモニウムの生産方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、晶析反応槽の運転条件を、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に適合させることが可能で、これによりリンの生産効率を安定的に向上させることが可能なリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システム及びリン酸マグネシウムアンモニウムの生産方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るリン酸濃度測定装置の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る画像判定装置の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施の形態に係る重量測定装置の一例を示すブロック図であり、
図4(b)は、本発明の実施の形態に係る超音波測定装置の一例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るpH変化測定装置が備える演算部の一例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態の変形例に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムの変形例を示す概略図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る洗浄装置の静置時の内部の状態を表す説明図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るリン化合物の洗浄方法の一例を示す概略図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係るリン化合物の洗浄方法の一例を示す概略図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係るリン化合物の洗浄方法の一例を示す概略図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係るリン化合物の洗浄方法の一例を示す概略図である。
【
図12】本発明の実施の形態に引抜装置を介して反応槽の底部から引き抜かれて分離装置へ供給されるリン化合物粒子を含む晶析反応液の構成比率を示す概略図である。
【
図13】本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムの別の変形例を示す概略図である。
【
図14】本発明の実施の形態に係る生産管理システムの構成を説明する説明図である。
【
図15】本発明の実施の形態に係る生産管理システムが備える学習部を用いた処理フローの例を示すフロー図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係る生産管理システムが備える学習部により機械学習により所定のモデルを作製して、運転条件を制御するためのフローの例を示すフロー図である。
【
図17】本実施例に係る反応槽内へ投入される投入汚泥のリン投入負荷量の経時変化を表すグラフである。
【
図18】本実施例に係る反応槽内の晶析反応液のMg/P比の経時変化を表すグラフである。
【
図19】本実施例に係る反応槽内種結晶濃度の経時変化を表すグラフである。
【
図20】測定装置として画像処理方式と超音波方式とロードセルを用いた場合の各装置の指示値と洗浄装置内へ投入した乾燥MAPの重量との関係を用いて検量線を作製した結果の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0029】
本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは、
図1に示すように、反応槽1と、反応槽1内へマグネシウムを含む薬剤を供給する薬剤供給装置2と、MAP粒子を含む晶析反応液を反応槽1内から引き抜く引抜装置3と、晶析反応液からMAP粒子を分離する分離装置4と、分離装置4で分離されたMAP粒子を貯留し、洗浄する洗浄装置5と、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定する測定装置6とを備える。
【0030】
反応槽1は、リンを含む投入汚泥をリン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶が存在する晶析反応液中で混合することにより、晶析反応液中にMAP粒子を晶析させる晶析反応槽である。反応槽1内には、投入汚泥中のリンイオンと反応し、MAP粒子を形成させるためのマグネシウムイオンを含む薬剤が薬剤供給装置2を介して供給される。
【0031】
リン酸マグネシウムアンモニウムの種結晶は、投入汚泥中のリンを所定の粒径のMAP粒子に成長させるために晶析反応液中に混合される粒子である。この種結晶がMAP反応の触媒的役割となり、種結晶の表面にリン酸イオン、アンモニアイオン、マグネシウムイオン等が結合するMAP反応が進行し易い環境ができる。これらの基質は新たなMAPの微細な核を作るのではなく、既存のMAP種結晶をコーティングするようにMAP反応が進行する。以下に限定されないが、種結晶は、一実施態様では、粒径が約30μm以上の結晶をいう。種結晶の粒径は汚泥の粘性、MAPを分離する液体サイクロンの分離性能等により多少変動する。一般的に粘性が高いほど分離性が悪くなるので種結晶の粒径はより大きくする必要があるし、液体サイクロンの径が大きくなるほど分離性能が高くなるので種結晶の粒径はより小さくしてもよい。種結晶の粒径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA-910)及び超音波ふるい(昭和電工株式会社製マイクロシーブShodex PS)により測定した粒度分布の50%径(D50)を示す。種結晶の粒径は、反応槽1の形状、体積、運転条件等に応じて当業者が適宜設定可能であり、上記の例には限定されないことは勿論である。
【0032】
反応槽1内の晶析反応液のpHは反応槽1に設けられたpH計11によって測定される。反応槽1内において回収に適した大きさ、即ち種結晶と同等以上の粒径に成長した粗MAP粒子は、反応槽1が備える攪拌機による乱流により反応槽1内の全体を常に流動しており、MAP粒子に付着する基質成分との接触機会を最大限に高めている。
【0033】
反応槽1全体に分散したMAP粒子を含む晶析反応液の懸濁液は、配管及びポンプ31を備える引抜装置3によって反応槽1の外部へ引き抜かれて分離装置4へと供給される。引抜装置3により反応槽1外へ引き抜かれた一部の晶析反応液は、液体サイクロン等の遠心分離を利用した分離装置4bによってMAP粒子と分離汚泥とに分離される。分離装置4bで分離されたMAP粒子は、反応槽1へ返送される。引抜装置3により反応槽1外へ引き抜かれたその他の晶析反応液は、分離装置4aによってMAP粒子と分離汚泥とに分離される。分離装置4aで分離されたMAP粒子は洗浄装置5へ送られる。分離装置4a、4bで分離された分離汚泥は汚泥処理工程へ送られ、MAP粒子を多く含むMAP濃縮汚泥は洗浄装置5で洗浄される。
【0034】
洗浄装置5は、分離装置4aで分離されたMAP粒子を貯留して洗浄する洗浄槽50と、洗浄槽50の外壁面に配置され、洗浄槽50内のMAP粒子を洗浄槽50の外部から識別可能な窓部51とを備える。窓部51には、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の界面Iの高さを測定するための目盛り52が設けられていてもよい。窓部51は、汚れ防止のための洗浄機構(不図示)を備えていても良い。洗浄槽50の下部には、洗浄槽50内に洗浄液(洗浄水)を供給するための配管53が接続されている。配管53を介して洗浄槽50の下部から洗浄水が供給されることにより、洗浄槽50内に上向流が発生し、MAP粒子に付着する汚泥やし渣等の不純物が洗浄槽50の上方へ向けて押し出される。洗浄装置5内に回収されるMAP粒子は比重が約1.7g/cm3で粒径が約数百μmの粒子であることから、一般的に汚泥中の有機物や夾雑物と比較して沈降性が高く、所定の流速における上向流の洗浄操作においてもウォッシュアウトされずに洗浄槽50内に留まることが可能となる。一連の洗浄工程が終了し、所定時間の静置時間を経た後の洗浄槽50内部は薄白色透明のMAP粒子が底部から一定高さまでぎっしりと沈降堆積したMAP粒子層と、MAP粒子層上の不純物層とが形成され、その上部にはほぼ無色透明の水道水が上方の洗浄排水管レベルまで充填された状態となる。洗浄槽50の側面に取り付けられた窓部51からは、洗浄槽50の内部にできたMAP粒子層と不純物層及び水道水の界面を視覚的に確認することが可能でその界面の高さ位置を目盛り52により把握することも可能である。
【0035】
洗浄槽50の上方へ向けて押し出された不純物は、洗浄排水とともに、洗浄槽50の上部に接続された排水管54を介して洗浄装置5の外部へ排出される。洗浄装置5へ供給されたMAP粒子は所定の洗浄処理が行われた後、洗浄装置5下部に接続された移送装置8を介して洗浄装置5の外部へ移送され、乾燥機(不図示)等によって乾燥処理が行われた後、回収される。
【0036】
反応槽1は、反応槽1内に薬剤を供給するためのポンプ及び配管を備える薬剤供給装置2と、反応槽1内に投入汚泥を供給するための汚泥供給装置10とが接続されている。汚泥供給装置10は、例えば、反応槽1内に供給される投入汚泥を貯留し、反応槽1内へ供給するための貯留槽、ポンプ及び配管等を備えることができるがこの例には限定されない。薬剤供給装置2は水酸化マグネシウム等のマグネシウムを含む薬剤を収容するタンクとタンクから薬剤を供給するポンプ、配管、及び薬剤を必要に応じて希釈する希釈槽等を備えることができるがこの例には限定されない。
【0037】
汚泥供給装置10及び薬剤供給装置2は制御装置7に接続されている。制御装置7は汎用の計算機(コンピュータ)等で構成されている。制御装置7は、反応槽1が設置される現場に設置されてもよいし、クラウド上にあるサーバ等に設置されていてもよい。制御装置7は、演算部70、薬剤供給制御部71、及び引抜制御部72を備える。
【0038】
演算部70は、反応槽1、引抜装置3、分離装置4、洗浄装置5、測定装置6、移送装置8の運転制御に必要な種々のパラメータを演算し、演算結果に基づいて、反応槽1、引抜装置3、分離装置4、洗浄装置5、測定装置6、移送装置8へ所定の制御信号を出力する。薬剤供給制御部71は、反応槽1内のマグネシウムとリンとの比(Mg/P比)の設定条件の入力に基づいて、薬剤供給装置2が反応槽1内へ供給する薬剤の供給流量及び供給時間を制御するための制御信号を出力する。引抜制御部72は、反応槽1内の種結晶濃度が一定範囲に維持されるように、引抜装置3が反応槽1から晶析反応液を引き抜くための処理、具体的には晶析反応液の引抜量又は引抜頻度の少なくともいずれかを制御するための制御信号を出力する。
【0039】
晶析反応においては、溶液中の種結晶の存在によって発生する核化(結晶化)のプロセスを「二次核化」という。二次核化において晶析反応を安定的に進行させるためには、反応槽1内の種結晶の表面積(種結晶濃度)を十分に確保することが重要となる。反応槽1内の種結晶濃度が低いと、晶析反応を進行させる種結晶の表面積が不足し、投入汚泥中に含まれる溶存態イオンであるリンが、種結晶の表面ではなく新たな微細なMAPを生成するMAP反応となる確率が高くなるために、液体サイクロン等の分離装置4aでは分離できず微細な核の除去性能が悪化する。種結晶濃度が高すぎると、反応槽1内にMAP粒子が生成されすぎて、引抜装置3が備える配管やポンプ等を閉塞させる恐れがある。ここで「種結晶濃度」とは、種結晶の濃度、即ち、晶析反応の種結晶として機能する大きさの粒径を有するMAP粒子の濃度(g-MAP/L)を指す。以下に限定されないが、本実施形態では、例えば晶析反応液中に存在する粒径30μm以上のMAP粒子の濃度をいう。
【0040】
晶析反応においては、一般的には、種結晶濃度よりも、種結晶の表面積を主な操作因子の一つとして考える場合が多い。本システムでは、引抜装置3及び分離装置4bによって、反応槽1からの種結晶の引き抜きと返送とを所定の頻度で行うことで、反応槽1内の種結晶の粒径を一定に保つことができる。本システムでは、反応槽1内の種結晶の適切な濃度管理により、種結晶の表面積のコントロールが可能となる。ひいては種結晶の結晶化速度も任意に制御することができる。但し、種結晶の粒径は、装置特性、地域特性、投入汚泥の性状変化等によって変動する場合もある。そのような場合は、種結晶の粒径の変動をも更に考慮して種結晶の表面積及び種結晶濃度を算出する。
【0041】
現在、反応槽1内の種結晶濃度の分析は、定期的に手分析を行うのみである。また、反応槽1内のMAP粒子を含む晶析反応液の引抜回数及び頻度も、予め定められた時刻で管理する一定制御のみである。しかしながら、投入される投入汚泥のリン酸(PO4-P)濃度は、投入汚泥の種類や性状変動によって変化する。反応槽1内に投入される薬剤のマグネシウム濃度も投入汚泥の性状変動、地域特性、気温等によって過不足となる場合もある。このような種々の事情が関係するため、反応槽1内の晶析反応を均一の運転条件で最適な状態に常に維持し続けることは、現状では困難である。
【0042】
本実施形態によれば、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を直接的又は間接的に測定可能な測定装置6を備える。この測定装置6の測定結果に応じて、反応槽1内の種結晶濃度が適正範囲となるように、反応槽1からのMAP粒子の引抜処理及び晶析に必要なマグネシウムを含む薬剤の供給処理を制御する。これにより、反応槽1内の運転条件を、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に追従させることが可能となり、リンの生産効率を安定的に向上させることが可能となる。
【0043】
投入汚泥のリン投入負荷量の変動を直接的又は間接的に測定する測定装置6としては、種々の測定装置を利用することができる。以下にいくつかの例を説明する。
【0044】
(リン酸濃度測定装置)
投入汚泥のリン投入負荷量の変動を直接的に測定する測定装置6としては、投入汚泥のリン酸濃度(PO
4-P)を自動測定するリン酸濃度測定装置6aを備えることが好ましい。リン酸濃度測定装置6aは、例えば
図2に示すように、例えば、投入汚泥を一定時間毎に自動でサンプリングするサンプリング部61aと、サンプリングした投入汚泥をろ過又は膜分離する固液分離部62aと、固液分離後の分離液を水等の希釈水で希釈する希釈部63aと、希釈液中のPO
4-P濃度を測定するリン酸濃度測定部64aと、投入汚泥のリン投入負荷量(kg-P/日)を演算する投入負荷量演算部65aとを備える。
【0045】
投入負荷量演算部65aは、例えば、リン酸濃度測定部64aによるPO4-P濃度の測定結果と、投入汚泥の投入流量(m3/日)とを乗算することにより、投入汚泥のリン投入負荷量(kg-P/日)を演算する。投入負荷量演算部65aが、投入汚泥のリン投入負荷量を一定時間毎に演算することにより、投入汚泥のリン投入負荷量の変動が把握できる。なお、投入負荷量演算部65aは、必ずしもリン酸濃度測定装置6a内に配置される必要はない。投入負荷量演算部65aの演算処理は制御装置7が備える演算部70で行われても良いし、クラウド上のサーバで行われてもよい。
【0046】
本実施形態によれば、リン酸濃度測定装置6aを備えることにより、任意の時間間隔における投入汚泥のリン投入負荷量を自動で測定できるため、作業者の少ない休日や夜間等においても、作業者の労力を煩わすことなくリン投入負荷量の変動が測定できる。
【0047】
測定装置6としてリン酸濃度測定装置6aを用いた場合は、投入汚泥のリン投入負荷量(kg-P/日)から、反応槽1内でのMAP生成量も推定できる。MAP生成量の推定結果に基づいて、
図1の薬剤供給制御部71が、反応槽1内の晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように、薬剤供給装置2から供給される薬剤の供給量を自動制御することで、反応槽1内の種結晶濃度を適正範囲に維持することができる。薬剤供給制御部71による薬剤供給制御の具体的な例は後述する。
【0048】
(画像判定装置)
投入汚泥のリン投入負荷量の変動を間接的に測定する測定装置6としては、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子を主として含むMAP粒子層の界面の高さを画像判定することにより洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を測定する画像判定装置6bが好適に用いられる。画像判定装置6bは、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子を洗浄装置5の外部から識別可能な、洗浄装置5が備える窓部51を介して、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを撮像した画像を用いて画像判定を行う。
【0049】
反応槽1から引き抜いた晶析反応液は、分離装置4aにて遠心分離等によりMAP粒子と分離汚泥とに分離される。MAP粒子は、表面の汚泥やし渣等の不純物を洗い流すために、洗浄装置5に投入されて洗浄が行われる。ここで反応槽1から引き抜かれる晶析反応液の引抜量及び引抜頻度が一定である場合、反応槽1へ投入される投入汚泥のリン投入負荷量の変動が発生すると、反応槽1内でのMAP粒子の生成量が変動する。これにより反応槽1内から引き抜かれた晶析反応液中のMAP粒子の量も変動するため、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量も変化する。一般的に、原汚泥由来のPO4-Pを晶析させてMAP反応を生じさせる場合、MAPとなり得るPに対するMgの添加モル比率である「Mg/P比」は1.0~1.4とし、Mgをやや過剰気味に設定する場合が多い。その場合、原汚泥中のPO4-Pが増加すると、それに応じてやや過剰のMgと反応して生成するMAP量が増加し、PO4-Pが減少するとMAP生成量が減少する。すなわち、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量の増減は、投入汚泥由来のPO4-Pを反映した値をとる。そのため、画像判定装置6bを用いて洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量の推移を画像判定により測定することで、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を間接的に測定できる。これにより、投入汚泥のリン酸濃度を分析する場合に比べて、投入汚泥のリン投入負荷量の変動を手分析を介さずに短時間で測定できる。
【0050】
画像判定装置6bは、
図3に示すように、静止画像又は連続画像(動画)を撮影する撮影部61bと、撮影部61bの画像データを用いて所定の演算処理を行う処理部60bとを備える。処理部60bは汎用の計算機等で構成される。処理部60bはグラフィックプロセッサ(GPU)を備えていてもよい。処理部60bの演算結果及び処理部60bの演算処理に必要な各種情報を記憶するための記憶装置(不図示)は、処理部60bの内部にあっても外部にあってもよい。
【0051】
処理部60bによる演算処理は、制御装置7又は図示しないクラウド上のサーバ内で行ってもよい。図示しないが、処理部60bは入出力制御装置(不図示)を備え、入出力制御装置を介して、処理部60bの外部から洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さが撮影された画像データ又は機械学習を利用した画像判定のための学習済モデル等の各種情報の入出力を受け付けてもよい、処理部60bは、入出力制御装置を介して処理部60bの処理結果を本システムの外部へ出力してもよい。処理部60bは更に、操作者に処理部60bの演算処理結果を表示するための表示装置(不図示)を備えても良い。
【0052】
撮影部61bは、洗浄装置5が備える窓部51及び目盛り52の静止画像又は連続画像を撮影することが可能な機器であれば特に限定されない。例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等の映像素子を備えるカメラが、撮影部61bとして好適である。撮影部61bの設置位置は洗浄装置5の外部から窓部51のMAP粒子の界面が撮影できればどこでもよいし、撮影部61bの数は単数でも複数でもよい。典型的には、
図1に示すように、撮影部61bが、窓部51に対向するように配置される。
【0053】
撮影部61bは、撮影領域となる窓部51周辺に光を照射するための照明(不図示)を更に備えても良い。撮影部61bは、撮影環境が一定となるような覆蓋(不図示)を備えていても良い。撮影部61bのシャッタースピードも適宜調整が可能である。撮影部61bの画像データは、カラーでもモノクロでもよい。画像データに二値化処理を行う場合はモノクロがより好適であるがカラーでもよい。撮影部61bが備えるレンズは任意に選択できる。レンズの汚れ防止のために、カメラとレンズとの間は、透明板又はフィルタが配置されてもよい。
【0054】
処理部60bは、撮影部61bが撮影した洗浄装置5の窓部51を含む画像データを取得し、画像データから識別される洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定により判定する画像判定部62bと、画像判定部62bの画像判定結果に基づいて、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を算出する貯留量算出部63bとを備える。処理部60bは更に、機械学習アルゴリズムを用いて所定の目的変数の入力に応じて所定の説明変数を出力する学習済モデルを作製する学習部64bを更に備えていても良い。
【0055】
画像判定部62bは、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さを検出することができれば、その具体的な操作手順は限定されない。例えば、画像判定部62bは、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの識別性を向上させるために、取得した画像データのトリミング、白黒化、二値化、多値化、標準化、圧縮処理等を含む各種加工処理を行ってもよい。画像判定部62bは、複数の撮影部61bによって撮影した複数の画像データを結合したり、撮影部61bで異なる時刻に撮影した複数の画像データを結合処理したりすることによって、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの変化をより詳細に判定してもよい。画像判定部62bは、取得した画像データをいくつかのオブジェクトに分割し、分割したオブジェクトを領域別に分類して画像判定してもよい。例えば、画像判定部62bは、窓部51から識別される画像データに対し、主としてMAP粒子を含むMAP粒子層、し渣等の不純物で構成される不純物層、不純物層上の洗浄液層をそれぞれ領域別に分類し、この分類結果に基づいて、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さを画像判定することもまた好ましい。
【0056】
画像判定部62bは、機械学習アルゴリズムを利用して画像判定処理を行うことが好ましい。例えば、画像判定部62bは、MAP粒子層の界面の高さの情報を含む画像データと、MAP粒子層の界面の高さの測定結果の情報とを少なくとも関連付けた学習データを用いて作製されたモデルを用いて、機械学習アルゴリズムを利用した演算処理を行い、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さを演算するように構成されていてもよい。機械学習アルゴリズムとしては、サポートベクター回帰法(SVR法)、部分最小二乗法(PLS法)、ランダムフォレスト法、決定木法等の任意のアルゴリズムが利用できる。学習データには、反応槽1内の種結晶濃度、反応槽1へ供給される薬剤のMg/P比、投入汚泥のリン投入負荷量、引抜装置3による引抜量及び引抜頻度等の情報を更に含んでいてもよい。
【0057】
貯留量算出部63bは、画像判定部62bによる洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの画像判定結果に基づいて、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を算出する。貯留量算出部63bは、例えば洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの測定結果と洗浄装置5の容量とから、洗浄装置5内のMAP粒子の体積を算出する。貯留量算出部63bは、更に、MAP粒子の体積の算出結果から、予め作製された既知の検量線(MAP粒子の体積-MAP粒子の重量)を使用して、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量(重量)を算出する。
【0058】
貯留量算出部63bは、説明変数として、MAP粒子層の界面の高さの画像判定結果の情報の入力を少なくとも受けて、目的変数として洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量の推定結果を少なくとも出力するための所定のモデルを用いた機械学習により、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を推算してもよい。機械学習アルゴリズムとしては、上述と同様に、サポートベクター回帰法(SVR法)、部分最小二乗法(PLS法)、ランダムフォレスト法、決定木法等の任意のアルゴリズムが利用できる。中でもディープラーニングを好適に用いることができるがこれに限定されない。機械学習は、教師あり学習でも教師なし学習でもよい。機械学習により構築された学習済モデルは定期的に更新されてもよいし、任意のタイミングで更新されてもよい。学習済モデルは1つでも複数でもよい。学習データには画像データに加えて本システムの運転データを含めてもよい。
【0059】
或いは、画像判定装置6bは、洗浄装置5のMAP粒子層の界面の高さを画像判定し、MAP粒子層の界面の高さの画像判定結果と、MAP粒子層の界面の高さの設定値からの差異を求めることで、反応槽1内の種結晶濃度の推定を行ってもよい。この推定結果に基づいて、
図1の引抜制御部72が、反応槽1からMAP粒子を含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度が適切となるように調整することで、反応槽1内の種結晶濃度の管理を自動で行うことが可能となる。更に、このMAP粒子層の界面の、設定値からの差異の測定結果に基づき、反応槽1中で一定時間に生成されたMAP生成量を推測することもまた可能である。この反応槽1内のMAP生成量の推測結果を基に、反応槽1内へ投入する投入汚泥のリン投入負荷量の推測を行い、リン投入負荷量の設定値と推測値との差が設定値を超える場合は、投入汚泥中のリン投入負荷量が適正範囲となるように、リン投入負荷量の設定値の補正を行ってもよい。
【0060】
画像判定装置6bは、機械学習アルゴリズムを用いた画像判別を利用して洗浄装置5内の色を識別することで、通常白色透明であるMAP粒子が多く存在するMAP粒子層で構成される領域及び通常黒色のゴマ等の植物由来の夾雑物を含む不純物層との差を見分けることが容易にできる。これにより、MAP粒子層の界面の高さをより正確に判定することが可能になる。
【0061】
(重量測定装置)
投入汚泥のリン投入負荷量を間接的に測定する別の測定装置6としては、洗浄装置5の重量を測定することにより、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を測定する重量測定装置6cが好適である。
【0062】
重量測定装置6cは、
図4(a)に示すように、洗浄装置5の重量を測定する重量測定部61cと、重量測定部61cの重量測定結果から洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を算出する貯留量算出部63cとを備える。貯留量算出部63cは、必ずしも重量測定装置6c内に配置される必要はない。貯留量算出部63cの演算処理は、制御装置7が備える演算部70で行われても良いし、クラウド上のサーバで行われてもよい。
【0063】
重量測定部61cとしては、洗浄装置5内の総重量を測定可能な装置であれば限定されないが、荷重の時系列での変化をより簡単に検出することが可能なロードセルを用いることが好適である。貯留量算出部63cは、ロードセルから出力される電気信号の変化を検出することで、反応槽1からの晶析反応液の引抜処理前後の洗浄装置5の重量変化が測定できる。
【0064】
水の比重は約1.0g/cm3であり、MAPの比重は約1.7g/cm3である。そのため、洗浄装置5を水道水で満水にしたときの重量と、洗浄装置5内にMAP粒子が存在する状態で洗浄装置5を満水にしたときの重量とでは、洗浄装置5内のMAP粒子の重量に応じてその差が変化する。よって、貯留量算出部63cは、洗浄装置5を水道水で満水にしたときの重量と洗浄装置5内にMAP粒子が存在する状態で洗浄装置5を満水にしたときの重量との差と、MAPの比重との関係から、洗浄装置5内に貯留されるMAP粒子の重量を算出することができる。貯留量算出部63cは、貯留量算出部63bのように機械学習を利用することにより洗浄装置5内のMAP粒子の重量を自動演算するように構成されていてもよい。
【0065】
なお、重量測定装置6cは洗浄装置5の重量を直接的に測定しているが、比重が小さい植物由来の夾雑物等の不純物に起因する測定誤差は比較的小さいと考えられる。このように、重量測定装置6cによれば、反応槽1からのMAP粒子を含む晶析反応液の引抜前後における全体重量の変化を自動測定することによって、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の増加分の重量を把握できる。このMAP粒子の増加分の重量を考慮して、
図1の引抜制御部72が、反応槽1からのMAP粒子を含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度のいずれかを制御することにより反応槽1内の種結晶濃度を適正範囲に制御することができる。
【0066】
(超音波測定装置)
投入汚泥のリン投入負荷量を間接的に測定する更に別の測定装置6としては、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを超音波を用いて測定することにより、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を測定する超音波測定装置6dが好適である。
【0067】
超音波測定装置6dは、
図4(b)に示すように、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さを測定する超音波診断部61dと、超音波診断部61dの超音波診断結果から洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を算出する貯留量算出部63dを備える。貯留量算出部63dは、必ずしも超音波測定装置6d内に配置される必要はない。貯留量算出部63dの演算処理は、制御装置7が備える演算部70で行われても良いし、クラウド上のサーバで行われてもよい。
【0068】
超音波診断部61dの具体的構成は限定されない。例えば、超音波診断部61dとしては、超音波信号の液体中の伝播を利用して洗浄装置5内のMAP粒子を含むMAP粒子層層の界面を計測する超音波発信型界面計測機、或いは超音波式汚泥界面計等が利用可能である。
図1の例では、超音波診断部61dの先端が洗浄装置5の上部に洗浄装置5の水面と対向するように設けられているがこの例には限定されない。
【0069】
貯留量算出部63dは、超音波診断部61dによる洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの超音波診断結果に基づいて、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子の貯留量を算出する。貯留量算出部63bは、例えば洗浄装置5内の界面の高さの超音波診断と洗浄装置5の容量とから洗浄装置5内のMAP粒子の体積を算出する。貯留量算出部63dは、MAP粒子の体積の算出結果から、予め作製された既知の検量線(MAP粒子の体積-MAP粒子の重量)を使用して洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量(重量)を算出する。貯留量算出部63dは、貯留量算出部63bのように機械学習を利用することにより洗浄装置5内のMAP粒子の重量を自動演算するように構成されていてもよい。
【0070】
超音波測定装置6dによれば、例えば、洗浄装置5のMAP粒子層の界面の高さの超音波測定結果を、界面の高さの設定値からの差異を求めることで、反応槽1内の種結晶濃度の推定を行うことができる。この推定結果に基づいて、
図1の引抜制御部72が、反応槽1からMAP粒子を含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度を調整することで、反応槽1内の種結晶濃度の管理を自動制御することが可能となる。更に、このMAP粒子の界面の設定値からの差異の測定結果に基づき、反応槽1中で一定時間に生成されたMAP生成量を推測し、このMAP生成量を基に、反応槽1内へ投入する投入汚泥のリン投入負荷量の想定を行う。これにより投入汚泥中のリン酸イオン濃度の設定値の補正を行ってもよい。
【0071】
測定装置6として、上述の画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6dを2以上組み合わせることにより、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量をより精度よく測定することができる。
【0072】
例えば、測定装置6が、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子を洗浄装置5の外部から識別可能な洗浄装置5が備える窓部51を介して、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子層の界面の高さを画像判定する画像判定装置6bと、洗浄装置5の重量を測定する重量測定装置6cとを備え、画像判定装置6bと重量測定装置6cとにより、MAP粒子の貯留量を測定してもよい。測定装置6が、画像判定装置6b及び超音波測定装置6dの少なくともいずれかと重量測定装置6cとを備えていてもよい。
【0073】
洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さの測定が可能な画像判定装置6b及び超音波測定装置6dは、固形物であるMAP粒子を含むMAP粒子層と上澄水との界面の高さを視覚的または超音波により測定する。そしてMAP粒子層の界面の高さよりも下に位置する洗浄装置5の容量分のMAP粒子の重量を、MAP粒子の比重である1.7及び洗浄静置5のMAP粒子を含む層の間隙率、不純物混在割合、洗浄装置5内水分量、洗浄装置5の本体空重量等から算出する。
【0074】
画像判定装置6bは、画像解析により通常白色透明のMAP層の色と通常黒色のゴマ等の植物由来の夾雑物との差を見分けることも可能であるため、MAP粒子層に含まれるMAP粒子の純度を画像解析により把握することも可能である。重量測定装置6cは、直接的に重量を測定しているために不純物である植物由来の夾雑物による誤差の影響は小さいものの、汚泥中に微細なSIO2等の砂成分(比重2.0~2.2)が多く含まれる場合等は、砂成分をMAP粒子と誤認識してしまう可能性がある。よって、測定装置6として、上述の画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6dを2以上組み合わせることにより、例えば画像判定装置6bにより洗浄装置5内で沈降堆積するMAP粒子を含むMAP粒子層と不純物を含む不純物層とのボリュームをそれぞれある程度正確に把握できるとともに、重量測定装置6cにより洗浄装置5内の固形物総重量を正確に把握できることから、不純物層とMAP粒子層の各容積と固形物総重量による計算によってMAP粒子の重量のより正確な把握が可能となる。
【0075】
(pH変化測定装置)
投入汚泥のリン投入負荷量を間接的に測定する更に別の測定装置6としては、反応槽1内の所定時間におけるpHの変化を測定するpH変化測定装置6eを備えていても良い。pH変化測定装置6eは、反応槽1内のpHを測定するpH計11に接続されている。pH計11は、薬剤供給装置2による薬剤添加位置と十分な距離を保って設置される。pH計11の測定精度を保つため、pH計11を洗浄する自動洗浄機構を設けても良い。pH変化測定装置6eは、更に投入汚泥のpHを測定するpH計12に測定されることが好ましい。
【0076】
pH測定時間t1の投入汚泥のpHは、測定時間t1より前の測定時間t0のpHと比較すると以下のパターンが考えられる。
(A-1)投入汚泥のpHが下がる傾向にある
(A-2)投入汚泥のpHが維持される傾向にある
(A-3)投入汚泥のpHが上がる傾向にある
【0077】
pH測定時間t1の反応槽1内のpHは、測定時間t1より前の測定時間t0のpHと比較すると以下のパターンが考えられる。
(B-1)反応槽1内のpHが下がる傾向にある
(B-2)反応槽1内のpHが維持される傾向にある
(B-3)反応槽1内のpHが上がる傾向にある
【0078】
引抜装置3による1回あたりの引抜処理で引き抜かれた晶析反応液から分離された洗浄装置5内に貯留される実際のMAP粒子の貯留量(以下「MAP回収量」又は「MAP生成量」ともいう)は、予め求められるMAP回収理論値(以下「想定MAP回収理論値」又は単に「理論値」ともいう)と比較すると、以下のパターンが考えられる。
(C-1)1回あたりの引抜処理によるMAP回収量が理論値より下回る
(C-2)1回あたりの引抜処理によるMAP回収量が理論値と同等である
(C-3)1回あたりの引抜処理によるMAP回収量が理論値より上回る
【0079】
本実施形態では、投入汚泥の性状変化に自動的に追随する形で運転操作管理項目として反応槽1内の「Mg/P比」と「MAP量」を常に適切な所定の値に維持することが好ましい。ここで(1)「投入汚泥のpH」(2)「反応槽1内のpH」及び(3)洗浄装置5内の「MAP回収量と理論値との差」の3つの数値は、投入汚泥の汚泥性状の変化を示唆する因子を含んでいる。この3つの数値の経時的な変化を記録し、またAI等に学習させることにより「Mg/P比」と「反応槽1内のMAP濃度」をより最適な制御に活用することができる。
【0080】
例えば、(1)「投入汚泥のpH」は、MAP生成に必要な投入汚泥中のアルカリ成分の量をある程度示唆する値である。ここで、MAP反応の溶解度積の式をアルカリ成分を意味する[OH-]を含めた式に書き換えると以下のようになる。
[Mg2+][HPO4
2-][NH4
+][OH-]=Ksp(溶解度積)
【0081】
MAPの生成機構はpHにより各構成イオンの電離状態が変化し構成成分の存在割合が変化することから疑似的にこのように表記することができる。この溶解度積Kspが一定の値で常にこの値に近づくようにMAP反応が進行することから、時間とともに例えば左辺の[HPO4
2-]が増加したり、投入汚泥のpHが大きくなるとMAP反応が以前より進行しMAP生成量が増加することを意味する。
【0082】
それらのことを前提とすると、(2)「反応槽1内のpH」は、MAP反応を積極的に生じさせている反応槽内の[OH-]の存在量を意味する。また「(2)-(1)」の値は(2)の変化量が投入汚泥由来の変化が主たる原因か否かを判断する因子となる。また、反応槽1内に供給されるMg源としての水酸化マグネシウムはMg2+:OH-を1:2の割合で供給する薬剤であることから投入汚泥から供給される[HPO4
2-]が減少するとその分[Mg2+]と[OH-]がMAP生成のために消費されないで残存する量が増加し結果的にpHが上昇する。
【0083】
また、(3)「MAP回収量と理論値との差」からも投入汚泥中の[HPO4
2-]の増減量が示唆される。すなわち、「MAP回収量>理論値」となる傾向が続けば投入汚泥中の[HPO4
2-]は増加傾向にあり、逆の場合は減少傾向にあると判断でき、そのままの設定では実質的なMg/P比は目標設定値よりも小さくなっていることを示すことから水酸化マグネシウムの供給量を増加させてMg/P比を目標設定値に戻す必要があることを示している。
【0084】
これら(1)~(3)の数値の時間的挙動をインプットとして制御装置7で演算した結果を水酸化マグネシウム供給量や汚泥引抜量に反映させることによりMg/P比と反応槽1内MAP量を目標設定値に維持することが可能になる。また、簡略的に(1)を使用せず(2)と(3)のみの値による演算及び(2)及び(3)を説明変数として学習モデルに入力し、マグネシウム供給量や汚泥引抜量を目的変数として出力する機械学習による制御方法もある程度有効な場合もある。
【0085】
本願発明では、好ましくは、この(1)~(3)をマトリックス表にして、(1)~(3)の増減に応じてパターン化し、Mg供給量と汚泥引抜量の変化量を過去のデータやAI学習による最適化により適宜設定することにより、Mg/P比と反応槽1内MAP量を目標設定値になるべく近い状態を維持することができる。
【0086】
即ち、本実施形態によれば、薬剤供給制御部71が、(1)「投入汚泥のpH」(2)「反応槽1内のpH」及び(3)「MAP回収量と理論値との差」の3つの因子に基づいて、反応槽内の晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように、予め求められた演算結果や機械学習により薬剤供給を自動制御することで、反応槽1内の種結晶濃度を一定に保つことができる。これにより、反応槽1内での晶析反応を最適化することができ、洗浄装置5内から常に安定してMAP粒子を回収することが可能となる。
【0087】
薬剤供給制御部71は、反応槽1内のpH、反応槽1内の種結晶濃度、反応槽1内の晶析反応液のMg/P比、投入汚泥のリン投入負荷量の情報を少なくとも含む学習データを用いた機械学習により、将来の反応槽1内の種結晶濃度及びMg/P比の予測を行うように構成されていてもよい。そして、その予測結果に基づいて、薬剤供給制御部71が所定のタイミングで薬剤供給装置2に所定の制御信号を出力することもまた可能である。
【0088】
例えば、pH変化測定装置6eは、将来の反応槽1内の種結晶濃度及びMg/P比を予測するための演算部60eを備えることができる。演算部60eは、
図5に示すように、反応槽1内のpHと、洗浄装置5内に貯留されるMAP貯留量の測定結果とに基づいて、将来の反応槽1内の晶析反応液中の種結晶濃度を予測する種結晶濃度予測部61eと、種結晶濃度予測部61eの予測結果に基づいて、将来のMg/P比を予測し、将来の反応槽1内の晶析反応液のMg/P比が適正範囲となるように薬剤の供給量(供給流量)を予測するMg/P比予測部62eとを備えてもよい。
【0089】
種結晶濃度予測部61eは、反応槽1内のpH測定値と、洗浄装置5内のMAP回収量の測定値と設定値との差との関係と、反応槽1内の種結晶濃度の設定値との関係に基づいて予め定められた関係式に基づいて種結晶濃度を予測することができる。或いは、種結晶濃度予測部61eは、機械学習アルゴリズムを用いて種結晶濃度を予測してもよい。例えば、種結晶濃度予測部61eは、過去のpH測定値、過去の洗浄装置5内のMAP回収量の測定値、過去の反応槽1内の種結晶濃度の測定値の情報を少なくとも含む訓練データとして用いた機械学習によって構築されたモデルにpH計11が測定したpHと洗浄装置5内のMAP貯留量を入力することにより、将来の種結晶濃度の予想値を出力させるように構成されていてもよい。
【0090】
Mg/P比予測部62eは、種結晶濃度予測部61eの種結晶濃度の予測結果と投入汚泥のリン投入負荷量の設定値又は測定値に基づいて、将来のMg/P比及び薬剤の供給量を予測する。Mg/P比予測部62eも種結晶濃度予測部61eと同様に、予め定められた所定の関係式からMg/P比を予測してもよいし、機械学習アルゴリズムを用いてMg/P比を予測してもよい。薬剤供給制御部71はMg/P比の予測結果に基づいて、反応槽1内へ供給する薬剤の供給流量を制御するための制御信号を薬剤供給装置2へ出力する。pH変化測定装置6eは更に、Mg/P比の設定値又は洗浄装置5内のMAP貯留量の設定値が測定値又は予想値から大きく外れた場合にMg/P比の設定値又は洗浄装置5内のMAP貯留量の設定値を補正し、再設定するための補正部63eを備えていても良い。
【0091】
薬剤供給制御部71は、反応槽1内のpHを測定するpH計11のpHの測定結果と、反応槽1内に投入される前の投入汚泥のpHの測定結果と、洗浄装置5に貯留されるMAP粒子の貯留量に基づいて、反応槽1内のMg/P比が好適な範囲に維持されるように、薬剤供給装置2から供給される薬剤の供給量、供給時間、供給頻度の少なくともいずれかを制御するように構成されることが好ましい。
【0092】
投入汚泥として例えば有機物の嫌気性消化処理によって発生する消化汚泥が用いられる場合には、消化汚泥自体のpHの変動が大きくなる場合もある。この消化汚泥のpH変動が投入汚泥のリン投入負荷量とは連動していない要因も考えられる。薬剤供給制御部71が反応槽1に投入される前の投入汚泥のpHの測定値の情報を入力情報として更に考慮に入れることで、反応槽1内のpHの変化が投入汚泥のpHの変化に引きずられた結果なのか、投入汚泥のpHの変化はないが投入汚泥のリン酸の増減による結果なのか、反応槽1への薬剤添加時のMg/P比の過不足による反応槽1内pHの変化なのかを、投入汚泥のpHの測定結果と、反応槽1内のpHの測定結果との連動性から更に自動制御の精度を高めることができる。
【0093】
(引抜量及び/又は引抜頻度の調整)
反応槽1内で安定的に晶析反応を行うためには常に安定して反応槽1内の晶析反応液中に一定濃度の種結晶を維持することが好ましい。投入汚泥のリン投入負荷量の変動が生じても反応槽1内の晶析反応液の種結晶濃度が一定濃度範囲となるように制御するためには、以下の変数に着目することが好ましい。
(a)所定時間における反応槽1内の実際のMAP粒子の生成量
(=洗浄装置5内に貯留される実際のMAP粒子の貯留量)
(b)反応槽1内の種結晶濃度
(c)反応槽1内での種結晶生成速度(時間当たりの種結晶生成量)
(d)投入汚泥のリン投入負荷量
これら(a)~(d)を考慮して、反応槽1から引抜装置3を介して引き抜くMAP粒子の引抜量又は引抜頻度を調整することが好ましい。
【0094】
具体的には、以下の手順に基づき、反応槽1内からの晶析反応液の引抜量(又は時間)又は引抜間隔の調整を行う。例えば、投入汚泥のリン投入負荷量が測定できる場合は、投入汚泥のリン投入負荷量と投入汚泥の反応槽1への供給流量とから反応槽1内でのMAP粒子の生成量を想定する。反応槽1内での種結晶生成量が、設定値になったときに反応槽1から種結晶を含む晶析反応液の引抜を行うように、間隔の調整を行う。
【0095】
画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6dの測定結果より、反応槽1内での実際のMAP粒子生成量と、生成にかかった時間(或いは汚泥投入量)が算出できる。前回の種結晶引抜時と同等量の種結晶を次回に引き抜くことを想定し、画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6dより測定された洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を元に、引抜装置3による晶析反応液の回収間隔を調整する。例えば、前回の引抜頻度の設定値が4時間毎で、引抜量が100kgであり、今回の洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量が120kgとなった場合、引抜制御部72は、引抜装置3による次回の引抜間隔を「引抜頻度の設定値(4時間)×(100/120)」となるように、引抜装置3を制御することができる。
【0096】
引抜制御部72による反応槽1からの反応晶析液の引抜量の制御は、例えば以下のように行うことができる。例えば、前回の引抜頻度が4時間毎で引抜量の設定値が100kgであり、今回の洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量が96kgとなった場合、引抜制御部72は、引抜装置3による次回の引抜量を「引抜量(100kg)×(100/96)」となるように、引抜装置3を制御することができる。
【0097】
引抜制御部72は、リン酸濃度測定装置6aで測定された投入汚泥のリン投入負荷量に基づいて反応槽1内の種結晶濃度を算出し、種結晶濃度の算出結果に基づいて、反応槽1内が所定の種結晶濃度範囲となるように、反応槽1からの晶析反応液の引抜量及び引抜頻度の最適値を求め、最適値に基づいて引抜装置3を制御することもまた好ましい。或いは、画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6dから推定される反応槽1内の種結晶濃度の変動に基づいて、引抜制御部72が、反応槽1からの晶析反応液の引抜量及び引抜頻度の最適値を求め最適値に基づいて引抜装置3を制御することもまた好ましい。
【0098】
本実施形態によれば、引抜制御部72が、測定装置6の測定結果に基づいて、引抜装置3による晶析反応液の引抜量又は引抜頻度の少なくとも何れかを制御する引抜制御部72を備える。これにより、投入汚泥の負荷変動が生じた場合においても、反応槽1内の種結晶濃度を最適な範囲に調整することが可能となるため、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に適合させることが可能で、これによりリンの生産効率を安定的に向上させることが可能となる。
【0099】
(洗浄装置5の洗浄液供給制御)
図6に示すように、本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは、晶析処理を行う反応槽1から回収したMAP粒子を洗浄する洗浄装置5へ供給する洗浄水の供給を制御する洗浄制御部73を備える。
【0100】
分離装置4aから分離されたMAP粒子は表面に汚泥等の不純物が付着している。MAP粒子とともに洗浄装置5内に投入される不純物は、ほとんどが、種結晶よりもやや比重が小さいもので構成されている。
図7に示すように、洗浄装置5内は、反応槽1からのMAP粒子の引抜処理の前後は常に一定量のMAP粒子層が保持された状態で静置されており、静置時には、MAP粒子層の上層にMAP粒子よりも比重の小さい不純物層が堆積する。
【0101】
洗浄装置5内は、常に適正量のMAP粒子が保持されるように調整されている。ここでMAP粒子の供給量の急激な変化により、洗浄装置5内のMAP粒子量及び不純物量が多くなると、洗浄装置5内に適正量のMAP粒子を保持することが難しくなることがある。洗浄装置5内のMAP粒子の保持量が適正量を超えて過剰になると、洗浄装置5内でMAP粒子の圧密が生じることがある。洗浄装置5内でMAP粒子の圧密が生じると、洗浄液が洗浄装置5内全体に十分に行き渡らず、MAP粒子の洗浄が適切に行えなくなる場合がある。一方、MAP粒子の供給量の急激な変化により、洗浄装置5内に供給されるMAP粒子量が少なくなりすぎると、移送装置8によって洗浄処理が十分に行われたMAP粒子のみを、洗浄装置5外の乾燥設備へ供給することが困難になりMAP粒子の純度が低下する場合がある。
【0102】
図7に示すように、洗浄装置5は、洗浄装置5内に貯留されるMAP粒子層の上層に形成される不純物層の貯留量を検出する検出装置58b、58c、58dを備え、洗浄制御部73は、検出装置58b、58c、58dの少なくともいずれかによる不純物層の貯留量の検出結果に基づいて、洗浄装置5内に供給する洗浄液の流量又は時間の少なくともいずれかを制御することが好ましい。本実施形態では、洗浄制御部73を備えることにより、反応槽1からのMAP粒子の供給量の変動が生じたとしても、洗浄装置5内に常時適切量のMAP粒子を保持し、洗浄装置5内に貯留されたMAP粒子を十分に洗浄することが可能となるため、洗浄装置5の外へ移送するMAP粒子の純度を向上させることが可能となる。
【0103】
図7の検出装置58b、58c、58dとしては、洗浄装置5内の不純物層の界面の高さ、或いは不純物層の体積又は重量を検出することが可能な装置であれば任意の検出装置を利用できる。例えば、検出装置58bとしては、洗浄装置5が備える窓部51から洗浄装置5内部のMAP粒子層及び不純物層を洗浄装置5の外部から撮影する撮影部を備え、撮影部が撮影した画像から洗浄装置5内に貯留された不純物層の層厚又は界面の高さを画像判定することにより洗浄装置5内の不純物層の貯留量を測定する画像判定装置6bが好適に利用できる。なお、検出装置58bとしては、
図1の画像判定装置6bを援用することが装置点数削減の点からより好ましいが、この例には限定されない。
【0104】
検出装置58cとしては、洗浄装置5の重量を測定することにより、洗浄装置5内に貯留された不純物層の貯留量を測定する重量測定装置6cが好適に利用できる。検出装置58cとしては、
図1の測定装置6cを利用することが装置点数削減の点からより好ましい。検出装置58dとしては、洗浄装置5内に貯留された不純物層の層厚又は界面の高さを超音波を用いて測定することにより、洗浄装置5内に貯留された不純物層の貯留量を測定する超音波測定装置6dが好適に利用できる。検出装置58dとして
図1の測定装置6dを利用することが装置点数削減の点からより好ましい。
【0105】
洗浄装置5内へ混入する不純物には、ごま、木くず等の外部から識別容易な比較的濃い色彩を有する不純物がある。一方で、洗浄装置5内で十分に洗浄が行われたMAP粒子は白色を呈している。本実施形態によれば、洗浄装置5内部のMAP粒子層及び不純物層を撮影した撮影画像から不純物層の状態を画像判定することが可能な検出装置58bを利用することにより、不純物層とMAP粒子層との検出をより精密かつ効率良く行える。
【0106】
洗浄装置5内に不純物の堆積量が多くなった場合には、洗浄制御部73は、MAP層と不純物層の比重差を利用し、洗浄液の供給流量を変化させることで、比重が小さい不純物を優先的に排出させるように、洗浄装置5内へ供給される洗浄液の流量又は時間の少なくとも何れかを制御する。
【0107】
具体的には、
図7に示すように、洗浄装置5は、第1の給水管55及び第1の給水管55よりも多い流量の洗浄液を流すことが可能な第1の給水管55よりも配管口径が大きい第2の給水管56の少なくとも2本の配管を備えることが好ましい。第1の給水管55及び第2の給水管56は、洗浄液を洗浄装置5内へ供給する配管53に接続されている。洗浄装置5内でMAP粒子の洗浄を行う場合は、例えば第1の給水管55から洗浄液を供給して、第1の通水速度及び第1の通水時間で洗浄処理を行った後、静置する。次に、検出装置58b、58c、58dが、洗浄装置5内の不純物層の界面の高さ及びMAP粒子層の貯留量を検出する。その結果、洗浄装置5内の不純物層の貯留量が既定値を上回る場合には、洗浄時の第1の通水速度よりも大流量(高い通水速度)で所定の時間洗浄を行う。これにより、MAP粒子層から不純物を分離させて分離させた不純物を更に上部へと向けて押し流し、更に排水管54から洗浄装置5の外部へ不純物を押し流す。不純物排出時には、例えば第2の給水管56を利用するか、第2の給水管56だけで流量が不足する場合には第1の給水管55と第2の給水管56とを利用して、洗浄液を洗浄装置5内へ供給する。不純物を洗浄装置5外へ排出させた後は、第2の給水管56からの洗浄液の供給を止めて、第1の給水管55から洗浄液を流し、十分にMAP粒子を洗浄する。洗浄処理後のMAP粒子は、移送装置8を介して洗浄装置5の外部へ移送して回収する。
【0108】
洗浄装置5は、洗浄装置5内のMAP粒子を洗浄装置5外へ移送する移送装置8として典型的にはエアリフトポンプを用いる。そのため、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さは一定に保っておくことが好ましい。しかしながら、反応槽1内で生成されるMAP粒子の増減が生じると、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さが一定範囲から外れることによりエアリフトポンプを用いたMAP粒子の移送が効率的に行えない場合がある。
【0109】
本実施形態によれば、洗浄制御部73により、例えば洗浄装置5の洗浄液の流速及び時間を段階的に変化させ、不純物を上部へ押し流す場合には、通常の洗浄処理時よりも大流量の洗浄液を洗浄装置5の下部から供給するブースター洗浄を行う。このようにして、洗浄制御部73が、洗浄水の流量や時間を多段階で制御することにより、不純物の洗浄装置5からの排出とMAP粒子の洗浄を両立させることができる。
【0110】
図8(a)は、洗浄処理前の静置状態(洗浄待機状態)の洗浄装置5の内部の状態を表す模式図である。洗浄装置5内には常に一定のMAP粒子が保持されている(以下において、洗浄装置5内に予め保持されるMAPを「保持MAP」という)。保持MAPで構成される保持MAP層上には、MAPよりも比重が軽い不純物で構成される不純物層が堆積されている。
【0111】
図8(b)に示すように、分離装置4aから不純物を含む新たなMAP粒子(新規MAP)が洗浄装置5内に供給されると、新規MAP粒子は不純物層上に堆積される(供給工程)。新規MAP粒子供給後、分離装置4aには微量のMAPが残存するため、
図8(c)において、分離装置4aを水で洗い流す。水で洗い流された微量のMAPと汚泥等の不純物は洗浄装置5内へ供給される。
【0112】
図9(a)において、洗浄装置5の下部から洗浄水を洗浄装置5内のMAP粒子を洗浄可能な第1の通水速度で供給し、洗浄装置5内に予め貯留された保持MAP及び不純物と、洗浄装置5内に新たに供給された新規MAPとを混合し、洗浄する(槽洗浄工程)。洗浄制御部73は、第1の給水管55の給水弁を開き、洗浄装置5の下部から洗浄水を第1の通水速度及び第1の通水時間で供給する。
【0113】
第1の通水速度は、例えば0.2~0.5m/minとすることが好ましく、0.25~0.4m/minとすることがより好ましく、0.30~0.35m/minとすることが更に好ましい。この際の洗浄装置5内への洗浄水の供給流量としては、例えば75~195L/minとすることが好ましく、90~155L/minとすることがより好ましく、110~130L/minとすることが更に好ましい。第1の通水時間は、洗浄装置5内に供給された新規MAPが洗浄装置5外へ排出されず、なおかつ不純物を新規MAP粒子と比重分離させるために必要な高さまで上部へ押し流すことが可能な時間を確保することができれば特には限定されない。典型的には、第1の通水時間を1~10分程度とすることができ、1~5分程度とすることが好ましく、2分~4分とすることが更に好ましく、3分程度とすることがより更に好ましい。なお、洗浄装置5が配置される地域や処理場によって、新規MAPの洗浄装置5内への供給量及び不純物の構成は異なる。このため、第1の通水速度、供給流量及び第1の通水時間は、上記具体例に限定されないことは勿論である。
【0114】
図9(a)に示す槽洗浄工程後は、
図9(b)に示すように、洗浄水の供給を止めて静置する静置工程を更に備えることが好ましい。槽洗浄工程後に静置を行うことにより、洗浄装置5で撹拌された保持MAPと新規MAPと不純物との比重分離を促進できる。また静置工程により不純物をできるだけ早く沈降させて圧密することで、後述する不純物排出工程における不純物の排出を効率的に進めることができる。静置工程後は、
図9(b)に示すように、保持MAPと新規MAPで構成されたMAPが、洗浄装置5の底部に沈降し、MAP上には不純物が堆積する。
【0115】
図9(b)の静置工程は省略してもよい。例えば、
図9(a)の槽洗浄工程において、第1の通水速度で新規MAPと保持MAPと不純物との混合及び洗浄を行なった後、MAPと不純物とを比重分離することができる程度に通水速度を徐々に小さくしながら通水を続け、通水完了後に
図9(b)に示すようなMAPと不純物との分離が行われればよい。或いは、槽洗浄工程において、新規MAPと保持MAPと不純物との混合及び洗浄を行うとともに、MAPと不純物との比重分離が可能となるような通水速度を設定すればよい。
【0116】
槽洗浄工程後は、
図9(c)に示すように、洗浄装置5の下部から、洗浄水を第1の通水速度よりも大きい第2の通水速度で供給する。これにより、洗浄装置5内の不純物を洗浄装置5の上部へ押し流し、洗浄装置5の上部から排水管54を介して不純物を含む越流水を越流させて洗浄装置5の外部へ排出させる(不純物排出工程)。不純物排出工程は、洗浄装置5内の不純物の排出を含めて洗浄装置5内の底部に保持されているMAPの圧密抑制も目的とする。そのため、第2の通水速度は、第1の通水速度よりも高くすることが必要である。第2の通水速度は、第1の通水速度の1.25~3.0倍とすることが好ましく、1.5~2倍とすることがより好ましく、1.6~1.8倍とすることがより更に好ましい。
【0117】
第2の通水速度は、例えば0.25~1.5m/minとすることが好ましく、0.3~0.8m/minとすることがより好ましく、0.50~0.55m/minとすることが更に好ましい。供給流量としては、例えば95~400L/minとすることが好ましく、115~310L/minとすることがより好ましく、190~215L/minとすることが更に好ましい。
【0118】
第2の通水時間は長く設定しすぎると、洗浄装置5内のMAPも洗浄装置5の上部へ押し流されて、洗浄装置5の上部から洗浄装置5外へ漏洩する可能性がある。第2の通水速度は、MAP上に堆積される不純物量に応じて適宜調整することが好ましい。第2の通水時間は、典型的には、1~15分とすることができ、1~10分とすることが好ましく、1分~7分とすることが更に好ましい。第1の通水速度、供給流量及び第1の通水時間と同様に、第2の通水速度、供給流量及び第2の通水時間も、上記具体例に限定されないことは勿論である。
【0119】
不純物排出工程では、第2の通水速度及び供給流量を十分に確保するために、2本以上の給水管(第1の給水管55、第2の給水管56)を介して洗浄装置5内に洗浄水を供給することが好ましい。2本以上の給水管を用いて洗浄液の通水速度を制御することにより、給水管の流量を調整するよりも、簡易且つ迅速且つ安定的に所望の通水速度の洗浄水を洗浄装置5内に供給できる。例えば洗浄制御部73は、第1の給水管55及び第2の給水管56の給水弁を開き、配管53(
図7参照)を介して洗浄装置5内に洗浄液を供給する。
【0120】
不純物洗浄工程後は、
図10(a)に示すように、第2の通水速度より通水速度が小さい第3の通水速度で洗浄水を洗浄装置5内に供給し、洗浄装置5の上部から不純物を排出させながら洗浄装置5内のMAP粒子を更に洗浄することが好ましい(追加洗浄工程)。これにより、MAP粒子に付着する汚泥等の不純物を更に取り除くことができるため、洗浄装置5から回収されるMAP粒子の純度が向上する。
【0121】
追加洗浄工程は、洗浄装置5内に貯留されるMAPを洗浄装置5から漏洩させない程度の通水速度で洗浄を行えばよい。そのため、第3の通水速度は第2の通水工程よりも低く設定する必要がある。第3の通水速度は第1の通水速度と同様の通水速度でもよい。MAPの表面に付着した汚泥を確実に洗浄するため、第3の通水時間は第1の通水時間よりも長めに設定することが望ましい。
【0122】
第3の通水速度は、例えば0.2~0.5m/minとすることが好ましく、0.25~0.4m/minとすることがより好ましく、0.30~0.35m/minとすることが更に好ましい。供給流量としては、例えば75~195/minとすることが好ましく、95~155L/minとすることがより好ましく、110~130L/minとすることが更に好ましい。第3の通水時間は、典型的には、1~10分程度とすることができ、1~5分程度とすることが好ましく、5分~7分とすることが更に好ましい。第1の通水速度、供給流量及び第1の通水時間と同様に、第3の通水速度、供給流量及び第3の通水時間も上記に限定されないことは勿論である。
【0123】
図9(c)の不純物洗浄工程と
図10(a)の追加洗浄工程の間は、静置工程を設けずに連続して洗浄処理を実施することが好ましい。不純物洗浄工程と追加洗浄工程とが連続して実施されることにより、不純物洗浄工程でMAPが流動化した状態で追加洗浄工程で連続的に洗浄処理が行えるため、洗浄時間及び洗浄水量の効率化が図れる。
【0124】
図10(a)の追加洗浄工程の後は、
図10(b)に示すように静置を行う。これにより不純物層と接するMAP粒子層の界面を整えることができる。追加洗浄工程後、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面が整ったら、
図10(c)において、洗浄装置5内のMAPをエアリフトポンプ等の移送装置8を用いて洗浄装置5外へと移送する(移送工程)。移送工程では、例えば、洗浄後のMAP粒子を移送装置8のエアリフトポンプに計装空気を導入することにより引き抜き、MAP粒子に付着する水分を取り除くための水切装置等へ移送する。
【0125】
移送が完了したら、
図11(a)に示すように、移送工程で乱れた保持MAP層の界面を整えるために、第1の給水管55を用いて洗浄装置5内に洗浄水を供給する。その後、洗浄水の供給を止めることにより、
図11(b)に示すように、洗浄装置5内を洗浄待機状態とする。
【0126】
本実施形態によれば、MAP粒子の実質的な洗浄処理を行う槽洗浄工程、不純物排出工程及び追加洗浄工程のいずれも、洗浄装置5への洗浄液の供給のみで洗浄処理を十分に行うことができる。そのため、槽洗浄工程、不純物排出工程及び追加洗浄工程では、曝気は行わなくてよい。これにより、曝気のための動力を省略できるため、リン回収に必要な機械動力及び熱エネルギーを削減できる。
【0127】
図8(a)~
図11(b)に示す洗浄処理は、洗浄装置5内に予め貯留されるリン化合物層の上層に堆積する不純物の貯留量を測定し、不純物の貯留量の測定結果に基づいて、洗浄装置5内へ供給する洗浄水の通水速度を制御することが好ましい。不純物の貯留量の測定は、
図8(a)又は
図11(b)に示されるような洗浄待機状態において、例えば洗浄装置5内に形成された不純物を含む不純物層の界面の高さを測定すること等によって行える。
【0128】
洗浄装置5内の不純物層の界面の高さは、
図1に示す窓部51を介して、操作者が洗浄装置5の外部から洗浄装置5の内部の状況を識別することにより行ってもよい。操作者は、一定期間毎に、窓部51から不純物層の界面の高さを、窓部51に隣接して配置された目盛り52を用いて測定することができる。
【0129】
洗浄制御部73は、洗浄装置5内の不純物の貯留量、ここでは、不純物層の界面の高さの測定結果に基づいて、洗浄装置5内へ供給する洗浄水の通水条件を設定する。例えば、不純物の貯留量の測定結果である不純物層の界面の高さが基準値を超える場合には、洗浄制御部73は、洗浄装置5内に新たに供給されたリン化合物粒子に対して、
図9(a)に示すような槽洗浄処理と、
図9(c)に示すような不純物排出処理とを少なくとも行う。
【0130】
即ち、洗浄制御部73は、不純物層の界面の高さが基準値を超える場合には、洗浄装置5の下部から洗浄水を洗浄装置5内のリン化合物粒子を洗浄可能な第1の通水速度で供給し、洗浄装置5内に予め貯留されたリン化合物粒子及び不純物と、洗浄装置5内に新たに供給されたリン化合物粒子とを混合し、洗浄する槽洗浄工程と、槽洗浄工程後に、洗浄装置5の下部から洗浄水を第1の通水速度よりも大きい第2の通水速度で供給することにより洗浄装置5内の不純物を洗浄装置5の上部へ押し流し、洗浄装置5の上部から不純物を洗浄装置5の外部へ排出させる不純物排出工程とを実施するように洗浄条件を制御する。
【0131】
一方、洗浄装置5内の不純物の貯留量の測定結果である不純物層の界面の高さが基準値以下の場合には、
図9(a)に示すような槽洗浄処理を行えば十分である。即ち、洗浄制御部73は、不純物層の界面の高さが基準値以下である場合には、洗浄装置5の下部から洗浄水を洗浄装置5内のリン化合物粒子を洗浄可能な第1の通水速度で供給し、洗浄装置5内に予め貯留されたリン化合物粒子及び不純物と、洗浄装置5内に新たに供給されたリン化合物粒子とを混合し、洗浄する槽洗浄工程を実施するように制御条件を制御する。洗浄処理として槽洗浄工程を実施する場合は、第1の通水時間は標準時間よりも長めにとり、槽洗浄時間内にリン化合物粒子に付着する汚泥を十分に洗浄ができる程度に、例えば12~15分程度とすることができる。槽洗浄工程の後に、
図10(a)に示す追加洗浄工程を更に実施してもよい。
【0132】
或いは、不純物層の界面の高さが基準値以下の場合には、槽洗浄工程の代わりに追加洗浄工程のみを実施してもよい。即ち、不純物層の界面の高さが基準値以下の場合は、
図8(a)~
図8(b)に示す工程の後に、
図8(c)、
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)に示す各工程を省略して
図10(a)の追加洗浄工程を行う。洗浄装置5内に供給される不純物の構成は地域、処理場、季節毎に相違があることが分かっている。そのため、洗浄制御部73或いは操作者が、洗浄装置5が置かれた地域、処理場、季節毎によって洗浄処理条件を選択することにより、より効率的な洗浄処理を行うことができる。
【0133】
図12は、引抜装置3を介して反応槽1の底部から引き抜かれ、分離装置4aへ供給されるリン化合物粒子を含む晶析反応液の構成を示す概略図である。分離装置4aでは晶析反応液から分離汚泥が分離され、分離汚泥は汚泥処理へ供給され、リン化合物粒子を含む残りの晶析反応液w0は洗浄装置5内へ投入される。洗浄装置5では上述の洗浄過程で洗浄装置5外へ流出(リーク)するリン化合物粒子(以下「MAPリーク」という)と、洗浄装置5内に貯留される不純物w2と、洗浄装置5内の洗浄処理により汚泥が分離されて後段の乾燥設備へ移送されるリン化合物粒子(以下「純MAPw1」という)とに分類できる。
【0134】
反応槽1、分離装置4a、洗浄装置5内での物質収支を考慮にいれると、反応槽1から引き抜いた純MAPの重さW[kg-純MAP]は、以下の関係式(1)で求められる。
W=Q×T×C×R/100 ・・・(1)
ここで、W:反応槽1から引き抜いた純MAPの重さ[kg-純MAP]
Q:反応槽1から引き抜いたMAPを含む晶析反応液の引抜流量[m3-晶析反応液/分]
T:反応槽1から引き抜いたMAPを含む晶析反応液の引抜時間[分]
C:反応槽1内の純MAP濃度[kg-純MAP/m3-晶析反応液]
R:分離装置4aのMAP回収率[%]
【0135】
ここで、洗浄装置5へ投入される純MAPw1の容量をv1、不純物w2の容量をv2、洗浄装置5内に貯留される純MAPw1の容量v1と不純物w2の容量v2の和で表される固形物の全容量をv0とし、純MAPの密度をρ1、不純物の密度をρ2とすると、全容量v0が100%純MAPであったときの重量wMは、
wM=v0×ρ1 ・・・(2)
となる。
【0136】
実際の全容量v0の重量をw0とすると、洗浄装置5内に不純物が入るために生じる重量の差w3は、
w3=wM-w0 ・・・(3)
となる。純MAPと不純物との密度の差ρ3はρ1-ρ2であるから、不純物w2の容量v2は、
v2=w3/ρ3 ・・・(4)
となる。
【0137】
したがって、洗浄装置5へ投入される純MAPの重量w1は、
w1=(v0-v2)×ρ1
={v0-(w3/ρ3)}×ρ1
=[v0-{(wM-w0)/(ρ1-ρ2)}]×ρ1
=[v0-{(v0×ρ1-w0)/(ρ1-ρ2)}]×ρ1・・・(5)
となる。
【0138】
また、不純物w2の重量は、
w2=w0-w1 ・・・(6)
となる。
【0139】
更に、反応槽1で生成される純MAPの濃度Cは、関係式(1)及び(5)より
C=[V0-{(v0×ρ1-w0)/(ρ1-ρ2)}]×ρ1÷(Q×T×R/100) ・・・(7)
となる。
【0140】
洗浄装置5内の全容量v0は、画像判定装置6b又は超音波測定装置6dによって不純物層又はリン化合物粒子層の界面の高さを測定することにより自動計測が可能であり、洗浄装置5内の全重量woは重量測定装置6cによって自動計測が可能である。純MAPの密度ρ1及び不純物の密度ρ2、回収率Rは実測値を利用すればよい。
【0141】
本実施形態によれば、このような物質収支の関係から洗浄装置5内に貯留される不純物の貯留量を求め、不純物の貯留量の算出結果に基づいて、上述の洗浄処理を制御することで、操作者の主観によらず、洗浄装置5内の不純物の貯留量に応じて好適な洗浄条件を求めることができる。
【0142】
関係式(7)により反応槽1で生成される純MAPの濃度Cも洗浄装置5の測定結果により推算することができるため、推算結果に応じて純MAPの濃度Cが好適な範囲となるように反応槽1内の処理条件、例えば薬剤供給装置2からの薬剤の供給量、汚泥供給装置10からの汚泥供給量、引抜装置3からのリン化合物粒子の晶析物を含む晶析反応液の引抜頻度及び引抜量を適正に制御することで、反応槽1内の晶析反応を常に安定して良好な状態に維持できる。
【0143】
(移送装置の移送制御)
図13に示すように、本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは、洗浄装置5内のMAP粒子を洗浄装置5外へ移送する移送装置8と、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を測定する測定装置6の測定結果に基づいて、移送装置8によるMAP粒子の移送量又は移送頻度の少なくともいずれかを制御する移送制御部74とを更に備える。
【0144】
移送装置8としては、洗浄装置5内の洗浄処理済のMAP粒子を洗浄装置5の外部へ移送可能な手段であれば特に限定されないが、エアリフトポンプを用いることで装置を小型化及び簡略化できる点で好ましい。エアリフトポンプを使用する場合、上述の通り、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さは一定に保つことが好ましい。
【0145】
本システムでは、引抜制御部72が反応槽1内のMAP粒子を含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度の少なくともいずれかを制御することにより、反応槽1内の種結晶濃度を一定範囲に制御することができる。そのため、洗浄装置5内のMAP粒子層の界面の高さも一定範囲に保つことができる。しかしながら、反応槽1内の種結晶濃度の微変動が洗浄装置5に貯留されるMAP粒子の貯留量に変動を与えていった場合に、洗浄装置5に貯留されるMAP粒子を適正に維持できなくなる場合がある。例えば、MAP粒子の貯留量が多くなりすぎて、界面の高さが所定の範囲を超えると引抜装置3から洗浄装置内の不純物もMAP粒子と共に移送されることがあるため、MAP粒子の純度が低下する場合がある。MAP粒子の貯留量が少なくなりすぎると、引抜装置3によってMAP粒子を十分に移送することができない場合がある。
【0146】
図13に示すシステムによれば、移送制御部74が、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量を測定する測定装置(画像判定装置6b、重量測定装置6c、超音波測定装置6d)の測定結果に基づいて、洗浄装置5内のMAP粒子の貯留量が設定値を超える場合には、洗浄装置5からのMAP粒子の1回の移送量及び移送頻度(移送回数)を調整するように引抜装置3を制御する。例えば、引抜装置3がエアリフトポンプの場合、空気量を調整することでMAPの移送量及び移送頻度を制御できる。
【0147】
例えば、上述の物質収支の関係式(1)~(7)に基づいて、洗浄装置5内に貯留される純MAPの重量w1又は容量v1を算出し、この算出結果に基づいて、移送制御部74が、洗浄装置5からの純MAPの移送量又は移送頻度の少なくともいずれかを調整する。例えば、純MAPの重量w1の算出結果が設定値よりも多い場合、移送制御部74は、例えばその増加分の割合に応じて、移送装置8による洗浄装置5からの純MAPの1回あたりの移送量を多くするか又は移送頻度(回数)を増やすような制御を行う。純MAPの重量w1の算出結果が設定値以下である場合には、移送装置8による洗浄装置5からの純MAPの1回あたりの移送量を少なくするか又は移送頻度を少なくするような制御を行う。これにより、洗浄装置5からリン化合物の移送を効率良く移送することが可能なリン化合物の生産方法及びリン化合物の生産システムが提供できる。
【0148】
(MAP生産計画に基づく制御)
本発明の実施の形態に係るリン酸マグネシウムアンモニウムの生成システムは、
図14に示すように、1又は複数のリン生産施設1000a、1000bと、MAP粒子の生産量の情報を含むMAP粒子生産計画に基づいて、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を管理する生産管理システム1001を備える。
【0149】
生産管理システム1001は、
図14に示すようにネットワーク40を介して各リン生産施設1000a、1000bに接続されており、各リン生産施設1000a、1000bの各運転条件はネットワーク40を介して互いに共有できるように構成されていてもよい。生産管理システム1001は、各リン生産施設1000a、1000bの施設内の汎用のコンピュータ内等に搭載されていてもよい。生産管理システム1001は、サーバ1002にネットワーク40を介して接続されてもよく、生産管理システム1001がネットワーク40を介して接続されたサーバ1002等から遠隔制御又は自動運転制御されるように構成されていてもよい。生産管理システム1001が実行する所定の演算処理はサーバ1002が行っても良い。
【0150】
MAP粒子生産計画に含まれる情報としては、以下に限定されるものではないが、例えば、MAP粒子需要の季節性、MAP粒子を保管する1又は複数の保管施設100A、100B、100Cの保管場所の地域情報、保管施設100A、100B、100Cへ搬送するMAP粒子の搬入量、搬入期限、MAP粒子をリン生産施設1000a、1000bから保管施設100A、100B、100Cへ搬送する際の搬送時間、搬送距離、搬送車等の搬送手段の積載重量及び台数等の情報101A、101B、101C等が含まれる。更にMAP粒子生産計画には、MAP粒子の価格、MAP粒子の生産に必要な薬剤の価格、リン生産施設1000a、1000bを運転するための電力価格、MAP粒子以外のリン資源の価格等の価格に関する情報等を含んでいてもよい。
【0151】
生産管理システム1001は、MAP粒子の生産量の情報を含むMAP粒子生産計画情報を取得する情報取得部1001Aと、MAP粒子生産計画の情報と、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を取得し、各リン生産施設1000a、1000bが備える反応槽1内の晶析反応液中のMg/P比、反応槽1からのMAPを含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度、又は投入汚泥流量のいずれかを制御するか否かを解析する解析部1001Bと、MAP粒子生産計画情報に基づいて、晶析反応液中のMg/P比、晶析反応液の反応槽1からの引抜量又は引抜頻度又は投入汚泥流量の少なくともいずれかの運転条件が適正条件となるように決定する運転条件決定部1001Cと、学習部1001Dとを備える。
【0152】
運転条件決定部1001Cは解析部1001Bの解析結果に基づいて、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を決定し、決定結果をリン生産施設1000a、1000bへ送信する。学習部1001Dは、過去のMAP粒子生産計画の情報と、リン生産施設1000a、1000bの投入汚泥の性状情報と、MAP粒子生産計画の情報と投入汚泥の性状情報とに関連づけられた運転制御情報を含む学習データを用いて、所定の説明変数(ここではMAP粒子生産計画と投入汚泥の性状情報を含む入力情報)の入力を受けて所定の目的変数(ここでは最適化運転条件を含む出力情報)を出力するモデル1003を作製する。学習部1001Dは更に、作製したモデルを用いてリン生産施設1000a、1000bに最適な運転情報を予測することができる。
【0153】
図15に示すように、情報取得部1001Aは、MAP粒子の生産量の情報を含むMAP粒子生産計画の情報を取得する。例えば、ステップS1において、情報取得部1001Aは、MAP粒子が既に十分に保管施設100A、100B、100C内に保管されており、保管のためのスペースが足りなくなるという情報や、近い将来にMAP粒子の価格が下がっていく傾向にあり、リン生産施設1000a、1000bにおけるMAP粒子生産量を下げる必要があるという情報を取得したとする。
【0154】
ステップS2において、解析部1001Bは、取得したMAP粒子生産計画の情報からリン生産施設1000a、1000bで制御すべき運転条件を選択する。例えば、解析部1001Bは、MAP粒子生産計画に含まれるMAP粒子生産量の減少の情報に基づき、リン生産施設1000aの投入汚泥の投入流量を設定値よりも少なく供給するという運転条件を選択したとする。
【0155】
ステップS3において、運転条件決定部1001Cは、解析部1001Bの解析結果に基づいて、稼働中のリン生産施設1000aの投入汚泥の投入流量が少なくなるように将来の投入汚泥の投入流量の設定値を決定し、その決定結果に応じて、例えば反応槽1からのMAPを含む晶析反応液の引抜量又は引抜頻度を長くするか、或いは薬品供給量を少なくする等の運転条件の最適化を行う。ステップS4において、運転条件決定部1001Cは、決定された新たな運転条件をネットワーク40を介してリン生産施設1000aへ送信して作業を終了する。操作者は、新たな運転条件に基づいてリン生産施設1000aの運転条件の各種設定値を変更することができる。
【0156】
リン生産施設1000a、1000bが備える反応槽1(例えば
図1参照)は、投入汚泥の供給を一旦停止させると、その後供給を再開する場合に、反応槽1の立ち上げに時間がかかり、MAP粒子の晶析も円滑に行えなくなる場合がある。本実施形態によれば、生産管理システム1001が、MAP粒子生産計画に基づいて、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を調整することができるため、例えば、肥料等を多く産出する必要がある時期にMAPの生成量を増産させることができる。また、保管施設100A、100B、100Cの保管量が既に十分である場合にはリンの生産を一時的に減少させることもできる。このようにして、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を、投入汚泥の性状変化に適した条件に迅速に適合させることが可能で、これによりリンの生産効率を安定的に向上させることが可能となる。
【0157】
学習部1001Dを用いた処理フローの一例を
図16に示す。ステップS21において
図14の情報取得部1001Aが、MAP粒子生産計画を取得すると、ステップS22において、学習部1001Dが、MAP粒子生産計画の入力に応じた機械学習により、最適な運転条件を演算するためのモデルを作製する。学習部1001Dは、過去のMAP粒子生産計画の情報と、リン生産施設1000a、1000bの投入汚泥の性状情報と、MAP粒子生産計画の情報と投入汚泥の性状情報とに関連づけられた運転制御情報を含む学習データを用いて、所定の説明変数の入力に応じて所定の目的変数を出力するモデルを作製する。ステップS23において、
図14の運転条件決定部1001Cは、情報取得部1001Aが取得したMAP粒子生産計画をモデルに入力し、リン生産施設1000a、1000bの運転条件の最適条件を演算させることにより、リン生産施設1000a、1000bの運転条件を決定する。ステップS24において、運転条件決定部1001Cは、リン生産施設1000a、1000bへ運転情報を送信する。ステップS25において、新たな運転条件に基づいてリン生産施設1000a、1000bでMAP粒子の生産を行う。ステップS26において、運転条件決定部1001Cは、リン生産施設1000a、1000bから生成されるMAP粒子の回収量の情報に基づいて、リン生産施設1000a、1000bによるリンの生産量は計画に見合ったものであるかを判断し、見合っていなければステップS23へ戻り、見合っていれば処理を終了する。
【0158】
本実施形態によれば、MAP粒子生産計画に応じて最適となるリン生産施設1000a、1000bの運転条件を、機械学習を用いて演算することにより、過去の運転条件や生産計画情報を考慮したより精度の高い運転最適化条件を決定することができるため、リン生産を長期間安定して行うことができる。
【0159】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が実施できる。
【0160】
投入汚泥のリン投入負荷量の変動は基本的には例えばX回目の引抜処理時の測定装置6による測定結果と、X+1回目の引抜処理時の測定装置6による測定結果との差分から求めることができる。反応槽1から引き抜かれた晶析反応液中のMAP粒子濃度は、反応槽1内のMAPの分布が均一であれば特に問題ないが、MAPの比重が1.7g/cm3と比較的大きいため、反応槽1内で少しでも流動性が悪くなるようなゾーンが生じると、MAP濃度の偏り(濃度勾配)が発生することがある。その誤差の大きさは、反応槽1内の汚泥の粘性やMAP濃度自体にも影響することがある。このような誤差を低減するために、投入汚泥のリン投入負荷量の変動は、直近数回分の測定値の平均値を求め、その平均値に基づいて投入汚泥のリン投入負荷量の変動を測定してもよい。例えば、X回目よりもさらに前のX-1回目、X-2回目の引抜処理時等の複数の測定結果から平均値を求め、その平均値と設定値とを比較することにより反応槽1からの晶析反応液の引抜量を増減させてもよい。
【実施例0161】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0162】
汚泥の嫌気性消化処理を採用する下水処理場において24時間連続流入連続流出型のリン回収パイロットシステムを用いてリンの生産処理を行った。システムへの投入汚泥は滞留日数約35日の下水嫌気性消化汚泥を用いた。そして、以下に示す実施例1及び2を通して約200日間の汚泥からのリン回収連続運転を行った。試験期間中の投入汚泥及び反応槽内汚泥の性状の測定結果(期間内平均値)を表1に示す。
【0163】
【0164】
投入汚泥の投入流量は常に一定とし、供給汚泥中PO4-Pに対するMg源としての薬剤として水酸化マグネシウムを供給した。水酸化マグネシウムの供給量は、Mg/P比(モル比)として初期設定値1.15(初期PO4-P:350mg/L)とし、運転期間を通じて1.10~1.20の範囲内になるように自動制御した。反応槽内の種結晶濃度(汚泥1L中のMAP粒径30μm以上の粒子の総重量)は初期設定値50g/Lとした。反応槽内の種結晶濃度は、運転期間を通じて45g/L~55g/Lの範囲内になるように自動制御した。反応槽からMAP洗浄装置への汚泥引抜は6時間毎に行い、反応槽内の種結晶濃度の増減に応じて、汚泥引抜時間を自動制御する方法を採用し、汚泥引抜時間の初期設定値は汚泥引抜ポンプ容量等から117秒とした。
【0165】
(実施例1)
まず、実施例1では、最初の100日間の期間において反応槽へ供給する薬剤のMg量を制御してMg/P比をほぼ一定に制御するために、直近の洗浄装置の洗浄処理後のMAP粒子層の界面の高さを測定し、界面の高さの測定結果から洗浄装置内に貯留されたMAP粒子の総重量を求め、総重量の変化量に応じて反応槽1内に適正なMg量となる薬剤が供給されるように自動調整する方法を採用した。洗浄装置内のMAP層の界面高さを自動的に計測し、界面高さから洗浄装置内のMAP回収量を演算し、水酸化マグネシウム供給量及び汚泥引抜時間の制御指示を出す制御装置としては、洗浄装置側面の透明窓から内部を視覚的に画像として取り込める画像判断方式を採用した。
【0166】
Mg/P比の自動調整の例を簡単に説明すると、仮に投入汚泥のPO4-P濃度が350mg/Lであった場合、Pのモル濃度は350/31=11.3mmolであるため、このPO4-Pを全量MAPに合成するために必要なMgは24.3×11.3=275mg/Lとなる。Mg/P比1.15の場合、275×1.15=316mg/LのMgが供給されるように水酸化マグネシウムの供給量を自動調整した。
【0167】
6時間前の洗浄装置内の洗浄処理後のMAP粒子層の界面の高さから算出したMAP貯留量が仮に相対値として100とした場合、今回の反応槽内からの晶析反応液引抜により洗浄処理後のMAP粒子層界面の高さから算出したMAP貯留量が102となり2%増加したとする。これは、投入汚泥のPO4-P濃度が増加したことにより、反応槽内でのMAP生成量が増加したことを意味する。よって、このような場合は、MAP貯留量の増加分と、反応槽の容積と、引抜汚泥量と、この6時間で新たに生成した反応槽内のMAP量とを加味して、次回供給するMg供給量を増加させることにより、Mg/P比を1.15に自動調整することとした。
【0168】
反応槽内の種結晶濃度の自動調整の例を簡単に説明すると、洗浄装置内のMAP粒子層の界面高さから算出したMAP粒子の総重量は、反応槽内のMAP粒子の量を直接的に反映しているものである。そのため、反応槽内MAP量を50g/Lに維持するために、Mg/P:1.15を維持する場合と同様に、所定の係数を加味した上で反応槽からの汚泥引抜時間の増減を自動調整する方法を採用した。
図17に投入汚泥のPO
4-P濃度の変化、
図18に反応槽内のMg/P比の測定結果、
図19に反応槽内の種結晶濃度の測定結果の例を示す。
【0169】
図17、
図18、
図19に示すように、投入汚泥中PO
4-Pの変動に追随して、反応槽内へ供給する薬剤としての水酸化マグネシウム供給量を変化させることにより、Mg/P比をある程度の範囲内で1.15に近い値に制御する事が可能であったと同時に、反応槽内の種結晶濃度も50g/Lに近い値で制御することが可能であった。
【0170】
(実施例2)
実施例1の100日間のデータ収集後引き続いて、実施例2では、同一の汚泥、及び同一の装置を用いた上で更に、(1)「投入汚泥pH」(2)「反応槽1内pH」(3)「洗浄装置でのMAP回収量と想定MAP回収理論値との差分」の3つの値を入力値として、「Mg/P比」と「リアクタ内MAP濃度」の目標濃度管理の精度向上を目的として更に100日間の連続試験を行った。この3つの数値の変動による補正調整数値マトリックスは、本実施形態に係る投入汚泥を用いた事前の調査とAI学習により行い、表2に示す条件を基本に自動調整した例を示す。表2において、「pH増↑」は、(1)「投入汚泥pH」(2)「反応槽1内pH」のpHが0.15よりも上昇した場合を示し、「pH維持→」はpHが+/-0.15以内である場合を示し、「pH減↓」はpHが0.15よりも減少した場合を示す。「MAP量(実>理論)」はMAP回収量が理論値を4%以上超える場合を示し、「MAP量(実=理論)」はMAP回収量が理論値を+/-4%以内である場合を示し、「MAP量(実<理論)」は、MAP回収量が理論値の4%未満である場合を示す。例えば、表2において、(3)実際のMAP回収量と理論値との差の値が「実>理論」の関係にあり、(1)投入汚泥pHが増加しており、(2)反応槽1内のpHが増加している場合は、「Mg/P比」の設定値を2%下げ、引抜汚泥量を4%増やすように制御することを意味する。(3)実際のMAP回収量と理論値との差の値が「実=理論」の関係にあり、(1)投入汚泥pHが適正範囲に維持されており、(2)反応槽1内のpHが適正範囲に維持されている場合は、Mg/P比及び引抜汚泥量は現状維持とする。
【0171】
【0172】
図17、
図18、
図19に示すように、実施例2の試験期間100~200日では、試験期間0~100日の実施例1の時よりも投入汚泥中PO
4-Pの変動幅が大きいにも関わらず、Mg/P比も反応槽1内種MAP濃度も変動幅が小さく安定しており、精度良く追随した調整制御運転が可能であった。Mg/P比を実施例1の時よりも1.15により近い値に制御する事が可能であったと同時に、反応槽内の種結晶濃度も実施例1の時よりもより50g/Lに近い値で制御することが可能であった。
【0173】
(実施例3)
実施例1終了後に洗浄装置内の洗浄工程後のMAP層の界面の高さ等から洗浄装置内に存在するMAP量を測定する測定装置として、本実施例1で適応した、MAP層の界面の高さを画像判定する画像処理方式の他に、超音波方式(超音波センサー)及び重量測定方式(ロードセル)を用いて、洗浄装置内の既知のMAP重量と各測定装置の相関性を確認して検量線を引くための試験を行った。試験方法は洗浄装置の内部を水道水で満管状態に満たした後、上部から回収済みMAP常温乾燥物を段階的に所定量投入し、しばらく静置させた後に3種類の方式ごとにMAP層の界面レベルや重量を測定し、それぞれの検量線を引いた。
図20に各方式の検量線の結果を示す。
【0174】
図20より、実施例1、2で使用した画像処理方式は相関係数が約0.99であり確かに実用可能であることが分かる。一方、画像処理方式と同様にMAP層の界面レベルを測定する超音波方式では相関係数が約0.99であり、画像処理方式の代替測定装置として使用可能であることが分かる。また、重量測定型方式のロードセルでは、投入した常温乾燥MAPを直接重量計測していることから画像処理方式及び超音波方式よりもさらに相関係数が高く精度が最も高いことが分かる。この試験結果より、実施例1で採用した画像処理方式の代替方式として、超音波方式とロードセル方式が適応可能であることが分かる。