(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158517
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】熱交換器プレート、およびこれを備える熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 21/06 20060101AFI20241031BHJP
F28F 3/00 20060101ALI20241031BHJP
F28D 9/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F28F21/06
F28F3/00 311
F28D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073774
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA12
3L103BB32
3L103DD52
3L103DD95
(57)【要約】
【課題】酸性度の高いクロム酸液に曝される熱交換器プレートをより長寿命にすることを目的とする。
【解決手段】熱交換器プレート10は、クロム酸液に曝される熱交換器プレートであり、表面11aが金属で形成された母材11と、母材11の表面11aに形成され、厚みtが50μm~250μmのフッ素系の皮膜12と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム酸液に曝される熱交換器プレートであって、
表面が金属で形成された母材と、
前記母材の表面に形成され、厚みが50μm~250μmのフッ素系皮膜と、
を備えている、熱交換器プレート。
【請求項2】
前記クロム酸液を30℃~60℃の範囲で設定された温度に加熱させるために使用される、請求項1に記載の熱交換器プレート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複数の熱交換器プレートを備え、
複数の前記熱交換器プレートが、複数の前記熱交換器プレートの並び方向に互いに押さえ付けられて位置決めされている、熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム酸液に曝される熱交換器プレート、およびこれを備える熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器において、冷媒回路のステンレス製の管状部材の内面に耐酸性の皮膜が設けられた構成が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱交換器は、母材にクロムめっきを施すためのめっき装置に備えられる場合がある。この場合、熱交換器は、強い酸であるクロム酸液を、約50℃まで加熱する。熱交換器には、金属製熱交換器プレートが複数備えられており、この熱交換器プレートがクロム酸液に直接曝される。このため、クロム酸液に曝される熱交換器プレートは、クロム酸液によって腐食されやすく、腐食によって比較的短い周期で交換される。特に、熱交換器によるクロム酸液の加熱動作のオン/オフが頻繁に繰り返される環境下では、温度変化、およびクロム酸液の流速変化による熱交換器プレートへ負荷が大きい。その結果、熱交換器プレートの劣化が一層早くなり、頻繁な熱交換器プレート交換が必要となる。そこで、熱交換器プレートの母材に腐食防止用のめっきを施すことが考えられる。しかしながら、熱交換器プレートの母材にめっき皮膜を形成した場合でも、十分な耐食性を得られない。また、特許文献1では、強い酸性液であるクロム酸液に曝される環境下での熱交換器プレートについて考慮しているとはいえない。
【0005】
本発明は、上記の背景に鑑みることにより、酸性度の高いクロム酸液に曝される熱交換器プレートをより長寿命にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の熱交換器プレート、およびこれを備える熱交換器を要旨とする。
【0007】
(1)クロム酸液に曝される熱交換器プレートであって、
表面が金属で形成された母材と、
前記母材の表面に形成され、厚みが50μm~250μmのフッ素系皮膜と、
を備えている、熱交換器プレート。
【0008】
(2)前記クロム酸液を30℃~60℃の範囲で設定された温度に加熱させるために使用される、前記(1)に記載の熱交換器プレート。
【0009】
(3)前記(1)または前記(2)に記載の複数の熱交換器プレートを備え、
複数の前記熱交換器プレートが、複数の前記熱交換器プレートの並び方向に互いに押さえ付けられて位置決めされている、熱交換器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、酸性度の高いクロム酸液に曝される熱交換器プレートをより長寿命にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の模式図である。
【
図2】
図2は、熱交換器プレートの模式的な正面図である。
【
図3】
図3(A)は、皮膜の厚みが50μm未満であり、母材が皮膜によって覆い切れていない構成を示す比較例の模式的な断面図である。
図3(B)は、皮膜の厚みが50μm以上である熱交換器プレートの一部を拡大した模式的な断面図である。
【
図4】
図4(A)は、比較例1~8、および発明例1の累積腐食減量を模式的に示すグラフである。
図4(B)は、比較例9,10、および発明例2~4の累積腐食減量を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を示しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱交換器1の模式図である。本実施形態の熱交換器1は、めっき装置に備えられている。めっき装置は、ロールなどのめっき対象物の表面にクロムめっき皮膜を形成するための装置である。熱交換器1は、ヒータであり、蒸気などの媒体を用いて、加熱対象流体であるクロムめっき液(クロム酸液)をたとえば30℃~60℃程度の範囲で設定された温度、たとえば50℃に加熱する。クロムめっき液は、熱交換器1と、図示しないめっき槽とを循環する。
【0014】
クロムめっき液は、無水クロム酸と硫酸とを主成分とする強い酸性液である。3価クロムめっきに用いられるクロムめっき液は、ph2.0~4.0程度の強い酸性液であり、6価クロムめっきに用いられるクロムめっき液は、ph1.0以下のさらに強い酸性液である。なお、クロムめっき液に代えて、他のクロム酸液が用いられてもよい。
【0015】
熱交換器1は、箱形のケース2(
図1では一部のみを図示)と、ケース2内に収容されクロムめっき液に曝される複数の熱交換器プレート10と、ケース2の内側から外側に延伸する媒体配管3およびクロムめっき液配管4と、を備えている。
【0016】
熱交換器プレート10は、所定の並び方向に並んで配置されている。これら複数の熱交換器プレート10のたとえば上部および下部は、図示しない雄ねじ部材および雌ねじ部材などの固定部材を用いて互いに固定されており、複数の熱交換器プレート10の並び方向に互いに押さえ付けられて位置決めされている。隣り合う2枚の熱交換器プレート10は、直接接していてもよいし、図示しないスペーサを挟んで向かい合っていてもよい。複数の熱交換器プレート10同士が固定されていることにより、各熱交換器プレート10のうち上記固定部材によって締め付けられている部分には、並び方向(
図1の左右方向)に沿った軸力が作用している。各熱交換器プレート10は、同じ構成を有している。
【0017】
図2は、熱交換器プレート10の模式的な正面図である。
図2に示すように、熱交換器プレート10は、表面に凹凸形状が形成されており、熱交換性能確保のためにクロムめっき液との接触面積がより大きくなるように構成されている。熱交換器プレート10の表面の凹凸の具体的な形状は限定されない。熱交換器プレート10には、たとえば4つの貫通孔10a,10b,10c,10dが形成されている。貫通孔10a,10bは、たとえば、媒体配管3が通される貫通孔である。貫通孔10c,10dは、クロムめっき液配管4が通されるか、または、ケース2および複数の熱交換器プレート10で区画された空間の間でクロムめっき液が通過する貫通孔である。媒体配管3は、図示しない蒸気発生器または復水器などに接続されている。クロムめっき液配管4は、図示しないめっき槽に接続されている。
【0018】
図3(A)は、皮膜12’の厚みt’が50μm未満であり、母材11’が皮膜12’によって覆い切れていない構成を示す比較例の模式的な断面図である。
図3(B)は、皮膜12の厚みtが50μm以上である熱交換器プレート10の一部を拡大した模式的な断面図である。
【0019】
図2および
図3(B)に示すように、熱交換器プレート10は、母材11と、母材11の表面11a全体に形成された皮膜12と、を備えている。
【0020】
母材11は、熱伝導性に優れた材質で形成されており、金属などで構成されている。母材11は、熱伝導性の観点から金属製であり、クロムめっき酸液に曝されると腐食しやすい。なお、母材11として、ステンレス鋼、炭素鋼などの鋼材を例示できる。ステンレス鋼として、SUS316やSUS316LやSUS430などを例示できる。炭素鋼として、SS400などの一般構造用圧延鋼材や、S45Cなどの機械構造用炭素鋼鋼材を例示できる。本実施形態では、母材11は、SUS316である。母材11の板厚は、0.2mm~1.0mm程度であり、本実施形態では、0.5mmである。
【0021】
皮膜12は、母材11の表面11a(外表面)に形成され、母材11の表面11aの全体を隙間なく覆うことで、母材11がクロムめっき液に触れることを防止している。皮膜12は、耐薬品性に優れた材質で構成されていることにより、母材11の腐食を抑制する。皮膜12は、フッ素系皮膜である。フッ素系皮膜の材料(フッ素樹脂)として、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)などのフッ素樹脂を例示できる。また、エポキシ樹脂、PAI(ポリアミドイミド)樹脂およびPES(ポリエーテルサルフォン)樹脂などの耐熱性樹脂にフッ素樹脂を混合させた材料や、フッ素ゴムを例示できる。
【0022】
これらのフッ素樹脂のうち、PFAは、融点(約310℃)以上の温度での流動性がよく、母材11にフッ素系皮膜12を形成する際に、母材11上においてより隙間無く拡がることができる。よって、母材11上において皮膜12の切れ目を生じにくくでき、切れ目からクロムめっき液が母材11に到達することをより確実に抑制できる。PTFEは、耐薬品性に強く、クロムめっき液による浸食量が小さい。FEPは、PTFEと同等の耐薬品性を有しながら、融点や連続使用温度がPTFEよりも低い。その結果、PFAと同様に、母材11にフッ素系皮膜を形成する際に、母材11上においてより隙間無く拡がることができる。ETFEは、融点(約270℃)以上の温度での流動性がよく、母材11にフッ素系皮膜を形成する際に、母材11上においてより隙間無く拡がることができる。PCTFEや、ECTFEや、PVDFや、エポキシ樹脂、PAI樹脂およびPES樹脂などの耐熱性樹脂にフッ素樹脂を混合させた材料や、フッ素ゴムは、耐薬品性に強く、クロムめっき液による浸食量が小さい。以上の通りフッ素樹脂において、成形性の観点から、PFA、FEP、ETFEを皮膜材料として採用することが好ましく、特に、PFAが好ましい。
【0023】
フッ素皮膜12の厚みtは、50μm~250μmに設定されている。皮膜12は、たとえば、皮膜12の材料となるフッ素樹脂を融点以上に加熱するなどして流動状態とし、流動状態のフッ素樹脂を母材11に曝すことで形成される。このとき、フッ素樹脂は、一度に数十μmの膜厚で母材11に形成される。このため、一度に形成できる膜厚より大きい厚みtとする場合、母材11に一度皮膜を形成し、この皮膜が母材11に定着した後、さらに、流動状態のフッ素樹脂を、母材11に定着した皮膜に重ねる。この作業を繰り返し行うことで、所定の厚みtの皮膜12を形成することができる。
【0024】
図3(A)の比較例では、模式的に、成膜作業を2回行って皮膜12が2層構造である形態を例示しており、
図3(B)の実施形態では、模式的に、成膜作業を4回行って皮膜12が4層構造である形態を例示している。
【0025】
図3(A)に示すように、熱交換器プレート10’において、皮膜12’の厚みt’が上記の下限未満であると、母材11’の表面11a’の全体に均等に皮膜12’を形成できず、皮膜12’に微少な貫通孔12a’が存在してしまう。このため、クロムめっき液がこの貫通孔12a’を通って母材11’の表面11a’に到達し、母材11’がクロムめっき液によって浸食されて腐食部13’が生じてしまう。厚みt’が上記の下限未満であると、1回毎の成膜作業で形成される複数の微小孔12bの一部が、母材11’の平面視で重なった箇所に形成され、母材11’に皮膜12’で覆われていない部分が生じる。この部分が、上述したように、クロムめっき液によって浸食されて腐食してしまう。
【0026】
一方、
図3(B)の本実施形態に示すように、皮膜12の厚みtが上記の下限以上であると、母材11の表面11aの全体に均等に皮膜12を形成でき、皮膜12において当該皮膜12の厚み方向に貫通する貫通孔が存在しないようにできる。このため、クロムめっき液が母材11の表面11aに到達せずに済み、母材11がクロムめっき液によって浸食されず、腐食せずに済む。厚みtが上記の下限以上であると、1回毎の成膜作業で形成される複数の微小孔12bは、母材11の平面視で重なった箇所に形成されずに済み、母材11に皮膜12で覆われていない部分が生じずに済む。すなわち、母材11の表面11a全体が、皮膜12によって微視的にも隙間無く覆われることとなる。
【0027】
一方、皮膜12の厚みtが上記の上限を超えると、母材11上に皮膜12を形成することが製造上難しくなる。皮膜12は、上述したように、たとえば、成膜作業を複数回繰り返すことで母材11上に形成される。しかしながら、成膜作業の回数が増すに従い、成膜作業時に皮膜材料に気泡が生じ、この気泡が原因で、上述した貫通孔12aが生成されてしまうためである。また、母材11と比べて熱伝導率が小さい皮膜12が厚くなりすぎ、熱交換器プレート10による媒体(蒸気)からクロムめっき液への熱伝導効率が低くなる。このため、母材11のみからなり皮膜12が形成されていない熱交換器プレートに代えて本実施形態の熱交換器プレート10を採用する場合に、熱交換器プレート10の枚数を増やす必要が生じる。また、皮膜12の厚みtが上記の上限を超えていると、熱交換器プレート10同士を図示しない固定部材で締結する軸力(熱交換器プレート10同士を押しつける力)が熱交換器プレート10の一部に作用しているときに、熱交換器プレート10のうち軸力が作用しているところとそうでないところとの境界で、皮膜12をひずませる荷重が作用する。このため、皮膜12が厚すぎると、上記の境界で皮膜12にひびが入るおそれがある。
【0028】
皮膜12の厚みtの下限は、好ましくは、50μmであり、75μmであり、100μmであり、150μmである。厚みtの上限は、好ましくは300μmであり、250μmであり、200μmである。なお、皮膜12の厚みtは、たとえば、50μm~250μmであってもよいし、好ましくは、100μm~200μmであってもよい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によると、母材11の表面11aに厚みtが50μm~250μmのフッ素系皮膜を形成することで、表面11aを隙間無く皮膜12で覆うことができる。よって、クロムめっき液が母材11に接触することを確実に抑制して母材11の腐食を長期に亘って防止できる。
【0030】
また、熱交換器1がクロムめっき液を加熱するヒータである場合でも、耐熱性に優れたフッ素樹脂で形成された皮膜12を採用することで、熱交換器プレート10の腐食をより確実に抑制できる。
【0031】
また、複数の熱交換器プレート10が、互いに押さえ付けられて位置決めされている構成であっても、皮膜12の厚みtが大きすぎないことにより、上記の押しつけ力によって皮膜12にひびが入ってしまうことを抑制できる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0033】
上述の実施形態では、熱交換器1は、ヒータとして用いられる形態を説明したが、クーラとして用いられてもよい。
【実施例0034】
(比較例1~8と発明例1の作製)
母材として、SUS316の矩形板材とSUS316Lの矩形板材を準備した。比較例1は、SUS316で構成されており、皮膜を形成しなかった。比較例2は、SUS316Lで構成されており、皮膜を形成しなかった。
【0035】
比較例3~8および発明例1について、母材であるSUS316の表面に下記表1に示す皮膜を形成した。表1において、「皮膜の種類」欄には、皮膜の内容が記載されている。「皮膜の特徴」欄には、皮膜がどのようなものか、主な特徴が記載されている。「膜厚」欄には、皮膜の厚みが記載されている。厚みに幅があるものは、記載された幅内の厚みを有していることを示している。「コーティング方法」欄には、皮膜形成方法が記載されている。「処理温度」欄には皮膜形成時の皮膜材料の温度を示している。
【0036】
【0037】
(実験方法および評価方法)
比較例1~8、および発明例1のそれぞれについて、ヒータで約80℃に維持したクロムめっき液(ph0.12)の槽に投入することで耐食試験を行った。クロムめっき液は、硫酸と無水クロム酸を主成分としている。熱交換器プレートは、実際には約60℃以下で使用されるため、80℃まで加熱することで耐食試験を加速試験とした。耐食試験では、投入開始から1週間毎に4回、比較例1~8、および発明例1のそれぞれについて、重量を秤で測定し、試験前からの腐食による単位面積あたりの重量減少量を、累積腐食減量として算出した。なお、比較例6,8は、累積腐食減量が急速に増したので、2週間で試験を終えた。
【0038】
「評価」欄には、比較例1~8、および発明例1のそれぞれについて、評価結果を示している。試験開始から4週間経過後の累積腐食減量が100g/m2を超えていた場合を×の評価とした。また、試験開始から4週間経過後の累積腐食減量が10g/m2以下の場合を◎の評価とした。
【0039】
図4(A)は、比較例1~8、および発明例1の累積腐食減量を模式的に示すグラフである。
図4(A)では、比較例1~8、および発明例1について、1週間毎に測定した累積腐食減量の傾向線を示している。表1、および
図4(A)に示すように、比較例1~8は、何れも、時間の経過とともに明らかに母材の腐食による重量減少が生じており、比較例3~8では皮膜によっては母材をクロムめっき液から遮断できておらず、早期に熱交換器プレートの交換が必要となる結果となった。より具体的には、比較例1,2は、母材に耐性がないことが判明した。比較例3~5は、クロムめっき液に対する皮膜の耐性がなく、皮膜自体が損傷する結果となった。比較例6では、フッ素樹脂の皮膜に微少な貫通孔が存在していることで、この貫通孔からクロムめっき液が母材まで到達し、その結果、クロムめっき液による母材の腐食が生じた。比較例7,8では、セラミック皮膜に空隙があることで、クロムめっき液がセラミック皮膜に浸透して母材まで到達し、その結果、クロムめっき液による母材の腐食が生じた。一方、発明例1は、皮膜が十分な厚みで形成されていることから、皮膜成形時に生じた微小孔は、貫通孔とならず、皮膜が母材を完全に覆った。このため、時間の経過にかかわらずクロムめっき液が皮膜で防がれて母材まで到達せず、母材の減量が生じておらず、長期に亘って熱交換器プレートの交換が不要であることが実証された。
【0040】
(比較例9,10と発明例2~4の作製)
母材として炭素鋼であるSS400の矩形板材を準備した。比較例9,10と発明例2~4は、何れも、フッ素樹脂であるPFAを母材の表面に生成した。皮膜は、溶融したPFAに母材を浸す工程を複数回行うことで、多層の皮膜とした。そして、比較例9,10と発明例2~4それぞれについて、PFAを切削することで、皮膜の厚さを調整した。比較例9,10と発明例2~4の皮膜の厚みは、以下の通りである。なお、皮膜の厚みは膜厚計(サンコウ電子研究所製 SWT9200)で測定した。皮膜の厚みは、比較例9,10と発明例2~4のそれぞれについて、一側面からみたときに9等分した領域のそれぞれから1点を選んで測定し、これらの平均値を皮膜の厚みとした。皮膜の厚みは以下の通りである。
【0041】
比較例 9: 5μm
比較例10: 25μm
発明例 2: 50μm
発明例 3: 75μm
発明例 4:150μm
【0042】
(評価方法)
比較例1~8、および発明例1と同じ条件で耐食試験および評価を行った。
図4(B)は、比較例9,10、および発明例2~4の累積腐食減量を模式的に示すグラフである。
図4(B)では、比較例9,10、および発明例2~4について、1週間毎に測定した累積腐食減量の傾向線を示している。結果を
図4(B)および表2に示す。
【0043】
【0044】
比較例9,10では、フッ素樹脂の皮膜に微少な貫通孔が存在していることで、この貫通孔からクロムめっき液が母材まで到達し、その結果、クロムめっき液による母材の腐食が生じた。比較例10のほうが累積腐食減量の増加割合は小さいものの、比較的短期間で熱交換器プレートの交換が必要になることが実証された。一方、発明例2~4は、皮膜が十分な厚みで形成されていることから、皮膜成形時に生じた微小孔は、貫通孔とならず、皮膜が母材を完全に覆った。このため、時間の経過にかかわらずクロムめっき液が皮膜で防がれて母材まで到達せず、母材の減量が生じておらず、長期に亘って熱交換器プレートの交換が不要であることが実証された。特に、発明例3,4は、試験開始から4週間経過した時点でも累積腐食減量が極めて低いことが表2から明らかである。